そんな訳で……レッツバトル!
管制室で畔章達の試合を見ている教師陣と束。
三人共に笑顔になっていて、畔章の勇姿と少女達の成長を嬉しく感じていた。
「やっぱり…クロ君ってチートだよね……」
「ボーデヴィッヒさんの猛攻をヒラヒラと躱してますからね~…」
「ボーデヴィッヒも昔に比べればかなり成長したが、今回ばかりは相手が悪すぎたな」
未だに畔章が被弾する様子は無い。
それどころか、徐々にラウラを追いつめている。
「あの子がクーちゃんの妹……なんだよね」
「なんだ?嫉妬か?」
「そんなんじゃないけどさ……。ただ、私にあの子の事を報告した時のクーちゃんの顔が忘れられないっていうか……」
束はクロエの保護者であり親代わりでもある。
故に、まさかの再会を果たした『妹』の事を報告するのは当然の事だった。
ラウラの事を話している時のクロエは、まるで花が咲いたかのような笑顔だったと言う。
「いいじゃないか。どんな形であれ、兄弟姉妹が再会するのはいい事だ。それはお前だってよく分かってるだろう?」
「まぁね……」
束も箒と言う妹を持つ身。
生き別れとなった家族と再会する喜びは誰よりも知っている。
「その篠ノ之さんも、なんだか凄い事になってますよ?」
「そのようだな。デュノアの弾幕に怯むことなく剣を交えている」
「何か叫んでるけど……何言ってるんだろ?」
ここからでは二人の会話は流石に聞き取れない。
もしも知ったら、呆れて苦笑いをするのは確実だろうが。
「そう言えばさ、クロ君から聞いたよ。あのシャルルって子の一件、なんとかなったんだってね?」
「原瀬の連中が直接動いたらしいからな」
「まさか、原瀬財団の御子息と畔章さんとが親友同士だったとは知りませんでした……」
「私も初めて紹介された時は驚いたよ。だが、畔章と頼奈の二人には互いの立場なんて関係ないようだがな」
片方は世界唯一の男性IS操縦者であり騎士の家系の血を継ぐ者。
もう片方は世界的にも超有名な財団の御曹司。
色んな意味で二人は特殊な人間だが、二人は自分の事も相手の事も、そんな風に見た事は一度も無い。
彼等の中では、二人はどこにでもいる普通の青年に過ぎないのだ。
「ま、後は馬鹿共が裁かれれば本当の意味で一件落着……って、試合に動きがあるみたいだよ」
「んん?」
畔章の連続突きが炸裂し、ラウラが派手に吹き飛んで壁に激突する。
「あちゃ~…。これはもう勝負はついたかな?」
「だろうな。だが、アイツがこのまま終わるとも思えん」
よろめきながらも立ち上がり、再び攻撃態勢に移行した……時だった。
「なっ!?」
「あ…あれはっ!?」
「………っ!?」
突然、ラウラのISから紫電が迸り、まるで溶けるように液状化していって彼女を飲み込んだのだ。
「束!!」
「分かってる!!」
即座に機器を使って解析に入る束。
彼女の本気の働きによって、数秒で解析結果が出た。
「これは……VTシステム!?」
「なんだとっ!?」
本来なら、この世に存在してはならない物体。
それが目の前で教え子を飲み込んだ。
その事実に、一瞬だけ千冬は混乱した。
「助け出す方法は!?」
「下手にシステムに干渉すれば、どんな事が起きるか分からない。ここは物理的にラウラって子をあの中から出すしかない」
「結局は力づく……か」
「ゴメン…。今からラボまで行って機器を運んできてたら、その間に致命的な事が起きる可能性もあるし…」
「誰もお前を責めてはいない。責めるべき相手がいるとすれば、それはアイツの機体にシステムを組み込んだ奴だ…!」
ラウラは千冬が直接手を掛けた大事な教え子の一人だ。
ある意味、他の生徒以上に大事に思っている節もあった。
だからこそ許せない。
大切な教え子を実験台にした連中を。
「こうなったら、あの場にいる三人に託すしかないのか…!」
「本来なら教師部隊を突入させるべきなんでしょうけど……」
