※この作品はR-18です。

Stealing The Reality   作:てんぞー

37 / 40
Dear My Love Ⅹ

 打つ、殴る、斬る。

 

 殴る殴る打つ殴る斬る殴る打つ。

 

 打つ打つ斬る殴る殴る殴る打つ殴る殴る殴る斬る打つ殴る殴る殴る。

 

 リズムを刻む様に片手で槍を振るい、もう片手で拳を叩き込む。覇王流の神髄とは必殺の攻撃を常(・)に(・)叩(・)き(・)込(・)み(・)続(・)け(・)る(・)事にある。一撃一撃が人体を粉砕するのに十分な破壊力を持ち、徹しと呼ばれる防御貫通の技術を常に纏えるようになり、それで相手の防御を常に無視しながら一撃で頭を粉砕出来るだけの体術がこなせるようになって、見習いを卒業する事が出来る。そこからは武器を手に取り、それを体術と同じレベルで扱えるようにならなくてはならない。

 

 覇王流は戦場の武術。人を効率的に殺す為に、破壊する為に特化されたその源流は聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトに敗北した事から始まったとされている。兄、クラウスの言葉によればかつてのクラウス・イングヴァルト王子はオリヴィエに一撃も通す事が出来ずに敗北した。その無念は血族に残った。そしてその時が来た時、もう二度と敗北しない様に生み出したのが覇王流であり、

 

 その思想を継承し、継いだのが現代の覇王流。

 

 数々の戦乱を経験し、そのフィードバックを得る事によって覇王流は進化し続けた。最初は聖王の鎧を貫通して攻撃を通し、そのまま相打ちまでにもつれ込む事を想定できる所まで、執念で覇王がくみ上げた。次の世代はそこから生存率を上昇させた。次の世代はエレミアの血を取り入れる事で武術全体の効率化と再整理を行った。次の世代は拳だけではなく武器を扱う為に武具による武勇に優れた血族を取り入れた。

 

 そうやって何世代にも重ね、覇王流は進化し続けて来た。

 

―――この、瞬間のために。

 

「アイン、斬撃が遅れているぞ」

 

「すみません」

 

 クラウスの言葉に返答しながら全く同じタイミングで斬撃を二人で四方向から叩き込んだ。発生する斬撃は鎧に防がれながらも、共鳴する様に響きながら的確に衝撃を鎧の内側へ、オリヴィエの体へと叩き込み、徐々にその体力を奪い続けているのが見えていた。槍の機殻は最大段階まで解除され、細長いスピア状態へと姿を完全に晒しており、最大の速度で振るう事を許していた。それ故に体は軽く、スピアを短く握りながらクラウスの怒涛の連撃に―――此方の2倍から3倍近いラッシュに合わせる様に斬撃を随所で叩き込む。

 

 衝撃が逃げ場を生み出さない様に共鳴し、連続で衝撃を内部へと伝える。

 

「Grrr……!」

 

「姫、貴女がどうしてそうなってしまったかは私には解りませんが―――貴女の性格を考える限り、止められる事を望むでしょう。故に現代の男として、イングヴァルトではなくクラウス・ストラトスとして……今を生きる者として職務を全うさせていただきます」

 

「G―――」

 

「駄目です、オリヴィエさん。……逃がしません」

 

 逃げる方向へは既(・)に(・)斬(・)撃(・)が(・)設(・)置(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。あらかじめ逃亡するのであればどちらか、というのは戦闘をすれば解る。そ(・)う(・)い(・)う(・)風(・)に(・)誘(・)導(・)し(・)て(・)い(・)る(・)のもある。故に逃亡しようとすればどちらかへと行くのは解っているのだから、そこに斬撃を置けば自分から聖王の鎧でぶつかり、その衝撃で動きが停止する。

 

「妹よ、今のは中々恰好良かったぞ」

 

「兄さん、褒めるのは大体戦闘が終わった後からではないとフラグスイッチです」

 

「成程……勉強になるな」

 

 生真面目な兄と軽口を交わしつつ、オリヴィエが全方位に聖王の鎧を纏い、一気に突破を目指す様に動き出した。それに合わせ槍を一気に下げ、魔力とスイッチを押し込み、最後の機構を稼働させる。オリヴィエが離脱しようとする動きに、

