医療とは永遠の付き合いだ。
これが表の社会であれば管理局発行IDから保険へとアクセス、医療費を安く済ませる事が出来る。だが、そう、それは表向けのIDを保有している場合に限りという事になる。自分は良い。裏社会に出没しているが、まだ生存している人間として居場所が表社会にあるから。だからこそアルバイトや家の購入、多くの社会的サービスを受ける事が出来る。だがIDが無効化されている人間はその限りではない。
買い物一つにしたって電子クレジットが凍結されているので難しい。比較的に廃墟都市の境目の都市などに関しては、そういう事情を理解して、非電子クレジットを使える店が多いが、だが基本的に医療に関しては根本的に表社会のそれを受ける事が出来ない、という弱点がある。そう、裏社会という圧倒的自由な世界はしかし、常に自己責任という言葉が付きまとっている。
だがそれでも風邪を引く奴は風邪を引く。ならどうするのだ? 表社会の医師を頼れないのだ、やる事と言えば決まっている。
闇医師に頼るのだ。
表社会で金になる医療技術は此方、裏社会でも金になる。何せ、此方は表よりも遥かに殺し合い、大きな怪我をする場合が多い。生傷の絶えない連中ばかりで、環境も劣悪。そうなれば怪我や体調を崩す連中で溢れかえる。この劣悪な環境下では死ぬ事すらあり得るというのだ、医療は非常に大事であり、長生きする奴ほどその大切さを理解する。そして基本的には闇医師とコネクションを作り、そいつと契約して固定客となる事で治療して貰うというシステムになっている。
そんな訳で、トーマ・アヴェニールがECウィルスに感染している以上、信用の出来る腕の良い闇医師へと繋がりが必要だった。そして幸運なことに、付き合いは出会う以前からあった。師匠から受け継いだコネクションの一つであり、怪盗活動に対して理解のある人物たちでもあった。
トーマの体の状態が非常にデリケートな問題であり、リリィとのリアクトで再感染する為、定期的な診断の為にトーマを闇医師の所へと連れて行く必要がある。
つまりは《ドク》の所である。
「良し、出るぞ」
「こっちも準備オーライ」
闇医師に定期診断に向かう時は、トーマだけではなく、自分の体やエリーを見て貰う前提でもあり、リリィを連れて行く必要もある。その為、空を見上げれば月が浮かび上がっており、月光だけが灯となって廃墟を照らす時間帯となっているのが解る。その中でも今夜は新月の一つ手前の三日月。か細い月の姿からは僅かな灯しか得られず、世界のほとんどが闇に包まれている。当然ながら整備されていない場所である為、周りに街灯なんてものは一つも存在しない。
アジトから4人で出た瞬間から完全な闇の世界だ。
だが此方の方が遥かに移動がしやすかった。魔法を使えば暗視なんて簡単に出来る上、トーマとリリィの手を掴み、エリーに肩を捕まらせ、そのまま闇の中を歩けば、あっさりと闇の中に存在する虚数領域へと踏み込み、存在する位相を変化させる。それによって本来の次元からは此方を見る事が出来ない、ズレた闇の中の世界を誰にも見られる事もなく、闇の中限定で歩くことが出来る。
こんな、月明かりがほぼ存在しない夜であれば、街灯も存在しないからどこへでも行ける。廃墟の合間を歩きながら進んで行く。派手に動かなければ僅かな月光に照らされて姿が影の中から飛び出して、領域から外れるという事もない。非常に便利な技能だ。言葉で説明する分には完全に意味不明な原理である為、他人に理解を求める方が難しいが、慣れてしまえば驚きもない。これほど便利な技能もない。
まぁ、それも管理局に所属するような事があれば使用禁止制限が付くだろうが。
