自己満足、そして独善
「ん〜ッ、相変わらず鈴瑚の団子は美味しいねぇ。ストロベリーがやっぱイチ推しだなー、ってこれ、毎回言ってるわな」
「ふふ、いつもありがとー♪」
「ちょっとちょっと、エスカルゴさーん。清蘭屋の団子ももっと食べてよね!」
「はいはいこの後そっち行くから。いつも通りな」
「やったー♪」
「ちょっと清蘭、まだこっちのお客なんだから変に勧誘とかしないでよね」
「なによ、別にいいじゃーん」
「ったくもー……」
特訓漬けの日々の中で、たまに、サボりたくなるときがある。そんな時は里の甘味処、そして鈴瑚や清蘭の団子を食べ、そしてまた特訓に戻るのだ。
それにしてもこの鈴瑚と清蘭、20年以上こうして幻想郷に居るワケだが、月の都に戻らなくて良いのだろうか。まぁ戻ってもロクな労働環境じゃないし戻らない方が彼女達としても心が軽いのだろうが。
「どしたの?すんごい神妙な顔して」
「ん?まぁ……あれだ。気になった事があって。でももうどうでもいいよ」
「えー何それ、気になるんだけど?」
「言ったら多分、気を悪くすると思うよ」
「イイよイイよ、言ってよ。気になるもん。ねぇ、清蘭?」
「そうね、気にならないって言ったら嘘かも」
それは俺も同じだ。2人が、自身のおかれているこの状況に対してどう思っているのか。これが気にならないと言ったらそれこそ嘘になる。
とはいえ言うワケにいかないような気がするが、2人がそう言うなら、2人から批判されるのも覚悟した上で聞いてしまってもいいかもしれない。
「……じゃあ言うけどさ。2人は、月に戻らなくても良いのか?一応、籍はあっちにあるんだろ?仲間はとうの昔に撤退してるようだし、もしかして脱走兵扱いされてないか?と思ってさ」
「なーんだ、そんな事か。そりゃそーよー、私達はエスカルゴさんの幻想入り前からこうして団子屋をやってんだよ〜?脱走兵扱いされてるに決まってるじゃ〜ん?」
「依姫や豊姫、レイセンはたまに幻想郷に来るが、そういう時も平然と屋台やってる……のか?」
「いやいや、流石に無理。月の使者が来てるのに、平然とは無理だよ。そういう時はね、永遠亭に居る鈴仙に教えてもらって、一時的に屋台を撤収して、身を隠してるの。脱走兵ならではのスリルだよね」
「裏切り者は殺せって規則があるからね。ホントに怖いよね、月の都はさ。鈴瑚だって、今だからこそこんなに平然としてるけど、鈴仙から『依姫様達が来た』って連絡が初めて来た時なんて、それこそ、この世の終わりじゃないかってくらい慌ててたし。多分、いや、確実に私も同じだったけどね」
「うん、あの時は心底ビビった、間違いない。否定しようのない事実ってやつだわ」
「うーん、怖いな。なぁ、月の都、ぶっ壊さん?」
「あはははっ、物騒〜!」
「でもこれからも私達みたいに脱走兵が出てこないとも限らないんだよね。あんな窮屈な所、さっさと抜けたいと思うのが自然だよ。待遇も悪いしねぇ」
「玉兎の待遇が悪いってのは鈴仙からも聞いたな。奴隷にも近い扱いなんだろ?」
「そうそう。てか嫦娥様ってなんなの?罪人なのに女神?罪人なのに部下の玉兎が代わりに薬を搗く?どういうこっちゃ!って感じだよね。私達の部隊はともかく嫦娥様の部下の玉兎が一番キツいと思う。私なんかは、玉兎の中では上の方ではあったしね。ねぇ、清蘭?」
「はいはいそーですねー」
そんな時、ふと思い付いた。
邪魔な奴を全員殺せばそれで解決ではないかと。王が不在ならそのまま乗っ取ってしまえば玉兎達の扱いも完全に良くなるのではないか……と。
「……エスカルゴさん、悪い顔してる〜」
「え?」
「なんか良からぬ事を企んでるって顔してるねぇ。何考えてんの?」
「ヒミツ〜」
