ベイン「いやー。この村に来て本当に良かったぁ。」
記録を書きながらベインは呟く。ナルガクルガの生態だけでもお腹一杯なのにアマツマガツチの観察、さらには伝説の龍の観察までできるのだ。生物学者として誇りだとベインは思った。
カール「持ってきたぞー。」
レイム「悪いねいつも。」
カールがアマツの治療用の薬や水などを運んでくる。アマツの体を定期的に動かさないと火傷の影響もあり血行が悪くなってしまうため、レイムは龍の姿のままでいた。1回ならまだしもそう何度も変化していると体にかなり負荷がかかるからだ。レイムの存在は極秘になっていて、ランの農場は村の関係者以外立ち入り禁止となっている。アマツはと言うと空やナルガクルガ達をボーっと眺めたままで、無感情にも見えれば羨ましそうにも見えた。
ラン「あの…レイムさん、聞いても良いですか?」
治療が終わった後でランが聞いてみる。
レイム「そうだね…この姿を見せちゃったし、これからのことも考えて話したほうが良いかもね。」
ベイン「私も気になります(別の意味で)。」
それまで黙っていたアマツも
「
レイム「そうだね…まず親のことかな。僕の父親は祖龍ミラボレアスで、母親はナルガクルガ。俗に言う極ナルガクルガだ。僕のあの高速移動も母の力を受け継いだ。さすがに体格の問題でこの姿じゃあんな動きはできないけどね。」
ベイン「極ナルガクルガ?」
レイム「純白のナルガクルガで、その移動速度を黙視するのは同族でもない限り不可能。軌跡に強力な鎌鼬を残すほどのスピードで、あと周囲の空気を操って自分を中心に鋼も引き裂くような鎌鼬を発生させることも出来る特殊な種だ。加えて腕や尻尾を高速で振って鎌鼬を飛ばしたりすることも出来る。尾棘にも毒があって、古龍を軽々凌駕する力を持っているんだ。」
ラン「レイムさんの、剣を振ったときのあれも?」
「あぁ。青白く見えるのは、真空刃の中にある目に見えない物質が空気との摩擦で燃えてるからだ。」
ベイン「うわーお。」
アマツ「では
レイム「母の父、つまり僕の祖父が人間だった。ちょうどランみたいにね。その血が特殊な形で発現したんだろう。」
アマツ「そういうことだったのですか…」
ナルガ亜種「あ、あの…私も聞いていい?」
いつのまにかナルガクルガ達もいる。もちろんアマツとレイム以外にはなんて言っているかわからない。ナルガの質問も通訳しつつ
「いいよ。何?」
「母親が極ナルガクルガってことは…もしかしてあなたが人間のときに着けているのって…?」
「そう…その話も含めて…」
そしてレイムは語り始めた。
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ミスト…極ナルガクルガで、レイムの母親
ヴェント…旧竜王の祖龍ミラボレアスで、レイムの父親
リヒト…極ナルガクルガで、レイムの兄
リヒト「弟だ!」
命がけの、日が沈んでから夜が明けるまで続いた難産の末、疲れ果てて寝ていたミストが目を覚まして最初にかけられた言葉がそれだ。そのときのリヒトの嬉しそうな声と顔は死ぬまで忘れなかった。
ヴェント「まさか本当に祖龍の子が生まれるとはな。それも容姿が混ざって生まれてくるなんてありえないのに…ミスト、よく頑張ってくれた。祖龍の子を祖龍でも古龍でもない竜が生むと母親が死んでしまうこともあるから本当はとても心配だったのだ。」
その後
リヒト「レイム…なんてどう?」
ミスト「いいんじゃない?」
ヴェント「決まりだな。」
こうして僕の名前はレイムになって、そう…とても可愛がられた。
リヒト「お前もそろそろ狩りができるようになんないとな。」
幼少期レイム「えー…でもこないだ狗竜(ドスジャギイ)に見つかって…」
リヒト「いや、お前狗竜ぐらいなら倒せるだろ?お前歳の割に相当強いんだから。」
このときレイムは3歳。
「だって周りにいっぱいいて怖かった…」
ミスト「ま、リヒトは5歳からだったからそう焦らなくてもいいかもね。」
