※この作品はR-18です。

Stealing The Reality   作:てんぞー

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Dear My Love Ⅳ

―――男と、女の関係とは複雑なものだ。

 

 良い男の条件はなんだろうか? 良い女の条件とは? 考えれば考える程、困ってくる。自分のこの女癖の悪さは……まぁ、ある程度は父親の遺伝という事もあるのだろうが、その理由にはならない。明確にこ(・)う(・)なったのは恐らく、初めて告白し、そしてフラれた所にあるだろうと思っている。あの時、フラれた俺はどう思ったのだろうか? そう、俺(・)に(・)魅(・)力(・)が(・)足(・)り(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)と思ってしまったのだ。それが原因で去ってしまったのだと。

 

 だけど実際は違った。本当に必要なのは一言だけだった。それが足りないから彼女はそのまま去ってしまった。そしてそれを口に出せなかった自分の勇気が悪かった。女と付き合って、姿を変えてそのものになって、それで抱いたりして、調べて、知った気になって―――それで今に至る。

 

 なんて、なんて遠い回り道。

 

 冬の空を見上げながら、そう呟いた。

 

 今日は空が晴れていた。足元に雪はなく、ここ数日の晴天続きなおかげもあり、街は活気で満ちていた。空が晴れているおかげで気温もこのベルカの冬にしては暖かく、少し薄着でいても、問題がないぐらいには温かった。冬はとことん冷え込む分、こういう日は非常に珍しく、そしてありがたかった。まぁ、大抵は次の日に一気に冷え込むから油断してはならないのだが。

 

 まぁ、運が良かったと思えば良いだろう。今日という日がこうで。

 

「ふぅー……」

 

「ねぇ、あの人かっこよくない?」

 

「待ち合わせかな?」

 

「憂う雰囲気がいいなぁ……」

 

「俺もあんな風に……」

 

 ベルカ自治区、その最も栄えている中心部の駅前で立っている。最も栄えている、という事もあってここら辺は高層ビルが多く、ミッドチルダに近い姿のベルカだと言っても良い。つまりは、最も近代的なベルカだと言える場所である。その為、遊べる場所や行ける場所は一番多く、若者がとりあえず遊ぶために集まる場所でもある。だが同時に、ここは人通りの多い場所でもある。故にそれなりの姿をしていれば視線に晒され、そうやって注目を浴びてしまう場所でもある。

 

 周りから向けられる視線も、そういう物だ。特に今日は特別見た目に気を使って気合を入れている為、そういう所がある。余りひそひそと聞こえる話をされるのは好きではない。とはいえ、聖王教会の権威が強いベルカ内部で、聖王教会の力が一番弱い場所と言えば……ここ、中心街なのだ。

 

 なぜなら最もミッド式の考え方が混じり込んでいる場所であり、聖王教会への信仰が最も薄い地域でもあるのだ。故に、聖王教会関連のアレコレが一番目立たない場所でもある。即ち、本日の要件を果たす上では、一番良い場所だと判断できる。だからここに来たことは間違いではない。そう思いながら軽く空を見上げていると、

 

「あの」

 

 と、声がかかって来た。視線を下げれば、高等部クラスの女学生が此方の前に3人ほど居た。制服姿を見るに、今日は休みか、或いは学校を抜け出してきたのか……どうなのだろうか? どっちにしろ、

 

「どうしたのかな、レディ達」

 

「きゃっ! レディだって! 聞いた? 超聞いた!?」

 

「聞いた聞いた!」

 

「あの、暇なら一緒にカフェとか行きませんか?」

 

「すまないね、君たち。今日は先約が入っていてね。非常に心苦しいが大事な人の為に時間を用意してあるんだ、君たちと同じ時間を過ごせない事を許して欲しい」

 

 既に用意していた言葉にウィンクを添えれば、勝手にキャーキャー言って去って行く。簡単なものだ、大抵の女の子はこうやって理想の男性を演じれば、それだけで大体満足して去って行ってしまう。逆に対応が中途半端だったりすると強引に付きまとわれるから、少しぐらい過剰に演出する方が良い。この数年間、学んだことの一つでもあった。しかし、

 

「おいおい、まるで王子様の様だな、兄貴」

 

「姫をエスコートするのであれば、当然だろう?」

 

