※この作品はR-18です。

Stealing The Reality   作:てんぞー

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Dear My Love Ⅸ

 深い、深い深紅の色の両腕をオリヴィエとヴィヴィオは取得していた。怪物の様な、醜いそんな腕だった。似合わない。それが最初に抱いた感想だった。怪物の様な腕は血液を流動させながら腕の形へと固めたような姿をしており、クラウスとの短い交戦を経て、それが自由自在に変形しながら折れ曲がる事を確認できた。恐らく、斬り飛ばした所で即座にくっつくであろうという事は想像しやすかった。となると、根本的にあの似合わない腕を、暴力を切除する必要がある。

 

 距離は10m程、クラウスとは距離が開いており、ハイディは横にいる。ハイディも、戦闘が避けられない事を察して既にアームドデバイスである機殻槍を取り出している。ハイディの背丈を超える長さのそれは、何重にも機殻を被っている重量の塊であり、それをハイディは片手で持ち上げ、そして構えた。機殻を剥いでいない状態では、その見た目は突撃槍に近い。

 

 此方もそれに合わせ、ステッキを再び引き抜いた。重量と衝撃的に考え、ぶつかり合って唯一機能出来るのはこれぐらいだろう。棺桶は連携に向かないし、蝶による目くらましは恐らく直感で看破される。弾丸が通じないと考えるやはり、これしかない。やれやれ、そう思いながらも視線を軽くクラウスへと向ければ、その視線が此方へと戻ってくる。信用はされていないが、連携は取るつもりでいるようだった。

 

 なら話は早い。

 

 先制する。

 

 オリヴィエとヴィヴィオの瞬きが重なった瞬間、踏み出した。最初の一歩は最後の一歩へと通じ、一歩目が10mの距離を超えて、二人の合間に此方の姿を立たせる。呼吸の合間を縫う様な、意識の合間を縫う様な動きにオリヴィエとヴィヴィオ自身は反応しないが、その腕が二人の反応を超えて動き出し、自動迎撃のために動き出していた。そしてそれに遅れて半瞬、ヴィヴィオとオリヴィエが分断される様に横へと動き出すのに合わせ、ステッキを振るいながら踏み込んだ足で二人の影を踏んでいた。直後、動こうとしていた二人の動きが腕諸共停止した。だがそれが一瞬で、魔力任せに破壊されるのを本能的に察知し、素早くステッキを影に突き刺し、縫い留める様に固定した。

 

「分断―――!」

 

 言葉を口にしながら両手で影を縫い留める。流石才能の暴力、魔力の差だけで拘束を破壊しようとしてきた。空間に、影を通して縫い留めているのに既にぎちぎちと音を立てながら空間が割れそうになっていた。だが言葉に反応して飛び出したのがいた。

 

 ハイディだ。

 

 突撃槍で一瞬でヴィヴィオの懐にまで踏み込み、そしてその体の芯を捉え、引きずる様に空間にぎちぎちと音を立てながらひき潰す様に押し込んで行く。その動きが発生するのと同時に、クラウスがその動きに飛び込み、剣と槍が振るわれた。ハイディの勢いを借りる様な形で合わせられた槍と剣はヴィヴィオの両腕の怪物腕を根元から切り裂こうとして―――虹色の障壁に阻まれた。

 

「聖王の鎧、理性が無くても出ますか!」

 

「なら期待に応えよう」

 

 ステッキを解放するのと同時に、影による縫い留めが終了し、オリヴィエとヴィヴィオの動きが自由となる。それに合わせて動き出す二人に対して、ハイディがヴィヴィオを抑え込む様に槍を押し込み、そしてクラウスがその姿を飛び越えてオリヴィエから放たれる素早い腕の一撃を切り払った。それに合わせ、此方は素早く攻撃の合間を擦り抜けながら、

 

 ヴィヴィオが展開する虹色の障壁に触れた。

 

 掴んだ。

 

