「ハァ…ハァ…ちくしょう…」
地形の変化が激しい渓流を一人の傷だらけの青年が走っている。体力が切れて膝に手をついて休むと、茂みから影が現れた。
「くそ…体力の概念無いのかよ…」
「俺はお前達とは格の違う存在だ。」
紫紺の大鎌を持った者はそう言って蒼い竜眼を持った青年、ランに近づき
「心配するな。後でお前の愛した者の首も刈って一緒に並べてやる。」
「ちくしょう…」
よりによって今再来とは。レイムも不在でリンも渡り合えるかどうか分からない相手。煌黒龍の武具を着た者に、ランが一人で勝てるはずがない。閃光玉も煙玉も使い果たしてしまった。
「終わりだ。」
「いいえ終わりません。」
男がサッと振り向くのとほぼ同時に雷が落ちる。
「リン!どうして…!」
「気配を感じました。」
男はすぐに起き上がり
「ちょうど手間が省けたな。」
続けて雷が落ちるが今度は避けられる。リンは雷を溜めて大技を放とうとするが男の方が速い。
「リン!!」
降り下ろされた鎌を間一髪避けると距離をとった。
「リン逃げろ!お前だけなら逃げれる!」
「確かに俺も幻獣には追い付けん。だがいずれ殺す。どちらにせよこいつは聞く気なさそうだが。」
リンは再び雷を溜めて雷撃をレーザービームのように放つも男は交わし、間合いを詰められたので自分の周りに雷を落として足止めさせる。その隙にランが背後から斬りかかるも男は鎌を振り回して受け、絡めるように捻ればランの手から太刀が離れる。
(まずい…!)
バックステップで距離を取った瞬間
バリバリッ!
「な───!」
リンが放った特殊な雷はランに命中し、全身が痺れて動かなくなって倒れたランはパニックで頭が真っ白になった。男は兜の中で笑い
「馬鹿め。」
と言ってリンが離脱するのを尻目に止めを刺そうと歩み寄った1秒後、男の背後から白い物体が男をぶっ飛ばし、そのままランの上を物凄い勢いで通りすぎた。
「チッ、やっぱ堅ぇな。」
ランの近くに倒れた男はすぐさま起き上がり次の攻撃を避ける。
「ラン!」
リンが駆け寄りランに触れて電流を流すと元通り動くようになり、起き上がって見てみれば純白のナルガクルガと煌黒龍の武具の男が激闘を繰り広げていた。
「もしかしてリヒト…!」
リヒトは何度か棘を飛ばすが男は完全に交わし、突っ込んできたリヒトの刃翼を受け流すとその腹に向かって鎌を振り上げる。これを避けたリヒトは超加速で男の周囲3方向に鎌鼬を発生させると、もう一度加速して自らそこへ飛び込んだ。リヒト自身は鎌鼬の影響を受けること無く男へ攻撃。男は防ぐも流石の体格差と力差で押し飛ばされ、真空刃の渦に巻き込まれる。血がほとばしる中追撃、宙返りをして尻尾を叩きつけると男は動かなくなった。
「お前がランだな?」
「え…あ、はい。」
「レイムはどこに行った?」
「龍王に会いに行くと…」
「あのバカ…まぁいい。戻るぞ。お前の両親も来てる。」
「死体は──?」
「ほっとけ。取りに来られても困るからな。」
「はい…リン大丈夫?」
「えぇ…」
「無茶するなよ。何かあったらどうするの。」
「ごめんなさい。気配を感じて…いてもたってもいられなくて…」
「…まぁ助かった。ありがとうリン。リヒトさんも塔に?」
「さん付けんな気持ち悪ぃ。俺は行かねえ。お前達とユクモを守らなきゃなんねぇ。無事帰ってくることを祈るしかねぇな。」
────────────────────
「そ…祖龍様ぁ…わたくし…もう…お早く…」
「まぁそう焦るな。楽しもうぞ」
ズチュズチュと淫乱な音をたて、四つん這いで王の巨根を受け止めているのは下僕のバルファルク。雌の下僕は祖龍を守るだけでなくその血を絶やさぬよう子種を注いでもらうという使命もある。なのでこうして番がいない雌の下僕は日々入れ替えで祖龍に種付けしてもらうのだ。下僕にとっては決して苦痛ではなく、むしろこの上ない名誉でもあるのであえて番を持たないと決めている者もいる。
他の種とは違い、圧倒的な力を持つ祖龍は交尾を早く済ませる必要がないため快楽の器も大きい。バルファルクは何度も絶頂し、四肢は震え腹は疼くどころではなかった。龍王とて自らの血を残す雌に敬意は払う。苦痛を感じないよう気遣いながら、普段から尽くしている下僕に褒美の快楽を与え続けた。
「そりゅう…さまぁ…!」
いよいよ乱れてきたので
「ではいくぞ。」
と言って力を抜けばドクンという衝撃と共にバルファルクは痙攣し声を上げる。
「フフ…良かったぞ。」
ヘナヘナと寝そべって秘裂から精を溢れさせながら動けずにいる彼女に祖龍は寄り添って撫でてやる。
「祖龍様…ありがとうございます…」
「あぁ…このまま少し休め。」
と、そこへ竜人族がやってきて
