15. 強制取引も結果オーライならば [人間♀→竜人♀、竜人(♂×♀)]
多種族が住み、魔法も普及するとある国の街。その中心にある重要な建物の一室で、竜人の少女が独り寝床に横たわっていた。
「あぁ…」
手を見る。4本の長い指。胸を見る。雄よりも全体的にふっくらとしているが乳房はなく、しなやかできめ細やかな白い鱗と豊かな体毛に覆われている。脚をみる。長く、逆関節の脚。紛れもない、自分の身体。
「もう…ヒトだったときの身体、思い出せないや…」
あはは、と彼女は力無く笑って、指が1本少なくなった手でお腹を撫でる。引き締まった体は、下っ腹だけがぽってりと膨れていた。
ヒト種だったころの少女を覚えている者はきっといない。彼女をこの身体に変えた者も、この腹の子の父親も、きっともう覚えてないだろう。
「痛たた…そっか…ついにか…」
目の前の鏡に映った自分に視線を移す。いつの間にか膨れた腹の下にある縦筋がうっすらと口を開いていて、薄桃色の線のような割れ目が出来ていた。
幾度となく雄の肉棒が突き入れられたその割れ目から、もう間も無く我が子が、”純粋な”竜人の子が顔を覗かせる。身体は勝手にその準備を進めている。
不意に彼女がヒト種では決して出せない鳴き声を出すと、割れ目がギュッとしまった。しばらくすると、急激に増していたお腹の中の重さが引いていく。
「ふぅ…ごめんね…もう少しでお父さん帰ってくると思うから…」
決して誕生を拒否しているわけではないんだと言い聞かせて、彼女は一息ついた。
○○○
「獣化薬?」
多種族が住み、魔法も普及するある国の栄えた街の一角。様々な犯罪者を収容している監獄の看守達は、ある日唐突に言い渡された任務に素っ頓狂な声を上げた。
「仮称、だけどな。ヒト種に飲ませれば、獣人種や竜人種に変化する。」
「これを囚人に?」
薬を持ってきた、国に認められている医術師の獣人は頷いた。
「そうだ。罪が重すぎず、軽すぎない奴が良い。」
「ですがアクアム先生、獣化薬なら既に先生が開発してませんでしたか?確か先生の奥様が…」
「前のとは少し違うんだ。」
ヒトは種族的に魔力量が少なく、不安定である。そこを利用して、魔力が安定している獣人や竜人へ永久的に変化させる薬は既に存在していた。
しかし条件もあった。薬には変化先の種族の血を使うのだが、その血が種として純粋であるほど人間は変化に耐えられなくなるのだ。
もちろん、異なる種族同士の間に生まれた混血の者の血を素材にすれば良い話で、混血はごく普通のことなのでただ変化させるだけなら大した問題ではなかった。
「詳しくは言えないが、変化薬を使って蘇らせたい種族がいる。簡単に言うと脚が逆関節で指の数も違うような原始的な種族だ。」
「今までの薬じゃ対応できないってことですか。」
「そゆこと。で、ここに試薬がいくつかある。」
「これをヒト種の囚人に試せば良いんですね?」
「あぁ。ただ誰でもって訳じゃない。薬ごとに組んだこの魔法陣が反応すればするほど適合するから……」
説明を受けた後、ここで働く若い看守達は片っ端から調べ始めた。
「でもなんで、軽罪人はともかく重罪人もダメなんすか?先輩、直接説明聞いたんでしょ?」
ハイエナ獣人の青年の質問に、緑鱗の竜人の青年が答えた。
「失敗すると死ぬから軽罪人は駄目、成功したら実験記録に付き合うことを条件に釈放だから重罪人も駄目。国からのお達しだ。」
「なんかドキドキしますね、だって…」
依頼されたのは変化薬の実験だけではない。最終目標はその薬を使ったある種族の復興。変化とその後までが重要、ということで。
「薬の素材が雌だから、元の性別に関係なく変化後は子を産めるようになる…そして実際に子を産ませるまでを実証実験としてここの未婚の雄に依頼されたというわけだ。」
「ぐふふ…囚人と子供作るなんて、普段なら重罰なのに…」
「おい、真面目な研究だぞ。それに下手したら元雄相手に腰振ることになる。」
「俺は見た目が好みで穴があれば別にいっすけどね。」
「そ、そうか…」
竜人とハイエナ、そして同僚の獣人達数人は時折邪な会話を挟みつつ、共有スペースにいる囚人を1人ずつ個室に連れて行っては薬の相性を確かめ続けた。
「次はこいつか。囚人番号16番」
強盗犯として捉えられているヒト種の少女。終戦からもう十数年経つが、当時の混乱の影響で浮浪児が増え、今も若者の窃盗や強盗が後をたたない。
「裕福な老人を襲って金品を強奪、老人は大怪我したが後遺症はなし、と。実験台にするにはちょうど良いっすね。」
「…何?なんの話?」
不貞腐れたような顔つきをしていた黒髪の少女は、ますます怪訝そうな顔をした。
「ちょっと手を出して。…あ、先輩、この薬と反応が!」
「君、話があるから別室に来い。」
○○○
父親は不明、しかし特別貧しいわけでもない。そんな母子家庭に生まれた少女。育てられてはいたものの、母は愛する我が子という感情を持ち合わせていなかった。
そしてある日母の借金のカタとして体を売られそうになって家出。以降は路上で生活していた。
