「……けだもの」
「けだもので結構! 自分のもんにはマーキングするのが習性だからな!」
「……やっぱりけだものです」
散々ハイディを犯した所で翌日、場所を変えて再びハイディと待ち合わせた。今度は表向きの自分の家で。昨晩散々犯した感覚がまだ残っているのかやや歩きづらそうにしている他、少し、責める様な視線さえ感じる。ただ昨晩の痴態を考えると、その視線も可愛らしいものだと思う。よがり、快楽に狂うというレベルで乱れていたのだから、今更取り繕った所で遅すぎるのだから。まぁ、そんな話はともあれ、
場所は自分の家へと移った。
無論、オリヴィエとヴィヴィオの二人を、どうやって助けるか、というのが議題だ。それを居間のソファで、テーブルを挟む様に座りながら、腰掛けて話し合うつもりだったのだが、
「ぶっちゃけ、あの二人を助ける方法だけなら用意出来た」
「そうなんですか?」
「あぁ、やろうと思えばそこまで難しくはない。練習して来たし。だけど本当に問題なのはその状況まで持ち込む事なんだよなぁ」
まぁ、つまりは聖王姫の協力を引き出す、という所だ。そこが一番の問題だと思う。ぶっちゃけた話、好きだし、よりを戻せるなら今すぐにでも戻したいし、会いたいのだが……それはそれとして、彼女がどう思っているかが疑問であり、物凄く不安である。だからここで物凄く真面目な話をすると、
「アイツの頑固さ次第。一応、事前に出来る事として心の壁を取っ払っておいたけど、それはそれとして、その程度で屈するような女じゃないと思うし。というかこれで拒絶される様なものなら正直、人生に絶望する自信があるぞ、俺」
「大丈夫です、アレクさんなら適当にコマせば問題解決すると思いますから」
「ハイディちゃん若干やさぐれてない?」
「知りませんっ」
ぷいっ、と視線をそらしたハイディの姿を見て、苦笑する。とはいえ、とりあえず今やらなくてはならない事の説明を行う。今回に関してはこれ、ブリーフィングだと表現しても良い。これを行ってから銀腕の怪盗まで、おそらくはノンストップになるだろうと思っている。故に今までの状況を含めて、その全体を説明する事にし、イニシアチブをとることにする。それを説明すると、ハイディが背筋を伸ばして座り、頷いた。
「じゃあターゲットからの説明だ。これは古代ベルカ聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトが装着していた銀の腕であり、エレミアの技術力によって作成された、力加減の調整できる義腕だった。当時の義手に関連する技術に関してはエレミアが一番洗練されており、尚且つここまで芸術的に仕上げられるのはエレミアだけだった。後にこれは《銀腕》として、オリヴィエの象徴として残される」
これが盗み出すターゲットだ。そして同時に今回の核だ。
「こいつにヴィヴィオに対する想念が込められた。ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトはまるでオリヴィエの生き写しの様である。きっとオリヴィエの生まれ変わりがヴィヴィオなのだ、と。そういう思いがヴィヴィオという存在をオリヴィエで置換させる事態が発生した……とはいえ、細かい原因は不明だが、ヴィヴィオはこの現実改変に対する耐性を保有していた。おかげでヴィヴィオとオリヴィエの間で奇妙な同居が始まった」
「これに関しては不思議なんですよね、間違いなくオリヴィエさんの方が後である、という認識があるんですけど……それなのにずっと一緒に居たというのを感覚でいるんです。ですから初めて話しかけられた筈なのに、毎日話していた感じでした」
まぁ、これに関しては既に説明してある。
「簡単に言えば二つの違う主人公の同じゲームを進めている状態なんだよ。最初は別々のスクリーンで進めていたのが、今では同じスクリーンに纏められたってだけで。
