その日が来ることは既にルルーシュによって予測されていた。
真夜中のことだった。夏のこととはいえ風は強く、空気は少し肌寒い。
薄暗い土蔵にはまともな灯り一つなく、日本軍を示す軍刀を腰に佩いた兵士達は容易に取り囲むことができた。
この作戦を拝命した分隊の分隊長は、子供2人と男1人がこの中にいると聞いていた。
作戦では黒髪の姉の方は生かして確保し、茶髪の妹は処分。男は処分してもよいが、困難であれば放置しても良い。いずれにしても物音を立てず周囲に気づかれない内に終わらせること。
日本軍総司令官である枢木ゲンブから渡された写真は3枚。整った顔立ちをしているが、普通のブリタニア人の姉妹2人。そして精悍な顔をしたブリタニアの男1人。
男の写真に添付されていた軍歴を思い出し舌打ちする。ブリタニアが誇るナイトオブラウンズや、皇族の選任騎士と比較すれば格下なのだろうが、厄介な男だ。最前線経験者でありながら際立った怪我も無く生き残っている。貴族出身の士官とはいえ、全くの無能ではないらしい。夜戦や奇襲にも慣れているだろう。
さらに今回の作戦は機密性が高く、拝命されたのは1分隊、計6人と割り当てられた人数も少ない。
まあ2人の子供を護らなければならない男1人相手に、6人で夜に紛れて奇襲するのだからそう苦戦もしないだろうが。
全ての班が所定通りの位置に音も無く配置したことを無線で確認した。
古びた土蔵を見やる。土蔵は燃えにくい構造ではあるが、四方八方から火炎放射器を浴びせれば多少の耐火構造など意味も無い。ターゲットが住んでいる建物ごと丸焼けにしてやった方が確実である上に楽だと男は思っていた。
しかしそういう訳にもいかないのだろう。首相直々に姉の方は生かして捕縛しろと命を受けている。理由は知らないが、一人はブリタニアの皇族を生かしておかなければならないらしい。
そう命令されたなら、そうしなければならない。政治に軍隊は首を突っ込むべきではない。藤堂のようにこそこそと影で桐原と繋がっているような真似は、軍人として相応しくないのだ。
自身のSMGを握り締める。握り慣れたグリップの感触に息を吐く。
枢木首相直々に下された任務に失敗は許されない。ターゲットの幼いブリタニア人は娘と同い年だが、男に躊躇は無かった。
口元に無線を当てて、視線は土蔵の汚れた扉から離さない。
「突入カウント、3, 2,」
シュン
絹が掠れるような音が聞こえて、なんだと首を振った。虫の羽音にしては鋭く一瞬の音だった。
しかしその音は一瞬で終わり、耳を澄ましてももう聞こえない。
やはり虫か何かか。気を取り直してカウントを続けようとする。
次の瞬間横に立っていた兵士の首に穴が開いた。
首から血が噴き出る。千切れた白い動脈が皮膚の下から厚紙のようにぺらぺらと捲れて見えていた。
力を失い崩れる体を目の当たりにして、射撃元と思われる位置を振り向きSMGの銃口を向けながら後ずさる。撃たれた兵士は悲鳴を上げて地面をのたうちまわっていた。
雑草が生い茂っているせいで視界はこの上なく不良。風に草が煽られて擦れた音をたてる。段々と力を失い死体と化していく兵士の横で、他の4人もSMGを茂みに向けた。
視界不良とはいえ、未だ血を噴き出す死体の首に空いた穴は真っすぐな弾道を描いていた。粗方の方向は予測できる。
落ち着け、落ち着け。土蔵にいたのは3人。9歳の子供1人、12歳の子供1人、軍人経験のある男1人。
実質的な戦力は男1人だけだ。事前に兵の動きを察知して子供2人を違う場所に移し、1人ここで迎撃しているのか。
ならば皇族の子供2人はどこだ。
この男を捕縛して尋問するか。それともここで処分して子供2人をゆっくり探すか。隊長は一瞬思案し、否定した。
男に向かって銃を乱射したとして、大事になれば作戦の意味が無くなる。
それより一時でも早くこの場を離れて皇族の子供2人を捜索、発見し、離脱した方が良い。
「各班散開、皇族を探、」
