※この作品はR-18です。

藤尭×切歌恋愛SSエクスタシー   作:ふゆい

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 あけましておめでとうございます。


だってそれは必然で

 春が過ぎ、夏を越え。紅葉輝く素敵な秋。まだ暑さが残る気温ながらも木々を揺らす風はあたしの髪を優しく擽って。これが趣き深いってやつなのかと珍しく小洒落たことを考えてしまうのも致し方ない。助手席の窓から顔を出すのは行儀が悪いと朔也に注意されてはいるが、せっかくの季節感を楽しまないのも損というものだろう。

 

「いやぁ……秋デスねぇ」

「食欲の秋ばっかりじゃないかどうせ」

「ぶっ飛ばすデスよ朔也」

「運転中だからダメ」

「むぅ……だ、だいたいそれは朔也のご飯が美味しいのがいけないんデス! 飯テロデス!」

「たぶん使い方間違ってると思うけど……あぁ、だから最近少しお腹周りが――」

「しゃらぁーっぷ! どこかに置き忘れたデリカシーをさっさと拾ってくるデスよ!」

 

 ニヤニヤしながらド失礼なことを言ってくる恋人の横腹に拳一発。さすがに事故られるわけにはいかない為最低限の勢いだけれど、これが乗車中では無かったらイガリマ身に纏ってでもぶっ飛ばしていただろうこと請け合いだ。ただでさえ「最近ちょぉ~っとばかし食べ過ぎかな? でも大丈夫だよね? う、うんうん想定内想定内」と自分自身に言い聞かせつつ日々を過ごしてきたのに、そうやって残酷な現実を突きつけてくるのはよろしくない。通話グループ【ダイエットの会】に相談したら炎上すること間違い無しだろう。ちなみにメンバーとしては響さんとクリス先輩である。合言葉は「痩せるのを諦めないで」とかいう、聞く人が聞けば怒られそうな感じだ。特に翼さん辺りには知られたくない。

 

 ……でもそんなに目立つかな。確かに体重は少し増えてきて身体もぷにってきたし、朔也や調からは「抱き心地が良くなった」って喜んでいいのかどうなのか分からない感想はよく貰ってるけど。そ、そこまで酷くないデスよね!? あたし、ちゃんと可愛いよね!?

 

「何考えてるかだいたい表情で分かるけど、ちゃんと可愛いから安心して」

「左手であたしのお腹触りながら言われても説得力ないんデスけど」

「いや……なんか気持ちよくて」

「やめる……デス! まだお昼前なんデスから! せめて旅館に着くまでは駄目デス!」

「着いたらいいんだ……」

 

 呆れ半分期待半分といった非常にやらしー表情を浮かべる朔也の手を思いっきり抓っておく。付き合い始めて約一年。魔法少女事変やら錬金術師達との戦いを経て、彼からの好意が若干ストレートになってきた気がする。正確には、あたしがアダム=ヴァイスハウプト戦で重傷を負ったあたりからか。彼の中で思うところがあったのか、あれ以来ツンデレ具合が多少なりを潜めていた。あたし的には真っ直ぐ愛情を感じられて嬉しい限りではあるのだけれど、以前の素直じゃない捻くれ朔也も好きだったから、少し寂しく感じてしまう。

 

 贅沢な悩みだってことは重々承知デスけど、それが乙女心ってやつなのデスよ……。

 

「……じー」

「調ちゃんみたいな目ぇしてどうしたの」

「……はぁ。なんでもないデス。はぁ」

「思わせぶりな溜息はやめてくれ」

 

 おそらく本当に分かっていないだろう表情で顔を引きつらせる朔也。まぁこれに関しては完全にあたしの独り善がりなのでこれ以上何かを求めるというのも酷だ。彼はあくまであたしを心配してくれているのだし、喜びこそすれ落ち込むことでは決してない。マリアに聞かれたら嫉妬でぶん殴られてしまいそうだ。

 

 首を傾げる朔也に笑みを向けていると、ようやく目的地が見えてきた。まさに和風といった外観の温泉旅館。森と海岸に隣接した風景が記憶の底を刺激する。

 

 あたしと朔也にとっての思い出の場所。そして、決して忘れられない約束の地。

 