プライドを捨てれば食えるだけの金は手に入ったが、栄えている街ということもあって住む場所を見つけるのは難しい。身寄りがないなら尚更。中でも寒くなる時期は辛かった。
そこで、少女はついに盗みに手を染めることにした。金になればそれでどこか長屋の一室でも借りれば良いし、失敗して捕まってもそこまで重い罪にはならない。
結果、盗み自体は成功したが程なくして捕らえられ、投獄された。
隔離されたある意味安全な環境、簡素な寝床、質素な食事。労働は億劫だが、路上で生活するよりはずっとマシ、であるはずだった。
「ちょっと待ってよ、そんな無茶苦茶な研究の実験台にされるなんて聞いてない!」
半ば強制的に連れてこられた部屋で椅子に拘束された少女は、パサついた黒髪を乱れさせながら糾弾した。
「成功例はある。適合性を試す術式との反応も良好。」
「失敗したら?」
「溶ける。」
「そんな…」
「あ、アクアム先生がいらっしゃった。」
「見つかったのか。で、どの薬と相性が良いんだ?」
ハイエナの青年は、いくらかの薬瓶の中からひとつを取り出して、混血獣人の医術師に手渡す。
「…へぇ。良いね。」
「良いね、じゃないでしょ!人をなんだと思ってるの?」
「老人襲った若い罪人にチャンスをやるって言ってるんだ。成功すれば、その後の観察に付き合ってくれさえすればお前の刑を帳消しにできる。悪い話じゃないだろ?」
むしろ感謝してほしい、とでも言いたげな口調に呆気に取られた。
「なんだ?なんか未練でもあんのか?」
身寄りがない路上生活者でしかも犯罪者なのだから、種族が変わるくらいどうということはないだろう?と、いう意味なのだろうその言葉に少女は歯軋りして、そして精一杯言い返した。
「自分じゃない何かになるなんて、しかも永遠に、その上で子供作れって?そんなの誰だって嫌に決まってるでしょ…!」
「かもな。でも大事な研究なんだ。俺たちはある少数種族の数を増やしたい。理由は簡単、体液が薬の原料になるからだ。今のところ代えられる素材は無い。だからまずは、この薬で原始的な種族に正しく変化できるかどうかを確かめないと。」
そう言ってアクアムと呼ばれた医術師は、何もない空き部屋の真ん中に木製のスープ皿のようなものを置く。
魔法によって浴槽ほどの大きさにすると、大きなスキットルを取り出して中の深緑色の粘液を注いだ。
「あとは、お前と相性が良かったこの薬を入れれば完成。そこにお前をぶち込むだけだ。」
「本気なの…」
「心配すんな、痛くないから。多分。」
アクアムがそばにいた看守達に合図すると、少女の服を破って脱がせた。もちろん少女は怒鳴り、叫んで抵抗しようとしたが、最後の下着まで剥ぎ取られると手のひらを返したように怯え始めた。
無理もない。看守達も、医術師アクアムも、まるで少女を生き物として見ていないのではと思ってしまうほど淡々としているのだから。
「うん、肉付きも悪くない。問題なさそうだな。」
狼狽する少女を尻目に、アクアムは少女と相性が良いという薬を先ほどの大きな木の容器に加えた。深緑色だった粘液はたちまち白色に変わる。
「オッケー。あ、こいつの名前って記録してある?」
ハイエナの青年が答えた。
「えぇ。なんでですか?」
「内臓もそっくり作り変えるからな。変化後は記憶が混濁するかもしれん。」
「待って、そんなの聞いてない———」
魔法で椅子が動かされて、少女は拘束されたまま容器の真上まで移動させられた。
「お、お願い…考え直して…私、確かに罪人だけどここまでされること…?」
「説明しただろ、成功すれば帳消しって。死刑囚だったら喉から手を出してお前を引き摺り下ろして自分と代わろうとするだろうよ。」
パチン、と指を鳴らせば拘束が消える。びちゃ、と冷たい粘液に落とされた。
異変はすぐに感じた。粘液は身体に張り付く、だけでなく、それ自体が意志を持っているかのように少女の体を覆い始めた。
「や、やだ!助けて!私まだ死ねない———」
「おいお前ら、見たい気持ちはわかるが近づきすぎんなよ。巻き込まれたらシャレになんねぇから。」
容器から出ようとしたが、力が入らず立てない。冷たかったはずの白い粘液は体温以上の熱を帯び始めた。
少女は既にほとんど粘液に包まれている自分の足を見た。そして、熱を感じる指先を見る。感覚が薄くなっきて、確かめるように足の指をギュッと握った。
視界にある、白濁液に包まれた五本指は動かなかった。恐る恐る手を伸ばすと、触れた瞬間足の指同士の境目がなくなり、肥大を始めた…
「うそ…やだ…!あっ———」
足に気を取られている間に、粘液は腹も、乳房も包み込む。腕も覆われると徐々に力が抜けていく。
抵抗虚しく容器の底に倒れ込むと、冷たい粘液は首を這いずって、顔も覆ってしまった。そして発熱する。
鼻呼吸はなんとかできているが口を開ける勇気はない。底知れぬ恐怖が少女を襲う。
「すごい薬だな…」
「だろ?外側はあらかた準備完了って感じかな。」
外側は。粘液はまだ、たっぷり残っている。
