「……とまぁ、以上が俺のレポートだよ。どうかな、パチュリー?」
「当たっているかはともかく、中々に読ませる考察じゃない。流石、元優等生を自称するだけあるわ」
「へっへっへっ……」
先日、俺が山で「鴉天狗・陣風丸凩」として生活していた際、特訓の合間にレポートを書いていた。経過観察の為のカルテのようなものだが、今日は、それを魔法の師匠であるパチュリーに提出した。
月も綿月姉妹にブン投げたし、今はある程度心も時間も余裕があるからこそのレポート提出である。
「にしても凄いじゃない、少し前まで一時間すらも保てなかった変身魔法が数日単位で保てるなんて。成長したように見えていたけれど、実は、まだまだ魔力の扱いが下手だった……って事なのね。良かったじゃないの、伸び代がまだあるみたいで」
「その代わり、魔力の流れに頭の回路のリソースの大半を割くせいで、考えもまとまらないし、ろくに戦えない。力も出せないからなー。この前なんて、目を瞑ってても勝てる相手に殺されたよ。何だろ、頭の回転が9割くらい死んでる気がするんだよね」
「そこはもう、頭を鍛えるしかないわよね。男脳はマルチタスクが苦手と言うけれど、あなたもきっとそのタイプなんだわ」
「まぁ男脳だろうしな」
「ハーレム主がマルチタスク苦手だってのも変な話だけどね」
「……俺が3Pとか4Pとか5Pが苦手なのって俺がマルチタスクヘタクソだから説あるんじゃあ……?」
「流石に4と5は無理でしょ。3くらいなら、まぁまともに相手してほしいけれど」
「言うねぇ」
パチェこあとの3Pで、小悪魔の肉体に没頭するあまり自分が置いてけぼりを食らった時のことでも思い返しているのだろうか。あれは苦い思い出だ。
「……実は、もう1つレポート書いてんだよねぇ〜。読んでくれる……?パチュリーに一番に読んでほしいから、永琳先生にも魔理沙にも見せてねーんだぜ」
「勿論よ、読ませて」
「あいあいさー♪」
「えぇと……『吸血鬼の可能性についての考察』?」
「そ。俺だけじゃあない。子供達も含め『吸血鬼』という種族についての可能性さ。ま、読んでみて」
内容は極めてシンプルだ。即ち「俺達吸血鬼は、種族的に更に強くなれるはずだ」という考察を素人目線ではあるものの幾つかの根拠と共にレポートに記してある。
例えば、月光による強化。
輝夜や永琳によると「かつての満月は狂気の力を放っていたが、今の月にそんな力は無い」との事。とはいえ、現に俺達吸血鬼は満月の夜には全能力が底上げされ、格段にパワーアップできる。
つまり「月光」が更なる強化の為のキーワードと考えたワケだ。けれども「月光」は月が出ている時限定のバフ。なら、常にその恩恵を受けるには一体どうすればいいのか。それを考察してみた。
まず、「月光」とは何か?そう、月光とは日光。日光が月に当たり、反射したものが月光と呼ばれるだけであり、月光とは日光である。
しかし俺達吸血鬼はデイウォーカーでもなければ日光に当たると気化してしまう。弱点という事だ。
だがおかしな話だ。月光のように降り注ぐ光量が少なければバフになるのに、光量が多いと逆に弱点という扱いになってしまうなんて、おかしい。
これは「薬と毒」と同じなのではないか、と俺は考えた。薬だって量が多すぎれば簡単に死ぬ。薬を処方される際に容量を守るようにと言われるのは、量を間違えると寧ろ身体に悪影響を及ぼすからだ。それはつまり身体にとって「毒」であると言える。
……という考察を更に詳細に並べ立てているのが、このレポートである。
「……この結論は目から鱗だわ……」
「だろ。俺も思い付いた時は軽くビックリしたさ」
結論。吸血鬼は、実は日光でも強化されている。
では何故、日光に当たると気化してしまうのか?それは「薬と毒」の関係と同じ事で、「与えられる力に肉体が耐えられないから」である。
あくまで想像の域を出ないが、俺はそう考えた。
ならば、
日光による強化が効かないのではなく日光による強化に耐えられる肉体。俺はそう結論付けた。
「モルモー、前に言ってたんだ。『私の頃に比べて現代の吸血鬼って弱点多すぎじゃない?』ってな。モルモーも一応昔は日光は弱点だったらしいけど、何千年、何万年と生きていく内に克服したんだと。それってつまり、病気で言うと抗体を得たみてーなモンじゃあないかなって思うんだ」
