《────そういう訳で、饕餮が勁霊同盟に入りたいみたいだから、早鬼も含めてだけど、話し合いの場だけでも設けてくれない?》
《えー……。なぁに簡単に篭絡されてるの、あなたは勁霊同盟の要でしょう。あなたね、今では畜生界を私、早鬼、エスカルゴくんの3人で治めてるようなものなんだから、少しは自覚を持って行動なさい。そう簡単に言いくるめられるんじゃないわよ》
《うん……でも饕餮がどうしてもって言うんだよな。あんな子に頼まれたらさー……断れないじゃん?》
《だから、あなたも饕餮に言ってたでしょ?饕餮を勁霊同盟に入れると、当然だけど饕餮にメリットはあるわ。だけど私達には特に何のメリットも無い。そればかりかロクな戦力も持たない剛欲同盟という足を引っ張りかねない組織が加わるだけ。これを、どう処理するの?》
《もしそんなに足を引っ張るようなら、すぐ俺達の同盟から追い出す。ワンチャンも与えない。どう?メリットは、これから饕餮に考えさせる。饕餮から言い出した事なんだから、饕餮からメリットを提示させるべきだ》
《ダメよ。あなたも考えなさい》
《……分かった。その後は?》
《霊長園で話し合いましょ。饕餮が私達の本拠地に来れないのなら、その時点でこの話は白紙にする。伝えておいてくれる?》
《分かった》
◆
「へぇ、逃げずによく来たねぇ、饕餮?」
「『損して得取れ』と言うだろ?多少時間を無駄にしてでも、この話し合いには来る価値がある」
「というか言い出しっぺがあなただし」
「クックック、違いない」
早鬼は怠そうに欠伸している。早鬼に饕餮加入の話を通した時、二つ返事でOKしたからこそ敢えて呼んだワケだが、つまり勁霊同盟への饕餮の加入を渋っているのは袿姫だけだ。多数決で決めるのなら加入確定なのだが、世界の命運を左右する同盟ともなると、流石に多数決なんかで決められないので、しっかり話し合おうとし、話し合いに対しては渋る早鬼を霊長園まで引っ張ってきたのである。
因みにだが、流石に今回は息子の駆翔は同席していない。この会合に参加するには、まだ若すぎる。
「袿姫は私が、いいや剛欲同盟が加入する事の何が気に食わないんだ?」
「こちらにメリットが無い。それだけ。そもそも、早鬼と手を組んでいるのもエスカルゴくんとの強い繋がりがあるからこそ。饕餮、あなたはたった1日エスカルゴくんと繋がったからって、その程度で、私の信頼を勝ち得る事が出来ると少しでも思った?だとしたら甘いねぇ」
「うーん、敵意丸出しだな!清々しい!」
「当然よね。で、饕餮?私を納得させられるだけの説得材料は持ってきた?」
「いいや?こうなれば力で首を縦に振らせてやる。だから私と戦え」
「ふぅん……。早鬼、エスカルゴくん、外行くわよ。タッグマッチで決着をつけましょう」
「おっ!?なんだなんだ、戦うのかっ!?よーし、やるぞ饕餮!」
ウトウトしていた早鬼は、饕餮の「戦え」という言葉で目を覚ます。頬杖をついていた彼女の頬は、すっかり赤くなっていた。机に垂れかけていた涎をグイと拭うと、肩をグイングインと回して、元気に立ち上がった。
「ああ、背中は任せたぞ、早鬼」
「おうよっ!」
「エスカルゴくんは私と組むわよ」
「はーい」
こうなるだろうなぁ、とは思っていたが、まさか思っていた通りになるとは。しかしダメだ。袿姫と饕餮だと、相性が悪すぎる。欲などがある限り無限復活の饕餮、吸収したモノに染まる饕餮。そして、俺という信仰心により力を増す上に俺や磨弓という器までも控えている袿姫。袿姫に有利すぎる。そもこの場所が霊長園なのが大きい。袿姫の本拠地だ。
これは、饕餮には秘密にしなければならないが、もし饕餮が袿姫の埴輪を吸収すれば、その時点で、袿姫の勝利が確定するのだ。何故なら彼女の埴輪は彼女に忠誠を誓っている。饕餮はそれに染まって、袿姫に忠誠を誓うようになってしまうからだ。
《気付いても言うんじゃないわよ?》
《問題ない。勝てばいいんでしょー?》
《そりゃそーよ。そして、饕餮を拒否する》
《うーん……。でもなぁ〜、饕餮、敵に回したくないタイプなんだけどなぁ。絶対に面倒な事になるよ?極彩組なんかよりよっぽどさぁ?》
《大丈夫。あなたが居るもの》
《俺頼りって事ですね分かります》
《あら、頼りにしてるって良いことじゃないのよ。頼りにしてますよ、器くん?》
《……。今だけは負けても?》
《却下。勝ちなさい》