体温より少し高い熱に全身を包まれて、不本意にも心地良さを感じてしまったのも束の間。落ち着きを見せていた粘液が再び動きを見せる。
「…っうァっ!」
白い粘液は液体とは思えない強い力で股間の穴と割れ目に侵入。少女は体を仰け反らせて声を出し、その時開いた口にも、耳にも、鼻にも侵入を始めた。
「っっ!がぼぅっ!が…あ゛っ!」
痙攣しながらのたうち回る少女の身体に容赦無く収束する粘液。容器に入っていた粘液全てが綺麗に彼女を包み、侵していく。
口と肛門から侵入していた粘液が合流して、内側からも溶け込んでいく。膣に流れ込んでいた粘液は、もちろんその先の、命を育む場所も、その源を生み出す場所にも余す所なく埋め尽くし、変えていく。
「や…だぁ……」
息もほとんどできなくなる中、感覚が熱だけになっていた部分から妙な心地良さを感じ始めた。
粘液で満たされた女の部分からは既に苦痛に近い快楽が送られていたが、それ以外の、手足からも、次第に全身が快感に包まれる。
とても、正気でいられるものではなかった。何より残酷なことに、少女の精神が狂うにはあまりにも不十分な、短い時間で過ぎ去ってしまった。
少女は身体が動くのを感じた。しかしそれは手足を動かすような感覚ではなかった。勝手に、うねうねと。
少女にはすぐに理解できた。これは粘液の動きだ。身体を包み、溶かし、うごめく粘液の動きを、身体の感覚として感じられる。
それと同時に、意識が遠のいていく。眠りにつく寸前のように、しかし薄気味悪い不安と恐怖を孕んで、思考が支離滅裂になっていく。
だめだ、忘れるな
少女は必死に念じた。
母さんを見返してやるんだ。それだけは絶対———
そして皮肉なことに、母が適当につけた自分の名前を淀む思考の中で連呼していた。
「お、多分成功するな。よかった良かった。」
様子を見ていた医術師アクアムは呑気に言った。
「すごいな…骨格が…」
細かったヒト種の少女の足の形をしていた粘液は、逆関節とわかる形に変わっていく。
「ねぇあれ、尻尾じゃないすか?うわぁ、アクアム先生、なんの種族になるんですか?」
ハイエナの青年の質問に、医術師は口角を吊り上げて返した。
「見てのお楽しみ。」
「俺、先生好きっす!」
対する竜人の青年はやれやれと首を振った。
「随分と楽しそうだな。」
「逆に先輩はなんでそんなに冷静なんですか?これからあいつと子作りするまでが任務でしょ?仕事でヤレるって最高じゃないですか。」
ねぇ?と他の同僚にも同意を求めたが、反応は微妙だった。
「孕んだらアクアム先生側が面倒見てくれるんでしょ?なら良いじゃないですか。」
「…お前が何故治安部隊に入ろうと思ったのか、とても不思議に思う。」
それから数分、粘液は穏やかに波打っていたが、暗赤色の網目模様が浮かんでくると再び活発になった。
シルエットのようになっていた身体が、形を帯びていく。
「お、そろそろだ。」
特に大きな音を立てるでもなく、静かに、しかし激しく変化していく。ゴツゴツとした脚が伸び、球体になっていた頭部は縮んでマズルを形成していく。
胴体の塊から枝分かれしたと思えば腕になり、腰に生えていた牛の尻尾のような形をしたそれは、長さと太さが一気に増していく。
粘液からたてがみが浮き出る不思議な光景を目の当たりにしつつ、看守とアクアムはなおも見守った。
そして、関節がはっきりわかるようになってしばらく経つと、液体らしく波打っていた表面が徐々にそのヌメり気を失っていき、質感が明瞭になっていく。
荒く呼吸するそれは、唐突に咳き込んだ。その時露わになった口内は、白濁色ではなく桃色で、牙が生えそろっていた。
そして、元ヒトの少女が目を開けると看守たちはざわめいた。
「よし、」
医術師アクアムが容器を消す。裸の竜人の少女が部屋の真ん中に晒された。
「すげぇ…」
全身が白色のきめ細かい蛇皮のような鱗で覆われ、各所に暗赤色の曲線模様がある。
体毛も豊富で、首の周りや背中、尻尾には白いたてがみがあり、頭だけは黒いたてがみになっていた。
「…?…?」
「おーしおし、落ち着け落ち着けー。」
当然意識が目覚めた雌の竜人はあたりを見回してから床の上でもがいた。どこかに逃げようとしたが立ち上がれないらしい。
「俺の言葉がわかるか?」
雌の竜人は何かを話そうとして、変な鳴き声を出して喉を押さえる。
「メラン。聞き覚えは?」
ハッと目を見開き、アクアムを見つめる。
彼女の頭の中でその名前がグルグルと回って、そして自然と言葉が出る。
「メラン…私のなまえ…私は…かあ…さん…を…みかえ…ゲホッ…」
「おう、とりあえず赤ん坊状態になるのは免れたみたいだな。なんでここにいるかわかるか?」
「どう…やって…わたしは…?」
ふと、彼女は自分の手を見た。しなやかできめ細かい鱗に覆われた手。4本の指は細くゴツゴツとしていて、長い。
「あ…れ…?あれ…?」
呼吸が荒くなる。頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「おっといけねぇ。」