「祖龍様、ご無礼をお許しください。先程人間が我らの里に単身でやってきて祖龍様にお目にかかりたいと。」
「うむ…」
祖龍は少し考え
「今種付けが終わったばかりだからな…まぁこれからお前が里に戻って知らせてから来ればちょうど良いか…良いだろう連れてこい。」
「承知しました。」
竜人族が去ると同じく下僕の極ナルガクルガが訊ねる。
「よろしいのですか?」
「あぁ。単身でここに来る者などただ者ではない。会う価値はあるだろうし、あの竜人族の表情から察するに里で何かあったのだろう。質をとられたのかもしれん。」
数時間後、その"人間"がやって来る。
「…随分と若いな。」
「突然の訪問、申し訳ありません。お目通り叶い光栄です。」
「用件はなんだ。」
持っていた剣を遠くに置き、祖龍の正面に立っても立っても全く動じないレイム。刺激しないよう人間の姿で会いに来たのだ。予想通り、身に付けていた武具に皆が、特に同族の極ナルガクルガが反応を見せるが今はまだ言及しない。だがそのうちの1匹はその武具を半ば睨むように見詰めていた。その視線を無視しつつ
「今、人間達が竜の支配もしくは根絶を企てています。我々守人はそのような者を止めるべく動いておりますが大国が相手ですので…龍王である貴方にも何かご助力願いたいと思い、また竜人族が何故か我々を拒絶しているので直接参りました。」
「願いに来るには相応しくない格好だな。せめて他の物を着けてこようとは思わなかったのか?」
「あぁこれですか…生憎無駄殺しは控えているので、それにこれは私の宝物であり、無二の力をもっているので。自分の身は自分で守らないと。」
「そうだろうな。愚かな混血よ。」
「…なんだ、気づいてたんなら言えば良いのに。かしこまっちゃったじゃないか。」
「仮にも血の繋がりがあるのだ。気づかぬ筈がない。それに人間の血が妙に発現していると聞いていたからな。」
「なら話は早い。命令を撤回してください。この世から人間を消し去れば世界の───くっ…」
降ってきた紅雷を間一髪避ける。
「残しておいてはなにも変わらぬ。残しておけば竜は滅び、やがて世界が崩壊する。」
「それはお互い同じだ。」
「…人間はな、森に出ていた我が妻と子を理由無く殺したのだ。相当な数でな!」
祖龍がそう叫ぶとレイムは少し動揺する。
「子供!?まさか…!」
「祖龍の子だ!もう許さぬ!もう我慢ならぬ!下僕も何匹か殺され、黒龍も度々襲撃され紅龍へと変移した。父がなんと言おうと我は実行する。混血、貴様は仮にも我が弟。邪魔をしないと誓うならお前とお前の番の命は補償してやる。邪魔をするなら容赦はしない。」
「あぁそう…」
レイムが超加速で剣を取り鞘を払うと祖龍がブレスを吐こうとするが
「お待ちください!」
割って入ったのは極ナルガクルガ。
「なんだカミーヌ、邪魔をするつもりか?」
「違います…しかしこの子の命はどうか…」
そこそこ年配のカミーヌと呼ばれた極迅竜をみてレイムはハッとする。
「この子は私の娘の子…その武具も娘の…貴方の母の物でしょう?禍々しさが無いことから自ら望んだということも分かる。だから命は…」
「勘違いしないで。」
レイムは剣を鞘に戻して放り投げ、パチパチと防具を弄るとそのまま龍の姿になった。こうなることを予想して防具に細工し、ワンタッチで外れるようにしておいたのだ。
「本性、ということか。我から王座を奪うつもりか?」
「出来れば穏便に済ませたいんですけど。…駄目ならこうするまでです。命は取りません。」
「小僧が…調子に乗るな!」
複数の龍雷をレイムに落とすが避けずに食らう。
「何故だ…なぜ効かぬ…」
答えるように咆哮を上げると分厚い灰色の雲に紅雷が走る。
「バカな!この力はまさか…」
その紅雷がレイムを穿つと爪、翼爪、翼の筋などが赤黒く変色した。
「貴方は王。貴方は強い。でもこの力を持った僕に貴方の力は無意味。僕の前では貴方は爪と牙でしか戦えないただの龍に過ぎない。」
「あり得ん…何故お前が真祖龍の力を…それもまだ成龍でもないお前がここまで…!」
祖龍自体、異次元の存在ではあるが、真祖龍はそれを遥かに上回る。祖龍は自らの力を森羅万象を通して具現化させるのが主であり、それを味方にする力は当然真祖龍の方が強い。王がどんなに強くても、真祖龍の力を持っていない以上それを完全に制御しているレイムに対しては余程の実力差がない限り敵わない。レイムは幼少期から今に至るまでずっと鍛練をしてきている。若くして真祖龍の力を使いこなせるのもそれが関係しているだろう。ただでさえ上位互換だというのに、力を制御出来て以来鍛練なんてをしていない王は手も足もでないのだ。
「相手が悪かったな。」
「ぐぅ…貴様には分からぬ…父母に囲まれのんびり暮らしてきたお前には貴様などに…例え父上が介入しようとも我は決して───」
