※この作品はR-18です。

滝と一文字の事件録    作:怪傑忍者猫

1 / 8
山奥の館

 それは、まだSHOCKERと戦っていた頃の話。

 俺、一文字隼人はある時、FBI捜査官である滝和也と一緒にとある山の中で野宿になった。

 要するに、ショッカーと戦い連中の前線基地の一つを壊滅させたら、山の中で夜を迎えてしまったって訳だ。

 俺は以前、動物の撮影で野営する事もあったが、意外にも滝も野営は経験があると言った。

 さてと、手頃な木陰を物色しているうちに、さほど遠くない位置にポツンと明かりを見付けた。

 目を凝らせば、別荘らしい山の中の洋館が一つ。

 上手くすれば、野宿を避けられるとほっとした俺の横で、滝は変な顔してた。

 その時は、少し浮かれていた俺は相棒の顔に気付かず、そのままサイクロンを押してその館に近付いた。

 滝も、黙って俺についてバイクを押した。

 近くで見て、やっと俺も屋敷の佇まいに首を捻った。

 何と言うか、山の中にしては新しいというか、不自然なくらいの豪邸だった。

 玄関まで来ると、何やらパーティでもやっているのか賑やかな声が漏れ聞こえた。

 

「なあ、ここ止めておかねえか?」

 

 そう言った滝の声は、まるで敵の基地に潜入する時と同じくらい警戒していた。

 その時の俺は、滝が何に警戒しているのか全く判らなかった。……自分でも、不思議なくらい。

 そして扉が開いた。

 

「おや、どうかされましたかな?」

「実は……」

 

 応対に出て来たその家の執事だという、鼻髭に禿げの老人に迎え入れられた俺達は、道に迷った事を伝えた。

 執事さん曰く、この辺りは街と街の中間地点位な距離で、夜になって難儀する通行者が時折立ち寄るのだと言って屋敷の中の客間に通された。

 屋敷の中は、俺としてはヴィクトリア朝と和風建築の混ざった、とても不思議なでも優雅な風情の建物だった。

 和洋折衷と言うのか、でもエントランスホールを照らすシャンデリアの巨大さには、思わず二度見してしまったが。

 執事さん曰く、今日は主の誕生日とかで、普段より賑やかなのは客人が六人ほどいる為なのだとか。

 間もなく夕食だと言うので、俺達も相伴させて貰う事になった。

 

「ご主人にも、そこで会えますか?」

 

 滝? どうした?

 俺は、常に無い友人であり戦闘時の相棒の反応に、思わず相手を見た。

 滝は、表情は取り繕っていたが、その空気は嫌に警戒していた。

 暫くして、夕食との事なので食堂に入れば、下は一〇代、上は五〇代くらいの男女が六人、闖入者である俺達を、それこそ胡乱なものを見る目を向けて来た。

 この屋敷の主人は、所謂麗人だった。

 三〇代くらいだろうか、上流階級のマダムってのをそのまま体現したようで、思わず俺は居住まいを正していた。

 だが、普段なら割合鼻の下を伸ばすだろう滝が、淡々と食事と一夜の宿の礼を言い、翌朝には出ると言い切ったのに驚いた。

 客人達どころか、家の主にも「そうしたほうが良い」と言われ、実はちょっと屋敷を探検したかった俺は少し困ったが。

 食事は、中華とフランス料理が混ざった感じの、見た目も綺麗だが量のあるものだった。

 丁度、一暴れした後であったので、美味しくいただいた。滝も、食事はしっかり食べていた。

 意外に綺麗に食べるんだと思ったのは、ここだけの話。

 部屋に戻った後で、客人達が何か見た事ある顔だと思っていたら、滝から近くの土地の県議とその家族と、女性経済学者に売り出し中のアイドル歌手とそのマネージャーだと言われた。

 五〇代の夫婦らしい男女と二〇代の青年が家族、四〇代のきつそうな眼付きのインテリ風の女性が経済学者、そして一〇代の女の子に寄り添う三〇男がアイドルとマネージャーらしい。

 何で知ってると問えば、「新聞で見た」と返された。

 俺も、新聞は良く見ている筈なんだが。

 