 

「焦(・)っ(・)た(・)な(・)」

 

 淡々と宣告する様にクラウスが立ちはだかった。最初からずっと、それを待ち望んでいたかのように。そしてそれを宣言した様に、クラウスはその動きで自身の勝利とオリヴィエの敗北を宣告して真っ直ぐ、強引に突破しようとする暴走したオリヴィエの前へと立ちはだかり、その絶対無敵の鎧を纏った姿を見た。そしてクラウスは剣と槍を投げ捨てた。

 

「簡単な話だ―――それは何(・)百(・)年(・)も(・)前(・)に(・)克(・)服(・)し(・)た(・)だけという話だ」

 

 技も何もない、自然な動作で拳を作り、クラウスが踏み込み―――その拳が鎧を擦り抜けて腹に届いた。その肉体に対する明確なクリーンヒットを演出しながら動きが停止し、その無敵であった筈の鎧を内側から引き剥がす様にこじ開けて砕いた。その衝撃がオリヴィエを二重に揺らし、

 

「締めの演出は任せたぞ」

 

 その姿を上へと向かって、蹴り上げた。

 

 既に一連の流れは呼吸を読み合い、理解していた。兄妹なのだから一々言葉にして伝えなくてもそれで通じ合える。故にこの一連の流れが来るのを予想しており―――槍は、最終段階へと変形していた。

 

 今までパージされていたパーツの全てを再装着する。纏うようにではなく、広げる様に、形状そのものを変形させるように、魔力で形成された膜、刃を間に挟んでそれで繋げる事をしながら、

 

 自分よりも遥かに巨大な斧に再形成した。刃は両刃、片刃の幅だけで2メートルに達する。柄から頂点までは背丈を優に二倍は超えるだけの長さがある。重量は一気に増量し、それ以外にも初期形態にあった重量を支える為の重力制御システムが反転、超過駆動を開始する。

 

 魔力と質量を圧縮し、その重量を数十倍に一気に引き上げ、

 

 オリヴィエの意識を刈り取る為に一瞬で加速させながら振り下ろす。

 

「時に妹よ、それ非殺傷設定は」

 

「あ―――」

 

 少し離れた場所で大地が裏返り砕けるのと同時に、斧がオリヴィエに叩き込まれ、大地を吹き飛ばした。

 

 

♦

 

 

「さて、時間稼ぎは特技なんでな……少々遊ばせて貰おうか」

 

 ヴィヴィオの拳が届いた。だが存在として、肉体と比べ遥かに希薄なそれは、意識してすり抜けようとすれば此方の異能をもって軽々と透過出来る。それ以外のアクションを全てキャンセルする必要があるのが辛い所ではあるが、余裕を持ってヴィヴィオの血腕の拳を回避する。そうやって擦り抜け、ヴィヴィオの肉体そのものを擦り抜けて反対側へと歩いて到達しながら、両腕、コートの袖からぼとり、と影を落とした。これでまずは一手稼ぐ。

 

 そう思った直後にはヴィヴィオが背後を振り返り、腕を振るっていた。魔力を―――虹色の魔力を濃く纏ってるそれは、その魔圧のみで此方の透過をぶち破ろうという気概を感じられた。

 

 実際、手段としては間違っていない。魔力は万能の粒子。それを極限まで圧縮させれば、その質量で何であっても干渉出来るとさえ言われている。故に再び攻撃を擦り抜けようとしたところで今度は体にぶつかるだろう。

 

「やれやれ、実に優雅じゃないんだけどねぇ」

 

『ですが選択肢はありませんよ』

 

「それもそうだっ!」

 

 片手で髪を抑えながらステッキを振るう。それで腕の一撃を弾き、素早く帰ってくる次の拳を弾け飛ばし、連続で襲い掛かってくる拳のラッシュをステッキをかつて愛用したハルバード代わりの得物として振るい、連続で攻撃を捌いて行く。受けて止める様なかつての動きではなく、受けて、それを反らして流す動きは筋肉を落とした今の体には必要な技術であり、強制的に接近戦に持ち込まれた場合を想定して鍛え上げられたシンプルなモーションだった。

 

