それからデートを続けた。
徹底して普通のデートで回るような場所は避けた。そもそも、俺達の関係にそういう場所は不似合いだった。ヴィヴィオであれ、オリヴィエであれ、性格は大きく違うし、好みだって違う。だけど知っているのだ―――どういう足跡を経て、現代へと至ったのか。なぜなら彼女たちは自分の唯一無二のパートナーだったから。別れるその日まで、一緒に生活し、そして苦しい環境を生き抜く為に力を合わせた存在だったから。だから本当は何を求めているのかをお互いに理解している。
ただ、それをお互いに口に出せないだけだった。
昼食を取ったら今度はゲーム屋に行って昔買えなかったものを見てみる。それが終わったら本屋へ、服なんてものはぶっちゃけ、必要だから気にしているだけであって、好きか嫌いか、興味があるかないかで言えば興味がそこまでないのが事実だ。ぶっちゃけ、適当な服装で生活してていいならそのままで居る自信はある。だから服屋の前で足を止めても小さく笑うだけで、そのまま通り過ぎてしまう。
見た目だけなら良いのに、ふざけた話だと言って笑う。
それから今度は屋台街に行って立ち食いでおやつを楽しんで、カラオケに突入して美声を披露したり、一日中、本当に適当に、欠片もプランを作る事もなく行き当たりばったりで遊び続けた。そう、デートと言うにはノープランで、そして似合わないセレクションの数々。言い換えれば遊んでいる、という事に近かった。そんな感じだった。何せ、そこにはよくあるデートコースや、男が格好つける様な奢りもないし、無駄に愛している愛しているとか口にするわけでもないし、
普通に、遊んで、笑って、それで適当に飯を食べる。
デートらしくもないデートが続いた。
そうしていれば―――何時の間にか空は暗くなっていた。
夜空が見える。クリーンエネルギーを使用し始めた十数年前から、少しずつだが環境問題は改善されつつあり、夜空も綺麗に見える様になっている。晩御飯を食べ終わった後でもまだまだ、中心街は眠らない街として機能している。おそらくは24時間、ずっと起きている街なのだろう、ここは。どこにいても人が存在し続けている。その中、ヴィヴィオと並び、手を繋ぎながら歩いていた。
「ふぅ、結局遊び尽くしちまったな」
「ま、こんな日も悪くないだろう?」
「あぁ、欠片も悪くねぇよ兄貴。寧ろ好きだぜ、こういう日は―――いや、今日という日がな」
手を繋ぎ、一緒に歩く。たったこれだけの事なのに、長い間やっていなかったような気さえする。たったこれだけ、手を繋いで触れ合うだけなのに、その行いが果てしなく遠かった気がする。いや、実際にこういうスキンシップは長い間していなかった、というのを今更気が付かされる。夜、歩いている人の数は減っても、車の通りは変わっていない。ガードレールの向こう側を高速で抜けて行く車の音と風を感じつつも、手を繋いで歩いて行く。
「何時ぶりだろうな、こうやって一緒に時間を過ごすのはよ」
「さて……流石に覚えてないなぁ、そりゃ。ただ偉い久しぶりってのは気がするな」
言葉はそこで一旦止まってしまう。お互いに、その言葉の先、答えが解っているからだ。だから無言が生み出されてしまった。そのまま、しばらく無言を貫くまま、街中を歩いて行く。
この最後だけは、行く場所を決めていた。
だから道路を歩き、少しずつ、少しずつ中心街から外れて行く。向かうのは中心街近くの住宅街であり、そこには丘があった。歩く距離は少々あったが―――それでも、文句を言うほど貧弱でもないし、一緒に歩いていられるだけでも幸せだった。たとえ、横にいる女が今、自分が気づかない間に何度か切り替わり、自分がどっちであるのかという事にさえ気付けなくても。
だから無言を保ったまま、少し歩いた。夜になると人が減って、そして少しだけ、目立つようになる。通り過ぎる人が思い至る様に此方を見てひそひそと声を零す。昼間の間はそっくりさんとも、或いは見間違いで処理できるだけの人混みがあったが、こんな時間になると良く見る事が出来る為、誰であるか、というのが解ってしまう。