「これ……普通は知覚できませんよね……」
「まぁな」
そもそも現実改変という領域そのものがおかしいのだ。現実を改変できるのであれば、今の世界は誰かの都合の良い様になっているだろう。まぁ、それでも現実改変というのは紛れもなく、神々の領域だ。人間が触れる事が出来る様な範囲ではないのだ。文字通り行われている事の次元が違う。それを解除するというのも無論、人間の領域の行いではない。故にゲームという形でのみ、此方はこの行いを正す事が出来るのだ。もし、その行く先を個人の意思でどうにかできるなら、それは―――。
「ま、話を戻そう」
言葉を続けることにする。
「本来のプロセスは人の多い場所、見える場所で銀腕を盗み出す事である意識の共通が成立するんだ」
「成立、ですか」
「あぁ、大衆の前で堂々と盗み出す事によって
「ですがそれではダメです。オリヴィエさんが救えていません」
ハイディの言葉に頷きを返す。これではオリヴィエを救えない。
「かといってこのままこれを放置すると、ヴィヴィオが完全にオリヴィエに上書きされて消えるだろうな。だからこの問題、放置する事も不可能だ」
「じゃあ……どうするんですか? 方法はある、という事は答えも用意してるんですよね?」
それなりに苦労はしたが、と言葉を付け加えながら頷く。そして先に前置きをする。これからする話は少し抽象的であり、難しい話であると。そう告げるとハイディは頭を横に振った。
「学年の成績は常にトップを取っています。安心してください」
「そりゃ安心だな」
じゃあ話をする事にする。
「まぁ、これは人間の認識の話だ」
「認識、ですか」
「あぁ……というか俺の使ってる盗法、正式名称はネメシス流虚現怪盗法で、普段は縮めて盗法かネメシス流怪盗法とか略しているけど、この核を含めた現実浸食ってのはキーに使っているのが人間が誰もが保有している認識ってものだ」
たとえば、と言葉を置く。
「俺から見るハイディは15歳の女だ。緑髪で、長髪をシニヨンで纏めている。覇王流を使用する際はミニスカートを好むけど、日常的にはロングスカートの方が好みだ。どちらかと言えば静かな方で、落ち着ける時間の方が好き……と、これが俺が抱くハイディに対する認識だ」
認識というのは人間がソレに対して、一体どういう視線を持っているのか、どういう風に見ているのか、何を知っているのか、そういう情報を統合したものだと思えばいい。視覚、聴覚、嗅覚等の感覚だけではなく、知った情報による総合的な物の理解とも言えるものである。
「その、認識がどうしたんですか?」
「これが酷く曖昧であり、そして不確かなものだ。誰かが見方を変えればそれだけで認識が変わってくる。逆に言い換えれば
「……成程?」
「えーと……人類の心はその奥底、無意識では繋がっているんだ。それをESや無垢心領域や集合無意識と言って、それを隔てる壁を虚数とも呼ぶんだ。故に虚数への明確な干渉の能力は、他者の認識をどうにかする事が出来るという能力でもある。現実の改変というのも虚数より侵食する現象であり、ESにある情報を改竄する事によって、認識による変動をおそらくは現実に―――」
「……」
「おう、話を纏めよう。つまり他人がどう見るか。その方向性を変える事が出来るのが俺様。解ったー?」
「あ、はい。先ほどの虚数や無垢心とやらは少し解り辛いですが、それならなんとか」
その言葉に頷く。
「銀腕が消えて、オリヴィエが消えるのは元からオリヴィエが存在していなかった事にもなるが、それを通して人間の認識からオリヴィエという存在が消えるという事にも理由があるんだよ。ヴィヴィオがオリヴィエに上書きされるのもそれが理由だ」
だから究極的にやる事は実際、凄くシンプルなのだ。
「
「それって言葉だけなら簡単ですが、実際には可能なんですか?」
