吉良とシルヴィの奇妙な生活ティーチングフィーリング 作:吉良吉影に憧れる者
私の一時的な、預かり所でもあるフェルムという商人と一緒に馬車に乗っていた。これから、新しいご主人様の元へ行くらしい。
(あまり痛い所じゃないといいな)
なんてことも少し考えて、すぐにそれは無いなと思った。
私は奴隷であり、人形なのだから。
とても長い時間(ホントはそうでもないのかもしれないが)馬車に揺られ、やっとついた新しい家は、前の家より小さいが立派で、気品に溢れた家だった。
商人さんと、家の人らしき人が話している。
話はまとまったようで、商人さんが、私を呼ぶ。話を聞いていると、私を引き取ってくれるようだ。
新しいご主人様の鋭い視線が、私を値踏みする。
それに耐えつつ、挨拶をする。
「改めて初めまして、シルヴィと申します。引き取って頂いてありがとうございます。」
「力仕事は出来ませんが、簡単な雑用ぐらいなら出来ると思います。前のご主人様は、私を苦しめるのが一番の使い方だと言ってました。お手柔らかにお願いします。」
意外にもスラスラと言葉が出てきた。すると、新しいご主人様は、風呂に入れという。前は、月に1回か2回、季節問わず濡らされて冷たいタオルで、体を拭かせてもらっていたぐらいだった。一瞬優しい人かと思ったが、そんな希望は振り払った。希望を持ってしまうと、絶望が大きくなる。きっと、
私は、ぼんやりと
(孕んだら殺されるのだろうな、まぁ、いいか
という
少しでも、新しいご主人様の気が変わることを望んでしっかりお風呂に入った。希望は持たないが逃げたくはなる。しかし、お風呂から上がった私を迎えてくれたのは、きちんと畳まれた衣服に、芳ばしいパンの匂いだった。
テーブルの上に乗っているパン(サンドウィッチと言うらしい。)は、柔らかそうで、美味しそうだった。どうやら、私のご飯も、居場所もないようだった。
どこに行けばお客様の邪魔にならず、ご主人様に容赦してもらえるのだろう。どこにも行けず困っていると、
「食べないのか?」
まさか私の分だとは思わなかった。
「こちらの素敵なお料理は私の分でしょうか?」
そう聞くと、更にびっくりした。本当に私のだった。そしてもう一つ分かったのは、新しいご主人様は、質問に質問で返されるのが嫌なのだろう。私のような奴隷は、人の顔色を伺うのが得意だ。早めに気づけば怒らせずに済む。
これからは、気をつけよう。
前も確かにパンではあったが、食べる場所も味も全然違った。とても美味しかった。思わず泣きそうになったがこらえることが出来た。
私が、サンドウィッチを一口かじると、新しいご主人様が、味を伺うような表情で、こちらを見た。
「このサンドウィッチは……、好きです。とても……美味しいです……。」
途切れ途切れだが、答えることが出来た。
「それはよかった。残念だが、おかわりはないんだ。すまないね。その分夕食は、もっと美味しいものを食べさせてあげよう。」
これよりも美味しいと聞いてまた希望を持ちそうになるが、投げ捨てる。
「シルヴィ、家の案内をしよう。ついておいで。」
手招きされたので言われるがままついて行った。
「今いるここがリビング。そこが、私の書斎、と言っても、古い教科書ぐらいしかないがね。」
様々な部屋を見せられたが、殆ど使ってないらしかった。さらに、その空き部屋の一つを私の部屋にしていいという。外から見たより、部屋が多く、広かった。
今度は、街に行くという。正直疲れたが、口には出さない。少しも怒らせたくはなかったからだ。
1時間ほど歩き回った帰り道、新しいご主人様が、服屋を見つけた。私の服を買ってくれると言うので、断った。当たり前だ。服を着れているだけマシだと思う。だが、何度も言われ、半ば強制的に連れていかれた。あまり断って気を悪くしてしまっては、嫌だった。ついて行くと、とても、グラマラスで、不気味な女性に声をかけられた。
