※この作品はR-18です。

楽園爆破の犯人たちへ 序   作:XP-79

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「Another?」の方のルルーシュが性別を自覚した話です。
もったいないのでこっちにも上げときます。

ジェレミアがかわいそ羨ましい目にあっています。



番外編
うん。粗末じゃなかった。


 ジェレミアが日本に到着してから数日後、日本人からの洗礼を受けた。

 

『死ねブリタニア人!』

『ブリ鬼野郎に生きる価値なし!』

『さっさと死ねロリコンブリタニア男!』

『美少年少女と一緒に暮らすとかうらやま・・・じゃない!呪われろ!』

『逮捕されろ!』

『通報しました!』

 

 

 

「……何ですかこのペイントは」

「嫌がらせだな。まあ気にするな」

 ルルーシュは慣れたもので、扉からはみ出さんばかりに大きく書かれた悪戯書きを視界にも入れずレジ袋を抱えて土蔵に入って行った。

 今日は特に問題なく買い物を行うことができた。何しろジェレミアときたら日本人の平均身長を遙かに上回る上背であり、シャツを着た上からでも分かる程に鍛え抜かれた体をしている。

 流石にこんな男に真正面から罵った挙句石を投げつける程の馬鹿、あるいは勇者はそうそういない。もしいればルルーシュも逆に感心するだろう。

 

 日本語を学びはしたものの未だ漢字やカタカナの読み書きは困難なジェレミアには扉に何が書かれているのか理解できていなかった。しかし乱れた文字から恐らく悪口雑言の類だろうということ位は察しが付く。

 このまま落書きを放っておいても良いのだろうかと暫く逡巡していたが、掃除をしてもまた書かれるだけだろうと諦めた。荷物を持ってルルーシュと共に土蔵に入る。

 古びた木造りの扉を潜り抜けて埃の匂いがする床に荷物を置くと奥に子供が二人床に寝そべっているのが見えた。一人はアッシュブラウンの波打つ髪を持つ可愛らしい少女であり、もう一人はアジア人にしては淡い髪色に緑眼という変わった色彩を持つ少年だ。二人は絵本を読んでいるようだった。

 いつの間に来たのだろう。枢木スザクは帰ってきたルルーシュの姿を認めて手を振った。

「おかえりルルーシュ」

「来ていたのか。学校はどうした」

「……ブリタニア男もいるんだね。何買ってきたの?」

「話を逸らすな」

 あからさまに顔を背けるスザクの頭をルルーシュが鷲掴みにした。

 細い指先にいくら力を入れても全く痛そうではない。むしろルルーシュの細い指が折れそうで見ているとハラハラする。

「まさかまたサボったとでも言うんじゃないんだろうな」

「だって」

「だってもでももない。小学校の時点で既に登校拒否とは、何様のつもりだ貴様は」

「スザク様」

「張り倒すぞ」

 そのまま二人で騒ぎ始めたが、拳を振り上げての喧嘩に発展する様子は無い。至って平和な子供同士の可愛らしい喧嘩を脇目に眺めながらジェレミアは購入した食品を片付けに向かった。

 騒ぐ子供たちを背後に黙々と片付けるも一向に騒ぎが収まる様子は無い。片付けが終わった後もまだ喧嘩を続けている子供二人に呆れながら振り返る。だが年長者としてそのまま放っていく訳にもいくまい。ジェレミアは2人の間に割って入った。

「はいはい。その辺にしてあげて下さいルルーシュ様」

「しかしジェレミア、こいつは馬鹿なのに学校に行かなかったらさらに馬鹿になってしまう。それが俺の責任だなんて耐えられない!」

「誰が馬鹿だよ!そしてなんでルルーシュの責任になるんだよ!」

「俺はこの土蔵の住居者だ。お前がここに入り浸っているせいで学校に行かないのならそれは俺の責任だろう!」

「何言ってるのかよく分からないよ!」

 再度争い始めた子供達の間でジェレミアはパンパンと手を叩く。

 

 何だろうこれは。

 ルルーシュはブリタニアにいた頃は非常に冷静沈着で、どれだけ喧嘩を売られようとも鼻で笑って相手にしていなかった。良い意味では大人びていたと言えるが、自身の感情を置き去りにしているような挙動はどこかシュナイゼルに似て演技のように見える時があった。

 それがこのスザクという少年の前では年相応の子供のように振る舞う。

 腕を組んで気に食わないという表情を隠そうともしないルルーシュに苦笑を漏らしながら、これは良い傾向なのだろうなとジェレミアは内心でスザクに感謝した。

 しかし今だに一度も自分の名前を読んでいないスザクに真正面から感謝の言葉など送る筈も無いが。

 

「お二方とも落ち着いてください。確かにコミュニティを学ぶためにも学校には行くべきでしょう。しかしスザクは首相の息子でしょう?なら別段問題無いのではないでしょうか」