 去年二課の慰安旅行で泊まった旅館に、あたし達は一年ぶりに足を運んでいた。

 

 

 

                ☆

 

 

 

 チェックインを済ませ、部屋に荷物を置いて一段落。前回は悪天候や精神状態のアレコレでマトモに観光できなかったから、今回はしっかり回ってちゃんと旅行を楽しもうって決めていた。パンフレットも持ってきたし、カメラも新調して準備は万端だった。

 

 ……それなのに、これはいったいどういうことなのだろうか。

 

「ん、ちゅ……っふ」

「さく……やぁ。よ、予定が、ちが……ッぁ!」

「ごめん……でも、ちょっと我慢ができなくて」

「ま、まだお昼なのに……あぁッ。んひぃ……!」

 

 ご丁寧に服を脱がしながら口内に舌をねじ込んでくる朔也。一応反論及び抵抗はしたのだけれど、膣内に指を突っ込まれてグジュグジュと愛撫されれば否応なしに全身の力が抜けてしまう。自分の意思とは無関係に痙攣しているのは、小刻みに走る電流のせいだ。この一年であたしの弱点はすっかり知られてしまったらしい。

 

「切歌……可愛いよ」

「ふ、太ってきたとか言ったくせ……にぃッ! んぉッ!? あぐぁ……」

「乳首噛まれながらクリ弄られるの、ほんと好きだよね」

「ち、違っ……っくぅ……んぁぁ!」

「……もうイッたの?」

「ふ、ぅ……っ! ん、はぁ……」

「……好きだよ、切歌」

「んんんッ!」

 

 一瞬で脳内が真っ白に溶ける。思考回路が焼き切れて何も考えられない。今までにない程の求愛にあたしの理解が追いつかなくなっていた。なんだ、いったい何があったと言うのか。

 

 最近会えていなかったかと言われると、確かに錬金術師戦での後始末であまり休みが取れていなかったことはあるが定期的にはデートはしていた。セックスだってどれだけ日付を開けても一週間に一回はシていたし、欲求不満という訳ではないはず。何か彼の性的スイッチを煽るような言動もした覚えがない。

 

 揺らぐ視界をなんとか維持して朔也の顔を見上げる。

 

 そこにあるのは、愛欲に染まった雄の表情。だが、その中にどこか憂いのような、遠いものを見つめるような悲哀の感情が混ざっているようにも感じられて。あまり浮かべることのない表情に、場違いながらも一瞬心臓が跳ねる。

 

 愛液を指で搦め取ると、そのまま口に入れこまれる。自らの体液を摂取することに抵抗を覚えないでもないが、今まで何度も経験した行為だ。それよりも、朔也の指を舐めるという非日常感に全身が熱を帯びる。男性にしては細い彼の指は舌で吸い取るように舐めると、朔也は目を細めて僅かに息を漏らす。その顔がまた愛おしくて、性的で。嬉しくなってさらに唾液を絡ませていく。

 

 口内で彼の指を弄びながら股間に手を伸ばすと、窮屈そうにファスナーを押し上げる存在感。デニムの上からそれをなぞるだけで、朔也が僅かに肩を震わせた。

 

 期待させるようにゆっくりと開け放てば、今にも爆発しそうな程に屹立した肉棒が眼前に。これまでに幾度となくあたしの膣道を貫いてきた凶器に息を吐きかけ、焦らす様に鼻先を、頬を擦りつける。むわっとした雄の匂い。相当興奮しているようで、あまり彼らしくない刺激臭が鼻をつく。欠陥に沿うように鼻を滑らせると、一瞬で秘所が悲鳴をあげた。……結局、こうなっちゃうんデスね。

 

「……これが終わったらちゃんと観光するデスよ」

「うん、分かってる」

「本当に分かって……んッ、ァ」

「っ……」

「は、む……」

 

 すっかり熱に浮かされている様子の朔也。あたしの声が本当に届いているのか少し微妙なところではあるものの、正直な話あたしも結構限界だ。このまま焦らすのは、お互いに悪い。

 

 先端から出る汁を顔中に擦りつけながら、そのまま頬張るようにして咥える。ストロークの度に喉奥を突かれて涙が浮かぶ。初めての時にえずきそうになったのが記憶に新しい。今でも多少息苦しくはなるものの、彼を悦ばせようとする余裕ができている。慣れというものは凄い。