だから地味に時間を取る様に、人が少ない場所を選んで進み、少しだけ長く、目的地まで時間を作る。
そして、そこに到着した。
そこは丘の上だった。住宅街、中心街―――そしてその向こう側、光の無い廃墟都市が闇の中に静かに沈んでいる姿が見える場所だった。ある意味、ここはベルカという現代の環境、その全てが見える場所だった。どこまでも、どこまでも広がるの自治区という環境が見える場所であり、
ここに、ヴィヴィオを連れて来たかった。
ベルカという場所がどうであるか見えるこの場所へと連れてきて、ヴィヴィオは高台のガードに近づき、夜景を眺めた。今、どういう場所に彼女がいるのか。どういう場所に期待されているのか、何を求められているのか、何を得ることを求められているのか、何を今、崇拝されているのか。彼女が今日、どこを巡ったのか。彼女が昔、どこにいたのか。
ここからはそれが良く、見えた。
「中々良い景色だろ?」
「あぁ、そうだな……ったく、しかし兄貴も意地が悪いぜ」
ヴィヴィオが苦笑しつつ、柵に背中を預ける様に寄り掛かりながら、此方へと視線を向けて来た。
「どれもこれもやった事の無い事、或いは俺が聖王教会に行く前にやってた事ばかりじゃねぇか……クソ、本当にそういう所、汚ぇよな、兄貴は」
その言葉にさて、と曖昧に肩を揺らしながら返答し、正面からヴィヴィオの姿を見据えた。勝気で、男勝りの意思の強さを持った女だ。誰よりも自分らしく、強く、そしてストイックに。それがヴィヴィオという女だった。そしてそれが彼女の全てだった筈なのだ。少なくとも、彼女がスラムに居た頃はそうだった。狂犬、そうとも表現できる凶暴さで誰にでも噛みついていたのが彼女だった。
だけど今、目の前に居るヴィヴィオにはそういう凶暴性がなかった。
「ねぇ、アレク。アレクはさ、私がどうやって生まれて来たか知ってる?」
オリヴィエはそう言って、此方へと困ったような、自虐的な、そんな笑みを浮かべた。悲しさすら感じるそれを、頭を横へと振って聞く事にした。もはやオリヴィエもここでは逃げる事も出来ない。向き合わなきゃいけないのだと解っているのだろう。その為のデートで、その為の舞台だった。だからオリヴィエも、口を開く。
「私ね、避妊し忘れた結果生まれて来たんだって」
「……」
「うん、欲しかったとか要らなかったとか、そういう事以前だったみたいだったんだ。子供が欲しいかどうかを考える前の段階、とりあえずセックスして楽しもう? って時に避妊するのを忘れた結果が私なんだって……要らない子以前の問題だったよ。存在しない子、とでも言うのかな。いてもいなくてもどっちでも。そういう扱いだったんだね、私って」
うん、とオリヴィエは笑った。本当に困ったような表情だった。
「それでさ、私ね、ふと思っちゃったんだ」
「何を?」
オリヴィエはそれは、と呟いた。
「何のために俺、生まれたんだろうな……って」
自嘲の声がヴィヴィオの口から洩れた。本当に弱ったような、そんな姿を彼女は見せていた。ヴィヴィオも、オリヴィエも、どれだけ蔑まれ、犯されそうになり、穢され、潰され、殺されそうになっても心の折れなかった女だった。それを俺が知っている。だけど目の間に居る女は、本当にどこにでもいる様な怯える様な姿を見せる弱い女の姿だった。
そうだなぁ、とヴィヴィオが夜空を見上げながら呟く。
「いやさ、だって考えてみてくれよ。生ハメしたときに避妊し忘れたってなんだよ! 馬鹿かよ、そんな事やってりゃあガキの一人でも孕むに決まってんだろ! パコパコ毎日俺が生まれてからも続けやがってあのクソ共。それでいて育児放棄に投棄だ。人間だぞ? 料理の失敗作じゃないんだぞ? あ、味付けを間違えたから捨てなきゃ……ってノリじゃないんだぜ? ふざけんなよ……なんで俺を産まれる前に消さなかったんだよ、あのクソ共は」