「えー?言ってくれてもイイじゃーん?そういうの気になるんだよねー。私の秘密も言うからさー?」
「ホントかぁ〜?じゃあ言うけどよー。……月の都を乗っ取っちまえばいいんじゃあねーかなぁ?って、そう思ったワケよ」
「エスカルゴさんらしい物騒な考えだね〜。じゃあ次は私の秘密ね?……私、まだ処女だよっ♡」
「!!」
「お誘い待ってまーす♡……なんちゃって♡」
「えー?鈴瑚、なんて言ったの?」
「ヒ・ミ・ツ〜♡」
◆
鈴瑚には冗談っぽく言った俺だったが一応あれは本音のつもりだ。王が不在ならやりようは幾らでもあるはず。嫦娥の幽閉は継続したとして、実力者や権力者を皆殺しにするだけで済むと思うが、一体、それを実行に移した場合、どうなるだろう。
とりあえず第四次月面戦争が始まるとは思うが、1vs多数だなんて、戦争などと言えるのだろうか。
それに加えて、一応は鈴仙や輝夜、サグメの故郷であり、永琳の直近の故郷であるとも言える。ならもし俺がこう思っている事を暴露すれば絶対に反対されるだろうし、これから俺に対する当たりが強くなるかもしれないのも、ほぼ確実だろう。
永遠亭にて、サグメの横顔を眺めながら、俺は、どうするのが正解なのかと物思いに耽る。自己満足だが、まだ見ぬ玉兎達をも助けたいと思っていた。何故ならウサ耳女子はそれだけでエロいからだ。
「……どうしたの?私の顔……じっと見て」
「うん……サグメ、綺麗だよなぁって」
「!?ど……え……あ、の……急に……どうしたの……」
「見た目は言うまでもないな。綺麗すぎるその気配というか、纏う空気というかさ。まだまだ穢れには程遠い、澄んだ気配してるよ、サグメは」
「そう、なのだろうか……。私は一刻も早くあなたに染まりたいから……そう言われると、複雑な気持ちになるけれど……」
「そんな真っ直ぐな目で俺を見ないで。何だろう、サグメの前だと……隠し事が出来なくなっちまうな。どうしてだろうね、心を読まれるワケでもないのに自然とそうなっちまう……」
「隠し事?……私に、教えて……くれる……?」
「……月の都の、大改革さ。玉兎の扱いがあまりにも酷い。あまり思い出したくないが、サグメが地上に来た時だって一悶着あったろ」
「……あった」
「月夜見様、だっけ?ずっと不在なんだろ?じゃあ代わりに俺が統治、とまでは言わねえけどさ。俺は玉兎が好きだから、皆の待遇を改善したいんだよ。大体よ、裏切り者は殺せ……って、そんなん残酷で、しかも無意味だろ。それで何が残るってんだ」
「……」
「まっ、俺なら裏切り者は殺すけどさ」
「……説得力皆無」
「あはは、そーだな。……な、サグメ。本音で答えてくれ。地上に降りて数年経った今だったらサグメも冷静に考えられるだろ。……月の都は狂ってるか?」
「狂っている。それは断言できる。きっと、鈴仙も同じように答えるはず」
真っ直ぐな目で、サグメは言う。恐らく、本気でそう感じているんだろう。寿命が無いからなんだ。穢れが無いからなんなんだ。
どうせ高みの見物ばかり決め込んでいて、背後に忍び寄る魔の手に気付けないのだから、それなら、手っ取り早く滅ぼしたって同じことだ。
「ああ。聞いたさ。月の都はまさにルナティック。どこまでも狂気的で、そして独善的……端的に言えば腐ってる。でも多分、これは地上と同じなんだなと思うよ。『自分にとっての常識は、相手にとっての非常識』とも言うけど、まさにそれだ。きっと月の常識は地上の非常識、地上の常識は月の非常識だ。絶対、この両者は分かり合えない」
「……ええ。そんな感じは、する」
「ね。……あ〜あ、今こうしてる間にも、嫦娥の罪を贖う為に薬を搗いてる玉兎が居るんだろうね」
「それは……否定できない」