《善処しまぁす》
《はぁ。ご褒美を用意しなくちゃダメかしらねぇ。なら、今回のご褒美は『まゆけーき丼』よ。今回の労働の対価には十分、見合ってると思うけれど?》
《頑張りまっす……!》
饕餮と早鬼の方は……と言うと、あちらはあちらで作戦会議をしているようだった。しかし、こちらとは違い声に出してのモノなので、作戦も何もかも特に意味を為していない。俺が地獄耳なのを除いても、普通に袿姫にも丸聞こえだからだ。
全く、おバカなんだが、天然なんだか、それともハナから作戦なんて────と考えているのか。
俺にはよく分からない。
「よし、決めた!とにかくヤるぞ!饕餮!!」
「せいぜい足を引っ張るなよ」
「こちらのセリフだ!」
「クックック……そういう訳だ、お手柔らかに頼むぞエスカルゴ♪」
「……はいはーい」
手なんて抜けない。袿姫の目がある以上、やる事やるしかない。即ち、手は抜けないのだ。饕餮が、そして早鬼が相手だとしても、本気で拒否するよう言われてしまったらそうするしかない。
「……神の器としての苦悩だねぇ」
「いや誰のせいだと」
「私のせいだと言いたいのね?」
「そりゃそーよ、だって袿姫が同盟を受け入れたらこんな事にはならないで済んだんだよ?」
「それでもダメよ。でも良いじゃない、饕餮だって実質不死身なんだから、存分にその暴力的なまでの強さを発揮できるわよ?」
「この前、虹牙を相手にスッキリしたからなぁ……。まぁいっかぁ、ストレス発散は幾らあってもいい」
「そうそう、そうよ。ポジティブに考えなさい」
饕餮も早鬼も、何故かニヤニヤしながらこちらを見ている。やる気満々なのはいいのだが、やはり、俺はそんなに気乗りはしない。
つい先日あんなに交わったし、気持ち的な意味で入れ込み具合も半端ない。袿姫の為とはいえ……。
「来ないのか?ならこちらからやらせてもらう!」
「「!!」」
早鬼が動き出す。相性的な問題を考慮してなのか早鬼は俺を襲ってきた。地面に対して水平に、その凄まじい脚力での蹴りを放ってきた。
「埴輪『杖刀人装備・埴輪兵士型』」
「チィッ!相性勝負だと?舐めやがってぇぇ……蹴り砕いてやるッ!!オラララララララッ……なッ!?」
「霊力で強化してるぜッ!!」
「なンだとぉ……!?」
セラミックスの鎧も、霊力強化すれば更に硬度を上げることになる。早鬼の蹴りだって通せない程の凄まじい強度になるなら、これは防御だけではなく攻撃にまで転用できる。
「オラッ!!」
「ぐぶはぁっ……」
拳に纏わせれば超硬度のグローブとして使える。少々心は痛むが、顔面を殴らせてもらった。早鬼は俺を殺せるくらいには強い。そんな早鬼なら単騎で虹牙を殺す事だって出来たはずなのだ。
「ぐっ、手ェ抜いてるのか!?甘いぞ……!!」
「じゃあもう少し強気でやるよ」
「あっはっは、来い、エスカルゴ!!オラァッ!」
「ぶっ」
早鬼の拳が顔面に突き刺さり、俺の前歯が何本かグラつく。こうなればと腹を決めて敢えて舌で歯を折り、フッと吹き矢のようにして吹き飛ばした。
「ひゃっ!?」
「もう1本あるぞ」
「!?」
「喰らえ────」
「お前がなッ!!」
「「ッ!?」」
次の歯を吹き出した瞬間、饕餮が俺と早鬼の間に割り込んできた。すると主な武器としている先割れスプーンで、カキンと彼方へ歯を吹っ飛ばす。もし野球なら、今のは見事な場外ホームランだ。
「饕餮!?」
「クックック、悪いなエスカルゴ……今のままでは、少々不利なのでね。早鬼、『スイッチ』だ!」
「はいよッ!!」
直後、饕餮が俺に、早鬼が袿姫に向かい始める。今度は早鬼が不利になるような気がするがどうやら勝算があるような顔をしている。
すると袿姫は明らかに額に青筋を立てて、早鬼に嘲るように言う。
「おやおや早鬼ィ……あなた、私に逆らってこれから畜生界でやっていけるのかしらねェ……?」
「ああ!今日、初めて私はッ!お前に勝つ!!策があるからなッッ!!」
「面白い、面白いね。見せてご覧、早鬼。あなたの策とやらを……!」
「見ろ袿姫ィ!これが私の秘策だァァァァッ!!」
「そ、それはッ……
「ええっ!?」
空高々と掲げた早鬼が手にしているのはなんと、セラミックスの鎧に包まれた俺の左腕だったのだ。ふと左腕を見ると、何故か鎧が無く、裸の腕だけが鎧の外側に露出していた。
咄嗟に袿姫の力を借りて鎧を再構成。裸の左腕もすぐにまた鎧に包まれた。