兵士達の背後から土蔵に隠れていたジェレミアが銃弾を撃ち込んだ。
その場で3人が倒れる。残り1人と分隊長が土蔵を振り返り、ジェレミアの姿を見つけて銃口を向けた。しかしグリップを握り締める手が撃たれた。
防弾手袋を着用しているとはいえ骨が砕けるような痛みが走る。銃弾の衝撃で手が解いてSMGを取り落とし、舌打ちしながら腰に手をやる。
「くそっ」
拳銃を構えながら銃弾が放たれた方向を見やる。同時に首元に熱く焼けるような痛みが走った。草むらに向けていた眼球がゆっくりと上転する。瞼の裏の瞬く光の粒が手元に現れる。急速に回転する星屑に眼が回り、意識が遠のいていく。全身の感覚が遠ざかる。
星屑が形を変える。仕事仲間、知人、上司、部下———友人、家族。
家族。妻と幼い娘。
■ ■ ■
地面は血を吸ったせいで赤黒く染まっている。色を変えた地面に墨を落としたように点々と横たわる死体の中、ジェレミアは一人立っていた。
首元の動脈が千切れた死体から、日本軍のエンブレムの入った軍刀を抜き取る。星明りに翳すと、よく手入れされているのか曇り一つない。片刃の刀身には西洋剣にはない凄みがある。
ジェレミアは茂みに向かって声をかけた。
「ルルーシュ様、終わりました」
草を割りながらルルーシュはナナリーを背負ってジェレミアの方へと近づいた。
しかし地べたに倒れる死体を見てすぐさまナナリーの鼻を覆った。
「お兄様、どうされたのですか?」
「なんでもないよナナリー。それよりここはもう危険だ」
「危険?」
「————ブリタニアが日本への侵略を開始する。戦争だ。ブリタニア人の俺たちは、日本人の敵になったんだよ」
「そんな……」
ルルーシュは手慣れた動きでナナリーを隠してあった車椅子に乗せた。
その隙にジェレミアは6つの死体を土蔵に運ぶ。それなりに体格の良い死体ばかりであったが、ジェレミアはひょいひょいと運び入れた。
車椅子を押して、土蔵から少し離れているが目は届く位置にナナリーを運ぶ。
あまり離れたくないが危険性を考えると今は土蔵から離れていた方が良い。
「お兄様、この臭いはどうしたのですか?」
「子供に悪戯されたみたいだね。何だろう。ペンキみたいなものが家に塗りたくられてるんだ」
「まあ。そうなのですか」
ナナリーは気分が悪くなる程周囲に充満する鉄の臭いに顔を顰めて服で鼻を覆った。
「すぐにここから逃げるからね。ナナリー、すまない。暫く不便な思いをさせてしまう」
「いえ。私は大丈夫です。お兄様と、ジェレミアさんがいますから」
ナナリーは気丈に微笑んだ。戦争と聞いても明るいナナリーの笑みにルルーシュも微笑み返す。
「じゃあこれから出ていくための準備をするから。ちょっと待っていてくれないかな」
「分かりました」
車椅子から少し離れ、ルルーシュはあらかじめ用意していたトランクを手に取った。保存食に衣類、シーツ、ガスコンロや鍋など、これから過ごすだろう数日、下手をすれば数週間のサバイバル生活を過ごすために最低限のものを詰め込んである。
死体を全て土蔵に運び入れたジェレミアは日本の軍刀を片手に持っていた。
「お見事でしたルルーシュ様」
率直な賛辞に口角を吊り上げる。拳銃を握ったのは1か月振りだが、腕前はそう鈍っていなくてよかった。
「射撃はそれなりに練習していたからな」
「しかし一発目は外しましたね」
「……うん」
「今度練習しましょうか」
「………」
こいつの教え方スパルタなんだよなあ。
ぼんやりと思いながらルルーシュは話を逸らした。
「そういえばお前どうやってブリタニアから拳銃持ってきたんだ。それも2丁も」
「シュナイゼル殿下に頼みました」
全く答えになっていない。しかし説得力があるのはどうしてだろう。
ジェレミアの背後に美しい顔で微笑むUMA・The・シュナイゼルの姿が見えたような気がして、ルルーシュは寒気を感じ体をさすった。
「うん。それはまあいい。それよりこうなればブリタニアは早いぞ」
