私もこれから気を付けないと…!
皆さんもどうかお気を付けて!
外出後のうがい、手洗い、アルコールによる殺菌消毒は必須ですよ!
シャワールームから裸の状態で出て来たシャルルと出くわした俺。
彼女と俺の目線が重なって、お互いに沈黙してしまう。
「「……………」」
ふむ……この場合にするべき事は……。
「よいしょっと」
クローゼットまで歩いて行き、中から詰め替え用のボディーソープを取り出す。
「ほら」
「え?」
さっき出て来た時に『予備のボディーソープ』とかって言ってたし。
これが必要なんだろう?
「いるんだろ?」
「あ……はい」
恐る恐る予備のパックを受け取った彼女の肩を掴んで、無理矢理後ろを向かせる。
「ほら。まだシャワーの途中なんだろ?」
「い…いや!他にも何か言う事は無いの!?僕、女の子なんだよ!?」
「そんなの最初から知ってるよ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「そんな事よりも!そのままでいたら風邪を引くぞ!女の子が自分の体を冷やすような事をするもんじゃない!」
「ちょ……ちょっとっ!?今の恰好に対して何か言う事は!?」
「いいから行く!」
「く…畔章さn」
バタンッ!
「ふぅ……」
これでよしっと。
「……事態が動いたな」
ココアでも淹れて待っていようか。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「あ…あがりました~…」
「ん」
ほこほこの体でシャワールームから出て来たシャルルは、上下ジャージの恰好で俺の横まで来た。
「ほら、ココア」
「ど…どうも…」
「熱いから気を付けて」
火傷しないように、そっと彼女に手渡した。
「あ…あの……」
「なんだ?」
「どうして僕が女だって知ってたんですか?」
「予め調査してたから」
「ちょ…調査?」
「そ。更識楯無っていただろ?」
「生徒会長でロシア代表の?」
「あいつな。実は暗部の人間で、転入する前からお前の事を調べて、その正体を俺に教えてくれたんだよ」
「そうだったんだ……」
「因みに、千冬や真耶、前に屋上で昼食を食べた時に揃ったラウラ以外のメンバーは全員知ってる」
「う…嘘っ!?」
「ホント。同じ情報を持つ人間は少しでも多い方がいいからな」
ズ~ン……と、シャルルは頭に青筋を立てて落ち込んだ。
「単純に相手が悪かったな。シャルロット」
「僕の本名まで知ってるんですね……」
「まぁな」
ここまで落ち込まれると流石に罪悪感があるな……。
「まず一言言っていいか?」
「なんですか…?」
「お前な、男装下手すぎ」
「そ…そうですか?」
「肩や腰が女のままだし、体つきが細すぎてまんま女じゃんか。後な、コルセットか何かで胸を隠しているんだろうけど、少し膨れていて完全に隠しきれてなかったぞ。世の中には中性的な男もいるけど、君は女の顔そのものだった。……何か反論あるか?」
「ありません……」
少し指摘しすぎたか…?
「更に言えば、普段の会話の端々に怪しさが滲み出てた。あれなら、仮に俺や他の連中がお前の正体を知らなくても、あっという間にバレてたと思うぞ?」
「あの……僕のHPはもうゼロですから……その辺で……」
「あ…ゴメン」
今まで溜め込んだ事を全部言ってしまった…。
「僕の変装は全く効果無かったんですね……」
「何も知らない素人相手じゃ、それなりに効果を発揮しただろうが、俺や千冬のような武道の心得があったり、暗部連中相手じゃ意味無かったな」
「ははは……」
乾いた笑い。
見ていて不憫な気持ちになる…。
「お前がこんな事までしてIS学園に来たのは、俺の生体データや専用機なんだろ?」
「そこまで……」
「これは予想。ま、これは俺じゃなくても予想出来ると思うけどな」
「ですよね……」
ココア飲まないのか?
