吉良とシルヴィの奇妙な生活ティーチングフィーリング 作:吉良吉影に憧れる者
日差しが暖かく風が生ぬるい5月、レンガ造りの家に1人の少女─シルヴィと、1人の元サラリーマン、今中学生の少年─吉良吉影が、住んでいた。
「シルヴィ、この部屋を一人で掃除してごらん。」
「はい!ご主人様!」
一瞬見ると綺麗だがよく見れば、角にホコリがたまり、床も黒っぽい。
シルヴィは、掃除機を持つとせっせと掃除を始めた。次に濡らした雑巾を持つと床を拭く。
「次は洗濯だ。」
シルヴィは、大きく返事をすると、洗剤などを洗濯機にぶちまけた。しかし、
「よく出来たねシルヴィ。」
吉良の手がシルヴィの頭に乗せられる。シルヴィは、頭を撫でられて嬉しそうだ。
「シルヴィの飲み込みが早いおかげで、午前中に全て終わってしまったな。昼食は外で食べようか?」
その言葉にシルヴィは
「いいんですか?ありがとうございます!」
とても嬉しそうに笑う。
「…でも、もう少しだけこうしててもいいですか?」
シルヴィは、自分の頭を指差しながら、吉良に訊ねる。
「もちろんさ、もう少しだけこうしていようか。」
吉良はシルヴィの頭を撫でる手をより強く、しかし、優しく撫で続けた。
「そろそろお腹も空いたし行こうか?」
時刻は2時を過ぎていた。シルヴィは、少し残念そうにしながら自分の部屋に行き服を着替える。
シルヴィは、フリルのついた青のワンピースに、黒い髪留めをしていた。
「とても可愛いよ、シルヴィ。」
家のドアの鍵を閉めると、吉良はシルヴィの頭を少し撫でてから、歩く。
「あの…ご主人様、手を繋いでくれませんか?」
シルヴィが上目遣いで聞く。
「手?」
吉良はいい意味で遠慮のなくなったシルヴィに、聞き返す。
「あ…ごめんなさい、奴隷と手を繋ぐなんて嫌ですよね。申し訳ありません。もう、言いませんからお許しください。」
その言葉に吉良は慌てながら、
「い…いや、手ぐらい繋ぐさ。」
そう言って強引にシルヴィの手を握ると、また歩き出す。若干身長差があるためシルヴィの手と肩は少し上がる。
いつもの服屋に行くと、相変わらず不気味な笑みを浮かべた店員が、
「おやおや、デートですか?なるほどアクセサリーを買いに来たのですね。分かりました。お嬢さんこちらにいらっしゃい。」
ここからは少しガールズトークとなる。
「いいわね。いつもラブラブで。」
「い…いえ、わたしなんか。ご主人様には釣り合いませんよ。」
「ふふふ、とってもお似合いよ。だってあの方は、新しい服やアクセサリーを身につけたあなたを見るたびに、とっても素敵な笑顔を見せるのよ。」
「…そうなんですか?」
「ええ、服だけじゃなくてあなたの事もちゃんと見ているわよ。」
「でも、私はご主人様に愛される資格がありません。奴隷ですから…。」
「……。お嬢さん、あの方は1度でもあなたを奴隷扱いしたことある?ないでしょう?見ていればわかるわ。」
シルヴィは少し考える。シルヴィが、自分は奴隷だと言い聞かせるたびに、
「さぁ、大切な人に綺麗な姿を見せてあげなさい。」
そう言ってシルヴィの背中を押す。
服を着替えたシルヴィを見て吉良の目の色が変わる。
それはシルヴィも、オーレリアも、キラークイーンさえも、いや、誰も見たことの無い表情だった。
「シルヴィ…。その…なんていうか…」
シルヴィの新しい服は少し胸元の空いた真っ赤なワンピース、頭には花のかんざしのようなものがさしてある。
シンプルだが、シルヴィにとても良くあっておりひとつの絵画のようでもあった。