「日本の首相は血統で決まるわけでは無い。首相の息子であれ学歴はその後の就職先にダイレクトに直結する。学校での成績は日本では非常に重要なものだ」

「でも家庭教師ぐらいつけているんでしょう?」

 当然といった調子で続いたジェレミアの言葉にルルーシュは溜息を吐き、スザクは首を傾げた。

 二人の反応がよく理解できずジェレミアもつられて首を傾げる。

「国のトップともあろう方が、まさか自分の子供の教育をそこらの一般市民と同列に行っているわけはないでしょう。先日も藤堂という日本軍の軍人が家庭教師に来ていたではないですか。それならば学校ぐらい」

「ジェレミア、そうじゃない」

 ルルーシュは憤然とした顔のままスザクを指さした。

「こいつには家庭教師はついていない。スザクは本当に、嘘偽りなく、そこらの一般市民と同じ教育を受けている」

 一言一言区切ったルルーシュの言葉にジェレミアはきょとんと目を見開いた。

 

 本気だろうか。

 

 冗談かと思い恐る恐るルルーシュを見るも、末期手遅れの患者を前にするように首を真横に振る。

「———本当ですか?」

「本当だ」

「では藤堂は」

「剣道と合気道を教えているらしいな」

「軍略や政治なんかは」

「全く」

「……え、本当に?」

「本当に」

 ジェレミアはスザクをどこかの星から落ちてきた異星人を見るような目つきで見下ろした。

「………大丈夫か、君は」

「大丈夫だよ!?」

「いやしかし、枢木家は日本の貴族でもあるんだろう?教養が……」

「そんなの無くても生きてはいける!」

 胸を張ってふんぞり返るスザクにジェレミアは黙って首を振った。

 まあそりゃあ生きてはいけるだろうが。

 

 根っからの貴族であるジェレミアは、政治経済も他言語も碌に習わない学校に貴族が通っており、さらに家庭教師も付けられていないということが理解できなかった。

 卒業してどうやって生きていくんだろう。そして一体どこに就職するのだろうか。

 

 いたたまれない視線に堪えられなくなったのか、スザクは突如として立ち上がった。

「よしルルーシュ!今日は川に遊びに行こう!」

「どうしてそうなる」

 真っ当な質問にスザクは声を大にして答えた。

「暑いから!暑いからそんなどうでもいいことを二人とも考えちゃうんだ!」

「いや俺にとってはどうでもいいことだが、お前にとってはどうでもよくないだろう?」

 ルルーシュの制止を、しかしスザクは聞きもしない。

 相変わらず予測不能なスザクルールである。

 

 よし行こう!とスザクはナナリーをさっさと車椅子に乗せて駆け出した。

 慌ててルルーシュとジェレミアもその後を追ったが、スザクは本気で走ればそこらの自転車など優に追い抜く速度とスタミナを誇る。

 すぐにスザクの速度についていけなくなったルルーシュをジェレミアは慣れた手つきで背中に背負った。背中にしがみ付くルルーシュの手足を感じながら、目の前の小さな点となったスザクを見据える。

「よし行けジェレミア!スザクに追いつけ!」

「イエス、ユアハイネス!」

 ブリタニアにいた頃では考えられない程に子供っぽい命令にジェレミアは苦笑しながらも、全く嫌では無かった。

 

 

■ ■ ■

 

 

 枢木家の程近くにある山には大きな川が流れている。流速はそれほど速くなく、上流に近いため飲水可能な程に水が澄んでおり夏場に泳ぐのには最適の場所だった。

 スザクが連れてきたのは小さな滝壺だった。澱みが無い程度に水の流れは緩やかで、泳ぐのには丁度良い。

 普段は近所の子供達の遊び場なのだろうが、平日の真昼間の今は見える限りで人はいない。

 

 初めて川に来たルルーシュはナナリーを車椅子から降ろして足を川につけてやった。

 苔で湿った岩に腰掛け、初めて自然の水に触れたナナリーは足をばたつかせて弾けるような笑みを零した。

「気持ちいいかい?」

「ええお兄様、とても気持ちいです!涼しいし、それに水の匂いがとても澄んでいて心地が良いです!」

 お兄様も、と言われてルルーシュも笑いながら靴を脱いでその隣に腰掛けた。

 今は真夏。外気温は体温に近く、湿度の高い日本の夏では体感温度はさらに上がる。川の冷たい水は確かに気持ちが良かった。足を滑る水をぱしゃぱしゃと蹴る。澄んだ水が水滴になって宙に散る。綺麗だ。

 森の中の空気は清く、埃臭い土蔵とはまるで違う。隣で楽しそうに笑うナナリーもいつもより笑顔が晴れやかだ。こうして外で遊ぶのもたまにはよいかもしれない。

 

 と思ったら、次の瞬間スザクに川に突き落とされた。

「ほわぁああ!?」

「お兄様?」

「ルルーシュ様!」

 流れは緩やかとはいえ、それなりに深い滝壺に服を着たままダイブしたとなれば笑いごとでは済まない。

 すぐさまジェレミアは水中へと飛び込んだ。

 

