「というワケでやってきました、月面〜」
「本当に一瞬……凄い……。第四槐安通路より……」
「何度も来たことあるからねぇ。スキマだと秒さ」
あれから軽いノリで月へ移動してきた俺達。都に侵入しようとスキマを開くも、俺のスキマは結界の手前までしか繋げられなかった。
能力が成長したはずの今でも、空間を捻じ曲げる俺のスキマでは、紫さんのスキマのように月の都を囲む結界には通用しないらしい。
「まぁた強引に破壊するしかない、か。やれやれ、相変わらず月の都への侵入は一苦労しますなぁ」
「私も手伝う」
「大丈夫だよん、俺1人でもどうにかなるからね。サグメは少し離れて待ってて」
「……イヤだ。離れるのは、寂しい。寂しいのは嫌」
あまりに可愛すぎてキューピットの矢がハートにずきゅんどきゅん刺さりまくる気がした。本当に、本当に……サグメは……。
「分かった、あまり離れなくていいよ。でも、怪我するかもしれないから結界は張ってて」
「分かった」
《……つーワケでちょちょいのちょいっと都の結界をブッ壊すんで、力を貸してください、神様方ァ!!可愛い彼女の前でカッコつけさせて!!》
《その「可愛い彼女」もこの会話を傍受できる事を忘れてなければカッコ良かったのにねぇ。本当に、エスカルゴくんは慌てん坊だわ〜。んもう、まるで子供なんだから》
《あっ》
背後のサグメをチラリと見やると、顔を赤らめた彼女がプイッと顔を逸らす。やはり、可愛すぎた。やる気も出てくるし尊みが増してくる。
「神双剣『神・
深呼吸一つで落ち着きを取り戻した俺はあくまで落ち着いて剣を二振り装備し、神々から受けた力を全力で剣に込める。
そして
「凄い……月で最高強度の結界を、一撃で……」
「……へへっ、とまぁ力を借りればこんなモンよ!」
「流石……それしか言えない……」
「にひひっ♪」
頬が緩んで仕方ない。これから、13人の賢者達を殺さなくてはならないので、ペチンと両頬を叩いて気合いを入れ直す。
すると、都に侵入しようとするも、けたたましく警報が鳴り響いた。同時に、玉兎達の慌てふためく悲鳴にも似た声が聞こえてきた。
「さぁ始まりました、賢者暗殺チャレンジっ!まずサグメさんには、陽動をお願いしてありますので、サグメさんには早速、都に侵入して頂きまぁす♪」
「え、あ……ええ、そうだけれど……」
「そして私は!上空から屋敷を爆撃しまぁぁぁす!破壊欲も満たせて一石二鳥だね!ではまたあとで!サグメ!!」
「……どうしたの?様子が変……」
「……彼女相手に、あんま言いたくないんだけどさ。ぶっちゃけ、興奮してるんだよ。言い訳みたいになるけど、やっぱ悪魔としての
「エスカルゴ……」
少々寂しそうな、可哀想な子供達を見るような、そんな目を向けるサグメ。そんな顔させたくない。だが嘘をつくのはもっと嫌だし、もし嘘をついたらサグメだって「信用されてないのかも」と考える。
だから、嫌われるリスクを考慮した上で、いつも馬鹿みたいに正直に言うのだ。
「ほらほらサグメ、玉兎の引き付けお願いしますよホントに!任せたよ!じゃ、またあとで!」
「任された」
サグメには、お守りとしてあの折り畳みナイフを渡してある。だから大丈夫、俺は俺の事に集中し、賢者達を皆殺しにしてやるまでだ。
とりあえずは、上空から目視しつつ玉兎の気配を探る。玉兎を使って自分と屋敷を守ろうとしている賢者は、13人中15人だ。
何を言っているのか分からないと思うが、実際、玉兎が多く集まっている屋敷が15ヶ所も存在する。
「……うーん、死刑!疑わしきは罰せよ、だよなっ!一閃『Mishap of Thunder』!!」
星々の煌めく真っ黒な空によく映える、真っ白に輝く魔法陣を広げる。ある程度その魔法陣を広げ、屋敷を貫くように、一筋の雷を落とした。その際、透過レーザーの如く、物理的に屋敷等を破壊しないような落雷にしたので、屋敷の中に居る玉兎含めて全員が全身麻痺程度になっているはずだ。
あとは、賢者っぽい者を見付けたなら殺すだけ。極めて簡単なお仕事だ。
この豪華な屋敷は、賢者抹殺後に玉兎達の宿舎にしてしまえばいい。だからこそ壊さないでおいた。使える物なら使ってしまおう。それでいい。
当初は爆撃にしようと思ったが、そうするよりは建設的且つ有益だろう。
