※この作品はR-18です。

楽園爆破の犯人たちへ 序   作:XP-79

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12. お前の第一印象は”胡散臭いイケメン”だったな

 戦争は未だ続いている。しかしもう勝敗は決まったようなものだ。

 

 散々に破壊しつくされたこの街に復旧の目途は立っていない。今も爆撃で倒壊した建物の下には痛みに呻く人々が埋まっている。

 ルルーシュは海辺に立っていた。砂浜はお世辞にも美しいとは言えない。瓦礫があちこちに散乱しており、戦車の足跡のように腐乱死体がぽつぽつと落ちている。遠目には物々しいブリタニアの戦艦が見え、容易く敗北した日本の軟弱さを嘲笑うように周囲を睥睨していた。

 ルルーシュの隣にはスザク、そして少し後ろにはジェレミアとナナリーが佇んでいる。

 耳を欹てると崩壊した建物の下から救助を求める声が小さく聞こえた。この暑さでは脱水ですぐにも死んでしまうだろう。浮きそうになる体を諫めて目を閉じる。

 助ける余裕は無い。自分だけでなく、日本人でも救助を試みている人間は見当たらなかった。

 瓦礫の隙間を虫のように蠢く日本人達は皆、一心不乱に落ちている布や食料をかき集めている。誰かに分け与えるなど端から考えず背を丸めて逃げるように歩き去る人々ばかり。

 しょうがない。誰も彼もが自分のことで手一杯なのだから。自分に余裕が無ければ他人を助けることなんてできやしない。掌を握り締める。

 

 隣で海を眺めているスザクを見下ろす。まさか12歳とは思えないような精悍な顔は一心に未だ青く澄んだ海を見つめていた。

 

 背後で車が停まる音が聞こえる。ドアが開き、人が出てくる。こちらを見守っているようだった。

 スザクはルルーシュに視線を移した。

「———ルルーシュ、これで」

「ああ」

 ここでルルーシュとスザクとは別れることになる。

 

 ルルーシュはアッシュフォード家へ向かい、スザクはここでキョウト六家からの使者を待つ予定だ。

 キョウト六家と合流できれば枢木家最後の一人となったスザクは正式に枢木家の当主となる。そうなれば日本がエリアになった後もキョウト六家から保護を受けることができるだろう。

 しかし既に最前線が通り過ぎて廃墟と化したこの場所まで、キョウト六家がスザクを保護するためやって来ると断言はできなかった。

 またキョウト六家がスザクに使者を向けたとしても、待っている間にブリタニア兵に捕縛されないとは限らない。

 

 ルルーシュは懐から手紙を取り出した。古式ゆかしい形式の封筒は今や本家ブリタニアでもあまり見られない。手紙には古臭い風習に則り複雑な模様の刻印が押されており、ブリタニア人ならば一目で貴族か皇族からの正式な文書であることが分かる。

 スザクの掌に手紙を押し付けると、首を傾げながらスザクは指先で手紙をぴらぴらとはためかせた。

「これは?」

「ブリタニアで俺の部下だったノート・マクスウェル子爵への手紙だ。もしブリタニアに捕まる様なことがあればこれを見せろ」

「ふうん」

 スザクは手紙を裏に面にくるくると回しながら物珍し気に眺めた。その様子に一抹の不安を覚える。

「絶対に無くすなよ」

「分かった」

「いいか、絶対に無くすなよ!」

「分かったって」

「無くすな!折るな!汚すな!いいな!?」

「ああもう、分かったよ」

 スザクは唇を尖らせて手紙を懐に仕舞い込んだ。

 

 便箋状の手紙に押してある刻印はヴィ家の印璽により刻まれたものであり、皇族からの最重要事項を伝える手紙だということが一目で分かるようになっている。全てブルーブラックのインクで書き記した手紙の最後には“神聖ブリタニア帝国第11皇子 ヴィ家当主ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア”のサインを入れ、正式なヴィ家からノート・マクスウェルへの任命書という形を取った。

