吉良とシルヴィの奇妙な生活ティーチングフィーリング 作:吉良吉影に憧れる者
「えーと、オーレリアさん今日は何か?」
こちらの出方を伺うように、いざとなれば殺人も辞さない覚悟を持った目で私を見る。
だが、私だって殺される覚悟は持っている。彼女にとって少しでも救いになるのなら、命を賭けよう。
「今日は…お嬢さんの事で話があります。」
「シルヴィの事…?」
「ど…どうぞ?」
お嬢さんはおずおずと言った様子で紅茶を出す。毒という訳では無いだろうが少し躊躇う。
「毒でも入ってるかと思いました?クククッ」
私の笑みは不気味と言われることは多々あったが、向かい側に座る男はそれよりも不気味で恐怖的な笑みを浮かべる。
「い…いいえ。面白くない冗談ですわね。」
私は自分の前に置かれた紅茶を一気に飲み干す。アイスティーのようで、体がひんやりとしてくる。
「ところで、シルヴィの事とは…?」
そう聞きながらも『不利益なことを言えば殺す』と目で訴えてくる。
彼女も俯いて震えている。怖いのだろう。『助けてあげる』だなんて驕りはない。ただ、少し踏み出すような勇気になれば、それでいい。
「その…つかぬ事をお伺いしますが、彼女の傷はどこで?普通につくようなものでは無いでしょう?あなた、知っていますよね?」
私がちらりと彼女を見ると、彼もそれに合わせて彼女を見る。2人の不気味な視線に見つめられ、一歩後ろに下がるも、覚悟を持った目でこちらを見る。少しだけ、勇気を与えられたようだ。
「ご主人様、いいですよね…?」
「ああ、君がいいのなら。私は止めない。止める権利もない。」
果たして、何を聞かされるのか、口ぶりからは彼は関係ないようだが…。
「オーレリアさん。私自身、あまり話したいことではありません。他の人には言わないでください。オーレリアさんを信用して話します。」
「ええ、約束するわ。誰にも話さない。」
では、と前置きして彼女は話し始める。きっとそれが目を背けたくなるような事実でも、見なくてはいけないのだろう。
「私は望まれた妊娠とは遠いものでした。幼い頃、言葉を覚えても誰も聞いてくれません。『ぱぱ』や『まま』と言っても誰も聞いてくれない。父は母を捨て母は私を捨て、いなくなりました。別にその事を責めようとは思いません。2人の重荷になりたいわけではありませんから。」
「そこからは地獄です。児童養護施設に入れられましたが、この銀髪のせいで、不気味だと避けられ蔑まれ貶められ憎まれた。異性からは気味が悪いと、同性からは気持ち悪いと言われました。ここでも私の言葉を聞いてくれる人はいませんでした。」
「でも、この地獄はまだ可愛い方です。ある日貴族だという人がやってきて、誰かを差し出せと迫られました。それが私になるのは…言うまでもありません。そして、本当の地獄が始まりました。本当に辛くて苦しくて惨めで泣きたくて、辛かった…。」
「私はその貴族の家で、言うなれば奴隷になりました。進んだなった訳じゃありません。ただ、死ぬか生きるかその違いです。ある日は頬を叩かれ抓られ抉られ焼かれ切られ削がれ殴られ蹴られ、とにかくありとあらゆる痛みを知りました。同時に人は簡単には死ねないことを、死なせてもらえないことを知りました。抵抗しても、私の言葉を聞いてはくれず、かわりにあの男が聞いていたのは、私の悲鳴だけでした。そしてこの火傷もそこで…。でも!」
そこで彼女は突然俯いていた顔を上げる。目には涙を浮かべているが、目は輝いている。そんな目を向けられれば理解してしまうしかない。その事が嬉しく、安堵する。
「貴女はもう救われたのね。」
「はい!前のご主人様が死にました。それはなぜだが分かりませんが、それだけは嬉しかったです。いえ、その頃の私は嬉しいと感じることもありませんでした。けれど、この家に来て、ご主人様に必要とされて、私は希望を手に入れました。」
「まぁ、そーゆーわけだから、オーレリアさんの心配するような虐待とかDVという訳では無いので、安心してくれて構わない。それに、不都合なことを言ったからと言って、あなたを殺すことは無い。」
気づけば夕やけが窓辺を照らし始めている。そろそろ帰らなくてはご迷惑になる。なんせ聞きたいことも知りたいことも解決したから、なんの憂いもないといえば流石に嘘だが、少なくとも、彼女が傷つくことは無い。それは彼の顔を見ればわかる事だ。
「そろそろ私はお暇させていただきます。」
「ああ、また来てくれ。今度は彼女の友人としてね。」
私が玄関で靴を履いていると、白猫がやってくる。猫目─そう呼ばれていた。
「オーレリアさん。これ、クッキー焼いたのでどうぞ。また、ご主人様と、お店行きますね。」
「ええ、待っているわ。」
「そういえば、今日の事ですけど…」
勿論、他言無用であることは理解している。
「誰かに話して、私たちの
彼女がそこまで言うと、玄関が大きく揺れる。まるで地震のようだ。
「キシャーッ!」
と、猫目も大きな叫び声を上げる。それがまたなんとも不気味で恐怖心をあおる。そして彼女が最後の一言を口にする
「殺しますよ?」
……To be continued