※この作品はR-18です。

竜・竜人短編集   作:神座(カムクラ)

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 久しぶりに更新したと思ったらまた竜人でごめんなさい
 
 
 


14. 君に蕩けるような夜を (竜人♂×人間♀

 

 私が通う、とある高校の休み時間。教室の角に固まる数人の女子。私を含めたヒト種が2人とネコ系、イヌ系が1人ずつ。内のイヌ系獣人が他3人にスマホを見せていた。

 

 

「ねぇほら見て、この子の新しい写真集のDL版買ったんだけど、超良くない??」

 

 

 画面に映る、背中側は青でお腹側は白の毛皮に覆われた獣竜種の少年。下半身を温泉に浸らせ、上半身はうーんと後ろに伸ばして両手を頭の後ろに、流し目でカメラを見ていた。

 

 湿った上半身は毛が身体に張り付き引き締まった身体を強調していて、下半身も裸なのだろうが波打つ水面で絶妙に見えない。

 

 

「うわぁ、一緒に入りてぇ。」

 

 

「私も買おうかなぁ。ほんとかっこ良いよね。うちの弟もこんなだったら良いのになぁ。確か私らの一個下だよねこの子。」

 

 

「絶妙にカッコ可愛いよね。あとこの、絶妙に筋肉質なの好き。ゴリゴリじゃなくて、ちょっと柔らかい感じの…」

 

 

「それな。わかる。ハグされたら絶対気持ち良いやつ。」

 

 

 画像の少年は界隈では有名で雑誌でもよく見かける。母親が竜人で父親が狼獣人、両親とも有名なモデルで、サラブレッドの彼も当然の如くかなり美形だ。

 

 萌える友達たちに合わせながら、私は心の中でため息をついた。いや、確かにカッコ良いし、その妖艶な写真には掻き立てるものがある。なのだが。

 

 

「な、美味いだろ?アカリって意外とこういうの好きそうだと思ってさ。」

 

 

 春休み。学校の最寄り駅から少し歩いた場所にあるラーメン店。隣でそう言って牙を見せて笑うのはふわふわな毛皮に覆われた竜人。背中側は明るい青色でお腹側や髪の毛は白色の毛並み。そう、写真の彼だ。その彼とは同じ中学の後輩で、今でも時々こうして食事に誘われる。

 

 女子の友達や彼のファンが知ったらさぞかし羨ましがるだろうが、実際はそんなに良いものでもない。

 

 

「ところでアカリ、新しい写真集出たんだけどいる?……ヌードもあるぞ。」

  

 

 唐突に顔を近づけたと思ったらとんでもない話題。

 

 ヒトとは違い、獣人や竜人の男性モデルは12歳からヌードが、15歳からAVへの出演ができる。加えて普通のモデルとAV男優・女優を兼任する人も珍しくなく、彼もアダルトモデルとして人気らしい。

 

 一部の人がヒトと年齢を統一するよう声を上げることもあるが、彼はむしろ謳歌している。

 

 

「食事中になんて話を。ていうか食事中じゃなくてもしないで。」

 

 

「相変わらず堅物だなぁ。知り合ってどんぐらいだっけ?そろそろ俺の魅力に気づいてくれよぅ。」

 

 

「はぁ…レンが軟派なだけでしょ…」

 

 

 別に交際しているわけではなく、彼は勉強で忙しい私をしつこく誘っては色んな店に連れて行く。本当にただそれだけなのだ。

 

 そもそも彼は仕事内外で多数の女性と絡んでいるだろうし、私に対してもナンパと対して変わらない。それに彼と私では性格があまりにも合わなさすぎる。

 

 

「…ごちそうさま。」

 

 

「あーい。」

 

 

 それでも”デート”に応じるのは、それが貴重な気晴らしの時間だから。

 

 

「なんか甘いもんでも食う?」

 

 

「これ以上は時間が…」

 

 

 私は国立大学を受験するために塾にも行かずに勉強中。来年の本番に向けてこの春休みから本格的に対策を始めたので娯楽にあまり時間を割けない。

 

 でも、親からお小遣いをほとんど貰えない私にとって快く食事を奢ってくれる彼はとてもありがたいし、良い意味でも悪い意味でも気が抜ける。

 

 

「相変わらず真面目だなぁー、それじゃあまたな。」

 

 

「今日は素直に帰るんだ。」

 

 

「おっと、アフターを期待してるとこ悪いけど明日撮影なんだ。」

 

 

「ラーメンなんて食べて大丈夫なの…?」

 

 

「へーきへーき、明日は久しぶりのソロだから。禁欲してるだけ。終わったら動画のサンプル送ってやろうか?」

 

 

 顔をしかめる私に笑いながら背を向けて彼は去っていく。私もため息をついてから勉強を再開するべく図書館へ向かった。

 

 

 夜になれば家に帰って夕食を摂る。食卓は賑やかだが私はほとんど話さない。実の父と後妻の楽しそうな会話を聞き流しながらテレビを見るだけだ。

 

 一昨年に異母弟が生まれてからは蚊帳の外に置かれているような感じが否めない。どのみち受験勉強で忙しいから下手に絡まれるよりは良いかもしれないが、もやもやとしたストレスは少しずつ積もっていく。

 

 勉強漬けのせいで最近は友達の話にも中々ついていけず、だからこそあの一方的に永遠とくだらない話を続けるレンの誘いについつい乗ってしまうのだ。

 

 

 夕食後、お風呂が沸くまで自室でスマホを開く。この時間は自由と決めている。画面に映るのは、竜人の少年が身体を見せびらかした後で自慰する動画。少し前に偶然見つけた、数年前のレンのAV。

 

 これを見つけてから、彼に会うたびに彼の性事情を意識してしまうようになってしまった。それに、知っている人のこういう動画は他にない中毒性のようなものがあって、ついつい繰り返し観てしまう。

 

 …今はこの動画の時よりも身長が高いし、この動画のレンは肩幅がまだ子供っぽい。動画の中で、自身の片手で扱かれているそそり立つ竜人特有の形の肉棒は、今はもっと大きくなっているのだろうか。

 

 動画の中の彼が喘いで、精液をびゅるるっと噴き上げる。人間よりもずっと多い精液の量も、今はもっと多いのだろうか。

 

 

 大手の事務所に所属していて、かつAV男優というわけではない彼の動画は基本的に有料。この動画は今は無き違法サイトに転載されていたものを画面録画で保存したもの。

 

 そして私にはアダルト動画を買うような余裕はないので、今この動画を観れること自体が奇跡的だった。

 

 本人に言えば動画どころか実物を見せてきそうだが口が裂けてもそんなことはしない。

 

 

「レンは良いよね、こんなに色々我慢することもないだろうし、異性に困らないどころか持て余してるし……」

 

 

 荒いモザイクがかかったサンプル動画では他種族の異性や同性と行為に及んでいるものもある。そもそものルックスが良いのでナンパでお持ち帰りしたと得意げに言われても驚かない。

 

 高校に入って私に彼氏ができた時も素直に誘うのをやめた。…別れたことをどこからか聞き付けた彼が嬉々として誘ってきた時は尻尾を思いっきり引っ張ってやろうかと思ったものだ。

 

 気持ちが冷めたところで画面を閉じ、入浴を終えると参考書との睨めっこを再開した。

 

 翌日、「いっぱい出た」と画像付きで送ってきた時は危うくスマホを叩き割るところだった。

 

 

 

 

「えー、結局観てないの?動画ファイルも送ったのに。カットでだいぶ短くなってるやつだけど無修正だぜ?」

 

 

 高校3年の夏休み。息抜きにと会ってみれば開口一番にこれである。

 

 

「頭どうかしてるんじゃないの?付き合っててもあんなの送らないって。」

 

 

「付き合ってないから送るんだろ?付き合ってたらわざわざ動画じゃなくて目の前でヤればいい話じゃないか。」

 

 

 残念なイケメンとして教科書に載せたいくらい性格が残念だ。いや、普通に良い奴だってことはわかっているが人通りの多い駅前で、当たり前のように話すのは許容し難い。

 

 

「っていうかその格好…」

 

 

「ん?なんかおかしい?」

 

 

「いや…」

 

 

 短パンに、大きめの黒いタンクトップ1枚。体毛で覆われている種族の夏の格好としてはごくごく普通だが、そのタンクトップはみぞおちまで開いている扇情的なデザイン。たてがみに似た白髪からは細い三つ編みが垂れている。

 

 

「前から思ってたけど変装とかしないの?」

 

 

「デートなのに??」

 

 

「いやまぁそうだけど…って違うけど!!」

 

 

 ときどき彼のファンらしき人に呼び止められることもあり、そしてそのたびに私はどんな反応をして良いのか困る。声をかけられずに写真を撮られることもあるので私は必ずマスクをしているが、彼はいつも堂々としていた。