「否定しようがないでしょ。清蘭だって、かつてはその役目を負ってたんだしね。で、嫦娥は不老不死だから、玉兎のその仕事は未来永劫、終わらない。なんて不毛で、無意味で、残酷なんだろうね。罪を背負うのは、赤の他人じゃない。他でもない本人が背負うべきなんだ」
「……あなた、一体、何を考えているの?」
少々鋭い目を向けてくるサグメ。無表情、しかし瞳の奥には口調と言葉に合わない確信めいたものを感じられる。きっと俺が言わずとも分かっているんだろう。だがその答えを直接俺の口から聞きたい、そう思っているはずだ。
「うん。やっぱ月の都、ブッ壊そう。俺の独善だ。完全に自己満で独善だ。でも我慢できない。せめて腐った賢者共だけでも殺そう。俺のサグメを責めた月の賢者共はジワジワ嬲り殺しにしてやる」
「……私も同行する」
「いやぁ……危険だからサグメは待っててよ。てか、故郷が俺に壊される様を見てどうするのさ。それで俺が嫌われちゃ、やーよ?なんてね」
「大丈夫。そんな事で、私はあなたを嫌いになんてならない。最初から目的を聞いているのだから」
「あらそぉ……。それは嬉しいね。やっぱりサグメ、少しずつ俺に染まってきてるみたいだね」
「そう……?嬉しい……♡」
「普通、自分の好きな人が大殺戮をすると分かれば止めようとすると思うけどね?」
「成程。でも私もあなたと同意見。私にも、部下の玉兎が居た。他の賢者達よりずっと彼女達を大事にしていたと、今でもそう信じている。でも、それはあくまで『私の部下』。玉兎全体を思えば、それは一握りですらない。……皆を助けたいと、私は思う」
「自己満でも?」
「自己満でも」
「綿月姉妹からはどう思われるだろうな」
「……あの2人も、実は賢者達に対して大きな不満を持っている。私を詰問した会議があった。その時も2人は私の味方をしてくれていた。賢者達よりも、ずっと立場が弱く、罰せられるのを覚悟の上だったあの2人は……あの時の私にとっては救いの女神にも思えた。あの2人に背中を押されたからこそ、私は今こうして地上に居られる」
「ふぅン……。じゃあ賢者とかそれに類する者だな。殺すとしたらね」
「それがいい。そして月の使者たるあの2人を月の実質的な支配者に据えようと思うが……エスカルゴ、あなたはどう思う……?」
「俺も同じ事を考えてた。紫さんがなんて言うかは分かんないけど、とりあえずあの姉妹を月の頂点に据えれば月はどうにかなる。腐った部分は切除して新陳代謝を促さなくっちゃな♪」
◆
「というワケで俺は賢者共と戦うから、レイセンに伝えてよ。綿月姉妹とは戦うつもりはないからね。
『ある日突然賢者が死ぬと思うけど気にしないで』とでも言えば、意図は伝わると思う」
「え……そんな軽いノリで戦争ってできるんだっけ」
「鈴仙。俺にシリアスなノリを求めちゃいけない。俺は基本的に楽観的なんだから」
「……。本当に月の都と戦争するのね。いつ出発するつもりなの?場合によっては私も同行するわ」
「優曇華院」
「……うん?どしたの?」
「あぁ、鈴仙はジョジョ未履修だったんだっけ」
「じょじょ?あぁ、エスカルゴがたまに読んでる、とにかく絵が濃いあの漫画?」
「そうそれよ。この前読んでたのは三部時点だからまだ濃いよね。ネタが使えそうなら使う、オタクの悪い癖だね。やれやれだ」
「……まぁいいや。じゃ、レイセンに伝えてくるね。ホントにあんな文でイイの?」
「大丈夫だ、問題ない。どうせ賢者なんてそんなに多くないだろ?戦争というか暗殺だろうしな〜」
「結構多いわよ。『
「はっ!?」
初耳だった。あまりに多すぎる。予想では数人のはずだった。それこそ三賢者だとか、その程度だと思っていた。十三……十三賢者は流石に多すぎる。
「あ、でもお師匠様が抜けた所はずっと空席だったはずだから、今は十二賢者かもね」