「そうでしょうね。ブリタニア皇族が殺されたと名目を手に入れて……2,3日といったところでしょうか」
「あの国であれば既に出撃している可能性も否定できんが。まあ、妥当なところでは5日以内といったところか」
よし、とルルーシュはトランクを土蔵から持ち出した。
この1か月近くを過ごした枢木家を見やる。これまでの人生で最も濃い1か月だった。
ここで過ごすのもこの日が最後だろう。しかし湿っぽい感傷は欠片も湧いてこない。むしろ清々する。
出来得ることなら本邸ごと爆発炎上して欲しいと思う程に忌々しい場所だ。是非ブリタニア軍には全力を以て枢木邸を空爆してほしい。勿論スザクが避難した後に。
————スザクはどうなるんだろう。
ルルーシュは思い浮かんだ疑念を振り払った。馬鹿なことを考えるな。
スザクは自分達と一緒にいる方が危ない。枢木家次期当主としてブリタニア軍に追われ、ブリタニア人と一緒にいるとして日本人から非難され。両方から標的にされるなど、あの頑丈な子供でも耐えられないに違いない。
自分達と一緒にいなければ、キョウト六家の一つである枢木家の次期当主………いや、当主であるスザクは他の五家に保護される可能性が高い。そうなれば、たとえ戦争になったとしてもそう命の危険はない。
細眼で枢木邸を見やる。スザクは生まれて初めての、友達と呼べる人だった。
「———じゃあな。スザク」
小さく呟き、ルルーシュはジェレミアに向き直った。
「今回の襲撃は何とかなったが、次はどうなるかは分からん。この先私達は暗殺の可能性に晒され続けることになる」
「そうでしょう」
「となれば逃げるしかない。だが今の状況では困難だ。ここには枢木ゲンブがいる。警備も厚い」
両の手を骨が軋む程に握り締める。
これは単に後からつけた理由だ。嘘ではないが本当の理由でもない。
ただ自分がけじめをつけたいだけだ。出来得ることならなら自分の手で八つ裂きにしてやりたいが、現状では状況的にも腕力的にも不可能に近い。
自身の復讐を部下に頼む程に醜い行為は無かろうが、最早手段を選ぶつもりは無い。
「よって混乱を起こす。ジェレミア、この邸の警備を一人で抜けられるか?」
「はっ」
ジェレミアは不遜にも胸を反らして即答した。なんとも傲慢な言い草だ。
しかしそのくらいでこの男は丁度いい。たった一人しかいない騎士が謙虚に「自分なんて」などと言うような態度では、こちらが困る。
「監視カメラは切っておいてやろう。ジェレミア・ゴットバルトに命じる。枢木ゲンブを殺してこい。30分以内だ」
ジェレミアは満面の笑みを浮かべた。
頬に大きく皺を寄せて口を歪に開いた、なんとも恐ろしい笑みだった。
「イエス、ユアハイネス!」
ジェレミアが枢木邸に向かうと同時に、ルルーシュはジェレミアが日本に持ってきた端末で枢木邸の監視カメラを切り替えた。
枢木邸に泊まっていた際に、外部から監視カメラの映像を切り替えられるよう細工を加えていた。その小さな細工をちょちょいとつつく。リアルタイムの映像から自然に誰も映っていない廊下と部屋の映像に切り替わり、現実の様に映し出され始めた。
「これでよし」
あとはジェレミアの腕によるが、その点はあまり心配していない。
ここ数日、枢木邸内の警備は減っている。最近枢木邸に泊まっていなかったルルーシュが、いつ何時「今日は枢木邸に泊まりたい」と言い出すか分からなかったため、枢木ゲンブ直々の命で減らされているのだ。
今日はナナリーを暗殺するつもりだったのだろうから、ルルーシュが枢木邸に泊まりたいと言っていればゲンブにとってみれば好都合だっただろう。
容易にルルーシュとナナリー、そしてジェレミアを引き離すことができ、ナナリーだけを殺せばよいのだから。
しかしそうはならなかった。
ルルーシュは6つの死体を孕んだ土蔵を見やる。
悪い思い出が多いが、悪いばかりではなかった。しかし総体としてみればやはり怒りが何より勝る。
