※この作品はR-18です。

Stealing The Reality   作:てんぞー

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Phantom Thief Ⅴ

 ヴィクトーリアは子供の頃から賢い子だった。自分なんかよりも遥かに。ダールグリュンの者として欲しいであろう才能を生まれ持った少女だった。超高位の雷の変換資質を持って生まれ、武道の才能を持って生まれ、そして教養に対する高い知性を見せる事も出来た。ヴィクトーリアは正直な話、女として生まれてきたのが惜しいレベルの娘だった。男として生まれていれば、或いは3年前、自分と同時期に生まれていれば間違いなく当主の座を得る事が出来る才能の持ち主だった。

 

 だがヴィクトーリアが生まれる3年前には自分が既に生まれていた。頭そこそこ、武術の腕は悪くなし、それでいてイケメンの兄が。こういってしまえば自画自賛にはなるが、少なくとも幼少期の自分はダールグリュンの男として相応しいだけの知性と振る舞いをしていた。今では完全に堕落し切っている反社会的な犯罪者だが、当時の自分はそれからは程遠く清廉潔白、背筋を伸ばして勉学に励む子供だった。武術の腕前ではヴィクトーリアの上を行っていたが、勉学ではヴィクトーリアには一歩譲っていた。

 

 だから俺が当主になっても、最終的にはヴィクトーリアを補佐にして兄妹で盛り上げて行けば家は安泰だなんて言われていた。実際、俺も幼い事はそうやって家を支えて行こう、と思っていた。悪くない未来だとは思っていた。その頃のヴィクトーリアは実に可愛いもので、兄様兄様と口にしながら後ろをちょこちょことついてくる少女だった。いや、それに関しては今でも変わらないだろう。俺もあの頃はヴィクトーリアを唯一の妹として可愛がっていたし、執事からはそうやって甘やかしているとヴィクトーリアの為にならない、と言われたりもした。

 

 だが実際、そうだった。

 

 その後、とあることが理由で俺はダールグリュンの名前を捨て、家から絶縁する事を証明する為に名前を砕いた。その結果、残されたのがアレクという愛称であり、それが今では本名となった。絶縁して以来、一度もダールグリュンの家を訪れた事はない。これから先、向かう事もない。

 

 絶縁とはそれなりに重い意味を持つ。そして自分はやった事の責任、意味を理解して抱き続けるつもりだった。

 

 だが中心人物であったヴィクトーリアはその頃から今に至るまで、兄離れが出来ていなかった。今でも隙を見つけては兄様となんて呼んで付きまとってくるし、気が付けば部屋の掃除をしている。おかげで女を家に連れ込む事さえ出来ない始末だった。とはいえ、それがヴィクトーリアなりの兄への愛情である事は理解していたため、妹に対して弱い兄の一人としては、無理に彼女を追い出す事も出来ず、口で軽くしかる程度の事しか出来ないでいた。

 

 世の中、大半の兄妹は反発する。兄弟であってもそうだ。肉親というのはお互いに愛情を注ぐ関係でありながら実に近しい間柄である。だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)反(・)発(・)す(・)る(・)生き物である。そこに愛があるから他の者よりも強く反発する。正してほしい、此方の意見を通してほしいと遠慮なく言うことが出来るからだ。それは愛のある反発であり、叛逆でもあり、そして同時に願いでもあるのだ。こうであってほしい、という。

 

 まぁ、そんな訳だからぶっちゃけ、ヴィクトーリアの事は嫌いじゃない。妹として、家族としては好きだ。だがそれとは別に、既に絶縁した身であり、ヴィクトーリアはこれからダールグリュンというベルカ内でも血筋を濃く保って続いている名家の当主になるのだから。絶縁された問題児と何時までも将来の当主が会っている、というのはスキャンダラスではないが、外観が悪い。

 

 それを、ヴィクトーリアも理解している筈だった。

 

「ここです、兄様。ここ、紹介されたのは良いのですが、中々一人だと来るのが難しくて来たったんです」

 

 そう言われてヴィクトーリアに連れ出されたのは、ベルカ自治区の都心にある新しい喫茶店だった。少なくとも自分の知る店ではなく、外観は中々シックで、凝っているのが見える。静かでお洒落な店内にはそこそこの客の数が見えるが、その大半が男女の組み合わせ―――というより、カップルだった。

 