「可能っちゃぁ可能。まぁ、普通の人間には無理だ。俺の様に特に現実と虚実に関する干渉能力が高い奴でもなければまず無理だろう。俺でもそこそこ重労働な上に、何個か必要なプロセスが存在する。だから、まぁ、可能だ。俺が天才で無敵イケメンであって良かったな」
「かっこいいのは同意します」
そこで同意されても困る、というか少しだけ恥ずかしくなってくる。なのでこっほん、と咳ばらいをして意識を切り替えた所で、再び話を続ける。
「まぁ、つまりオリヴィエという存在を保存する訳だな。まぁ、でも根本的に流れ自体は本来の怪盗の流れと一緒だ。だからそこは心配しなくていい。銀腕を盗んで、ヴィヴィオの体、そしてオリヴィエの認識が人々の妄念から解放されたところを此方で二重に盗み出すやり方だからな。だけどその前にやらなくちゃいけない事がある」
「あるんですか?」
「あぁ。ここが一番難しいと思ってる」
足を組み直しながらそれを口にする。
「ヴィヴィオとオリヴィエの意思が必要だ。明確に
「その秘策はあると見ました」
頷く。無論、秘策はある。というかこれしかないと思っている。
「で、それはどんなのですか?」
ハイディが興味深げに此方を見て来るので、無論、と指を持ち上げてキメる。
「デートで俺にメロメロにさせて、この時間が永遠に続けばいいんだって思わせるに決まってんだろ!! それしかねぇよ!」
「あ、なんとなく解ってましたがやっぱりそうなるんですね」
「寧ろそれ以外の方法が知りてぇよ。現状、死ぬ気満々なんだから、その根幹を揺らがせる想い出や出来事で生きたいって思わせればいいんだからな。まぁ……たぶん、それだけじゃ足りないから俺も……」
「アレクも?」
「いや、これはお前に言う言葉じゃねぇな。その時になったらアイツらに言うさ」
そう言うとハイディが無言で此方を見て来る。その視線を受け止め、数秒後、ニヤリ、と笑みを浮かべた。
「なんだ、嫉妬したか?」
「少しは……だって、今でも愛しているんですよね? あの人たちの事を……そう思っちゃうと流石に」
「安心しろ。お前を愛しているのも事実だからな。今更、自分がやった事、その感情からは逃げたりしないよ、ハイディ」
「……はい」
ストレートに好意を伝えると、頬を赤らめて俯いた。そう言えば普段はからかったり弄ったりしてばかりだから、ストレートに愛情を伝える様な事はなかったな、と思い出す。まぁ、今更純情ぶる事もないのだが、それでもこの様子を見ている限り、やっぱり好意と愛というものは、伝えなきゃ意味がないんだろうな、というのを理解する。だからさらに言葉を重ねる。
「いいか、俺が恋多き男だってのは自覚している。だけど流石にそう軽々と何度も体を重ねたりはしねぇよ。ここまで付き合うぐらいに体を重ねるのは本気でこの先、ずっと一緒に居てもいいって思える奴だけだ……いいな、おい」
「その……恥ずかしいです……」
「好き好き好き好き」
「あ゛ー! あ゛ー!」
ハイディが顔を真っ赤にしながらそれを両手で覆い隠しながら膝を抱える姿が本当に可愛くて笑ってしまう。エリーとか、他の連中だとこうも行かないので、中々に新鮮さを感じる姿だった。しばらくはこれだけでハイディをネタに出来るな……と思ったが、それはそれで直ぐに飽きてしまいそうだ。ここぞという時まで温存したほうが良いだろう。こういう言葉は繰り返すとありがたみが薄れそうな気がするし。
でもそれは嘘だ。
言葉にしなきゃ伝わらない。
人間はそういう不便な生き物なのだから。
どれだけ胸に思いを秘めていようと、
それが伝わらないのであれば……何も語らないのと変わらない。
「……ま、それはさておき話を戻すか」
ぶんぶんと音を立てる様にハイディが頷いた。
「それで、えーと……デートでしたっけ?」
