高速戦艦揃わず
以上
細々と海域攻略をしている中、叢雲が険しい表情で執務室へと入る。
「少し良い?」
「んあ?なんだ?」
半年が経過した頃には鎮守府の修理も7割が終わり、執務室も立派な部屋になっている。ただ一点を除いて。
「上層部からの呼び出しよ、アンタ何かやったの?」
「あ~、多分・・・なかなか海域を攻略しない俺に痺れを切らしたのかもなぁ」
執務室は完全な和室となっていた。提督は頭を掻きつつ、軍服ではなく作務衣を着込んだ姿で叢雲に言葉を返す。
この提督、何を隠そう・・・大の和物好きなのだ。家具コインが溜まったとなれば和風の物を購入しまくるのである。
「だから言ったじゃない、周りはもう南方海域まで攻略しかけてるわよ?」
「周りは早いねえ、ま・・とりあえず上層部のオヤジ共の文句でも聞いてきますか。叢雲、付き添ってくれや」
「はいはい」
作務衣から提督の軍服に着替えると留守を陸奥達に任せ、上層部へと出向する。やる気がなさそうに見えてやる事はやるのだ、最低限だが。
◇
上層部に到着するなり、案内される。秘書官にしているのは超弩級戦艦大和、日本戦艦の象徴ともいえる存在だ。
「お前はいつになったら南方海域まで攻略するのだ!やる気があるのか!?」
到着するなりの怒号である。新米である身であるゆえに強くは出れないため謝罪を口にし続ける。
「これだから鉄底海峡を経験していない新米提督は!!」
「(また始まったよ。武勲自慢が)」
上層部は現在二分割されており、武勲を棚に上げ私腹を肥やし、新米提督に対し木で鼻をくくるような態度をとる者。新米提督を育て次世代へ繋ぎ、艦娘も一人の人間として扱う者の二種類である。
だが、今現在は前者の方が圧倒的に多くなってしまっていた。特に頭の古い人間が上層部に蔓延しているため、意見が通りにくいのだ。
「(大和ちゃん、なんだか険し表情してるな?一体)」
「聞いておるのか!?捨て鑑でもなんでもしてサッサと南方海域まで来い!わかったな」
「アン・・・っ!?」
叢雲が抗議しそうになったのを提督は肩を掴んで止めた。今ここで抗議したところでなんの意味もないと首を横に振っている。
「大和!見送りしておけ!!」
「はい・・・・」
上層提督はそういって部屋を出ていった。大方、お気に入りの艦娘と逢引まがいのことをするんだろうと思い、ため息をついた。
帰路に着くために大和に案内されながら玄関へと向かう。
「申し訳ありません・・・私の提督は南方海域のサーモン沖を攻略できず苛立っていまして」
「気にしなくていいって、大和ちゃん。でも、捨て艦って聞いた時、険しい顔していたよね?もしかして・・・」
「言いたくありません!言わせないで下さい!聞かないで!」
上訴部の大和は泣きそうな顔で咎めた。軽率な行動をしてしまったと反省する。
「すまん、大和ちゃん。軽率だった」
「あ・・・いえ」
「ここまでで大丈夫、それじゃあな」
提督は叢雲と共に上層部の鎮守府を後にする。軍帽を深くかぶり叢雲に質問した。
「叢雲・・・あの鎮守府」
「ええ、紛れもない油と鉄の匂いが充満してた・・・人間で言うところの血と臓物の匂いがね」
「そうかい・・・」
顔を隠すが俺は今、非道い顔をしていると自分でわかる。憤怒にまみれた、まるで阿修羅や不動明王のような顔だと。
「アンタ・・・告発でもするつもり?」
「出来ねえよ。こちとら着任して数ヶ月の新米・・・向こうは歴戦、勝ち目は今のところねえ」
懐に入れていたキセルセットを取り出し、刻み煙草を入れ、マッチで火を点ける。
紫煙を吐き出し、気分を落ち着かせる。さっきの顔で帰ったら間違いなく駆逐の奴らを泣かせちまうからな。
◇
「みんな、集まってくれたな・・・今回は沖ノ島を攻略する」
「!!!!!!!!!!」
いつもはふざけている提督がいつになく殺気立っていた。怒りに任せての進軍ではなく、かといって武勲の為の出撃でもない。
「今回の出撃は・・・俺自身が深海棲艦への八つ当たりをするに等しい出撃だ。それでもいいか?嫌ならハッキリと断ってもいい、みんなには感情があるからな」
「・・・私達は提督の指示がないと」
艦娘の一人である羽黒が口にした言葉が耳に入ったのか、提督はとんでもない行動に出る。
小刀、ドスと呼ばれる物を取り出し、それを机に思い切り力を入れて突き立てたのだ。
「ハッキリしろって言ってんだろうが!出撃が嫌なのか、戦ってくるかのどっちかだ!」
艦娘達もここまで、怒り昂ぶって怒号を上げるのを初めて見た。叢雲はそれを黙って見守っている。
今、彼は深海棲艦ではなく虫けらのように扱い、自分の欲望を満たしている上層部に怒っているのだろう。
八つ当たりをしなければ艦娘に手を上げてしまいそうになる自分を、抑え込んでいるのが見え見えだ。
「悪いけど、早く決めてくれない?提督はね、上層部から戦果を上げろと命令されているの」
「え?」
「期限は二週間。それまでに沖ノ島を攻略しなさいとね。新米でありながらなんとか期限を引き伸ばしたけど、限界まで来ちゃってるのよ」
「叢雲・・・!」
「隠していても仕方ないでしょ?遅かれ早かれ、みんなには知られる事実よ」