「やぁ、重い重い。無論、体重の事じゃないぞ?」

 

 拳が今の発言で少しだけ重くなったような気がした。その感触にニヤリ、と笑みを浮かべ、足元に堕とした影がサメの姿となって地面からせり上がり、足元からヴィヴィオを飲み込んだ。その姿を見ながら後ろへと滑れば、内側から一瞬で両手でサメを真っ二つに引き裂く姿を見た。

 

「しかしダサいなぁ、ヴィヴィオ。お前、普段は格好つけているのにこんな時は言いなりとかな……今回は俺の勝利で戦績が付くけど、それでいいのか? んン?」

 

 正面から横へと体をずらし、移動しながら主戦場をオリヴィエ達から剥がす様に動けば、挑発に乗る様にヴィヴィオが此方へとついてくる。血液を大量にばら撒きながら繰り出されるラッシュは縦横無尽の一言に尽きる。昔ならいざ知らず、今の体で正面からのラッシュを相手するのは、地味に辛い。とはいえ、

 

「クレバーさが見えないなぁ、ヴィヴィオ。ん? どうしたんだ? いつものお前ならもう俺を掴んでてもおかしくない頃なんだけどなぁ……?」

 

 煽る様に言葉を言えば、ラッシュが更に加速し、横へと跳びながら回避する様に動き、フェイントを誘いながらそれを潜り抜けてヴィヴィオの注目を完全に奪った。その視線は完全に此方に釘付けであり、

 

 その表情は暴走しておきながら、狂笑を浮かべていた。

 

「ふ―――」

 

 正面を向く様に相対しながら、後ろへと勢いよく跳び、ステッキを横へと向けながら左腕をヴィヴィオへと向かって向ける。

 

「さぁ、他の全てを視線に入れる必要はない。俺だけを見ろ。俺だけを感じろ。そして俺だけを想え―――その心を奪ってしんぜよう」

 

 ヴィヴィオが此方へと到達する。振り上げられる拳は殺人的な威力を込めている。自分の存在を極限まで希薄化させ、真正面から振り抜かれるヴィヴィオの拳に、

 

 衝突した。

 

 拳が胸に食い込み、それが胸部の脂肪である程度やわらげながらも胸骨を折る感触に、おっぱいが無かったら即死していたな、と心の中で笑い声を零しつつ、体に触れ、完全に接触した好機を一瞬で掴んだ。

 

「ネメシス流怪盗法―――」

 

 ダメージを無視して接触した状態からまず、

 

「呼吸を奪う」

 

 息が―――即ち意識が停止した。そのまますり抜けながら背後へと抜けながら、口元の血を拭いながら片膝をつく様に抜け切った。既に片手はヴィヴィオの姿に二度以上その時点で触れていた。

 

「感情を奪う、動きを奪う」

 

 ヴィヴィオの暴走と共に支配していた激情、その感情が盗まれた事で一瞬でヴィヴィオの中から感情の暴走が消え去り、動きが停止した上でその次への繋がりその物が盗み出されて喪失した。それによって思考、行動理由、並びに次の行動が消え去り、脳がロジカルなエラーを発生させる。その瞬間は完全に無防備に立ち尽くしており、反応すら出来ない。

 

『故にそれで三手、完了しました。起動完了、行けます』

 

 決着をつける為にそれを呼ぶ。

 

「―――来い、ジェノサティア」

 

 言葉を口にした時点で四手経過。聖王一族特有の糞耐性による回復によってヴィヴィオの瞳に再び激情が蘇る。だがそれで解った。一方的に狂わされているという事実に。ならばそれを全て叩き出せばよいだけの話だ。ヴィヴィオが動く。振り向き、拳を固め、そして攻撃を続行しようとし、

 

 空間を貫いて鋼の腕がその姿を掴んだ。

 

 ガラスの破片の様に空間の壁そのものを粉砕して飛び出してきたのは鋼を鱗の様な形状で何百、何千と重ねた龍を思わせる鋼の腕であり、その指先は鋭い爪によって磨かれてある。黒と白によって彩られたその腕はヴィヴィオを掴み、大地へと叩きつけ、その衝撃で大地を砕きながら体を大きくバウンドさせた。そうやって姿が大地からの反動、衝撃で浮かび上がっている間に空間を更に砕き、その6mを超える全長が出現する。

