詳しくは後書きにて。
ドイツの山奥に密かに存在する軍や政府の要人達も存在を把握していない違法研究施設。
ここでは日々、非人道的な人体実験の類が
言葉の通り、今では完全に過去形になってしまっている。
何故ならば……
「全く……。実に腹立たしく、そして嘆かわしい…。未来ある少年少女を拉致監禁し、あまつさえ自分達の欲望の捌け口にしていたとは……!」
「う……ぐぐぐ……!」
血を流しながら無様な格好で床に這いつくばっている主任研究員を冷徹な目で一瞥しているのは、頼奈の実父であり、同時に原瀬財団の総帥でもある『原瀬
肩まで伸びた白髪に、同じように白く染まった髭は、一見すると頑固親父のように思えるが、実際は政治の才覚に恵まれて、数多くの見事なアイデアで幾度となく訪れた財閥の危機を見事に切り抜けた実績がある。
更に彼はハーバード大学において『エーテル波動分子化学専攻』の教授も兼任している。
様々な面で非常に優秀な人物である彼だが、家族を大切にする好々爺な一面も持つ。
頼奈の無二の大親友である畔章の事も、実の息子のように思っているし、彼が現在交際中である千冬との結婚の暁には、自分が仲人をしようと本気で考えていたりする。
そんな彼ではあるが、何も総帥の椅子に座って踏ん反り返っているだけではない。
頼奈と同じように、世界中のあらゆる場所を訪れて、こうして仕事人のような事をしている。
「しかも、世界中で開発、研究が禁止されているVTシステムをISに組み込むなど、人間のする事ではない!!」
「か…科学の発展には犠牲はつきものだ…!」
「まだ言うか!!」
「ぐぁっ!!」
隷亜人の直属の部下に取り押さえられ、身動きが出来なくなる研究員。
「それに……あいつ等は孤児……どこでどんな風に死のうと、誰も歯牙にもかけない…!ククク……」
「………連れていけ。戻ってからは……」
「はい。あらゆる拷問をして全ての情報を吐かせます」
「遠慮はするな。そいつらは人間の皮を被った悪魔だ。全てを白状した後は全ての戸籍などを完全抹消し、『例の施設』に叩き込め」
「了解しました。ほら立て!!」
「こちとら足に銃弾受けてるんだぞ…!」
「うるさい!!」
部隊員に研究員が殴られた。
普通なら理不尽と思われるかもしれないが、実際にはこいつ等の方がこの何百倍のも非道な事をしているのだ。
寧ろ、この場で皆殺しにされない事を感謝すべきなのだ。
「幾ら弁護の余地が全く無い極悪人だからと言って、『あそこ』送りにされるなんてな」
「流石の俺も同情するぜ」
「ど…どういう事だ……?」
「『あそこ』に収監された連中は、一人の例外も無く廃人になったり発狂したりしてるからな」
「自殺は許されない。脱獄なんて絶対に不可能。例え死にそうになっても強制的に延命処置が施されて、未来永劫絶望に苦しみ続ける。貴様等がこれから行くのは、正真正銘のこの世の地獄だ。そこで己がどれだけの罪を犯したのか考えるんだな」
「じょ…冗談じゃない!!離せ!!離してくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
連行される研究員の断末魔を後ろに聞きながら、隷亜人は研究所を鋭い目で睨み付けていた。
「この場所はこの世に存在してはならない物だ。完全に消滅させなくては……」
全てのデータを抽出した後に、隷亜人と部下達はその場から立ち去った。
それから数時間後、研究施設から非常に大きな爆発が起こり、そこにラウラの所属している『シュヴァルツェ・ハーゼ隊』が駆け付けたが、そこにあったのは跡形も無く消し飛んだ何かの施設跡だけだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
私は……どうなった?
生きているのか?それとも……死んだのか?
『死んでるわけないだろ。もし死にそうになっても、俺が絶対に生き返らせてやる』
お兄ちゃん……。
『お前が無事で本当に良かった。でもこれは、俺だけの力じゃ無理だったな』
え……?
『俺の『相棒』が強力してくれたし、ラウラが捕らわれていた時はずっと『彼女』が守ってくれていたんだぞ?』
彼女……?
『我が主……』
黒い服に私と同じような銀色の髪……。
彼女はまさか……。
『お前の『パートナー』はいい奴だな。文字通り、体を張ってラウラをシステムに侵食されないように守護していたんだから』
私を……彼女が……?
『そうだ。後でちゃんとお礼を言っておけよ?』
はい……。
『ん。よろしい』
頭を撫でられた……。
それだけの事なのに、凄く心がドキドキする……。
お兄ちゃん……。
『なんだ?』
貴方はどうして、そんなにも強いのですか……?