適当に近くの窓を割ってやり、屋敷の中に侵入。すると、避難しようとしていたのか、複数の玉兎に手を引かれる形で1人のショタが倒れ込んでいた。逃げる途中に俺の透過レーザーを受けたらしい。
「さてさて、賢者は何処だろ〜か。居ねぇなぁ……。もしかしてお前か?まだ子供だねぇ。妖舞よりは、少しは肉体年齢も上かな。でもショタだな」
「あ……う……!?」
「可愛い顔したショタじゃん。少しだけ惜しいね、痛くないよう殺すね」
「……ッ!?」
「でも待てよ?子供の賢者なんて居んの?月の都も少しは多様性を重んじるようになったのか?なぁ、お前?」
「ち、が……うっ……僕、は……っ」
「痺れて上手く喋れないのね。叫ばないなら麻痺は治癒させられるがどうする?帯電してんのを改めて吸い取ってやんよ。首を振って答えてくれ」
目に涙を溜め、その雫が弾け飛ぶくらいに、首をブンブンと縦に振る謎のショタ。賢者ではなさそうだけれども、もし賢者やそれに類する者の子供ならコイツも殺さなくては。
もし見逃せば、次の争いの火種となってしまう。だから、殺るならあくまでも徹底的にだ。
「で?お前は誰の子供だ?賢者か?それともそれに類する者の子供か?もしくはその他、一般の月人の子供か?正直に答えろよ。俺には嘘を嘘と見抜ける能力があるんだ。分かるよな?嘘をついたら殺す」
もはや恒例となった「いつもの嘘」をつき、まだ幼い子供を尋問する。見た目年齢は息子達と大して変わらない子供だ、俺だって殺したくはない。だが九分九厘コイツも殺さなくては前に進めない。
どうか一般月人の子であってくれと、心底願う。賢者、そして賢者に類する者は皆殺しにするつもりだからだ。
「……賢者に類する者の子供……です」
「そうか……残念だ。……親を恨め」
「待っ」
その後オッサン賢者を13人、自称・賢者に類する者を1人殺した。こうして見ると、揃って馬鹿正直なんだなと思う。賢者はキッチリ13人だし、賢者に類する者も、恐らく正直に答えている。尤も奴らを信じるのなら、の前提あっての話ではあるのだが、恐らくプライドだけは高い奴らだし、身分を偽る事だけはしたくないのだろう。
因みに、賢者の指揮の元で玉兎部隊と数回戦闘に陥ったが、そういう時は落ち着いてスキマを賢者の背後に開いて、手で首をへし折ってやった。それで済むのならそれでいい。
戦闘中にそんな事をするものだから、残念ながら何度かは撃たれてしまったが……。とりあえず玉兎は誰も死なせていないはずなので、俺が死んで済んでいるならそれで良しとしよう。
鉛玉の痛みとその熱さへの耐性も出来たし、まぁ良かったと前向きに考えておこう。
◆
俺が最後の賢者を殺す少し前。桃の木に囲まれたとある広場にて、サグメは、玉兎達と軽く談笑して玉兎を引き付けていた。そして玉兎に引き寄せられ更にまた遠くの玉兎がやってきて、さながらオフの有名人に群がるファンのような構図になっていた。
「さ……サグメ様……!?」
「……久しぶり」
「サグメ様ですよね!?どうされたんですか、また月に戻って来られるだなんてっ……!でもっ……でも嬉しいですサグメ様っ……!」
「……今回は月の改革に舞い戻った。またすぐに私は地上に戻る。月の体制は崩壊する。
「……あの〜……お言葉ですが……」
「何?」
「サグメ様が口にすると……反転しません……?」
「大丈夫。私が反転させてしまった運命など、彼がその力で捻じ曲げてくれる。運命は絶対。今の私は真実しか口にしない」
「でもっ……し、失礼ですけど、サグメ様の彼って、確かその……穢土の吸血鬼、ですよね?そんな吸血鬼なんてのにそんな力が……」
「ある。彼は望んだ未来を必ず手に入れる。だからあなた達玉兎も、これからは、上司達の横暴な振る舞いに振り回される必要も無い」
「……ってサグメ様、月を抜けたばかりか賊の侵入を幇助!?幇助したんですかっ!?」
「……した。した、のか。というか、された……?」
「そ、それはちょっと……すみません、サグメ様……もう見過ごせません」
「ッ!?……待って。敵対するつもりは無い」
「分かってます……分かってますっ……!!だけど、それでもダメなんですよ……規律違反で、私達の方が罰せられるから……ッ」
「その規律も、今、消える。あなたを罰する上司も全てが消えるから。だから心配ない」
「……全体、構えッ!!」
「……罰せられるのが怖いのは、仕方がない。だから私は、たとえ撃たれても誰も責めない……」