「でも、こうは考えられない?デイウォーカーは、日光の下でも活動ができる代償として、月光による強化が得られなくなった……って」
「それも考えたけどさ、レミリアとモルモーの素のスペックの違い、どうも比較しにくいんだよねぇ。体術という面で見ればレミリアが上だけど、吸血鬼という特性を十全に活かしてるのはどうもモルモーかもしれないんだよね。だとすると、総合的にならモルモーがレミリアより強いのかもしれない。なら両者の違いは何なのかと考えると、デイウォーカーなのかそうでないか、なのかなって思うんだ」
「そこは経験値の差じゃないかしら」
「そうは思いたくないなー、だってレミリアも凄く強いんだぜ?そりゃモルモーの方が長生きだしさ、経験も積んでるけど……レミリアが負けるくらいとは思いたくないなぁ」
「いやそれあなたの願望が入ってるじゃないのよ」
「でもそうじゃあねーとレミリアとモルモーの差に納得がいかねーんだよッ!!『納得』は全てに優先するぜッ!!」
「そう思いたくなる気持ちは分かるけれど。じゃああなたのこの仮説が真であると仮定して、あなたはどうしたいのよ?」
「決まってるぜ。吸血鬼全体の力の底上げさ!俺のこの『日光が弱点=力を受け止めきれていない』の説に当てはまるのは、俺を含む『日光で死ぬ者』。俺、フラン、レミリアは炎火のペンダントで何とか助かってはいるが、外れると気化しちまうからな。巫月、弦月姫、虔魔、レイチェル、霊麗、霊魔は、今では母さんの能力でどうにかなってる。つまりは人工的なデイウォーカーだけど、真に克服したワケじゃあない。仮説通りに強化できる可能性もある」
「妖舞くんは大丈夫なんだっけ?」
「うん、妖舞も魅玖も大丈夫。翼まであるのにね、何故か吸血鬼の弱点は無いみたいなんだよね。いや羨ましいもんだ、巫月でさえ日光は生まれつき弱点だったのによ」
「それを克服しさえすれば、か。成程ね。それで?どうやって『器の限界』を克服するの?」
「簡単さ。モルモーみたいに数万年生きるのさ」
「……つまりは時間に任せるしかないって事ね」
「……俺さぁ、少しなら時間魔法とか使えんじゃん?意図的に暴走させる方法があるから、とりあえず、自分に滅茶苦茶な魔法を掛けりゃいいと思うんだ。まずは自分を実験台にしなくちゃね」
「意図的に魔法を暴走させる……ですって?」
「時間停止なら『魔力が尽きかけても継続する』、加速なら『止めない』、巻き戻しは『限度を超えた範囲を指定』するだけで暴走するよ。スキップは、もう使いこなしちゃったから難しいけどさ」
「でもそれって世界的なリスクがあるわよね」
「停止、巻き戻しは今んとこ世界全体に影響ある。だからそのリスクはあるけど、加速とスキップなら個々人へ魔法を掛けられるから、その辺は大丈夫。そして俺は不老不死だから、老ける心配も無いし」
「そのリスクが無いのなら、私も興味はあるわ」
「けど懸念すべき点がまだあるんだ。吸血鬼が気化した気体を吸うと不老不死になるだろ?サグメは、この方法で不老不死になった。んで、俺が日光への耐性を付けてしまえば、それ以降はその気体を生産できないんだよなぁ……。ストックはあるけど、もし使用期限的なのがありゃダメだしよ」
「何、誰かを不老不死化させるつもり?」
「いずれはハーレムのメンバー全員をね。そうでもしないと数万年後にはハーレム崩壊不可避だぜ?」
「……聞かなかった事にするわ」
「そりゃどーも♡」
その「気体」の件もそうだが、もし不老不死者の肉体が急激に老けたらどうなるのかを考えた場合、まだ不確定すぎて止めた方がいいような気がした。
だから、俺は一応その実験の計画を凍結し、更に魔法を鍛え上げてから検討に検討を重ね、それから実行に移すことにした。
モルモーの子孫という事は、俺も俺の子供達も、レミリアもフランも、そしてレミリアの眷属である咲夜さん、俺の眷属である霊夢もデイウォーカーの素質があるという事なので、自然に進化するのを、のんびりと待つのも悪くはないだろう。真の問題は更に深いところにある。その問題にぶち当たるまで暢気にのんびり過ごしていよう。