 

「ん、ぐ……じゅる」

「ぁ……っ」

 

 唾液をまぶし、彼に聞こえるようわざと音を立てるようにして吸い立てる。少しの効果音でも彼の興奮を掻き立てることができるとこの一年間で学んだ。こういうことを調やマリアに言うと怒られてしまうのだけれど、気持ちよさそうに苦悶の表情を浮かべる朔也を見ていると、あたしの学習も無駄ではないと実感する。

 

 朔也はどうしてか喘ぎ声を我慢しようとする傾向があった。弱いところをあたしに見せたくはないのか、それともただカッコつけたいだけなのか。どちらにしても、自分のよがる姿を見せたくない為にあたしを責め立てようとする。不器用というか意地っ張りというか……そういうところも可愛いのだけれど。

 

 ただ、あたしばかり受けになるのはちょっとばかり悔しいから、最近はこうして技術を上げて攻守交替できるようにもなってきた。恥ずかしそうに目を逸らし、顔を隠そうとする彼の姿がどうしようもなく性的で、身体の芯からゾクゾクと嗜虐心が湧き上がる。

 

「っはぁ。……可愛いデスよ、朔也」

「切、歌……いつの間に、こんな……っっ」

「あたしだって、日々成長しているのデス……ッ!」

「う、ぐぁ……!」

 

 袋を軽く揉みつつ裏筋に沿うようにして舌を這わせる。青く浮かんだ血管を愛おしく舐め上げれば、いっそう固さを増す陰茎。小刻みに痙攣しながら我慢汁を漏らす姿に、内に秘めた雌としての欲求が解放されていく。

 

 今回ばかりは、主導権を握らせてもらうデスよ……!

 

 赤く腫れあがったソレを咥え込み、喉奥までストロークを繰り返す。されるがままだった朔也も手を伸ばしてあたしの胸を責め始めていたが、負けるわけにはいかない。じんじんと広がる快感になんとか耐え抜きつつ、彼の絶頂を高めていく。

 

「ん……っぶ、ぷぁ」

「あッ……切歌、それヤバ……ッ!」

 

 苦しそうに顔を歪める彼の菊門に指を入れ、ラストスパート。あたし自身もフェラと乳首責めの繰り返しでそろそろ限界だ。軽く遠のきかける意識を懸命に保ちつつ、勢いよく吸い上げる。

 

 ――そして、それは訪れた。

 

「ッ――――!」

「っ――――!」

 

 ビクビクビクッ! と朔也の身体が大きく跳ねる。ドクン、と一つ脈打ったかと思うと、口内にとめどなく流れ出す白い濁流。喉を鳴らして必死に飲み込もうとはするものの、器に入りきらない精液が口の端から漏れ、あたしの身体を汚していく。

 

 彼に見つからないよう密かに動かしていた右手。腫れあがったクリトリスを抓り上げると、思わず背筋が仰け反った。口内に溜めた精液を必死に零さないよう口を閉じつつも、天を見上げて絶頂に浸る。

 

「ん、ふ……」

「……切歌、飲んで」

「ん……っく」

「はい、見せて」

「んぁ……」

 

 喉に絡みつく粘液質なそれをなんとか飲み下すと、彼の言うように口を開く。おそらくは糸を引いているだろうそれは、彼の目にどう映っているのか。後でちゃんと歯磨きしなきゃ……。

 

 そのまま口の中に指を入れ、舌を弄ってくる朔也。何が楽しいのかは分からないけれど、無防備に口を開いたあたしの舌を触るのが好きらしい。精液と唾液が混ざった液体が溢れ、顎や首を伝い全身を汚す。キュンと下腹部が悲鳴を上げ始めていたが、これ以上ヤると観光ができなくなるから切り上げるべきだ。

 

 彼が手を離したのを確認し、そのままフレンチキスを交わす。いつしか暗黙の了解となった終わりの合図。こういうのを決めておかないと、体力の限界までセックスを続けてしまうのだからお互いに理性の欠片もない。

 

 まだ不完全燃焼ではあるけれど、本来の目的は観光なのだ。あの洞窟にも行かなければならないし。ここは心を鬼にしないと。

 

「……お風呂、入ろうか」

「デス……」

 