引き付けた玉兎達が、震えながらも銃剣を構え、サグメを囲む。多くの銃口に囲まれながらも彼女が焦る様子は無かった。絶対に助かる、そして都から退却すると、確信を持っていたから。
「や……やめましょうよ、XXXさん……サグメ様は敵じゃないですよぅ……」
震えながら構えつつも、隊長格の玉兎に反対する意見を述べる複数人の玉兎。けれどもその隊長格は規律に厳しいタイプらしく、一度はサグメを見逃しスルーするつもりだったが、侵入幇助をしたと白状してしまったサグメを見逃すほど寛容ではない。
「全体、撃てーーーーッ!!」
「「「うっ、うわあああああぁぁぁっっ!!」」」
当たらない。鉛玉がサグメを貫く事はなかった。サグメを球体の電磁バリアが囲む。更に超電磁砲のようにローレンツ力により弾き返して、それぞれの銃弾を玉兎達にお返しした。
「「「うぎゃっ……!?」」」
「これが……『お守り』の力……」
俺の折り畳みナイフは小傘製。そして妖魔雷霊剣制作時のように俺の力が込められているのでもしも異物を感知したなら自動で発動する。速ければ速い程、勢いがあればある程、発動する。
「うう……痛い……」
「カウンターとして発動するこのバリア……、そう、私には銃弾なんて通用しない。そしてそろそろ……」
ふい、と目線を上げるサグメ。するとその視線の先に、威力は控えめだが酷く大量の雷が降り注ぐ。屋敷ごと粉砕しているような、そんな威力だった。
サグメを囲んでいた玉兎達が悲鳴を上げその場に蹲るが、サグメだけはそこをじっと見つめていた。
「……終わった。今、この時から、月は変わる」
「え……?」
最後の賢者を殺し終え、どこか肌ツヤがキレイになった俺はサグメを迎えに玉兎が集まっている所を目指して飛行。その場が見えてきた時、まだ遠くのサグメと視線がぶつかった気がした。
電磁バリアの発動を感知したが、一応無事そうでよかった。銃を持っていたらしい玉兎だけは、己の銃弾で怪我をしてしまったらしいが……。
「おかえり」
「おうよ。終わったぜ、引き付け役ありがとな」
「これしかできないから」
「これしかさせねーんだって。サグメの手はずっと綺麗なままであってほしいからねェ」
「もうっ……」
「「「ぞ、賊だぁぁっっ!!」」」
「オメーらの上司、月の使者と嫦娥以外全滅だぜ。さ、後は月の使者の2人に従って、月を再建しな」
バチコンとウインクし、サグメの手を取り地上の幻想郷に瞬間移動。都の結界は、まぁ、綿月姉妹が戻ってくればどうにかしてくれる筈だ。あの2人も俺に結界が壊されるのを込みで俺に依頼したのだ。だから文句を言われる筋合いは無い。
「……結局、何人を?」
「合計15人。賢者13人で『賢者に類する者』は2人だったかな。屋敷も15件だ。そしてその15件全部が玉兎により警備されてた。サグメは、その『賢者に類する者』とやらに心当たりはあるか?」
「全く無い。『類する者』とは何の事だろう?」
「最後の屋敷に最後の賢者が逃げ込んでた。なんか
『十三賢者の第壱席』がどーのこーの……」
「第壱席?……八意様の空席を埋めた者か……」
「そういう階級的なのがあったんだね。サグメは、その序列では第何席だったんだ?」
「弐」
「……つまり実質的にトップじゃあねーか。そりゃ、ヘカ純ピースの3人で嫦娥の元に向かった時だって出てくるよな。実質トップはまさに文武両道だろ。さっきの最後の賢者だって結界術みてーなの使って抵抗してきたぜ?霊夢や永琳先生に比べりゃあカスだったけどよ」
「然り。第壱、弐、参席は特に高位の者のみ。もし頭脳だけなら、肆が最高位となる。参以上は頭脳も強さもある程度は必要」
「……ま、俺くらいになれば大して変わんねーけど。やっぱ永琳先生とサグメは別格なんだな。かなり、質が落ちてたぜ」
「玉兎や……部下に頼りきりだからそうなる」
「ははっ、違いねーや。永琳先生なんて自分で研究するし、サグメだって自分で前線に出てるもんな。やっぱそういうのって大事なんだな」
「……そう、だと思う」
そして綿月姉妹に事の顛末を全て報告。傷付いた玉兎が出てしまった事、姉妹の「玉兎によって警備されている屋敷」を襲撃した事、第壱席の賢者だけ屋敷ごと破壊した事……。
更に、傷付いた玉兎の怪我を治さなかったのは、サグメに攻撃した罰であり俺の私情であることも。
2人は苦笑いしつつも、まだ混乱の残る月の都に帰って行った。