アクアムは催眠術で彼女が錯乱する前に眠らせた。
「何日かすれば落ち着くだろう。…で、誰が種役になるか決めたか?それとも全員で回すか?誰のガキかわからない方が罪悪感ないかもな。」
ハイエナの青年に視線が集まる。それに応えて、ハイエナの青年は眠っている裸の竜人に近づいた。
「うーん…」
「どうした?」
「竜人かぁ…」
「駄目なのか?」
「いや別に竜人が嫌いとかじゃないし可愛いと思うけど…なんというか…ほら、元がアレだったからさ、なんかイメージ違ったというか、思ったより清楚な感じがするというか…あと俺普通の脚の方が…」
「性癖の問題かよ。」
「いやソコ重要じゃないすか!?…ねぇ、先輩は同じ竜人でしょ?どうすか?」
急に振られた竜人の青年は動揺しながら答えた。
「あ、あぁ…思ったより美形、だと思う。」
いつもよりも小さな声で、彼女の方に視線をやりつつも近づこうとしない。彼らしくない振る舞いに、同僚たちは思わず彼を見つめた。
「同族だし、本能的に魅力を感じやすいのかもな。相手がいなくて溜まってるなら尚更。最高の金稼ぎができるじゃんか。」
「先生…からかわないで下さい…」
「ま、明日までに決めといてくれ。報酬は、定額を種役の人数に応じて等分するからそこはヨロシク。」
○○○
収容所に隣接している、治安部隊用の集合住宅。勤務が終わった竜人の青年とハイエナの青年は2人で自室に向かっていた。
「で、3日経ったけど、どーなんすか?」
「昼に見た時はだいぶ落ち着いてた。ずっと毛布にくるまってたが。…お前が期待するようなことは起きてないぞ。」
「でも先輩、なんか余裕そうですね。」
「ん、まぁ、おおむね予定通りだ。」
2人は別れ、竜人の青年は彼女の部屋へと向かう。彼女はベッドの上で毛布一枚に身を包んだままだった。
「気分はどうだ。」
「…リーン。」
「俺の名前も思い出したか。…ほら、飯。俺はもう食ったから。」
握り飯と、焼いた肉などの副菜がいくらか入った弁当。少女は握り飯を4本の指でぎこちなく掴み、口まで運んだ。
まだ暖かい握り飯にかぶりつく。咀嚼しようとして、口から米がボロボロとこぼれ落ちた。
「頬張りすぎだ。今朝も言ったろ。」
「だって私の身体じゃないもん…」
ネコ系の獣人ならまだ良かったかもしれない。ヒトだった少女にとって竜人の口で食事は大きなストレスになった。
「どうしてパンにしてくれないの…?」
「米だから溢すだけで済むんだ。そんなんでパンを食ってみろ、一口目で詰まらせるぞ。」
言い返せず、弁当箱に視線を落とす。お腹は空いているし、味も決して悪くない。それでも食べる気が削がれてしまって、握り飯を弁当箱に戻す。
今にも泣きそうな彼女を見て、リーンはため息を吐きながら彼女から弁当箱を取り上げる。
「…仕方ないな。感覚で覚えろよ。」
そう言ってリーンは握り飯を頬張ると、メランの顔を引き寄せた。彼女は意図を理解しつつも一瞬ためらって、そして口を開ける。適量の米が口移しされた。
路上生活時代には娼館で金を使う余裕がない雄を相手に身体を安売りしていたので、接吻くらいはもう慣れている。
ただし路上生活も、身体を売ったのも、犯罪に手を染めたのも、全てはいつか母を見返すという目標のために行ったこと。
衰弱しているわけでもないのに口移しでないとまともに食事もできないという状況は、彼女の尊厳を確実に擦り減らしていた。
「…別に泣かなくても良いだろう。感覚がヒトのままなら、仕方ないことだ。」
「他人事みたいに…あんた達の勝手のせいなのに…」
「はいはい、良いから、ほら。」
顔を向けさせるために添えられた手。彼女が黙って彼の方に顔を向けたままになると、その手が彼女の肩を抱く。
そして、いつの間にか彼の尻尾が彼女の尻尾に寄り添っている。
さらに、弁当が半分ほどなくなったあたりで彼女は気がついた。
いつの間にか自分の身体から力が抜けて、彼に体重を預けている。
確かに、この体に変化したばかりの時は記憶がぐしゃぐしゃになって、身体の感覚に慣れないどころか歩くこともままならない状況で、彼が唯一の頼りという環境に置かれたことも一因なのかもしれない。
彼女はもう一つ気がついた。口移しされるときに、こぼさないよう無意識に自分から舌を入れていることに。そして、身体に妙な感覚が生まれていることに。
ヒトは他の種族と比べて本能的な衝動を自覚しにくいと言われている。つまり、今は以前よりも本能的な衝動に突き動かされやすいということで。
自分の身の回りの世話をし、食事を持ってきて、寄り添いながら口移しで食べさせてくれる、今唯一頼ることができる同種族の雄。
今この瞬間、雌の本能が求めるであろう雄の条件を全て満たされてしまっている。身体が勝手に安心しているのだ。
…口に入ってきた肉が、こころなしか先程より柔らかい。よく見ると、リーンは口に含んだ後に数回軽く咀嚼している。
リーンも本能的に庇護欲が掻き立てられたのか、それとも計算の上なのだろうか?