「いらっしゃいませ。あらあら、今日はこちらのお嬢さんのお洋服をお探しに来たんですか。そうでしょう?そうであっってくださいな。そうに違いありませんわ。」
少し強引で新しいご主人様が少し迷惑そうな顔をしていた。しかし、不気味な店員は言葉を続ける。
「だって、とても失礼なことを言うようですけど、今のお嬢さんの格好は、服を売ってる者として、悪い意味で見過ごせませんわ。」
その言葉を聞いて、ご主人様が、小さく頷く
「ふむ、確かにそうだ。女性が着るには趣味の悪い服だったな。しかし、私は女性の服を選ぶのが苦手でね。お願いしても良いだろうか?」
「はい、お任せ下さい。この子にピッタリの服を見繕って差し上げますわ。」
「ほらほら、こっちにいらっしゃい。」
私は戸惑ってしまう。それを見て、新しいご主人様が、行ってこいと、目で合図する。
正直怖かったが、行ってこいと言われてしまった以上断れない。たっぷり30分ほど、色々なお洋服をあてがわれ、
「これじゃない、これも違う。これかしら?これもいいわ。これなんかどう?」
と、着せ替え人形となっていた。そして、
「この服にしましょう。きっと、似合いますわ。」
どうやら決まったらしい。新しいご主人様の前に立つと、どうやら満足のいくお洋服だったようで
「中々いい服だ。似合っているよ。幾らだ?」
「少々値は張りますが……。」
「その位なら問題ない。」
あっという間に話は進み、店から出て、家に帰る道を歩いていた。私はたまらず、
「あの……ご主人様、私にこんな服勿体ないです。今からでも返品した方が……。」
と言うが、ご主人様は、
「その服は気に入らないかい?私はとても良く似合ていると思ったのだが……。他の服の方が良かったのか?」
と聞いてきた。別に洋服には、不満は無い。むしろ私には勿体ない。そう伝えると、柔らかく笑いながら、私の頭を撫でた。ご主人様の笑顔を見るのは初めてかもしれない。
「君はもう奴隷ではなく、私の同居人だ。実は、他人と一緒に暮らすのは初めてでね。初めての同居生活の最初の日ぐらいお祝いしたっていいじゃあないか。そのプレゼントだよ。それに、私は綺麗な女性に使う金なら惜しくはない。これっぽっちもね。」
なにか含みのあるような言い方ではあったが、ひとまず受け入れることにした。もし断り続ければ、この柔らかい笑顔が消えるのでは無いか、殺人鬼のような鋭い視線の顔になるのではないかと思ったからだ。それに、ご主人様のすぐ後ろを私を見下ろしながら歩く(浮いている?)このピンク色の怪物(のような猫?)の表情が少し固くなったから、黙ることにした。
まるで、ご主人様の裏の顔のようなこの怪物は、ずっと私を見下ろしている。ご主人様も、商人さんも、不気味な店員さんまで、気付いていないのか、誰もこの怪物について何も言わない。前のご主人様の所には居なかったはずだ。
それとも、ご主人様は分っていて隠しているのかもしれない。私に悲鳴をあげさせるための怪物なのかもしれない。そう考えると、誰にも何も言えなかった。
ようやく家に帰ると、
「さぁ、夕飯を食べよう。君は、食べれないものはある?好き嫌いはダメだよ。アレルギーとか、どうしても食べたくないものとか……あるかい?」
今までは、朝昼晩問わず毎日硬いパンにコップ一杯の水だけだったので、分からない。そう伝えると、悲しんでいるような、怒っているような、私には分からない表情をした。その表情の代わりなのか、ピンクの怪物は、紫色のオーラ(見間違いかもしれないが……。)のようなものを発する。どうやらご主人様は怒っているのかもしれない。
「ふむ、少し待っていろ。」
1時間ほど待つと、私の短い人生では知らない匂いがした。
それは、全く嫌な匂いではなく、とても美味しそうな匂いだった。
