※この作品はR-18です。

青年騎士と麗しの乙女達   作:とんこつラーメン

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今回は久し振りのバトル回。

勿論、相手は彼女達です。







第62話 紅と白

 箒の叫びが大海原に木霊し、同時に俺達も呆然となった。

 まさか、IS学園が態々、箒の専用機の試運転の相手をさせる為だけにアメリカから超がつくほどの有名人を連れてくるとは誰も思わなかったから。

 

「ほ…本気で言ってるんですか?アメリカ代表のイーリス・コーリングと言えば、剣道一直線な私でさえも知っている程の有名人ですよ!?そんな人物を私の機体の為だけに呼ぶだなんて……」

「普通はそう思うよなぁ~……。でも」

「これは一応、IS学園からの正式な依頼でもあるのよね。表向きは臨海学校での生徒達との交流と指導なんだけど」

「ははは……」

 

 箒……顔が完全に引きつってるぞ。

 俺達も似たような表情になってるけど。

 

「なんて事を言ってる間にパーソナライズが終わったね」

「うぐ……!まだ心の準備が……」

「ほれほれ!ここまで来たら覚悟決めろって!実戦じゃ相手は待ってはくれないぞ?」

「そ…それはそうですが……」

 

 あぁ~…なんて痛々しい……。

 俺も同じ立場だったら、きっと胃が痛くなってるだろうな……。

 こればっかりはご愁傷様としか言えない。

 

「見れば分かると思うけど、現在の主武装は腰に装備してある二振りの刀ね」

「は…はい。ちゃんとこちらにも表示されました。えっと……右の刀が『雨月』で左のが『空裂』ですね」

「そうそう。ここで説明をしてもいいけど、箒ちゃんの場合は『百聞は一見に如かず』の方がいいと思うから、まずは使ってみてよ。武装特性のデータは使用時に紅椿に表示される筈だから」

「りょ…了解です」

 

 うぁ~……ガッチガチやないですか~…。

 

「緊張してるわね。無理も無いわ」

「アタシも専用機を初めて受領した時は似たようなもんだったしな。けど、あれじゃ少し不憫だな……」

「そうね……」

 

 ん……んん?なんでナターシャさんはこっちを見る?

 

「うふ…♡そうだわ。いい事思いついちゃった♡」

「へ…?」

 

 なんか……猛烈に嫌な予感が……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

「本当にすいません……。私の事情に巻き込んでしまって……」

「ははは……気にしてないって。俺がいて箒の緊張が少しでも解れるなら、幾らでも一緒にいてやるよ」

「あ…ありがとうございます……♡」

「こら~!そこ、イチャついてんじゃね~ぞ!」

「「す…すみません!」」

 

 皆がいるビーチから遥か上空。

 俺と箒はそこにISを纏った状態で待機していた。

 そして、その前方には同じように自分達のISを装備したナターシャさんとイーリスさんが待機している。

 

「確か彼、千冬と付き合ってるんじゃなかったっけ?」

「大方、あそこでハーレムでも築いてんじゃねーのか?」

 

 す…鋭い……。

 

 なんで俺が箒と即席タッグを組んでいるのかと言うと、それは先程のナターシャさんの発言が原因だった。

 緊張している箒を見るに見かねた彼女が、どうせならタッグでの模擬戦形式で試運転をしようと言い出したのだ。

 で、その相棒に選ばれたのが俺って訳。

 その事に関しては別に構わないが、それでも驚いたのは事実。

 予め知っていれば準備運動ぐらいはしたんだが。

 

「あれが二人の専用機か……」

「どちらも強そうですね……」

 

 ナターシャさんの専用機は『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』通称『福音』と呼ばれ、特殊射撃戦重視のオールレンジタイプ。