「なんで……私を産んだんだろう。期待したのかな? それとも怖かったのかな、自分の手で命を殺す事が。どうなんだろうね? 今になって聞いてもたぶん怨嗟の声しか吐いてくれないんだろうけどね……私には解らないや」
「だけどそれがずっと胸にチクチクと突き刺さってるんだよ。それがずっと気になってるんだ。なんで俺は生まれたんだ、って。だけどそうじゃないんだよ……それが本質じゃねぇんだよ」
「私ね、思うんだ……そう考えるのは理由が欲しかったからじゃないんだ、って。きっとね、私は自信が欲しかったの」
「産まれて良かった。生きていて良かった。そういう理由が欲しかったんだよ、たぶんな」
そう言って彼女は言葉を閉ざした。入れ替わりながら言葉を続け、交代しながら言葉を交わしていた。そこに一切の矛盾はなかった。完全にシンクロしているかのように言葉を並べていた……いや、根っこの部分では一緒の二人なのだから、同意し、共感し、そして重ねているのだろう。同じ願いと考えを。だからその言葉を静かに、無言のままに聞き入れて、ヴィヴィオの声を聴いた。
「……俺の為に生きろ、っては言わないんだな」
そうだな、とヴィヴィオの声に応える。
「あんまり、誰かのために生きるってのは俺は好きじゃないからな」
そう呟いた。視線をヴィヴィオから外し、星の輝きが見える夜空を眺める。その先の宇宙にも世界は広がっており、そして今ではそこも開拓の最中だった。人間の欲望は底知れず、今でも広がっている―――なのに、自分たちがいる世界はこんなにもちっぽけなのだ。だから俺はな、と言葉を置いた。
「……ぶっちゃけ、
まぁ、当たり前なのかもしれないが、
「人間って生き物はどう足掻いても利己的だ。アレが欲しい、これが欲しい、これがやりたい、アレがやりたい。そういう欲望や願望が混じって固形化した生き物だと思っている。だから完璧な人間なんていないし、聖人なんてものも存在しない。そんなの、幻想だって思ってる。そして同時に……そんな、人間が好きだ」
だからな、と言葉を付け加える。
「死んでも俺の為に生きろ、何て言葉は吐かねぇよ」
「強くて酷い人……」
「強い? 俺が? とんでもない―――俺は卑怯者で臆病者だよ」
それは誰よりも俺が理解している。なぜなら俺は逃げたからだ。現実から。耐えられないから。それが真実であるというのを認めたくはないから。それも二度。そして逃げた先で転がり落ち続けた。そしてそうやって、今に至る。強くもなんとも、ただの鬼畜だと思っている。その言葉が本当に似合う相手は、寧ろトーマの方だろうと思う。あの少年は、俺なんかよりも遥かに強く生きている。
なぜなら、トーマは現実を受け入れている。
何があってもそれに立ち向かっている。
現実から目を反らして逃げる事をしていない。
足りないのであれば、それを補おうと考えて努力をする。
―――羨ましいぐらいに真っ直ぐな少年だった。
「だからね、俺を強いなんて間違えちゃいけない。俺はもっと卑怯でズルい男なんだ。それで出来る、って確証しない限りは足を動かす事の出来ない臆病者で、こうやって何重にも準備をして、用意をして、それでようやく向き合う事が出来る程度でしかないからな……」
苦笑しつつ、オリヴィエを見た。そこにいる彼女は両手で胸を抱き、此方へと視線を送っていた。夜風にその金髪が揺れている。
「憎いよ、アレク」
「おう」
「あの両親に生まれてしまったという事実が」
「おう」
「両親は選べないって言われてるけど、選びたかったよ」
「あぁ、そうだな」
「誇り高い血だって言われてるけどそんな事ないよ、あの屑達の血だよ、私に流れているのは」
「そうだな」
だから、とオリヴィエは口を開いた。
「消えたい。ずっと消えてなくなりたいって思ってた」
その言葉は呪いのように口から漏れ出していた。オリヴィエの瞳が僅かに揺れるのが見えた。