このままじゃ冷えちゃうぞ。
俺はチョビチョビと飲んでるけど。
「ここまで来たら、もう話すしかないですよね……」
「お互いの為にもな」
やっとココアを飲んだか。
多少冷えても美味しいから問題無いけど。
「その前に僕からも聞いていいですか?」
「何を?」
「どうして僕の裸を見ても驚かなかったんですか?」
「女の裸は見慣れてるからな」
「え……?」
「この学園での俺の噂……聞いてるか?」
「えっと……学年とかを問わずにハーレムを築いてる……ですか?」
「そ。それが答え」
「も…もしかして……!」
何を想像したのか。
彼女の顔が一気に真っ赤になった。
「それとな、ここに来る前から俺は千冬と付き合ってるんだよ」
「そ…そんな情報知らされてなかった……」
「つまり、俺に手を出した時点で既に王手だったって訳」
「自分が馬鹿すぎて何も言えない……」
「気持ちは分かる……なんて安い言葉は言わないけどさ、まぁ……頑張れ」
「あはは……」
少しでも慰めになればいいと思って、頭を撫でてやる。
まだ髪が乾いてないのか、少しだけ湿っていた。
「ここまで来たらもう……僕が誰に命令されてきたのかも分かってるんですよね?」
「これも俺達の予想だけど、社長である父親から……だろ?」
「正解です…。デュノア社の経営状態は知ってますよね?」
「一応な」
「それを打開する為に、僕はこうして来たんです…」
「スパイに自分の娘を使うのもどうかと思うけど、それ以前に『デュノア』の性を名乗らせたら意味無いだろうに……」
「あ……」
そこにも気が付いてなかったのか!?
「つくづく穴だらけだったんですね……」
「本職のスパイが見たら、絶対に説教10時間コースだな」
「それだけは絶対に嫌だ……」
「ははは……」
俺も嫌だわ、そんなの。
「……聞いてくれますか?僕の話……」
「最初からそのつもりだ」
「ありがとう……」
すっかり冷えてしまったココアをごくりと飲んでから、シャルロットは静かに語りだした。
「実はですね……僕、愛人の娘なんですよ……」
「愛人……」
ある意味、今の俺と最も密接な単語だ。
「今の父に引き取られたのが、今から二年ぐらい前。僕の母が亡くなった時に父の部下がやって来て、そのままデュノア社に連れていかれました」
彼女が紡ぐ言葉を、俺は邪魔せず黙って聞いていた。
「会社でIS適性を調べた時に僕の適性値が高い事が判明して、非公式ではあるんですけど、僕はデュノア社のテストパイロットになったんです」
まるで予め決められた言葉を淡々と話す彼女の顔からは、怒りも悲しみも感じ取れなかった。
まるで、全てを諦めていると言うか、達観しているような表情だった。
「父と話したのは今まで数回だけ。親子と言うよりは、血の繋がった他人に近いかな?ははは……」
「……………」
「一応、僕には父と再婚した義理の母がいるんだけど、その人は僕の事が嫌いだったみたいで、よく暴力を振るわれたなぁ……」
思わず拳を握りしめたが、それを悟られないように隠した。
「きっと、僕は掴まって牢屋行きでしょうね。女の子として入学して、普通の子達みたいな学生生活が送りたかったな……」
「まだ諦めるのは早いと思うぞ?」
「気休めを言わないでくださいよ……」
「気休めかどうかは……」
机の上にあるノートパソコンを開いて電源を入れ、少し操作して彼女の方に向ける。
「これを見てから言った方がいい」
パソコンの画面には、俺の親友の原瀬頼奈が映っていた。
『待たせちまったな。思ったよりも時間が掛かっちまって』
「気にするな。どれだけ時間が掛かっても、お前なら必ずやり遂げるって信じてたよ」
『はは……。ありがとな』
鼻を擦って照れくさそうにする頼奈。
「こ…この人は?」
「俺の大事な親友。で、今はフランスにいる」
「フランスに……?」
さて…と。
まずはどうなったか聞かないとな。
「頼奈。もう決着はついたのか?」
『勿論。前に俺が女性権利団体とデュノア社が裏で繋がってるって言ったのを覚えてるか?』
「あぁ」
「えぇっ!?」
そこ、今は少し静かにしていて欲しい。
『あれな……マジだったわ』
「そうか……」
原瀬の情報網に引っかかった時点で、信憑性は限りなく100%に近かったけどな。
『でも、もう大丈夫だ。女性権利団体のフランス支部は俺達が物理的にぶっ潰して、幹部連中を初めとした奴らは全員が拘束された』
「それはよかった……」
これでフランスも少しは静かになるだろう。
『その際に新たに分かった事も色々とあるんだけど、それはこの人達から直接聞いてくれ』
「この人達?」
誰の事を指してるんだ?