 セシリアのブルー・ティアーズの最上位互換機と考えればいいか。

 その名の通り、全身が白銀の装甲に包まれて、天使を彷彿とさせる機械の翼が最大の特徴。

 送られてくるデータによれば、あれは全周囲に放射する光学射撃兵装であると同時に、高機動スラスターも兼ねている。

 高い機動力に加えて高火力の射撃兵装……。

 それを聞いただけで厄介な相手だと分かる。

 

 そんでもって、イーリスさんの専用機はタイガーストライプの迷彩が施された近距離格闘戦型の『ファング・クエイク』。

 かなりごつい機体ではあるが、よく見ると機体各部に装備換装用のハードポイントが見えるし、スラスターも通常のISよりも多く設置してあるようだ。

 下手に仕掛けるのは明らかに危険だが、俺の白式も箒の紅椿も近接戦の機体。

 相手にダメージを与える為には否が応でも接近する必要がある。

 これは、多少のダメージは必要経費として割り切るべきか……。

 

「そいつがお前さんの専用機か?」

「はい。白式……俺の大事な相棒です」

「みたいね。よく整備されているし、その巨大な槍が実に厄介そうだわ」

 

 この模擬戦の最大の肝は、いかにナターシャさんの弾幕を潜り抜け、尚且つイーリスさんの格闘を避けつつ俺の最大の攻撃である『女神の閃光』を当てられるかだな。

 インパクトの瞬間にだけ発動させればSEの消費は最小限に抑えられるけど、そう上手くいくかどうか……。

 

「箒は余り無理はするな。今はとにかく、機体を馴らして自分のものにする事だけを考えるんだ」

「はい!」

 

 少し酷な言い方だが、今回はあまり箒には期待しない方がいい。

 この試合は実質上、2体1みたいなものと考えよう。

 

『双方、用意はいいか?』

「おう!」

「ええ」

「「はい!」」

 

 俺達のずっと下にいる千冬がオープンチャンネルで俺達に話しかけてくる。

 今回の模擬戦は彼女が審判をする事になったのだ。

 

『では……試合開始!』

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

「オラオラァッ!」

「いくわよ!」

 

 開始早々、ナターシャさんの福音から放たれる夥しい程の羽の形状をした光弾が放たれ、同時にイーリスさんがブーストを掛けて接近してきた!

 

「いきなりかよ!」

「こんな時は……これだ!」

 

 箒?いきなり左の刀を持って前に出た!?

 

「迂闊だ!戻れ!」

「私がレーザーを相殺します!畔章さんは近づいてくる彼女を!」

 

 一体何を……?

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 箒が裂帛の気合と共に『空裂』を振るうと、その範囲に帯状のエネルギーが放射された!

 

「なっ!?」

「おいおいっ!?」

 

 それは迫りくる光弾の殆どを破壊し、こっちの被害は皆無に等しかった。

 

「斬撃がそのままレーザーになるなんてね……。凄い武器を作ってくれるじゃない!博士も!」

 

 それには全くもって同感ですよ!

 

「こっちも負けてらんねーなぁ!どりゃぁっ!!」

「くっ!」

 

 イーリスさんが、その鋼鉄の拳で殴りかかってきた!

 体を捻って、その一撃を間一髪で回避するが、その流れでセカンドアタックであるサマーソルトキックを放ってきた!

 

「うぉっ!?」

「ちっ!」

 

 足の攻撃である事は見えていたから回避は出来たけど、リアルなサマーソルトは始めて見た…!