「ど、どういう事だ、なんで早鬼が俺の腕を……」
「おいおい、エスカルゴ、嘘だろう?まさかそれ、本気で言ってるのか?」
「饕餮……あの『腕』は何だ?俺の腕だよな?袿姫の鎧を
「ああ、紛れもなくお前の腕さァ。さっき、早鬼はお前の顔面をブン殴ったろう?その時にブチィッと引き千切ったのさ♪」
「あぁ、あの時か……そりゃ気付かねぇわ」
ポンと手を打つと、饕餮は相変わらず喉を鳴らすように笑う。早鬼は血の滴る俺の腕を振って袿姫をおちょくっている。あっはっはっはっは、と豪快に笑っている早鬼は、やはり何度見ても可愛らしい。
「いやいや、流石に気付くわよね!?」
「いや。流石に顔面の陥没と歯が折れるダメージの方が大きくて……腕の欠損なんか気付けそうにない。しかもあの時は視界も損なわれてたし、頭にだってダメージあったから意識も途切れかけてたし……」
「嘘でしょ!?腕の痛覚、死んでるんじゃない!?何で千切れて気付かないの!?」
「複数箇所に痛みがある場合、より強い方の痛みを優先して感じちまうのは肉体的に正しい反応だよ。人間だってそうさ。例え骨折してたとしても箪笥の角に小指をぶつけた瞬間なんて、骨折の痛みすらも忘れられる。とはいえ、こう言っちゃ悪いが早鬼がこんな作戦を考えられるとは……」
「クックック……」
「発案者はお前かぁ饕餮ぅ……」
「フン、だったらどうした?」
「……まずはお前の行動を封じてやるさ。んでもって袿姫のサポートにまわる!」
「あァそうしろ、間に合うならな!!」
先に饕餮を行動不能にしようと一気に強襲する。饕餮も、先割れスプーンを振り上げて迫ってくる。俺はまだ武器は使わないでおく。
スプーンと刀剣類では俺に利がある。というか、ありすぎるくらいだ。
彼女の鋭い突きを回避、そして反撃に転じようと立ち回っていると、袿姫が、これまた鋭い叫び声を上げた。
「というかエスカルゴくんッ!なんで千切れたあの腕は消えないのよッ!?」
「畜生界に太陽は無い。消えなくても仕方ないよ。それに、仮に太陽があったとしても、腕本体は鎧の中。日光が遮られている以上は、消えないよ」
不老不死化の前は腕を地面に埋めたりして復活の材料にしていたくらいなのだ、それくらいの事ならすぐに気付けるしそれくらいの事で慌てやしない。
「……!そうだわ、それなら私が鎧を解除……」
「させないぞ!喰らえ袿姫、私の蹴りをッ!!」
「蹴りですって?甘いわ!あなた如きの蹴りなんて私の埴輪達で受け止められ……」
ポイッと俺の腕を空中に放る早鬼。そして左足を軸にして身体を傾ける。思い切り本気らしい右足の蹴りの姿勢を見せる早鬼は、自由落下してきた鎧に包まれた腕を、思い切り蹴り飛ばした。
「
「ッッッッ!!?」
何体もの埴輪を一瞬で創造し、流星のように発光しながら宙を翔ける「腕」を受け止めようとするが
「腕」は埴輪達に巨大な風穴をあけ、その向こうに立っていた袿姫をも吹っ飛ばしてしまった。
咄嗟に袿姫を守りに行こうとするが饕餮に阻まれ移動が遅れ、すんでの所で袿姫に手酷いダメージを負わせてしまった。
「あ……倒れちゃった。とりあえずベホマかけよ」
「さァどうするエスカルゴ、継戦か?」
「いやぁ、降参するよ。だって俺はハナから饕餮の同盟入りには賛成だしな。ね、袿姫?……ありゃ」
「気絶してるから話はまた後で、だな。よし、おいエスカルゴ、霊長園観光にでも行こうじゃないか!案内してくれ!当然お前も来るよなぁ、饕餮!?」
「クックック、当然じゃないか。同盟相手の事は、よーく知っておかなくてはな♪」
その後、傷を癒した袿姫はとりあえずベッドへと寝かせておいて、俺の案内の下、2人を案内した。道中、磨弓との戦闘にもなりかけたが、その時にはなんとか言いくるめて場を収めた。
そして、気絶から目を覚ました袿姫は、饕餮及び剛欲同盟の勁霊同盟への加入を渋々了承。こうして同盟の名目を「勁剛霊三者同盟」と改めた。
俺としては、外の世界の知識もあるので「勁剛霊三国同盟」の方が良いのでは、と言おうとしたが、国ではない以上、仕方ないと思う事にした。
そしてここから、俺の欲望がちょっとずつ暴走し始めることになる。
ジョジョ好きの方なら、早鬼が袿姫を攻略する為の饕餮の案の元ネタが分かるかもしれないですね。
6部の
(饕餮がジョジョを履修してるのではなく作劇上の都合みたいなもの)