 備え付けの家族風呂で色んなものを流しに行く。その際にもう一回戦始まってしまったのは、ここだけの話だ。

 

 

 

                ☆

 

 

 

 海に森に山と、自然豊かな印象を受けるこの場所にも一応観光名所はあるらしい。

 

 元々町全体が温泉観光地と化しているからか、露店や足湯、お土産屋さんといったいわゆる『観光通り』が軒を連ねていた。温泉アイスやら温泉饅頭やら、いっそ清々しいくらいに温泉を前面に押し出した町興しの様子にこちらまで元気が出てくるような錯覚を覚える。全体的に食べ物系統が多いのは、あたしとしても嬉しい限りだ。

 

「またそんなに食べて……」

「誰かさんのせいでお腹が空いたデスからね。体力を戻すためにいっぱい食べないと」

「いいけど、晩御飯もあるんだから食べられないとか言わないでね」

「あたしを誰だと思っているんデスか? ご飯を残すなんて有り得ないデス!」

「さすがは食いしん坊切歌」

「デリカシー! 彼女に対するデリカシー!」

「はいあーん」

「あむ」

「美味しい?」

「……デス」

「よかった」

 

 女性に対する扱いとしては0点に近い失礼な発言をしておきながら、ゴマ団子であたしのご機嫌を取ろうとしている浅はかさにそろそろ怒るべきなのかもしれない。ていうか、あたしの体重その他諸々が増えてきているのは、半分くらいは朔也のせいなのに! 朔也の作る料理が美味しいとか! 「美味しい」って感想伝えた時のはにかんだような笑顔が可愛いからだとか! 「褒められ慣れていないから嬉しいや」なんて下手っぴな笑顔で言われたら、そんなのいっぱい食べるしかないじゃないデスか!

 

 以前マリアにそのことを伝えたら「一発殴っていい?」なんて嫉妬心丸出しの反応をされたものの、概ねは同意してくれた。朔也はなんていうか、庇護欲が凄いというか……不器用丸出しの性格だから、変なところが滅茶苦茶可愛らしいのだ。思いもよらぬイレギュラーポイントであたしとマリアの心臓を貫いてくるのだから始末に負えない。本当に罪深い男デス。

 

 楽しそうにゴマ団子を差し出してくる彼に応えつつも、そろそろ移動しないといけない旨をジェスチャーで伝える。時刻は夕方の四時。晩御飯の時間を考えると、当初の目的地へ向かわないと結構ギリギリになってしまう。距離としてはそんなにないとはいえ、たぶん普通に足を運ぶだけでは済まないだろうから時間を多く見積もっておくに越したことはない。

 

 買い込んだお土産やらちょっとしたおつまみ類を旅館の部屋に置きに行き、踵を返して森の中へ。昨年は暴風雨の中駆けこんだ為に周りを眺める余裕なんて無かったけれど、木の実と紅葉に溢れた絶景が目の前に広がっている。結構盛大に地崩れが起きていたような気はするが、特に立ち入り禁止とかにはなっていないらしい。綺麗な自然が立ち並んでいるから、散歩スポットとして利用しているのだろうか。商魂逞しくてなんか面白い。

 

「洞窟の場所は覚えてる?」

「まぁ、なんとなくは……っと、崖になってるということは、ここら辺じゃないデスかね」

 

 辺りを見渡しながら森の中を散策していると、見覚えのある場所に辿り着く。木々の並びや地面の崩れ具合から、まず間違いはないだろう。あたしの記憶が間違っていなければ、ここから飛び降りてすぐのところに洞窟があるはずだ。

 

 でもまぁ、もちろん生身で降り立つのはまず不可能なわけで……。

 

 移動手段としての案は勿論ある、というかその一つしか準備していないのだけれど。朔也の表情を窺うように顔を覗き込むと、軽く溜息をつきながらいつものようなジト目で肩を竦めた。

 

「たぶん怒られるだろうけど……できるだけ短時間で済ませれば、うん」

「始末書モノデスね……」

「休暇の間に勝手にギア起動したりしたら、普通は首が飛んでもおかしくはないんだけどさ」

 

