夜空が見える。
闇夜のベルカ。満月の夜。
深夜であれば眠ってなくてはならない時間。深い夜の闇が世界を覆う中で、それに叛逆する様に光を放つ世界があった。まるで夜の闇その物を否定する様に最大まで光量を放つその空間は、昼間の様な明るさと、凄まじいまでの活気で満ちているのが遠目で解る。その様子を眺めに来た人々の姿を含め、まるで深夜であるとは思えないような姿をそこは見せていた。
その場所の名はベルカ自治区聖王教会ミッドチルダ本部―――即ち、ミッドチルダという次元世界で全ての聖王信仰、その中心地とも呼ばれる場所だった。普段の教会としての機能を捨て去った聖王教会は、今ではまるで要塞の様に堅牢な防護によって守られていた。結界封じの魔法、単純なマンパワーによる監視、そして大量のドローン投入による休みの無い警戒。
その全てが、たった一つの物を守る為だけに駆り出されていた。その姿を聖王教会からそれとなく距離が空き、そして闇に包まれたビルの屋上の上から眺めていた。胡坐をかく様にビルの縁に座り、片足を虚空に下ろして闇の中に潜む。その中で、厳重な警戒をしているその場所を眺めていた。ビルからはその一部が良く見える。あくせく走り回る騎士やシスターたちは常に相互に監視、確認を行いながら裏切り者がいないかをチェックし、その上で常に侵入者を探し続けていた。
無謀だ。
あの警戒状況の中に突っ込んで行くのはもはや自殺という言葉に等しい。それが普通だ。あの警戒状況を突破しようと考えることそのものがクレイジーすぎる。狂気でしかない。だけどきっと、
いや、だからこそ、
「面白い」
そう、面白い。面白い以外にどう評価しろというのだ。これだからこそ挑戦のし甲斐がある。この難しさだから楽しめる。温いゲーム程欠伸が漏れる作業はない。これはゲームだ。大事なものを賭け、そして命を尽くし、魂を賭ける。それでも失敗する可能性が残っている理不尽なゲームだ。そしてそのゲームに強制参加させられているのなら、モチベーションは高く保つべきだ。
つまり、楽しめ。楽しまなくてどうする。あの厳重な警戒の中、一切バレずに侵入して盗み出せば―――きっと、俺は恨まれる。だけどそれは最高に楽しいだろう。なんで盗まれたのか、どうやって盗まれたのか、それを一切理解できないという表情をぽかん、と馬鹿面を晒して見送ってくれるのだ。それが面白くない訳がない。
「いい感じの夜だなぁ……。あぁ、昂ってきたな」
呟きながら、軽く立ち上がる。ぎりぎりの縁の上に立ち、聖王教会を眺め、そして振り返った。そこには此方を待つように、一人の女が立っているのが見える。銀髪が月光の光を受けて輝いているのが見える。此方の視線を受け、女が―――エリーが、此方へと身を寄せて来る。その頬に触れ、そして抱き寄せる様に体を引き寄せ、胸に飛び込んできたところで、
―――そのまま、後へと倒れ込む。
ビルから踏み外し、落下する。
光の無い闇の中、誰も見えない暗闇の中で、二人で落下する。触れた頬を、体を、その存在その物を抱き寄せ、そして機能が活性する。融合騎としての機能が肉体を、そして存在を合一させて行き、適正値を遥かに超える相性が色素だけではなく肉体その物の変容を生み出す。呻くような声を漏らしながら、骨が縮み、肉が引き締まり、胸が膨らみ、陰部が変化し、髪が伸び、色素が変質し、虚空に手を伸ばして衣を引き抜いた。
それに落下しながら袖を通し、顔を片手で覆い、顔半分を這うように覆う鋼の仮面を装着し、
そのまま、音も衝撃もなく、足から先に大地の上へと着地した。
そこからは一直線に聖王教会まで道が続いていた。そこからはどこへと行くか、まるでライトアップされているかのように見えている。故に目標は正面。まだまだ、イージーモードだ。故に、さぁ、と言葉を出す。
「ショウタイムだ」