 聞き覚えのある声に振り返る。駅の方から出てきたのは、珍しいほどに着飾られた、ヴィヴィオの姿だった。いや、或いはオリヴィエなのかもしれない。一見、どちらにも見える。いや、もしくは―――奇妙なバランス故に、今だけは混ざっているのかもしれない。服装は蒼をベースに統一され、ワンピースの上から上着を羽織っている様な恰好をしており、腰にはベルトが見える。ただ服装だからだろうか、普段は良く強調されているヴィヴィオの胸が、控えめに見える様にコーディネートされていた。

 

 髪型も、今日はストレートに下ろしてあった。

 

「似合っているじゃないか、お姫様」

 

「そういうアレクも王子様みたいで似合っていると思うよ」

 

 此方も服装は今回、チェック柄をベースにしつつパーカージャケットと、白と青をベースに清潔感と爽やかさを感じる恰好に統一している他、髪の毛も軽く切って来た。普段は少し長めにしてあるのは、影のある雰囲気を出す為の、髪形を色々と変えられる方が変装やら印象操作の時に髪形を使いやすいから、というものだった。だがそれも、今回の為にバッサリと切った。その結果、爽やかな印象を生み出し、そう表現されたように、昔の自分の様な……まだダールグリュンに居た頃の様な、王子様に戻ったような明るい雰囲気になった。

 

 何時も自分を見ている人間からすれば、逆方向へと印象が大きく変わった姿に驚く事だろう。だけどそれを見てオリヴィエは、うんうん、と頷いていた。

 

「あぁ、やっぱり兄貴はそういう恰好も似合うわ。なんで普段からやらねぇんだ?」

 

「見せる相手がいないだけさ」

 

「って事は、そういう相手だって見てくれていいのか?」

 

 その問いには小さな笑みで答え、そしてそれに続く様に手を出した。それを受け、ヴィヴィオが手を取った。指を絡める様に手を取りながら、腕を組み、そして自然と横に並んだ。右腕に感じる彼女達の生きている、という熱を感じながら手を取って、ゆっくりと歩き出す。周囲からは待望の視線が突き刺さっているのを感じられる。だがダメだ、今日は俺が彼女を独占するし、彼女が俺を独占するのだ。

 

 他の誰の事も相手してやらない。

 

 今日は、心魂を全て、この一人に注ぐのだ。

 

「……」

 

「アーレーク」

 

「うん?」

 

「ううん、名前を呼んだだけだよ。今日はエスコートを期待しているぜ」

 

 いつの間にか、オリヴィエとヴィヴィオが入れ替わっている。自然と、その事実に本人さえも気付けないほどに。言葉が途中から完全に切り替わっているのに、それを本人がそうであると理解していない。段々とタイムリミットが近づいてきている事の証拠だった。タイムリミットが着実に迫っている。ヴィヴィオが耐性を得ているのは事実だが、それも永遠に続く時間ではない。終わりはある、何者にでも。

 

 だからこそ、

 

 花は美しいのだと思う。

 

「さて、お前も中心街の方は経験が少ないだろう? 普段は行かないような場所に案内しようか」

 

「はぁーん? それは楽しみだな。俺もそっち方面は中々……ってか行ったことがねぇしな」

 

 ヴィヴィオの声に小さく笑い声を零しながら、周囲の視線を無視し、街中を歩き出す。最初は興味心が沸いて視線は向けられる。だがそれもしばらくすれば、自分が関係の無い所だから、勝手に生活に戻って行く。まぁ、デートなのだ。野暮な介入は慎んでもらえればそれで良い。駅前から交差点を渡って行き、そのまま中心街にある、ビルの前をゆっくりと二人で歩く。

 

「修行している時も大体スラムでガキに調達させたりしたしな」

 

「あぁ、街なんて滅多に行かねぇし、教会に行ってから外出する時は大体兄貴ん所だけだったからな。中心街に来るのは全く経験ないんだよな、俺」

 

「ま、だろうと思って今日はこっちに呼んだんだよ。とりあえず―――アレ、やった事ないだろ?」

 

 そう言って視線の先に見える、大型のゲームミュージアムを示した。様々なゲームを設置してある、学生たちの溜まり場でぶっちゃけた話、カップルがデートする為に来るような場所ではない。だが横にいるオリヴィエの目を見れば、それがゲームミュージアムを前にキラキラと輝いているのが良く見える。何せ、こういう無駄にお金を使う娯楽とは完全に無縁の生活だったのだ、お互いに。

 

 そりゃあ楽しみにしてしまう。

 

 恰好はお互いに、間違いなく清純派というか、それっぽい姿なのに、中身はどうしようもなく、子供だった。

 

 だからそのまま、二人でミュージアムの中に入って、そして辺りを見回した。一応、暇をしないように事前にどういう場所かは調べてきている。

 