 

 

「誰がどうみたってデートだろ。」

 

 

 他所から見れば身長180cm近い美形の獣竜人と彼より15cmくらい小さい人間のカップル。彼が載るような雑誌を見ている女子にとってはまさにどストレートに刺さる光景なのだろう。

 

 

「…まぁ良いや。早く行こう。」

 

 

「なんだよぉ俺はカモってか??」

 

 

 ベラベラと話しながら彼について行く。今日は海鮮丼のお店だった。

 

 

「おめーも大変そうだなぁ、あんまりストレス溜まると美容と感度に悪いぞ。」

 

 

「…だから来てんの。」

 

 

「なにそれ嬉しい。」

 

 

「あんたは相変わらずだね。」

 

 

「いやー、こう見えて大変なんだぞ。こないだなんか俺が総受けで輪姦されてさぁ、そん中のウマ族と竜人族がぶっかけやがって全身ドロッドロで臭いのなんの。」

 

 

 さすがに他の客に気を使ったのか彼は声をひそめた。

 

 

「現場で洗ったけど匂いは全然落ちないしベタつくしでさ、家に帰って父さんに洗うの手伝ってもらったよ。俺父さん譲りで毛皮だからさ、そこにこびりついて独りじゃ大変過ぎるんだ。」

 

 

 彼が仕事の愚痴を言うことはほとんどないので余程だったのだろう。そしてそれを聞いて動じなくなった自分に驚きつつ話題を逸らす努力をする。

 

 

「お父さん?弟くんはいなかったの?」

 

 

「あぁ、送り迎えしてもらったんだ。んで家着いたらこっちが頼む前に風呂場に連れてかれたよ。」

 

 

 中学の体育祭で彼の家族に会ったことがある。彼の父親は海外出身で身長2m超えの真っ白な狼獣人。一度見たら忘れないくらい綺麗な顔立ちの有名なモデルで、陽気な人だった。レンの性格は間違いなくあの父親似だ。

 

 

「あのエロ親父、ちょっと油断した隙に俺の身体弄り始めてあっという間に抜かれたよ。チクショウ色んな意味で悔しいぜ。」

 

 

 話している内容は最低なのに、まるでスポーツの大会で負けた後の打ち上げのような態度がそれを感じさせない。

 

 彼の家庭の性事情は拗れているということを前提に、知らない男優の精液まみれになった息子に対する一種の慰めというならばいちおう納得できる。

 

 レンの揺れる尻尾を見る限り、彼も満更でもなさそうだ。色々なことは置いておいて、彼の家族は眩しいくらい仲が良い。

 

 

「…弟くんは元気?」

 

 

 明らかな話題転換だが、彼はパッと顔を明るくした。

 

 

「元気元気。こないだ成績がクラス1位だったって。」

 

 

「おぉ…今中学1年生だったよね。弟くんもモデルになるの?」

 

 

「いや、弟は普通の中学生だよ。超イケメンで可愛いけど、今のところ弟にその気は無いみたいだし。あ、でも一回俺と一緒に撮ったことあるぞ。大丈夫、ド健全。」

 

 

「服着てる?」

 

 

「上下バッチリ。」

 

 

「ならよかった。…そういえば、レンってSNSに弟くんとツーショットの写真よく載せてるけど、いつも弟くんの顔にスタンプとかつけてるよね。私の友達が外せ外せって。」

 

 

 彼は少し真面目な顔になった。

 

 

「あーほら、あれって誰でも見れるじゃん?とくに俺のアカウントフォローしてるやつなんてどうせ半分以上エロ目的だし。弟自慢したいのは山々だけど、あんまり顔晒させたくないんだ。もう契約してる俺は心配ないけど、フリーの弟は危ない事務所とかに目をつけられるかもしれないし。」

 

 

「危ない事務所?いまどき?」

 

 

「そう言ってもなぁ、実際俺が産まれてるわけだし。言ってなかったっけ?将来の売れっ子を確保するために偽のピルを母さんに飲ませて、海外事務所から父さん借りて撮影で絡ませて俺ができたって話。」

 

 

「聞いてない…」

 

 

「あ、そう。…まぁこんなシケた話、俺がするわけないかぁ!そんで色々あってそれを知った父さんは爆速で移住、事務所移籍して俺が母さんの腹ん中にいる間に母さんと結婚してその事務所ブッ潰してめでたく俺が産まれたってわけ。2人目もできてハッピーエンドだな。」

 

 

「そう…お父さんすごいね。」

 

 

「わかる。俺もとっととアカリと既成事実作って爆速結婚したいわぁ…」

 

 

「なぜそうなる。身体目当て丸出しなんですけど。」

 

 

 気がつくと食べていた海鮮丼が残り少ない。以前付き合っていた元彼氏と食事した時もこんな感じだった。なんでもオープンなレンが相手だとある種の安心感のようなものがあって、普段から色々と我慢している私が彼の誘いを断れないのもそのせいだろう。

 

 中学で初めて彼と会ったのは、私が所属していた実質遊び部の美術部に彼が入部した時。自由奔放な彼に惹かれた時期もあったけれど、タメ口の関係になっただけに留まった。

 

 人気モデルのレンと成績最優先の私では釣り合わなかったのだ。

 

 

「それじゃあごちそうさま。」

 

 

「あいよ。」

 

 

「今後なんだけど、受験勉強で忙しくなるから会う余裕なくなるかも。」

 

 

「そっか、じゃあ今のうちに金貯めといて終わったら盛大にお祝いしてやるよ。あっ、教会で挙げるのと神社で挙げるの、どっちが良い?」

 

 

「お祝い違いなんですがそれは。」

 

 

 レンと別れ、私は祖母からもらった図書カードで参考書を買うため書店へ。彼の背中を見送ったとき、尻尾がしゅんと垂れていてそれが少し可笑しかった。

 

 目当ての本を探そうとした時、書店のピックアップとして店頭に置かれている本が目に入る。

 

 『ヒト族向け、獣人・竜人族との付き合い方 恋人編〜些細なことで欲求不満!?〜』

 

 異種族間の恋愛は珍しいわけではない。しかしヒト族と他の族とは習性などに差があることもあって、結婚まで辿り着くのは少数だったりする。

 

 近くにあるこの本の宣伝ポスターには「パートナーのスキンシップを無視していませんか?」と煽り文句が書いてあった。

   

 そういえば、レンはあまりスキンシップを取ろうとしない。レンに触ったことも触られたこともほとんどない。”遊び相手”に過ぎないからなのか、別の理由があるのか。

 

 思わず本を手に取ろうとして我に返った。

  

 

 

 夏休みが明けて約1ヶ月、学校で三者面談が行われた。成績は良好で大きな心配はないとのことで安心したのも束の間、一緒に参加していた父親は家に帰ると私を呼び出した。

 

 

「国立大学は私立より安いし就職に有利って言うから行って良いって言ったけど、全然安くないじゃないか。」

 

 

 父は担任の先生からもらった資料を見ながら言った。

 

 

「無理。入学金だけで文無しになる。うちには払えない。」

 

 

 今更無理?こんなに頑張ったのに?頭の半分が固まる。

 

 

「でも国立なら良いって、お母さんの口座にそれくらいのお金は残ってるはずってお婆ちゃんが…」

 

 

 実母は亡くなったが、それなりの貯蓄をしていた。入院費用や葬式費用などを差し引いてもそれくらいは残っていたはずなのだ。

 

 

「…使ったの?」

 

 

「別にお前のお金じゃない。それに、タクミだってこれから金がかかるんだ。もっと早く気づかなくて悪いと思ってる。でもうちのお金の全てをお前に使うわけにはいかない。」

 

 

「でも奨学金が…」

 

 

「奨学金は授業料全部賄える訳じゃないし、そもそも貰えるものじゃないだろう?4年間借金するくらいなら働いたほうがよっぽど良いじゃないか。働いて、結婚するまで家の生活支えてタクミは大学に行けるようにするのが孝行だろ。」

 

 

「そんな…」

 

 

「金を出してるのは俺だ。どうしても大学に行きたいなら自分で稼げ。奨学金もあとで自分で払え。…そうだよ、大学なんて自分で働いて金貯めてからいつでも行けるだろ。ともかく、いまの家にそんな余裕はないから就職先を探してくれ。」

 

 

 そういうことだから、と父は呆然とする私を置いて席を立つ。

 

 国立なら良いって言うから色んなことを犠牲にしてここまで頑張ったのに?今になって無理?