 水草のせいで曇る視界の中、空気の泡を吐きながら水に沈んでいくルルーシュを目の前にしてジェレミアの体温が一気に下がった。

 水底に吸い込まれてゆくルルーシュにすぐさま追いつき、服を掴んで陸上に引き上げる。

 川縁に魚のように引き上げられたルルーシュは咳き込みながら水を吐き出した。ジェレミアはその隣に上がって、水を吐こうと顔を真っ赤にするルルーシュの背中を摩る。

 幸いにもあまり水は飲んでいなかったらしい。岸にへばりついて顔に貼り付く髪をかき上げながらルルーシュはスザクを睨みつけた。

「すぅぅぅざぁぁああくうううううう!」

「ごめんごめん」

「貴様、きさ、ゴホッ」

「だ、大丈夫ですかルルーシュ様?」

 背中を丸めて咳を繰り返すルルーシュにおろおろとジェレミアは背中を摩り続けた。

「ああ、ゴホッ、水は、ゲホッ、そんなに、飲んでいない。でもなあ!おま、お前!」

「でも泳ぎの練習をするのはこれが一番なんだよ」

「何がだ!」

「服を着たままいきなり水に沈められて向こう岸まで泳ぐこと」

 ようやく咳の止まったルルーシュは呆気にとられた顔で平然と言い放ったスザクを見やった。

 あっけらかんとした顔は冗談を言っているようには見えない。

「……それは本気で言ってるのか?」

「当たり前だろ。僕だって藤堂さんに散々やられたよ。もっともっと流れの速いところで何度もいきなり突き落とされたんだから。でもおかげで泳ぎは得意になった!」

 得意げに胸を張るスザクにジェレミアは黙って頭を抱えた。

 

 確かにブリタニア軍には軍服を着て川を泳ぐという過酷な訓練があった。日本軍にも同じような訓練があるのだろう。しかし間違っても民間人に行ってはいけないし、ましてや子供にしてよい訓練法ではない。

 藤堂という男は何を血迷ったのかよりにもよって首相のご子息にその方法を実践したようだが。

 スザクという少年は規格外に身体能力が優れているからこそ何の問題も起きなかったようだが、ルルーシュは無理だ。比喩でもなんでもなく死んでしまう。

 

 しかしスザクは悪意の欠片も無い、純度100%の笑顔で再度ルルーシュを突き落とそうと待ち構えている。

「ルルーシュは泳ぎが苦手なんだろう?だったら今日は教えてあげようと思って!」

「いつお前みたいな人間魚雷レベルに泳げるようになりたいと言ったんだ!」

「でも沢山泳げると気持ちいいよ?」

「殆ど泳げない人間は平泳ぎ25mでも十分死を体感できるんだよ!」

 へぷしっ、とくしゃみをしたルルーシュの体をジェレミアは摩りながらスザクから庇った。

 夏場とはいえ川の水は冷たい。それに良くも悪くも森の中は陽の光が木で隠されて涼しく居心地が良く、水に濡れたルルーシュにとっては寒いくらいの気温だろう。

「とりあえず着替えましょう。風邪をひいてしまいます」

「でもどうせ泳ぐんなら着る必要ないんじゃない?」

「もう今日は泳がない!」

「じゃあなんで来たんだよ!」

「お前がナナリーを拉致して連れてきたからに決まってるだろうが!ジェレミア、着替えを持ってこい!」

「イエス、ユアハイネス」

 くしゃみをし始めた主君の華奢な姿は見ているだけでも寒々しい。このままでは風邪をひいてしまう。

 今ルルーシュ達が暮らしている土蔵はとても衛生的に良いとは言い難く、風邪で弱ってしまうと次々と感染症に罹患してしまうかもしれない。ただでさえルルーシュは未だ子供であり免疫力が高いとは言い難いのだ。

 ジェレミアは急いで土蔵へ戻った。

 

 土蔵から滝壺まではそう遠くない。走りながらジェレミアはあの悪戯好きな少年に頭が痛くなる思いだった。

 あの枢木スザクという子供は素直で性格も悪くはないのだろうが、行動が突飛過ぎる。日本人というのは周囲に合わせて空気を読むことが得意な民族ではなかっただろうか。それとも事前に仕入れた情報は嘘だったのだろうか。

 

 溜息を吐きながら適当な服と、ついでにタオルを4人分持って川へと戻った。

 ルルーシュは体を震わせながら川縁で丸まり、川ではしゃいでいるスザクとナナリーを見守っていた。

「ルルーシュ様、こちらでよろしいでしょうか」

「ああ」

 ルルーシュはちらとナナリーを見た。ナナリーはスザクと一緒に水に触れて遊んでいる。いくらスザクとはいえ流石にナナリーを水に突き落とすような馬鹿な真似はしないだろう。