 引き剥がした。投げ捨てた。

 

「んあっ!?」

 

「あ、兄さんこれ見るの初めてでした、っけ!」

 

 障壁が消えたヴィヴィオに今度こそ、ハイディの槍が届く。直前に新しく生み出された腕が矛の先端を掴み、威力を軽減する。だがその動きと共にハイディの槍、その外郭の一番がパージされた。掴んでいるパーツ諸共パージされてヴィヴィオの姿が弾け、内側から露出したのは槍(・)の(・)形(・)を(・)し(・)た(・)砲(・)塔(・)だった。

 

 ノータイムで、零距離からパージ砲撃がヴィヴィオを砲撃した。地面を抉りながらその姿を家屋の中へと叩き込み、瓦礫を新たに生み出しながら砲塔パーツをハイディが分離させ、形状をハルバードへと近い形に変化させた。

 

 その瞬間、オリヴィエの腕が伸びる。そこにクラウスが割り込み、そして腕を切り払い―――腕が切り裂かれた箇所から、二つに分かれる様に増えた。まさに怪物的だと表現できる腕の変形に、クラウスはしかし、一切焦る事はなかった。

 

「―――」

 

 冷静に、呼吸を乱す事もなく槍の柄で腕の一本を叩き、矛先でもう一本を叩き、そのまま袈裟斬りで腕を根元から切り落とし、その動きのまま踏み込んでオリヴィエ自身へと進撃しようとする。だがその動きに合わせてオリヴィエの動きが後ろへと下がり、入れ替わる様に瓦礫の中からヴィヴィオの姿が出現してくる。

 

「無限再生可能な腕とか少し反則臭くはないか」

 

「我もそう思う」

 

「なんですかその一人称、はっ!」

 

 飛び込んでくるヴィヴィオの対処に棺桶を呼び出して蹴り飛ばす。その姿がヴィヴィオと正面からぶつかり、一瞬時間が稼げる。その間にハイディとクラウスがオリヴィエへと向かって飛び込んでいた。再生された腕は不吉な血色をしながら二人の姿を迎える様に広げられていた。

 

「鎧は突破できるのか?」

 

「舐めるな、覇王流には対聖王のメタ技が幾つか用意されている。ご先祖様がダメージさえ与えられずにコテンパンに敗北したからな!」

 

「では其方は任せよう。兄妹で何とか抑え込んでくれよ」

 

「なに、二対一だ。兄妹の絆パワーと合わせれば戦力差は四倍、負けるはずがない」

 

「兄さん、今すぐシャラップ」

 

「俺は何かを間違えたのか……?」

 

 首を傾げながらストラトス、或いはイングヴァルト兄妹がオリヴィエへと向かっていった。障壁とぶつかりながら衝撃を生み出し、分断させるように障壁諸共弾き、殴り、そして完全に分断させた。そうやってオリヴィエとヴィヴィオの間に距離が生まれた所で、ヴィヴィオの注目を盗み出し、此方へと釘付けにする。他の視線が欠片も入らない様に、完全に此方だけを視界に入れる様にし、彼女の姿を見た。

 

「なんてザマだヴィヴィオ」

 

 彼女は白をベースとしたジャケットに、ピッチリと体に張り付くようなインナーの戦装束を纏っていた。だがその髪はほどけ、前髪は軽く顔に影を作り、そして両腕は消え、血腕が代わりに生えている。まるで怪物そのものだった。聖王という存在、その神聖さからはかけ離れた姿だった。故にザマ、としか言葉が続かない。だからその姿を見て、苦笑を零した。

 

「さぁて、勝つだけなら無理なんだよなぁ……普段のヴィヴィオが相手なら」

 

『なら、今はどうですか?』

 

 ヴィヴィオを見る。そして片手で髪をかき上げ、軽く笑う。

 

「助けなきゃならん女の前で敗北する男とか生きてる価値ある?」

 