「いかがですか?この服。よく似合っているでしょう?」
オーレリアが笑いながらいう。
「あ…ああ、素晴らしいよ。本当に似合っているよシルヴィ。とても可愛い。」
吉良は顔を真っ赤にしながら言う。その様子をみてオーレリアは、ますます不気味な笑みを浮かべた。
「あ…ありがとうございます!ご主人様!」
シルヴィは褒められ嬉しそうに吉良の元へ駆け寄る。吉良は走ってくるシルヴィを受け止めながら、シルヴィの頭を優しく撫でる。
「フフッ。お二人さん、お会計の方お願いしますわ。」
オーレリアは羨ましそうに眺め笑いながら仕事をこなす。
「ああ、すまない。はい、丁度で。」
「はい。領収書になりますわ。」
吉良はシルヴィの手を握りながら、喫茶店に向かう。
「いらっしゃいませー?」
奇妙な店員ネフィーが、二人を出迎える。
「2名様ですねー?こちらにどうぞー?」
不規則に歩きながら席に二人を案内するネフィー。
二人は案内された席につく、吉良はメニューを開くがシルヴィは開かない。
「シルヴィ、何でも遠慮せずに、食べていいんだよ?」
吉良はシルヴィに優しく声をかける。そして、おずおずとしつつたどたどしい動きで、メニューを開くシルヴィを愛おしそうにみる。
「お決まりですかー?」
吉良が軽く手を上げるとフラフラとしつつも、素早い動きでネフィーがやってくる。
「あ…ああ、サンドウィッチセットでホットコーヒーがひとつと、パンケーキセットのアイスミルクティーがひとつ。」
「はいー。かしこまりましたー?」
前と同じものを頼む。しかし違うのは、吉良が朝ミルクを飲んでいたためコーヒーの気分だったこと、シルヴィが自分で飲んでみたいものを言ったことだ。
前者は些細な違いだが、後者は大きな進歩だ。
「ご主人様、アイスミルクティーは甘いですか?」
「ああ、甘くて美味しいよ。」
「楽しみです。」
こんな他愛もない会話でも、二人は楽しかった。
1人は、殺人鬼として(勝てるとはいえ)心のどこかで怯えや恐怖、はたまた罪悪感に押しつぶされそうな生活を15年も送っていた。
1人は、父は自分たちを捨てていなくなり、母は、自分を生んだ時に死んでしまった。そのまま奴隷となり、これまた10年以上の時を過ごしていた。
そんな二人が向かい合って笑いながら食事をする。
異質で楽しい時間であった。
「さぁ、食べ終わったし帰ろうか。」
「はい♪ご主人様!」
シルヴィは、アイスミルクティーをとても気に入りおかわりまでしたのだ。
家に帰ると、二人はソファに座りテレビを見始める。
「この音楽を聴くと日曜日が終わるのが分かるな。」
国民的有名アニメサザエさんだ。
「そうなんですか?私には曜日があまり関係ありませんでしたので、分かりません。」
吉良は少し悲しそうな顔をしたあと、シルヴィの頭を撫でる。
「そうだ、わたしが、学校に行っている間シルヴィは何をしているんだ?」
シルヴィは少し考えてから、
「ボーッとしていることが多いです。」
シルヴィは、吉良のいない間床に座り窓を眺めて、お腹が空くと吉良が作っておいたおにぎりやサンドウィッチなどの作り置きのものを食べる。食べ終えると、また窓を眺める。すると、吉良が帰ってくるのだ。
「書斎の本でも読めばいいじゃあ無いか?読んでいいんだぞ?テレビを見てもいい。節度さえ守れば何をしててもいいんだよ?ここは私の家であると同時に君の家でもあるんだからね。」
シルヴィは、ゆっくり頷く。それを見て吉良も微笑む。
「そろそろ夕食にしようか?」
「はい、ご主人様。…私も作ってみたいんですが、いいですか?」