『いや、俺なんてまだまだだろ』
そんな事は無い!少なくとも、お兄ちゃんは私が知っている人間では最強クラスの実力を持っている!
『過分な褒め言葉。サンキューな』
過分じゃないんだがな……。
『ラウラが俺が強いって感じたのなら、それはきっと……』
きっと…?
『守りたいと思う人達が出来たから……だろうな』
それは教官の事……。
『少し前まではな。でも、今はもっと多くなった』
多くなった…?
『俺の事を『好き』だと言ってくれた女の子達。あの子達の笑顔を守りたいんだ』
笑顔を……守る……?
『勿論、その中にはラウラも含まれてるんだからな?』
私も?
『妹の笑顔を守るのは、兄として当然だろ?』
お兄ちゃん……!
『だから、これからも何か困った事があったら遠慮無く俺に言え。喜んで力になってやる』
この人はどこまで……。
あぁ……やっぱりそうだ……。
私は彼を……お兄ちゃんを……馬渡畔章と言う人の事を……。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「う……うぅ……?」
「目が覚めたか」
瞼越しに人工の光が差し込んできた。
その眩しさに目を手で覆いながら、ゆっくりと声の主の方を向いた。
「教官……?」
「私の事は先生と……まぁいいか。今日ぐらいは」
珍しく千冬が許した。
明日は雪かもしれない。
「私は……一体……?」
「今、お前の全身には急激な負荷が掛かった事による筋肉疲労と打撲跡がある。暫くすれば治癒するとの診断結果たが、それまでは碌に動けないだろう」
「そう……ですか……」
少しだけ体勢を変えて視線が天井を見る。
その時、ラウラは自分の顔に普段から装着している眼帯が外されている事に気が付いた。
隠されていた目は金色に光り輝き、窓から差し込む夕日によって煌めいていた。
「私の身に何が起きたのですか……?」
「一応……これは重要案件で最重要機密なんだがな……。お前は今回の被害者だ。知る権利はあるだろうな」
少しだけ目を瞑った後、静かに千冬は語りだした。
「お前は……VTシステムは知っているか?」
「一応は…。正式な名称は『ヴァルキリー・トレース・システム』。過去にモンド・グロッソにおいて受賞した選手の動きを
「私のセリフも取られてしまったな。兎に角、そのVTシステムがお前の専用機に搭載されていた。恐ろしく巧妙に隠蔽されていたがな。束の解析によれば、
「らしい…とは?」
「実はな、それとは別に、外部からシステムを強制発動できるようにもなっていたようでな。今のお前が『力』を渇望するとは考えられないから、今回のシステムの発動は外からの介入が直接的な原因ではないかと言うのが束の見解になっている」
「そう……ですか……」
自分は利用された。
その犯人が誰かは知らないが、その事実だけは変わらない。
その事がラウラの心を暗く沈めていた。
その様子を見て、溜息を吐いてから千冬は優しく語りかけた。
「畔章に感謝しろよ?教師部隊が動けない中、アイツが機体のリミッターを外してまでお前の事を全力で助けたんだからな」
「お兄ちゃんが私を……」
ラウラの脳裏にある記憶が呼び起された。
「なんとなくですが……覚えています。お兄ちゃんが私の伸ばした手に応えて、私の事を暗闇から引っ張り出してくれて……」
あの時の温もりはしっかりと覚えている。
否、忘れる筈がない。
「ふふ……。あの時の畔章は本当に凄かったぞ?お前を無事に救出した後もISは暴走していてな、それを食い止めるためにアイツは自分の『奥義』を使ったんだ」
「奥義……!」
唯でさえ戦士として最強に近い実力を誇る畔章の奥義。
それだけで、どれだけ凄いのかが容易に想像出来た。
「もう……畔章の実力は私すらも上回ったのかもしれんな……」
言葉とは裏腹に、とても嬉しそうに微笑む千冬。
これが正妻の余裕なのか。
「ラウラ」
「は…はい」
「お前も畔章に惚れているんだろう?」
「あ……は…い……」
俯き加減に照れて答えるその姿に、最早軍人としての面影は一切無く、一人の恋する少女がそこにいた。
「それさえ聞ければ、私からは特に言う事は何もない。ゆっくりと養生しろ」
「わ…分かりました」
「お前は畔章に命を救われた。不器用なお前の事だ。きっと、その感謝の気持ちは言葉だけでは伝えきれないだろう。だから……」
ベッドのシーツの上に一枚の紙を置いてから、音も無く千冬は立ち上がった。
「動けるようになったら、それに必要事項を記入して、私か山田先生の元まで持ってこい。書き方は篠ノ之やオルコットを初めとした連中が教えてくれる筈だ」
「はぁ……」