 

 

 でも、これ以上反論することは出来なかった。大金が必要なのも、それをきちんと調べて伝えなかったのも事実。

 

 お金、お金さえなんとかすれば…。震える手でスマホを取り出し、バイトの求人サイトを見る。

 

 

「こんなに給料低いの…?」

 

 

 高くても高校生の時給は千円と数十円ほど。社会的に考えれば決して安いわけではないが、今は9月。遅くとも3月までに100万円近く稼がなければならないと考えると足りない。

 

 高校の授業に休まず行き、バイトで月17万円稼ぎ、さらに大学受験の勉強をする。普通に考えて困難だ。

 

 入学金の納期を遅らせたり分割させる特別措置を受けるためには世帯主の年収が基準以下でなければならない。当然私は世帯主ではないので私の金銭事情は考慮されない。

 

 それに、仮に遅延や分割になってもその上に月々の授業料や教材費、諸経費が重なる。奨学金で賄ったとしても、それは卒業後の自分の首を締めるだけ。

 

 年金暮らしで独り暮らしの実母方の祖母に頼ることなんて絶対にできないし、後妻方の祖父母と父方の祖父母は幼いタクミにつきっきり。

 

 

 落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせる。大学のレベルを下げて首席で入学すれば入学金や授業料は免除され、返済不要の援助を受けられる。無駄になったと諦めるのはまだ早い。

 

 

 でも……

 

 リビングから聞こえる父と後妻とタクミの賑やかな声。弟タクミは今4歳。今までほとんど気にならなかった幼い笑い声は、どうにか保とうとしている私の気力を削っていく。

 

 

 経済の事情。それはどうしようもないこと。突然大学への進学をあきらめるよう言われたこともショックだったが、それ以上に弟のためにさっさと働いて家計を助けろと、それが当然の孝行だと言われたことのほうが傷ついた。

 

 

 勉強の効率は徐々に落ちて行く。担任の先生も父親を説得しようとしてくれたが、それが響くことはなかった。

 

 

「どうだアカリ、やりたい仕事は見つかったか?」

 

 

 秋になると、父と後妻が毎日のように聞いてくる。これが一番ウザい。大袈裟なため息を吐いて参考書とノートをバタンと閉じてスマホを開く。メッセージアプリは削除したので、当然誰からも連絡がない。

 

 あのレンからもだ。「受験で忙しいから誘うな」とレンや他の友達にも自分で伝えたから当然のこと。休み時間なども勉強している私に話しかけてくる人はいない。

 

 その内、「話しかけてはいけない人」というイメージだけが残ったのか休み時間にスマホを弄っていても話しかけられなくなった。

 

 

 元彼氏もそうだ。あるときプライベートで会う頻度を増やしたいと言われ、それを断った数日後に別れ話をされた。彼氏彼女と名乗っているのに学校の昼休み以外では月に1、2度しか会えず、勉強の時間をこれ以上割きたくないと言われたら幻滅されるのは当然だろう。

 

 だから、月に1度会うか会わないかくらいの関係だったレンはちょうどよかったのに、今や彼すらいない。

 

 

 お互いに好きだった相手と別れ、友達とも距離を置いた。実母方の祖母にも会いに行っていないし連絡もしていない。そうまでして頑張ってきたのに。

 

 

 やがて、参考書を広げてもなかなか手が進まないことが多くなる。

 

 それでも、私は12月の模試を受けた。休日にコンビニでバイトして稼いだお金で受験した。どの大学なら首席になれるかを見定めるために。

 

 

「アカリちゃん、なんか大学受験の模試の結果が届いてるけど、自分で受けたの?就職のための勉強じゃなかったの?」

 

 

「模試?いくらしたんだ?せっかくバイトで稼いでたのに。」

 

 

 動悸がして、手汗が出る。

 

 最近、私と家族は以前より険悪になっていた。会話はほぼなく、食事の時くらいしか顔を合わせない。先日のクリスマスも部屋に引きこもったまま。けれど集中は落ち、スマホで動画を観る時間が増えた。

 

 それでもなんとかかんとかやってきた。就職セミナーのチラシを渡されても我慢してきた。

 

 そしてついに、些細な積み重ねが崩れ落ちた。いわゆる「ブチギレ」という感覚を初めて感じた。

 

 自分でも驚くほど素早く滑らかな動きで財布と携帯をカバンに入れて、コートを着る。このブラウンのコートは去年のクリスマスにレンが買ってくれたもの。財布は実母方の祖母が買ってくれたもの。手提げカバンは仲の良かった友達が買ってくれたもの。

 

 学生生活の必需品以外のものは大部分は貰い物。贈り物をくれるような人たちと離縁してまで積み上げたものを全て捨ててしまうという虚しさと罪悪感に駆られたが、私を止める枷には成り得なかった。

 

 

「…もう限界。穀潰しは消えるわ。よかったね。」

 

 

 早口でそれだけ言って、家を飛び出た。

 

 …もしかしたら自分のどこかで、私を引き止めてくれることを期待していたのかもしれない。けれど誰も来なかった。

 

 今は夜の6時。私は刺すような寒さも気に留めず感情のまま歩き続けて自宅からの最寄駅にあるベンチに座る。行くあては無い。所持金は現金千円程と通学用の交通系ICカードにいくらか入っているだけ。

 

 スマホを取り出す。充電率は半分を切っていた。

 

 不思議と涙は出てこない。もう何もかもどうでも良い。消えてしまいたい。

 

 見納めでもしようかとメッセージアプリを再インストールすると、一件だけ新規メッセージがあった。

 

『性夜くらい息抜きしない?』

 

 それはクリスマスの1週間前の日付に届いていたレンからのメッセージ。

 

 見てなくてごめん。メッセージボックスにそう打って、なんて続けようかと手を止める。別れを告げようか。いやわざわざ連絡してくれたのにそれは酷い仕打ちか。なら丁重に断ろうか。

 

 

「みーっけた!」

 

 

「……なんで来るのよ。」

 

 

「えっ酷くない??呼ばれたの俺なんだけど??だいぶ頑張ってすっとんで来たんだから褒めてくれても良いと思うよ??」

 

 

 今会える?そう送った30分後、帰宅ラッシュで人の波が押し寄せるいつもの駅の改札口に水色と白の獣竜人はやってきた。

 

 

「あ、今年もそのコート着てくれてるんだ。嬉しいねぇ。」

 

 

「…レンはそんな格好で寒くないの?」

 

 

 胸まで開いたタンクトップに、薄めのダウンジャケット1枚をファスナーを閉めずに着ている。下は流石に長ズボンだったが生地は薄そうだ。

 

 

「冬毛で余裕。父の種族に感謝です。」

 

 

 さ、行こう。夕飯まだなんでしょ?と彼は手招きする。私の心情なんて関係なく、いつものように私を連れて行く。

 

 

「クリスマスって言うには大遅刻だけど、店とかはむしろ空いててデートにはちょうど良いな。クリスマスイブとクリスマスのホテル予約なんて戦争だし。」

 

 

 相変わらず惜しむことなく下心を見せつけて来るレン。今は突っ込む元気もなかった。自分の好きなことをやって、それでお金も稼ぎ、呼べば来るくらいの余裕もある彼が、いつも以上に羨ましい。

 

 

「…アカリ?」

 

 

 下を見たままだった私に、レンが立ち止まって名前を呼ぶ。優しげな黄色い竜眼が私を覗き込む。本当に、綺麗な顔立ちだ。男前でもなく、幼過ぎるわけでもない。この至近距離で彼の顔を拝めるのは一体何人いるのだろうか。

 

 メディアの中だけではなくリアルで下心丸出しの笑みが常に浮かぶような性格でなければとっくに口説き落とされていたかもしれない。

 

 

「なんでもない。お店、決めてるの?」

 

 

「一応。空いてるかどうか分からないけどな。」

 

 

 そう言ってレンは、当たり前のように私の手を取ってまた歩く。彼のふわふわな手は温かい。

 

 手を繋ぐどころか直接触るのはこれが初めてだ。私は何も言わずに握り返して彼の隣を歩く。まだ強く残っている胸の不快感を紛らわすにはちょうど良い温もりだった。

 

 

「ここ?高そう…」

 

 

「いつもよりはな。」

 

 

 雑居ビルの1F〜3Fまでを占めているらしいそのお店の入り口は黒で統一されたシックなデザインで、高級感が漂っている。

 

 レンが受付を済ませ、店内に案内される。内装もも外観と同じように黒で統一されていてテーブル席が並んでおり、照明が少ないのでバーのような雰囲気だ。席は7割くらい埋まっている。

 

 しかし先導する店員はさらに奥へ。そこは個室が並ぶ廊下だった。

 

 

「うわぁ…」

 

 

「いいとこだろ。」

 

 

 カラオケ店の2〜4人部屋くらいの広さで、L字の黒いソファがテーブルを囲っている。店員に促されるままコートを脱いで個室のハンガーにかけ、ソファに座る。

 