「今から準備をしたんでは間に合わない……。それに、生徒達の避難誘導をして貰わないといけないし……」
無力な自分に苛立ちを隠せない千冬。
「束。現場にいる畔章のオペレートを頼めるか?」
「任せて!」
ドンッ!と胸を叩いて自信満々に胸を張る束。
その際に彼女の大きな胸が揺れたが、誰も気にしていなかった。
「あっ!ISに変化が!」
スライムのように不定形だったISが、明確な形状に変化し始めた。
その姿は、三人にとって最も驚愕すべきものだった。
「あ…あれは……」
「これって……」
「う……そ……?」
そこには、漆黒に染まった暮桜を纏った千冬を模した姿になったISがいた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「な……」
俺は目の前の光景が信じられなかった。
ラウラのISが液状化したと思ったら、次の瞬間には千冬そっくりの形状に変化したのだから。
あれは間違いなく『暮桜を纏った千冬』を模した物だ。
その証拠に、アレの手には千冬の愛刀『雪片』の偽物が握られている。
「「畔章さん!!」」
すぐにこっちの事に気が付いたシャルルと箒が、俺の所に駆け付けた。
「これは一体……?」
「なんなんですか…?」
「俺にも分からない。けど、確かなのは……」
漆黒のISが攻撃の構えになった。
「一刻も早くラウラを助け出さないといけないって事だ」
向こうさんが俺に向かって突撃してきた。
その太刀筋は間違いなく千冬のものなのだが……。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
黒い刃と俺の槍がぶつかり合って一瞬だけ火花が散る。
重い一撃だが、これは
「舐めるなぁぁっ!!」
槍を起点にして回し蹴りを放つ。
俺の脚は敵の腹部に命中し、間合いを離す事に成功した。
「やっぱりな」
「く…畔章さん?」
「いくら似ていても、偽物は偽物だ。攻撃のスピード、踏込の位置、全てが本物よりも遥かに劣化している。千冬なら、さっきの蹴りを蹴りで相殺するぐらいは易々とやってのけるよ」
かと言って、それが分かったからってどうするんだって話ですよ。
ここは千冬の指示を待った方がいいのか?それとも……。
『緊急事態発生!!即座にトーナメントの全試合を中止とする!状況をレベルDと認定する!来賓、生徒は一刻も早く避難する事!繰り返す!』
アナウンスが流れた途端、生徒達は避難経路に集中した。
これは拙い。下手したら暴動騒ぎが起きかねないぞ!
『クロ君!聞こえる!?』
「束?」
「姉さん?」
プライベート・チャンネルで束の声が聞こえてきた。
『今あの子を取り込んだのは『VTシステム』って奴なの!』
「VTシステム……」
どこかで聞いた事のある名前だ…。
確か、参考書か何かだったか…?
『あまり時間も無いから手短に言うね!あの子を手っ取り早く救出するには、物理的にシステムから切り離すしかない!この意味分かる!?』
「要は、力ずくであのパチモンを倒して、ラウラを中から出せばいいって事だろ?」
『正解!でも気を付けて!さっきも言った通り、時間制限があるからね!』
「……どれぐらいだ?」
『多分……もって15~20分ぐらい。希望的観測でも25分が限界だと思う』
「充分過ぎる時間だ」
それだけあればなんとかなる!
『教師部隊は避難の誘導に手間取って、そっちには来れそうには無いみたい。だから、必然的にクロ君達に任せる事になるんだけど……』
「仮に先生達が来ても、俺が自分でやっていたさ」
『クロ君……』
「こいつは俺に……いや、『俺達』に任せてくれ」
『……お願いね。クロ君』
通信が切れた。
束も他の事で忙しいのだろう。
『畔章さん……』
「クロエ?」
どうやってプライベート・チャンネルを?