 確かに、これはヴィクトーリア一人では辛い場所でもあるだろう。一人で入るには相当な勇気が必要そうだ。とはいえ、今度、誰か誘う分には良さそうだ。だがその前には中身を精査しなくてはならない。

 

 言っても言っても言う事を聞かない妹に関しては半ば諦めている部分もあるので、大人しく引かれるままに入店する。

 

 部屋の木々に染みついた紅茶の葉の匂い。店内に溢れる軽い喧騒。見える調度品の数々は確かに存在するのが見える。

 

「ARじゃないのか」

 

「えぇ、このご時世中々珍しい本格派です」

 

 そう告げながらウェイターに案内され、奥の席へと通された。二人用のプランターによって軽く遮られた席だった。この感じ、こっそりと愉しみたい為、密談したいときとかは使えそうだと思いつつ、ヴィクトーリアから店の名前を聞き出し、覚えておく。現代のミッドチルダは進んだ魔法と科学技術によって、AR技術が凄まじく発展している。その為、実際に壁とかを塗装せずとも、ARによってそう言う壁紙を飾っている等簡単に客を騙す事が出来る。

 

 まぁ、壁紙ぐらいなら普通にやる所は多い。だが名画や調度品の数々のデータをお手頃な価格で購入して飾る店は多い。その利便さが原因で小物を作ったりしている職人が困って、値段の増加と更なる困窮へと繋がっているらしく、段々とだが拘り抜いて飾る店舗というのは珍しくなってくる。

 

 ここはそういう、珍しい店舗の一つだった。物を置くというのはそれだけ維持費がかかる事なのだ。怪盗だからこそその苦労は解る。自分も師匠の遺品や遺物、過去に盗んだ道具などを定期的に時間凍結してある倉庫へと向かって整理などを行っているからだ。特にアンティークとまで呼ばれるような調度品に関しては取り扱いの注意があるのも辛い。

 

 掃除の作法一つにも色々とある。それで一度掃除を始めると丸一日時間を奪われたりするのだ。面倒な事この上ない。魔法と科学の発展によって生活は便利になる中、生活は其方に流れやすい。飾る事一つ取ってARを使えば見た目も雰囲気もどうにかなる。その中で本物を選び、飾る事にはコストと手間、そしてその上で失敗をやり直せないだけの金額が発生するというリスクがある。

 

 それを選べる人間こそが本物、とでも表現すべきだろう。

 

 個人的にそういうのは嫌いじゃない。

 

「ここのお勧めはシュレイド茶葉のストレートとシフォンケーキですけど……兄様はどうします?」

 

「家から離れて暮らしてるから食生活もジャンク食いで雑になってるしなぁ、お前に任せる」

 

「では、同じものを頼みますわね」

 

「任せた」

 

 はぁ、と溜息を吐きながら頬杖をついた。追い返しても追い返しても付きまとってくる妹。このしつこい娘は一体何をすれば諦めてくれるのだろうか、とは常々思ってきた。いっそ、突き抜けるぐらいに嫌われる方が早いのでは、と思った事もある。だが肉親に対してそこまでクズにはなれなかった。中途半端な部分もあるが、俺にも肉親への情はあった。だからこそこうやって連れ込まれてしまうのだから。

 

 ある意味、ヴィクトーリアこそが自分の最大の弱点なのかもしれない。どうしても彼女には勝てない部分があった。

 

 これで妹じゃなければ結構ストライクなんだがなぁ、と思った事は数知れず。

 

「それにしても兄様はここ最近はどうしていたのですか? 1カ月程姿を見ませんでしたが」

 

「いや、まぁ、ほら……俺だって仕事があるし」

 

「美術品の鑑定でしたわね? そこまで時間を空ける程の職業でしたかしら?」

 

「美術品だって色々とあるんだよ。今回は大口の仕事だったし。ちょっと違う世界まで足を延ばして、倉庫の中身をかたっぱしから調べて行く奴だったし。おかげで埃がなんのそのって感じでな」

 

「まぁ、そんな事が」

 

 無論、口から出まかせである。そんな仕事ではない。というか美術品を盗む方である。自分が怪盗である事実を知っている人間は非常に少ない。怪盗一味の面々に加えてヴィヴィオ、そして外側から協力してもらっている数人ぐらいだけである、理解しているのは。そしてその中にヴィクトーリアは入っていない。無論、この先教えるつもりもない。何かがあってバレても、既に公的には絶縁状態だから迷惑がかかる事もないだろう。

 