 捕まえた魚をナナリーに触らせているスザクを見て、ルルーシュは草むらの中へと移動した。

 

 二人から見えない位置まで移動してバスタオルで粗方の水を拭う。濡れた服が纏わりついて気持ちが悪い。

「全く、災難だった」

「お疲れさまでした」

「お前もな。というかお前の方がびちょぬれじゃないか」

「私は大丈夫です」

「ほら」

 頭にタオルをかけられる。

「寒いだろう。しっかり拭け」

「はい」

「土蔵で着替えてくればよかったのに」

「一刻も早くと思いましたので。それに服を着て泳ぐことには慣れておりますから」

 ああ、とルルーシュはブリタニア軍の訓練メニューを思い出したようだった。

 

 選任騎士候補にはそこらの騎士とは違う訓練が課せられる。その中の一つに重い軍服(ブーツ含む)を着ての50m水泳×20本というものがあった。あの訓練と比較すれば小さな川に飛び込む程度のことはお遊びの範疇に入る。

 選任騎士候補訓練用のメニューとはいえいささか厳しすぎるような気がしていたが、作成者はナイトオブワンのビスマルクとマリアンヌであり、有象無象の選任騎士候補などに文句を言う権利などある筈も無い。

 

「……そう言えばそうだったな。よく訓練中に死なないものだ」

「ああいうのは慣れの問題ですから。ルルーシュ様も溺死を防げる程度に練習した方がよいかと」

「またいつかな」

 ルルーシュはにぱりと明るい笑みをこぼした。スザクは突飛な行動が多いが、ルルーシュはその言動を楽しんでいるらしい。

 そうだろう。ルルーシュはあまりにも頭が良い。

 容易に行動や心理が予測できない人間という存在はルルーシュにとり貴重なのだ。

 

 ルルーシュは濡れたシャツのボタンを外しながらジェレミアを見上げた。

「しかし教わるならお前がいいな」

「私はスパルタですよ?」

「知ってる。でも予告なしに川に突き落としはしないだろう?」

 濡れたシャツとズボンを脱ぎ、ルルーシュはん、と手を出した。

 しかしジェレミアは手に持った服を渡すことができなかった。

 

 ルルーシュの肢体を前に目を見開いて硬直し、慌てて目を背け、そして再度見つめる。

 

 何度か瞬きした後に再度騎士はルルーシュから目を背けた。

 微かにその頬は赤らんでいる。珍しい表情にルルーシュは首を傾げた。

「どうしたジェレミア」

「————ルルーシュ様」

「ん?」

「その、後でお話があります」

「何だ」

 思わず目が細まる。まさか今になってブリタニアに帰りたいとは言わないだろう。

 ジェレミアは裸になったルルーシュからあからさまに目を逸らしながら、「見張りをしておりますので、」と言い残してその場を離れた。

 

 

■ ■ ■

 

 川ではしゃいで遊んで疲れ切ったのだろう。その夜ナナリーは食事の後すぐに寝床についた。

 吐息は小さく、むずがる様子も無い。完全に寝入っていることを確認した後に布団をかけ直してやる。

 灯りは小さな豆電球のみしかない。薄暗い土蔵の中、ルルーシュはそれで、とジェレミアに向き直った。

 ジェレミアは常になく緊張しているようだった。

 ジェレミアの視線はルルーシュに向かい、時折離れてまた再度戻る。慣れない正座で土蔵の床にできるだけ小さくまとまろうと努力しているようだが、頻繁に足を崩すのでむしろ騒がしい。

 常から視界に入るだけで騒がしい男だが今日は一段と騒々しい。声を一言も出していないのに身振り手振りだけでよくもここまで五月蠅くできるものだとルルーシュは変に感動した。

「何だ。話したいこととは」

「————非常に言いにくい事なのですが」

 ジェレミアは唇を噛みしめながらルルーシュを見やった。

 

 柔らかな白い肌に中性的な美貌。滑らかな高い柔らかい声は男とも女ともつかない。しかし性別不詳な美しさも、十二歳という年齢を考えるとそれほど不思議ではない。

 だがこの男とも女ともつかない曖昧な美しさはあと数年と持たないだろう。

 

 ジェレミアは自身がそのことをルルーシュに告げるべきかこの数時間悩みに悩んだ。本来なら信頼できる年上の女性から告げるのがベストな、非常に繊細な事柄だ。

 いくら唯一の選任騎士候補とはいえ、ここ数年男だらけの軍隊に埋もれて生活してきた自分の口から告げるようなことではないことなど言われなくても分かっている。

 こんな無骨な男の口から十二歳の子供が性について話されるなど下手をすればトラウマものだ。トラウマになってしまったら、身の回りに信頼できる大人が自分しかいない状況で一体これからルルーシュは誰に相談すればいいのか。

 そもそも性別どころか生死がかかっている現状において、無理に今そのことを告げる必要性があるのだろうか。

 