いや、今はどうでもいいか。
『あの子を……助けてください……!』
「……当たり前だ。『俺達の妹』は絶対に助け出す」
『……はい』
それだけを言い残して、クロエの通信も切れた。
きっと、他の皆と一緒に避難誘導に加わったんだろう。
「……どうするんですか?」
「奴さんは俺にご執心のようだ。なら、俺が相手をするしかないだろう」
「僕達は……」
「二人はここに居て、アイツが万が一観客席に向かって攻撃した時に対処出来るようにしていてくれ。頼む」
「「分かりました!」」
力強い頷きだ。
これなら安心できる。
シャルルと箒が少し離れて黒いISを睨むようにしながら構える。
それに合わせて、俺も奴に槍を向ける。
『ご主人様!なんかマジでヤバいですよ!これ!』
「言われなくても分かってるよ。真白」
久し振りの真白ちゃん登場。
こんな時は誰であっても有り難い。
『コア・ネットワークで繋がっているから分かるんです!あのラウラって子も、レーゲンちゃんもすっごく苦しんでます!早く助けてあげなきゃ!』
「それを今からするんだよ。……サポート頼んだぞ……真白」
『合点承知の助!二人で力を合わせて、あの子達を救出しましょう!』
こっちが攻撃態勢に入ったのを見ると、向こうも雪片を再び構えた。
「もうそっちの剣は完全に読んでるんだよ……だから!」
今度はこっちからブーストを掛けて突撃!!
ラウラとの試合では思ったよりもSEを消費しなかったから、気兼ねなく攻撃出来る!
『クロ君!!要救助者は腹部にいるよ!!』
「了解!!」
接敵する直前に束からラウラの居場所を教えられる。
それさえ分かってしまえば!!
俺が奴の懐に一直線に飛ぶと、唐竹割りで俺の頭を堂々と狙ってきた。
そんな見え見えの攻撃に当たると本気で思っているのか!
「ふざけているのか?」
黒い刃はブースターランス側面の装甲に阻まれて、俺に体には触れもしなかった。
ギギギ……と力づくでこちらを押そうとしているが、生憎とパワーは俺の方が上なんだよ。
俺が黒い体躯の腹に手を伸ばそうとしたら、ISの内部から見覚えのある白く綺麗な腕が出て来た。
同時に、ラウラの顔も少しだけ外に露出した。
「お……にい……ちゃ……」
「くっ……!」
涙を流しながら助けを求めているラウラを見て、俺は左手を手刀の形に変えて黒いISの腹に突き刺した!
そのまま、彼女の腰を持って外へと引きずり出す!!
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
黒い液体を撒き散らしながら、何故か全裸の状態でラウラが出た。
色々と言いたい事はあるが、今はそれどころじゃ無い為、敢えて何も言わない事にした。
「もう大丈夫だ」
「あぁ………」
左腕だけでラウラの体を抱えて、急いで後方に下がる。
「二人とも!」
箒とシャルルを呼び寄せて、ラウラを預ける。
「ラウラを頼む」
「それはいいですが、畔章さんは…?」
「まだやる事が残っている」
「え?」
ラウラを失った事で形状を維持出来なくなったのか、黒いISは溶けながらもこちらに……ラウラを求めるように腕を伸ばしている。
「なんて厄介な…!」
「シャルル達はラウラを早くピットに運んでくれ。全ての始末は俺がつける」
「……御武運を」
「……お早い御帰りを」
抱えているラウラを刺激しないように、ゆっくりとピットに向かって行った二人。
その行く手を阻むように俺が立ち塞がる。
『ご主人様。もう遠慮はいりません!思いっきりぶちかましてください!それでレーゲンちゃんも救われます!』
「なら……お言葉に甘えて……!」
腰を低くして、瞬時加速を使う構えになる。
『今こそ!私とご主人様のシンクロ率が高まった成果を見せる時!行きますよ!!』
真白が叫ぶと、いきなりブースターランスが光りだし、その穂先が真ん中から割れてエネルギーの槍が出現した。
同時に、ランスのボディの各部も展開し、そこから追加のブースターが現れる。
【操縦者とISのシンクロ率が一定値を超過。
眼前に出て来た表示……単一使用能力だって?