 

 予定は真夜中に崩れた。

 天蓋付きの寝台に圧倒され、そしてらしくない滝の応対に寝付かれなかった俺は、普通の人間なら聞き取れなかっただろうサイレンサーの音と、その後の轟音と絶叫に部屋を飛び出した。

 夜警中だったらしい執事さんと廊下で鉢合わせ、一緒に音源だろう場所に向かった。

 音がしたのは一階のエントランスホール。

 その天井を飾っていたシャンデリアが、何かを圧し潰し、周囲を真っ赤に染めている。

 そこに立ち込めた鉄錆の臭いに、それが何かを俺に教えた。

 「誰か」は判らないが、それがこの屋敷に居た誰かのなれの果てである事ははっきりしていた。

 

「お、お屋形様!」

 

 執事の言葉に、俺は思わずトン近い質量が潰したものを見た。

 頭部が柘榴のようになったそれが、着込んでいる衣服が食事時に見たこの屋敷の女主人の物だと、今気付く。

 轟音と絶叫に起こされた客人達がぞろぞろホールに集まり、その惨状に悲鳴を上げたり、喚き出したりしている。

 と、その中の三〇男に、いきなり襟髪を掴まれた。

 

「お前か! お前が犯人だな!」

「ボケた事言ってんじゃねえよ、証拠と動機があるってのか」

 

 軽い恐慌状態にある男を引っぺがしたのは、明らかに寝てましたと言う顔の滝だった。

 男に触発されたか、ぎゃんぎゃんギャーギャー騒ぐ連中に向かって、滝は履いていたジーパンのポケットからFBI徽章の付いた身分証を出して突き付けた。

 おい、それ、見せて良いのか?

 戸惑う俺の目の前で、滝は地を這うような声で一言。

 

「やかましい」

 

 おい、FBI。

 

「俺は、休暇中のFBI捜査官、そこにいる連れは仕事以外の趣味で知り合いになったフリーカメラマン、ここにはちょっとしたトラブルで迷い込んで来た人間で、ここの主とは初対面、お前さん達とも初対面、そんな俺達が何で宿を貸してくれた主を害しなきゃならない? 言ってみろ」

 

 焦る俺を気にする様子もなく、殺気駄々洩れの滝は一息でそう言うと、じろりと六人を見回した。

 現役捜査官の言葉に、流石にそれ以上喚き散らす者は無かった。

 静まり返った屋敷の中に、誂えたように雨風が強くなる音が響く。

 その音を聞きつつ、俺は野営じゃなくて良かったと、現実逃避宜しく考えていた。

 

「現場保存の原則の為に、この遺体はこのままにしておく。執事さん、ここを覆えるくらいの布あるか?」

 

 滝の言葉に、執事さんが走って行って、シーツを何枚か持ってきた。

 それを使って滝が、シャンデリアごと遺体を覆っている間に、俺は電話で警察を呼ぼうとした。

 そしたら、そこにいる面子から止められた。

 曰く、「外聞に関わる」と言われて俺はぽかんとなった。

 ……こいつらは何を言っているんだ?

 受話器を握って、唖然としている俺の横に戻った滝が、呆れ返ったって顔でこう言い放つ。

 

「事故を通報しないと、あんた達が犯人だって言われても仕方ないぞ」

 

 滝の言葉に、インテリっぽい女性が噛み付いた。いや、これはヒスってるのかな?

 

「何で私達が! 私達だって招待されて初めて来たのよ!」

「死体隠して、俺達や執事さんも殺して、お前ら六人で口を拭えば済むとでも? 俺は日系アメリカ人で海外の公僕、こいつだって知り合いの編集が山といる。連絡付かなくなれば、すぐ探されるぞ?」

「な!?」

「それに初めて、ね。ここに来たのは初めてでも、あんた達自体は知り合いだろ? 俺とこいつがここに来た時、随分盛り上がってただろ?」

 

 滝の言葉に、全員が黙り込む。

 その間に電話を掛けたものの、暫くコールが続いたと思ったらブツッと音がした後何も聞こえなくなった。

 げ!?