「父は死んだ。知らなかったんですか?」
「何…?」
がく然とする王。
「父は母と兄を救うために死んだ。天廻龍の汚れから救うために。」
「天廻龍が…!?」
敵意も完全に無くなり呆然とする。周りで身構えていた下僕たちも戸惑った。
「ミストは!?貴方の母はどうなったのですか!?その武具は…娘が体の一部を提供した…のではないのですか…?」
訝しげに思いながらもレイムは過去に何があったのかを説明した。(詳しくは2章参話)
「何故…天廻龍が…いやまて…まさか…」
「心当たりがあるんですか?」
「…」
祖龍は黙りこみ、レイムは続きを待つ。
「…竜を…平衡を守ると言ったな…?」
「はい。」
「…浄化の覚悟はあるのか?」
「もちろん。最後の手段として──…これは…!」
ハッとレイムが空を見上げると雲に穴が空き、
「ユイ!」
臨戦態勢のユイが現れた。
「すみません。やはり耐えられなかった。」
「嵐龍?お前の番か?」
「はい…」
念のため備えるレイム。本龍には悪いがユイでは祖龍の足元にも及ばない。
「クック…」
「?」
「クッハッハッハッ!我に敵意を向けるとは。肝が据わった番だ。」
「…」
笑いはどこか乾いていて、悲しげだった。
「お前、名は?」
「レイムですが──」
「レイム、お前は覚悟があるのか?友も愛する者もお前の力で滅ぼしてしまうかもしれぬのだぞ?」
ユイが先に答える
「私は承知で彼に申し込んだ。」
「…あぁ。僕は平衡を守る者。」
「そうか…番もいるし先のことも…いやなんでもない。レイム、お前の提案を検討しよう。煌黒龍にもそう伝えるが良い。竜人を通してまた知らせる。立ち去れ。」
「…ありがとうございます。」
これ以上話すことはないし、予想以上に円満だったので武具やらポーチやらを拾って踵を返しかけると
「待って。」
呼び止めたのはレイムの祖母にあたるナルガクルガ、カミーヌ。
「どうしました?」
「…不思議なこともあるのね。祖龍であるのに迅竜が混ざるなんて。よくミストに似ている。」
「…最後まで僕らの身を案じて、眠るように死にました。」
「そう…娘は幸せだったのね。先代様にも感謝しないと。もちろん生まれてきてくれたあなたにもね。…引き留めてごめんなさい。いつでも来て。」
「はい。…さっきはありがとうございました。」
───────────────────
「無駄足になってしまいましたね…」
「まぁ、話し相手がいてくれた方が楽だよ。」
塔を発ち、野宿する2匹の古龍。ユイは雲の中で浮きながら寝れるのだがレイムに合わせて地上に降りていた。レイムもユイの翔ぶペースに合わせるため持ち物は首にぶら下げて龍のままでいる。
「肝を冷やしましたよレイム…」
「心配かけたね。まさかこんなに穏やかに話が進むとは思わなかったけど…」
「でもこれで1つ解決しましたね。…良ければ私の方も解決してくださると嬉しいのですが。」
そう言いながらレイムのスリット尻尾で撫でれば微笑んで仰向けになったので、2匹は熱い交わりを始めたのだった。
────────────────────
「本当に良いのですか?」
主に念を押すのは祖龍の右腕とも言える、下僕の中で最も強い力を持つ雄の極み灼き凍るエルゼリオン。漆黒の、ジンオウガのような体格に巨大な巻き角が2本頭に生えている。その半身は炎を、もう半身は冷気を帯びていて勇ましくも神秘的な姿をしている古龍だ。
「構わぬ。血もあやつが残してくれる。」
「キリのことですか?」
キリとは雌の極ジンオウガのことで祖龍との子を宿している。
「まぁそれもある。子は祖龍ではないようだが血は繋いだ。後はあやつらだ。」
「紅龍様と…レイム、ですか?」
「左様。まぁ情事の心配をしている暇はないな。」
塔の最上階の真ん中に立ち、その意思を放った。
──前言ヲ撤回スル。身ヲ隠シ子ヲ守レ──
「…!!」
「ユイ?」
雲の中の空洞を翔ぶユイとレイム。ユイが風を操ってレイムを持ち上げていたので彼は翼を広げるだけで翔んでいる。
「王の意思です。身を隠せ子を守れと。」
「…」
「いやに素直ですね。…どうしました?」
「僕に伝えられるはずなのに…それになんで"今"なんだ?」
〇〇〇
「…祖龍様。」
「来たか。」
塔へ舞い降りたのは白き龍ヴェルサ・ノワ。
「どういうことだ祖龍。」
テスカト種にも似たその全身から怒りのオーラを放っている。下僕達は怯んだが、王は意に返さず
「隠居していた我が父は平衡を唱えていた。お前と真逆でな。」
「なんだ、今更その教えに従うのか?そんな儚い夢物語をか?」
祖龍はこれを無視し
「昨日、父が死んだと初めて知った。」
「寿命だろう。」