「サグメも抜けたろ。そんでストーカー賢者も俺が殺した。となると今では十賢者か?」
「ううん、それならすぐ補充されるわ。お師匠様は月都の創設者の1人でもあるから別格扱いなのよ。だからサグメ様とその賢者の空席はすぐ埋まってるはずよ」
「うわぁ」
それにしても意外だ。賢者共は、永琳を「地上に堕ちた」などと言っていたらしいが、それで永琳の席を空席にする程度のリスペクトする心はまだあるなどと言うのだろうか。
俺が殺してやったあのストーカー賢者が特別ゲスだった……というのなら納得ではあるが。
「この『13』は確か、十二星座に蛇使い座を加えた
『13』が元になってるって聞いた事があるわ」
「へぇ……。西洋占星術も十三星座だけど、そこにも十三星座が使われるのか」
アスモデウスから得た秘術により、俺も今は西洋占星術に通じている。そこまで精通はしていないが常人以上の理解はあると自負している。
「ええ。だから賢者だけを殺すなら12人ね」
「了解した。にしても鈴仙、エラく乗り気じゃね?なんでだ?綿月姉妹に仕えてたとはいえ、賢者達も一応は元上司に当たるんだろ?」
「元上司と元仲間、どちらが大事って言われたら……選択の余地なんて、無いでしょ?」
「……それもそうだな」
◆
「やっぱり月に行くんだ。いつ出発する?私も同行するよ〜」
「ロリ優曇華院」
「……あははっ、エスカルゴってばまたジョジョネタ使ってるじゃん!また『悪い癖』、出てるよ〜?」
「相手が巫月だしな。隠れてジョジョ履修してんの俺が知らないとでも思ったか?てか巫月からネタを振ってきたんだろ」
「その方がエスカルゴとの会話のネタが増えるし。あ、香霖堂の人、怒ってなかった……?立ち読みしかしてないんだけど」
「霖之助?朱鷺子かな?それくらいで怒らないよ。大丈夫」
「それなら良かった〜」
「てか霖之助くらいは名前覚えろな」
「エスカルゴと弟達以外の名前は覚える気ないよ。他の男のデータなんて無駄無駄。無駄なんだもん。そうでしょ?」
可愛い無駄連呼に、思わず股間がキュンとする。流石は愛娘。仕草からセリフから全てで男を、いや俺をキュンとさせてばかりだ。
家族以外覚える気は無い。霖之助には悪いが酷く興奮してしまう。
「それもそうか。……幻想郷にジョジョを持ち込んで良かったよ。オタク友達と話してる気分だ」
「だね〜。私もスタンド欲しいな〜」
「俺はレッチリが欲しいな。俺の能力の強化版だ。俺の能力も鍛えればあの域に達すると思うけどな。そう思わないか?」
「流石にモノを電気化させられたら強すぎると思うけどね」
「それは分かる。でも、スタンドも俺らの能力も、できると信じるのが強化への近道さ。あ、それと、話は逸れたが巫月はお留守番な」
「え〜!?」
「暗殺に行くんだ、子供の教育に良くない」
「近親相姦は子供の教育に良いとでも?」
顔が引き攣る。あまりに尤もな返事。あまりにも心に刺さり、抉るような答えだった。そりゃそうだ近親相姦が子供の教育に良かろうはずもない。
だから暗殺に連れて行けと。言いたい事は分かるけれどもどうにもできない。困ったものだ。正論に俺は弱い。邪論で論破したいのだが……。
「それを言われると弱いがとにかく留守番だ。まだ巫月には早いよ。いいな」
「はぁい……。じゃあ今夜は寝かさないよ?」
「上等だ。親子丼でもしようか?」
「あはっ、鈴仙にまた怒られるよ?鈴仙だってすぐ目の前で近親相姦の現場見たくないって怒っちゃうくらいなんだからさ」
「そこは
「あ〜。出ましたご都合能力」
「ご都合能力とか言うな」
「事実じゃん?」
「上手く使えたなら自分に都合良くできるっていう意味なら、そうだな」
「とにかく、今日は私とエスカルゴの2人だけね!親子丼はまたの機会に!OK?」
「はーい」