 

「滝、電話が切れた、うんともすんとも言わねえよ?」

「ち、電線が切れたか。仕方がない、明日朝一で麓の街まで行って警官を引っ張って来よう。

 問題は、明日の朝、雨が上がっているか、そして道路が無事か」

 

 俺達の会話を、六人は憎々し気に、執事の爺さんは良く読めない顔で聞いていた。

 ホールに置かれた大きな振り子時計が、ガアンと鳴って午前一時を告げた。

 

 

 翌朝、六時。

 厨房で、首吊り状態の執事さんが見付かった。

 見付けたのは、食事について聞こうとしたアイドルのお嬢さん。彼女の金切り声に駆け込んで、それを見た訳だ。

 六人は「主人を追って自殺した」と言い出したが、滝が否を唱えた。

 

「これは縊死(いし)じゃない、扼死(やくし)だ」

「馬鹿じゃないのか、どう見たってこれは首吊りで、薬物死じゃ」

「馬鹿は手前だ」

 

 昨日俺に絡んだ男を、滝はじろっと横目で睨んだ。

 止めろよお前、怖いじゃねえか。

 

「縊死ってのはそのまんま首吊り、だがこの遺体の首にはぐるっと一周痣がある。これは気管を潰すように紐を掛けなきゃ出来ない。

 つまり、絞殺されたって事で扼死、首吊りじゃない。そしてこういう死因なら自殺は絶対にありえない。

 つまり、爺さんを絞め殺して、わざわざ吊り下げた奴がいるんだよ」

 

 言われてよくよく見れば、確かに老人の首には首を一周するようにどす黒い細い痣があって、滝の説明に六人は真っ青になった。

 うろたえ、グダグダとうるさい面子を厨房から追い出し、滝は老人を下して床に寝かせた。

 

「……現場保存は良いのか?」

 

 俺の問いに答えず、滝は遺体にリネン室から取ってきたシーツを掛けた。

 

「隼人、この部屋で不自然なところはあるか?」

「不自然? いや、特には」

 

 滝は厨房内を見ていた。

 釣られて見るが、俺には片付いた普通の厨房にしか見えなかった。

 首を捻っていると、滝がぽつりと言った。

 

「隼人、あの連中に、目や耳が良い事と怪力なのを悟られるなよ」

「どう言う事だ?」

「あいつらは、『犯人』を欲しがってる。『人と違う』ってのはああ言う奴らにとっては良い攻撃材料だろう。だから」

「判った」

 

 納得したくなかったが、この場合は仕方がないと思った。

 この時、俺はおかしいと思わなかったのだ。

 滝が「改造人間」と言わず俺の能力の一部だけを上げた事に。

 俺と滝が、全く別の何かを見ていたその事実に気付いたのは、事態が終わった後で。

 雨は、小振りだがまだ降っていた。

 

 

 朝食は、保存庫にある缶詰等を各自で食べる事にした。

 夕べ滝にキレたおばさんが、厨房を使う事も俺が作る事も拒否したからだ。

 ……まあ、死体が転がってるところで作った料理ってのは、流石に抵抗あるだろうけど。

 滝はと言うと、遺体の横で何故か七輪を取り出し、それで開けた缶詰を温めて持って来た。

 

「よく、死体の傍でそんな事出来るな!」

「仕事柄だ、気にすんな」

 

 噛み付いてきたのは、二十歳前後らしい、俺達より少し年下らしい男。そいつの事を滝は軽くいなしていた。

 滝の事を見ながら、向こうさんは何やらこそこそ囁き合っている。

 ……もしかして、あいつら滝を犯人に仕立て上げようってんじゃ?

 そう思った俺の口に、パンが捩じ込まれた。

 

「食っとけ隼人。多分、この後延々走る事になるぞ」

「むごっ」

 

 そう言いつつ、滝は粉を堕とした机の上にさらっとこう書いた。

 

「バイクは使わない、そのつもりで」

 

 え? 何で?