「あぁ。だけどそれが終わったら大衆の前で銀腕を盗み出す必要がある……つまり予告と怪盗だ。予告状に関しては既に知り合いに依頼して作成してあるし、完成するのも数日中の問題だ。それが完成したら出して、期限ぎりぎりの所を予告して参上する。銀腕が最も警戒されている状態、時に飛び込んで、華麗に盗み出す! ……そうすればミッションコンプリートだ」
「銀腕、本部の方へと移されたりしません?」
「その為に馬鹿姫を抱き込むんだよ。説得して、納得させる。そうすれば銀腕の移送に反対して、ベルカ自治区聖王教会に立てこもって迎撃して貰う形にするんだよ。ま、どれだけ魔法や機械、呪術で守ろうとしてもこのネメシス様には無駄だけどな!」
なんと言ったって、そこら辺の物を全部スルーして移動できる能力があるのだから。割と真面目にこのスキルは重要だし、便利だと思っている。何せ、マンパワー以上に魔法や機械が信頼される時代なのだから。
「ま、軽くブリーフィングするとなるとこうなるな……死にたがり二人をまずデートに誘う事がファーストステップなんだが―――」
言葉をそこで一旦区切りながら、視線をハイディへと向けた。
「お前、どうすんだ?」
私ですか、と言葉を呟きながらハイディが首を傾げた。そう、ハイディだ。この際、ネメシスなどの怪盗に関するあれこれの情報は、ほとんど公開している。少なくとも、現実改変に対する耐性を保有しているこの子は今の所、最大級の味方だからだ。暴力だけを見ればトーマのディバイド・ゼロ等の方が遠距離から一斉に無力化出来たりと便利だろうが、彼には耐性がないから正しい現実が認識できない。だから力になる事が出来ない。それに比べハイディは変化を理解し、その上で協力できる味方だ。
そのハイディの立場は今、割と浮いている。聖王姫の付き人、傍付きというのが公的な称号であり、立場だ。そう考えれば傍にいてあげる事も出来るのだが、
「あぁ、その事ですが……私もアレクさんの怪盗活動を直接手伝おうかと思いまして」
なんてこともなく、そんな事をハイディが言った。その発言をしたハイディを半眼で見つめる。
「えー……ぶっちゃけ、犯罪だぜこれ? 正直な話ハイディには向いてないから止めとけ止めとけ。それに普通に戦うのとは別の技術が色々と必要とされるからな、これ。強さに自信がある、って程度ならやめておいた方が無難だぞ」
「むっ」
そう言うとハイディが少しだけむっとした表情を浮かべ、しかし、椅子から立ち上がった。そこに足音も衣擦れの音もせず、そのまま軽いステップを踏む。その際、動体に付属する音と、そして存在的な気配はそこにはなかった。中々見事な気配の遮断と、隠密の動きだった。正直、割と驚いた。
「どこで学んだ、それ」
「覇王流の基本技術の一つですよ?」
よっと、と声を零しながらハイディが再び座りなおした。そして言葉を続ける。
「覇王流は覇王クラウスが古代ベルカの戦場で築き上げた殺人拳術でした。人間の身で怪物を粉砕し、禁忌を殺戮する為の武術でした。その為には必要なあらゆる技術を取り込み、研鑽し、そして体術という形で覇王は完成させましたが―――まぁ、
「あぁ、成程な。それで体術の基本としてそういう系統も混じっているのか」
ハイディが頷いた。
「敵を殺す事だけを考えれば暗殺術も立派な手段ですからね。逆に言うと雷帝式にはそういう技術はなかったんですか?」
あー、とハイディの言葉に声を零す。
「雷帝式、というかダールグリュンが戦士ではなく将の家だからなぁ。どちらかというと雷の資質変換を使った派手な配下を鼓舞しやすい動きとかが重視されるからなぁ……そっち系統は伝わってないんだよなぁ、基本の中には」
「あ、そうだったんですか。アレクが出来ていたので普通かと思っていましたが」
いや、まぁ、俺の場合は師匠に叩き込まれただけだった。それに前、ジークリンデが使っているのを見て、そういう技術もあるのだ、という事前知識があったのも良かった。才能もあったし、おかげで割とすんなりと技術は入り込んできた。
ただ、それよりも、修行で一番キツかったのは減量だったが。