 内容は古式ゆかしいブリタニアの作法に則ったため無駄に長くなったが、簡潔に言うと枢木スザクを保護しろという内容に尽きる。

 あの真面目で一本気なノート・マクスウェルであれば、既にマクスウェル家がヴィ家の庇護から脱した今でもルルーシュの懇願とも言える内容の手紙を無下にはしないだろう。

 万が一キョウト六家に保護される前にブリタニア軍に捕縛されても、この手紙を見せればそう無下な扱いはされまい。

 

 ともあれ手紙を無くしたら全て意味が無くなってしまうのだが。

 ルルーシュは深く溜息を吐いた。

「お前みたいなアウストラロピテクスがちゃんとキョウト六家に合流できるんだろうか……」

「いつまで引っ張るのそのネタ?」

「お前が進化するまでかな」

「そろそろ人類にしてよ」

「じゃあ……ポメラニアンかな」

「ちょっと待って。何がどうなってポメラニアンが出てきたの?」

「だってお前って柴犬にしては毛がくるくるしてるから」

「なんで犬になったのか聞いてるんだけど」

「絶対小型犬だろう。ジャックラッセルテリアにしては毛が長いし、かといってシーズー程ではないし。やっぱりポメラニアンがしっくりくる」

「何だよ!そんなこと言うならルルーシュだって、あの、猫の、ええと、目が青くて、プライド高そうな、」

 ええと、と言いよどむスザクに背後で佇んでいたジェレミアがぼそっと呟いた。

「……シャム猫」

「そう、それ!多分!」

「……スザクはともかくジェレミア、お前俺のことをずっとシャム猫みたいだって思ってたな。そうだろう」

 自身より遙かに身長の高い筈のジェレミアをルルーシュは睨み上げた。引き攣る様にジェレミアは笑みを浮かべる。

「まさかそんな。恐れ多い」

「じゃあなんで即答したんだ!」

「確かにお兄様は動物に例えるとだと猫かもしれませんね。スザクさんはワンちゃんで、ジェレミアさんは何でしょう?」

 うふふ、と笑うナナリーに一瞬で毒気が抜かれたルルーシュは無礼な発言をした部下を舌打ち一つで許してやった。ジェレミアは高い身長を縮こめさせた。ジェレミアの頬を示指で刺すようにつつく。

「ナナリー、ジェレミアが動物ならゴリラだよ。学名ゴリラ・ゴリラ・ゴリラのどこまでもゴリラだ」

「……承知しました。ゴリラで結構です」

 ゴリラと呼ばれて胸を抑えるジェレミアの後ろで黒い車が待っている。

 苦笑が零れる。こうして4人でふざけられるのもこの時が最後だ。

 

「ルルーシュ殿下、そろそろ」

「分かっている」

 アッシュフォードからの迎えに手を振る。スザクはナナリーの手を握った。

「スザクさん、お元気で」

「ナナリー、君も」

 堅く握られた2組の手は、しかし暫くして解かれた。

 ジェレミアはスザクに日本式のお辞儀をしてナナリーの車椅子を迎えの車へと押した。ナナリーは未だスザクの体温が残る両手を祈るように握り締めた。

 ルルーシュはただ一人浜辺に立ち尽くしているスザクを見やった。

 同年代と比較すれば逞しいとはいえ、こうして見ると声変わりも来ていない幼げな子供だ。ちらちらと碧に瞬く大きな瞳と、形の良い小さな鼻はスザクをさらに幼く見せる。事実こんな所に一人で放置しておくなんてとても考えられない程にスザクは未熟だ。

 

 しかしルルーシュは余計な考えを振り払うように首を振るった。ナナリーとジェレミアを護るためにはアッシュフォードの庇護を受けなければならない。たとえスザクが友達であっても、優先順位は覆らない。いつまでもここに残る訳にはいかない。

 ルルーシュは薄汚れた服から埃を払い、出来得る限りで優しい微笑みを浮かべた。

「じゃあな」

「うん。またね」

 手を振ると、スザクも振り返す。その顔には多少の不安と熱を帯びた決意があった。

 父親の死と向き合い、戦場を彷徨い、しかしそれでもスザクは純真な瞳をしていた。

 危うい程に無垢なスザクの瞳に瞬間目を見張り、しかしルルーシュは振り払うように顔を背けてアッシュフォードの車へと踵を返した。

 