 レンも上着を脱いでいつもの胸まで開いた黒いタンクトップ1枚になると、遠慮なく私のすぐ隣に座った。

 

 

「一応言っとくけど、値段、気にしなくて良いからな。……常識的な範囲で気にしなくていいから。」

 

 

「はいはい。」

 

 

 メニューにある料理の値段は驚くようなものではなかった。ちょっとした贅沢をしたいときには打って付けという感じ。それよりも、私は隣に座るレンが気になった。

 

 少し身体を倒せば彼の二の腕に触れる。離れていても彼の熱気を感じる。さっきあんなことがあって家を飛び出したのに、今度は別の理由で動悸がしてくる。

 

 

 カボチャのスープに、サラダに、ローストビーフに、バゲットに…と滅多に食べないような料理に舌鼓を打ちながら、レンはいつも通りに喋った

 

 

「クリスマスイブ前日に弟がさ、俺にさ、すげぇほっそい声で”前戯の仕方教えて”だって!マジ可愛い過ぎて勃つかと思った。」

 

 

「彼女さんできたのね。」

 

 

「そうそう。竜人の女の子でさ、ついにヤる約束できたのは良いけど弟は俺と違ってピュアだからさ、でも親に聞くのは恥ずかしかったと。可愛いやつだよ。身を持ってミッチリ教えてやった。」

 

 

「そ、そうなんだ…」

 

 

「いやぁあいつがついに初夜を…普通に見てみたかった…」

 

 

 少し特別な料理を前にしてもそんな話か、と呆れたが彼は嬉しそうに話をつづける。撮影でもっと過激なことをすることもあるレンにとってはこの程度、自重するほどでもないのかもしれない。

 

 ただ、レンはいつもよりどこか落ち着いていた。内容は相変わらずでも、心なしか口数が少ない。

 

 

「んっ、どうした?」

 

 

 ローストビーフを一口に頬張ろうと大口開けた彼の舌や牙。私たちヒトとは違う形状のそれを思わず見つめていると気づかれる。

 

 

「いや…口大きいなって…」

 

 

「あぁ、普段はあんまり全開にしないからな。ところで、今日はいつもより口数少ないな。美味しくて夢中?」

 

 

「えっ?」

 

 

 彼にそれを言われるとは思っていなかったので口籠る。

 

 

「美味しいけど…えっと…私そんなに話してない?」

 

 

「なんかいつもより俺の方が喋ってる気がする。あんまり突っ込んでこないし。もしかして2人きりで照れてる?」

 

 

「そ…そう言うレンこそ、いつもはもっと鬱陶しいのに今日はおとなしめじゃない?」

 

 

「俺やっぱ鬱陶しがられてたのか…」

 

 

「自覚あったんだ。」

 

 

「いやまぁなんとなく。今日?そうだな。今日はあんまり攻めすぎない方が良い気がして。だってほら…」

 

 

 レンはフォークを置くと私の肩に腕を回し、寄りかかって私の頬に頬擦りする。あまりに突然の出来事で、柔らかい毛並みが心地よい、くらいしか頭に思い浮かんでこない。

 

 

「…なんとなく、今日はこういう雰囲気に持っていった方が良いかなって。」

 

 

 いつもの無邪気な話し方とは真逆の、落ち着いた優しい声。頬擦りされた状態で喋られると私の頬に温かく湿った感触が少し。つまり彼のマズルも頬に当たっているということで、そして湿っているそれはヒト族で言う唇である。

 

 

「いつもだったら跳ね飛ばされてそうなのに。なんか嫌なことあったの?」

 

 

「別に…」

 

 

 蒸し返されて、胸の高揚が冷める。

 

 

「なんだぁ違うのかぁ。てっきりお持ち帰りのチャンスかと思ったんだけどなぁ。ってことは今日もすぐ帰るのか?」

 

 

「別にわざわざ私を持ち帰らなくなって良いじゃない。どうせクリスマスも……」

 

 

 さぞかし楽しく過ごしたんだろうね、と言いかけてやめる。流石に失礼だ。

 

 

「クリスマス?あぁ、24は友達と、25は家族で過ごしたよ。友達って、高校の男友達だから。性夜なのに健全に過ごしたぜ。」

 

 

 そう言ってレンは私から離れて、今度は腕組みした。

 

 

「うーむ、弟は彼女と初夜かつ童貞卒業で、2人きりになった父さんと母さんもきっと盛り上がっただろうし…俺だけイブは健全とか、なんか悔しいな……」

 

 

 デザートが運ばれて、会話は中断される。甘いケーキは気持ちを幾分か軽くさせた。

 

 

「なぁ、アカリ。」

 

 

「…なに?」

 

 

「俺さ、確かにプライベートでヤッたこともあるけど、事務所に所属してるから好き放題女遊びできるわけじゃないんだ。最近は普通のファッション雑誌の仕事とかも増えてるから尚更な。」

 

 

「…さっきは言い過ぎた。ごめん。そうだよね、動画も仕事なんだよね…」

 

 

「やっぱ見てくれてたの?」

 

 

 完全に油断していた私の全身から冷や汗が噴き出る

 

 

「いやっ…ちがっ…くてっ……その…」

  

 

 必死に否定したが、告白と大差なかった。そんな私にレンはニンマリと笑う。

 

 

「動画に出てる本人の前で恥ずかしがるなって。普通に嬉しいし。…で、どれが良かった?」

 

 

「その…本当に…あんまり見たことなくて……買う余裕ないからサンプルくらいしか……」

 

 

「あー、お前ってお小遣いも最低限しか貰ってないんだっけ?ま、俺とアカリの仲だ。見たかったらいつでも見せてやるよ。」

 

 

 家での出来事を全て忘れるほど恥ずかしくなった私は黙ってケーキを口に運び紅茶を飲む。

 

 

「…それとも、もうそんな必要ないかな。なぁ?さすがに、気づいてるんじゃないか?気づかなかったら気づかなかったで興奮するけどな。」

 

 

 ドキリとして彼の方を向く。

 

 

「な…にを?」

 

 

「さっきのカボチャスープに入ってたパセリの粉が口に付いたまんまだってこと。」

 

 

「えっ、」

 

 

「冗談だよ。」

 

 

 今度は彼の両腕が、さっきよりも強く私を包む。そして大きな手が私の顔を彼の胸へと抱き寄せた。レンの少し早い鼓動も伝わってくる。

 

 

「…今日は何時まで?それとも、フリー?」

 

 

 私が答えずにいると、レンはゆっくり私を離す。しかし肩は抱いたままだった。

 

 

「門限があるなら家まで送るよ。ないなら…もう少し付き合ってもらおうかな。」

 

 

 あぁ、彼はすでに察しているのだ。私が、何かあって家を飛び出したことを察している。レンも馬鹿ではない。

 

 私が答えられなくても、重ねて聞いてくるようなことはなかった。いや、すでに答えているようなものだ。いつもは私の方から時間のことを話すのだから。

 

 

「…そういえば俺もハッキリ言ってなかったな。俺は、アカリと遊んでるつもりはないから。アカリのこと、ちゃんと好きだから。」

 

 

 私の頭の上に顎を乗せる。

 

 

「アカリはいつも、なんだかんだで付き合ってくれるだろ?まだアカリ先輩って呼んでる時からずっと。アカリって気配りできて、周りから好かれるタイプだけど裏ではいつも独りで頑張ってるんだよな。」

 

 

 レンはいつになくしみじみと語った。

 

 

「アカリは俺の身体目当てじゃないだろ?いや、食いもん目当てか…?ま、それでも良いけどさ。アカリの方から突然俺を呼び出すなんて、何があったか知らねーけど、こんだけオープンにしてる奴に変な遠慮なんていらないからな。」

 

 

「うん…ありがと。」

 

 

 彼は微笑むとペロンと尖った舌先で私の頬を舐める。

 

 その意味に気づく前に、レンのマズルの先が私の唇に押しつけられた。毛と唇の2種類の柔らかさを感じて心臓が跳ね上がる。

 

 レンは私の頬をそっと撫でて、離れるとニヒッと笑う。

 

 

「言っとくけど、」

 

 

 彼は柄にもなく照れ臭そうだった。

 

 

「俺のプライベートのキスは超貴重だからな。」

 

 

 デザートはすでに食べ終えている。気を紛らわすものがない。

 

 そしてレンに連れられるまま店を出た。時刻は8時前。今日は平日だがここの駅前はそれなりに栄えているので、さまざまな店が並ぶ通りは意外と人が多い。

 

 その通りを、私とレンは手を繋いで歩く。すれ違う時に視線を感じたり、振り返られることもあった。それが、モデルのレンとして見られているのか、ただの異種カップルとしてなのかはわからない。

 

 レンを見上げると、彼は堂々と、機嫌の良さを滲ませながら店を見回していて、こちらの視線に気づくと笑みを返してくる。

 