「父上には比較的若い下僕を付けていた。老衰なら何故戻ってこない。それに今900歳くらいのはず。老衰には少し早い気もする。」
「だとすれば人間の───」
「父上も下僕も殺された。天廻龍にな。直接ではないがそれが原因だ。」
「それで?」
静かに、しかし危険な物を帯びた口調で続きを促す。
「お前の下僕に天廻龍が居たな?90年ほど前に人間に殺されたと言っていたがどうなのだ?退位したとて祖龍に理由無く襲いかかるなど考えられん。」
「…混血に会ったのだな?」
「認めるのだな?平衡を語る邪魔な我が父上を襲わせたことを。」
「平衡など夢にすぎないと、お前も私と同じだと思っていたが、殺された妻子などなんとも思わないということか?」
祖龍はこれも無視し
「だがお前は失敗した。我の下僕は優秀だろう?何年もの間その子供達を隠し育てていたのだからな。」
「裏切ったな祖龍…」
「我は誤った者に惑わされ、信用してしまった。だが父上と下僕が遺した魂がそれを教えてくれた。己の憎しみと復讐を成就させるために父上を殺めた者の同志になどなれん。混血を…弟を信用せざる得まい。お前が信頼出来ないのだからな。我は王として、お前を断じて許さぬ。」
「…宣戦布告というわけか。」
周りを囲み始めた下僕達に目をやりながら気を練る。
「良いだろう。私の嘆きを、怒りを思い知らせてくれる。」
〇〇〇
「どうしたのですかレイム、気難しい顔をして。」
「…」
「…!何か来ます。後方です。」
自分の嵐を突っ切る気配にユイが警告し、2匹は向きを変えて警戒する。雲を切って来たのは極ナルガクルガ。所々が赤く染まっていた。
「お願い降りて…!」
「翼を広げてください。私が風で持ち上げます。」
地上に降りるとレイムは人の姿になり持ってきていた回復薬を傷にかけ、回復薬Gを飲ませる。
「何があったんですか?」
「ヴェルサ・ノワが我々を…助けて…!」
〇〇〇
「オオォォ───!!」
エルゼリオンが緋とも蒼ともつかぬ色をした球体を何個も発生させると近くにいたヴェルサ・ノワが引き寄せられる。それに巻き込まれれば古龍であっても体がバラバラになるだろう。
「こしゃくな…!」
ヴェルサ・ノワがそれを上回る威力のブレスを吐くと球体は連鎖爆発を起こし、真下にいたエルゼリオンは一瞬で戦闘不能となって地に伏せた。
「フン…だが殺さんよ。お前は使える。」
と、紅雷が降り注ぐ。
「我を勝手に殺すな。」
「しぶといな。さすが王、か。」
ヴェルサ・ノワが放った光弾を避けるが凄まじい爆風に飛ばされる。
「グ…」
「私がいれば良い。祖龍などもはや必要ない。」
ボロボロになった祖龍の首に前足を乗せる。ヴェルサ・ノワも傷つき疲弊しているが弱ってはいない。塔に戦えるものはもう残っていなかった。そして前足に体重をかけ始め、ミシミシという音が祖龍の頭に響く。エルゼリオンはなんとか体を起こそうとするが無理だった。
「祖龍様…!」
「グ…ヴェルサ・ノワ…」
「なんだ、遺言でもあるのか?」
王は不敵な笑みを浮かべる。
「今は勝利に酔うが良い…だが…必ずや我が弟たちがお前を下すだろう…ガッ…」
前足が甲殻を砕き喉を潰し、しばらくして王は息を引き取った。
「祖龍…様…」
ヴェルサ・ノワは無言である場所へと向かう。
「しまっ…キリ…!」
塔の下で隠れている身重のジンオウガは竜人族が見張っていたが敵うはずもなく消し飛ばされる。
「お前か。あいつの子を宿しているのは。」
「そんな…どうか御子は…御子だけはどうか…何でもしますから…」
「祖龍でなくともその血は残り、唐突に祖龍が生まれることもあり得る。まぁお前は死にはしないだろう。その腹の子、潰させてもらう。」
「クゥゥ…!」
雷光虫を浴びせ、それらを媒介に大放電を起こそうとするが焼き払われて、直後の突進をなんとか避ける。独りで渡り合えるはずもなく、前足でその腹を殴られてしまった。
「ウゥアグゥァァ!!」
痛みに泣き叫ぶキリを放置して再び塔の上へ。
「次、私が来たときは私に従え。でなければ雄も雌も仔竜も皆殺しにする。」
そう言い残すと、大分消耗したヴェルサ・ノワは塒へ戻っていった。
〇〇〇
「レ…レイム殿…!?」
「遅かったか…重傷の者はある程度治す。」
見張りをしていた傷だらけのバルファルクの元へ舞い降りたレイム。すると彼女は
「私は大丈夫です。私よりもエルゼリオンさんを…いや、貴方ならキリを…キリの子を治せるかもしれない…!」
教えられた方向へ行くと竜人族や他の下僕に囲まれたキリが悲鳴をあげ続けていた。あまりの激痛に嘔吐する彼女の膣からは血が垂れている。
「どいて!みんな離れて!」