 

 

 

 黒塗りの車はルルーシュが乗り込むと同時に動き出し、瓦礫を器用に避けながら去って行った。

 スザクは黒塗りの車が見えなくなるまで見送った。車が見えなくなると周囲に動く物は無くなる。すすり泣く声と遠くの騒めきは耳を澄ませば聞こえるが、今ここにスザクを邪魔するものは何も無かった。

 スザクは一度深く息を吐き、青い海を眺めた。

 瓦礫が散乱する海辺の向こう、海岸にへばりつく虫のようにブリタニアの軍船が停泊している。この周辺の人々の噂によるとあの船は日本人を捕縛し、本国に連れ帰って労働力にしているらしい。そう聞くと黒い軍船はまるでおどろおどろしい奴隷船のように思えた。

 スザクはその港へと足を向けた。

 砂に足が取られる。腐臭が酷い。しかし足は止めない。

 

 スザクには父を殺した日本軍、もといキョウト六家に保護される気は無かった。確かにキョウト六家に向かえば、ルルーシュの言った通り身の安全だけは保障されるだろう。

 しかしその代わりにスザクの自由は無くなる。それでは自分の夢は叶わない。

 

 スザクは戦争の無い地球を夢見ていた。

 

 戦争は父親を殺して、沢山の人も殺した。自分もルルーシュもナナリーもジェレミアさんも苦しんだ。

 テレビや新聞越しでしか知らなかった戦争はとても嫌な臭いがする、得体の知れない気持ちの悪いものだった。どうにかしてあれは無くさないといけないとスザクは決意していた。

 しかしだからといってどうすればいいのか分からない。

 

 日本は父さんを殺して戦争を回避しようとした。でも結局沢山の人が死んだというなら、日本は間違っていたんだ。間違った手段のせいで戦争が起こったんだ。

 だから自分は正しい方法で戦争を止めなくちゃならない。

 

 日本が間違っていたのならブリタニアはどうなんだろう。ブリタニアのことが知りたい。

 どうしてブリタニアは戦争を起こしたんだろう。戦争をしなくちゃならないような理由があったんだろうか。沢山の日本人が死んだけど、ブリタニアの兵も死んだ。そうまでして戦わなくてはならない理由は何だったのか。

 スザクには分からなかった。だから知りたかった。ちゃんと知らないと何が悪くて、何が正しいかなんて分かりはしないのだから。

 初対面でブリタニア人だからとルルーシュを殴りつけた失敗は二度としない。

 

 だから僕は、ブリタニアへ行く。

 

 スザクは振り返ることは無かった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 アッシュフォードが簡易的に停留している家は、日本人から徴発したのだろう、それなりに大きな一軒家だった。運よく爆撃や襲撃から逃れた家には広い庭があり、西洋風の門には繊細な意匠が施されている。元々は富裕層の日本人が所有していたのだと推測された。

 運転手にエスコートされるまま中へと入る。玄関には趣味のよい調度品が嫌味に見えないよう配置されていて、ペンドラゴンにあるアッシュフォード本邸とどこか似た雰囲気がした。

 日本風に靴を脱いで家に上がり、ルルーシュとナナリー、ジェレミアは使用人に案内されるままに居間へと向かった。

 歩きながらルルーシュはどうやってアッシュフォードは自分とナナリーの居場所を知ったのかと首を捻っていた。

 

 アッシュフォードからの使者と遭遇したのはつい数時間前のことだ。ルルーシュが物資の調達のために廃墟となった市街にいたところを、まるで最初から居場所を知られていたようにアッシュフォード家の使用人が声をかけてきたのだ。

 勿論警戒したが使用人はアッシュフォード家のサインの入った正式な手紙を持っており、信用せざるを得なかった。手紙の内容は無駄に冗長な表現を略してかいつまむと、もしヴィ家の兄妹がまだ生きているのなら是非保護させて欲しいというものだった。