握り飯は無くなり、最後の肉がリーンの口の中へ。お腹は大方満たされている。口移しもようやく最後。
リーンがこちらを向く。自然と互いに顔を近づけて、マズルが交わる。
「んっ…」
彼の口の中の肉に舌が触れる。このまま長い舌で包んで離れれば食べられる。
「んん…」
彼女はうめいた。彼が口を離してくれない。
…いや、口を窄めて”味わっている”のは自分の方だ。
このままでは本当に尊厳がなくなる、と思って離れようとすると首の後ろを押さえられた。
離して欲しい、と伝えるために彼の顔を両手で掴んで離そうとしたが、それはもう完全に接吻の形になっていた。
この後彼が何を求めるかは流石に理解できるので、諦めて抵抗をやめると唐突に口が離れて肉を落としそうになった。
そして彼に見つめられたまま飲み込んだ。
「…ヒトだったお前にはまだわからないかもしれないが、お前はどうも魅力的なんだ。口移しでこんなことをするつもりはなかったんだが…」
「…別に良い。どうせこうなるだろうってわかってたし。」
メランはまだ、記憶を全て取り戻したわけではない。彼と暮らすことになったのは、同族だから助けになるというわけではなく彼の子を産むためということをまだ知らない。
「…ほら、抱くんでしょ。良いよ別に。慣れてるし。…あんたが気遣いできる奴なら、路上で相手にしてたやつよりもよっぽどマシだろうしさ。」
そう言って彼女は毛布を脱ぐとベッドに仰向けに寝そべって、そのしなやかで引き締まった身体を曝け出した。
自分の身体とは到底思えない分、抵抗も恥じらいもなかった。
リーンは黙って質素な衣服を脱ぎ始めた。正直、いつから子作りを始めれば良いのか、そのタイミングを中々掴むことができていなかった。
そもそも罪悪感もあったのだが、彼女の方から股を開いたのなら今が良い機会だろう。
華奢で、しかし雌らしくふくっくらとしたちょうど良い肉付きの、本能を刺激する原始的な美しさをもつ竜人の雌に誘われたら、いつまで興奮を耐えられるかもわからない。
「…」
自分よりも硬くゴツゴツとした緑色の鱗と、微かに黄色がかった白い腹の身体を目の当たりにして、メランは生唾を飲んだ。
二の腕も、胸も、腹も治安部隊として相応しく鍛え上げられている。
彼が下半身の衣に手をかける。先ほどの情熱的な口移しで興奮したのか、そこには既にそれとわかる膨らみがある。
衣が下げられた。先に逞しい太ももが顔を覗かせ、そして赤い肉棒の根本が見えた。
少し引っかかって、その反動で肉棒の全体が勢い良く飛び出し、そそり立つ。
濃い赤で、筋肉質で、先が尖っていて溝が深い穂先を持つ、雄槍。
今ある記憶の限りでは竜人の相手をしたことはない。個体によって形が違うしヒトには大きいから、路上の娼婦として竜人に身体を売るのは避けていたはずだ。
でも今は、自分も竜人である。何なら彼よりも原始的な種だ。
メランは自身の鼓動が高鳴るのを感じた。そして初めて、腹が疼く感覚を知った。腹の少し下の部分が熱を持ち、疼いている。初めて、発情の感覚を知った。
あの雄槍なら、先端が本当に槍のようになっているあの肉棒なら、きっと今の自分を簡単に貫いてしまう…
メランはもう一度生唾を飲んだ。
「…どうした、竜人のモノを見るのは初めてか。」
「え…うん…」
メランは視線を逸らしたが、光景は脳に焼き付いていた。
仰向けで秘部を晒しながら顔を逸らして恥じらう姿はリーンを更に昂らせる。
彼もベッドに上がって、彼女の逆関節の脚を掴んで広げる。先ほどまでほとんど何も見えなかった白い下腹部に、桃色の縦割れができていた。
リーンは彼女の太い尻尾にまたがって、そして背中を丸めて秘裂より少し上に舌を這わせた。
「んっ…!」
彼女の身体がびくりと跳ねる。同時に独特な甘い匂いが漂う。見てみれば縦割れが広がっていて、そこから透明な蜜が今にも垂れそうなくらい滲んでいた。
「…なんだ、そんなに欲しかったのか。」
「ちがう…身体が勝手になってるだけ…」
リーンが黙って彼女の腰を持ち上げ、その有様を彼女に見せる。
「ど…どうなってるの…」
「どうも何も、コレを欲しがってるんだよ。」
彼女の腰を下ろし、上半身を逸らしていきり勃つ雄槍を見せびらかせた。
その僅かな動きによる空気の流れで、ヒトよりも敏感な彼女の鼻に雄槍の匂いが届く。無意識に、彼女尻尾が上に乗っている彼の尻尾に巻き付いた。
リーンは、少なくとも後輩のハイエナほど性に積極的ではなかったが、この時ばかりは湧き上がる性欲に屈した。
リーンは尻尾の付け根の位置が合うように膝立ちのまま一歩前に踏み出して、彼女の脇腹のすぐ横に両手をついて覆いかぶさる。メランはそれだけで身体を震わせた。
「あ……ハァ…ハァ…」
リーンに覆いかぶさられた。熱を発するたくましい身体に覆いかぶさられた。自分よりずっと体格が大きい。隣に座るよりも大きく、圧を感じる。
猛々しい雄槍が、秘裂のすぐ近くに。今の手よりも大きい肉棒に犯される。逃げられない。