姿勢を低く、一気に飛び出した。闇の中を這うように飛び出し―――そのまま、見物客で溢れる光の中で。これで姿を隠す闇は完全に消え去った。だがその程度で隠密の全てが剥がれるなんて幻想も良い所だ。光学迷彩? そんなもの、素人の玩具だ。そんなものはプロフェッショナルの隠密になんて必要はない。久しぶりに感じる感情と心の高ぶりに、この状況、この挑戦こそが何よりも俺の魂を高揚させる、本当の居場所だと感じさせる。
「さぁ、俺を見つけられるかな―――?」
言葉を蝶を取り出しつつ呟き、無音に潰しながら光の中、地面すれすれを駆け抜けて行く―――ただし視線の死角、意識の死角、そして
その無意識に潜むのはあまりにも簡単すぎる。
人混みの合間をノンストップで、時折適当にズボンを引っ張って視線と意識の方向誘導を行いながら、一瞬で人込みを駆け抜けて行き、文字通り
そのまま、滑り込む様に僅かな影の中に沈み込み、呼吸を切らせた。
「ふぅ―――格好つけるのも楽じゃないぜ」
素直になんか道具を使って突破すれば良かったかもしれないなぁ、と思いつつも、これが一番見栄えが良く尚且つクレイジーだ。たぶん芸術点高い。忘れてならないのはこれを神が見ているという事だ。これはゲームであり、見ていて面白くないと意味がないのだ、という事を。しかし神様は一回顔面を殴った上で死ぬまで殴り続けたい。良し、と息を吐く。
「憎悪補給完了。さぁて、門を抜けたら壁沿いに僅かな闇の中を進ませて貰いましょうかねぇ……流石にここから中央突破はリスキーすぎるわ」
壁沿いに闇の中に沈みながら、闇の中の認識外の領域、虚数領域を歩いて進んで行く。普段であれば変装して入り込んで行くのだが、今回はそういうのも無粋なので、まずは聖堂方面へと向かって歩いて行く。サーチライトとドローンが隠れられそうな細い空間をライトアップしているが、所詮は機械による監視だ。魔法と含め、機械による監視は絶対に見つからない様にこの体―――というよりはネメシスという存在そのものが出来ている。
これ、エンディング見えているよね? とは思わなくもない。
まぁ、それはともかく、遊んでいる時間はない。タイムリミットは夜明けなのだから。だからいつも潜入する時の様に、一切慢心も気負う事もなく、そのまま闇の中を歩いて行く。ドローンが時折此方へと向けられるが、機械のセンサーでは此方を映す事が出来ず、認識する事も出来ない。
その為、壁沿いに歩けばそのままあっさりと大聖堂付近に到着する。
オリヴィエがいる居住区画は、この更に向こう側、奥だ。つまり関係者専用の区画に入る必要があり、その向こう側には鍛錬所も存在する。その奥にオリヴィエの居場所があるのだが……かなり、厳重に守られているのが解る。とはいえ、
「甘い。甘すぎる。欠伸が出るぜ」
『絶好調ですね』
「当然だろう? 好きな女の為に全力を尽くせるんだ―――人生最高のメンタルとコンディションだぜ、俺」
内側から来る同化されたエリーの声が聞こえてくる。それに笑って答えつつ、影そのものとなって隙間を通り抜け、聖堂と壁の間にある僅かな隙間を、物理的に不可能なスペースを通って反対側へと抜ける。そしてそのまま、センサーとドローンの監視を透過しながら一気に奥へと向かって進んで行く。
比率は機械から一気に所属する騎士へと変わって行く。
「うーん、厳戒態勢。実にチャーミングだ。思わず踊りたくなる」
『見つかれば矢弾で踊らされそうですが』
上手い事言うようになったなこいつ。その言葉に音を食わせながら笑い声を零し、光の中へと飛び出した。闇は随所に存在しているが、それでも圧倒的に光と、そして騎士の視線の方が多かった。こうなると下手に闇の中を歩く事に固執するより、タイミングを読んで視界を掻い潜った方が進める。
まぁ、慣れている作業だ。
そこまで難しくはない。