突然のレイムの登場に驚きながらも指示に従う一同。祖龍はヴェルサ・ノワと戦う前、レイムが真祖龍の力を持っているということと、何かあったら彼に従えと遺言を残していた。
「グゥアァッ!ゲボッ…ダメ…」
「大丈夫落ち着いて。間に合うよ。」
キリの、傷付いた胎児のいる場所へそっと手をあてると、妻の時と同じように美しく、優しく、悲痛な咆哮をあげる。やがて大地を光の波紋が伝い、彼らに集まり包み込んだ。
〇〇〇
「それでキリは…?」
「疲れて眠ってる。大丈夫。彼女もお腹の子も無事だ。」
遅れてやって来たユイとカミーヌはその知らせに安堵する。
「伝承には聞いていましたがまさか本当にあんなことが出来るとは…」
と極エルゼリオンは感服しきった様子で
「しかし以前の真祖龍が死した下僕を甦生した時は数十年もの間眠ってしまったと伝えられていますが…?」
「甦らせた訳じゃないから。傷を治して、切れかけてた繋がりを元に戻しただけで済んだから。」
とは言えエルゼリオンや他の重傷の下僕も治したので疲れきっているレイム。真っ昼間であるが眠りにつこうとしていた。
「それにしてもどうして…一緒に戦ったのに…」
そうつぶやくと皆で祖龍を遺体を見る。レイムとヴェルサ・ノワを対峙させないためにわざわざレイムが離れてから意思を放ったのだ。
「今紅龍様に伝えております。じきにいらっしゃるでしょう。そうすれば少しは落ち着くかと。しかしこれで祖龍はあなただけです。別大陸の祖龍も既に下されたと聞いております。」
「そうか…とりあえず休ませてくれ。」
「失礼しました。お休みなさい。」
〇〇〇
「おのれヴェルサ・ノワめ…」
「従わなくて正解だったようだ。」
あれから数日後、塔には紅龍と煌黒龍アルバトリオンが降臨していた。
煌黒龍
「ここにいない方が良いだろうな。」
「同感だ。お前のところに一時的に避難させても良いか?我の住む火山ではここの下僕達が辛かろう。神域も似てはいるがすぐ近くに豊かな森があるだろう?」
「うむ…仕方ない、そうしよう。レイム、お前はこの事を人間に伝えてくれぬか?」
「分かりました。」
「それと、先程旧王の下僕が祖龍からの遺言を伝えてくれたのだが、例の煌黒龍の武具を纏った者に別の煌黒龍の一部を触れさせれば簡単に呪いが解けるらしい。」
「そうなんですか!?」
「あぁ。だから我の鱗をいくらかやろう。
そして結構な量の鱗や甲殻を剥ぎ取り(大半はレイムが治した)レイムとユイがユクモへ戻ろうとすると、ナナ・テスカトリとテオ・テスカトルの番に付き添われながら蒼白のジンオウガがやって来て、涙ながらに礼を述べる。その後レイムとリヒトの祖母にあたる極ナルガクルガのカミーヌと少し話し、飛び立った。
〇〇〇
「…わたくしは構いませんよ?貴方はそういう存在なのですから。別に珍しいことではないですし。」
「うーん、そんなに焦らなくても…確かに君に重荷に感じさせちゃうかもしれないけど、完全に途絶えた訳じゃないし。」
塔に滞在している間、雌の下僕の一部が子種を分けてくれないかと寄ってきたのだ。ユイもいるし、異端であるし紅龍もいるからと丁重に断ったものの、奇形とて真祖龍なのでその子を産むという役目を全てユイに押し付けることにもなる。
「まぁ、その気持ちはありがたいのですが。」
─────────────────────
「ラン、だな?」
「誰ですか?」
「本当に竜眼を…」
渓流にて、ランは数人の兵士と思われる者に囲まれていた。
「とりあえず一緒に来てもらいたい。」
「何処へですか?」
「悪くはしないさ。」
「…嫌って言ったら?」
男達は剣に手をかける。
「お前に直接用はない。お前の村にいる古龍に用がある。無駄な戦力を使いたくないし、生け捕りにしたいから協力してもらう。」
その意味を理解したとき、ランの内側から怒りという溶岩が爆発した。
〇〇〇
「ハァ…ハァ…」
「この…化け物が!」
対人に慣れていないラン。力と怒り任せに戦うランだが、見かけは人でも厳密には普通の人間ではないことを自覚することとなった。
「ラン!」
駆けつけたのはレイム。人の姿で剣を抜いていたがその必要はなく、振り向いたランの目は冷たい殺気を帯びていて、獣宿しならぬ竜宿しのようであった。が、レイムを見て怯えた眼になる。
「レイムさん…」
「ラン、これ…お前が?」
ランの周りには無惨にも斬り殺された兵士達。
「シュレイド兵…こっちはゲン国の…やはり組んでいたか。」
「レイムさん…なんで…」
「前にお前に渡したお守り。僕の鱗でできてるから、お前が危機を感じるとこっちにも伝わるんだ。」
実はユクモを発つ歳そのお守りを渡していた。
「レイムさん…俺…俺…」
「襲われたのか?」
「俺…人を…どうしよう…人を…」
「落ち着け。返り血を洗おう。」
半ば強引にその場を離れ、近くの川へ。その途中