 ちなみに表向きの仕事はない。怪盗か裏社会での職だけで、表社会では完全に無職のプーさん扱いである。おかげでヴィクトーリアやヴィヴィオの友人らからの扱いは割と酷い。

 

 まぁ、社会的なクズだからしょうがない。

 

 それはそれとして、

 

「それにしても食事がそこまで悪くなっているとは思いませんでしたわね。いえ、一回矯正したのだからそれで改善したと思いましたが。この様子だともう一回通い詰めて……」

 

「ほんと止めて、絶縁しているの俺。それにお前も今は学園での生徒会長をやっているんだろう? 俺に関わる時間なんてないだろうに」

 

「いいえ、兄様は家族なんですから、それぐらいの時間は捻出出来ますわ。家族ですもの、会うのに理由は要りませんし、時間なんてどうにでもなりますわ。だから戻りませんか、兄様? お父様も戻ってきてほしいと口にしていますわ。もう、あの頃の事を口にする人も居ませんし」

 

「それでも、粗を探そうとすれば見つけるのが人間って生き物だよ。もっと悪意だとか汚い部分を見てみろ。理由がなくても悪い所、酷い所を探してそれで楽をしようとするのが人間って生き物だ。ヴィクターが当主に付いた時、俺がそこに居たら攻撃材料にされてしまうよ」

 

「あっ、今ヴィクターって呼んでくれました!」

 

 ヴィクトーリアの嬉しそうな表情に、口を滑らせてしまったな、と視線を反らしながらヴィクトーリアから逃れた。けじめをつける意味でも彼女の愛称を呼ぶのを止めていた筈なのに、昔からそう呼び慣れていたせいか、ついつい話し込むとそうやって漏らしてしまう。いや、ただ単純に自分がヴィクトーリアに甘いだけだった。彼女に対してもっと強く当たるべきなんだと解っているし、それを戒めるつもりで普段からなるべく扱いを雑にしようと口にしているし、考えている。

 

 だけどついつい、妹には甘くなってしまう。

 

 世の中の妹を疎んでいる兄様方からすれば失笑もんの対応だった。解っている、家を出て行っても普通に家族として父も母もヴィクトーリアも愛しているという事実に。だからこそ突き放しきれないのだ。それが出来ればもうちょい楽なのに。そう思いながらも切り離し切れないのが自分が自分たる理由なのだろうと思う。

 

 突き放せとは理性が告げる。だが荒んだ心はヴィクトーリアと会っているだけで、癒されて行くのが解る。だからこそ勝手に合鍵を握っている事を見逃してしまうのだろう。あぁ、本当にどうしようもなく甘い男だなぁ、と思ってしまう。

 

「それにしても兄様? あまり長く家を空けているのは不安にもなりますし、そろそろ何か、近場で出来そうな新しい職を探したほうが良いのではないでしょうか?」

 

「お前、実はそれが今日の本題だな?」

 

「父様が騎士団に新人が欲しいなぁ、と常々言っていますし、兄様も入団試験を受けてはどうでしょうか?」

 

「話を聞けよこいつ。というかそれ、入団したら最後うちの息子だ! って親父が宣伝しまくって家に連れ戻そうとするだろ」

 

「そ、そんな事はありませんわよー」

 

 図星だったかぁ、と呆れながら呟く。なんで普段は有能なのに、こういう事だけが妙にポンコツになるのだろうか。親父も親父だ―――現ベルカ教会所属の聖騎士団所属の副団長、ライオス・ダールグリュン。《雷迅》のライオスと言えばちょっとは有名人だった。まぁ、家柄に合うだけの能力を持った人物であるという事の証である。

 

 なお、現在の団長はイングヴァルト直系のストラトス家の当主である男が務めている。二人とも騎士であり、陸戦でありながら管理局からもSランクオーバーの評価を受けているエース級の怪物だった。ぶっちゃけ、自分でも倒せるイメージが湧かないというのが事実だった。

 

 トーマ連れてきてオールディバイドしつつであればまぁ、なんとか? というレベルのイメージ。でも戦士とは生きている間が常に成長するものだから、昔よりも強くなっていそうだなぁ、と思うと嫌になってくる。絶対に関わりたくはない連中だった。まぁ、管轄が違うから相対する事がないのが助かる事だった。基本的に聖騎士団の仕事はヴィヴィオの護衛がメインだし。

 