◆
「ただいま戻ったわ。ごめんなさいね、敵の暗殺は失敗してしまったわ」
「これから、賢者様方に報告に行きたいのですが。頼みますから玉兎達、道を開けなさい」
「豊姫様っ!依姫様ぁっ!」
「あら?……えぇと、何かあったの?」
「そ、それが、先程撤退した賊が御二方のご自宅も襲撃したとの報告がありましてっ……」
「「え」」
賢者に「暗殺の失敗を報告に行く」という嘘話で玉兎を惑わそうとするが、逆に玉兎の報告が2人を惑わせてしまう。豊姫と依姫はそこから別行動に。
直後、豊姫は自宅で夫・
同時刻、依姫宅。
「……そんな……」
「申し訳ありませんでした……。私達、救援の玉兎が到着した時には……
「嘘……嘘よねぇッ!?なんであなたが……ねぇ!?なんであなたが殺されてるのよッ!?ねぇっ!目を覚ましてよ!起きてよ!起きてったらっ!!」
「やめて下さい依姫様っ!」
「離しなさい!彼は眠っているだけよっ……!」
「落ち着いてください依姫様っ!彼は……もう…………黄泉の国へ行かれたのです……もう、どうすることもできないのです……!!」
「うっ……うわぁぁぁぁっ……あああああああっ……」
「お詫びの言葉も……ありません……。護衛の玉兎は眠らされただけだったのですが…………どうしてか、この方だけが賊によって……」
「…………護衛……ですって?どう、して……?」
「と……仰いますと?」
「どうして……ここを……彼を護衛したの……?」
「え、と……地上からの宣戦布告の通りに、賢者様を皆殺しにされるからと、依姫様の旦那様も、すぐに護衛するようにと、レイセンさんから……」
「────ッ!!」
依姫は失念していた。自らが席を外している時にこのような事態が起きた場合に、
レイセンは、戦闘力こそ鈴仙に劣るものの、頭の回転の早さは勝るとも劣らない。緊急時にこそその強さを発揮できる、優秀なペットであり部下だ。
そう、レイセンは完全に善意で依姫邸と豊姫邸を護衛するようにと玉兎達に指示を飛ばした。しかし
「玉兎に守られている大きな屋敷」を目印に動いたエスカルゴは、綿月姉妹の邸宅と知らず襲撃、更に当主を殺害したのだった。
「ああ……やはりあの男に任せてはならなかった……こんな事になるなら、謀反人の汚名を着せられても自分で動くべきだった……!!」
「……依姫様?」
「……奴を信用したのが間違っていた……。たとえ、私を汚した不届き者だろうと……月都の為ならばと、苦渋の思いで……げほっ、ごほっ……おええっ……」
「依姫様ぁっ!!」
極度のストレスが一気に襲い掛かり、依姫は嘔吐してしまう。周りの玉兎は急いで掃除道具を用意し依姫を介助する。それでも依姫はそろそろ心身共に限界に近かった。
かつては敵、けれども、
しかし、元はと言えば自分が変に割り込んだ事が遠因と言えなくもない。そうすれば自分の手で夫を守れたのは間違いないからだ。
綿月姉妹は下手に地上と関わった事を後悔した。
こうして、綿月姉妹は同時に愛する旦那を失い、豊姫に至っては息子も失い……こうして月の実質的な支配者が2人になったのにも関わらず、暫くの間、月は活気が全く無く、枯れたような無機質な日々が続いたという。
綿月姉妹は、自分達が賢者達の暗殺を許した以上エスカルゴを、レイセンを責めることはできずに、未来永劫、この残酷な現実を、胸の内に秘めておく事に決めた。
そして、善意からとはいえ己の行動によって上司2人に絶大な不幸をもたらしたレイセンは、玉兎の報告を聞き事態を把握。
己を責めに責めたレイセンは自身の武器で自殺を図るも綿月姉妹により止められ、「あなたの判断は正しい。結果はどうあれあなたは間違っていない」という、全てを肯定する言葉によりどうにか自殺を踏み留まる。しかし彼女の中の罪悪感が収まる事はなく、今では殆ど廃人のような生活を送っている。
地上の鈴仙からの通信も、全てシャットアウト。平和になったはずの月の都、しかしすぐにまた醜い争いが始まるであろう事は、それこそ、誰の目にも明らかだった。
神様って死体残るんですかね。残らないと思いますけども、一応、死を明確にする為に敢えてそう描写してみました。消えるのと死ぬのとでは別みたいな。
綿月姉妹未亡人化。豊姫はダブルで不幸……。
あとレイセン好きの方はごめんなさい。いずれまた復活します。多分。きっと。
そして依姫は曇ってた方が可愛いね。