『今は女なのですが』

 

「そのツッコミはいらなかった」

 

 言葉と共に空間が赤く薙ぎ払われた。それを前へと歩く事で擦り抜けて回避する。その直後、一瞬で跳躍しながら踏み込んできたヴィヴィオが頭上を取った。圧縮され、振りかぶられる拳。一瞬で音速を超過する拳が頭上から殴り潰す様に射出される。それに視線を向けるまでもなく、片腕を振るいながら速度を奪い、振り抜く動きをキャンセルした。差し込む様にステッキを振るい、

 

 拳とステッキを衝突させた。

 

 接触から力を奪い、抵抗力を奪い、そして衝撃を奪った。

 

 そして盗んだものをそのまま利用し、弾かれた衝撃に奪ったものを叩きつけた。轟音と共に風圧が生み出されるも、ステッキから片腕を散らしながら耐えるヴィヴィオの姿が見える。そしてその腕は既に散りながらも再生し、此方へと向けられてくるのが見える。成程、衝撃が体に伝わる前に腕を破壊して衝撃を逃がした、という所だろうか。強いなぁ、と思いながらしかし、

 

「どうした、何時ものクレバーさが足りてないぞ」

 

 続けて振ってくる拳の連撃を、棺桶を引きずり出して、それを盾にして防いだ。数歩後ろへと押し込まれながらも逆に棺桶を蹴り飛ばして押し返し、乗り越える、或いは回避する事を強制させた。これで一手、時間を稼げる。その間に冷静になって、思考を働かせる―――この戦い、勝利する事が目標ではない。ヴィヴィオの意識を取り戻すか、或いは気絶させる事が目標であると。

 

 その為に必要な事は? 負けないだけでは駄目だ。物理的ダメージを精神的な物へとすり替えるのは特技だ。つまり精神的ノックアウトを瞬間的に最大風速で物理的にぶち込んで勝利すればいい。普段のヴィヴィオであればそれは不可能なのだが、今のヴィヴィオは理性が蒸発している様に見える。普段のヴィヴィオはアレ、滅茶苦茶ストイックで暴力的で脳筋に見えて、滅茶苦茶クレバーだ。

 

 聖王の血筋である故か、魔法や技術は大体、見れば覚えるしほぼ完璧に再現できるチートとでも表現できる極みの存在である。故に大体の魔法を記憶し、そしてすさまじいまでの才能と知恵の高さで、即座に状況に最適な一番嫌らしい魔法を放ってくるのだ。

 

 たとえばバインド、重力魔法、毒魔法、時間加速、転移結界に真空化。徹底してじわりじわりと死滅させながら徹底して逃がさないスタイル。普通、想像しても出来ないような魔法の組み合わせ、その適正や素質の全てを無視して使う事が出来るのが聖王の血筋という反則能力の塊だ、だからこれが通常の、何時ものヴィヴィオであれば、既に血腕に毒でも混ぜて、それが飛び散る度に空気に毒を混ぜながら身体能力をブーストさせ、加重魔法で血液の一つ一つをダンベル並みの重さにして付着すると体の動きを鈍らせ、

 

 なんてクッソめんどくさい嫌がらせをしてくる。

 

 ここらへんの徹底した苛めと容赦のなさは、流石スラム育ちとしか表現できない悪辣さになっている。逆に言えば、それがヴィヴィオという女の強みでもある。

 

 ぶっちゃけ、俺よりも強く、硬く、そして再生する程度だったらまるで怖くない。それだけだったら腐るほど対処方法が存在するからだ。第一、今のこの虚数結界によって地上の出来事から完全に隔離した状態であれば、最終兵器を起動する事も出来る。普段であれば間違いなく使う事の無い兵器。その理由は欠(・)片(・)も(・)美(・)し(・)く(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)という理由に尽きるのだが、

 

「―――お前の為だ。喜んで引っ張り出させて貰うか」

 