「憎い……憎いんだ、私の中に流れる血が。親の血が、そして聖王という血筋そのものが。自分という存在がのうのうと贅沢の中で生きて行く事が許せない。義務も何も知らないよ。私、こんな生活も、お姫様になる事も求めてなかったよ。君と一緒にさえいられれば良かったのに……」
吐き出すようなオリヴィエの言葉に、ヴィヴィオが続いた。
「あぁ、だからこそ許せない。
「……」
ヴィヴィオの声が震えている。それをそういう風に追い込んでしまったのは誰でもない、俺自身が原因だった。いや、俺だけではないのだろう。ヴィヴィオ自身も、オリヴィエ自身も問題だった。お互い、言いたい事、考えている事、想っている事を解っていた筈だった。なのにこんなにも拗れてしまった。そんな事、一人として求めていないのに。或いは、これすらも試練の一つなのかもしれない、師匠の置き土産としての。
だが……どちらにせよ、いい加減、何年も引きずってきたのだ。
ここらへんで決着にしよう。
「
オリヴィエとも、ヴィヴィオとでもなく、両方に届きそうな名前で呼ぶ。それに反応し、視線が此方へと向けられた。ダメだ、と此方の様子を見て、頭を横に振られた。一歩後ろへと下がる様に、柵に近づく様に後ろに下がり、
「ダメ……」
「ヴィヴィ……あの時言えなかった事を言おうと思う」
「その先はダメ」
「ずっと、言えなかった言葉がある。ずっと言わなきゃいけなかった言葉がある。お前に言わなきゃいけない事があったんだ。……すまない、こんなに時間をかけちまって。俺が馬鹿だっただけに、ずっと待たせちまったな」
「その先は止めて」
「あの時、俺に勇気があればって何度も思った―――」
だけど、時は不可逆だ。元に戻らない。少なくとも人間にとっては。それはどうしようもない普遍的な事実であり、覆す事は出来ない。望んでもならないのだ。それは今まで積み上げて来た人生の全てに対する冒涜である。だからこそ……今を、次の解らない明日を生きる。やり直しも、次の人生も望まない。
現在。その時間を全力で生きるしか俺達には出来ない。
だから勇気を胸に、あの時言えなかった言葉を口にする。数歩、彼女の姿が良く見える位置から、彼女という存在をしっかりと収められる位置から、彼女へと向けて、ベルカの夜景を背景に口を開いた。
「―――お前を愛している」
「駄目だよ、そんな事を言っちゃ……駄目だろ……」
その一言で、言葉尻が一気に弱まった。そこに遠慮なく言葉を続ける。
「心の底からお前を愛している。誰にも渡したくない。どこにも行かせたくない。可能なら俺の手でずっと独占したい。俺だけの物としてずっと閉じ込めたいぐらいにお前に狂ってる。お前が欲しい、この世の何よりもお前が欲しいんだ」
「止めてよ……止めてくれよ……消えたいんだ、憎いんだ、この血が、浅ましい自分が……」
その言葉に対する答えは、既にある。
それは、
「―――うるせぇ、知るか」
ただ、それだけに尽きる。その言葉に、柵を支えにする様に彼女が片手で手を乗せた。
「お前の事情なんざ知るか! 興味はあるけど知ったこっちゃねぇよ! 俺が! そんな事、どうでもいいつってんだよ! その上でお前が欲しいって言ってんだよタコ!」
聖王とか、親とか、そんな事どうでもいい。
一人の男が、一人の女を求めている。
それだけの話だった。
「だけど、私、お姫様だから……」
「じゃあ俺がダールグリュンに戻るわ! 妹からサクッと当主奪って家を今の二倍強くして、お前を娶る!」
「そんな事、頭の固い法王が許すわけないって解ってるだろ……」
「死にぞこないの爺の話なんか俺には興味ねぇよ。俺が! 興味あるのは! お前と! 一緒に! 一緒に! いられる未来だけなんだよ、どうせ先に死んで消える連中の事なんて全部無視しろ!」
それでも、それでも……まだ、何かあるとするのであれば。まだ、彼女の足を掴んでいる見えない手があるというのであれば、話はとてもシンプルだ。俺は怪盗で、そして彼女は宝石だ。この世で最も美しい宝石。それが彼女だ。だから、