 

「レンの手、あったかいね。」

 

 

「だろ。アカリ寒くない?なんかさっきより冷えた気がする。」

 

 

 確かに、空気は刺すように冷たい。でもレンのくれたコートのおかげで顔と繋いでない方の手は温かい。

 

 

「明日雪かもって天気予報で言ってた。」

 

 

「どうりで。あと4日早ければホワイトクリスマスだったのになぁ。クリスマスといえば今年はなんもあげてなかったよね。なんか欲しいもの、ある?」

 

 

「…悪いよ。いつも貰ってばっかで。」

 

 

「いーんだよ、金あるんだから。金持ちを彼氏にした特権だろ?あ、調子乗って高級ブランドねだりまくるのはやめてね。億万長者ってわけじゃないから。」

 

 

 しばらく歩き回って物色し、レンは色違いのマフラーを2つ買うと、水色を私に、暗い紫色を自分に着けた。

 

 

「気配り上手なのはどっちだか……」

 

 

「ん?なんか言った?」

 

 

「なんでもない。ところで…」

 

 

 手を繋いだまま、私たちは駅から離れていく。人通りはまばらになる。やがて、テーマパークのオフィシャルホテルのような外装が青や紫のライトで照らされている建物前にたどり着く。

 

 

「こういう場所は初めて?」

 

 

「うん…」

 

 

 機械で受付を済ませるとレシートのようなものに印刷された番号の部屋へ。派手な外観とは真逆の、薄暗くてシンプルな寝室。

 

 

「意外と普通…」

 

 

 照明器具が光を乱反射させるようになっているところ以外は大して変わったところはない。テレビもある。ただ床がフローリングのようなタイルであったり、ベッドはダブルサイズが1つで枕元の机には妖しいものが並んでいたり、ベッドのすぐ隣がガラスで仕切られたシャワールームになっていて、奥にはプールで見かけるような丸い浴槽があった。

 

 

「アカリはこういう部屋の方が良いと思って。」

 

 

「でもこのお風呂…広いけど丸見え…」

 

 

「いーじゃん別に。せっかくだし背中洗うの手伝って。」

 

 

 彼はなんの躊躇いもなく服を脱いだ。白い後髪、水色の背中、竜人独特の尻尾、長い手足。背中側から見てもわかる引き締まった身体は、雑誌や動画で見るよりもずっと妖艶なシルエットだ。

 

 

「見惚れるのは後にしてくれ、興奮しちゃう。」

 

 

 そう言いつつこちらを振り返った。慌てて目を逸らしたが彼は歩み寄ってくる。

 

 

「恥ずかしい気持ちはわかるけど、さっさと脱がないと俺が脱がせちゃうぞ。ほら、タオル巻いてて良いから。」

 

 

「…独りで脱ぐよ。」

 

 

「はいはい。先入ってるぞ。」

 

 

 私のことなど全く気にせずシャワーを浴び始めるレン。どうせいろんな種族の裸を見てきた彼なんだから、私の裸なんぞ大したものじゃない。そう言い聞かせて服を脱ぎ、バスタオルをしっかり巻いてから下着も脱いだ。

 

 そして全身毛皮で、しかも冬毛の獣竜の彼の背中を洗ってやる。感覚はシャンプーと変わらない。確かにこれを毎日1人で洗うのは大変そうだ。

 

 よくよくゆすいで、レンは風呂には浸からずにタオルで拭き始めた。

 

 ガラス板の向こうで平然と全身にドライヤーをかける彼を横目でチラチラ見ながら、私も身体を洗う。

 

 …そして気づいた。絶対わざと身体を見せびらかしている。こちらに正面を向けているわけではないが絶妙な角度で、時折肘を曲げながら大きく脇を開く。

 

 悔しいがやはり実物は写真より扇情的だった。盗み見ているような状況も相まって、不覚にも胸が昂る。

 

 

「あ、出た?」

 

 

 裸のまま、掛け布団をどかしたベッドに座ってテレビを観ていたレンは、私が身体を拭いて髪を乾かし備え付けのバスローブを着るとそう言って立ち上がる。

 

 

「ほらもっと近くに来て良いんだぜ。ファンだったら気絶してるかもな。」

 

 

 テレビが消えると、部屋の中は一気に静かになった。部屋にかかっていたピアノのBGMも彼が消したらしい。

 

 

「その…どうすれば……」

 

 

「どうしても良いぞ。触るなり抱きつくなり、押し倒すなり。そのまま見てても良い。」

 

 

 そう言ってレンは軽く両手を広げる。白いお腹側は冬毛と風呂上がりでモコモコしていても、胸板や腹筋はしっかり見えている。そして、白い毛が周りより少し多い股間。今は何も見えないから、普段は体内に収納されているらしい。

 

 私が唯一観ていたあの動画と重なる。それが今目の前に。

 

 不意に彼がこちらに歩み寄ったので心臓が跳ね上がった。

 

 レンは私をギュッと抱きしめる。そして私の背中を優しくさする。私が彼の背に腕を回すと、レンは身体をほんの少し揺らしながら私の頭に頬擦りした。

 

 身長差が身に染みる。竜人のレンと交際することになるのなら、あのヒト族向け異種族恋愛の本を読んでおくべきだった。…今や頭ひとつ分背が高く、身体もひとまわり大きな、しかも竜人。ペニスの大きさだってあの動画よりも大きくなっているだろう。

 

 

「緊張してる?まぁそりゃそうか。ところでアカリ…」

 

 

「なに?」

 

 

「…どこまでしてくれるんだ?」

 

 

「どこまでって…?」

 

 

 聞き返すとレンは私を見つめ、そして悪戯っぽく笑う。

 

 

「愚問だったかな。」

 

 

 そう言ってレンはベッドの少し奥に股を開いて座り、手招きする。その姿がなんとも妖艶で、私は生唾を飲みつつも彼に従った。

 

 

「さぁ、好きなようにしてくれ。」

 

 

 促され、恐る恐る彼の太ももに手を生ばす。暖かく、かなり弾力がある。

 

 一度触って見たかった……

 

 

「遠慮すんなって。それとも、おねだりして欲しい?」

 

 

 もう一度ゴクリと喉を鳴らす。そして彼の脇腹を撫でて、胸を撫でる。

 

 

「んっ…」

 

 

 レンがうめいたので顔を見ると、見たことのないようなうっとりとした目をしていた。

 

 そんな彼に、私の羞恥心というストッパーが少しずつゆるんでいく。

 

 流石に股間を触る勇気はまだなかったが、もう一度太ももを、今度はもっと際どいラインを撫でる。すると彼の下腹部や尻尾がピクッとして、白い毛の中にピンク色のものが見える。

 

 

「あ…」

 

 

 その正体に気づいて思わず手を離すと、レン手が私の肩を掴む。

 

 

「もっと撫でて。」

 

 

 腹筋や胸筋をエステのように撫でればレンは呻きながら私を抱き寄せる。そして股間に視線をやれず、彼の顔を見るしかない私に上目で見つめ返してきた。

 

 それはもうAVを超えた何かだ。私に撫でられて口で息をし恍惚とするレンを見て、感じたことのない興奮が湧き上がる。

 

 そして胸に仕舞い込んでいた欲求のまま彼の顔に手を伸ばしてその形を確かめるように撫で、口を弄ると手を咥えられた。

 

 彼の口内はとても暖かかった。

 

 レンは口から私の手を離し、もぞり、と動いて私の腰に手を回す。その時私のお腹に熱くて硬いものが当たって思わず腰を引こうとしたらむしろ抱き寄せられる。

 

 まるでソレを擦り付けるように抱きしめられた。

 

 

「…噛むなよ?」

 

 

「え?」

 

 

 目と鼻の先でそう言われ、そしてレンが顔を横に90度回しながら近づき目を瞑る。

 

 私の唇に柔らかい感触。しかし夕食の終盤で感じたものとは全く違う、肉の感触。そして硬い感触…

 

 

「んっ…!」

 

 

 驚いてくぐもった声を出したが彼はむしろ私を強く引き寄せる。唇に彼の牙が当たっている。そして、別の肉塊が入ってきた。

 

 レンの細長い舌が私の口の中に侵入して舐めまわしていた。口付けも深くなり、私の口のほとんどがレンの口に覆われている。

 

 レンの逞しくも柔らかい腕が背中を撫で、腹には熱くて硬いものが押し当てられている。

 

 夢中というより、されるがまま。しかしわたしの中に込み上げた熱は、恥じらいではなかった。

 

 

 私、レンが好きだ……

 

 

 彼の頬を、背を撫でる。撫でたい。抱きしめたい。彼の熱いキスが、それは恥ずかしいことでもいけないことでもないんだと私に教えているようで。そして、雄の象徴を押し付けられてもなおそう思えるのは、きっと彼のことが好きだから。