そう思っていると、頼奈と入れ替わるようにして、一組の男女が映像に映し出された。
「と…父さん!」
「この人が?」
ピシッ!としたスーツを着ているナイスミドルなおじさんと、その隣に立っている熟女。
彼女が再婚したって言う義理の母か?
『シャルロット……』
「父さん……」
明らかに怯えている。
顔が真っ青になって、手も震えているし。
『…………本当に済まなかった!!!』
『ごめんなさい!!!』
「…………え?」
いきなり、凄い勢いで土下座&謝罪。
俺もシャルロットもこれには普通に驚いた。
「ど…どういう事さっ!?」
『それは……』
『私から話すわ……』
義母……デュノア夫人がそっと頭を上げてからこっちを見た。
『……私にはね…姉が一人いるの』
「お姉さん……?」
『その人が……女性権利団体フランス支部の支部長をしていたのよ』
「「なっ!?」」
それはかなりの予想外。
でも、なんとなく分かってきたぞ。
『姉は昔から男嫌いで、それがISの普及によって更に増長してしまった。男の事は奴隷のようにしか見てないわ』
「そんな……」
『そんな姉が、私が彼と結婚した時にこう言ってきたの。『デュノア社には女性権利団体のスポンサーになって貰う。拒否権は無い』…って』
「なんでそんな事を聞き入れたんですか……!」
『君を人質に取られていたからさ』
「ぼ…僕を……?」
夫人では話しづらいと判断したのか、頼奈が代わりに話してくれた。
『支部長は社長に愛人との娘がいた事を予め知っていた。それをネタに脅して、無理矢理出資者にさせたのさ。ご丁寧な事に、デュノア社内部に自分達の手駒まで送り込んでな』
『私達は一度だってお前の事を疎ましく思った事なんて無い。だがしかし、それを知られてしまえば奴らは最悪、強硬策に出てお前を誘拐して、もっと大きな事を要求してくる可能性もあった。デュノア社を自分達に明け渡せ…とかな…』
『だから私達は、貴女に人質としての価値が無いと彼女達に見せつける必要があった…』
「だから……僕の事をあんな風に突き離して……」
『どれだけ謝罪しても許されるなんて微塵も思ってはいない。だが、これだけは分かってくれ。私も彼女も、お前の事を心から愛している』
『例え血が繋がっていなくても、私はシャルロットの事を本当の娘のように想っているわ。これは本当よ』
無言で夫婦の言葉を聞いていたシャルロットだったが、その目には涙が溢れていた。
「もしかして……僕をIS学園に送りこんだのも……」
『……当時、まだデュノア社が奴らの傀儡だった頃……全世界で一つのニュースが報道された』
「俺がISを動かした事……ですね?」
『そうよ。それを知った姉は、それを見て私達にこう命令してきたの。『シャルロットを男装させてIS学園に送り込み、この男の体液や毛髪、そして専用機が用意される筈だから、ついでもそれも奪って来させろ』…とね』
『だが、私達は逆にそれを好機と見た』
『IS学園には外部からの干渉を不可侵とする校則が存在する。向こうに送り込めば少なくとも三年間はシャルロットの命を確実に守ることが出来る…と』
『その三年の間に、なんとかして連中を告発して、シャルロットとデュノア社に自由を取り戻させようと思っていたのだが……』
『その前に俺達がやっちまったからなぁ~』
『来たるべき日に備えて、密かに姉達の犯罪の証拠を集めてきたんだけどね……』
『それらは決して無駄にはなりませんよ。現行犯で捕まえた以上、後はお二人の証言と証拠さえあれば問題無しですから』
頼奈もすっかり社会人の仲間入りなんだな~…。
俺よりも輝いて見えるよ。いやマジで。
『どれだけ恨まれても、嫌われても、呪われてもいい。でも…お前だけは…彼女の忘れ形見であるシャルロットだけは絶対に守りたかったんだ……!』
