吉良とシルヴィの奇妙な生活ティーチングフィーリング 作:吉良吉影に憧れる者
短いクラッカーの音がする。シルヴィが鳴らしてくれたものだ。
「誕生日おめでとうございます、ご主人様!」
私はその言葉を聞き目頭が熱くなる。こんなふうに人に祝ってもらったのはいつぶりだろうか…、いまいち覚えちゃいないが、今の私は幸せだ。
「ありがとう、シルヴィ。」
私は今日で13歳(34歳)になった。我ながら微妙な年齢である。
外は寒そうなので、家で小さく祝うことにした…のだが、今この家には私とシルヴィだけでなく、オーレリアやネフィーもいる。何故こうなったか、話は二日ぐらい前に遡る。
私とシルヴィは、いつも通りのデートをしていた。服屋に行くとオーレリアが、珍しく仕事に関係の無い話をしてきた。別に聞かれて困る訳でもないし、誰かに言いふらすと思っている訳でもないが、なんとなく警戒しつつ、世間話をしていた。すると、シルヴィが突然私の誕生日の話を始めた。
「オーレリアさん、よければご主人様の誕生日会に来ませんか?たいした会では無いですけど、二人でこぢんまりやるより、何人かでやった方が楽しいじゃないですか?いいですよね、ご主人様?」
私は人を舐めきったような小っ恥ずかしいサプライズなどは嫌いなので、やらないようにと、シルヴィに言っておいた。その為シルヴィは、少しリッチな食事を家で食べてケーキを食べるだけにすると言っていた。が、祝う人が自分だけだと気まずいだろうという気遣いの元、オーレリアを誘っているらしい。オーレリアは、怪しい笑みを浮かべながら、
「ぜひ、お伺いするわ」
と楽しそうに言う。私は構わないが、結局少人数であることは変わってないし、一人増えただけだと逆に気まずいだろう。
と思ったら、喫茶店に行くと開口一番ネフィーを誘っていた。シルヴィってもしかして、人と話すの得意なのか?
そんなこんなで、私の誕生日会が始まったのだ。(私が主役のハズなのに、私の友人は一人もいないのはおかしい。そもそも友達が少ないが…。)
今は4人で大きなケーキを囲んでいるのだが、どうしても不満に思っていることがある。
「なぜ、私はこんな意味不明なタスキをかけているんだ?」
私はそこそこ達筆で『私が主役』と書かれたタスキをかけている。シルヴィが甘えた声でねだってきたのが悪いし、持ってきたオーレリアも悪いし、面白そうだとか言っているネフィーも悪い。…シルヴィに負けた私も悪いかな。
ケーキは自分達で作った訳ではなく、わざわざネフィーが持ってきてくれた。特注だそうでお金を払おうとしたら、
「主役さんから貰えませんよー。私からの誕生日プレゼントですー?」
といつも通りの口調で言われた。相変わらず掴めない人だ。手は綺麗で掴みたいがな…。おっと、全員から睨まれた。どうして分かったんだ?
「あらあら、私はプレゼントを用意してませんでしたわ。しかたないですね。プレゼントは私をあげましょう。」
「ダメです。いらないです!受け取り拒否です!」
オーレリアの冗談に怒ったように返すシルヴィ。微笑ましいやり取りを見ていると、
「ご主人様!なんで笑っているんですか?まさか…貰う気ですか?酷い!」
「あらあら、御手柔らかにお願いしますねー。」
とばっちりを食らった。ちなみにプレゼントとして貰ったのは、洗濯用洗剤(オーレリアの店で作ったものだそうだ。)と、シルヴィの服だ。(あまり値段の高くない女性用のワイシャツだ。良く似合う。)
商売を生業としている人は、誕生日プレゼントさえも商売に結びつけるのだな。(最も、見え隠れする優しさが、嬉しかったりもするが…。)
暫くお喋りやゲームに興じた後、仕事に戻らなければならない都合で、二人は帰る。
シルヴィが、片付けを終え擦り寄ってくる。
「二人きりの生活も楽しいですけど、たまにはこういうのもいいですよね。」
シルヴィが楽しそうに言うが、私には分からない。
私は人殺しだから、人には戻れない。それでも、人に戻りたいとすがってしまう。
人に誕生日を祝ってもらったのは、いつだったか?初めてかもしれない。そう考えていると、
「ご主人様、まだ少しケーキが残っていますが、明日にでも食べますか?」
シルヴィが聞いてくる。何故だろう、こんな会話をしたことがある気がする。
「吉影、食べきれなかったケーキは明日にしましょうね。」
それは、私が7歳の時だった。今まで1度も祝われたことのない誕生日を、機嫌のいい母は祝ってくれた。次の日には親父と大喧嘩をするのに…、楽しそうに笑う母がとても大好きだった。けれど、怖かった。私にありとあらゆるものを押し付けて、自分の夢とか責任を押し付けて、私の居場所を作り替えて、自分のものにする母が大嫌いだった。
たったその1回を祝ったのだ。その時の私は嬉しかったのかどうか、それはもう分からないけれど、笑っていたかもしれない。
「ご主人様…?なんで泣いてるんですか?」
シルヴィに言われて目を擦る。気づかなかったが、泣いていたようだ。
「さぁな、私にもわからないよ。何か思い出したのかな?」
何度拭いても止まらずに溢れる。わたしは悲しいのか?
シルヴィに抱き抱えられ、自分が震えていたことに気づく。
「大丈夫ですよ。大丈夫。だから、泣いていいですよ。私はいつでもご主人様の隣にいますから。」
その言葉に母の声が重なる。
『大丈夫よ。大丈夫。泣きたいなら泣きなさい。お母さんはいつでも吉影のこと見守っているからね。』
母とはなんなのだろうか。誰にも答えられないこの問をシルヴィなら、答えられる気がする。
だから、今日は彼女に甘えよう。シルヴィが、私にくれる誕生日プレゼントは、母の愛情だ。それは今でも宝物だと思っている。
……To be continued