「さぁ、夕飯ができたよ。ゆっくりよく噛んで食べるんだよ。まずはスープからだ。」
私の前の机に置かれたのは、真っ白い器になみなみと注がれたスープだった。
「これは、コンソメスープと言ってね。手軽に作れるのに、奥が深い。とても美味しいものだよ。」
しかし、私は聞く。
「これは、私の分でしょうか?まだ悲鳴をあげていませんがいいのですか?」
すると、ご主人様は深いため息をつく。
「私は君を奴隷扱いするつもりは無い。一人の同居人として扱う。楽しく暮らそうじゃないか。平穏にね。」
うっすら気迫のようなものが見え、怪物のオーラ(のようなもの)も強まった(ふうに見えた)。
「わ……、わかりました。それでは頂きます。」
一口、口をつけると、温かく少し塩気のある柔らかい味がした。私は器を持ち飲み干す。喉に残る温かさはまるで、ご主人様のようでもあった。おかわりが欲しかったが、どうしても言えず、黙って俯く。皿は下げられてしまい、次の料理が運ばれて来た。
「ここからは、私も同席させてもらうよ。お腹が空いたからね。頂きます。」
次は、カルボナーラ(ご主人様が教えてくれた。)が運ばれてきた。
柔らかい、パスタの食感と濃いチーズの味、少しピリリとするブラックペッパーが、私の口で暴れる。あまりの美味しさに口に入っているものを飲みこむ前に次を口に入れてしまった。そのせいで、吹き出してしまいそうになるが、慌てて飲み込む。しかし、胡椒が喉に突っかかり、むせてしまう。するとご主人様が、
「ふふっ、慌てなくてもいいと言ったろう?ほら、水を飲むんだ。ゆっくりだぞ?誰も横取りしないから、心配せずゆっくり食べるんだよ。」
どうやらご主人様はもう食べ終わっているようだった。
「すまないが、私は先にお風呂に入らせてもらうよ。おかわりはココにあるから好きに食べてくれて構わない。食べ終わったら、皿はここに置いてくれ。」
そこから、しばらく食べていると、お腹一杯になり皿を言われた所に置いておいた。
(皿洗いぐらいした方がいいかな?)
しかし、余計なお世話だ。と言われそうなので、やめておいた。
「シルヴィー!シルヴィ!お風呂に入りなさい。もう、10時半だ。早く寝ないとね。」
言われるがまま風呂に入り、髪を乾かした。(ご主人様がしてくれた。)
なぜだか、ハンドクリームというものを塗られた。
「クソッ!30分も寝るのが遅れた。早く寝たい。」
イマイチなんと言っているのか分からなかったが、わざわざ私の寝る部屋だけでなく、布団なども用意してくれた。
「あの、ご主人様、私はこれからどうなるんですか?もしかしてすごく苦しいこととか、痛いことや、恐ろしいことをされるんですか?」
と聞いてしまう。すると、ご主人様は少し微笑み私の頭に手をかける。そのまま頭を撫でながら
「私にはそういった趣味はない。そんな事はしないよ。」
と言う。
「ほ、本当ですか?私、痛がってご主人様を喜ばせることは出来ます。前のご主人様は、私の悲鳴を聞いてとても嬉しそうでした。出来ることならほかのお手伝いもします。ご飯も少しでいいです。だから、お手柔らかにお願いします。」
するとご主人様は、少し苛立った口調で、
「しないと言っているだろう。これで気は済んだか?私は11時には寝るようにしているんだ。それがもう35分もすぎた。全くふざけているよ」
どうやら、ご主人様を怒らせてしまったようだ。
「あ……。ご、ごめんなさい……。そ……、その、おやすみなさい」
慌てて私は言う。しかし、ご主人様は微笑んで、
「いや、いいんだ。おやすみ……シルヴィ。」
と私の頭を撫でてから、部屋を出ていった。
こんなにフカフカの布団で寝るのは初めてかもしれない。最も最初で最後かもしれないが……。
to be continued
長くね?って思った方すいません!