ガスコンロを取り出して火を起こす。
ブリタニアは何としても戦争を始めなければならない。戦争を起こすためならば、3つの筈の死体が6つだろうと、子供の死体でなく大人の死体だろうと、「皇族は日本人に殺された」という事実を現実として作り上げるだろう。
あの国はいつだって勝つためには手段は問わない。
認めるのは癪だが、その血は確かに今もルルーシュの中で脈々と息づいている。
紙に火をうつして、よく乾いた土蔵の骨組みに内部から火をつける。数か所に火をつけた後、外からも火をつけた。
小さな火は段々と燃え盛り、煌々と夜を照らした。
■ ■ ■
枢木スザクは今日こそ父と話すために廊下を歩いていた。
あまり政治のことは分からない。でも父のせいで、日本がブリタニアと戦争しかけていることは分かる。
戦争はしたくない。もし戦争になったら、ルルーシュとナナリーは日本の敵になってしまう。
そうなったらもう、今までの様に3人———最近では保護者のブリタニア男(変態疑惑)を含めて4人———で過ごすことが出来なくなってしまう。
それは嫌だった。ルルーシュはスザクのこれまでの人生で、一番の友達だった。
ルルーシュはとっても綺麗で頭も良いのにどこか抜けている同い年の子供だ。
気位が高く、スザクを野蛮人だのアウストラロピテクスだのと罵る癖に、一緒に遊ぼうと土蔵に行って無下に断られたことは無い。
川に突き落としたり虫を投げたりして揶揄うと白い顔を真っ赤に膨らませて怒るが、頭を下げて謝ると案外簡単に許してくれる。これは多分ナナリーが自分を慕ってくれているからだろうけれど。
そんな年相応に幼い所もあるが、時折ずっと遠くを見ているような、不思議なところがある。心のどこかがいつもひんやりと冷えていて、周囲全てを睥睨しているような感じがするのだ。
よくは分からないけれど、あれが生粋の皇子様というやつなのだろう。
ルルーシュ、そしてナナリーと一緒の今の幸福な生活を少しでも長引かせるために、戦争は止めないといけない。
日本の首相は日本で一番偉い。だったらこれまで戦争をしようと考えていた父が、明日から戦争をしないと決めれば戦争にならないかもしれない。
スザクはただ純真にそう思っていた。
父はいつも書斎にいる。寝室も兼ねているそこは、しかし父の仕事場という印象の方が強い。
スザクはあの部屋が苦手だった。絵が飾ってあって絨毯もきれいだけれど、薄暗く、どこか重苦しい雰囲気がある。それに書類に塗れたあの部屋は、自分より仕事が大事なのだろう父を直視するようで嫌だった。
昔一度、学校の友達のように一緒に蝉取りに行ったり海に行ったりしたいと書斎にいる父にねだりに行ったことがある。
意を決して扉を開けると、父は書類に埋もれるようになりながら一心不乱に仕事をしていた。
その時は父に言葉をかけることはできず、そのまま扉を閉めて逃げるようにその場を去った。
小さい子供のように駄々をこねて父を困らせることは、間違っていると思ったから。
だが今日こそスザクは苦手な書斎に足を踏み入れようと決めていた。
自分の頭で悪いと思ったことは、これは悪いことだと口にしないといけない。じゃないとただ傍観しているのと同じだ。
戦争は悪い。だから父に戦争をしないで欲しいと言うんだ。
背伸びをして書斎の扉に手をかけた。そのまま引く。
扉の隙間からこれまで嗅いだことのない変な臭いがむわりと広がる。腐ったレバーのような嫌な臭いだ。
思わず腕で鼻を覆う。何の臭いだろうと部屋を覗き込んだ。
「父さん?」
いつも薄暗い部屋だが、今日は真っ暗だ。何も見えない。
灯りを探して部屋に入る。
「父さん、どこ?」
壁を沿って動くと指先に電灯のスイッチが当たった。
そのまま押す。
急に明るくなった部屋の中心に、人だったらしきものが鎮座していた。
それが人だと、一目見た時スザクは気づかなかった。