 

 一旦離れて箒と合流し、少しだけ乱れた呼吸を整える。

 

「その動き……軍隊式格闘術(マーシャル・アーツ)ですね?」

「ほぅ?たったあれだけで分かっちまうか」

「訳あって、昔に少しだけ齧った経験がありましてね…」

「成る程。前にお前さんの試合映像を見せて貰った事があったけど、同じように考えない方がいいみたいだな」

「見られてたんだ……」

 

 これまた不利になる情報あざーす。

 

「箒。さっきのって、もう一本の刀でも可能なのか?」

「そのようです。『雨月』は打突の動きに合わせて刀身部分からエネルギーの刃を放出し、連続して敵を攻撃する武器のようです」

「射程は?」

「精々、アサルトライフル程度かと」

「少し心許ないが、紅椿の機動力と合わせればあるいは……」

 

 箒にして貰う事が決まったな。

 

「箒はその二振りの刀で後方援護を。もしも接近を許してしまったら距離を離す事を優先しろ。相手の方が身体能力も経験も圧倒的に上だからな」

「了解です」

「それと、イーリスさんがマーシャル・アーツの使い手なら、同じようにナターシャさんも使える可能性が非常に高い。福音が射撃戦重視だからと言って、決して油断するなよ」

「はい!」

 

 背中合わせに話していると、腰に手を当てたイーリスさんが笑いながらこっちを見ていた。

 

「作戦会議は終わったか~?」

「一応ね。では……」

 

 箒と視線を合わせて、コクンと頷く。

 

「今度はこっちからいきますよ!!」

 

 ランス内に設置してある機関砲を連射しながら、ブースト全開で突撃する!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

「拮抗してるわね……」

 

 戦っている四人を見上げながら、鈴がそっと呟く。

 

「あの畔章さんが苦戦を強いられるなんて……」

「軍用のISは伊達ではない…と言う事だ。ちゃんと競技用のリミッターは施されているが、それでも脅威であるのは違いない」

「なにより、箒をカバーしながら…だからね」

「今のところ、箒は後方援護に徹して、己の役割を必死にこなそうとしているけど……」

「そこを狙わないお二人ではないでしょうね……」

「くろりん……しののん……」

 

 畔章を好いている少女達が不安そうにしながら上空を見ている。

 だが、少女達とは違って大人達はいつも通りの表情で試合を見届けていた。

 

「ちょっと荒療治だったかな……」

「いや、今の篠ノ之にはあれぐらいが丁度いいだろう。確かに荒療治ではあるが、遥かに格上の相手と戦う事はあいつにとっても確実にいい効果を生み出す筈だ」

「畔章さんもいますから、大丈夫だとは思いますけど……」

 

 光と爆発が何度も炸裂し、金属音が響き渡る。

 今のところ、双方に致命的な損害は無いが、少しでも均衡が崩れれば、その途端に勝負は決する事が大人達には分かっていた。

 

「お前ならばきっとやれる。だから、最後まで絶対に諦めるなよ、畔章……!」

 

 愛する男の勝利を信じる。

 今の千冬に出来る唯一の事だった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

「そぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 ガキンッ!!と畔章のランスとイーリスの拳がぶつかり火花を散らす。

 

「思ったよりも結構なパワーじゃねぇか…!そのブースターの恩恵か?」

「まぁ……な!」

 

 通常ならば力負けして吹き飛ばされるであろう勝負は、ブースターを噴かすことでなんとか拮抗していた。

 

「この距離ならばこれでも少しは!」

「ちっ…!」

 

 殆どゼロ距離に近い場所からの機関砲を発射する。

 すぐに察したイーリスはその場から離脱し損傷を最小限に留める。

 

「小手先の策じゃ駄目か……」

「たりめーだ。アタシを誰だと思ってんだ?」

「ですよね」

 

 少しだけ笑いあってから、再びランスと拳がぶつかり合う。

 実はこの二人、近接戦の単純な実力ならばほぼ互角だったりする。全く自覚はしてないが。

 故に、ほんのちょっとした事で勝敗は決してしまう。

  

 その『ほんのちょっとした事』がもうすぐ起こるのだが。

 

「油断してたら足元掬われるわよ!」

「なっ!?」

 

 ナターシャが福音の十八番である高機動マニューバーで箒の斬撃を潜り抜けて、一気に彼女の懐まで潜り込んだ。

 

「り…離脱……!」

「させると思って?」

 

 一瞬で箒に接近し、その腹部に渾身の掌底の一撃を打ち込む!