「ほらー」
ヴェント「お前の兄さんは狗竜なんて怖がらなかったがな。」
「ほれみろ」
「…」
僕は気弱だった。とても。
「俺と遊ぶときの勢いでやってりゃ狗竜なんてすぐに逃げちまうと思うんだけどな。」
「兄さんと狗竜達は違うもん。」
力はあったけど臆病で、森の中を独りでなんて無理な話だった。こんな時は人間の姿になってリヒトに飛びつき頭の毛をわしゃわしゃとする。
「おいっやめろって…もう…」
笑わない日なんてなかった。でもある日、それは突然だった。
ヴェント「逃げろ!」
天廻龍が現れて問答無用で襲いかかってきたのだ。辺りは高濃度の狂竜ウイルスが充満し、その中ミストとヴェントは立ち向かっていった。
「ちょっ兄さん!?」
リヒトはレイムを押し倒し覆いかぶさる。
「そこにいろ!動くな!」
祖龍に襲いかかるなど目的あってのこととしか考えられない。だとしたらその子供であるレイムを見られてはまずい。そう思った故隠したのだ。流れ来る攻撃を無視して…。
「兄さん…!逃げようよ!」
「だめだ!お前を見られたらいけない!」
「でも兄さんが…。」
すでにウイルスによる頭痛と吐き気がリヒトを襲っている。リヒトもレイムも早く倒してくれと願うばかりだった。
天廻龍も中々のものでヴェントやミストの攻撃を巧みに交わしてブレスを浴びせる。地上ならミストの速さに敵うはずないのだが、迅竜は空中戦に向いていない。それでも高速で滑空して突撃したり尾棘を飛ばしたりして応戦し、ヴェントを援護していた。
リヒト(まずい…レイムを…殺したい…)
戦いが長期化するとリヒトは強い
レイム「兄さん…大丈夫…?」
「あぁ…」
(殺したい…今すぐレイムを原形もなくズタズタにしてやりたい…まて…何のために隠してるんだ…守ってるのに殺したら意味ないじゃないか…くそ…何でもいいから殺したい…抑えろ…レイムは大事な弟だぞ…)
体から紫の蒸気を上げて殺気を放つ兄。眼は血走り、腕は何かに耐えるようにワナワナと震えている。助けたい。そう思った。そしてそれは自然と力になったのだ。
パリパリパリ…
「お前…!」
無意識に弱い龍雷を纏いリヒトに浴びせるとリヒトから危険な衝動が消え去っていく。だが苦しそうにうめきながら力を使うレイムを見て
「もういい。もう大丈夫だ。」
と言って止めさせた。そしてようやく体勢を崩した天廻龍が地面に降りる。あちこちミストの尾棘が刺さっており毒も回ったようだ。そこへ龍雷が降り注ぎ、さらに降りたミストが同族以外目視できないスピードで追い討ち。天廻龍は力尽きた。
「ウゥ…ゲホッ…」
レイムリヒト「母さん!」
「来てはだめ…」
「レイム、リヒト、無事か!?」
「僕は平気…でも兄さんが…」
「穢されたか…」
祖龍であるヴェントとレイムは問題ないが、高濃度のブレスも浴びてしまったミストは今にも発症しそうだった。リヒトも再び症状が現れる。
ミスト「リヒト…お前まで…」
ヴェント「やむをえん…2匹とも来い。」
そしてヴェントは龍雷を纏った。
ミスト「ヴェント様…!でもその力は!」
「我とて真祖龍ではないが力が使えぬわけではない。…終われば我は力尽きてしまうだろう。リヒトはまだ軽いがお前は穢れきってしまっている。恐らく寿命は大きく縮んでしまっただろうがそれでもまだ子供たちを見守ることはできよう…頼んだぞミスト、我の下僕であり最後の番よ。我らの子を守ってくれ…」
予測通りミスト達から狂竜ウイルスが消え去った後、先代の竜王は長い生涯に幕を閉じた。
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ラン「それで…どうなったんですか?」
レイム「祖父の故郷であるモガ村に助けを求めに行ったんだ。僕や母は人語を話せたし、祖父が死んでからかなり経っていたけれどモガはずっと昔に白疾風ナルガクルガと共存していて、真祖龍の浄化の被害もなかったから受け入れてくれた。僕はそこで龍としても、人間としても育った。でも10年くらい経ったときかな、母さんの体に限界が来たんだ。弱った母さんはこう言った。」