「1階はレトロで景品を取るタイプのゲーム、2階が対戦ゲーム、3階から上がVRやAR用ゲームエリアだって話だな。一応近くにはスポーツセンターもあるから、そっちでボウリングとかバッティングとかも出来るぞ」

 

「電子ゲームだけじゃないんですねー……あ、でも私ブラックカードしか持ってないんですけどこれ、大丈夫ですかね?」

 

「あー……遊ぶのに必要なのは小銭らしいからな。まぁ、そっちの方は俺で用意するから、別の所で代わりに払っといてくれ」

 

「うん、そうするね」

 

 流石ベルカの姫君、ブラックカードしかもっていないとかいう発言は流石にビビる。自分でも流石にそこまで自由にお金を使えたことはなかったし、ベルカ最後の王族というネームブランドに対して、極限まで金銭的不自由をさせない配慮は便利だけど、こういう遊びとなると不便だな、と感じもなく。

 

 まぁ、それはともあれ、近くの両替機で適当に小銭を作る事にした。服装、そして雰囲気が明らかにゲームミュージアムとマッチしていない為に少々視線を集めているが、それを無視して巡り出せば、見物者たちも各々のゲームへと戻って行く。その姿を気にするまでもなく、景品が手に入るゲームを見る。

 

 最初に見て回るのはクレーンゲームだった。

 

「これが噂の……侍女たちが話題には出していて、中々景品が取れないのを嘆いているのは知ってます……!」

 

「ははは……まぁ、簡単に取れたらお店側としても困るからな」

 

 こういうのは大体10回前後で取れるように計算されているのだ。それで元手を取るというシステムだが……まぁ、口にするのも無粋だ。一回、コインを投入してクレーンを動かし、試してみる。ターゲットにしたのは大型のぬいぐるみで、少し愛嬌のある犬の物だった。

 

 アームは端の方に引っかかると、ぬいぐるみを倒し、穴の方へと運べるように体勢が変わった。

 

「む、落ちませんね」

 

「ま、簡単にはな……続ける?」

 

「おう、ここで引いたら負けたような気分になるからな」

 

 ヴィヴィオがそう言ってクレーンゲームを睨み、ニヤリと笑みを浮かべた。無駄に天才的な直感で、どう動かせば最短でぬいぐるみを取れるか、というのを感じ取ったのだろう。いやまぁ、その程度だったら反則でも何でもないから良いのだが、それで勝った気になれるのならいいや、と諦めて3手でぬいぐるみを取ったヴィヴィオを見た。

 

「見ろよこれ、鼻の所ブサイクじゃね?」

 

 そう言って手に入れたぬいぐるみをヴィヴィオは両手で持ち上げながら此方へと向けていた。満面の笑みと共に。その表情を見て、あぁ、と声を漏らす。

 

「そういう所に愛嬌があるってもんなんじゃないか? 俺は嫌いじゃないな」

 

「お、やっぱりそう思うか? はは、そうだな……こいつは記念に貰っておいてやるとするか。お前の名前は……まぁ、帰ってからにするか」

 

「そんじゃ、今のところは預かっておこう」

 

「次元倉庫、ほんと便利だよな、それ。俺も使いたかったぜ」

 

「簡単に真似されたら困るからやめてくれよ」

 

 ぬいぐるみを受け取って、影の中にしまい込みつつ、今度は上へと上がって行く。2階は1階よりも更に活気があって、人の数が多かった。対戦に夢中なのか此方へと視線は来ない。少し長居をするには丁度良い場所だが……やはり、人の気配は上の方が濃い。現代でゲームと言えば、VRかAR式が一番人気が高い。

 

 ……とはいえ、結局は体を動かすのだ。VRやARで遊ぶぐらいなら体を鍛えた方が自分の様に動ける人間からすれば建設的だ。だから体を動かせる人間からすればVRもARもいらないよね? というのが評価だ。

 

「おぉ、すげぇ、対戦格闘ゲームとかもはや古典レベルのもんあるじゃねぇか……ちょっと対戦しようぜ!」

 

「お、いいのか?」

 

「大丈夫大丈夫、どうせ俺のが先に操作覚えるから」

 

「これが才能全振りの暴力か」

 

 そういう訳で遠慮なくヴィヴィオの反対側に座り、対戦を始める。一応対戦格闘ゲームだったらトーマを相手にそれなりに遊んでいる。まぁ、最初は負ける事はないだろう、と思いながら普通に対戦を始める。

 