全体的に信仰に厚く、そして敬虔な信者が多いベルカにおける騎士たちのモチベーションは高く、真剣に辺りを探っている様子が窺える。とはいえ、見回っている。プロフェッショナルのスナイパーとかはひたすら数日、同じ場所を眺め続けるだけの根気と狂気を兼ね備えているが、流石に騎士とは役職が違う。歩き、見回り、真剣に探している。僅かな音でも鳴れば、超反応とも呼べる反応で即座に見つけてくるだろう。
それ故に、蝶を常に何羽か自分の周りに浮かべる様に出しておき、音を常に食わせる。それで反応できる要素を気配以外に狭め、それも周囲の緊張感と同化させる事で、極限まで存在を隠蔽する。
この程度で見つからなくなるのだから、まだ、楽だ。
「と、道路に3人か……」
屋根を見上げるが、開け過ぎていた隠れる場所がない。たぶん上った瞬間に見つかるだろうから、と判断し、教会の施設の影に隠れながら、騎士3人が守る通路を確認し、その瞬きのタイミングと、呼吸の入りを確認する。
3分間、瞬きの回数、時間、タイミング、そして息の吐き出し、それを観察し、重なるタイミング、意識が刹那以下の時間此方を認識しなくなる瞬間に角から飛び出し、知覚する前に一気に視線を掻い潜る。
そのまま、意識を2秒奪う。
その間に股の間をスライドする様に抜けて行き、反対側へと抜けてから盗まれた意識が戻ってくる。
「っと、ちょっと意識が落ちそうになっちまった……」
「大分気を張ってるからな」
「まだ夜は長いんだ、珈琲ガムでも食うか?」
そんな会話を背後に置いて行きながら、更に奥へと進んで行く。何度も来ている場所だが、今日の警備は何時にも増してガチガチになっているのが実に笑える。基本的に、扉の全てが網膜と指紋の上か、或いは魔力スキャンによるチェックを必要としている様になっている。よくも短い間にこれだけのセキュリティを導入したと、褒めてやりたい所だった。
まぁ、導入した所で無駄なのだが。
ドアに開けたという形跡さえ残さずに手袋越しに、指紋を残さない様に扉を開けて向こう側へと抜ける。扉を閉めながら更に奥へ、奥へと向かって進んで行く。
配置される数々の騎士の警戒、その想いを嘲笑うように、影さえ踏ませる事もなく進んで行く。日中にも来ているのだし、潜入するのも初めてではない。何より内部から本日の警戒、巡回に関する情報は取得しているのだ。どこでどうやって見張っているのか、その情報があるのなら目を瞑っていても進んで行ける。
それぐらいには、鍛えられている。
故に侵入したという事実さえも隠して、正面から堂々と入り込みながら、騎士たちの警戒を抜けて進んで行く。そうやって聖堂前、聖堂裏、教会の実務を行う区画と抜けて行き、段々と建造物が少なくなってくる。
大きな鍛錬所等がその奥にある居住区を防ぐように設置してある区画へとやってくる。とはいえ、ここも難しくはない。開けており、光が多くても、光が多ければ多い程、闇とは濃く生み出される。
光の中を歩く騎士たちの足元には、常に闇が存在する。
その動きを10分間ほど、じっと身を潜めながら確認してから動き出す。影と影が繋がった瞬間に、騎士の足元の影の中へと飛び込み、そこから騎士たちの視線の空白、死角を利用しながら影から影の中を渡り歩く。
「運搬、ご苦労様」
言葉を残しながら騎士たちの影を隠れ蓑に、一気に反対側まで抜けて奥へ、
更に奥へと進んだ。
一切、そこに居たという証拠を残さずに。
そうやって聖王教会という施設を攻略する。何度も何度も逢いに行くために忍び込んだ場所、脳内には完全な形でその地図が出来上がっていた。光がどの方角から当てられたら影が生まれるのか、どこなら視線を誘導するのに使えるか、人間をどこになら配置しやすいか。その知識が頭の中には完全な形で叩き込まれていた。それ故に道に迷ったり、ルートで迷う事なんてなかった。真っ直ぐ、通れるルートで最短のルートを通って奥へと進んで行く。