師匠から学び、そして継承した技の数々は余りにも悪用しやすいのだ。実際、怪盗の為に悪用しまくっているのだから文句のつけようがない。これがあれば警備やシステムを無視して一気に施設の中枢部まで影が続く限り侵入できる。そしてこれを使って既に数億レベルの被害を出しているのだから当然と言えば当然だろう。
だからこそ、怪盗なんて事をやっているのだが。
「あー……夜風が気持ちいいわ。夜の散歩って結構好きなんだけどなぁ、俺。こんなところでうろつけば一瞬で囲まれるから中々やる機会がないのが残念だ」
「夜は実験動物が歩き回っているからなぁ……」
実に恐ろしい事になるのだが、使わなくなった実験動物や飽きた実験生物をリリースするキチガイが一定数、ここに潜む研究者には存在するのだ。まぁ、迷惑をかけた端からそういう連中は粛清されてしまうのだが、それでも実験生物の類はしぶとく生き残って繁殖する。日中は人が多いから隠れているが、夜になると獲物を求めて実験動物同士で殺し合うのだ。
ここは悪夢か何かだろうか。
と、そんな事を考えると甲虫と龍鱗を纏った生物が獲物を求めて歩いているのが見えた。歩いている位相そのものが違うので、直感的に感じられても、触れる事も見える事も出来ないので、此方に気付く事もなくそのまま通り過ぎて行く。その姿を見送りながら、歩き続ける。
「俺、偶にここ本当にミッドチルダかどうかなのかを疑うんだよなぁー」
「まぁ、俺もそれは疑うから安心しろ。《外》とここじゃまるっきり別世界だからな。別世界って考えた方が早いかもしれんね」
「だよなぁ……」
「正直、良く滅んでないよね……」
リリィの呟きにトーマがそうだよなぁ、と頷く。その言葉にエリーが頭を横に振った。
「そもそも廃墟都市、或いは廃棄都市は管理局側の理解があって存在している区域なので、別段不思議という訳でもありません。此方での活動や混沌が存在出来るのは此方側に管理局の高官に対して顔が通じるものが一定数存在するのと同時に、管理局側でも廃墟都市の方に利益を感じられるものがあるからです。ですので管理局側でも安易に滅ぼす、一斉検挙をするなんて事は考えていません」
「えーと……必要悪、だっけ?」
そうそう、とトーマの言葉に付け加える。僅かな月光が照らす開けた場所を避け、なるべく廃墟の影を選んで歩く。影が濃ければ濃い程、隠蔽は完全なものとなるのだから。一応用心しておくのに越したことはないのだ。
「明確に近くに自分より下の存在が居ると人間ってのは安心するし、それが悪だと明確な目標ともなるから気合が入る。だけどそれとは別に、法律の穴を掻い潜って行動、活動、研究が出来る場所で、法律を守っていては調達出来ないようなものを調達できる場所でもあるからな、同じ世界内で」
「あぁ、基本的に別の次元世界まで行く必要ないから時間の節約にもなるんだ」
「まあ、それ以外にも細かいのは色々とあるんだけど、気にする様な事でもないしな。管理局が積極的にここを掃除するつもりはないんだって覚えていればいいさ」
まぁ、そんな風に体勢が出来上がり、管理局が潔癖な部分を見せなくなったのは
当時の時空管理局のトップと認識されていた最高評議会は唐突に暗殺され、その姿がただの脳味噌であったというのがまさか次元ネットで大公開される、とは思いもしなかっただろう。そうやって管理局のトップが醜い脳味噌だったと次元世界に広く公開され、同時に汚職、裏切り、賄賂、そういう証拠が次元ネットで一斉公開。管理局の信用がズタボロとなって砕け散っていった。それによって昔の潔癖で次元世界を開拓する方針から大きく改革された。