 

「ぐはぁっ!?」

 

 箒はその衝撃で吹っ飛び、そのまま畔章とイーリスが戦闘している場所まで向かっていく。

 

「く…畔章さん!!」

「箒!?」

 

 畔章の背後から迫ってくる箒を見てニヤリと笑うイーリス。

 だが、それを見て畔章は瞬時に体を横に動かした。

 

「はぁっ!?」

「うそぉっ!?」

 

 なんと、畔章は吹き飛んできた箒の腕を左腕で掴み、その勢いを殺さずに回転をしてからナターシャの方に投げ返したのだ。

 

「箒!行けっ!!」

「はぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「ったく!」

 

 勿論、そんな直線的な動きで軍人であるナターシャに通用する訳も無く、呆気なく上方に避けられてしまうのだが、それで終わるような箒ではなかった。

 

「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「はっ!?」

 

 体を必死に動かして、ナターシャが逃げた方に向かって雨月と空裂を全力で振る!

 二つの刀身から二種類のレーザーが放射され、白銀の機械天使を襲う。

 

「そんな簡単に!!」

 

 ナターシャは空を舞うように回避運動を行うが、その何発から貰ってしまった。

 

「ナタル!!」

「イーリ!?」

 

 いきなり自分の相棒が瞬時加速でやって来て盾になるよう両腕で自分の体を覆うと、そこに白い閃光が通り過ぎ、凄まじい衝撃が走る。

 

「直撃できなかったか…!」

 

 白い閃光の正体は畔章だった。

 彼は箒を投擲した直後に自分自身も瞬時加速を用いて突撃を行ったのだ。

 その際、イーリスがナターシャの援護防御に入る事を想定して。

 畔章は己の一閃で二人同時にダメージを与えようと試みたのだ。

 そのダメージはイーリスの咄嗟の防御によって最小限に抑えられたが。

 

「面白い事を考えるじゃない……!でもね!」

「アタシ等をあまり舐めんなよ!!」

 

 福音の翼に光が収束する。

 次第に光は増大していき、それは一気に解き放たれた。

 

「ほ…箒!!」

「残念!行かせねぇよ!」

 

 箒に向かって高密度のレーザーが接近し、それをなんとかしようと畔章がもがくが、その進路をイーリスが防ぐ。

 

「私だって!!」

 

 紅椿のブースターを全開にし回避運動を試みるが、そのレーザーの余波だけでかなりのダメージを負ってしまう。

 

「ぐぁっ!?」

「まだまだいくわよ!」

 

 追撃と言わんばかりに広範囲の光学射撃兵器『銀の鐘(シルバー・ベル)』を発射して、箒の逃げ場をなくす。

 

「く……あぁぁぁぁっ!?」

 

 次々と機体各部に直撃し、見る見るうちにSEが減少していく。

 

「このままでは……だがっ!!」

 

 紅椿のSEが無くなる直前、箒は最後の力を振り絞って雨月と空裂を投擲した!

 

「鼬の最後っ屁ってヤツ?けど、そんなもの!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「お…お前っ!?」

 

 半ば強引にイーリスを振り払い、投げられた二振りの刀へと向かっていく。

 そして、あろうことか箒の投げた刀の持ち手を畔章が蹴ってから、ナターシャの方へ方向転換させた。

 

「ちょ…ちょっとぉっ!?」

「マジかよっ!?」

 

 投擲した箒以外の誰もが予想だにしなかった行動に、一瞬だけアメリカ組の動きが停止してしまった。

 実戦での一瞬はそれだけで命取りとなる。

 ISのパワーで急加速した一撃は凄まじい勢いで迫り、福音の装甲に突き刺さった。

 

「なぁっ!?」

 

 攻撃を受けた本人が一番信じられない顔をしていた。

 一体誰が刀を足で蹴って攻撃すると思うだろうか。

 