 棺桶を乗り越えて飛び込んでくるヴィヴィオの姿が見える。棺桶を消滅させて再召喚が可能な状態を生み出しつつ、必要なのは切り札を取り出す為の時間―――凡そ、三手になる。となると三手分の時間を生み出す必要がある。それを楽しく、美しく、しかし華麗に決めるとなると選択肢が狭められてくる。ふむむう、と呟きながら目前に迫ったヴィヴィオを見た。

 

「なんて顔をしているんだ。久しぶりにじゃれ合うんだ。笑って楽しもうぜ。お前も、あのにやけ面の方が遥かに似合ってるからな―――今のお前、魅力が半減以下だぞ」

 

 言葉を吐き出しながら迫ってくるヴィヴィオを受け入れた。

 

 

♦

 

 

「妹よ」

 

「なんですか兄さん」

 

「兄は少し、気になる事があるのだ。ちょっとした質問をよいだろうか」

 

「今割と両手が塞がっているこの状態でそんな風に質問を余裕で投げられる事に軽い戦慄を感じていますが、妹として兄の真摯な疑問に答える事にはある種、義務を感じるのでここは素直に答えます。それでどうしましたか、兄さん」

 

 言葉を吐き出しながら姿勢を低く、血腕を切り払う。だが切り払ったところで動きを止めず、柄に重量を乗せて引き上げ、矛先を下へと沈めて行く。それに合わせ上半身が後ろへと向かって反って行き、片足で立ちながら、体をほぼ真横に倒す事が出来る。そうやって切り払った腕が再生して行くのを見て誘い込み、反射的に迎撃して来る腕に対応する様に沈んだ矛先を地面に突き刺し、そのまま上がった柄に合わせ、体を押し上げる。頭上を取る様に体を上昇させながら、

 

 素早く体に加重をかけて落下、聖王の鎧に弾かれるのを感じながら衝撃を響かせて、それで音色を生み出しながら斬撃を流しつつ移動する。

 

「うむ、実はだな……何時から妹が道を踏み外してしまったのかを物凄く気になっていてな、ぶっちゃけた話だ、アイン。お前は大体何時頃からああいうのとつるむ様になったのだ? 兄としては妹が道を踏み外さないものか中々不安だ。それに付け加え、あの怪盗、性別も姿も違うが、どうもどこかであった気がしてならない。おそらくは知り合いの誰かと思うのだが」

 

 言葉を口にしつつクラウスは一切手も足も止める事もなく、超高速で動き続けていた。オリヴィエに対して接近戦を挑みながら、まるで手が四本存在しているかのように素早く武器を入れ替え、手放し、弾き、動かし、そうやって曲芸の様に剣と槍を使いながらオリヴィエに対して、常(・)に(・)そ(・)の(・)攻(・)撃(・)を(・)潰(・)す(・)様(・)に(・)先(・)制(・)し(・)て(・)攻(・)撃(・)を(・)叩(・)き(・)込(・)み(・)続(・)け(・)て(・)いた。そうやって発生する斬撃、衝撃はオリヴィエへと届く前に聖王の鎧によって全て弾かれている。だがクラウスと合わせて放つ連続の斬撃は全方向から連続で雨の様に叩き込み続け、ピアノの鍵盤を叩いている様な音が響く。

 

「兄さん、実はちょっとしたショッキングな事を話すので、心を強く持ってください」

 

「成程……いや、まて。これは妹が実は婚約者候補と既に肉体関係にあったという事後報告よりもショッキングな事なのか? 正直な話、我が家の宝剣を抜いて殺しに行こうかと一瞬考える程度にはショッキングな出来事だったが、好意と家としても歓迎できるという要素だったから何とか許せたが……兄としては割と妹が遠い世界の住人になったような気分だったぞ」

 

「兄さん、あの年代で経験するのは割とベルカでは平均的ですよ」

 

「兄の初体験は15歳ごろだったし、そんな事ないと思うぞ。そんな事ないと思うぞ……!」

 