 「一応司令にはメールだけ送っておくよ」と携帯端末を取り出す朔也を他所に、周囲に誰もいないことを改めて確認すると胸元のペンダントを外す。聖遺物の欠片で作られたシンフォギアのペンダント。通常であればLINKERを投与しなければギアからのバックファイアを受けてしまうが、今回は移動だけ、それも数十秒のみの使用だから問題はない……はずだ。ただ変身による聖遺物反応は漏れなくS.O.N.G.に筒抜けになってしまう為、この旅行から帰った時に司令やエルフナインからお叱りを受けてしまうことは間違いないだろう。朔也のことだからどうせ一人で責任取ったりするのだろうけど、怒られるときは一緒だ。そういう時だけ大人ぶるのはあたしが許さないデス。

 

「それじゃ、行くデスよ」

 

 ペンダントを掲げ、朔也に寄り添う。少しでもギアの起動時間を減らす為……という言い訳の下、彼に密着したいというのが本音だったりするけど、そんなことは今更だ。彼の腰に手を回してすぐに抱えられるよう体勢を整えると、胸に浮かぶ聖詠を口にする。

 

「Zeios――――ほいっと」

「さぁて急ごう」

「デス!」

 

 イガリマを纏うや否や朔也を抱えて飛び降りる。おそらく今頃はイガリマの聖遺物反応に司令達がてんやわんやしているところだろうが、お説教は帰ってから聞こう。さっき朔也が事情を説明したメールを送っていたし、それである程度把握してくれるのを祈るしかない。

 

 肩アーマーのブーストで海上をホバー移動していく。前回は朔也を助けたい一心で脇目も振らずに飛び込んだのだけれど、意外と身体は場所を覚えているらしい。五分もかからずに目的の洞窟を見つけることに成功した。朔也を抱えたまま、できるだけ周りに目を配りつつゆっくりと降り立つ。バックファイアが怖いので一応ギアは解除。帰りにまた纏わないといけないから、できるだけ時間を減らしておきたい。

 

「……変わらないね」

「……デスね」

 

 自然の壁に三方を囲まれた薄暗い空間で二人して感慨に耽る。あちらこちらが潮気で湿り、ひんやりとした空気は去年あたし達が避難した時のまま。まるで時間が止まっていたかのような感覚を覚える。

 

 ――あたし達の関係は一度ここで終わり……そして、ここから始まった。

 

 『子ども扱いするな』と言いながらどこまでも自分勝手で、我儘で。どうしようもなく子供だったあたしを、彼は紆余曲折ありながらも受け入れてくれた。未来さんやマリア、クリス先輩の協力があったとはいえ、朔也は自分の頭で、心で悩み、そして苦しんだうえであたしを選んでくれた。あの時の嬉しさは、興奮は、今でも忘れることができない。

 

「……あの時は、本当にごめんね。仕方がなかったとはいえ、一度こっぴどくフっちゃって」

「いやデスね。朔也が気にすることじゃないデスよ。ていうか、あたしはむしろ感謝しているデス」

「感謝?」

「デス。だって、あそこで一度突き放されたからこそ、あたしは改めて自分の事を、そして朔也の事を考え直すことができたんデスから」

 

 いつになってもこの話題になると罪悪感マシマシな顔で頭を下げてくる朔也の腕に抱き着きつつ、あたしは素直な気持ちを伝える。

 

 彼から拒絶された時、あたしの想いが一度否定された時、確かにどうしようもなく落ち込んだ。マリアと調に引きずり出されなかったら数日は引きこもっていただろうし、実際彼と結ばれるあの日までずっと気分が沈んでいた。食事もロクに手が付かず、そのうち死んじゃうんじゃないかってくらいに傷ついていたのも事実だ。

 

 だけど、居酒屋でマリアに打ち明けられる彼の気持ちを盗み聞きして、クリス先輩の部屋にいる彼の想いを端末越しに聞いて、未来さんの策略によって彼の過去を思い知らされて。あたしは自分の不甲斐なさと幼稚さ、そして……弱さを知った。同時に、彼が持つ弱さと強さ、彼への変わらない想いを再認識した。あの一件がなければ、あたしと朔也がここまでの関係になることはなかったかもしれない。

 

 だから朔也が謝ることなんかまったくないし、それどころか感謝しているんだ。

 