視線が雄槍に釘付になって息を荒くするメラン。リーンが腰を上げて先端を秘裂に向けると、彼女の腰がひくひくと震えた。
まるで自分から挿れようとしているかのように震え、上下にうねらせた。尖った先端が秘裂に触れると彼女は喘ぎながらさらに股を開いて催促した。
リーンの口角が吊り上がる。片方の手で彼女の腰を押さえて、そして角度をつけて押しつけた。
硬く尖った先端は、いともたやすく濡れた肉に突き刺さった。目一杯口を開けようとしていた秘裂は必死にその先端に吸い付いた。甘く、扇情的な快感がリーンを最奥へと誘う。
リーンは改めて彼女を頭から秘裂まで眺めた。白くしなやかな身体、頭の黒いたてがみと、身体の豊かな白いたてがみ、そして赤いラインがアクセントになっている彼女の綺麗な躰。
今から犯す雌の躰。
「…いくぞ。」
両腕で身体を支えつつ、リーンはひと思いに腰を押し出した。
「ア゛っ…!」
初々しい肉に、雄槍が深々と突き刺さった。肉をかき分ける感覚など感じさせる間も無く貫いて、互いの尻尾の付け根が密着する。
お腹の奥への重いひと突きにメランは鳴き、しがみつくように彼を抱く。この身体での純潔を乱暴に貫かれたのにも関わらず、興奮は冷めるどころか爆発した。
「…大丈夫か。」
メランは顔を歪ませ、膣はこれでもかと雄槍を締め付けている。流石に興奮しすぎたと反省した上での一言だった。
実際、鈍い痛みを伴っていた。
「ハァッ…リーン…ン゛ぅ…はやく…」
それを遥かに上回る興奮と、ヒトの時では感じられなかった詳細な肉棒の感触と快楽が彼女の理性を吹き消した。
「はやく…ちょーだい……」
甘い雌の声で、囁いた。
リーンが息を深く吐いた。ため息ではなかった。メランをしっかり抱いて、彼女から雄槍を引き抜き、叩き込んだ。
「ウ゛ッ…!ン゛ッ…!ア…ア゛ァ!!」
まだ固い、不慣れで清らかな胎肉を、雄槍で何度も何度もえぐり、ほぐしていく。大きく腰を上下させ、彼女の身体に雄を刻み込む。
乱暴、まではいかないが、頭に交尾の文字を浮かばせるくらいには野生的だった。
彼女の胎は、立派な雄を締め付けるだけで精一杯。彼女自身は雄の責めに耐えるだけで精一杯。せっかく美形の竜人になったのに、いまその顔はだらしなく口を開きながら濁った嬌声を出すばかり。
リーンは彼女の顔を舐め上げた。腰を振りながら、己の雄でめちゃくちゃになっている彼女の顔を鷲掴みにして、舐め回した。雄としての優越感に浸りながら、興奮と快楽を愉しんだ。
彼女の身体が痙攣する。もう何度絶頂したか分からない。始めはまだ曖昧だった快感も、絶頂するたびに強く、明瞭になる。
先ほどから顔を舐め回してくる彼を見る。囚人でいるときも、ついさっきも特に何も思わなかったのに、なんて雄々しく魅力的なのだろう。
接吻なんて、汚物感を堪えるだけのはずだったのに。
欲しい、と思うがいなや、彼が舐めてくるタイミングで自らの舌を彼の口に滑り込ませる。
「んむっ…!むぅ゛っ…!」
たちまち口は深く重なり合い、舌が絡まる。受け入れてくれて嬉しい、この時のメランは心からそう感じた。
激しい突きと、快感。その中で不意にメランは冷静になった。正確に言えば、興奮が限界を超えて思考が曇り始めた。どす、どす、と雄槍に突かれる衝撃と快楽、彼の重さに安心感を覚えた。
そしてまた絶頂。一瞬力が入ったが、すぐに弛緩する。膣は雄槍を強く締め付けるのをやめて、適度に絡みつつその責めを甘んじて受け入れた。
身体が、本能が、彼の雌になることを受け入れたのだ。
解されて柔らかくなった胎肉を味わおうと、彼の腰の動きが緩やかに、重くなる。
奥を押し上げられる時間が長くなって、その度に彼女の脚が震える。
リーンは彼女の口を離し、舌を引き抜いて彼女の下腹部を覗き込んだ。
華奢な体に豊かな体格の雄槍が突き刺さって、その結合部は愛液で濡れている。抜く時に肉が雄槍に絡みながら擦れる感覚と、下腹部が離れて雄槍が引き抜かれるときに秘裂周りの肉が引っ張られる光景が重なる。
リーンは彼女の喘ぎを聞き流しながら天井を仰いで吐息を漏らした。こんなに快楽に溺れたのはいつぶりだろうか。いや、初めての時もここまで昂りはしなかったかもしれない。
脚の付け根が強張りはじめ、一定だった快感が熱と共に奥から膨れてくる。
リーンは両腕で彼女を抱いて体重をかけ始めた。本能に導かれるまま身体を密着させて、雌を屈服させる動きから自らの種を植え付ける動きへと移っていく。
彼女は言葉にならない声で喘ぐことしかできず、そこに理性的な思考はない。ぼーっとした思考の中で、激しい快楽と安心感を何を思うこともなく享受していた。
そんな彼女の顔を眺めながら擦り付けるように腰を振っていると、その時が訪れた。
リーンの中で快感と熱が濁流となって湧き上がる。まだ間に合う。が、躊躇う選択肢もなく、腰を押しつけた。
胎肉がきゅんと肉棒を包む。雄槍が跳ね上がった。
「ん…フゥ…!」
「カ…あ…」
熱が決壊し、体の奥から雄槍へ、激しい快感を伴って流れ込み、脈動に合わせて彼女の中で噴出した。