 聖王の血筋の証である虹色の魔力。そしてその血筋に飲み現れる最強の防衛能力、聖王の鎧。オートガード機能によるあらゆる能力、干渉を遮断するその魔法防壁は凄まじいまでの強度を誇り、あらゆる攻撃を遮断する事で持ち主を守護する。その堅牢さは砲弾を叩き込んでも削れないとさえ言われている。故に全方向から超高速戦をクラウスと同時に挑み、一撃もオリヴィエに掠らせる事もなく、武器を振るっている。

 

 だが有効打は一撃も入らない。

 

 圧倒的な才能。恵まれた血筋。特殊な能力。専用の技術。その全てを与えられた祝福された血筋の存在が今、目の前で、余りにも酷い姿で戦っている。それが余りにも、憐れで、悲しすぎて、

 

 友として―――どうにかしなくてはならなかった。

 

「兄さん、覚悟は出来ましたか?」

 

「待て……良し、覚悟が出来たぞ」

 

「実は3年前からソフトMだと発覚していたのでソフトMくっころ調教されていたんですけれど、個人的にも満更ではありませんでした」

 

「すまない、妹よ。もう一度頼む」

 

「実は私誘い受けでして、嫌がっている所を乱暴に押し倒されるのが好きだって数年前に発覚して以来、素直にそれが口に言えないので私の方から誘っていました」

 

「ごめん、ちょっと折れてもいいかな?」

 

 今にも消えそうな小さな声でクラウスが震わせながら呟いたが、頷きながら斬撃を重ねた。

 

「心は折れてもいいので、手と足だけは止めないでくださいね」

 

「兄としては妹のこの心が強くなったことを喜ぶべきなのだろうか。それとも人として遠い所へと行ってしまった事に関して悲しめばいいのだろうか、少し解らない……解らない……」

 

 クラウスの動きが加速し、オリヴィエの動きが加速する。暴走状態にあるオリヴィエの動きは一見、恐ろしく見える。いや、実際無限に回復する武器とリーチ自由な武器なんて組み合わせ、武術的に考えれば非常に恐ろしいものに尽きるだろう。

 

 だがそれは理性のある場合だ。

 

 今の咆哮のままに振るうオリヴィエの姿は、痛ましいだけだ。

 

 恐ろしくはない。とはいえ、聖王の鎧と聖王家特有の超直感による回避によって、中々詰(・)み(・)へと持って行く事が出来ない。或いは直感的にクラウスと二人掛かりでオリヴィエを封殺する為の動きを作り、誘導しているのに気付いているのかもしれない。まぁ、どちらにしろ、

 

「兄さん、最近分かったんですけど自分に素直になった方が世の中は楽しいみたいなのです」

 

「成程、兄はその言葉をもっと良い時に聞きたかったな、と今では心の底から思っている、とはいえおめでとうアイン。これでお前も立派な変態だな?」

 

「ありがとうございます兄さん、ですがこれは性癖なのでセーフです……!」

 

「妹よ、知らないのであれば言うがそういう性癖の持ち主を世間一般では変態と呼ぶのだ!」

 

 攻撃を加速させる。オリヴィエ・ゼーゲブレヒトという個人を詰ませる為にクラウスと共に全(・)て(・)の(・)動(・)き(・)を(・)計(・)算(・)し(・)て(・)連携して行く。1対1という状況であれば経験を才能の差で埋める事は難しくはない。だが訓練され、経験を積み、そして連携している武家生まれの兄妹を才能だけで圧倒できるのか?