 聞き返す前に、滝は粉を払って文を消した。

 その直後にアイドルだと言う娘さんが近付いて来た。

 

「あのお、この後どうするんですかぁ?」

 

 ……この緊迫した空気を読まないのか読めないのか、鼻に罹った甘ったるい喋り方の娘さんだ。

 げんなりする俺の横で、滝はこの後街に向かうと答えた。

 

「あんた達も一緒に行った方が良いと思うがな」

「えー」

「犯人と留守番するか?」

 

 引き攣った顔の娘に視線を向ける事無く、滝はこう言って寄越した。

 

「この館の主と従僕が死んだ。

 俺達にもあんた達にも動機がないなら、ここには第三者の殺人鬼がいるって事だ。そこに残るのか? 八人の人間の裏を画いた手練れ相手に?

 俺は一刻も早く、警察を呼びたい。遺体を回収して、犯人を山狩りして捕まえる為にな」

 

 娘さんは、真っ青な顔のまま走って行った。

 何も言えない俺の横で、良く良く人となりを知ったつもりでいた友人は、黙々と鯖缶をパンに乗せて食っていた。

 

 

 ホールの大きな振り子時計が九時を知らせたその時、外に出ようとした俺達を狙っていたかのように事が起きた。

 真っ先に外に出ようとした青年の背中に、ボウガンの矢が刺さったのだ。

 青年は即死で、これまで陰に隠れて俺達を避けていた五〇絡みの女が泣き叫んだ。

 ボウガンは、振子時計の中、振り子が動くためのスペースに仕込んであった。

 中を覗き込んだ滝が、舌打ちと共に唸った。

 

「テグスが見える。軸にテグスが巻き上がって、固定したボウガンのトリガーを引くようになっていたんだ」

「つまり?」

「簡単な時限装置って事だ。ご丁寧に、時計を動かした痕もあるな」

 

 指さされた場所を見れば、床板の色があからさまに違った。

 どうやら、扉の前に立った人間に当たるようにわざわざ向きと位置を直したらしい。

 俺達が来た時にはこの位置だった事を思うと、狙われたのは……誰だ?

 事態を考察する俺達の向こう側で、あちらさんはあからさまに混乱していた。

 身内に被害が出たからと言うには、何だか変な感じもする。

 そんな連中に、滝がこう呼び掛けた。

 

「ここを出るぞ。このまま居たら、今度は女性が犠牲になるかもしれないぞ」

 

 奴らは速やかに外に出た。

 外は小振りだが、霧が出ていた。

 道なりに歩いていた俺達は、しかしそこで足を止めた。

 麓に至るだろう道は、土砂で閉ざされていた。

 茫然と眺めるうちに、俺はこれが災害ではないと気付いた。

 恐らく、上の方で溜めた土砂や廃棄材を混ぜたものを道路に落としたのだ。

 その証拠に、崩れただろう山側は、路上の堆積物に対して崩れ方が少な過ぎる。

 

「車は無理だが、歩いて越えられないって程じゃありませんよ!」

 

 考えているうちに、そう言ってマネージャーの男は土砂の上を登り始めた。

 他の面子が歩き出したのに、慌ててそれに続こうとしたら、すぐに「ギャッ!」と言う悲鳴が上がった。

 彼らを押しのけ、駆け上がった俺と滝が見たものは、虎挟にがっつり足を挟まれた奴さんだった。

 男は、足を抑えて苦しんでいた。

 その反応が、普通に罠が食い込んだ痛みではなく、刃に塗られた毒の所為だと判ったのは、そのすぐ後、男が泡を吹きつつ死んだからだ。

 俺は戦慄した。

 あの屋敷で三人殺した殺人鬼は、俺達も殺そうとしているのだ。

 俺は、滝を守れるのだろうか。

 SHOCKERではないのは、判っている。あいつ等のやり口と、根本的に違うのだ。

 

「ど、どうする!このままじゃ俺達も殺される!」

 

 滝曰く、何処かの県議だと言う男が唾を散らして喚く。

 それに向かって、いきなり金切り声で笑い出したのは、その妻だと言う女性だった。

 

「あはは、あははははは、罰が当たったんだわ、あの時人を見殺しにした!!」

 

 おい!?