「俺…どうなるんですか?」
ハンターが人に武器を向けるのは重罪であり、現行犯なら守人やギルドナイトに殺されることもある。
「リンを狙ったんだろう。良い。なんかあったら僕がやったことにすれば良い。殺らなければお前達に命の危機があっただろう。とりあえず落ち着け。兄さんはどうした?」
「村にいます…」
「ならゆっくり戻れるね。…ほら着いた。洗ってこい。」
冷たい水で体を洗うと心もすっきりしてくる。しばらくして
「もう大丈夫です。レイムさんも無事で良かった。あの…ありがとうございました。」
「うん。だいぶ落ち着いたね。」
「はい…もうメソメソしてられない…リンに心配かけていられないので…」
「へぇ、少し見ない間にたくましくなったじゃん。」
へへッと笑うラン。
「そうだ、レイムさん。」
「うん?」
「リン、妊娠したんです。」
〇〇〇
「人間が私を…」
村に戻り、何があったか説明する。
「ところで兄さん、なんでランを一人で?」
明らかに毒味を含んだ言い方と目付きで兄リヒトをジロリと睨む。
「い、いやぁ坊主結構強いし、そ、そう!俺は坊主の両親とかリンと
「あぁ…うーんと…あぁあれだよ。」
と言って青空に浮かび近づいてくる積乱雲を指差す。
「兄さんこそ番は?」
「もちろんおいてきた。」
「まぁそうか。」
何年も会っていなかったのにごく当たり前のように話していたのでランが
「何年ぶりなんですか?」
「そうだね、40年ぶりくらい?兄さんが番を持って、子供ができてからは会ってない。それまでは一緒に守人として活動してたんだ。」
「リヒトが守人…?」
「おうよ。守護竜って呼ばれてたけどな。」
「兄さんも老けたね。」
「な!老けたとは失礼な!立派な成竜だ!お前は相変わらず変わらねぇな。」
「まぁね。」
ラン
「仲良いですね。」
「そりゃあねぇ…あ、ごめん良い忘れてた。リン、妊娠おめでとう。」
「え?あ、ありがとうございます。」
「んで?こんな話だけかレイム。龍王と会ってきたんだろ?」
「龍王は死んだ。」
「な…!」
「ヴェルサ・ノワに殺された。残った下僕と紅龍は僕達に協力してくれるって。」
「…じゃあ今はお前が…」
「いや、僕は王にはなれないよ。だから今王はいない。」
「…祖龍の血が絶えれば世界は崩壊するとも言われてる。子供ができるまで戦うな。」
「聞くと思う?」
「…あぁわかったよ。俺からもある。書士隊によればシュレイド周辺の竜は絶滅に追い込まれてるそうだ。こっちも早く手を打たないとヤバイぜ。」
「ここにも来るなんてね…」
守人ことガーディアンズギルドは国に要請はしているもののそれ以上できることは少ない。密猟者であれば逮捕したり、現行犯に限って殺すこともできるが相手が国の正式な許可を得て動く兵士だとすれば話は違ってくる。むしろそれを妨害すればこちらが罪に問われかねない。軍事衝突したところで数の差が圧倒的なので、本部はレイムを直接送り込んで木っ端微塵にするしかないと本気で検討していた。
「あ、あのー…」
全員が一斉にその声の主、ルーシーを見ると気まずそうに言った。
「ごはんできたニャ…」
〇〇〇
天気も良かったので農場で夕食を摂る一同。というのもリヒトが宿に入るわけには逝かないからだ。煌黒龍の武具の者の話などをした後、話題は次第に平和になっていく。
リヒト
「いやー、妊娠ラッシュだな。」
エミリ(ラン母)
「まさか親子揃って子供が出来るとはな。」
サクラ
「ランさん、お兄ちゃんにも、お父さんにもなるのニャね。」
「色々実感わかないなぁ…」
「良かったなぁラン、リンと仲直り出来て。それにしてもセル(ラン父)が私とならともかく何故貴女みたいな高貴な古龍が息子を?」
レイム
「高貴、だからじゃないかな。高位で高貴なリンだからこそ単純な強さだけじゃ選ばなかったんじゃない?」
リン
「自分でも理由はよくわかりませんね。」
ラン
「そういえば不思議な出逢いだったよね。俺らもそうだけどユイとだって、最初は討伐しにいったんだから。それで返り討ちにされて、レイムさんがきたんだ。」
ユイ
「確かに数奇でしたね。紅龍が私を襲っていなければ私がレイムと番になることもなかったかもしれませんし。」
ユイは人の姿のレイムを囲むようにして寝そべっている。リンとランは結婚前提みたいな感じだったがユイとレイムは全くそんなことはなかった。それが今はアマツマガツチのイメージを崩壊させるほどレイムに甘えることもあるくらいだ。
傍ら、医療ネコでエミリのオトモのチョウは
「ウニャ、本物のルーシーさんに会えるニャんて…!」
「私も有名になったニャー。」
「そりゃあそうニャ!人もネコも竜も治す、シュレイド国一の医療ネコ、ルーシーさんだもんニャ!!」