 悩みに悩んだ。できればあと一週間は余裕が欲しかった。なぜあの時自分は「後で」などと言ったのだろうと死ぬほど後悔した。「あと数年ほど経過してルルーシュ様にある程度の自覚が出てきてから告げたいことがあります」と逃げ道を作りながら言えばよかった。

 

 しかしそうなるまで待ったとして、その間ルルーシュは一人で自身の性別と悩んでしまう可能性が出てくる。

 一人で悩んで一人で答えを出して結果的に深みに嵌って空回りする姿が目に浮かぶ。

 

 ルルーシュにとり一番良い道はどれだろうとジェレミアは悩んだ。

 悩んだ結果、今話す必要があるとジェレミアは判断した。

 

 ジェレミアはルルーシュから一心に向けられる視線を浴びながら、喉を鳴らした。

「ルルーシュ様、あなた様の身体は女性のものでございます」

「…………………はあ?」

 ぱかりと口を空け、ルルーシュはジェレミアの言葉を丸々1分間かけて反芻した。

 しかし意味が分からない。この騎士は頭がおかしくなってしまったのだろうか。

 ルルーシュはジェレミアの言った内容について吟味するより前にまずこの愚直な男の頭の造りを疑った。

「何を言っているんだお前。ついに頭がおかしくなったか」

「ついにって何ですか……しかしルルーシュ様、本当のことです」

 信じてくれないのは想定の範囲内だ。

 床に両手を付けて頭を擦り付ける。ルルーシュは疑り深いが誠意が伝わらない程に鈍いわけでは無い。

「本当なんです。信じてください」

 

 黙って頭を下げる男を見やりながら、ルルーシュは顎に手を当てて眉根を顰めた。

 この愚直過ぎる真面目な男が言うにしてはあまりに冗談がきつい。そもそもそんなことを言う意味もない。

 だがこの十二年間男として生きてきたというのに、突如女性だなどと言われても困る。

 それに、と自身の身体を見下ろす。

 服の上からでも分かる薄い胸。豊満どころか服の下では肋骨が浮いており、女らしさなど全くない。

 ルルーシュが思う女とはマリアンヌやコーネリアのような豊満な肉体を持つ、触れば指が沈むような柔らかい体を持つ人々だ。

 こんな脂肪のついていない肉体のどこが女性だ。

 

「————お前はそもそもどうして俺が女だと思ったんだ」

「いえその、先ほどその、」

「ああ、俺の素っ裸を見た時に」

「いえあのええはい」

 歯切れ悪く口調を誤魔化すジェレミアにイライラしながら床を指で叩く。

「それで俺が女だと?」

「———はい」

「あんな一瞬で分かる筈もなかろう!」

「いえ、しかし」

 床を叩く。土蔵に響く明らかに怒りの籠った破裂音にジェレミアは体を強張らせた。

「なんだ、はっきり言え!」

「っ、ルルーシュ様の体には男性にあるべきものがなくて、女性にあるべきものがあったのです!」 

「だからもっと明確に言えと言っている!」

 ジェレミアはブリタニアから保健体育の教科書を持って来なかったことを涙が出る程後悔した。

 

 そもそもジェレミアも混乱しているのだ。成人しているとはいえジェレミアも未だ二十一歳の若造でしかない。若輩であることをカバーするべくこれまで愚直に努力を続けてきたものの、その分同年代の貴族と比較し遊び慣れていない自覚がある。

 それがこうして主君と二人きりになり、性教育について話をしなければならないとなれば困惑しない訳が無い。

 

 つまり、ええと、と一人恥じらう少女のように顔を赤らめさせながらごにょごにょと呟くジェレミアに、ルルーシュは声を張り上げて問いかけた。

「つまりおっぱ「あー!」があってペニ「わー!」が無かったということか!そういうことか!」

「そ、そうですけど!そうですけど!でもそんな大声を出さなくてもいいじゃないですかー!」

「貴様が女のように恥じらうのだからしょうがなかろうが!」

 男らしく肘をついてルルーシュは舌打ちした。

 確かにそれはこれ以上ない証拠だろう。目に見えて分かる性別の判定方法ではある。

「だがな、もしお前にそう見えたとしてもおっ「あ゛ー!」やぺ「だー!」の大きさには個人差があるだろう?お前の見間違えということはないか?」

 ルルーシュが淡々と紡いだ正論に、ジェレミアは息を詰まらせて唇を真一文字にして押し黙った。

 確かに一瞬だがしっかり見えたルルーシュの裸体には正直に言って胸らしきものは全く無かったのだ。それはもう地平線の如く見事なまっ平だった。上半身だけを見るならば確かにルルーシュは少女とは言い難い。

 しかし、しかしだ。ジェレミアは拳を握り締めた。

 男性の象徴も無かったのだ。見間違えかとも思って思わず二度見してしまったが、確かに無かった。

「その、ですね」

「分かった」

 ルルーシュは膝を叩いた。目を細める。

 