「まぁ、最高評議会の暗殺と、汚職の告発があったおかげで管理局は方針転換を余儀なくされた―――そしてその結果、今の混沌とした管理局と廃墟都市の関係が始まったわけだ。元々癒着していた犯罪者側と管理局側が露見したせいで管理局内部で大粛清、そしてそれに伴い管理局の力が低下し、広く広げていた海の活動を縮小させながら、必然的にある程度の悪事を見逃さないとやってられない形になって来た」
まぁ、それが原因で人心は管理局から離れたのもある。
「50年前までは就職するなら管理局か聖王教会のどちらか、って言われていたらしいな」
「らしいな。それだけ管理局と聖王教会の権威が凄まじかった時代でもあった、って事だ」
トーマの言葉に答えると、リリィがそれに言葉を続けた。
「聖王教会は《最新の聖王》を抱える事で権威を回復させつつあるけど、管理局の弱体化と権威の喪失に関しては中々回復出来る事ではないらしいね。それまでは技術、支配権、あらゆる分野において管理局が保有していたのも管理局の大粛清に伴い、利権とかが流れて企業がそれを購入、ミッドチルダは実質的に管理局をトップに、権利を購入した大企業との連盟による支配体制に移ったんだよね」
「そうやって社会構造に競争が生まれた。これで漸く健全な社会の片鱗が見えて来た、ってのが爺の言葉だったな」
まぁ、それでも50年前の話だ。それから50年が経過している。管理局はまだ持ち直してはいないが、未だに就職先としては最大手をキープしている。とはいえ、管理局だけ! という事態はなくなったが。今では管理局に並ぼうとする大企業が多く見えて来たし、高度成長による経済の活性化も見えてきて、色々と文化に多様性が見えて来た。
今の管理局の方針は地盤固めだが、後100年はこの方針が続きそうだと専門家は言っていた。何せ、今までの管理局の存在そのものを揺るがすような出来事だったのだ。仕方がないと言ってしまえば仕方のない話だった。
「と、見えて来たな」
社会の話をしている合間に目的地に到着する。と言っても場所は元ホテルの廃墟である。廃墟となる前は50階を超える超大型ホテルだったのだが、それも今では半分崩れている。エントランスも完全に崩落しており、横の窓から乗り込み、中に侵入する。
スタッフ用の通路へと入り込み、そこから地下へと進む階段を見つける。その先は崩落している様に見えるが、あくまでも見た目だけだ。実際は空間AR投影によってそう言う風に見せているだけであり、踏み込んでみれば、崩落していないのが解る。
それを抜ければ、先ほどまでの崩落していた空間とは違う、清潔に保たれ、磨かれた空間に到達する。
《診療所》である。二人の医者が共同して経営する場所であり、師匠から継いだ繋がりでもあった。つまり、手札をある程度見せても信用できる相手となる。
そしてここまで来ると蛍光灯によって通路内が照らされ、光によって影が消え去り、強制的に隠密状態が解除される。そうやって踏み込んだ通路の奥、そこには受付窓口があり、此方の唐突な出現に驚き、顔を見て安心する息を吐く二人の少女の姿が見えた。片方は鮮やかな桃色の髪をしており、もう片方は燃え上がる様な赤い髪の毛をしている姉妹だった。
「あー、驚いたー……もぉ、その登場の仕方はやめてよぉ」
「あははは……いや、出来たらセンサーに引っかかる登場してくれると助かります」
「や、アミタちゃんキリエちゃん」
「とりあえずは、此方はお土産となっております。ル・シェイドのカスタードパイです」
「キャー! これずっと前から食べたかったのよ―――!」
アミタとキリエのフローリアン姉妹が持ってきたお土産をエリーから受け取り、キャーキャー言っている。お土産を事前に用意しておいて正解だったな、と思っていると、トーマが首を傾げていた。余計な事は言うなよ、と視線を送れば解っている、と視線を返される。流石にそれぐらいは解るか。女が喜んでいる時は無駄に口を挟まず、キャーキャー言わせておけば満足するのだ。寧ろここらへんで変にアピールとかすると怒る。