楕円形の巨大なボールのような形状をしている。そしてその隣にずっと小さい球体が一つ。それは頭だった。
天井を仰ぎ見ているような眼窩に嵌っていた眼球は潰されており、耳も、鼻も削ぎ落されている。口だっただろう穴には暗赤色の物体がいっぱいになる程に詰め込まれており、そこから凝固しかけている血液がゆっくりと流れ落ちている。雪だるまを横に倒したように並ぶ二つの球体の横に、四肢が放射線状に行儀よく並べられていた。
むせ返るような鉄の臭いと、健康によく食事をしていたことを示す腸の内容物の臭いが混ぜ合わさり部屋を満たしている。
「う、あ、」
スザクはその場にへたり込んだ。
これまでただ平穏な暮らしをしてきたスザクには、目の前の光景は許容範囲を大きく超えていた。
どうしよう。どうしよう。父さんが。
むせ返る臭いにその場で胃の中のものを全て吐いた。胃酸の鼻を突く臭いが汚物と血の臭いに混じる。呼吸するだけで喉が痛い。
床に這いつくばると、父だったものの眼窩が目の前にあった。
切り裂かれた眼球から粘調性の液体が流れていた。二つに割れた瞳から伸びる視線を遮る様に、床に日本刀が突き刺さっている。藤堂が見せてくれた日本刀と同じエンブレムが描かれていた。
「—————これ、は」
藤堂は日本軍の兵士にだけ配られる軍刀だと言っていた。刃には酸化して赤黒く変色した血液が大量こびりついている。
日本軍の兵士にだけ。
日本の。
父さんは戦争をしようとしていた。
でもそんな人ばかりじゃないとルルーシュは言っていた。
日本人でも戦争したくないと言っている人もいると。
そうだ。ルルーシュは。
「————ルルーシュ、ナナリー」
ルルーシュはブリタニアの皇子だ。ナナリーは皇女。
戦争をしたくないと思っている人がいるとして、その人が父さんを殺したとして、ルルーシュはどんな目に遭わされるんだろう。
無理やりブリタニアに帰されるんだろうか。そうしたら、もう会えないのかな。
寂しい。
でもそれなら、もう日本人に石を投げられたり殴られたりすることはなくなる。
それならもう、会えないのはしょうがないのかもしれない。
でも、でも。父さんをこんな風に殺した奴が、ルルーシュをちゃんとブリタニアに帰すんだろうか。
分からない。
なんにも分からないよ!俺はルルーシュみたいに頭が良くないんだから!
スザクは立ち上がって、よろめきながら部屋の外へと出た。
力が入らなかった足は段々と歩みを速め、そのまま走り出す。ぐんぐんとスピードを上げる。ルルーシュにこれからどうしたらいいのか聞きたかった。
子供とは思えない速度で、スザクは土蔵へと走った。
土蔵には火が付いていた。まだ小火程度だが、今日は風が強い。このままだとこの土蔵は燃え落ちるだろう。
「ルルーシュ!ナナリー!」
迷いなく中に飛び込む。肌が焼けて熱い。熱いを通り越して痛い。
しかしスザクは痛みなど感じなかった。まだルルーシュとナナリーがこの土蔵で寝ていたら、という焦りが全ての感覚を凌駕していた。
土蔵の中を見回す。床には大人の死体がいくつも転がっていて、ひ、と小さい悲鳴が漏れた。
口を押えながら恐る恐る顔を覗き見る。一瞬のあの変態ブリタニア男かと思ったが、しかし顔を見ると全く違った。鼻の形も髪の色も明らかに日本人だ。
もしかするとこいつらが父さんを殺したのか。
そしてルルーシュも殺そうとしてここに来て、あのブリタニア男に返り討ちにされたのか。
だとすると、ルルーシュとナナリーはもうここから逃げ出したのか。
スザクは炎を吹き始めた土蔵から飛び出した。周囲には火事だと騒ぐ大人たちが集まっている。
スザクを呼び止めようとした人もいたが、全て無視して走り出した。
地面に残る二つの車輪の跡を追う。すぐに草むらに入っていったために車輪の跡は見えなくなったが、草の折れている方向や、木の枝が折れている位置からなんとなくどこに向かったのかは分かる。
ルルーシュとナナリーを守らないと。
スザクはただ一心にそう思っていた。