 

 家出したのだ。我慢する必要はもうない。

 

 ゆっくり、レンは離れていった。彼の艶めかしくも優しい視線に釘付けになる。

 

 

「やっぱり大好きだよ。その証拠にほら…もうこんなに興奮してる。」

 

 

「うわぁ…」

 

 

 抱擁を緩めて、彼の視線に促されるまま下を見る。

 

 そそり立つ濃い桃色の男根。先は尖っていて全体的には根本に向かって滑らかに太くなっていっているが、中腹あたりから少しゴツゴツしていて側面にはシワのような溝がいくつかある。

 

 それに、根本より少し上はコブ…ほどではないが表側に大きく膨らんでいて丘のようになっている。

 

 長さはわたしの手首あたりから肘まで。あの動画では裏筋しか見えていなかったし、予想を超えた大きさも相まって興奮と不安が同時に押し寄せる。

 

 

「アカリ、ここも触ってくれる?」

 

 

 頷いて両手で軽く握ってみる。熱くて、思った以上に硬い。

 

 手を上下させるとピクっと跳ねた。

 

 

「あー…駄目なやつだこれ…」

 

 

「えっ…」

 

 

「あぁ違う違う。気持ち良すぎるってこと。やっぱ好きな人にしてもらうと違うなぁ…でもせっかくの初夜だし、扱いてもらうのは子供ができてからでも良いだろ。」

 

 

「…それ考えるの早すぎない?」

 

 

「それだけ本気ってこと!」

 

 

 そう言って私に手を離させまた抱き合う。レンはあやすようにわたしの背中を撫でるが、その手は段々腰へと下がってくる。

 

 

「俺をイかせたいとか、イってるところを生で見たいとか思ってたら悪いけど、今日は俺にやらせてくれ。出ないと問答無用で襲っちまいそうだ。」

 

 

 確かに、彼の顔は優しさよりも欲の色が強くなっている。

 

 

「…良いよ。それに私、どうして良いかわからないし…あ、でも優しく…」

 

 

「確かにいつもより興奮してるけどよ、そこは舐めんなよ。本業には及ばないかもしれないけど、その辺の同年代よりずっと経験もテクニックもあるから。」

 

 

「はいはい、そうでした。」

 

 

 妖しく微笑むレンにバスローブを脱がされ、そして仰向けにさせられる。全裸を見られているわけだが、レン相手にいまさら恥ずかしさはない。

 

 なにせ彼なのでいきなり胸を揉まれても驚きはしない。しかしレンは先ほど私が彼にやったように、しかしずっと慣れた手つきでわたしの身体を撫で始める。

 

 股間には厳つい雄槍をぶら下げながら、丁寧に揉みほぐしている。

 

 そして私に覆い被さり、ついに挿れるのかと思いきや口付けを交わしながらなおも愛撫された。まだ挿れないのか、と頭に浮かんで私が彼の手のひらで転がされていることに気づく。

 

 明らかに飽きではない、動画を観ている時と同じような、それよりずっと強い感じ。

 

 

「…よかった。落ち着いてくれてるみたいで安心した。」

 

 

 彼もそれを感じ取ったのかもしれない。嬉しそうにも見える。

 

 レンは身体を起こして一旦ベッドを降りると枕元のテーブルの引き出しを開ける。そして細長い袋を取り出して戻ってきた。

 

 

「何それ。」

 

 

「ローション。竜人と初めてなら絶対あったほうが良い。」

 

 

 そう言って彼は袋を開けると左手にローションを垂らしてなじませてから、わたしの陰部にそのローションまみれの左手を伸ばす。さすがに緊張しながらも身を任せると、彼の中指が入ってきた。

 

 

「こ、こんな奥まで…」

 

 

「リラックスして。」

 

 

 そう言われても、お腹の中に指が入って弄られるという未知の感覚に身体が強張る。するとレンは再び私に覆い被さって、口付けを交わしながらなおも指を動かす。

 

 異物感と微かな痛みに慣れてくると身体の力も抜けていく。それに下腹部がじんじんと暖かくなってきた。

 

 

「そろそろかな。」

 

 

 彼はヌメヌメの左手を洗いに行き、戻ってくる。今度は備え付けのビニール手袋をしてからローションを自分の肉棒に塗りたくる。そしてビニール手袋を捨ててベッドに上がった。

 

 

「力抜いて、ゆっくり息してて。」

 

 

 仰向けに寝ていたわたしの両足を折りたたませて、暗部が曝け出される。AVでよく見る光景を、今私がしている。

 

 レンが、その厳ついペニスを片手で持って、私に向ける。

 

 ツン、と陰部に硬いものがあたり、そしてそれが入ってきた。

 

 ヌルヌルと、ゆっくり入ってくる肉棒は太さを増す。同時に引っ張られるような痛みを感じる。

 

 レンは片手でペニスを支えつつ、もう片方の手をわたしの顔の横に付いて身体を倒してきた。

 

 

「大丈夫?」

 

 

「うん……」

 

 

 覆い被さるレンの身体は圧迫感と安心感を同時に与えてくる。

 

 

「アカリ、」

 

 

 呼ばれて顔を見ると、優しい目にもどっていた。

 

 ヌル、と肉棒が奥に進む。そこで最初の違和感。ゴツゴツしている部分に差し掛かったのだろう。引っ掛かるような感覚も侵入してくる。

 

 拒むように勝手に力が入って、自分でも異形のペニスを締め付けているのがわかる。そしてそれはさらに進み、入ってくる部分の太さも増す。

 

 

「んっ…」

 

 

 痛みが増して声を漏らすと侵入を止めてわたしの顔を舐めてきた。チラリと下を見てみると、まだ半分も入ってない。

 

 

「大丈夫だよアカリ、優しくするから。」

 

 

 頷くと、また侵入してくる。ゆっくりと、奥へ、奥へ。太さも増していき、入口を引き延ばされるような感覚や内側から押し広げられる圧迫感も強くなる。思ったよりもずっと深いところまで入ってきたところで、彼は挿入をやめた。

 

 

「こんなに入ったぞ。」

 

 

 見れば、表側に大きく膨らんでいる根本近くの部分以外は全て自分に刺さっていた。 

 

 レンが笑って私の下っ腹を撫でる。

 

 

「思ったよりすんなりだったろ?逆に、竜人相手に慣れてないのにローション使わないと地獄だからな。」

 

 

 確かに巷で聞くような激しい痛みはない。でもやはりお腹の奥まで太い異物が入っている感覚への不安や拒否感は拭えないし、きついストレッチをしているような痛みもある。

 

 

「大丈夫、しばらく動かないから。…アカリ、」

 

 

 彼は両膝を私の顔の横について、私に覆い被さる。彼のマズルの先が私の鼻先に触れそうなくらい近づく。

 

 

「あったかくて、ちょっとざらざらしてる。緊張して俺のをすごく締め付けてきてる。」

 

 

 気持ちいいよ、と甘い声で囁かれた。素人でもわかる、欲情したレンの綺麗で妖艶な顔。私に注がれる熱い視線から再び目が離せなくなった。

 

 そして、今お腹の中を占めている異物感。見つめあっている彼が中に入ってきている。

 

 心拍数が上がって、同時に胸がモヤモヤと変な感じになる。

 

 …これは不安でも恐怖でもなく興奮。彼に覆い被さられて、繋がって、私は興奮している。

 

 少し痛くて、苦しくても、絶対にやめて欲しくないと、続けてほしいと思っている。

 

 

 彼は焦らすように私を見つめ続ける。耐えかねた私は、躊躇いながらも彼の両頬に手を当てる。レンは一瞬笑みを深め、そしてまた唇を重ねた。

 

 

「アカリ、ちょっと力入れてみて。…そうそういい感じ。怖がらないで俺のを感じて。」

 

 

 痛みも増すが、深く刺さっているソレの凹凸も何となく感じ取れる。

 

 

「アカリ、深呼吸して力抜いて。…お、うまいうまい、柔らかくなった。」

 

 

 力を抜くとソレが一気に奥まで貫いてきそうな錯覚を生じるが、なんとか彼の言う通りにする。それでも時折、ピクピクと締め付けようとしてしまうのがわかる。

 

 

「大丈夫?」

 

 

「なんか…変な感じ…」

 

 

「ふふ…アカリ、もう一回。」

 

 

 それを何度か繰り返すとレンは休憩と称して一旦引き抜く。抜けたら抜けたで変な感じだった。

 

 抱擁と接吻を交わすと、レンは同じ体勢でもう一度私にペニスを入れる。

 

 

「んっ…」

 

 

「そうそう良いぞ…」

 

 

 さっきよりもスムーズに進んで、同じところまで入ってもそこまで苦ではなくなっている。

 