『私が死んだら、私の体で防具を作りなさい。それで私はあなたを守り続けてやれる。』
一同は息をのんだ。
ナルガクルガ亜種「だからあのとき…」
「そのとき僕は既に守人からスカウトされていた。だから母さんはそう決めたんだ。当然拒んださ。でも兄さんが後押ししてくれた。そして母さんは死んだ。死ぬ前日、なんとなくそれがわかって僕と兄さんは母さんと寄り添って寝たんだ。」
ラン「それでその武具を…」
「あぁ、泣いたね。母さんが死んだ時も泣いたけど、防具を作ってもらってる時は完成するまでずっと泣いてた。何度もうなされて、その度に兄さんに抱きしめてもらってたよ。村の加工屋がプライドを捨てて当時最も権威のあった加工職人や解体職人に頼んでくれて、最小限の素材でこの防具を作ってくれたんだ。顔や腕はそのまま残してくれて終わったあとに埋めた。そのあとは少し楽になったかな。」
「その太刀は…?」
「これはだいぶ後に兄さんの刃翼から造った。…大丈夫死んでない。今も元気だよ。子供もいてもう独り立ちさせてるらしい。」
まさかという空気になったので付け加えた。
「兄さんが人間に薬を盛られて連れてかれそうになったのを僕が助けたお礼なんだってさ。あのとき初めて人間を殺した。それ以来僕は強くなった。殺すのを躊躇しなくなったのさ。気がつけば幻月の守人として恐れられるようになっていた。そして今に至るわけさ。」
「あ、ユクモ村長ですか?守人ですがレイムに会いたいのです、どこにいますか?」
村長「申し訳ありません。今は会えないのです。彼のオトモアイルーちゃんに伝言を伝えてください。」
「会えない…?なんかあったのですか?」
村長「まぁ…」
「もしかして今、龍の姿じゃないと駄目な状態なんですか?」
村長「ご、ご存じなのですか?」
「はい。守人の幹部は彼の素性を知っています。それで何があったのですか?彼が龍の姿でないといけないということは命の危険があるということですか?」
村長「あ、いえ、そういうわけではなく。案内いたします。」
「いた、ってなんだその龍!ナルガクルガは聞いていたが…まぁいいか。」
レイム「ゼノさん、どうしてここに?」
「伝言だ。極秘事項だから紙はない。まずお前がぶちのめしたゲン国兵だが、本人達は命令でやったとしか言わない。どうやら対竜の訓練を軍を挙げてやっているらしい。もうひとつ、煌黒龍の武具のやつだが大鎌使い以外にも目撃情報があった。今守人では竜と人間の夫婦やその子供の護衛を優先している。」
「分かりました…僕もこのアマツマガツチがもう少し回復したら直接聞いてみます。」
「…というと?」
「神域に行ってみます。今でも煌黒龍がいるはずです。」
「わかった。伝えておこう。」
そう言ってゼノと呼ばれた守人は去っていった。
ベイン「あの、レイムさん。」
「連れてけって?」
「その通りでございます!煌黒龍と会えるなんて千載一遇のチャンス!逃すわけにはいきません!」
「…いいけど、大人しくしててよ。場合によっては戦うことになるかもしれないんだから。」
「よっしゃ!」
カール「俺も行く。こいつだけじゃなにしでかすかわかんないからな。」
レイム「もう少しアマツの容態が良くなってからだからね。」
────────────────────
アマツ「それにしても、この間私を襲った龍は一体…」
レイム「そうか、まだ言ってなかったっけね。紅龍ミラボレアスだ。」
アマツ「紅龍!何故紅龍が私を!?」
「紅龍は人間の絶滅を望んでいる。その人間を手助けしたからだと言っていた。…竜王に近い地位を持つあの龍がそんなことを企んでいるなんてね…」
「人間の絶滅ですか…何故今そんなことを…」
「さぁね。でも平衡を保つ役割を持つ祖龍の血を継ぐ者として見過ごせない。近々僕も動くつもりだよ。」