 驚いている俺達の前で、半狂乱の女性は叫んだ。

 十年前事故を起こした際に、隠蔽する為目撃者がいない事を良い事にまだ生きていた夫婦とその娘を事故車両ごと崖から落とし、そのまま海に沈めたのだと。

 そのまま興奮から過呼吸を起こした女性の首を、顔をどす黒くした夫である筈の男が締め上げようとしたのを、慌てて俺は止めた。

 お嬢さんに女の人の口元に小袋を当てるよう指示して、滝を呼ぼうとした俺は、ダチに腕を捩じり上げられているインテリ女に気が付いた。

 その、捩じり上げられた手から落ちたのは、サイレンサー付きの拳銃。

 まさか、あの時の音は。

 だが、滝は俺の思わぬ事を言い放った。

 

「碌な憂さ晴らしの方法を知らないみたいだな、あんた。

 夕べも窓から夜行性動物を狙ってたようだが、警察に届け出してるのか?」

「くっ」

「おいおい、この銃でシャンデリアを落としたんじゃ!?」

「まさか。こんな口径で落とせるほど、やわな鎖じゃないし、そもそも天井には弾痕も無かったよ。

 あれはこの人の仕業じゃない。

 今も単に銃をぶっ放して、気晴らししようとしただけさ。碌でもないけどな」

 

 呆気に捕らわれたその時だった。

 頭上の音に、俺は咄嗟にお嬢さんとご夫人を抱えて地に伏せた。

 山側から降って来た巨大な杭が、茫然と座り込んでいた男を貫いた。

 それはさながら、百舌鳥の速贄のようだった。

 

「もう、いやあああああ!」

 

 俺は、人の精神の糸が切れる瞬間と言う奴を見た。

 そして、気が付く。

 引き倒したご婦人の息が無い事。

 そして、この惨状を心底ほっとした様子で見ている娘に。

 座り込んで泣きじゃくる女を放置して、滝はアイドルだと言う少女を見た。

 捜査官の峻厳さと共に。

 

「お前の家族を殺したのは、この五人か?」

「うん。お兄さん、私怖くないの?」

「生憎、この世で一番怖いのは人間だって、骨身に沁みてるんでな、お前さんは怖くはないよ。

 ダチに救いを求めたような、小さな女の子にキレる気も無いしな」

 

 二人の会話を茫然と聞いているうちに、ボシュっと音がした。

 振り返った目の前で、拳銃を咥えて自殺した女の姿があった。

 だが、滝はそれに目を向ける事無く、一人生き残った少女と向き合っていた。筈だった。

 何時の間にか、そこにいたのは七、八歳の女の子で、滝に小さな箱を差し出していた。

 

「お兄さんなら、使えるから」

「こんなもの持ってたんなら、もっと早く楽になれただろうに」

 

 滝にゆるく首を振って見せて、女の子は笑った。

 その顔に、俺は何故か疲れ果てた老婆に似た影を見た。

 

「私は、あの人の手を取ってしまったから。これをくれた人も、私以外の人に使って貰いなさいって言っていたから」

 

 それを受け取り、滝は立ち上がった。

 

「行こう、隼人。蹴りを付けて今度こそ帰るぞ」

 

 そう言うなり歩き出す相棒を、慌てて追った。

 

「お、おい、あの子は! あの人達の遺体は!?」

「隼人、ライダーアイで見て見ろ、『あそこには何もない』」

 

 弾かれたように振り返る。

 切り替わった明るい視野には、土砂も死体も女の子も何も無かった。

 ただ、霧雨に濡れたアスファルトの道が、延々と続いているだけだった。

 

  館に戻りエントランスに入ると、シャンデリアは頭上に戻り、代わりに首にロープが掛かったままの執事と、頭部が柘榴の状態で立っている女主人の姿があった。

 思わず声を殺した俺に向かって、滝はこう言った。

 

「よく見ろ、隼人、あれは『人間じゃない』」

「! SHOCKERか!?」

『おやおや、あんな連中と一緒にしないで下さいな』

 

 柘榴と死体が喋った。

 

「そうだぞ、隼人、流石にこいつと一緒にするのは気が引ける」

「え?」

 

 驚く俺の前で、滝はとんでもない事を言い出した。

 