「じゃあ、仕方がありませんわね。アルバイトになりますけど不定期で入れる兄様向けのアルバイトを見つけて来ましたわ」

 

「お、こっちが本命かな」

 

「私の知っているジムでスパーリング相手をする、という内容だけです。バイト代はこんなもので、そして拘束時間はこんなものです……」

 

「ほうほう……あ、条件悪くない」

 

「ただし入る時は事前に私に一報くださいね?」

 

 多分それが目的なんだろうなぁ、と思いつつもヴィクトーリアから示された金額と拘束時間は悪くなかった。というより、ヴィクトーリアが通っているジムの話だったら聞いてもいないのに何度も聞かされているので、良く知っていた。アレ、エレミアやらの名家の子とか、才能ある子がガチで強くなる事を目的に鍛えるジムだった気がする。他に誰がいたかなぁ、というのを思い出すの止めながら、うーむ、と心の中で迷いつつ、

 

「……あぁ、ヴィクトーリア。ここ、知り合いにちょっと鍛えてやりたい奴がいるんだけど、放り込んでも良いか?」

 

「そうですわね……私が頼めば何とか出来るでしょうけど、タダでは、とは行きませんわよ?」

 

「あいあい、俺が行けば良いんだろう」

 

「えぇ」

 

 ヴィクトーリアが滅茶苦茶ニパーとしている。あぁ、ここで例外を作ってしまおうとする自分が恨めしい。とはいえ、ヴィクトーリアの顔が通じるジムでなら、トーマを送り込んで鍛えさせることも出来るだろう。アジトも悪くはないが、やはり専用の設備やちゃんとした本職のコーチが居る環境が、成長と育成を考えると一番良い。グループとして纏まって数年、漸く住処とかを考える必要がなくなって、こういう成長とかに関して考える余裕が出て来たな、と思う。

 

「ささ、紅茶もケーキも来ましたわ。一旦、他の事は忘れて楽しみましょう?」

 

「お前は本当になぁーもぉー……」

 

 どうしようもないなぁ、と思ってしまうのは自分の性のせいだろうか。ともあれ、ヴィクトーリアが嬉しそうな表情を見るとそれをそれで放置してしまう自分の悪癖、そればかりはどうにかしなくては……と思いつつも、そのままにしてしまっている。

 

 実に困った話だった。

 

 

♦

 

 

 喫茶店でのティータイムを終えると、ヴィクトーリアと別れる事になった。当然ながらプーで、スケジュールを好きに調整できる此方とは違って、ヴィクトーリアは未だに学生で、そして家の手伝いも存在する身分だ。正直、スケジュールは結構みっちりしているだろうと思っている。その中で時間を作って此方に逢いに来ているという事実は驚かされるものでもある。とはいえ、そこら辺はきっちりしているヴィクトーリアらしく、無理をしない時間だけ確保しているらしい。

 

 つまり時間が近くなれば、揉めずに帰ってくれる。そこだけは救いだった。

 

 そんなんでヴィクトーリアと別れると、喫茶店の影から此方をじっと見る二組の視線を感じられた。其方へと視線を動かせば、店の横からニヤリ、と笑みを浮かべたトーマとヴィヴィオの姿が見える。ゆっくりと近づいて、店の横の路地の入口を道路の方から隠す様に立つと、

 

「いやぁ、お兄様は辛そうだなぁ! お兄様ぁ!」

 

「いやぁ、にんきものは辛そうだなぁ、兄貴」

 

「いいんだぜ、ノーガードで殴り合おうぜ。俺にはその覚悟があるぞお前」

 

 しばらくの間、路地で無駄なにらみ合いを続けてから息を吐いて、とりあえずは再び、自分の家へと戻る為に移動を再開する。とりあえず、帰り道も再び電車での移動だが、その中にはフーカの姿がなかった。とりあえずフーカをどうしてしまったのかを確認する事にすると、

 

「あぁ、ハイディ呼びつけて渡して来たぜ。ハイディもハイディで新しい後輩が増えるって事で嬉しそうだったしな。まぁ、アイツの事だしいい感じにしてくれるだろう」

 

「これで後はしごおわの連絡入れておしまい、か。はぁ、収入が確定すれば後はゆっくりできるな」

 

「俺今回、冷蔵庫に叩き込まれてボコボコにされる以外何もしていない」

 

「仕事なんてそんなもんだろ」

 

「それでいいのか」

 