 いくら大量の移植民が急激に入るとはいえ、あのUMA兄上の管理の下では戸籍を偽装して作るにしてもいくらかの無茶が必要になる。自分達の保護をしたいというアッシュフォードの申し出は確かに有難かった。

 他の貴族ならともかく、長い間ヴィ家と懇意にしてきたルーベン・アッシュフォードがルルーシュをブリタニアに売るとも考え難いことがルルーシュの背を押した。

 

 居間は広く一面に絨毯が敷いてある。部屋の中央には柔らかそうなソファがテーブルを囲むように配置されており、一人の男がソファに座っていた。優雅に足を組み、細い指でティーカップに紅茶を注いでいる。

 一瞬アッシュフォードの親類かと思ったが、徐に持ち上げられた顔を直視するとそんな考えは吹き飛んだ。

 その男の顔を見てルルーシュとジェレミアは硬直した。

 

 整った顔立ちに短く切り揃えられた艶やかな黒い髪、そして菫色の瞳。黄金比を体現するような容姿は異性同性関わらずに惹きつける。気品ある微笑みはその男の美しさをさらに増していた。いや、本当に男なのだろうか。ティーカップを持つ指先は女のように細く、体つきは折れそうな程に華奢だ。

 年齢は18から20前半のようだが、重苦しい風格とシャルルにも劣らぬ迫力は男をもっと年上のように見せる。

 

 しかしルルーシュとジェレミアが驚いたのはその男の美貌にではなかった。

 その男はあまりにルルーシュと似ていた。

 

 少し似ているなどという生易しいものではない。全く同じ顔だ。頬のラインから眉の形まで全てが同じだ。それどころか微笑む仕草から、立ち上がる動作までが全く同じだった。

「———貴公は」

「初めまして、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。お初にお目にかかる」

 その男は優雅に礼をした。声はルルーシュより低い。変声期を終えたことを示す低く響く声色は確かに男のものだ。しかし声質はよく似ていた。

「私はロロ。ロロ・ランペルージという」

「……ランペルージ?」

 ランペルージはマリアンヌの旧姓だ。

 何者だ。睨みつける。

「貴様、」

「そう警戒しないで頂きたい。簡単に言えば、俺は貴公らの従兄にあたるものだ」

 従兄。

 つまりはマリアンヌの兄妹の子供だということか。

 しかしそんな存在がいるとルルーシュはマリアンヌから聞いたことが無かった。

 

 とはいえ。ルルーシュは眉を顰める。

 そもそもマリアンヌの出自について知っていることの方が少ないのだ。庶民の出であり実家との縁が薄いという程度の知識しか無く、あの女も人の子であるのならば兄弟がいる可能性は否定できなかった。

 人間不信の気さえある程に警戒心の高いルルーシュでさえ、もしかしたらと思ってしまう。それ程にロロはルルーシュに似ていた。それはつまりマリアンヌに似ているということでもあった。

 

「俺はあまりランペルージの本家とは付き合いが無くて、伯母のマリアンヌとも数回しか会ったことが無いんだ。貴公が知らなくても無理は無いさ」

「———そうか。そうだとしてもロロ、貴方は何故ここにいる。親類に会いに来るにしてもあまり良いタイミングとは思えないが」

 このままでは話が進まない。ルルーシュはロロに話を合わせることにした。

 

 従兄云々はともかく、この男が只者でないことは確かだ。ルルーシュが膝を屈したシャルルの威圧にも似た雰囲気をロロからも感じる。ルルーシュはロロからナナリーを隠すように立ちはだかった。

 あからさまな警戒に、しかしロロは気分を害する様子も無くにこやかに話を続けた。

「従妹たちが日本で死にかけていると聞いてアッシュフォードに救助を頼んだんだよ。俺はアッシュフォードについてきただけさ」

「ランペルージ家は庶民だろう。どうやってルーベンに掛け合った」

「この顔だからね」

 ロロは自身の頬を指先でつついた。

「直接ルーベン公爵に交渉したんだよ。勿論君達の従兄だとすぐに信じてくれた訳ではないけれど、いずれにしろルーベン公爵は君たちを助けに行くつもりだったらしい。俺は君達の居場所を推測して使いを送ったまでだよ」