 

 二足歩行する鋼の龍人の姿が。

 

「さぁ、ジェノサティア―――禁忌の名を証明する様に存分に狂いたまえ」

 

 言葉に応える様に鋼が笑ったような気配がした。だがそれよりも早くヴィヴィオの体を再び掴んで大地にダンクし、それを鋼の足でけり上げて再びキャッチしてからダンクし、踏みつけて大地諸共蹴り上げてから鋼の拳を振り下ろし、大地を完全に粉砕しながら破壊を荒れ狂った怪物の如く生み出す。それが守勢に長けた騎士であれば、こんなものを食らえば一撃でミンチになる。ヴィヴィオがそうなっていないのは純粋に殺人禁止というルールが自分に課せられているからでしかない。

 

 故に痛みと、そして物理的なダメージの代わりにそれが精神的なショックとして叩き込まれる。

 

「お前の徹底的な破壊はそれこそ芸術性を感じる程のものだが……残念ながら、怪盗としての仕事を考えると不向きなんだよなぁ」

 

 まぁ、しょうがねぇ、と言葉を口にしながら機龍がヴィヴィオを正面の大地へと向かって投げつけ、その前にある大地を蹴ってひっくり返すのを見た。そのまま飛び上がり、ヴィヴィオを挟んだ大地の上まで飛び上がり、その超重量の鋼の龍体で挟み込んだ大地へと向かって拳を振り下ろした。

 

 ヴィヴィオを挟み込んだ大地を完全に分解する様に吹き飛ばした所で、クレーターには傷一つないのに完全にノックアウトされた服装がぼろぼろのヴィヴィオが残された。その姿へと向かって口を開ける機龍の姿を見て、即座に影を鎖に変形させて拘束する。そこから逃れようともがくその姿を無視し、そのまま《倉庫》の中へと沈め、引きずり込んだ。

 

「……ふぅ、まぁ、《零式》の方が遥かに使いやすかったなぁ……こいつ取り出した時点で怪盗としては負け、って感じがするんだよなぁ。まぁ、派手過ぎて結界内じゃないと使えないってのが難点だな」

 

『仕方がありません、破損した禁忌兵器をリビルドしている物なのですから。寧ろこの時代で使えるというだけでも驚愕するべき性能と事実です』

 

「まぁ、そうなんだけどね? それでも勝った気にはなれないんだよなぁ」

 

 はぁ、と溜息を吐いながらクラウスとハイディがオリヴィエと戦っていた方角へと視線を向ければ、新たな土煙が上がるのは見えず、戦闘が終息した様であった。即座にオリヴィエが此方へと突っ込んでこないという事は戦闘に勝利した、という事なのだろうと思う。

 

 本当に、理性の吹っ飛んでいる状態で良かった。心の中で安堵の息を吐きながらクレーターに倒れるヴィヴィオへと近づいた。クレーターの中心部で完全にノックアウトしている姿に近づき、膝を追って視線を寄せる。手を伸ばして頬に触れ、そのまま数秒間、探る様に触れ続け―――見つける。手を放しながら虚空を掴み、ヴィヴィオの中に寄生するその勝手な期待、妄執、妄想、幻想、妄念を掴んで引きずり出す。

 

 そしてそれをそのまま、握りつぶす。

 

 ぐしゃり、と不快な大量の負の感情が握り潰され、それが呪詛を残そうと干渉してくる。とはいえ、大衆の妄念なんてもの、扱うのは十八番だ。そんなもので此方が干渉される筈もなく、ヴィヴィオから―――そしてそれに繋がるオリヴィエに巣食う暴走の原因を排除した。

 

「これで俺の1勝―――やれやれ、次は情けない姿を見せないでくれよ」

 

 苦笑しながら横に血の混じった唾を吐き出した。折れた胸骨が糞痛いが、それで死ぬことはないので我慢する事にして、倉庫から高速回復薬を取り出して飲みこむ。体の中でぐきり、と音を鳴らしながら肉体の再生が行われる。寿命を縮める非合法な薬の一種であり、表の世界では出回っていないものだが、回復魔法なんかよりも数倍の速度で傷を治す事が出来る事から、未来の事を考慮しないのであれば、これを服用し続ける方が効率が良い。