 あんまり良くはない。まともな仕事ではないし。とはいえ、トーマの来歴と現在の状況を考えるとまともな職に就けるわけがないから、何でもいいから仕事を経験させて、色々と慣れさせておく必要がある。とはいえ今回は色々と苦労させてしまったかもしれないなぁ、とは思わなくもなかった。

 

「まぁ、別に良いんだけどさ。それよりも別行動してもいい? 折角街にまで出て来たんだし、リリィに土産を買って帰りたいんだけど」

 

「お前……一応お尋ね者だって自覚あるよな」

 

「あるけどさ……まぁ、そこら辺の逃亡技術とか道具は、嫌って程お前が仕込んだし、問題はないだろう? 俺だって捕まりたい訳じゃないし。早く妹とデートしたクズ兄の話を届けたいし」

 

「10秒数えろ。終わる時が貴様の最期だ」

 

 言葉と共にトーマが逃げ出した。あいつは本当にもう、と思いつつ溜息を吐いた。いや、この場合気を使われたのだろうか? どちらにしろ、トーマが去った所で残されたのは自分とヴィヴィオの二人だけだった。やれやれ、と呟きながら走り去って行くトーマを見た。まぁ、アレもなんだかんだで既に2、3年近い付き合いになってくる。

 

 その間に変装のイロハとかも教えてある。魔法を使わない変装技術に魔法を使った変装技術。魔法の気配が多い街中では魔法を使って変装をするのも良いが、携帯端末があるならそれを使ったARを利用した変装なんてことも出来る。つまりはホログラムで自分のテクスチャーを上書きして誤魔化すというやり方だ。早く動けば剥がれるのであっさりとバレるし、AR端末を持っていない人間だと網膜投影が働かないのでAR技術が腐るという弱点がある。とはいえ、魔力を使わずに姿を騙す手段ではある。

 

 それらをトーマは一人で外出する為に練習してあるし、覚えてもある。自分が付きっ切りじゃなくても別に大丈夫だろう。

 

「なんだ、舎弟が心配かおにーちゃん。妹の次は弟か」

 

「そんなんじゃねぇよ。拾った奴の責任ってもんだ。安らかに死ぬって選択肢を俺が奪った以上、死ぬ方が楽だった、って言わせない様に面倒を見るのは当然の事だろう? まぁ、それはそれとして俺達もどっか行こうぜ。流石にもう家に帰ってしっぽりやる気はなくした」

 

「ははは、それもそうだな。じゃ、俺達でデートと行こうか、兄貴。俺も俺で色々と話したい事があったしな。今日一日で、印象をヴィクターに独占されるってのも癪だしな?」

 

 そう言うとヴィヴィオが腕を組んできた。まだ15歳の癖して、立派に育ったその胸の凶器の感触を腕に感じる。うーん、これで本当に15歳というのは怪しいよなぁ、と思いながら、歩幅を合わせて歩く。ヴィヴィオとこうやって並ぶのも初めての事ではなく、何度もやっている事だし、いい加減歩幅を合わせるのも慣れた事だった。

 

「んで、そっちはどうよヴィヴィ」

 

「あん? まぁ、悪くはねぇよ。ババアは相変わらずうぜぇし、騎士団連中も目玉が硝子だけど我慢するだけの場所ではあるぜ。スラムでクソガキやってる頃じゃ絶対勉強とかは出来なかったしな。学べば学ぶほど、自分がどれだけ馬鹿だったのかを理解するぜ」

 

「お前が聖王教会にいるのは―――」

 

「あぁ、勉強してクソ親を惨めにさせる為ってのが大半の理由だしな」

 

 ヴィヴィオは捨て子だった。スラムに居るという事はそういう事が理由でもある。スラムに居る子供は捨てられたか、或いはレイプによって生まれて来た子供ばかりだ。ヴィヴィオは、両親の若い過ちで生まれてしまったという子供になる。それも捨てられるまでは虐待されていたようで、体には生傷が絶えなかった。だが最終的にヴィヴィオのヘテロクロミアを聖王の証であると理解できなかった両親は、その眼と異常な成長能力を保有したヴィヴィオを気持ち悪いから、とストリートで捨てた。

 

 当然、そのヘテロクロミアはベルカ人であれば誰もが知っている、とある血筋にしか出現しない特徴だ。だがヴィヴィオの両親は二人ともミッドチルダの人間だった。ヴィヴィオの祖先がベルカ人であり、その血の先祖返りによってヴィヴィオにその高貴な血筋、即ち聖王の血筋である証が出現した。それをミッドチルダの人間であるヴィヴィオの両親は理解しなかった。或いは教養に欠けていたのかもしれない。だが事実としてヴィヴィオは幼いまま、ストリートに捨てられ、