「私は……ここまでみたいです……」

 

 一番先に脱落したにも拘らず、満足した顔で海へと落下していく箒。

 SEが完全に無くなった紅椿は真耶と束が予め用意しておいた回収用の小舟に拾われて、そのまま量子化して解除された。

 同時に、福音の装甲に刺さった刀も量子化した。

 箒の最後の攻撃によって、思ったよりも福音はダメージを受けてしまった。

 

「ちょっと油断したわ…。これがジャパニーズヤマトナデシコなのね…」

「それは関係無いと思いますよ?」

 

 あれは単純に箒の諦めない心が行動に繋がっただけであって、日本人の女子が全てああではない。

 彼女がアメリカに間違った日本の知識を持ちかえらない事を祈るばかりである。

 

「ま…まぁ、これで本当に2対1になったな?どうする?」

「言っときますけど、降参(サレンダー)はしませんよ」

「だよな!そうこなくっちゃ!」

 

 とは言え、畔章が追い詰められたのは事実。

 このままでは手数の多さで封殺されるのは必至。

 

「もう……出し惜しみをしてはいられないか……」

 

 畔章が腰を低くしてランスを構える。

 すると、ブースターランスの各部装甲が展開し複数のブースターが現れて、同時にランスの穂先が割れてから光の刃が顕現した。

 

「おいおい……今になって切り札を投入かよ?ちょっと遅くないか?それとも、相棒が倒されるまでは手加減をしてたってか?」

「そんな訳ないでしょう。これはまだ不安定で、ちゃんと御しきれる自信が無かったんですよ。けど、そんな事を言ってる暇は無くなったみたいですから」

 

 ボボボボボ……とブースターが火を吹く。

 

「ここからはもう……後先考えずにいきますよ」

「「上等!」」

 

 全身に力を込めると、一筋の光を残して……畔章の姿が消えた。

 

「き…消えt……なぁぁっ!?」

「イーリっ!?」

 

 いきなりイーリスが吹き飛ぶ。

 その彼方には未だに加速中の畔章が一瞬だけ視認出来た。

 

「大丈夫?」

「な…なんとかな……ってっ!?」

 

 イーリは己の目を疑った。

 なんせ、先程の一撃でファング・クエイクのSEの3分の1を削られたから。

 

「あいつめ……やってくれるじゃねぇか!!」

「ちょ……イーリ!?」

 

 ペロリと舌なめずりをして、彼女は自分のジョーカーでもある『個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)』を使って畔章を追従する。

 本来、個別連続瞬時加速は成功確率が余り高いとは言い難いが、この時は何故か一発で成功した。

 

 二つの閃光は遥か上空で何度もぶつかり合い、衝撃が地上まで伝わってくる。

 

「全く……あの子は!」

 

 ナターシャも二人を追って全速力で向かうが、福音のスピードを持ってしても今の畔章達に追いつくのは至難の業だった。

 

「追い切れない…!こうなったら!」

 

 ナターシャは後でイーリスに文句の一つでも言われる覚悟で、射線上で未だに高速戦闘を繰り広げている二人目掛けて光弾をばら撒く。

 

「ちゃんと避けるのよ!」

「ナタルっ!?」

 

 彼女の意図が分かっていても、驚かずにはいられない。

 イーリスは仕方なく回避運動に徹するが、その隙を見逃す畔章じゃない。

 

「冗談だろ……!」

「そんな……!」

 

 今度は畔章が個別連続瞬時加速を使って、全ての光弾を回避しつつイーリスにランスチャージをお見舞いした!