元々戦車とでも表現すべきパワー&タフネスファイターだったスタイルを、完全に肉を削ぎ落して一から体づくりをし直す必要があったから、その間の減量と筋肉の質を転換させる為のトレーニングがこれでもか、と言いたくなるぐらいきつかった。まぁ、そのおかげで今のスマートな体格な自分があるのだから、それはそれでいいのだが。
まぁ―――ハイディが予想外に使えそうだという事が解った。後は細かい動きをチェックする必要があるが、それでも場合によってはハイディを潜入と怪盗に一緒に連れて行ってもいいかもしれない。何せ、今回のミッションではトーマとユーノの二人が使えないのだから。サポートとバックアップが存在しない状況、誰か傍でサポートしてくれる人間が割と切実に一人ぐらい欲しい。ユーノの代わりはエリーが効率は落ちるが出来るが、トーマの代わりは居ないのだから。
「ハイディの得物は槍だっけか」
「はい、一番得意なのは機殻槍ですね。一応インテリジェントデバイスとか持たされたんですけど、判断が遅すぎて此方の方がしっくりくるんですよね」
「まあ、AI制御はよほどのもんじゃねぇと達人級の判断力に負けるからな」
機殻槍、つまりはアームドデバイスの中でも特にメカニクルな物の一つで、本体となる槍に何重も機械的なパーツを装着してある、機械槍とでも表現すべき武器だ。槍に装着された機械がまるで甲殻の様に張り付いている為、機殻、という名前が付き機殻槍と呼ばれている。
「ちなみに兄は剣と槍の変則二刀流の使い手ですね。たぶん予告状なんてものを出して警戒させたら、近くで警護するでしょうから間違いなく邪魔に入ると思いますよ」
「なんだその色物二刀流」
「えぇ、色物ですけどこれで私よりも強いんですよ、兄さんは」
「マジかー」
これでもハイディはDSAAのU15ワールドチャンピオンを傍付きの片手間に取得しているレベルで強い。その更に上にお金を稼ぐ為にジークリンデが覇者として君臨しているのだが。それはともあれ、次元世界のU15級で最強クラスなのがハイディに対して、それよりも上の実力がある兄の存在―――クラウス・ストラトスとでも呼ぶべき青年の実力は、気になる。変態的な武器を使い続けている奴に限って恐ろしく強いんだよなぁ、というのは実体験になる。
実際、俺もステッキとかカードとか蝶とか棺桶とか、普通は武器にしないようなものばかりを武器にしているのが事実だ。
まぁ、クラウス君も問題なのは事実だが、
「銀腕狙うと宣言したらほぼ確実に親父が出っ張ってくるのもなー」
「レオナルド・ダールグリュン卿ですね? アレクとの婚約に物凄い肯定的というか、血筋と条件が一致した上で愛があるのなら今すぐにでも結婚しておいた方が良い、と凄い乗り気でした」
「結婚の話は今は忘れよう! それよりも親父の実力だ! 親父の実力ゥ!」
ハイディがじとー、っと眺めているので、それを意識して無視する。
「親父はぶっちゃけ、糞強い」
「エリート揃いの聖騎士団の副長ですからね。兄が実力と人望であれば間違いなくダールグリュン卿の方が上だと豪語していましたから」
ハイディの言葉にそうなのか、と呟きながら話を続ける。
「まぁ、俺という男が誰を見て育ったのかを見れば解るんだけど、親父も人間としては間違いなくクズの部類に入るんだけど、それでも親しみの持てるクズだから基本的に人望に厚い。その上でそれなりに年季が入っている上に昔は武者修行で次元世界を渡り歩いていたとか聞いてるからなー」
「へぇ……楽しそうですね」
「現地妻作りながらだったらしいけど」
「最低ですね」
そこに絶対にオチを用意してくれる父の話は、なんだかんだで面白いと思う……味方なら。敵として評価するのであれば、間違いなく敵対したくはない相手だ。