 

「あぁ、クッソ、今回の仕事、評価点付けるなら赤点だぞ」

 

『思いっきり派手に暴れましたからね』

 

「怪盗は魅せる者であって暴れるもんじゃねぇのになぁー」

 

 ジェノサティアを出した時点で赤点確定である。だけど自分の手持ちの札の中で、精神がトンでいる状態で、ノックアウトまでダメージを叩き込めるのはアレぐらいなのだからしょうがない。持っている他の道具の大半が惑わしたりするばかりであり、直接戦闘用の物は全く揃えていない。半端に強いおかげでこんなことになってしまった。

 

 まぁ、その鬱憤は後日晴らすとして、ヴィヴィオの姿の乱れ、その上にコートを投げて隠す。流石に女がそんな姿を晒した状態で転がっているというのは見栄えが悪い。コートを脱ぐと背中が開いているホルタートップ型の黒インナーという恰好になってしまうのだが、まぁ、怪盗の女性担当はセクシーなのが必要なのだ。これぐらいサービスの範囲になる。

 

「と、そっちも終わったか」

 

 ハイディがオリヴィエを背負い、そして無傷のクラウスがその後ろからやってくる。口元の血を拭いながら、片手を上げて軽く挨拶してから、ハイディが背負っているオリヴィエを見た。

 

 なんか、無茶苦茶ぼろぼろだった。

 

「これは一体……」

 

「うむ、妹が己の得物に非殺傷設定なんて通じない事を忘れていてな。思わず姫の命がぷちっと潰れて消える所だったのだが」

 

「なんとか全力で手加減してダメージを抑え込みました」

 

「変な所でポンコツだなぁ……」

 

 ハイディの槍の最終形態はアレ、重力圧縮によって衝撃や重量を吸収し、見た目を超える遥かな質量を保持し、それをぶつける事で硬さとか関係なく質量の超アタックで敵を破壊するという個人携帯型兵器だ。相性? 障壁? 防御力? そんなの都市規模の質量を超圧縮した状態で叩き込めば関係なく死ぬよな、という超脳筋極まりない武器なのだ。まぁ、当たり前だが人間に向ける物じゃないし、魔法を使った攻撃ではないので非殺傷設定も入らない。なので根本的に殴ったら死ぬという結果しか残さないのだ。

 

 ダンプカーに轢かれたら人間は死ぬ。それを更に大きい規模でやっているだけなのだから当然だろう。だからこそ何やってんだお前……って感じになってくる。まぁ、それはそれとして、オリヴィエをそのままにしておくのも忍びない。

 

 軽くオリヴィエの頬に触れ、そしてその傷を掴んだ。

 

「傷を盗む(ペイントレード)、ってな」

 

 そしてそれをそっくりそのまま、此方へと移した。体の内側を揺らすような痛みと衝撃を感じ、かなり良いのをぶち込んだなこいつ、と心の中でこっそりと笑いながら何でもないかのようにオリヴィエを受け取り、横抱きにしようとした所で、

 

 クラウスが此方に剣を向けて来た。

 

「待て―――事情が未だに読めない。流石にそこから先は聖騎士団の者としてそれを許す事は出来ない」

 

「おっと、勢いとノリで誤魔化す事は出来なかったか」

 

「流石に、な。アイン、姫を今しばらく持って下がっていろ」

 

「……はい」

 

 ハイディはそう言うと此方へと視線を向けてからオリヴィエを背負い直し、クラウスの背後へと下がった。それを見届けてからクラウスがさて、と声を零した。

 

「最初は姿と言動で誰かは解らなかったが―――その言葉遣いとアインの信頼で合点が行った。アレクだな?」

 

「マスクの下を言い当てるのは少々無粋だぜ色男」

 

「そうなのかもしれないが―――流石にこの状況、何もなしに解放するというのは出来ない。今の出来事、怪盗ネメシスという存在に関する話……そして何故盗もうとしているのか。その話をして貰おうか」

 