「朔也にフられたことも、ここで朔也と一緒になれたのも、全部全部必要な事だったんデスよ。必然、ってやつデス」

「結構ロマンチックなこと言うんだね」

「えへへ。あたしみたいな美少女にはお似合いな考え方だと思わないデスか?」

「自分で言うの? いや、可愛いけどさ」

「事実デスからね♪」

 

 前よりは多少マシになってはいるものの、相変わらず素直じゃない感じで皮肉を織り交ぜてくる朔也。最初から真っ直ぐ褒めてくれればいいのに……そんなところも可愛いデスけどね。

 

 組んでいた腕を離し、真正面から彼に向き直る。これは、アレだ。聖地巡礼というか何というか……たぶんキスするんだろう。あたし達の始まりの場所で、これからのあたし達の為に。

 

 同じことを考えているのか、あたしの肩に手を置く朔也。だが、その表情はどこか優れない。何か言いたげな……悩んでいるような顔色だ。いったいどうしたというのだろう。

 

 彼の様子に不安な気持ちを視線に乗せて見つめていると、決心がついたらしい彼は真剣な面持ちで言葉を紡ぐ。

 

「……実を言うとさ。切歌が俺の前から消えてしまうんじゃないかってずっと考えてた」

「……何を」

「キミが響ちゃんを守るために絶唱したあの日。LINKERを投与しているとはいえ薬害で後遺症が残ってもおかしくない無茶をしでかしたあの日、俺はどうしようもないくらいに怖かったんだ。一介のオペレーターでしかない俺は、皆を守るために戦う切歌を画面越しに見守ることしかできない。たとえバックフォローをしているとはいえ、切歌が絶体絶命の危機に陥った時に指を咥えて見ていることしかできない。だから、あの時……キミが死んでしまうんじゃないかって、怖くて」

「朔也……」

「あんな危機はそうそうあるもんじゃないってのは分かってる。でも、全くないとは言い切れない。もし次にキミが絶唱した時、命の危機に瀕した時、また奇跡的に助かるなんて保証はないから。ちょっとしたボタンの掛け違えで、俺の手の中から簡単に零れ落ちてしまう可能性だって否定できない。そうやって死んでいった仲間を、今までたくさん見てきたからさ」

「…………」

「なんていうか、そんなことを考えていたからかな。もっと気持ちを伝えなきゃって、後悔しないように切歌との時間を過ごさなきゃって思って……馬鹿みたいだよね、俺」

「……そんなこと、ないデス。あたしだって逆の立場だったら、同じように考えていたと思うもん」

 

 僅かに震えている彼の手をそっと握り締める。あたしより一回りも二回りも大きな手。それでも、小刻みに震えるその姿にあたしは彼の本当の気持ちを垣間見る。

 

 後から調やマリア、未来さんから聞いた話にはなるが、彼は時間の許す限り病室に足を運んで、あたしの手を握ってくれていたらしい。メインオペレータ―としての仕事が大量にあっただろうに、自分だって今にも倒れそうなくらいに疲れ切っていただろうに、あたしが一秒でも早く快復することを願って、ずっと。

 

 ここ最近朔也がやけに好意を伝えてきていたのは、そういうことだったのか。あたしが消えてしまった時に後悔しないよう、一秒でも一回でも多く気持ちを伝えておきたくて。

 

 ……なんていうか、本当に――

 

「バカですね、朔也」

「……切歌に言われるのは心外だな」

「ぶっ飛ばすデスよ」

 

 じゃなくて。

 

「安心してよ、朔也。あたしは、暁切歌は絶対に朔也の傍を離れたりしないから」

「切歌……」

「これからもうんと心配かけちゃうかもしれないけれど……でも、そんな不安なんて吹き飛ばしちゃうくらいの愛をぶつけるから。朔也がいつもみたいに苦笑いしちゃうくらい馬鹿みたいにストレートな『好き』を、ずっと隣で言い続けるから!」

「……そんな真っ直ぐ言われると、ちょっと恥ずかしいな」

「朔也が恥ずかしがりやな分、あたしが全部受け止めてあげるデース!」

 

 いつものデス口調を封印して、あたしの素直な気持ちを全部全部ぶつけてやる。彼の不安を、懸念を、全部全部吹き飛ばすくらいの「大好き」で朔也を包み込んであげるんだ!