それなりに希望を言うようになったシルヴィに、吉良は少し安堵する。吉良はシルヴィにエプロンになるようなものを着せると、料理について教える。
「シルヴィ、料理の
「料理のさしすせそ?」
料理のさしすせそとは食材を調味するのに調味料を入れる順番で、砂糖、塩、酢、せうゆ(醤油)、みその順である。砂糖は、味か染み込みにくいため最初に、味噌は味がこすぎるため最後に入れる。
「えっと…砂糖、塩、お酢…せ?せ…せ…せ?『そ』はソースですよね?せってなんだろう?」
「…いや、『そ』はソースじゃなく味噌だし、せは醤油だよ。にしても結構しっかり知っているものだな。」
吉良は料理の本を持ってきてシルヴィに教える。
「なるほど…ふむふむ。分かりました!」
元気よく腕をまくり、包丁を持つシルヴィ。
「いやいや、素人にいきなり切る作業は難しいだろう。とりあえず、野菜を洗ってもらおうかな。」
シルヴィは、包丁を置くと渋々ながら野菜を洗い始める。どうやら
そんなこんなで二人で協力して作った夕食は今までで一番見映えが悪く、一番美味しい食事となった。
「シルヴィ、テレビ見るかい?こんなのもやってるじゃあないか。」
「い…いえ、私は皿洗いがあるので…」
「あ!そうか、なら見ててあげないとな。よし、今行くから待っててくれ。」
二人はまた並んでキッチンに立つ。
「そうそう、よく出来ているね。それはそっちにこれはここでいいよ。」
シルヴィは手際がよく、吉良はほぼ何もせずに本当に
今度こそソファに二人並んでテレビを見る。吉良は時々少し大きな笑い声を出すが、シルヴィは、こらえたままだった。それを見て吉良はシルヴィに、
「なぜ、笑わないんだ。面白くないのか?」
と尋ねる。シルヴィは、嫌なものを見るような目で自分の腕を抱く。
「前のご主人様は、私が笑うと怒鳴ります。泣いても怒鳴られました。怒ったら叩かれました。叫ぶと喜びました。だから、もう私には叫ぶことしかできません。」
その言葉を聞いて吉良はある事を思いつく。
「シルヴィ、バンザイしてごらん?両手をおもいきり上に伸ばすんだ。」
頭に疑問マークを浮べながらシルヴィは、言われた通りにする。吉良はそっと手を這わせると、シルヴィの脇をくすぐる。堪らずシルヴィは、逃げ出すもキラークイーンに優しく押さえられ、声を上げてしまう。
「え…え?ご主人様!ひゃ!あは、あはひははふふひはは…まって…あ!ひひひははは!」
吉良が手を離すとシルヴィは心底疲れたように息を吐く。
「…急になんですか!」
やや怒ったように、吉良に聞くと
「今君は笑っていたし怒った。でも私は怒鳴ってもいないし叩いてもいない。それはシルヴィのことを大事に思っているからだ。だから、好きに笑うといい。私はシルヴィが笑ってくれた方が嬉しいからね。」
その言葉を聞きシルヴィの目に涙がたまる。
「…ご主人様。泣いてもいいですか?」
掠れた声で吉良に聞く。吉良は両手を広げ、
「いつか、私の隣じゃなくてもいい。他の人の前でもいい、絶対に、いつかどこかで、君が、心の底から笑えるなら、好きなだけ泣くといい。」
シルヴィは吉良に抱きつくと、
「うわぁぁん!ごしゅじんさまぁー!ああぁん!うぁぁぁぁんん。グズッググズッズッうぅん!あぁー!」
シルヴィは眠るまで泣き続けた。吉良は11時を過ぎてもシルヴィの頭を撫でていた。結局はキラークイーンが強制的に眠らせるまで、撫で続けた。娘を愛する父親のように、優しく撫で続けた…。
……To be continued
動かしきれてねぇ!次は頑張る…かも?