 安定のレバガチャっぽい動きでやや読みづらいが、最初のラウンドを見事にヴィヴィオのキャラをKOする。次のラウンドが始まった途端、動きが一気に良くなる。これだから直感と学習能力は、と苦笑しながらも一進一退の攻防を繰り広げつつ、ヴィヴィオのキャラに2ラウンド目を取って勝利する。

 

「うーし、俺の勝利だなー」

 

「あー! まだだ、まだ! もう1回」

 

「おぉ、いいぜいいぜ。まぁ、また俺が勝つけどな」

 

「は? 言ったな? 吐いた唾を飲むんじゃねぇぞ兄貴」

 

 ノってきたヴィヴィオの言葉に笑い声を零しつつ、格段に動きが良くなるキャラクターの動きを迎撃する様に此方も、真剣に操作に集中し始めた。

 

 

♦

 

 

「……成程、で、あのピンを全部倒せばいいんだね?」

 

「ただし、転がしてな。壊してもダメだぞ?」

 

「流石にそれぐらい解ってるよー。ふっふーん」

 

 お互いにVRやARゲームには興味がなかったので、レトロ系のゲームを遊んで楽しんだ後は、別の建物の方に移動し、今度はボウリングに挑戦していた。流石にこれは自分も初めてだった。話には聞いていても、実際こうやって手にしてみると、意外と面白そうだという感想も出て来た。そんな訳で二人で、レーンを一つ独占しつつ、ボウリングに使うボールを選んでいた。

 

「うーん、どれも軽く感じちゃうなぁ」

 

「そりゃあいつも振り回してる鉄塊とかと比べればな……」

 

 ボウリングの玉を片手で軽く持ち上げるオリヴィエの姿を見て、呆れの溜息を吐きながら自分も、丁度良い重さのボールを求めて、ラックを探る。施設やルールとしては知っているが、こうやって遊ぶのは初めてになるし、靴を借りて履くというのも中々新鮮な気分だった。そうやってボウリングの事前準備を終わらせたところで、レーンの前にオリヴィエと共に、交代で二球ずつ、練習用の時間で投げた。

 

 お互いに一回目は横の溝に落ちて、ガーター扱いとなった。

 

 そして二回目で中央に衝突し、8本ほど倒す。

 

 それで軽いウォーミングアップと投げる感覚を覚えた。次の投球からが本番、ゲームとして点数が入る状態になるので、上着を脱いで椅子の上に置きながら、ニヤリ、と視線をオリヴィエへと向けた。

 

「終わった所で点数が低い方が……」

 

「罰ゲームだね? 勝った方が負けた方に何でも命令できるという事で」

 

「乗った」

 

 これは気合が入ると言わんばかりにお互いに肩を回し、本気で相手をする為に呼吸を整え、覇気を高める。ボールを壊さない様にしつつも軽く視線を交差させ、お互いに準備を完了させる。お互いに、体を動かすという事に関しては天賦を得ている。故に軽く練習を挟めば、大体狙ったように動かせる。

 

 理想のイメージを描き、投球する。

 

 当然のようにボールはピンへと衝突し、その全てを薙ぎ倒した。

 

 ストライク。

 

「ま、初手でこれぐらいはね? 当然としてね?」

 

 煽る様に視線をオリヴィエへと向ければ、オリヴィエがレーンの前に立ち、そしてボールを投げた。見事な軌跡を描きながらレーンに快音が響き、再び頭上の電光板にはストライクのアイコンが表示された。それを確認してからオリヴィエは此方へと視線を向け、

 

「これぐらいは出来ないとね?」

 

「言うなこいつ」

 

「アレク程じゃないよー」

 

 そう言って、小さく笑い、お互いにマジ顔に切り替えた。順番は直ぐにやってくる。ゲームのルールは簡単だ。連続でストライクを出し続け、それを外したほうが敗北する。実にシンプルなルールだった。何せ、狙ったところを倒すなんて、肉体の完全操作技術の応用でしかない。それぐらい感覚的にオリヴィエは出来るし、此方も徹底して叩き込まれている。

 

 故にあっさりと、お互いに交互にストライクを叩き込み続ける。

 

 快音から快音、連続でピンが吹き飛び、電光板の表示にはストライクとしか表示されなくなる。周りから何事か、という視線が向けられるも、それを気にする事無く、ストライク合戦が続行されるが―――当然、1ゲームでそこは決着がつく事はなく、ストライクのみが表示された電光板を二人で見上げる。

 

「んー、やっぱりこうなるか」

 