 それはともあれ。ロロはルルーシュの肩を叩いた。

「ルーベン公爵はもう少しで到着する。それまで暫く体を休めると良い」

「いや、もう少し貴公の話を聞かせて頂きたい」

 ルルーシュの言葉をあっさりと無視してロロの視線はナナリーへと向いた。

「ナナリー、君も疲れただろう。一度布団に入って寝ると良い。食事もある」

「……あの、ロロ、さん?」

「ん?」

「あなた、あの、どこかお兄様に……似ているような」

 ロロはナナリーの言葉に緩く微笑み、愛おしそうにアッシュブラウンの髪を撫でた。

「っ、ナナリーに触るな!」

 ルルーシュが叫ぶと同時にロロの細腕をジェレミアが掴んだ。そのままナナリーから引き剥がす。

 自身より小柄なロロをジェレミアは真上から睨み据えた。

「ルルーシュ殿下の従兄であろうとも、ナナリー殿下とルルーシュ殿下への御無礼は許しません」

 敵愾心も露に見下すジェレミアにロロは苦笑し、ひらひらと掴まれていない方の手を振った。

「危害を加える気は無い。ただ過酷な生活だっただろうから休憩を取った方が良いと思っただけだよ。君もね」

 ロロはジェレミアの背を叩いた。ジェレミアはロロの腕を離してナナリーとルルーシュを背後に隠した。

 気にする様子も無くロロは部屋の外に待機していた使用人を呼び、そのままルルーシュ達をベッドのある部屋へと案内するよう指示を出した。

 

 ルルーシュはロロを全く信用していなかった。いきなりお前の従兄だと言われてすぐに信じる筈が無い。

 だが長期に渡る戦場での生活にナナリーが疲れ切っていることは確かであり、一刻でも早く柔らかなベッドで休ませてやりたいのも事実だった。

 胡乱な男の言う通りにすることへ不満を持ちながらも、ルルーシュはナナリー、そして車椅子を押すジェレミアと共に部屋から出て行った。

 

 

 

 ロロはその部屋に一人残った。

 ナナリー達が使用人に連れられて部屋を出るまで見送った後、ロロは私達の方を見て苦笑した。

「暇なんだな、諸君」

 呆れた口調を隠しもせずロロは芝居のように大げさな仕草で両手を広げた。

「少し失礼だったか?悪かったな。しかし事実だ。もっと時間は有用に使え。健康に生きていられる時間はそう長くは無い。あの魔女のように不老であれば話は別だが、諸君らの中に正真正銘の不老不死だという人間はいないだろう?」

 さて、話が逸れたが。ロロは子供に言い聞かせるように声音を低めた。

「俺はこの話の脇役。ただの狂言回しに過ぎない。俺がいてもいなくてもこの話の展開はそう変わらない。あのルルーシュは俺ではないしな。————期待はしないでくれ。俺はもう、自分の役目は終えた人間だ」

 長く息を吐き、ロロはそのまま興味を無くしたようにソファに座り込んだ。

 

 しかし突如目を見開いてソファから立ち上がった。

「大事なことを忘れていた」

 軽く咳ばらいをして、ロロはこちらを指さし声を張り上げた。

「コードギアス劇場版『叛道』が2018年2月10日に公開される予定だ。劇場版では10年前の俺の活躍を大画面、かつ圧倒的な濃度で楽しめる。勿論10年前には無かった新作シーンも追加されているぞ。さらに『興道』のBlu-ray & DVDが2018年2月23日に発売予定だ。諸君、どちらもよろしく頼むぞ!」

 指先で私達を指さしたままロロはいつものように高笑いを上げた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