不思議な生き物だ。
それはそれとして、
「定期健診の為に来たから、ドクとグランツ博士に宜しく」
「あ、はい。少々待っててくださいね。後キリエ、抜け駆けは駄目だからね」
「食べない食べないって! 仕事が終わったらパパたちを呼んでみんなで食べよう」
アミタが裏の方へと消え、キリエがすく裏にある冷蔵庫の中にお土産を入れ、そして受付まで戻ってくる。
「あー、ここに居ると中々表のお菓子に手がつかないのよね。おかげで作る事ばかり上手くなっちゃって、本当に助かるわー。キリエちゃんマジ感謝」
「声が割とガチトーン」
「キリエちゃんとアミタちゃんはドク達の護衛もやってるからな」
「そーそー、だから中々ここを離れられないのよね。ここらへんだと最終的に信じられるのって身内だけだし」
悲しすぎる理由だった。まぁ、間違ってはいないのだが。この裏社会だと裏切りや騙しとかが普通に横行するし、研究成果やお抱えの医師にする為に人質を取ったりするし、信用信頼できる筋ではない限り、自分の身内に戦闘技術を覚えさせて護衛させるのが一番だ。キリエもアミタもまだ15程の歳でしかないが、それでもドク達の手によって強化された武装やデバイスを装着している分、かなりやる。というかこの姉妹はかなり異質な魔道科学を武器に使うから、普通の魔導士とは勝手が違うのだ。
「もぉ、そういう意味ではほんとマジサイアクな場所なんだよね。自由にオシャレする事も出来ない」
「そりゃあご愁傷様。同じ缶詰組としては心底同情するぜ」
「いや、君とは一緒にされたくない」
「真顔で否定するの止めろよぉ……」
トーマが崩れ落ちそうになるのをリリィが支えている間に、アミタが戻って来た。
「二人とも暇だったので大丈夫ですよ。トーマさんは2番、アレクさんは1番の扉へどうぞ」
そう告げるアミタに片手を振って感謝を告げながら横の扉から奥へと進んで行く。既に何度か訪れた事のある場所なので、迷う事もなく、その先にある通路でそれぞれの診察室に入る。なんというか、ここら辺は本当に普通の診療所―――というよりは病院に近い形状をしていると思っている。よくもまぁ
まぁ、ドクもグランツも、どっちも怪物臭い科学力と頭脳の持ち主だから解ると言えば解るのだが。
そんな事を考えつつ、エリーと共に指定された扉の向こうへと抜ける。扉を開き、抜けた向こう側にはこじんまりとした空間が広がっており、診察などに必要な最低限の道具が並べられていた。そこに一人、紫髪の少年がだぼだぼの白衣を装着し、スツールの上に足を組んで座っていた。その姿を見て、引きつった笑みを浮かべた。
「なにやってんだドク」
「前の体に飽きて来たからね、ちょっと新しい体を調達してみたんだけどどうかな? 子供時代の記憶なんてものはもはや私の中にないし、だったら新しく子供である事を経験すれば楽しいんじゃないかなこれ!? と思ったんだけどなぜかアミタ君やキリエ君からは不評なんだよね。グランツ君も終始苦笑いだし!」
「その発想が原因かと思われます」
ドク―――Docterの略称。本名は不明。ただこの診療所、G&Dを経営している二人組のうちの一人で、こんな風に
もう一人、今トーマの診察をやっているのがグランツ博士であり、其方は名前を隠していない。というか非合法な研究をやっているだけであって、そこまで重い罪を負っていないからだ。そしてアミタとキリエの実の父親でもある。ロボット工学、そして環境干渉、粒子、エネルギーに関するプロフェッショナルであり、トーマの診察はもっぱらグランツの仕事で、そこに手を出すのがこっちのドクの仕事だった。