「そんなに褒められると逆に困るニャ。」
ラン
「わっ!父さん。ビックリした。」
リンとランが寄り添っているのを物珍しそうに見るのはセルレギオス。リンも振り向くと若干ビビって後ずさりした。
「どうしたの…あ、セルレギオスって雷苦手だっけ。」
村長
「この村も随分賑やかになりましたねぇ。」
カール
「こんなに竜が来るなんて思ってもいませんでしたけど。」
トール
「エミリさんもリンもいつ頃産まれるんだ?」
ルーシー
「エミリさんはあと3ヶ月くらい、リンは…分からニャいニャ。情報がニャいから。」
リヒト
「お前ももっと頑張れよレイムぅ。いくらデカくて多くてもなぁ…?」
レイム
「…雷落とすよ?」
「当てられるもんなら当ててみろ。」
「頭の毛ぐしゃくしゃにするよ?」
「やめろ。顔はあいつ(番)がいないと毛繕いしにくいんだ。」
ラン
「リヒトの番ってどんな竜?」
「綺麗だぞー?月迅竜だ。俗に言う希少種ってやつだな。俺の娘も月迅竜だった。それにしてもレイムの番が嵐龍とはねぇ。個体数がかなり少ないし、こないだ雄個体が狩られたって話だから余計頑張らないとな。」
「あんまりユイにプレッシャーかけないでよ。」
ユイは寝てるのか起きてるのか分からないが眼を瞑っている。リヒトはニタッと笑って
「まぁお前なら平気だろ。」
「…隕石降らそうか?」
「良いが村が無くなるぞ。」
〇〇〇
「リン、体調平気?」
「あなたこそ大丈夫ですか?」
夕餐が終わって自宅に戻るランとリン。
「レイムさんがやったってことで報告してくれたよ…」
「そうですか…あなたも私を気遣ってくれるのはありがたいですが自分のことも忘れないでくださいね。」
「あぁ…。」
リンを抱き締めながら背中を撫でる。
「ねぇ、どんな感じなの?お腹。」
「不思議な感じです。でも確かに感じます。」
リンのお腹も張ってきていて、妊娠2ヵ月のその胎児は順調に育っていた。
「キスして良い?」
「どうぞ。」
離れると微笑む。早く産まれないものかと思いながら眠りについた。
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「それで、直々に来られるとは何の用でしょうか、ギルドマスター。」
「できれば国王陛下と直接お話ししたいのですが、シュレイド将軍。」
「用件なら私が伝える。」
シュレイド城にて、ギルドマスターは最悪の事態を避けるため竜の乱獲を止めるよう求めた。
「既に龍王もその下僕も動き始めている。早急にギルド無認可の竜の討伐、捕獲を中止し、禁止してほしい。このままではまた浄化されても───」
「浄化?ギルドマスターとあろうものが1500年以上前に起こったとされる伝承を信じているのか?笑わせるな。確かに例の地域には随分強力な竜が多くいたが。」
「まさか狩ったのですか?」
「あぁ。こちらも随分被害を受けた。素材の加工にも苦労したそうだ。」
「王の下僕を…何てことを…!」
「あぁそうそう。見せたいものがある。付いてこい。」
ギルドマスターは言われるがままその後ろを歩く。何度も階段を降り、分厚い扉を開け、長く広い廊下を進む。将軍も息を荒くしながら口を開いた。
「今から10年前、我々は例の地域に軍や雇ったハンターを大勢送ったのだが、期待を遥かに上回る結果を残した。」
「どういう…ことですか?」
「お前達が王と崇めているやつがいるだろう?…あぁここだ。」
薄暗く広い石レンガの廊下の壁に1つ、隣の部屋に続くと思われる大きな金属の扉があり、将軍がそこを開けると現れたのは大広間のような牢だった。
「どうだ、たいしたものだろう。」
「こ、これは…?」
腹の大きな、全長4mくらいの白蛇のようなものが灯りのない牢に浮かんでいて、呼吸しているのが分かる。
「ん…?」
ふと、頭側に1本の触手のようなものが生えているのが見え、松明を近づけると
「これはっ…!なんと…なんということを…!」
それは白蛇等ではない。龍そのものの顔を持ち、折られてはいるが黒い2本の角が生えている。触手に見えたのはか細い腕であり、ヘビのように見えたのはそれ以外がないから、つまりもう片方の腕と両足が切り取られ、翼がたたまれていたからだったのだ。
「暴れるからな。それに未知数の龍でもあるから捕らえて数日おきに切り落とした。あの手は餌を食うために必要だろうから残したんだ。翼膜は極上だから何度も採取出来るように残しておいた。あとは鱗や甲殻、角、爪を定期的に採取している。」
ギルドマスターと護衛のギルドナイトは言葉を失った。これを見せられたら一方的に滅ぼそうとしている龍の気持ちに多少なりとも同調せざる得ないだろう。
「眼も潰したのか…?」