「煌黒龍に会うとはそういうことだったのですね。」
「あぁ。いくら人間が生きるためではない殺しをしているとはいえ、絶滅させればきっと生命のバランスが大きく崩れるだろう。そうなればいずれ龍も滅びてしまうかもしれない。」
「なるほど。しかし先程の人間の話からするに人間側も同じようなことをしているということですか?」
「そうなるね。このままじゃあ伝承が現実になりそうだ。それは防がないと。」
「人間と竜の戦争ですか。確かに避けたいものですね。…あなたに救われた命です。回復したら私にできることは協力しましょう。」
「それは助かるな。古龍の、しかも人間と意思疏通できるなら特に。」
「それにしても…なんとも美しいですね、月というものは。私が回復したら見れなくなってしまうのが残念です。」
「そうだね…さぁ、もう休みな。空が見れなくなるのは残念だけど、生きることの方が大事だよ。」
「その通りですね。お休みなさい。」
素直に目を閉じて眠る彼女を見て思わず笑みが溢れる。
(兄さんが僕を寝かす時もこんな感じだったのかな。)
母が解体されつつあるという耐え難い状況の中、自身も涙を流しながらそっと自分を抱き締め寝かせてくれた兄の温もりを思い出し、少し切ない気持ちになりつつ眠りについた。
1週間後、流石古龍と言うべき回復力でアマツマガツチは浮くことができるようになり、雲も多くなってくる。だがまだ高くは翔べないのでもうしばらくユクモに留まることになった。
「行くのですか?」
雲の間から覗く青空を目に焼き付けようとするように空を見上げながら尋ねてくる。
「あぁ。君ももう大分回復したしね。ルーシーとランはここに残していくから何かあったら彼らに言って。」
「分かりました。」
1週間ずっと竜の姿になるなんてかなり久しぶりだったので人間の姿に戻れるか若干不安になりながら変化。無事戻ると母と兄の武具を身に付けて支度をする。元々特別な力を持っていた母。それに強い想いも加わったからか自分が成長して防具がきつくなる、なんてことは起きなかった。いつしかナルガクルガ亜種にこの装備が殺しによって作ったものではないと感じられたのを思い出し、竜ってすごいと今更ながら思う。
「ベイン、カール、行くよ。」
ベイン「はいはい私はいつでも。ほらサクラ、カール!早くしなさい!」
神域の近くまでは飛行船で向かい、そこからは彼らを乗せて飛ぶ。
ベイン「どんな龍なんだろう楽しみだな楽しみだな楽しみだな…」
カール「眠り生肉でも食わせてやろうか?」
「いいけど、あんたの道具倉庫に撤甲榴弾と拡散弾を撃ち込むよ?」
「遠慮しておきますベイン様。」
サクラ「お二人さんって仲良いのニャー。」
ナタリー「確かに。……。」
カール、ベイン「マタタビ1年抜きにしてあげようか?」
サクラ、ナタリー「ギャー!!ご免ニャさいニャー!」
レイム「仲良いね…」
─────────────────────
あぁ、孤独感なんて縁がないと思っていたのに。そう思いながら見納めにと雲間の月をみる。ずっと独りで旅をしてきた私にとって、人間やナルガクルガの親子と同じ場所にいる時点で物凄く新鮮で賑やかでどう考えても今は孤独ではないはずなのに、あの温もりが恋しくなる。
(私は死にかけて変になってしまったのでしょうか。空を見れて浮かれているのでしょうか。)
嵐龍らしくないと自覚している。でも───
(早く帰ってこないものか…もう一度だけで良いからあの温もりが欲しい…)
遠くでちらっと、紅き彗星バルファルクが残光を引きながら移動するのが見えた。
次回『舞うは月夜、奏でるは愛の調べ』
次回で第2章は終わりです。そのあと外伝を入れてから第3章に入りたいと思います。
極ナルガクルガはフロンティア屈指の難クエ「極駆けるナルガクルガ」です。ムービーもある優遇ぶり。是非調べてみてください。ただし鎌鼬を飛ばしてくることはありません。私が勝手に強化しただけです。