グランツ曰く、ECウィルスは肉体性の変異を引き起こす事で未知のエネルギーを生み出すウィルスである。だがそれを解析すれば環境に対する完全にクリーンなエネルギーを生み出す事が出来るかもしれない、と発言していた。自分の研究を進める為にも、トーマの経過観察や治療に関しては無料で請け負ってくれていた。
この界隈、闇医者に治療を頼もうとすれば札束で殴る事になるから、実際に助かる。
「しかしドク、今回はショタかぁ……不便じゃない?」
「うん。正直手が届かない所が増えたから物凄く後悔している。おかげで研究が滞ってるよ」
「駄目じゃねぇかこいつ」
「ま、診察の方は安心したまえ。さ、そこに座って見せてくれたまえよ。君も君で中々興味深いサンプルだからね」
はぁ、と溜息を吐きながらドクの前のスツールに座り、ドクがスツールから飛び降りる様に立ち上がった。見た目は完全にショタなのに、これで二児の父親と同年代なのだから恐ろしい話だ。おそらくこの世で最も邪悪なショタだろう。性別、人種、種族、形状を一切考慮しないこの男の定期的な変態は、ある意味楽しみでもあるが、
生物は本来からの形から逸脱すればするほど、狂って歪んで行く。
それがドクには無かった。元から歪んでいるとしても、それが更に歪んで発狂し、自我が溶けて行く。姿形や性別を肉体的に変えるという事はそれだけのリスクを背負う事なのだが、出会ってから6年間、この生物がそんな風に発狂する事は一度も見たことがないし、そんな兆候すらも見せない。
ある種、精神的な怪物だと言える。
「さてさて、経過観察としようか」
ショタドクが正面に来ると、覗き込む様に座っている此方を眺めてくる。両手でウィンドウフレームを作る様に捉え、まるでふざけている様にしか見えない。初見の人間であればお前、ふざけてんのか? と口に出したくもなるだろう。だけどこの生物に限っては、これで大まじめだった。数秒間そうやって観察していると、
軽く足取りで近づき、両手を素早く振るった。目にも見えない速度で手を振るい、そして振り終わったと思えば何時の間にかその手の中には妙な形状の器具が指の間に挟まる様に掴まれていた。
「診察、そして治療完了」
「相変わらず見事なもんだ」
腕を回し、軽く首を回し、リンカーコアに感じる負荷がだいぶ軽くなったのを感じる。ショタドクがポケットの中に器具を突っ込みながら、カルテを取り出し、そこに内容を書き込んで行く。
「リンカーコアがC+レベルまで削られていたねー。今の処置で軽くA-レベルまでは持ち直させたから、1カ月後にはまたここに来るように。と言っても一時的な活性化で生活を見るからに2週間でBぐらいまでは落ちるかなぁ。魔力を激しく消耗すればこの処置も一瞬で解除されるから、そこら辺は注意する様に」
「どーも。やっぱ頭はおかしいけど腕前に関してはすげぇよアンタ」
「はは! 見ての通り天才だからね! 私は!」
しかし元々はAAA+あったリンカーコアも、ついにC+が素のレベルまで退化していたとは、少しだけショッキングな事だった。だが、まぁ、別にリンカーコアが消えた所で死ぬって訳じゃないし、盗法があるから魔法なんて他人から魔力を盗んで魔法を使えば良いのだから別に、困らない。とはいえ、魔力が喪失したのをヴィクトーリアに知られたらアレにガチ泣きされる。
「どうだ、ドク。3年、持つか?」
「んー、私無しだったら間違いなく1年でダメだったねぇ。ま、私が処置している間は3年程度軽く持たせるさ。君の根本的な原因はリンカーコアの欠損、そしてそこから圧迫を与えている
「まぁ、どちらに関しても基本的に後悔はないから、生活を改めるつもりはないよ」