「残念だったな、お前の暇つぶしの茶番で何人巻き込んだか知らないが、俺達を巻き込んだのが間違いの元だ」

『おや? どうやってお帰りで?』

「そうだな、ここを焼き払って、こいつの勘に従って帰るさ」

『ほほう、FBI捜査官ともあろう者が、放火すると?』

 

 相手の言葉に、滝はゾルが化けてるのかと一瞬思うほど極悪な笑い方をした。

 

「どうせ燃えるのは、お前とお前の領域だけだ、後は知るものか」

「生意気な!」

 

 死体二体が飛び掛かって来る。

 全身から生やした白刃が、俺達を八つ裂きにしようと煌いた。

 だが、奴らから滝を庇おうとした俺は、何故か相棒に腕を掴まれ止められた。

 そして、それらは不意に真っ黒な人型と化して、俺達の真ん前で止まった。

 あからさまに、怯えながらそいつらは滝を指さし叫んだ。

 

「き、貴様、何を持っている!」

「さあ、何だと思う? ここから逃げてのけた相手から、あの子が貰ってたものさ」

 

 そう言うなり、滝は小箱を取り出し投げ付けた。そして。

 

「隼人、変身して飛べ!」

 

 滝の声に張り倒されるようにして変身して、俺は目の前が真っ赤に染まるのを見た。

 その後は、正直に言うと何も判らない。

 そのまま、俺は滝を抱えて屋敷の屋根を突き破って脱出し、サイクロンで麓目掛けて爆走したからだ。

 我に返ったのは、結構後。

 ただ、爆発音と灼熱と、怪獣の如き咆哮と幾つもの悲鳴が後々まで耳に残った。

 

 

 東京に戻って、立場の親父さんに叱られた――俺達は、三日も行方不明になっていたそうだ――数日後、俺は滝のアパートを訪れた。

 戻ってから考えるうちに、幾つも納得いかない事が思い付いたからだ。

 何より、あの怪人達と、滝のあの行動が。

 押し掛けた俺に、滝は二種類の資料を差し出した。

 一つは三か月前、県議一家の失踪と女性学者の失踪、そして探し人の告知。

 そこに載っている写真は、あの時死んだ五人の物だった。

 もう一つは三年前に海沿いの崖で見つかった、事故車と亡くなった一家の資料。

 困惑する俺に、滝はこう切り出した。

 最初、三か月前の失踪事件をSHOCKER絡みかと思って調べていたそうだ。

 だが、この三組が血縁関係にあり、ほぼ同じ頃に大金を手にして活動を活発にしていた事を突き止め、別件である事に気付きつつ調べてみたのだそうだ。

 そして、あの事故に行き着いた。

 当初、一家心中かと思われたその事故は、夫妻が自宅すら処分し、大金を作っていた事と重病を患っていた娘がいた事、そして一家が行方不明になった頃にその病の権威である名医が来日していた事から、その医師に会いに行こうとして事故にあったと言う事で処分されていた。

 但し、積まれていた筈の大金は一円も見付からなかったらしいが。

 事故の資料を捲りつつ、滝はぽつりと言った。

 

「この事件な、両親と下の娘さんの遺体は見つかったが、上の娘さんは見つかっていないんだ。当時七歳だったらしい」

 

 言われてぞっとなる。

 あのアイドルだって言う女の子は一体。……あれ?

 慌てて資料に目を落とすが、アイドルの子は何処にも載っていない。

 焦る俺に向かって、滝はマネージャーだった男の写真を指差しこう言った。

 

「こいつな、元歌手ってのが本当の素性。こいつ、金ばら撒いて何とかデビューしたが結局落ち目になってな。

 警察には、ノイローゼから失踪したって判断されてる。

 それと、失踪寸前に知り合いに「新人のマネージャーになった」って言っていたそうだが、奴さんの所属事務所にそんな話は無かったし、実際そんな子も居なかった」

「え、だって、滝、あの時俺に、彼女がアイドルって言ったのお前だろ?」

 

 そう言うと、滝は大仰に肩を竦めた。

 そんな仕草をすると、こいつアメリカ人だなって気がする。

 

「あの館に入った時、奴さんが彼女をあの連中に紹介しているのが聞こえたから、な。後、隼人、お前あの屋敷どう見えてた?」

「え? あー、何つうか、やけに新しい建物だったけど」

「そっか。俺は、あそこはあばら家に見えたよ」

 

 どゆ事?