雄槍の振動は彼女の頭の先から尻尾の先まで伝わった。そして彼女も本能に導かれ、雄の種を受け止めるために身体を弛緩させた。
うってかわって静かになった彼女の中で、雄槍は次から次へと脈動し、子種を注ぐ。
メランを見つめながら、下腹部の脈動に任せて射精し続ける。
リーンを見つめながら、彼の熱で胎が満たされていくのを黙って受け入れる。
彼女の身体がびくりと振動する。すると密着している下腹部から白濁液が滲み出て、垂れた。もう十分すぎるくらい満たされている。しかし、雄の本能は許さず注ぎ続けた。
しばらくの間、部屋には吐息だけが響いた。
ずる、と萎えた雄槍が引き抜かれてリーンが完全に離れた時も、メランはまだ放心状態だった。そして彼の胸に抱かれて撫でられているとようやく理性が戻ってくる。
「リーン…」
「…なんだ。」
「さっきの私は…忘れて…」
いくら自分の身体である気がしないとはいえ、冷静になってみると顔から火が出そうになる。
「…できれば俺の方も忘れて欲しい。」
「あんた真面目そうだったのにね。すごかったね。」
真面目な奴ほど本気が怖いとは言うけれど、と茶化すくらいには元気が回復したらしかった。
「寝ようか。」
「もうそんな時間?」
「あぁ。」
「…戻っちゃうの?」
リーンの部屋は今のところ別だ。
「…いや、ここで良い。」
メランは安堵したようにため息をついて、彼の胸に頬擦りする。
「…ありがと。優しくされたの、初めて。」
リーンとしては、先程の行為はどう考えても優しいとは言えないと思っていたが、彼女が悪客しか相手にしてこなかったのか、それとも行為後に拭いたり撫でたりしていることを言っているのかもしれないと納得した。
そして、2人は同じ寝床で寄り添って眠りについた。
その日以来、メランは落ち着きを見せるようになった。リーンが休みの日は一緒に街に出ることも増える。自身の罪や犯した理由についても思い出したが、囚人だった頃よりもずっと慎ましくなったことは変わらなかった。
リーンは彼女とは別室ではあるものの、ほぼ毎日彼女の部屋に寝泊まりするようになる。そしてもちろん、その度に身体を重ねていた。
夕食を終えて、少しくつろいでから、どちらかが何の脈絡もなく黙ったまま衣を脱ぎ、それを見たもう片方も黙ったまま裸体になって、抱き合って、至福の時間が始まるのだ。
「先輩に匂い染み込んでるって…なんか意外。」
「みんなに同じことを言われる。」
「でしょーね。で、どんな感じです?俺あんまり会えてないんですけど。」
「元気だ。異常もない。」
「そういうことを聞いてるんじゃないんですけど。」
「そうか。俺だって雄だからやることはやるんだ。」
「いやあの、会話成り立ってないんですけど。ヤりすぎて疲れてません?」
リーンは立ち止まって後輩を見て、目を逸らした。
「えっ、なに———?」
「彼女が身籠った。」
彼女が竜人に変えられて、3ヶ月経った時だった。定期的に訪れていた医術師アクアムにそう告げられたのだ。
実験のことをメランに言えないまま、彼女のお腹は大きくなっていった。
「…私ね、嬉しいよ。」
ある日の晩、昂るリーンの欲を手と口で発散させている途中に胎動が起きて中断していると、唐突にメランが彼に甘えながらそう言った。
「…俺の子を産めて嬉しいか。」
「うん。」
予想に反して、メランは素直に頷いた。
「だって、ヒトの時、身体売ってたからさ。母さんみたいに私も知らない間に知らない雄の子供産むんだって諦めてたから。」
囚人だった時には想像できないくらい優しい顔で、自らのお腹が振動するのを眺めながら撫でる。
「なんか不思議だけど、あんたの子ってわかってると安心するんだ。だからありがと、種役になってくれて。」
「…もう思い出していたか。どうりで…」
どうりで、アクアムから妊娠を告げられた時の反応が薄かったわけだ。
メランはお腹を撫でるのをやめて、不満げな雄槍をなだめるようにしごく。
「納得はしてないけどさ。この体に変えられたことには。でももう慣れちゃった。」
そう言って、絶頂間近の雄槍の前に跪いて、根元まで咥え込んだ。これもヒトだったらできないだろう。首の中で吐き出された精液を全て飲み込み、その後は寝床に向かい合って横になり、彼に甘えた。
「それで、いつまで一緒にいてくれるの?あんた優しいから、生まれる前に別れた方が良いんじゃない?アクアム先生はいつでも良いって。」
うっとりとしたままの顔で、晩ごはんのメニューを聞くように軽々と聞いた。もう取り返しがつかないから諦めているようにも、返ってくる答えを知っているようにも見えた。
「もう手を染めるなよ。」
「しないよ、理由がないもん。」
リーンは彼女を見つめ返す。特別性格が合わないわけでもないのに、研究のためだったからと淡白に別れたら、きっと独身の竜人の雄達に殴り殺される。原始的な種の竜人族に身体を作り替えられた彼女は、竜人にとってそれくらい魅力のある雌になった。
おまけに垢も抜けたようで、手放すには惜しすぎた。