 

 彼の渾身の一撃を食らい吹き飛ぶイーリス。

 その最中に少しだけ愛機のSEを確認すると、そこには驚愕の数値が表示されていた。

 

「残りSE……13……。はは……マジでスゲーな……」

 

 現役で大国アメリカの代表を務めている彼女をここまで追いつめる。

 それも、まだ半年もISに乗っていない青年が。

 普通ではまず有り得ない事だった。

 

「あのランスのブースターとIS自体のブースターの両方を使って個別連続瞬時加速をしやがったのか……」

 

 悔しいとか凄いとか、そんな感情を通り越して笑いすら込み上げてくる。

 実に不思議な感情がイーリスを支配した。

 

「これが本物の天才ってヤツか……でもな!!」

 

 カッ!と目を見開き、ファング・クエイクの唯一のデフォルトの遠距離武装である射出型ワイヤード・パイルバンカーを射出する!

 

「ここでやられちゃ!代表としてのメンツが立たないんだよ!!」

「………っ!!」

 

 迫りくるパイルバンカー目掛けて機関砲で迎撃。

 何回かの着弾の後にバンカーは射線から逸れて墜落。

 その後も機関砲を撃ち続け、イーリスに命中してSEを全て削りきった。

 

「あ~あ……やられちまったなぁ~……」

 

 笑みを浮かべながら墜落していくイーリスを、ラファールを纏った真耶がキャッチして回収した。

 

「彼女は任せてください」

「お願いするよ」

「へへ……悪いな」

 

 少し照れながらも真耶に運ばれていくイーリス。

 それを見送りながら、畔章はナターシャと対峙する。

 

「まさか……あのイーリスを下すなんてね……。貴方って何者?」

「唯の高校生ですよ」

「冗談にしても笑えないわ……ね!!」

 

 畔章の全力のランスチャージを前に、ナターシャも福音の全火力を持って迎撃する。

 

 先程のようにその『目』を使って回避を試みるが、いかんせん数が多すぎた。

 どれだけ避けようとも、必ず何発かは命中してしまう。

 白式のSEも残り僅か。

 それは福音とて同じ事。

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 畔章の一撃とナターシャの攻撃が炸裂し、その威力が一点に凝縮されていく。

 まるで、神話の世界の神々の戦いのような光景の果ての結末は……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

・

 

 

 

 

 

「くっそ~!負けたぁ~!」

「貴女はね。私は違うわ」

「うっせー!」

「ははは……」

 

 畔章とナターシャの勝負は引き分けに終わった。

 二人の最後の攻撃がそれぞれにクリティカルヒットし、白式と福音のSEがほぼ同時に無くなったのだ。

 

「まさか、この二人相手にあそこまで善戦するとはな…。私も驚いたぞ」

「途中からは無我夢中だったけどな」

「それでも凄いですよ!だって、数の上で不利な状況であるにも拘らず、アメリカ代表を破ったんですよ!」

 

 畔章と箒は寄り添うように岩場を背にして座っていて、ナターシャとイーリスも同じ様に地面に座って体を休めている。

 

「つーか、もうお兄ちゃんの実力って普通にモンドグロッソでも通用するんじゃない?」

「いやいや、まさか……」

「凰の言う通り、既に畔章の実力は世界レベルにあるかもしれんな」

「千冬まで……」

 

 照れくさそうに頬を掻きながら苦笑いを浮かべてはいるが、本人は満更でもないようだ。

 

「畔章さんの実力がまたもや凄い事に……」

「これで白式が第二形態移行とかしたら、完全に手が付けられないレベルになるんじゃ?」

「シャルロット。それはフラグ」

「フラグ?旗がどうかしたのか?」

「別に旗は関係無いですよ」

「ラウラウにはもっと色々と教えないとね~」

 

 専用機持ち達も、他の生徒達も先程の試合を見て興奮しているのか、さっきから会話が止まる気配が無い。

 そして本音よ。余計な事をラウラに教えないようにしてほしい。

 

「箒ちゃん。紅椿の使い勝手はどうだった?」

「凄いですね…。私が今まで使用していた打鉄とはまるで違いました。自分の思うように機体が動いてくれて……。でも、まだまだ精進をすべきだと身を持って実感できました。これからは少しでも早く、この紅椿を完全に使いこなせるように努力していきます」