奥へと進めば進むほど、警戒の密度が下がって行く。
それと比例する様に、質が一気に上昇する。
隊長、団長、或いはエースクラスの騎士や、或いは斥候と呼ばれる、隠密のプロフェッショナルが魔法だけではなく、第六感に従う探索を奥へと進めば広げて来る。これが正直、魔法等よりも厄介であり、直感だけで居場所を探し当て、見つけ出してくるという場合もある。
そのため、これまで以上に闇の中を潜みながら、見つからない事を心がけて進んで行くのが大事になる。それでもどうしても視線を横切る必要がある場合、影魚か影鼠を生み出し、或いは蝶によって視線をそらし、その間に意識と記憶を数秒ほど奪ってその間に一気に移動する。
とはいえ、大きな移動は出来ない。
警戒されている外側での移動をなるべく避け、窓を擦り抜けながら室内へと侵入するのをルートに盛り込んで、奥へ、奥へと進んで行く。
やがて、人の気配は消え、直感と戦術経験による探索を行う、適度に緊張している騎士たちのいる区画へとやってくる。普段であれば男子ご禁制の場所であるのだが―――今回に限り、そのルールは機能していなかった。当たり前だが連中こそが聖騎士団の団員たちだ。屈強で、忠誠心高く、信仰に厚く、そして人格的に問題がない強者の集団であり、全てのパスを受けてからこそ入団が許される最精鋭である。
本来のスペックを発揮すれば
だがその動きも、集中力も精彩を欠いているのが見える。
ハイディとオリヴィエがどうやらキチンと仕事をこなしてくれていたようだった。暗闇の中で微笑みながら小さく笑い声を蝶に食わせ、それでもまだパフォーマンスを維持しようとする連中の足には布を巻いた跡が見える。それが赤く僅かに滲んでいる辺り、痛みで誤魔化して役目を続行しているのが解る。とはいえ、ごまかしは誤魔化しだ。
本来のスペックが発揮できないのであれば、欺くのは難しくはない。
なぜなら、意識は傷と痛みへと一部が割かれる。その状態であれば意識の合間に逃げ込むのはそう難しくはないのだから。故に痛みへと意識の一部を向けている聖騎士団の合間を抜け、
いよいよ、侵入は終盤へと突入する。
今まで以上に警戒心を上げながら、視線を掻い潜って進んで行く。既に周辺は見た事のある景色で満たされれている。普段であれば侍女が世話をする為に住まう区画であり、そして同時に奥にオリヴィエが住まう場所でもある。ここまで騒がしく、緊張感で満ちているのもまた、珍しい話だろう。
とはいえ、うろうろする理由もない。
「これがゲームだったら宝箱とか隅の方に置いてありそうなんだけどなぁ」
『残念ながらこれはリアルというクソゲーの類でして』
「最近、お前の性格愉快になって来てるけど参考文献は?」
『リリィと一緒に少女漫画を少々』
「少女漫画かー……あー……コメントし辛いなぁ……」
アレ、割と中身が情緒を育てる為には便利だけど、内容が一部がひどすぎてコメントし辛いものがある。とはいえ、それで人間性を習得してくれているのなら良いのだが。というか変な方向に育たないで欲しい。そういう色物枠はもうお腹いっぱいだ。具体的に言うとドクの事なのだが。
と、そうやってくだらない事を頭の中から追い出しつつ、何時ものルートへと入る。ここら辺は意図的にライトをそう設置してくれたのか、聖騎士団の監視の目に比べ、潜める闇の量が濃い。こっそりとオリヴィエやハイディが調節してくれたのだろうと思うと、別に泣けてこねぇや、と笑いながら駆け抜けて行き、
そしてついに、到着した。
オリヴィエの住んでいる区画が。時間にして1時間ほど。それなりに時間がかかった方だ。潜める闇の中からオリヴィエの住んでいる区画の方へと視線を向ければ、凄まじいものが見えた。
クラウスの姿だった。