 

 否―――否。

 

 結局の所、戦闘のスケールは戦艦とかではなく、個人規模で行っているのに過ぎない。つまりオリヴィエ対クラウス&自分、そういうマッチングになっている。そしてオリヴィエは確かに強い。リーチが長く、聖王の鎧でダメージを回避し、底なしの魔力に超直観、それに圧倒的な才能。

 

 とはいえ、一人だ。

 

「アイン、3秒後も三発往くぞ」

 

「了解です兄さん」

 

 言葉に出しながら動きを作る。それで何かが来る、とオリヴィエも暴走状態ながら察せるのだろう。とはいえ、それが限界だ。対応しながらもそこから逃げる事が出来ない様に常に全方位からクラウスと入れ替わる様に斬撃を重ねながら動きを作っているのだ、察知したところでど(・)う(・)し(・)よ(・)う(・)も(・)な(・)い(・)のだから。

 

 これが対特化戦力に対応する為の多人数での戦闘方法。

 

 徹底的に動きを封じ、得意な事を許さずに釘付けにし、動きを誘導し、そして少しずつ削りながら本領を発揮させずに潰す。

 

 本来であれば騎士を3、或いは4人規模で行う事であったが―――。

 

「どうやら鍛錬はサボっていないようだな」

 

「兄さんは更に怪物染みてきましたね」

 

「俺なんて、先達と比べればまだまだだよ」

 

 苦笑しながら、軽口を零しながら3(・)人(・)分(・)の(・)動(・)き(・)を(・)一(・)人(・)で(・)カ(・)バ(・)ー(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。武家の次代当主として、聖騎士団の団長として、剣を握れる日から鍛錬をし続け、最高の環境で学び続け、そして自分よりも強い相手に常に恵まれ続け、そんな強くなる為の全てが揃ったような環境でクラウスは育ち続けた。

 

 その結果、まだ未完成ながら、一人でまだ未熟な聖王にであれば、匹敵するだけの傑物が生み出されていた。

 

「アイン、半呼吸遅れているぞ」

 

「兄さん、妹の呼吸を数えるとはセクハラですよ」

 

「なんと、そうなのか? 年頃の妹とのコミュニケーションは難しいものだな……帰ったらハウツー本をポチるしかないな、これは……」

 

 兄のポチるという発言に、不安を覚えながら、戦闘を更に加速させる。クラウスが常に動きを一切止める事無く、見切る事が不可能な技を混ぜない純粋な斬撃と打撃のみを動きに織り交ぜる事で聖王の見覚えを封じ、そのまま、数で圧殺して行く。

 

 斬撃と斬撃が両面から重なる様に放たれ、聖王の鎧に衝突する。

 

 それによって斬撃は鎧に阻まれる―――だが共鳴する様に放たれた斬撃はその衝撃を音叉の様に内部へと響かせる、聖王の鎧を貫通して。今度こそその怪物の様な腕ではなく、その体に衝撃が通った。それを理解したオリヴィエが距離を作ろうと跳ぶが、

 

「すみません、その判断は遅いです」

 

 飛び上がる動きを此方が先に飛び上がり、槍の振り下ろしで牽制し、そのまま叩き潰し、クラウスの動きへと繋げた。再び地上に落とした所で挟み込む様に攻撃を重ね、言葉を口にする。

 

「安心してください、オリヴィエさん。少し脳を揺らして動けなくするだけですから……その姿は、余りにも見るに堪えません」

 

 普段の彼女の楽しそうな笑みを知っているからこそ―――こんな姿を、展開を、流れを許せない。

 

 一切の隙も、チャンスも与えずに、

 

―――徹底して勝利する。




 大規模な断絶で失伝でもしなければ技術は継承され、進化される。乱世を生き抜いた武家なんだから、当然知っている事の対策はするし、それを超える為に積み上げるし、次がない様に強くなる。冷静に、そして適格に対処してくるのが才ある人間としては一番恐ろしいのに理性がないのであれば、世代を経た今ではこうも……。

 基本、技術と継承が行われているなら、過去よりも現代のが強い。とはいえメンタリティと実力は話は別だけどね。どちらが修羅であるか、と言えば過去の方だろうけど。

 次回、戦闘ガチ勢。
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