そもそも、ただの世話役ならもう彼女には必要ないし、性欲を晴らしたいだけなら毎日甘え合ったり裸で抱き合って寝たり2人きりで外出することもない。
リーンが頭を下げると、メランは首を伸ばす。浅い口づけを交わした。
「…良かった。これでちょっとは、割に合うって思えるかな。」
「…あぁ。悪かった。」
別に、とメランはリーンの胸に頬を埋める。リーンは彼女の、唯一ヒトのときの特徴を受け継いでいる黒いたてがみを撫でる。そんな、外見はヒトの面影のカケラもない彼女のしなやかな腹は、自分が孕ませた子で膨れている。
見るたびに、満足する。
リーンは彼女をギュッと抱きしめた。
○○○
「ただいま。」
「おかえり。」
仕事を終えて帰ってきたリーンを、メランがお腹を支えながら迎える。そして、一緒に夕飯を食べる。
その後、彼女を十分気遣いながら、抱く。日常だ。
「挿れるの3日ぶりだもんね、いっぱい出てる。」
「そりゃあ、な。ふふ、びっくりさせたかな。」
「愛情注いでくれて嬉しいって。」
いつも通り胸の上で横になった彼女を抱き、かなり大きくなったお腹を撫でながら余韻に浸る。
メランはリーンを見上げた。彼は、今さっき自分が出した精液が秘裂から溢れ出ているのを満足げに眺めていた。
メランはひとりで微笑んで彼に身を委ねた。
「ん…うぅ……」
「メラン?」
彼女がびく、と震えた。余韻なのかと思ったが、彼女の秘裂から白濁液ではない液体が漏れ出したことで事態を察した。
「お前…!」
「バレちゃった…?実はあんたが帰ってくる前に来ちゃったんだけど、怖くなっちゃって…我慢したら引いちゃって…でも、」
言葉を切って、息を震わせながら吐いた。何かに引っ張られているかのようにお腹が重くなる。
「う…うぅ…いたぁい…お腹がメリって鳴った……安心したから…私も…この子も…ううぅ…」
「わかったわかった。集中してくれ。アクアム先生から万一の時の薬も貰ってるから安心してくれ。」
そして彼女に痛みの波が訪れた。何度か寝返りをうって、最終的に上半身は抱き合いながらリーンに跨るような格好になった。
「リーン…」
「どうした、水飲むか?」
「今はいい…今ね…ごりって…リーンの赤ちゃんの頭が降りてくるのがわかった…」
「そ、そうか…」
抱いている時のように、彼女は彼に甘え続ける。
「あ…くる…あ……あ゛ぁ…!」
痛みの波が来て強くしがみつく彼女の背中をさすっていると、鏡越しに赤子の頭がひり出てくるのが見えた。…精液の泡と一緒に。
彼女は我が子を見て一瞬顔を緩ませ、そして再び苦痛に顔を歪める。それでもメランの心は穏やかだった。むしろ幸せだった。母親ではたどり着けなかった幸せだ。
メランは、レーンにしっかり見届けてもらおうとしがみつくのを止める。そして彼の肩を支えにしながら痛みに耐える。
彼の手が優しく腰をさすって励ましてくれている中でメランは踏ん張り、彼の腕の中に我が子を産み落とした。
○○○
「良かったんですか、アクアム先生。メランが変化した種族って…」
「良いよ別に。成果は出た。それに、あいつはどんなに良い雌を用意したって見向きもしないだろうし、そこまでふやさなくてもいいしさ。血か精液がとれりゃー良いんだし。」
アクアムは助手の狼獣人にそう返し、彼らに報酬を送るための準備を始めた。
○○○
治安部隊として、罪人を収容する施設の看守を務める竜人リーンは、今日も飲みには行かずに帰る。今はもう、彼女と同じ部屋で暮らしている。もともと家族で利用できる設計なので不自由はない。
「ただいま。」
「おかえり。」
「体は大丈夫か?」
「なんともない。」
無事子供が産まれて1ヶ月。育児は言うまでもなく大変だが、乳をやる必要がない分、獣人やヒトよりはマシだろう。
ドロドロにした肉や野菜を食べさせて、そのあとで自分達の食事を摂る。寝かしつけた後はお楽しみの時間。もちろん、産後に身体を重ねることはなかった。昨日までは。
「ねぇ、もう大丈夫だと思う。」
「本当に?」
「うん。ちょっと前から疼くようになったんだ。匂いでわかるでしょ?」
「なら遠慮なく。」
メランは仰向けになって股を開いた。今度は、心から望んで。
レーンは彼女に覆いかぶさって、雄槍を優しく突き入れた。今度は、決意を持って。
「…気持ちいい。」
レーンが気遣いの言葉をかける前にメランがそう言ったので、代わりに深い口づけを交わす。
「わたし、子供、たくさん欲しい。」
そして産んだ子供達は彼と一緒に愛を込めて育てるのだ。直接母に思い知らせることはできないけれど、もうそれで十分だ。
リーンは妖しく微笑んだ。
「嬉しいな。じゃあ、早速始めるぞ。」
今度は最初から命が宿ることを願って、愛を囁いてから2人は交わった。
そして2年後、今度は産気づいたと知った上で身体を重ね、そのすぐ後に双子が生まれた。
その頃はもう、ヒトの時の未練など残っていなかった。
おわり
投稿ペースがますます遅くなった上に最近は竜(原型)が無いって?
…待ってる人いたらごめんなさい……今年は書きます…