「お前を盗み出す。どれだけ嫌がって泣いても、許しを求めても盗み出す! 強引にでも連れ出してやる! ずっとそうするべきだった、最初にこう言うべきだった。俺がお前を、その鳥籠から盗み出して自由にしてやる……そして、それでもそのままなら、俺の物にしてやる」
「―――」
吐き出しきった言葉に、彼女の動きが停止し、そして言葉が完全に停止した。目を見開く様に此方へと向け、何かを言おうとして、言葉を失う。言い返さなくてはならない。それが彼女の意思だった。それが口をパクパクとさせる彼女の姿に見えた。どこか間の抜けたような、可愛らしいような、しかし言葉が生み出せない、そんな表情は、変わった。
「あぁ―――でも、ほら、俺、消えないと、いけない、から……」
絞り出すような声で、ヴィヴィオが口にした。
だが、それは、
涙と共にだった。はにかむ様に、笑うようにしようと歯を食いしばっているのが見えた。目の端には今にも零れそうな涙が見えていた。そしてそれは自然と流れ落ちた。それを彼女が堪える事は出来なかった。一度流れ出せば、残りが続いてくる。ヴィヴィオの頬を濡らす涙が声を震わせる。
「……きえたくない」
か細い声で、涙と共に呟かれた。
「消えたくないよ、兄貴」
一度呟けばそれは引き金となり、抑えが聞かなくなる。その姿がザッピングする様に切り替わる。
無理に笑おうとして笑みのまま、滂沱の涙を流しながら、軽い嗚咽と共にオリヴィエの声が自分たち以外は誰もいない展望台に響く。
「嫌だよ……幸せになりたいよ……忘れられたくないよ、消えたくないよ……」
「やっと一番聞きたい言葉が聞けたというのに……」
「これで消えなきゃいけないなんて嫌だよ……」
「消えたくない」
「怖いよ……」
気づけばその姿を抱きしめていた。吐き出される言葉に耐えきれなかった。強く、強くその存在がここにあるのだと、それを証明する様に抱きしめた。抱き返す腕が体に食い込み、痛みがここに存在する、という証明を行う。それが心地よかった。お互いに抱きしめながらここに存在している、という事を証明し合うのが。そう、ここにいる、ここに存在している。そして手が届く範囲にいるのだ。
馬鹿だった。
立場とか、使命とか、血筋とか、
その程度で止まれる程器用な人間じゃなかった筈だ。その程度でこの心を止められないとは解っていた筈なのだ。だったら最初からそう動くべきだったのだ。それをしてこなかった。奪ってでも、一緒に居るべきだったのだ、俺達は。ずっと、ずっとそうするべきだった。
最初にそうしなかったから、こんな拗れてしまった。
だけど―――いや、この感触に、この感覚に、言葉は無粋に過ぎる。
「あぁ、任せろ―――任せてくれ、俺が絶対に助ける。絶対に、だ」
抱きしめた姿が、腕の中で、胸に顔を押し付けコクリと頷いた。涙で服が濡れるのを感じるが、それですら愛しく感じられた。頭を抱え、腰を抱え、その体温を感じ取る様に抱きしめながら、泣きながら呟かれる言葉を聞き出した。
「うん……信じてる、
強く、強く。壊れそうなほどに弱く感じるその体を抱きしめた。守ってあげる、なんて傲慢な考えは持てない。俺はそこまで強くはない。一人で全てを成し遂げられる程、万能の人でもない。ただ、手の届く範囲にこの手を伸ばす程度、それだけで限界なのは良く知っている。
だからこそ、その範囲では絶対に繋いだ手を放さない。
もう―――手放すものか。
愛しい貴女へ。
結局の所、覚悟は他人に依存していたから、その前提を崩せば崩壊する。自分の幸福というのを見つめる様になれば、本当に何が欲しいのかを考えれば、それを考えさせるようになれば助けの声を出させる事なんてそう難しくもない。
それはそれとして、例の如くつかささんから挿絵の差し入れよー! 泣きヴィヴィオとオリヴィエ、混ざっているという事もあって抱く感情は一緒であるという。
ハッピーエンドを信じて次回へ。