 

 絶縁し、師匠に拾われたばかりの俺と出会った。師匠は丁度良いから、とついでにヴィヴィオの面倒を見てくれた。ヴィヴィオとの付き合いはその頃から今まで続いている。一緒に体を鍛え、師匠から学び、そしてエリーの件に関しては一緒に肩を並べた。ある意味、もう一人の家族とも呼べる女だった。

 

 そんなヴィヴィオは、自分を捨てた両親に対しては欠片も興味を持っていない。

 

 だが同時に、自分を捨てた事に対して一生後悔させて破滅させたい、という人格破綻者らしい悪魔染みた考えを持っていた。だから、ヴィヴィオは自分が聖王の血筋である事が発覚し、聖王教会に入ってその血筋を活用する選択肢を与えられた時、その選択肢を選んだ。全てはちゃんとした施設、場所で学ぶ為だった。

 

 教養の無い両親に自分の教養ある姿、そして立場を見せ、捨て子であると周りに教え、関係を完璧に断つ。名前さえもゼーゲブレヒトを名乗る事で両親との繋がりを否定する。その上で自分の存在を見せつける。勉強して賢くなり、栄養を摂取して育った恵体、そしてベルカ聖王教会の実質的象徴という立場になって両親に見せつける。

 

 そうやって、自分を捨てた事を一生後悔させて発狂させてやりたい。

 

 そんなクッソくだらない野望の為にヴィヴィオは聖王教会での不便のほとんどを我慢し、勉強している。

 

 正真正銘のキチガイだった。だけど好感の持てるキチガイだった。というか笑える程好きだった。たったそれだけの為に自由を手放してしまえるのだから、相当頭がイカレてなきゃ出来ない。だけどやってしまったのだ、この女は。しかも今、それに成功しているのだから笑える。

 

 ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトという女はそういうイカレてはいるが、凄い女だった。

 

「まぁ、でも最近は少し疲れて来たがな」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ、毎度の事ながらオリヴィエに比較されて嫌になるぜ。死人と比べられても困るっつーのにな。そんなにオリヴィエが好きなら先に死んで本人に会いに行けば? って俺は毎回言ってやるんだけどな!」

 

「相変わらずキレッキレだな」

 

「おう、俺はそこらへん、言いたい事は我慢しねぇからな。言いたい事は言う。こいつだけで大体、すっきりするからな!」

 

 体つきはこうも女らしいのに、心に関しては完全に別物の生き物だった。まぁ、だが、それがヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトという女らしさでもあった。そう考えならとりあえず、残った一日の時間を潰す為にもどうやって遊ぶのかを考えつつ話し合う。

 

「で、これからどこ行くよ。一般的なカップルらしくショッピング?」

 

「おいおい、俺をそこら辺の女と一緒にするなよ、つか買い物してて何が楽しいんだよ。欲しいものはぱっぱと買えばいいじゃねぇか。女ってほんと意味わからねぇよな」

 

「いや、お前もその女だから。そんな凶悪なもん胸にぶら下げている癖によ」

 

「でも俺、そのままの兄貴かネメ兄貴相手するならネメ兄貴のが断然いいし、中身はどっちかと言えば男だろ、俺」

 

 間違いなく性癖歪んでるよな、お前。そう口に出すと兄貴程じゃないと言葉を返される。まぁ、お互いにまともじゃない子供―――今でもそうではあるが、前からずっと承知なのだから今更な話だった。

 

 こんな人格破綻者の相手をしなきゃいけない騎士連中に冥福を祈りつつ、その日はそのまま、珍しく健全にヴィヴィオと遊ぶのに消費した。




 ブラコンとシスコン。そしてレズっけがある理解者。どいつもこいつもまともじゃねぇ。個人的になのは世界は科学力が進んでいるんだし、現代地球でも既にAR技術やホロ技術がある程度出ているし、それで姿や内装を騙す程度だったら余裕で出来る技術力あるんじゃない? と思う。

 そしてそういう技術出たら手軽に内装を変えられるから、小物とかの人気がなくなって行く。データで作成すれば本物を持つ必要がないし。

 基本的に最初はメインのコミュ先とそのキャラの紹介みたいな感じで。
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