覇気とも言えるものを纏っており、一切弱体化している様な様子が見えない。その横に父の姿は―――ない。どうやら事前に母にリークした情報で見事お仕置き中らしい。それは良かった。しかし困った。オリヴィエに逢いに行くには、クラウスの背後にある家へと通じる扉に入らないと抱きしめてキスが出来ないのだ。あぁ、なんという悲劇だろうか。……良し、真面目に考えようか。
『アレク? 此方が観測する以上、精神性で肉体的なハンデを凌駕するタイプのようですが』
「そうだなー……困った所だなぁー……」
凄まじい気迫を内に抱え、しかしそれを一切外に出す事無く、扉の前で待機するクラウスを見た。戦闘形態はハイディのものと近いデザインだ。どこからどう見ても好青年という姿、そして鍛え上げられた肉体にこの覇気、未来には十分期待できる。とはいえ、それが立ちはだかるのには困ったものだが。
なにせ、アレ、
真っ当にダールグリュン式に鍛え、雷帝式をこの年齢まで収めていれば正面から殴り合う事も考えていいのだが、肉を落として鍛え直し、ついでに女体へと変性している今の肉体は、戦う為の肉体ではないのだ。だからストレートに戦おうとすると、確実に負けるだろう。
だからこそまともに戦わないのが大事なのだから。
「……」
観察する。剣と槍は既に抜かれており、迎撃の準備は整っている。眠気が来なさそうなのは……純粋に精神が肉体を凌駕しているからだろうか? 機転の速さと性格を考えれば、戦闘に入った瞬間、或いは目撃された瞬間に念話で増援を呼ばれるだろう。となると、それが呼ばれる前に決着をつけるか、或いは反応される前に一瞬で無力化する必要が合う。
もしくは―――避けて潜入する?
「エリー、案。適当に幾つか」
『拝承しました』
闇の中に沈みながら、クラウスを突破して入る方法を考える事にする。こういう時、フェレットが居れば一瞬で最善の案を出してくれるのだが、今は力を借りる事が出来ないのが非常に残念だ。故に一番頭が回るエリーに代役を任せる。闇の中で胡坐をかく様に草地に座り込みながら、陣取るクラウスを見る。
『ジェノサティアの召喚による制圧を』
「却下。破壊は美しくない。何よりも100%バレる」
『意識、もしくは時間を奪いその間に突破』
「反応速度であれば俺の方が一段上にある自信はあるが、この状況だとどちらにしろ目撃される事前提だ。その場合、確実に念話をされる方が先だ……故に却下」
『分け身を利用した囮を流し、その間に侵入する』
「却下、状況的にクラウスが動く根拠がない」
『虚数結界に捉えて隔離してから打倒する』
「考慮の余地あり。最速で結界で捉えて隔離すれば増援の可能性は潰せる」
『案修正、結界内で一時封印処理を行う』
「これが最善だな」
まともに戦う事を考えると、恐らく瞬殺される……訳ではないが、決定打を通す事はスタンスの違いから難しい。となると結界で捉え、分け身で姿を偽装し、声を偽装して通信を盗み、そして結界内で一時的に大人しくしてて貰うのがベストという所だろうか?
意識がもう少し朦朧としていてくれれば、簡単な話だったのだろう。だがここの連中、念話で相互確認を行いながら警護しているから、一人でも減れば即座に感知するという面倒臭さがある。
クラウス相手にこんな手段を取れるのは、純粋に盗み出した後は派手に見つかって逃げる必要がある、という縛りから来ている。だから実質的に逃亡開始直前のこの状況なら通信途絶から警戒され、増援を呼ばれても問題はない。何せ、
それに特化している、という事実もあるのだが。
―――そんな考えはさておき。
そろそろ、この夜に決着をつける為に動き出すべきだろう。そう覚悟し、結界を生み出す為に夜を掴んだ。
まともに戦うのは強者の特権。だが真の強者は戦わせずに勝利する。
クレバーに行こう。そして華麗にも。怪盗とは美しくなければ意味の無い職業なのだから。それはそれとして、楽しそうだなお前。