「あたし、氷川日菜。今日からキミの飼い主だよっ♪」
地下の闇オークションで彼女と出会い買い取られた、そして彼女の家に連れられる。
今までいろんな富豪達に買われ豪邸を見てきたがすごく小さな一軒家だった、そして私のような買われた玩具は外の小屋にまるで犬のように繋がれるのが常だったが小屋らしきものが一切見つからない。
「ん?どうしたの?こっちだよ?」
この少女と同じ家の中に連れ入ることに戸惑いながらついてゆく、裸足のまま玄関を通り過ぎ居間に通される。
フローリングの居間など何年ぶりだろうか。
「そういえば、キミの名前は?」
不思議そうに首を傾げながら尋ねてくる、だけれども私はその答えを持ち合わせていない。物心ついた頃にはもう売られ買われを繰り返していたのだから。
そして今まで私の名前に興味を示したのは日菜と名乗る目の前の少女だけだった。
彼女は瞳を輝かせて私と視線を合わせ、私の答えを待ってくれている、その瞳に心の底まで見透かされそうでつい反射的に視線を斜め下に落とす。
無意識のうちの瞬きの後、目の前には彼女が下から床に手をつきながら私の顔を覗き込んでいた、私は不意な彼女の行動に驚きを隠せず、後ろに跳ねるが首輪と鎖がそれを許さず首が閉まり噎せる。
咳き込む私に不安そうな表情を浮かべ「大丈夫?」と心配している。
最初は優しそうな雰囲気を醸し出す買い手は巨万といる、中には最初から乱暴するものもいるが。
でも結局いずれ乱暴に扱い飽きたら捨て売る、いつだってそうだった。
「...あ、もしかして名前ないの?」
たった今閃いたというように左手のひらに右手の拳をポンッと軽く叩くと正解をズバリと言い当てる、一言も発していないにも関わらずたった一度で言い当てた彼女の勘に目を丸くしほんの小さくコクッと頷く。
「あー!やっぱり!じゃあねじゃあね、私が名前つけてあげよっかっ♪」
そう言うと腕を組んだり、上のほうを眺めたり、指先を顎に添えたり、「うーん」と唸ってみたりしばらく沈黙が続く。
この時間が永遠に続けば、キラキラした瞳が私を捉えなければいいのにと思った瞬間その願いは無に帰する。
「さよ!氷川さよ...なんてどうかな?」
吸い込まれそうになるくらい澄んだ瞳で必死に考えたであろう私の名前案を聴いてくる。
今まで私に対して名前らしきものを与えてきた人は少数ではあるがいた、しかし私に対して確認を求める人はいなかった。それに名前を与えるといってもペットにつけるような名前ばかりで人のような名前をもらったのは今回が初めてだ。
自分自身でも気づかないうちに彼女の瞳に魅入られていた私ははっと気を取り戻すと何も返事をしなかったからか不安そうに困っている彼女の顔が目につく。
「もしかして気に入らなかったかなぁ?」
きっと彼女は今思いついたであろう名前に対して私が気に入らないといったことを示せばまた新しい私が気に入る名前を何度でも考え出しキラキラとした瞳で私に聞いてくれるのだろう。
私は肯定の意味を伝えるため首を縦に振る。
すると彼女の困惑したような不安そうな雰囲気はどこかへ消え去り、明るい笑顔が戻る。
「うんうんっ♪キミも...さよもるんってきちゃった?あとねあとね、漢字も考えてあるんだっ糸偏に少ないと夜で...あとね、画数もちょうどいいし...
言っている内容の半分ほどは擬音語などでイマイチ理解しかねたが、とても楽しそうに彼女は私の名前のことについて話している。
そして私はいつの間にか彼女-氷川日菜-に対してあまりにも無防備に、警戒心を緩めていることに気づけないでいたのだった。