「妹にリンカーコアを削ってまで自分の資質を譲り、そして拾った劇薬が体を蝕むというのを理解しつつも面倒を見る―――いやぁ、実に泣かせるね。素敵なお話だ。人情溢れるね。それで満足出来ているのが当人だけ、という事実を見なければね!」
「知らなきゃ罪にならないのさ、ドク。知らなければ幸福のままでいられる。だったら態々苦しむような事を教える必要はないだろう?」
「まさしくその通り! 世の中は基本的に自己満足の塊だからね! そう言う自分勝手さが私、大好きだよ! まぁ、それでも正直どうかと思うけどね! どうせ隠し通せないだろうし!」
「その時はその時さ。どうにでもなる」
苦笑しつつ受け取ったカルテを確認し、やっぱり将来的にトーマとリリィの面倒を見ているだけでリンカーコアが消えるというのを確認した。元々、ダールグリュンの家を出る時にもう二度と雷を使わないというのを誓う為にも、
その事によって雷の変換資質を失い、リンカーコアも削れて傷が残り、最大魔力量が減った。そこからトーマを拾い上げた結果、一般的な生活でECウィルスがリンカーコアを殺す様に負荷をかけているらしい。流石世界を殺す毒と呼ばれるだけはある。魔力の結合分断だけではなく、デフォルト状態でリンカーコアキラーまで搭載しているもんだった。
まぁ、それでも傷つきのリンカーコアだからこそ影響されているとでも表現すべきなのだろうが。3年、ヴィクトーリアが当主となって忙しくなり、俺に逢いに来ることが出来なくなるまで保てばいい。それ以降は逢う事もないだろうし。
トーマは馬鹿だし言葉でどうでも騙せるから問題はなし。
「本当に魔法が必要であるならば、私が融合してリンカーコアの代替をすればそれで事足りますし」
「愛の重い道具だね?」
「なに、重い方が多少は実感があるというもんさ」
「ふーむ、そこら辺の情緒は私には解らないものだからねぇ、少し羨ましく思う話なんだ」
ほら、とドクは足を組みながら言う。
「私の場合、自由に体を取り換えられるからね? 男も女も子供も究極的には必要ないんだよ、私一人で全てを調達し完結させることが出来るからね。だから君らが感じる愛やら恋というのは実に興味深い。ま、半世紀追いかけている話ではあるが未だに答えは見えない、どうでもいい話の一つさ」
それよりも、だ、とドクは言葉を続けた。
「最近、古代ベルカ関連のロストロギアが発掘されたという話を知っているかな?」
「聞いてないな」
「なんでも古代ベルカ中期、聖王オリヴィエ所縁の品が発掘されたらしい。血筋を辿れば正統な保持者は現代の聖王であるヴィヴィオへと送られる事になる。……中々面白そうな話だろう? 君が好きそうな話だと思ってね、気になるなら君の
「聞くだけ聞いてみるけど、あんまり期待するなよ……今年は活動自粛中なんだから……」
「あぁ、そう言えば《太陽妃の首飾り》を先月盗んでいたっけね、君たちは。アレは中々派手にやって面白かった。アレぐらい派手に毎回やってくれるなら丁度良い娯楽だから私としても嬉しいんだけどね―――さて、今度は融合と浸食率に関する診察を行うから彼女と融合してくれないかな」
「あいあい」
オリヴィエの遺物ねぇ、と呟きながら残りの検診を終わらせる為にも、ゆっくりとエリーへと手を伸ばした。
何か、ネタになるかもしれないな、と先ほどの話を思い出しながら、融合した。
ECウィルスは存在するだけで感染者の周りを破滅させて行く。発動している、していないにかかわらず。人生ハードモードとなる。という訳でグランツ&ドク……一体何者なんだ……。
あんまり話題とか出ないけど、医者とか環境的に必須だよね、というアレ。偶の風邪イベントでしか医者の出番とか全く見ないけど。
それはそれとして、大体の顔見せが終わったので、ちょくちょく世界に関する情報をリリースしつつシナリオ開幕開幕ー。
ところでR18どこ???