 クラウスはそう言うと剣の切先を一切ぶれる事無く此方へと突きつけていた。此方もクラウスには正直、聞きたい事があった。何(・)故(・)オ(・)リ(・)ヴ(・)ィ(・)エ(・)と(・)ヴ(・)ィ(・)ヴ(・)ィ(・)オ(・)の(・)分(・)裂(・)を(・)正(・)し(・)く(・)認(・)識(・)出(・)来(・)て(・)い(・)る(・)か(・)、というのも一つだし、何(・)故(・)覇(・)王(・)イ(・)ン(・)グ(・)ヴ(・)ァ(・)ル(・)ト(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)の(・)か(・)というのもまた一つである。正直、ヴィルフリッドの事を考えればこの男が覇王イングヴァルトになっていないかが不思議でしょうがないのだから。

 

 とはいえ、かなり派手に結界内で暴れて、結界の方も割と限界だ。結界も長時間出現させていると、空間に違和感を生み出し、外側にあっさりとバレる。だからこそ結界の中を移動して潜入、何て事が出来ないのだが。

 

「正直な話、俺も聞きたい事もある」

 

「そうか」

 

「だから話し合うのも悪くはない」

 

 その言葉にクラウスは頷き―――そしてそのまま、前のめりに倒れた。

 

「ただし、また今度な?」

 

「兄さん、私がどちら側かってことを忘れてませんか……?」

 

 倒れたクラウスの背後にハイディが立っている。その片手に槍を握りながら、どうやら当身を叩き込んだらしい。見事、としか評価の出来ない動きだった。信じていたぜ、とサムズアップを向けると、ハイディからもサムズアップが帰ってくる。それはそれとして、オリヴィエを姫抱きし、受け取る。

 

「お疲れ様です、アレ……ネメシスさん」

 

「お前根本的にこっちに向いてねぇな」

 

「自覚しているから言わないでください……それはそれとして、これからどうするんですか?」

 

 ヴィヴィオとオリヴィエの分離を目指す所が第一のポイントだったのだが……どうやらGMサイドでそうしてくれたらしいので、後は簡単だ。オリヴィエと銀腕を抱えてこの聖王教会から逃亡する必要がある。なのでまずはここから逃げ出す必要がある事を伝えれば、ハイディが頷く。

 

「成程、解りました。戦いの痕跡を偽装して、兄さんとヴィヴィオさんの後始末はしておきます……だからどうか、その人に―――」

 

「言われんでも解ってるわ」

 

 笑みを零しながらさぁて、と声を零しながらハイディがクラウスの足を掴んで引きずるのを見て、その姿を見送りながら結界の外へと飛び出し、一瞬で夜空へと飛び出した。オリヴィエから奪った傷とヴィヴィオから喰らった拳のダメージが体内でじくじくと痛みを主張してくるが、それに関係なく夜空で一回転しながら屋根の上に着地した。

 

 抱く両腕の中にはオリヴィエの姿がある。

 

 そしてそんな派手な事をすれば当然―――一斉にライトが此方へと向けられ、視線が此方へと向けられる。騎士、聖騎士、司祭、シスター、信者。聖王教会内に存在するありとあらゆる視線が、魔法を通して今、この瞬間、教会の屋根の上に立つ此方へと向けられた。

 

「今宵お集まりいただきの紳士淑女の皆様方! 古代ベルカが残した最後の秘宝、聖王姫オリヴィエ並びにその銀腕を確かに今宵、頂戴した―――!」

 

「怪盗だぁ―――!!」

 

 叫び声が聞こえ、一斉に敵意が向けられるのを感じた。いやぁ、必死ですなぁ、と声を零しながら笑い声を響かせ、一気に屋根の上を入り口へと向かって、走って駆け抜けて行く。此方が何を抱え、何を運び出そうとしているのかを知った騎士たちが一斉に此方へと向けて魔法を放とうとし、

 

「馬鹿が! 殿下に当たったらどうするんだ!」

 

「クソが!」

 

「止めろ! 自分の体を壁にしてでも止めろ!!!」

 

「ここに忠誠を示せぇ―――!」

 

「ははは、滅茶苦茶だなぁ、おい」

 

 屋根の上を全力疾走する姿に高速移動用の魔法や、バインドを使った多重の包囲網が一瞬で捉える為に襲い掛かってくる。それを前に笑みを浮かべながら、ここからは本当の意味でのショウタイムだと口にし、