「いっないなあぁあー。もー、キャンセラー適合者がいなーい」

 椅子を揺らしてV.V.は頬を膨らませていた。

 目の前には端末の画面が置かれている。広々とした部屋に置かれているのは机と椅子と端末、そして机に置かれた湯気の立つ紅茶しかない。

 寒々しい部屋でV.V.は一人で端末を弄りながら、ギアスの血統を持つ世界中の人間のデータを流し見ていた。

 年齢に見合わない、しかし外見相応の高い声は部屋によく反響した。

「ギアス適合者=キャンセラー適合者じゃないところがめんどくさいんだよねー。ギアスの血統を持つ人間でもキャンセラー適合率は低いことが多いし。むしろこうして見るとキャンセラーの適合者は庶民の方が多いくらいだし。探すの大変だよー」

 V.V.は愚痴を零しながら机にぺたりと頬を張りつけた。

 あまりに長い金髪が地面に擦れて埃を吸っているが、本人に気にする様子は無い。幼気な子供のような挙動も相まってV.V.は悪戯を企む子供のようにしか見えなかった。

「ブリタニア全土の人間を調べるのは無茶だし、効率悪すぎ。もうデータの手に入る人間からちょっとずつ調べていくしかないのかなぁ」

 ぷらぷらと足を振りながら端末に入っているファイルを開く。何度も眺めた皇族のデータが最初に出てきた。

「ルルーシュ、ゴミ。シュナイゼル、問題外。ナナリー、ギアス適正はありえないレベルなんだけどキャンセラーはカス。ユーフェミア、ギアス適合は滅茶苦茶良いんだけどね。オデュッセウス…この人って役立つ場面とかあるの?」

 ブリタニアの皇族から、次にヨーロッパ、中国、アフリカ。それぞれの地域の王族や皇族、名だたる貴族を探して回る。しかしギアスキャンセラーを発動できる程に適正のある者はいない。

 しょうがないと庶民を探していく。先ほどより膨大な数のデータが目の前の画面に現れた。あまりの数にV.V.は眩暈がした。

「多いなあ。人間って数が増えすぎだよ。だから社会システムが面倒になって戦争が起きたりするんだよ。もっと減ればいいのに……ああ、だから戦争が起きるのか」

 V.V.は頬を膨らませながらデータを探って行く。

 流石に一般庶民で詳細なデータが揃っている人間は少ない。しかし就職の際に健康診断の提出が義務付けられている政府職員と、定期的な検査が職務に含まれる軍人のデータは圧倒的に詳密だった。

「とりあえず軍人からかな。ビスマルク、ダメ。キューエル……誰これ。影も幸も薄そう」

 データは長々と続いていく。読んでいる最中にも新たなデータが排出され、果てが見えない。

 

 やや飽きながらもV.V.は羅列されるデータを読み続けた。

「ダールトン、メガネ。ブラッドリー、なんかやられ役な臭いがするんだよねこの人。なんでだろ。ジェレミア、539。モニカ………………は?」

 V.V.は惰性的にスクロールを続けていた画面を戻した。

 ブリタニア軍人、いや、最近退役したらしく元軍人と表記されているジェレミアという男のデータを再度見やる。

 

【ジェレミア・ゴッドバルト:ID 01305-61461971/0:ギアス適正<0.1, ギアスキャンセラー適正=539】

 

「適正539………うーん」

 V.V.は体を前後に揺らした。適正539。発動するかしないか微妙なラインだ。

 

 ギアス適正は1000以上あれば問題なく発動するが、500前後では厳しいという研究結果がある。キャンセラー適正も同様と考えるとこの男がギアスキャンセラーを発動できるかは完全に運任せだ。

 計画の確実性を考えると1000以上の人材を探したい。しかし500を超える人材でさえこれが初だ。キャンセラー適正1000以上の人材に拘ると、アーカーシャの剣の完成に間に合わないかもしれない。

 

 V.V.はしばらく悩み、よし、と起き上がった。

「改造すれば多少は適正値が上乗せされるよね。うん。そうしよう。アーカーシャの剣を開発しながらこの男を探して、見つけ次第半殺しにして改造すればいいや。あんまり焦っても良い事ないしね」

 

 楽園は逃げないんだから。

 

 V.V.は無邪気な顔で紅茶を啜った。

 

 

 

 

 

序 劇終

 

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