「きっと、どうすれば畔章に自分の気持ちを伝えられるか、あいつ等ならそれも教えてくれるだろう」
そのままドアの所まで行って、少しだけ開けてから去り際にもう一度だけ振り向いた。
「ではな。少しでも早く治す為にも、大人しくしていろよ」
千冬が去ってから、ラウラは彼女が置いていった紙を拾い上げて、よ~く見てみた。
「これは……入部届?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「にしても、今回のは度胆抜かれたわね……」
「まさか、あのように面妖な事が実際にあるとはな……」
夕食時の学食にて、いつもの畔章ハーレムの少女達(大人以外)が勢揃いしていた。
「いやいや。驚いたのはこっちの方だっつーの」
「そうっスよ~。こっちは普通に試合をしていたのに、急に中止になったんすよ?」
「でも、ラウラちゃんが無事でよかったわよ。彼女は今どうしてるの?」
「織斑先生が保健室に運んで、様子を見ていますわ」
他の会場にいた為、楯無やダリルを初めとした上級生達は、現場を殆ど見ていないのだ。
生徒会長である楯無は可能な限り急いで現場に向かったのだが、その際も生徒や来賓の避難誘導をしていた為に、畔章の戦いの殆どを見ていない。
「ラウラのISの変貌にも驚いたけど、それ以上にお兄ちゃんが凄かった…」
「うん!くろりんの『必殺技』……カッコよかったよね~♡」
「一体いつの間に、あれ程の技を身に付けたのか……」
「私達が見ていない所で密かにもう特訓をしていたのかもしれませんね」
「本当なら畔章さんの勇姿だけでもカメラに収めたかったけど、そんな暇無かったしな~…」
「って言うか、仮に撮影に成功しても、100%の確率で没収されるから」
「デスヨネ~」
当然の事だが、今回の事は学園側から箝口令が敷かれる。
薫子が写真を撮っていたら、間違いなく千冬辺りに取られていただろう。
「そういや、トーナメントはもうしないのか?」
「いえ。今後の個人データの指標と関係するから、全ての一回戦だけは行うみたいよ。場所と日時の変更は後で学園側から発表される予定みたい」
「多分、それだけじゃないわね。何もせずに中止で終わったら、生徒達のフラストレーションも溜まるだろうし」
「それを少しでも発散させる為に……ですわね」
何気に鋭い代表候補生達であった。
「はぁ~……」
カップに入ったコーンスープを少しずつ飲みながら、溜息を零すクロエ。
いつもは飄々としている彼女にしては珍しい姿だった。
「どうしたの?クロエ」
「あ……いいえ。ただ……畔章さんには感謝しかないな…と改めて思いまして……」
「感謝……か」
「はい。あの人は暗闇にいた私の事を救い上げてくれただけでなく、ラウラの事も救ってくれた。いつかまた、今回の事も恩返しをしたいですね……」
「それって勿論、体を使って?」
「当然です!私も気持ちよくて畔章さんも気持ちいい!これこそウィンウィンな関係と言うものです!」
「それ……使い方間違ってねぇか?」
アメリカ人のダリルに日本語を指摘されるドイツ出身のクロエ。
なんとも奇妙な光景だった。
「で?その畔章さんはどうしたんスか?」
「畔章さんなら先程、大浴場に向かわれましたよ?」
「山田先生」
少女達の会話に真耶が合流。
その手にはいくつかの書類が握られていた。
「大浴場に?」
「えぇ。今日は大浴場のボイラー点検の日で、最初から使用が出来ないんですけど、今回の事件の最大の功労者である畔章さんを労うと言う意味も込めて、学園側が今回だけ特別に彼の貸し切りのような状態にしたんです」
「成る程…。言われてみればそうね。今日の畔章さんはいつも以上に頑張ってたし」
「偶には大きな浴場で広々と寛いで貰うのもいいですわね」
その時ふと、全員がある事に気が付いた。
「あれ?そう言えばシャルルさんがいませんね?」
「どこに行ったんだ?」
全員が訝しんでいる時、その近くを他の生徒達が話をしながら通り過ぎていった。
「ねぇ。さっきデュノア君がウキウキしながら大浴場の方に歩いて行ってなかった?」
「なんかおかしいよね?大浴場は女子しか使えない筈だし、それ以前に今日は使えないよ?」
それを聞いて、即座にシャルルの考えが理解出来た少女達。
「あぁ~……」
「目敏いですわね……」
「いや、抜け目がないって言うべきだと思う」
「今回は完全にあの人の勝利ですね……」
「仕方が無いから、今日はあの子に譲ってあげましょ」
楯無の言葉に頷いて、少しだけ遠い目になった面々だった。
もう次回予告します!
次回、遂に!遂に!シャルロットの処女喪失!
マジでお待たせしました!