 

 問答無用で捕縛するバインドに足を乗せた。

 

「お―――」

 

 期待するような声を裏切ってバインドの上を走った。それを足場に多重に襲い掛かってくるバインドからバインドへとその性質を無視して跳躍して走り、虚空に軌跡を描きながら伸びるチェーンバインドの上を、スケートをしているかのように滑って一気に距離を稼ぐ。無茶苦茶すぎる動きに一瞬で騎士たちが言葉を失い、しかし次の瞬間には前へと飛び出し、宣言通り自分の体を盾にする為に動いた。

 

「止めろ!」

 

「通すな!」

 

「意地でも止めろ……!」

 

 その覚悟や気迫を嘲笑うように、合間の空間を滑り込む様にすり抜けて、両腕をオリヴィエを抱えるのに独占しているのに、突破する。

 

「ふははははは―――! 温い! 温いぞ! その程度かベルカの騎士は! 女一人止められないか!」

 

「男も女も化け物共には関係! ない! だろ!」

 

「お前、最近なんかあった?」

 

「そいつ、この間風俗《戦艦》な女子にヒットしちまってな……」

 

「幸運は祈っとくわ」

 

 合間に茶番が聞こえてくる辺り、ベルカ人のメンタリティは非常に強いと思う。が、それで止められる訳もない。壁を蹴り、屋根を蹴り、そして空中へと飛び上がった。満月を背に飛び上がりながらその月光で全身を照らし、その光に髪を輝かせながら一気に落下―――駆け抜けてゆく。

 

 縦横無尽に動き、逃亡する此方の動きに対して狭い聖王教会の道、そして屋根の上、三次元的な動きに足にはついて来れず、飛行可能な騎士が飛翔しながら追いかけてくるようになる。だがそれを見て笑みを浮かべ、

 

「おや、足場を用意してくれるのかい? なんて紳士的なんだ」

 

「は?」

 

 困惑する姿の顔面を踏んで足場にし、そのまま飛行魔法を盗み出し、使用不可にして足場を一気に跳躍した。飛べなくなった騎士が下へと向かって落下するのを一切気にせずに、此方を見てドン引きする騎士の攻撃、存在そのものを足場にして空中を連続で蹴りながら一気に移動する。

 

 行きは到達まで時間がかかった。

 

 だが帰りは見つからない事を考える必要がない為、最短ルートを最速で駆け抜ける事が出来る。

 

 そうやって常人ではありえないとしか表現できないルートを楽しく、存在を見せつける様に意味もなく跳躍し、駆け抜けて、視線を盗み出し、この手の中に彼女が、そして遺物があるのだと嫌でも理解させ―――そして到着する。

 

 聖王教会入り口に。

 

 その広い空間に並んでいる数多くの人々の姿を。

 

 誰もが此方を睨んでいた。誰もが注目していた。深夜なのに見える範囲には人しか存在しなかった、誰もが俺に視線を向けていた。誰もが俺に注目していた。

 

 誰もが、絶対に忘れられない事件として俺に視線を向けていた。

 

 数百を超える衆人の中、エントランスの柵の上に着地し、片手でオリヴィエを抱きながら手を広げた。それに合わせる様に大量の蝶が生まれ、空間を演出しながら影を生み出し、隠れる場所を生み出す。さて、ここからどうやって逃げたものか、と凄まじいまでの視線を浴びながら考えた瞬間、

 

 空気に乱れを感じた。その気配と空気に切り替えに、

 

―――迷う事なく、大量に人が詰める、その方向へ、入り口の外へ―――街へと向かって跳躍した。

 

 頭上を越えようとする動きに一斉に飛び掛かろうと人々が手を伸ばし、跳躍しようとして、

 

 声が、響いた。

 

「零零零式覚醒衝動解放(ディヴァイドエフェクト)―――ゼロッ!」




 美味しいところは主人公が奪う。

 根本的に非殺傷とかいう概念を聞いて「……はぁ、それでそれにはどのようなメリットが……?」とかいいだすのがベルカ文化のイメージが出来上がっている。その為、基本的に武器も動きも殺す事ばかり考えているなぁ、とかいうアレ。

 それはそれとしてたぶん次回エロよー。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。