『そう簡単に許せないだろうけど、彼の事も考えてあげてくれ。会社の社長である以上、この人は君の他にも多くの社員の人生をも預かっているんだ。社長としての立場と、一人の父親としての立場に挟まれながら、必死に娘と会社の両方を救う道を夫婦でずっと模索し続けた。それはきっと、君が思っている以上に茨の道だったと思う』
つまり、シャルロットのご両親も本当は犠牲者だったと言う訳だな。
「僕は………」
いきなりこんな事を話されても、混乱するだけだろうな。
「僕は……嫌われてなんか無かったんだね……?」
『『当然だ(よ)!!』』
「よかったぁぁぁ……」
ようやく泣いたか。
子も子なら、親も親だな。
親子揃って不器用だよ、全く。
『デュノア社に紛れていた権利団体の連中も捕縛したから、もう安心だ。後はこっちでなんとかするよ』
「頼んだぞ……相棒」
『任せとけ、相棒』
こんな時の頼奈程、頼りになる奴はいない。
『馬渡畔章君』
「はい」
『シャルロットがそうしていると言う事は、君が学園内でその子の事を守ってくれたんだね?』
「俺は別に大した事はしてませんよ。ただ、少しでも彼女が快適に過ごせるようにしただけです。それに、俺以外にも協力してくれた子は沢山いましたし」
『それでも、私達は君にお礼が言いたい。彼から聞いたよ。デュノア社の事を調べるように進言してくれたらしいね?』
「そうした方がいいと思った。それだけですよ」
『でも、そのお蔭で私達もデュノア社も救われた。頼奈君にも多大な感謝をしているが、その切っ掛けを作ってくれた上に大事な娘の世話までしてくれた。君にはどれだけ感謝してもしきれない』
『本当に……ありがとう……』
マジで大した事はしてないんだけどな。
そんな風に感謝されてもくすぐったいだけだ。
『本当は明日にでも女として再入学した方がいいんだろうけど、権利団体の奴等がちゃんと裁かれてブタ箱にぶち込まれるまでは、もう少しだけ男として過ごしてほしい。大丈夫。マジでもう少しの辛抱だから』
「分かりました。僕なら大丈夫です」
『畔章がいるからか?』
「そ…それは……」
また顔が真っ赤になった。
『まさかの図星』
『彼のような好青年なら……』
『えぇ……そうね……』
この夫婦は何を話している?
『畔章君!』
「は…はいっ!?」
『これからも娘の事を頼む!君になら安心して任せられる!』
『だからお願い。私達の大切な愛娘を守ってあげて』
「言われずとも、最初からそのつもりですよ。乗りかかった舟ですから」
『感謝する……』
中年男性の涙とか誰得?って思ったけど、この状況で口にする程外道じゃない。
『お二人にはこれから事情聴取がありますけど、我々が責任を持ってお守りします』
『原瀬財団にはお世話になりっぱなしだな…』
『それはお互い様です。親父も貴方には何回も世話になったと言っていましたし』
そうなのか~。
俺が知らないのも当然だけど。
『そんな訳だから、そろそろ通信切るな。そっちも頑張れよ』
「お互いにな」
『おう。じゃあな』
『シャルロット。事が落ち着いたらいつでも帰ってきていいからな』
『私達はいつまでも待ってるわ』
「うん……。ありがとう……お父さん……お母さん……」
最後に夫婦揃って頷いてから、通信が切れた。
「…よかったな」
「はい……!」
泣きながら俺の胸に抱き着いたシャルロット。
俺は彼女の体をそっと抱きしめた。
「……どうして…畔章さんは僕の事を……?」
「……幼い頃に両親を亡くしてね。そのせいかな……血の繋がった家族が仲違いしているのを見ていたくないんだ。自分勝手な理由だろ?」
「そんな事無い……そんな事無いよ……!」
シャルロットが泣き止むまで、ずっと抱きしめながら頭を撫で続けた。
彼女の髪からはシャンプーのいい匂いがした。
(僕は幸せ者だ…。お父さんとお母さんにあんなにも愛されて……こんなにも素敵な人に出会って……好きになったんだから……)
何故だろう……。
また何かのフラグが立った気がする…。
こんなんでよかったのかなぁ~…?
色々とガバガバな気もするし……。
ちょっぴり心配な私です。