 

 あたしの清々しいくらいに能天気な言動に何を思ったのか、大きく溜息をつくとそのままあたしを抱き寄せ、じっと射貫くようにこちらを見つめる。

 

「……それじゃあまぁ、二年目もよろしくってことで」

「大好きデスよ、朔也!」

「俺もだよ、切歌」

 

 お互いにどちらともなく目を瞑る。もう何度目になるか分からない彼とのキス。幾度となく唇を重ねてきたが、今回のこれは今までのものとは意味合いが異なる。たぶんこれからずっと忘れられないものになるであろう、二年目最初の接吻。

 

 もう見なくても口づけをできるようになったという事実に嬉しさを感じつつ、ゆっくりと顔を近づけて――

 

 

「――お楽しみはそこまでよ、馬鹿二人」

 

 

『うひぃっ!?』

 

 不意にかけられた怒り心頭なボイスに全身が硬直、みっともない悲鳴をあげてしまう。その声にあまりにも聞き覚えがあるのは気のせいだろうか。いや、信じたくはないけれどおそらくはその彼女だろう。

 

 おそるおそる目を開けて、声のした入口方面に目を向ける。白銀のギアを纏った長髪の女性。端正な顔立ちは何故だか怒りで歪み、握った拳は今にも壁に穴をぶち開けそうなくらいに硬そうだ。おそらくは、今すぐにでも逃げ出した方が良いだろう。その後ろに申し訳なさそうな顔で様子を窺っている黒髪の先輩が見える気がするが、本当にこの二人は仲がいいデスね……。

 

 完全に虚を突かれている朔也が全身に冷や汗をかきながら、こちらに猛獣の視線を向けている彼女の名前を震える声で呼ぶ。

 

「ま……マリア、さん……」

「はぁい愛しの朔也。会えてとっても嬉しいけれど、今からマリアお姉さんの説教タイムよ」

「な、何故ここが……」

「すみません藤尭さん。実はずっと二人の動向を追っていまして……」

「み、未来ちゃんまで……ていうか、追っていたってまさか……」

「あの旅館にも宿は取っているし、勿論貴方達のセックスも筒抜けよ。ぶっ殺してあげようかしら」

「は、犯罪じゃないか!」

「それとギアの無断使用を先んじて予想していた司令からの指示でもあるからセーフよ!」

「それを公私混同と……」

「言わない! とにかく、今回は逃がさないしお縄についてもらうわよ! 切歌の説教は未来に任せるから、朔也は私と明日までしっぽりお説教タイムなんだから!」

「や、やらせないデスよー! Zeios――!」

 

 嫉妬心と横恋慕丸出しで敵意を向けてくるマリアから逃げるべくイガリマを纏う。念のために持ってきていたLINKERの場所を確認しつつ、朔也を抱えるとブースト全開で直線突破。迷っている暇はないのデス!

 

「舌噛まないように捕まって、朔也!」

「あぐぅ」

「に、逃がすもんですか! くらえ――!」

「秘技・朔也シィーッルド!」

「なっ……!」

「ひぃいいいい」

 

 脇を潜るようにして間を抜けるあたしにダガーを振りかぶるマリアだったが、咄嗟に朔也を盾代わりに掲げると目に見えて動きが止まる。さすがに好きな男性に危害を加えることはできないらしい。朔也には悪いが、逃げる為には仕方がない。

 

「し、死ぬかと……」

「脱兎の如く逃げるに如かず!」

「ひ、卑怯よ切歌! 待ちなさーい!」

「やらいでか!」

 

 飛行能力がない彼女はこちらを追いかけるのに時間がかかる。挑発混じりに舌を出しては見るものの、同じ宿を取っているとのことなので最終的には追いつかれてしまうのだろう。だけれども、今はこの逃避行を彼と一緒に楽しみたい。

 

 だって、朔也と二人一緒なら、どこまでだって行ける気がするから!

 

「飛ばすデスよ朔也ぁー!」

「ほ、ほどほどにねぇー!」

「朔也を下ろして投降しなさい切歌ぁー!」

「三人とも、本当に仲がいいなぁ……」

 

 四者四様のリアクションが響き渡る中で、あたしと朔也の非日常的な日常がどこまでも、いつまでも続いていく。

 

 

 




 今年もふじきりをよろしくお願いいたします。
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