「親父は雷帝式の使い手で、《零式》はヴィクトーリアが今は保有者だから心配する必要はないけど、オーソドックスな盾剣スタイルになる。けど異常に高い耐久力と守備の上手さ、そして用兵の上手さが目立つ。踏み込み、盾で防ぎつつ雷でスタンさせ、機械類をショートさせつつ剣で反撃し、それで自分が前線で抑え込みながら同時に指揮をするって器用な事が出来るタイプだ。アレの息子だから手の内は大体知っているし、見て来た」
これで指揮官タイプだと思うだろう? 違うのだ。
今では副長という立場でかなり抑え込んでいるが、昔はバリバリの武闘派、切り込み隊長タイプ。お? 犯罪組織かな? 滅ぼしてやるかー、ぐらいのノリで突っ込んでは笑って戻ってくるタイプのイケメンだったのだ、アレは。
すっごい真面目な話、
「まともに戦おうとすると勝てない部類だ、アレは」
「まともに相手をしようとした場合の、騎士団の壁が厚いですね」
そうだな、とハイディの言葉に頷く。だからこそ、事前準備として騎士団の無力化、或いは騎士団に内通者を作っておくこと、それか対処方法を事前に用意しておくことが非常に大事な事になってくる。ハイディよりも強く、そして俺よりも強い団長と副長、それに選抜されたエリートの聖騎士達。この集団を前に二人……いや、エリーとの融合状態を考えて三人だけで挑むのはただの自殺になるだろう。
「まぁ、聖騎士団は近衛の役割も兼ねてるから、馬鹿の懐柔に成功すればそれだけで7割がた無力化出来るだろうとは思う」
「残り3割は?」
「お前の兄、真面目そうだから命令関係なく動く場合と、俺の親父が楽しそうだからという理由だけで敵対してきた場合」
「方向性は真逆なのになんで結果は同じなんでしょうね」
それは俺が知りたい。とはいえ、どうにかしなくてはならない。足を組み、腕を組み、そしてはぁ、と軽く息を吐く。
「まぁ、親父が立ちはだかった場合に関しては、俺が封殺手段を用意しておこう」
「では私が兄を……ということになりますね?」
「辛いなら止めてもいいんだぜ?」
その言葉にハイディは首を横に振り、いいえ、と言葉を置いた。
「覚悟が出来たかどうかは判断できませんが、私はヴィヴィオさんも、オリヴィエさんも知ってしまった以上は見過ごす事が出来ません。どれが真実で、何が現実だなんて複雑すぎて解りませんが……それでも、私には二人の友人がいるという事が事実なんです。私にとっては、それだけで十分すぎるんです、理由なんて」
「……おう、そっか」
泣いて苦しんでいたのに、きっかけさえあればそれを乗り越えられる。そしてその時、女はある意味、男よりも強くなる。そのハイディの成長したとも言える姿を見て、やはり良い女だな、と口に出す事もなく感想を抱いた。
これでやらなくちゃいけない事、対処しなきゃいけない事は見えた。
潜入ルートに関しては俺もハイディも知識が豊富だから、今更下見をする必要もない。その時になればハイディが内部から呼応して、それに合わせて侵入すればいいのだから。だから後は、この下準備を進めるだけだ。
つまりは―――オリヴィエとヴィヴィオの説得だった。
窓の外を見た。
冬の空がその向こう側に見えた。自分の失敗と向き合う時が来たのだろう。そう思いながら静かに目を閉じ、
デート、それで彼女に伝えなきゃいけなかった言葉を、伝える覚悟を決めていた。
ブリーフィングと残り、必要な事。事前の確認とチェックは大事。
エレミアは極端すぎる例だけど、日常的に闘争が繰り広げられている環境で、戦闘用の流派や技術に関しては途絶でもしない限りは常に進化を続けるものだとてんぞーは思っている。なのでほぼ確実に覇王流も現代に適応する形で、クラウスが始めたものをベースに世代を重ねて継承し、更に洗練されて昔のクラウスが生み出したものよりも遥かに凶悪なものに出来上がっていると思う。
次回はデート。女はその出産や身体の都合上、男よりも覚悟しやすい生き物だと思っている。問題は、それが常に良い方向だけへと転がらないという事だ。