 彼が挿入してきて彼の身体が近づいてくると無意識に彼の背中に手を回していた。

 

 

「大丈夫そうだな。俺も限界だし、まぁ…しばらく付き合ってくれ。」

 

 

 レンが腰を引く。中で擦れながら肉棒が抜けていく。そしてこれまでよりずっと勢いよく入ってきた。身体が強ばるのも束の間、また引き抜かれる。

 

 あぁこれが…

 

 

「辛くない…?」

 

 

「大…丈夫……」

 

 

 覆い被さってきたレンが腰を振っている。間近で、しかも彼の下で見るとまさにピストンという表現が当てはまる。その動きに合わせてレンがお腹の中を出入りしている。

 

 尖った先端が中の肉に刺さりながら奥まで入り、抜けていく感覚はまるでお腹の中をかき混ぜられているようだ。

 

 さっき触った、ゴツゴツした厳つい肉棒が中で擦れ続ける痛みも、その太さに肉が引っ張られる痛みもある。でもそれ以上に興奮していた。強くないとはいえ痛みがあるのに、もっとして欲しい。

 

 レンに犯されている。レンのあのペニスが私の中に。あの量の射精をお腹の中でされたら…

 

 

「……あっ、」

 

 

 繋がっているところに手を伸ばしてレンのペニスを掴む。熱くぬめったレンのペニス。

 

 

「どうした…?」

 

 

 レンは動きを止める。

 

 

「レン…こ、コンドーム…」

 

 

「…着けてほしい?」 

 

 

「え…」

 

 

 レンは私に頬擦りして、そっと耳元に囁いた。

 

 

「俺は、明日アカリが俺の子供を産んでも良いくらい本気だから。明日結婚して2人で暮らしても大丈夫なくらい本気なんだ。でもアカリが着けて欲しいって言うなら着ける。」

 

 

 彼はどこか必死な様子だった。そして黙って私の答えを待った。

 

 まさか、本当にそこまで考えていたなんて。

 

 早すぎる。避妊は大事なこと。わかっているのに、私を妊娠させたい、とも取れる彼の言葉に昂りを覚えてしまったのはきっと言い出すのが遅くて既に興奮しているから…のはずだ。

 

 

「…それ守ってね。」

 

 

 そう言って彼を撫でると、レンはまた動き始めた。

 

 さっきよりも腰を前後させるペースも遅い。そして、ぐい、ぐい、と入口に何かが押し込まれようとしている。

 

 …あの膨らみを、私の中に入れようとしている。私は男じゃないが、全部挿れた方がレンにとって気持ちいいというのはなんとなくわかる。

 

 

「アカリ…辛くなったら言って。」

 

 

「うん。」

 

 

 私を心配するレンは、理性的で紳士的なのにどこか幼さも感じる。

 

 大丈夫、嫌いになったりしないから。と彼の頬を撫でながら引き寄せると、どちらともなく唇を重ね、そして割って入ってくるレンの舌を受け入れる。

 

 抜き差ししては押しつけ、をレンは繰り返す。そのうちに、少しずつ膣の入り口が広がるのを感じる。

 

 本当に慣れている。同時にそれを理由に距離を置かれたくないのだろう。

 

 レンが肉棒を引き抜くことをやめて、そのコブまではいかない表側の膨らみを本格的に押し込んでくる。

 

 みちみち、と音が鳴りそうなくらい肉を広げられる。今どの辺だろう。確かあの膨らみは、一番太いところまでは勾配になっていて、そこから根元までは…

 

 

 ずりゅん。

 

 

「んっ…!」

 

 

 突然、膨らみが入ってくる。先端がさらに奥へ進む。勝手に膣がレンを引き込んでいく。先端が奥に刺さるような感覚と、膨らみが下っ腹を押す感覚が同時に押し寄せる。

 

 あの膨らみ、一番太いところを超えると根元に向かって急勾配で元の太さに戻る。だから1番太いところに押し広げられていた肉は、その急勾配に沿って根元まで飲み込んでしまうのだ。

 

 

 私の口から舌が引き抜かれ、唇が離れるとレンは満足げに笑う。

 

 

「全部入った。アカリの中に全部入ったぞ。」

 

 

 真価を発揮した肉棒に私は悶えた。お腹の一番奥と手前の方で痛みとは違う感じたことのない刺激が、その間の部分はジンジンと熱を帯びる。

 

 

 レンが座り直す。その時お腹の中が左右に引っ張られる。

 

 レンは私にさらに脚を開かせ、そして私の上に身体を重ねてきた。

 

 レンの身体。筋肉、体毛、体重、温もりが私を包み、さらにレンの雄の象徴が私の中に完全に収まる。

 

 

「あぁ…気持ちいい…アカリ、気持ち良いよ…」

 

 

 私は未知の刺激に息を荒くしながら、レンの身体をギュッと抱きしめた。これが正しい性快感なのかどうかはわからない。でも確かに、ずっとこうしていたいと思えるような心地良さを感じた。

 

 ず、とお腹の中が引っ張られる。レンの腰が浮き、膨らみが私の中から引っ張り出され、そして肉棒が少し抜き出されると、また押し込まれる。

 

 先っぽがわたしのお腹の中を突き進み、ずりゅんと膨らみが入る。

 

 ゴツゴツした部分や溝の部分が私の中を擦れる。

 

 彼の毛並みが身体中を擦る。

 

 勝手に身体がビク、と痙攣して彼を締め付ければ、彼の肉棒が中を動く感覚が強くなる。

 

 

 密着しているせいで彼の腰振りの振動がそのまま全身に伝わり、またその振動に合わせて肺から空気が抜け出る。力を入れて我慢しない限り、ふっ、ふっ、と口から息が漏れる。これに声を混ぜれば俗に言う嬌声になるのだろう。

 

 

「ふぅ…あっ…」

 

 

 レンが頬を密着させながら耳元で喘ぐ。いやらしい喘ぎ方、のはずなのに、私にペニスを抜き差しして気持ち良くなっていると思うと嬉しいような可愛いような、そんな気持ちになった。

 

 顔を横にして彼を見る。欲情して口を半開きにしているのにその目は理性的。そしてまた、片付け。レンの腕が私の首の後ろに回され、大きな手が私の後頭部を押さえ引き寄せる。

 

 お互い、鼻息が荒い。口付けの時は目を瞑っていたレンが、不意に目を半分開ける。

 

 なんとも言えないその静かな瞳を見た時、奥を刺される刺激が、肉棒との摩擦が、出入りする膨らみの刺激が、突然違うものに変わる。

 

 筋肉が弛緩しているような、しかし力が入るような、形容し難い感覚。そしてそれは、気持ち良いものだった。

 

 

「レン…」

 

 

 彼を抱き直す。彼をもっと感じたい。その前に、言葉で言わなければ。

 

 

「気持ち良いよ…レン…」

 

 

 初めてだったのに。体格の大きな相手なのに。美形の獣竜人の、種族的にヒトより大きく異形のレンの雄で犯されて、今は痛みや圧迫感と同じくらい気持ち良い。

 

 レンが腰を上下させる度にグリグリと複数の気持ち良いところが押される。

 

 

「はぁ…ぁ…アカリ……」

 

 

 レンの腕の力が強くなる。奥を突く力も強くなる。ずりんずりんと膨らみが出入りする頻度も高くなる。

 

 

「イク……中に…出すから…」

 

 

 彼が腰を上げた時に見える、太い尻尾の根本がさっきよりも上向きになっている。レンの興奮も最高潮。比例するように私の熱も高まっていく。

 

 スリスリ、とレンの頬が私の頬に擦られる。腰を上下させる速さは変わらず、しかし奥突く力が強くなる。くる。もうすぐ彼が絶頂する。

 

 彼の柔らかい耳に向かって、少し声を出した。ズン、というレンの突きに押された空気に乗ったその声は、自分が思っていたよりもずっと淫らなものだった。

 

 でも恥ずかしくない。レンと自分をもっともっと昂らせるために、快楽と興奮を燃料に喘ぐ。

 

 

「んぁっ…あっ…レンっ……」

 

 

「あぁイクっ……」

 

 

 くううぅ、とうめきながら、レンが私の奥を重く突き、そしてぎゅむぅと押しつける。

 

 彼の口から力尽きたように息が漏れた。

 

 どっくん、とお腹の中が跳ね上がり、肉棒を締め付けているところからゴーという振動、同時に熱いものが流れ込む。途切れた直後、またどっくん、と繰り返す。

 

 レンは喘ぎ、レンの肉棒は暴れ、お腹に溜まる熱いものはその体積を増していく。

 

 かあぁ、と下半身が熱くなり、それが足先や胸まで広がり、そして一瞬、何も考えられなくなり息も止まる。

 