 乙女のように恥じらうジェレミアとこのまま話していても埒が明かない。そもそも未だ十二歳の自分は外見だけでは男か女など分かる筈も無いのだから、こうして議論を続けることは時間の無駄だ。

 かと言ってジェレミアの言うことを無下にすることもできない。馬鹿なことをと一笑するのは容易いが、この生真面目な男がそんな馬鹿らしいことをするとは思えない。

 とあれば女性か男性か、明らかに判別できる方法でけじめをつけるのがベストだろう。

 男女の明らかな判別方法は単純明快。自分と他者を比較すれば良い。

 そしてこの場で他者は一人しかいない。

「お前のを見せろ」

「嫌です」

 ジェレミアは真顔のまま素晴らしい速度で首を横に振った。

 ルルーシュに仕え始めてから十年以上。初めてジェレミアがルルーシュの命令に対して即座に是以外の答えを返した瞬間だった。

 しかし初めての騎士の反抗をルルーシュは憤然としたまま許容しなかった。

「何故だ」

「いや、当たり前でしょう」

「他者と比較対象しなければ自身の評価などできまい」

「なんで私なんですか!?」

「他に誰がいるんだ!」

 もしここでナナリーと口にすればまず間違いなく自分はルルーシュに殺されるだろう。賢明なジェレミアは口をつぐんだ。

 しかし、となれば確かに選択肢など一択しかない。

 

 身の危険を感じて後ずさるジェレミアにルルーシュが近寄る。男性とも女性ともつかない、美を極めた一つの頂点とも言える顔が近くに迫りジェレミアを追い詰める。

 ジェレミアは顔を逸らして必死に逃れようと目を瞑った。

 ルルーシュが女性であるということを告げたことからどうしてこうなったのだ。

 というか何故ルルーシュはこんなにもアグレッシブなのか。もっと年ごろの少年らしく性に繊細であっても良いのではないだろうか。

 ちらとルルーシュを見やる。好奇心と疑心で輝く菫色の瞳は数々の戦場をその眼に焼きうつした後でも変わらず美しい。ずっと眺めていたいと思う程に、きらきらと輝いている。

 自身の汚物をこの澄んだ紫水晶に映すなどという愚を犯すことができる筈が無い。男同士であれば後には笑い話にでもできるだろうが、ルルーシュが女性であれば冗談では済まない。

 

 大体、想像するだけでも絵面が酷い。

 

 薄暗い物置のような場所で、十二歳の薄幸の美少女に二十一歳の筋骨隆々とした現役軍人が性器を晒して自身の性別を自覚させるなど、色々アウト過ぎる。

 もし見つかれば通報、即逮捕。そして処刑まで一週間足らずのスピード判決に違いない。

 ジェレミアが上着を頭に被って手錠をしている自分がニュースに出ている妄想を浮かべているなど露知らず、ルルーシュはジェレミアに乗り上げてズボンを引っ掴んで離れようとしない。

「いいから見せろ!それですぐに判明する!」

「判明したとしてもあまりに失うものが多すぎます!リスクとベネフィットをきちんと秤にかけて行動すべきでは!?」

「見せても減るもんじゃないだろ!さっさとパンツを下ろしてその粗末なモノを見せろと言っているんだ!」

「そまっ……!?そういう言葉を一体どこで覚えてくるんですか!ロイドか、ロイドだなあの野郎!!やっぱり抹殺しておけばよかったぁあ!!」

「喧しいぞ!いいからさっさと見せろと言っているんだ!それとも金を払うまで勿体ぶるつもりか!?」

「さっきから言ってることが風俗の出禁客みたいですよルルーシュ様!!」

 ぐいぐいと迫ってくるルルーシュを突き飛ばすのは簡単だが、そのせいでもし怪我をしてしまったらと考えると動けなくなる。

 しかしそもそも絶対的な力の差があるためにしっかりとズボンを掴んで引きずりあげているジェレミアの恥部を見るなどルルーシュには不可能だった。

 だが諦める気は無いのか、年ごろの少年少女としての恥じらいなど欠片も見せずルルーシュは躊躇なくジェレミアのズボンに両手をかけて力任せに引きずり下ろそうとする。

 ルルーシュの猛攻を防ぐためにジェレミアは身を捩って逃れようとした。突然動いたジェレミアの足にぶつかってルルーシュはよろめいて後ろに転げた。

 ジェレミアがあ、と思った時には遅く、ルルーシュは床に転がって頭を抱えていた。

「ルルーシュ様!?」

「っ、痛いっ」

「申し訳ございません!お怪我は、」

 怪我の具合を見ようと焦って体を浮かせたのがまずかった。

 受け身を取ったために床に転がっていた体勢からルルーシュは瞬時に起き上がって腰を落とし、ジェレミアの下に体を潜り込ませてズボンを全力で引きずり下ろした。

 

 時が止まった。

 

 ルルーシュの麗しい顔の前に自分の汚物がある。その光景はジェレミアに失神レベルの衝撃を齎した。失神しなかったのは偏に、この光景を一刻でも早くこの世から消し去るべきだという強い精神力によるものだった。