「まぁ、動いてないし、妨害もなしだったら外す理由がないからね」

 

「となると、次は妨害込みにする?」

 

 ニヤリ、とお互いに笑みを浮かべてルールを決める事にする。ボディタッチを妨害に入れるのは流石に危険なので、お互いに可能なのは椅子に座って言葉を送るだけ、という事に留め、

 

 2ゲームが開始される。

 

 

♦

 

 

「いや、アレは卑怯だろ」

 

「このアレク、話術と詐術であれば並大抵の人間には負けない。妨害のルールに言葉を禁止しなかった時点でお前の負けだよ」

 

「女に勝ってそんなに嬉しいかよ」

 

「嬉しいに決まってんだろ? 女に勝ったんじゃなくて、お前に勝ったんだからな」

 

「はっ!」

 

 そう言うとヴィヴィオが視線を逸らすも、少しだけ頬を緩めているのが解る。解りやすい奴だなぁ……というよりは、隠さない奴だというのは良く解っている。だから横を歩き、腰を抱いて、そろそろどこで食べるか、というのを相談し始める。あの日とは違う、崩壊していない道路を歩きながら、

 

「でも、普段は結構高いもん食ってんだよなぁ」

 

「まぁ、お前に下手に安いもんは食わせられないからな」

 

「まぁ、味は一応解るんだがよ、作法やらなにやらでババアがうるせぇんだよ。気にしていると味が解らなくなるもんだから、もっと気軽に食いてぇもんだ」

 

「じゃ、昼飯はどこにするか、決まったもんだな?」

 

 足を止めて、横のビルの一階にある店舗を親指で指さす。その先にあるのはレストラン―――ではない。客でごった返している空間は、カジュアルな服装の一般人で溢れている空間であり、とてもだがそこにはマナーやエチケット、作法が求められる様な場所ではない。

 

 つまり、それはファストフード店だったのだ。それを見て、ヴィヴィオが腹を抱えてげらげらと笑い出した。

 

「デートに女を連れてくるような場所じゃねぇだろ、こんな所」

 

「お? じゃあ近くのビルの32階には見栄えが良くて飯の美味いヴァイゼン料理があってだな―――」

 

「はぁ? 一言も嫌だって言ってないだろ? 何勘違いしてんだよ。ほら、行こうぜ。教会の味の解らない美味い飯よりもずっとこっちのジャンクが喰いたかったんだよ」

 

 ははは、と笑い声を零しながら腕をヴィヴィオにつかまれ、そのまま店内に連れ込まれる。自分は定期的に外に出た時に通っているが、ヴィヴィオはそうでもないのだろう、久しぶりに見る様な視線で、カウンターの向こう側に浮かんでいるホロを見て、何を頼むかを考えている。自分が頼むものを決めつつ、ヴィヴィオが懐かしむ様に呟く言葉に耳を傾ける。

 

「なぁ、兄貴覚えてるか? あの頃はここの飯一つで豪勢だったもんだよなぁ」

 

「最初は漁ってたりしてたからな……」

 

「金とかなかったしなぁ」

 

 スラムに放り込まれていたころは、こんなファストフードでさえご馳走だった。金なんて真っ当な手段で手に入らなかったし、最初はスラムから出て、技能を金に利用するという考えさえなかった。それに気づく様になれば、曲芸とかでお小遣いを手に入れる事が出来た。

 

 そしてそれを使ってファストフード店に駆け込み、一日の飯を調達したものだった。

 

 まぁ、武才があって幸運だったと言える。演舞や曲芸、簡単な奇術ショーでも開けば公園でおひねりを集める事が出来たのだから。そういう技能さえ持っていない子は、結局の所奪うか漁るかの選択肢しかなかった。

 

 そして俺達にはそれがあった。

 

 故に、自分たちにとってこのチープでオイリーなジャンクの味は、労働の味だった。思い出の味だとも言える。苦笑しながら自分の分も頼み、そして出来上がったそれを運んで行く。

 

 とてもだがデートに食べる様なもんじゃないが―――俺達のデートは、これで良かった。

 

 ヒントは過去にある。

 

 だが答えは常に未来にあるのだから。




 デートに相応しくない場所を巡る意味を求めよ 配点:想い出

 という訳で普通であればちょっとらしくないなぁ、という場所を回る感じで。凄い、オリヴィエがまるで普通の女子みたいだ! とか、ヴィヴィオ大がふつーにデートしてらっしゃるの書くの初めてじゃね? と思いつつ次回はデート後半戦。
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