「そう言って貰えると、私も頑張った甲斐があるよ」

 

 篠ノ之姉妹の仲もこの一件でまた一歩良好になったようだ。

 今の彼女達は昔のように会話に花が咲いていた。

 

「本当に凄かったわよね~、クロアキ君。あれでまだISに乗り始めて半年も経ってないんでしょ?」

「らしいな。最初は少しぐらい手加減をしてもいいかも……なんて思ってたけどよ、すぐにそんな余裕は無くなっちまったし」

 

 完全にアメリカ組の話題は畔章一色になっていた。

 それだけ、彼との試合は衝撃的だったのだろう。

 

「私……彼に興味が沸いてきたかも♡」

「ナ…ナタル?」

「貴女もそうでしょ?イーリ?」

「い…いや、アタシは別に……」

 

 顔を赤くしてそっぽを向くイーリス。

 それを見たナターシャが意地悪な笑みを浮かべた。

 

「もしかして……クロアキ君に惚れちゃった?」

「なっ……!?何を言ってるんだお前は!!」

「あら。意外とマジな反応」

 

 耳元でそっと呟いた一言だったが、想像以上に初心な反応を返した事から、からかった本人が逆に驚いてしまった。

 

「えっと……皆さんはここで休んでいてくださいね?お疲れのご様子ですから」

「遠慮無く、そうさせて貰うよ。もうクタクタだ」

「私もです…。今は一歩も動きたくない……」

「私達はもう少し休んだら、もう一つの仕事をさせてもらうわ」

「一応、生徒達との交流もしなきゃいけないだろうしな」

「助かる。お前達も、さっさと作業に戻れ!」

 

 パンパンッ!と手を叩きながら生徒達を指導する千冬。

 試合中とは違って、今は完全に教師モードになっている。

 

「後で白式と紅椿も整備しとかないとね。ついでだし、君達のISも整備しといてあげるよ」

「おぉ~!助かるよ!」

「感謝するわ。ありがとう」

「こちらこそ。紅椿の試運転に付き合ってくれて感謝してるよ。お蔭でいいデータが取れた」

「それはなにより」

 

 身内以外の他人を見下す傾向にあった束が自分からこんな発言をする。

 本人は気が付いていないかもしれないが、今の彼女に嘗ての面影は無かった。

 畔章の影響か、束はいい意味で己を変える事が出来たのかもしれない。

 

 その後、休憩を終えたナターシャとナタルも加えて作業は何事も無く進んでいった。

 生徒達も、普段は決して会う事の出来ない人物達と交流が出来て、実にいい経験となったようだ。

 

 余談だが、休憩時間に畔章ハーレムの面々が密かに物陰でこんな事を話していた。

 

「この流れ的に、また畔章の『愛人』が増えそうな気がするんだが……」

「私も同じ事を思った」

「ナターシャさんが畔章さんに興味があるって言ってましたし……」

「イーリスさんのあの反応。あれは間違いなく……」

「ですわね。槍と拳を交えて、そこから生まれた感情……」

「展開はまるで少年向けのバトル漫画みたいだけどね」

「そう言えば、今朝も女将さんがニコニコしながら畔章さんと話してたような……」

「ま…まさか!ここの女将すらも!?」

「十分に有り得ると思う。あのお兄ちゃんなら」

「なんか、このまま際限なく増えていきそうな予感がします……」

「まさか~…………いや、あるかも」

 

 この時の会話がまさか本当に現実になるとは、彼女達はまだ知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




思った以上に力を入れてしまいました。

今回、初めて畔章は『勝利』を逃しました。

個人戦では勝ってましたけど、総合的に見れば引き分けでしたから。

そして、戦いを通じてナターシャとイーリスのフラグが立ちました。

後は回収あるのみ!
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