「っ、キャー!」

 ジェレミアは無体を受けている女性、にしては野太い悲鳴を上げながらズボンを即座にずり上げて無様に床に転げた。

 最悪だ。自分はルルーシュ様になんという失礼をしてしまったのか。まさか切腹では足りない程の無礼を働いてしまうとは。

 愚かなりジェレミア・ゴットバルド。ルルーシュ様の選任騎士候補でありながらまさかこのような失態を犯してしまうとは・・・っ

 

 ついさっきルルーシュが卑怯な手段でもって自分のズボンをずり下げたという記憶は、汚物 in front of ルルーシュという史上最悪の光景による衝撃でもってジェレミアの脳内から綺麗に抹消されていた。

 

 一人頭を抱えて悶絶しているジェレミアを横に、ルルーシュは呆然としていた。

 右手の指で自分のモノのサイズをつくる。左手の指でジェレミアのモノのサイズを、作ろうとしたが作れない。眉根を顰めて顎に手をやった。

 確かに自分にはあんなものは付いていない。

 いやしかしまだ自分は子供だから、これから大きくなるのではないか?

 だがこれがあれになるのか?本当に?二次性徴に差し掛かっているというのにサイズが大きくなっているようには全く見られないのだが。というかそもそも形がまったく違わないか?それともまじまじと見れば同じような形をしているのか?

 確認すべくルルーシュは自身のズボンを引きずり下ろした。

 十二年間付き合ってきた自分の身体だが、こうしてじっくり見るのは初めてかもしれない。

「っ、わー!ルルーシュ様、止めてください!」

「…………ない」

「だから言ったでしょう!だから言ったでしょう!?」

「ちょ、もう一回、」

「ダメです!そしてすぐにズボンを履いて下さい!」

「分かった。明日スザクに見せてもらう」

「それもダメです絶対ダメです!」

「じゃあどこで参考資料を見ればいいんだ!」

「分かりました、明日医学書を買ってきますから!それでいいでしょう!?それでいいですよね!?」

 ジェレミアの必死の説得の甲斐あって、ルルーシュは憮然としながらも頷きながらズボンをずり上げた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 次の日の朝。

 ジェレミアは起きて即座に最も近い場所にある書店へと向かい、人体解剖学書と泌尿器科、ついでに産婦人科の医学書を買い求めた。

 医学書だけあって中々に高額だったが、全財産かかっても購入する程の勢いだったジェレミアにはそもそも値段を見ている余裕が無かった。

 そのままスプリンターもかくやという速度で土蔵まで飛び帰り、起きたばかりのルルーシュに医学書を押し付ける。

 寝ぼけ眼を擦るルルーシュと一緒に医学書をめくる。元々好奇心が強いルルーシュに説明するにはジェレミアの拙い医学知識では足りず、買ってきた医学書をめくりながら二人で話し合った。

 

 

 昼頃になりナナリーはスザクと共に遊びに行った。珍しく妹にべったりでないルルーシュにスザクは疑念を抱いていたようだが、妙に真剣な顔でブリタニア男と分厚い本を囲む姿を見て「何か大事な政治の話なんだろうな」と察してナナリーと共に土蔵を出て行った。

 あのブリタニア男は軍人と言っていたし、これからどうするのかルルーシュと話し合う必要があるのだろう。ナナリーの前では話しにくいことだってあるかもしれない。

 

 スザクはルルーシュが心配しないようできるだけ土蔵に近い位置で、しかし二人の会話は聞こえないような場所でナナリーと一緒に絵本を読んだりおままごとをしながら、難しい運命にある兄妹のことを思った。

 

 

 

 

 しかし二人はスザクの気遣いに気づく余裕もなかった。

 時折ナナリーがスザクと遊んでいることを確認しながら、人体解剖書を何度も往復してうんうんと唸る。

 途中何度か「いやこれはホルマリン漬けにされた検体の写真だから。生きてる人間はまた違うんじゃないだろうか」と言ってズボンを下ろしたり下ろしてきたりするルルーシュを必死で止めながらジェレミアは医学書を読み進めた。

 

 ようやくルルーシュが納得したのは日が暮れてからだった。

 医学書が散らばる中央で、床に大の字に寝そべるルルーシュにジェレミアは無言で水を差しだした。

 一息で飲み込み、ルルーシュはぽつりと言葉を零した。

「……嘘だろう……」

「納得して頂けましたか」

「———した」

 一人呆然とするルルーシュの横でジェレミアは背を丸めた。

 

 かける言葉が見つからない。

 これまで生きてきた十二年間、自分は男だと思っていて、突如女だと知らされた。その衝動は想像を絶するだろう。

 