「この輝きは……まさか……!」
見間違えるわけがない……!
これは、千冬の愛機『暮桜』の能力『零落白夜』と同じ輝きだ!!
『白式、及びブースターランスの全リミッター強制解除!さぁ、ご主人様!やっちゃってください!!』
「……あぁっ!!」
今ならば……きっと出来る!
俺がずっと練習してきた『奥義』が!
精神を極限まで集中させてから、静かに宙に浮く。
足が着くか着かないかぐらいの高さで停止し、そこから……
「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
全てのブースターを最大出力で稼働させてからの急加速突撃!!
ランス全体に青白いエネルギーが纏われて、俺と白式が一本の槍と化したかのようだ。
主を失った状態での鈍重な動きで回避出来る筈も無く、槍は当然のように黒いISの腹に命中し、そのまま地面に叩きつけて、地表を抉りながら突き進む!
岩盤を次々と生み出しながら進んでいき、途中でブースターの向きを変えて、今度は上空に向かっていった。
「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
アリーナの真上を覆っているシールドバリアーにぶつかって突撃が止まるが、そんな事はお構いなしに更に出力を上げる。
「全てを……貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
こちらのパワーに耐えられなくなったバリアーは、まるでガラス細工のように砕け散った。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
雲を突き破り、空気を切り裂きながら空へと上がっていく。
ダメージを受けながら黒いISは辺り一面に己の黒い体液(?)を飛び散らす。
アリーナが小さくなった所で、一瞬だけ奴から離れる。
今度は真下に向かって槍を刺して、重力加速度と白式とブースターランスのパワーで、さっき以上の速度で落下していく。
あっという間に数秒前までいた地面が目視出来る距離まで戻ってきた。
ここで更に出力を上げて一気に決める!!
「これで……トドメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
アリーナの地面に超絶的な衝撃で激突し、地面全体から数多くの岩盤が隆起して、ISを地の下に叩き込んだ!!
最後に分かりやすく大きな爆発が起きて、黒いISは跡形も無く爆裂四散した。
後に残ったのは、シュヴァルツェア・レーゲンの無傷な状態のコアだけだった。
『名付けて……秘奥義!【インフィニティ・スラスト】!!』
勝手に名付けるな。
地面に転がっているコアをそっと拾い上げると、少し眩暈がしてふらついてしまった。
「おっと……」
思わずその場に膝をついてしまった。
その途端に白式が強制解除された。
『すみません~…。インフィニティ・スラストを使ったせいで、一気にエネルギーが空になっちゃいましたぁ~…』
「気にするな。お前はよくやってくれた……ありがとう。今はゆっくりと休んでくれ。後でちゃんと補給はするから」
『ご迷惑お掛けします~…。では、お言葉に甘えて……しゅぴ~…』
寝るの早っ!?
「ま……いいか。俺もかなり疲れたし……な……」
地面にゴロンと寝転がると、最後の一撃で周囲がクレーターになっているのが分かった。
どれだけ凄い威力なんだよ……。
「これで終わり……か」
なんか眠くなってきた……。
10分……いや、5分ぐらいなら仮眠しても大丈夫だよな?
目を瞑る瞬間、聞き覚えのない女の子の声が聞こえた気がした。
『私を助けてくれて…ありがとう…。私の主のお兄さん……』
お…終わった……。
畔章が放った攻撃は、クロア・バーテルの『必殺技』です。
ちゃんと表現出来たかな…?
あと、畔章は普通に寝ただけです。
別にシリアス要素はありません。
最後に聞こえた声は、ラウラとは別に救出したもう一人の『女の子』の声です。
名前は劇中で真白が何回か言ってますね。