「・・・・」
冷静になった提督に対し、叢雲は事実だけを伝える。真実を聞いて真っ先に動いたのが陸奥であった。
「ねえ、提督・・・私達は貴方の指示なしに勝手な事は出来ないわ。でもね?そんなに私達の事を信じられないかしら?」
「っ!」
陸奥の言葉に全員が頷く。それは信じて欲しいという一心の思いだった。
「提督、私が行きます・・・」
「姉様が行くなら私も志願します」
一歩前へ出たのは扶桑姉妹の二人であった。この二人はこの鎮守府において重要なポジションに居る。
「貴方は私達を沈ませまいと動いてくれているのはわかります・・・」
「でも、戦わないといけない時があるのよ。それが今なの」
扶桑とその妹である山城は凛々しい瞳を提督に向けている。私達を信じて欲しいと。
「そうだな。俺ァ・・・頼る事がどうも苦手でね、第一部隊出撃しろ!そして、必ず帰ってきやがれぃ!!」
「はいっ!!」
旗艦を扶桑とする第一出撃部隊は沖ノ島海域へと出撃した。提督の様子を見て叢雲が声をかける。
「ホンッッット、不器用で弱虫ね?アンタ」
「どう言われようが、それが俺なんだよ」
「いいけど、母性が強くて気の強い艦娘がきたら気をつけなさいよ」
◇
沖ノ島海域、敵侵攻中核艦隊を見つけた第一部隊ではあったが、ここに来るまでに戦艦二席、比叡と山城が中破してしまっていた。
「敵影、確認!戦艦ル級flagship、戦艦ル級elite、戦艦ル級、雷巡チ級elite、駆逐ニ級elite、駆逐ニ級eliteです!」
『何ィ!?戦艦級が踏みぞろいだと!?』
「提督、任せてください!私が!!」
扶桑からの報告と同時に空母・赤城が艦攻による空爆を仕掛けた。その結果、戦艦ル級elite、戦艦ル級の二隻を中破、撃沈。駆逐二級も一隻を撃沈した。
「今がチャンスです!扶桑さん!山城さん!」
「主砲、副砲、撃てぇ!」
「戦艦を沈められなくても、護衛艦くらいは!主砲、よく狙って、てぇーっ!」
扶桑の砲撃は中破していた戦艦ル級eliteを撃沈させ、山城の砲撃は雷巡チ級eliteの中心部に命中し撃沈させた。
「よし、これで残りは敵旗艦と駆逐ニ級eliteの1隻!」
「!赤城さん!!」
「え?」
『ォォォォォォ!!』
戦艦ル級flagshipから放たれた砲撃が赤城の飛行甲板へ直撃した、赤城自身はなんとか無事だ。しかし・・・。
「大丈夫・・です。一航戦の誇り…こんなところで失うわけには…」
赤城はたった一発の砲撃で大破に追い込まれた。フラグシップの名は伊達ではないということだろう。
『日が暮れるか・・・赤城、お前には屈辱かもしれねえが、撤退はしねえ。夜戦でぶっ飛ばせ!』
夜戦、それは艦隊にとってインファイトに等しいもう一つの戦場である。防御をかなぐり捨てて撃ち合うものだ。
赤城にとっての屈辱とは夜戦攻撃ができないことである。もっとも、大破状態では関係ないが。
旗艦である扶桑は連撃装備、それによって二回の敵中枢部へと命中させた。撃沈までは至らず、戦艦ル級flagshipは全身がボロボロになりながらも立っていた。
「その不退転の意思、尊敬シマス。でも、勝利は譲れマセン!Burning Love!!」
戦艦ル級flagshipは金剛の砲撃によって撃沈し、残った駆逐ニ級eliteも同じ道を追った。
「提督、ドロップ反応です・・・。しかも輝きが強いですよ」
「扶桑ちゃん、案内してくれや。損傷した奴は収容する!」
「はい」
収容を済ませ、無傷の艦娘達に守られながら船を近づける。黄金色の光の柱が立ち、中から背の高めな艦娘が現れた。弓を手にしている事から、正規空母だろう。
「航空母艦、加賀です。貴方が私の提督なの?それなりに期待はしているわ」
冷静な口調、どこか冷めているように見える考え、それが彼女の印象だった。
「おう、よろしく頼むぜ。加賀ちゃん」
途端にギロッと鋭い目つきで提督を睨んだ加賀。その眼力に流石の提督もたじろぐ。
「そんな呼び方はしないで」
「ん~、じゃあ・・・加賀さん?」
「それでいいわ」
どうやら妥協してくれたらしく、共に鎮守府へと戻った。
◇
「加賀さん!!」
「赤城・・・さん?」
二人は手をつなぎ、再会を喜び合っていた。どうやら共に戦ってきた戦友らしい。
「提督!ありがとうございます!!」
「私からもお礼を言わせてください、赤城さんと再会できたことを」
「・・・・」
提督は無言で軽く手を上げて合図するとそのまま、趣味で作った鍛錬室へと向かっていった。
「あの人、何も言わないのね」
「照れ隠しにカッコつけてるだけですよ。あの人はお礼を言われると、すぐに赤くなっちゃいますからね、フフ」
「そう、変わってるのね・・・」
この時の加賀は知らなかった、自分が提督と間違いを犯す事になってしまうなど。
自分の罪悪感から逃れられなくなってしまうことを。
当時の記憶を引っ張り出すのは大変です。
とまぁ・・・自分の記憶の中にある邂逅などを出しています。
この当時は金剛型は三隻しかいませんでした。
加賀さんをドロップできたときはガッツポーズしてましたね。
三話からはだいぶ時が進みます。
では、次回!