 

「こう言うとなんだが、多分あそこに呼ばれたんだよ、お前」

 

 渋い顔でそう言うと、滝は広げた資料を仕舞い始める。

 

「呼ばれったって、一体」

「実は、あの辺り三か月前から時折若い人間が行方不明になった後、死体が見つかっていたんだ」

 

 おいおい、どう言う事だよ!

 

「ショッカーにしては遣り口がおかしいなとは思って調べてたんだが、何か弾かれてる気がしてたんだ。

 そしたら、事件の核らしい存在がお前を呼び込んだからな。それに便乗させて貰った」

「ちょっと、それどう言う事だよ!」

「お前にゃ悪いが、奴さんが茶番の被害者兼エキストラを要求するのに乗ったって事だ。

 ……あの子は、あいつらが犯罪者だって断罪してくれる人間が来るのを待ってたんだろうな。あんなひどいのの誘いに乗るくらい。

 あの五人は、殺された後、延々と殺された瞬間を演じていたんだろう。エキストラが入ったら、死ぬまでの二日間を際限なく、な」

 

 そう言った滝の顔は、常になく厳しく、そしてSHOCKERの被害者を見た時のように悲しげだった。

 

「あのなあ滝、一体あれは何だったんだ?」

 

 聞いた俺に、滝は何と言うか、複雑そうな顔を隠さなかった。

 

「隼人よ、お前、SHOCKER以外と戦う余裕あるか?」

「おかしな事言うじゃない、それって」

「あいつは、SHOCKERとは全く別、俺だって関わりたかねえよ」

 

 そう言った滝に不服を感じたけど、何故かそれ以上追及する気になれなかった。

 関わるには余裕も余力もない、何故かその時そう思ったのだ。

 

「じゃあさ、最後に奴さんに投げ付けたものは?」

「あれか? そうだな、口裂け女のポマードみたいな?」

「へ? えっと、弱点?」

「あー……いや違うな、コブラにマングース的な?」

「天敵って事?」

「そう言う事だな」

 

 後日、そんな可愛いものじゃ無かったと知った。

 おいおい何なんだ、異世界の炎の化け物の親玉を呼び出して封じ込んでたものって!

 

 

 この事件がどうなったのか、実のところ良く判らない。

 滝は、忘れて良いと言って、資料を全部俺の目の前で燃やしてしまった。

 だけど、滝のバイクはあの後廃墟で丸焦げになって見付かった。

 廃墟は、立地的にどうやらあの屋敷で、廃墟と化して恐らく十数年経ったと思われた。

 

 そして、滝はああ言ったものの、あの後も何度か同じような事件に遭遇し、何とも言えない思いをする事になった。

 滝が、実はこう言う事件に対して微妙に弾かれる体質を持ちそして、俺はそう言うのに懐かれる傾向にあるのだと、知るのはその数か月後の事になる。

 

 これが、俺達のSHOCKERとは違う存在――相棒が『暇神』と呼ぶ輩との戦いの、最初の記録である。




滝和也の独り言

 あれは、暇神の一人が造った、要するにやり直しなしのホラーハウスって奴だな。お代は、当人の寿命って事だ。
 アイドルやってたお嬢ちゃんが、難病で医者に掛かる予定だった長女だ。が、あの五人にまだ息があった両親と無事だった妹を殺されたんだ。
 嬢ちゃんは、多分弾みで車から遠くにほおり出されたんであの連中に気付かれなかったが、発作で動けなくなってたところを奴さんに拾われたんだろうな。
 あの子の不幸を知って、遊ぶ気になったんだろうよ、あの暇神は。
 あいつなら、あの五人を呼び寄せるくらいの小細工は簡単だろうしな。

 この話は、隼人には内密にな。
 そうじゃなくても、SHOCKERなんて碌でもない奴らに関わってんのに、あんなのの相手させられないよ。
 今回、あの子が切り札持ってたからあの暇神追い出す事が出来たんだ、下手したら付き纏われたかもしれないと思ったら溜まんないぜ、全く。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。