 そこに、また激しい脈動が追い討ちをかける。どっくん、どっくん、とレンの雄の脈動を、私は彼の身体にしがみつきながら受け止める。

 

 ふー、ふー、とレンの荒い息。脈動が急に弱くなって、私も思い出したかのように息を吐く。

 

 ボーっとする頭。初めてにしては強すぎる快感と、幸福感。

 

 焦点を合わせずに天井を見ていると、レンの顔が視界に入る。そしてまた、熱いキス。私も彼の頭を撫でながら引き寄せて、しぶとくビクビクしているレンの雄を感じながら彼への愛情を無言で送る。

 

 

 お腹の中のレンの肉棒が硬さを失っていく。唾液の糸を引きながら口を離すと、へへ、とレンが笑い、私も釣られて笑った。

 

 レンが身体を起こす。そしてズルン、と役目を終えたレンの雄が私の中から出ていく。

 

 と、奥に溜め込まれていた熱が一気にながれでる。

 

 

「あっ…やだ……」

 

 

 しかし間に合わず、ぶちゅ、と音がしてドロドロしたものが漏れる。

 

 

「我慢しなくて良いって。」

 

 

 そう言いつつ嬉しそうなレン。我慢してもしなくても、レンは悦びそうだ。レンは私のすぐ隣に寝そべって、こっちを向くと私のお腹を撫でながら甘えてきた。

 

 

「出し過ぎじゃない…?」

 

 

「俺の精液でお腹いっぱいで苦しい?」

 

 

 にかーっと笑い、しかしすぐ穏やかな笑みになる。

 

 

「タオル敷いてるから大丈夫。ほら。」

 

 

 彼の愛撫と視線に促され、力を抜くとゴボポっと溢れ出した。

 

 収まって、起きあがろうとするとじんわりとした感覚が急に広がった。

 

 

「大丈夫?」

 

 

「力が入らない…」

 

 

「イッてたもんな。…さっすが俺、初夜でお前を気持ち良くできたんなら今までイロイロ頑張った甲斐があったってもんよ。」

 

 

 そう言いながら私にも自分の方を向かせ、向き合うと抱きしめてくる。

 

 

「気持ち良かった。あぁ。こんなに興奮するなんて思わなかった。」

 

 

「…最後の方必死だったね。可愛かった。」

 

 

「うるせ、夢中だったんだよ。仕方ないだろ、やっとアカリとできたんだから。妄想以外じゃ無理なんじゃないかって思いかけてたんだぞ。」

 

 

「ごめんね鈍感で。」

 

 

 そう言うと彼は少し黙って、そしてわたしの鼻を舐めた。

 

 

「ビビらないでもっと早くに仕掛けとけば良かったな。ま、結果ハッピーエンド、だろ?」

 

 

 そうかもね、と相槌を打って、しばらく彼と愛撫し合いながら彼の胸で余韻が薄くなるのを待つ。

 

 しばらくして彼に支えられながら身体を起こすと、また少し精液が溢れてきた。

 

 

「うわぁ…」

 

 

 生卵の白身をかき混ぜた後のような白濁液。

 

 

「あったかかったろ、俺の精液。」

 

 

「まだあったかい…」

 

 

 そう言ってお腹に手を当てる。あれだけ奥で、肉棒に栓をされながら大量に出された。溢れてもなおお腹の奥は温かい。

 

 

「デキたら隠さないで言えよ。責任とって結婚するから。」

 

 

「気が早いよ……」

 

 

「そんなこと無いと思うよ。だってあったかいってことはお前より体温高い俺の精液がまだいっぱい残ってるってことだろ?もしアカリが排卵日だったら確実に俺の精子と受精して…」

 

 

 生物の教科書にありそうな受精の様子でも想像しているのか、レンの視線が上を向く。そしてふ、ふ、と笑った。

 

 相変わらずの、いつものレン。彼に寄りかかると優しく受け止めてくれた。

 

 

「すっかりレンに毒されたわ。」

 

 

「やったね。」

 

 

 いつものレンの笑み。今は素直に見惚れられる。いつもは滅多に触ってこないレンがあそこまで密着してきて、今もしっかりと肩を抱かれている。彼もずっと我慢していたのだろう。

 

 今度は自分からレンの胸に抱きついた。

 

 

「周りに言っても馬鹿にされそうだけど、俺、本当にアカリと子供が欲しい。一緒に暮らしたい。」

 

 

「そう…ならそのうちそうなるかもね。」

 

 

「おっ、認めたな?まぁもう遅いかもしれないぞ。ふふ…あー…興奮してきた……」

 

 

「えっ、ちょ、」

 

 

 彼の股間から、ぬめったままの肉棒がまた生えてくる。

 

 

「あんなに出したのに…」

 

 

「ごめん、俺の精子がアカリの中を進んで、受精して、着床して成長して生まれるところまで妄想したら…」

 

 

 もう一回させて、と押し倒された。こんな父親で大丈夫だろうか。

 

 そしてまた、さっきと同じようにレンに抱かれたのだった。

 

 

 熱い交わりを終えると、膝が笑うのを彼に支えてもらいながら軽くシャワーを浴びて、そしてジャグジーをONにした円形風呂に浸かる。

 

 入った精液は風呂に入ったくらいじゃこれっぽっちも出てこないから平気、と聞いてもいないのに嬉々として話す。

 

 一緒に浸かりながら、レンはしょっちゅう私に頬擦りする。別に鬱陶しいとは思わない。むしろ、今まで寂しい思いをさせていたんじゃ無いかと申し訳ない気持ちになる。

 

 

「どう?おさまった?」

 

 

「うん。だいぶ。」

 

 

「10時半…寝るには少し早いか…?」

 

 

 利用できるTVチャンネルを確認しているレンの隣に座る。私はバスローブを着ていたが、レンは裸のままだった。ここは空調も完備されているし、下手に着込むと暑くて寝れないらしい。

 

 

「アカリ、なんか観たいテレビとか、したいことある?3回戦以外で。」

 

 

「うーん…」

 

 

 おもむろに肩を抱かれて、身を委ねる。彼の身体は風呂上がりでさっきよりも温かい。

 

 

「そういえば、まだ言ってなかった。」

 

 

 視線で続きを促すレン。あれだけ熱くしたのだから、もう恥ずかしさは無い。

 

 

「いつもありがとう。私も好きだよ、レン。」

 

 

 彼はにっこり笑って、私に軽いキスをする。

 

 

「レン、」

 

 

「ちょっと…聞いて欲しい…」

 

 

 今話すことではないのかもしれない。雰囲気を壊してしまうかもしれない。でも、今しかない。

 

 そして私は大学受験のこと、夕方に起きたことをレンに話す。

 

 レンは私の肩を抱きながら、黙って聞いていた。

 

 家出したところまで話して、ごめんねこんな話をして、と言おうと思ったところで口を挟まれる。

 

 

「んじゃあ俺ん家に来いよ。弟もいて賑やかだけどさ。ベッドも1人用だけど…まぁ良いだろ。布団買えば良いし。」

 

 

 湿った雰囲気でもなく、いつもの調子で当たり前のように言ってのけた。

 

 

「大学は…そうだな、奨学金借りればなんとかなるだろ。アカリにもバイトしてもらうことになるかもしれないけど…まぁ俺大学行かないし。高校卒業したら本格的に仕事することにしてるから奨学金は返せるよ。いざとなったら父さんと母さんに頭下げるさ。お金いっぱいあるだろうし。普段はそんな使ってないし。」

 

 

 だから気に病まないで、と私を抱きしめた。

 

 

「でもまずはお前ん家行かないとな。働くか結婚するかだろ?クリアしてるから大丈夫。」

 

 

「レン…今までよく騙されなかったね。」

 

 

「だってアカリは嫁じゃん。…通帳とカード渡さなきゃ大丈夫。」

 

 

 レンの胸に顔を埋めながらため息をついた。

 

 

「そんなの……本当に…良いの?」

 

 

「良いとも。アカリこそ良いんだな?子沢山になるぞ。」

 

 

「…子供は好き。」

 

 

「おっしゃ頑張ろ。じゃあ結婚前提ってことで。よろしくな、アカリ。」

 

 

「うん……ありがとう。」

 

 

 その後は適当にテレビを流しながら、レンの腕の中で彼を撫でたり撫でられたりしながら眠くなるまで過ごす。

 

 そしてベッドに並んで入って、大好きだよ、と言葉を交わして瞼を閉じる。

 

 どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。せめて、これからを大事にしよう。そしてちゃんとレンを、家族を支えられるようになろう。

 

 あんなに沈んでいた自分はどこはやら。

 

 気分はもうお嫁さんだった。

 

 

 

 おわり




 
 
 このお話はpixiv、ムーンライトノベルズにも投稿しています。
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