 ジェレミアは呆然としたままのルルーシュに頭を下げた。

「申し訳ございません」

「———何故謝る」

「ずっと一緒にいましたから」

 そうだ。ずっと一緒にいた。

 物資の供給が滞っていたヨーロッパ戦線では一緒のベッドで寝たことともあれば服を着せたこともある。だというのに全くもって気づかなかった。

 いくら幼く、洗濯板程の凹凸も無い胸部とはいえ気づかなかったのは自身の失態だった。

「私は気づくべきでした」

「朴念仁のお前が二次性徴前の子供が女か男かなどと気づく訳ないだろう」

「……それなりに彼女がいたりしたんですが」

「すぐに別れたんだろ。ロリコン疑惑のせいで」

「やめて下さい」

 憮然とした表情のまま、ルルーシュは息を吐いた。

「まあ、うん。しょうがないか」

「……悩んでもどうなるものでもないですから」

「そうだな。まあ女の方が便利なこともあるし。それに逃げ隠れるには皇子じゃない方が都合のいいこともあるだろうし」

 ルルーシュは必死に自分を説得しようとしているように見えた。

 受け入れるまでに時間はかかるだろうが、そう悲観しているようにも見えない。

 そもそも性別以前に自分と妹の生死が問われている状況でそう長く落ち込んでるわけにもいかないのだろう。いじましい程の図太さにジェレミアは感嘆した。

 

 最早用済みとなってしまった医学書をルルーシュは腹立ち混じりに放り投げた。床にぶつかって埃が舞い上がる。

 もう使い道も無いので近いうちに火を熾す時の火種にでも使われることになるのだろう。高かったのだが。

 

「それにしても、どうして性別が隠されていたのでしょうか」

「俺も知らん」

 放り投げられた医学書を拾い上げながら、ジェレミアは首を傾げた。

「———マリアンヌ様の悪戯、とか」

「いや、いくらなんでも……ないよな?」

 

 いくらあのぶっ飛んだ母親でも、女に生まれた子供を男と偽って育てることなどしない……と信じたい。

 そもそもそんなことをするメリットなど無い。男尊女卑がまかり通る国だったり、女に皇位継承権が無い国ならともかく、ブリタニアは名実ともに男女平等だ。当然、皇位継承権は女にも平等に存在する。

 それに公式の記録として男とされている以上、出産に立ち会った医師や看護師、その後養育を任された乳母や普段身の回りの世話をしていたメイド達も性別の偽装に関わっていることになる。そんな大掛かりな偽装工作が、少しでも隙を見せれば引きずりにかかる皇族貴族に発覚しない筈が無い。

 

「順当に考えると俺は生まれた時に性分化疾患があって、戸籍上はとりあえず男にしておいた。けれど成長するにつれて女の方向に育った、とか」

「………まあ、順当ではありますが」

「うん。無理があるなあ」

 他と比較したことのないので断言するのは難しいが、おそらく自分の性器は一般的な少女とそう変わりは無い。少なくとも陰茎と見間違うようなものは全くない。

 生まれた時に男か女か判別し難かった、という形跡は無いのだ。

「だが他にそれらしい理由も無いんだ。後天的に女性になったとしか考え付かない。もしくはマリアンヌの大規模な嫌がらせか……」 

「いくら何でもこんな無意味で地味な嫌がらせはされない方でしょう。するなら派手に、戦場でぱーっとする方でした」

「確かにそうだ————まあ理由はここで考えてもしょうがあるまい。お前さえよければ、明日からまた俺の下で働いて貰うぞジェレミア」

「イエス、ユアハイネス」

 迷いなく跪く。この男の忠誠に安堵するのも、呆れるのももう何度目だろう。

 

 その篤い忠誠はルルーシュの理解の程を遙かに超え、人類には理解不能な域に達している。その忠誠はルルーシュが男から女になろうと揺らがない。

 それどころか、もしかしたら汚名を着せられエリートコースから左遷されようと、サイボーグ化するほどの重傷を負わせられようと、全身の動きを強制的に止められ血の涙を流させられても揺らがないかもしれない。

 

「———俺が女でも、お前は俺に忠誠を誓うのか」

「はい」

「お前は馬鹿だ。嘘をついて裏切ったのと同然だろうに」   

「女性であろうとルルーシュ様の王の器に変わりはございません。そしてこれまで共に過ごした過去が変わる訳でもありません。であれば、私の忠誠が揺らぐ理由にもなり得ません」

 しかし、と続ける。

「お願いが一つあります」

「何だ。言え」

 珍しいと思った。

 碌に願い事など口にしない巌のような男だ。こうして真正面から願い事があると言われたのは、長い付き合いだが初めてかもしれない。

 いつもルルーシュが無茶な我儘を言って、ジェレミアはずっと振り回されてきたのだから。

 

 ジェレミアはルルーシュの両手を取った。

 

「もう二度と人のパンツを引きずり下ろしたり、人前で自分のパンツを下ろしたりしないで下さいね」

「誰がするか馬鹿!」

 

 全力でジェレミアの頭を叩いた。

 中身が詰まっている良い音がした。

 

 

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