「あぁ。くりぬいて護石にした。」
いったいどれ程の苦痛を…と思っていると突然格子が開かれ周囲のシュレイド兵が武器を構える。
「…まぁ、そうだろうな。これを見せて帰すわけがない。」
「その通りだ。それともう1つ、守人がある村を守っているだろう?幻獣やナルガクルガや嵐龍がいる村だ。我々はその村を占拠する。竜根絶のために、あの村の資料を調べさせてもらう。ついでに竜を手に入れてそいつと同じようにするつもりだ。」
「…あそこにいる竜は普通ではない。後悔するぞ?」
「お前が王と呼ぶ竜を捕らえた我々だぞ?お前こそ素直に従っていれば良かったものを。さぁ入れ。」
構えるギルドナイトに
「良い。どうせ出られぬよ。ワシは最後までこの龍に懺悔するとしよう。」
「さすが物分かりが良い。そいつが"王"なら浄化してくれと頼んだらどうだ?そんなボロ布みたいなやつに何ができるかは知らんがな。護衛は別の場所に投獄する。精々食われないよう仲良くするんだな。」
扉だけでなく床も壁も天井も金属製で、扉を閉められるとエサを入れるための穴以外光が入ってくる場所がなく、そこも閉じられると完全に真っ暗になった。通気孔はあるがそこも格子があるので逃げられない。
(やれやれ…まさかこんなことになるとは思わなかったが…ここに閉じ込められたのはむしろ好都合だ。)
常に持ち歩いていた雷光虫の入った瓶を取りだすと牢にほんのり明かりが灯る。そして哀れな仔龍に近づき
"驚かせて悪い。分かるか?"
幼い声が返ってきた。
"誰…?"
"本当にこれだけで話せるとは。もはや魔法だな…おぉすまぬ、ワシか?ワシはギルドマスター。狩人を束ねる者だ。"
"狩…人"
怒り、恐怖の感情が伝わってくる。
"ワシを殺す前に聞いてほしい。ワシの友にな、生命の平衡を唱えるお前と同じような姿をした者がいる。ワシと意見を違えることも多くあったが、まぁ竜を狩る者と守る者。衝突して当然だ。この首飾りもやつに貰った。いや授かったと言った方が良いか。この首飾りに祈ればやつと意思を交換できる。助けを求めよう。そしてお前が生きていることを、あやつを通して龍王…お前の父に伝えてもらおう。"
"父上と?その龍は父上と友達なの?"
"いや、お前の父上の遠い弟だ。真祖龍のことはワシよりお前の方が知っていよう。あやつはその力を使うことができる。"
"伝説の…!でも僕、手も足も眼も無いよ…助けられたって…"
"生きることを諦めてはいかん。救いはきっとくる。それにあやつならお前の手足や眼を治せるかもしれないしな。それまではワシが話し相手になってやろう。"
"わかった。僕、頑張るよ。久し振りに話せて嬉しかった。早く死にたいと思ってた。"
"お前は今何歳だ?"
"分からない。どれくらいここにいるか分からないから。でも捕まったときは5歳くらいだったと思うよ。"
"…とすると今15歳か。そんなに幼いのに…"
ミラボレアスの寿命は千年とも言われる。およそ100歳のレイムすらまだ成竜と扱われないのにこの龍はその10分の1程しか生きていないのだ。
"ねぇ、おじいちゃんは人間?"
"ワシか?ワシは竜人族と呼ばれている。"
"あぁ、里と同じ…ねぇ、僕のお腹に寄りかかってよ。"
"良いのか?"
"うん。あのね、ここに来て、痛いことされて、寂しくて…でもね、母上とか父上とかみんなが来て、励ましてくれるんだ。…幻、なんだけどね。"
"そういうことか。ワシは幻じゃない。ほれ…"
"わぁ暖かい!"
仔龍は嬉しげに鳴くとそのまま体を動かしてギルドマスターを囲った。その顔には笑みともとれる表情が浮かんでいる。
"僕、ホルド。ねぇおじいちゃん、そのさ…早く呼んでよ…"
"おぉそうだった。少し静かにしていてくれ。"
つい最近まで信じていなかった、その首飾りに宿っているという力が今の頼みの綱だ。
──レイム…伝わっておるか…?──
──ギルドマスター?何かあったのですか?──
状況を説明して返ってきたのは励ましの言葉と憤激の念だった。
〇〇〇
「行くのか?」
「あぁ。兄さんはここを頼む。このままドントルマに行ってからシュレイド城へ向かう。紅龍も協力してくれることになった。ユイ、今度は来ちゃダメだよ?」
「分かっています…」
「もうじき紅龍がくる。そしたらまたしばらくお別れだ。」
〇〇〇
「傷も癒えた。祖龍亡き今、もう行動を起こすべきだろう。…そうだな、小さな集落ではなく、王の住まう場所が良いだろう。さて、向かうとするか。」
第3章「歪んだ嘆き」完結
次回、最終章
前回言い忘れましたが、ヴェルサ・ノワはモンスターハンターストーリーズの古龍です。
次回はストーリー設定、戦闘描写、性描写全部に凝っています。どうぞ最後までお付き合いください。