※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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共通の父親像

「それではですね、そろそろ第……何回でしたっけ?子供達による雑談集会を始めましょ〜!」

 

「出席者は茜以外の19人、か。何気に欠席者が出るなんて初めてじゃない?」

 

「茜は、外の寺子屋にて試験があるそうですので、今回の集会は見送りという事でね、皆さんも認知をお願いします。そして、この度はこうして話し合いの場を設けて下さりありがとうございます!この場を借りて御礼申し上げます。本当に助かりましたよ、姫!」

 

「えっへへ〜……♪」

 

 もう何回目になるか分からない、子供達の集会。普段は茜ことメリーのスキマ空間にて行うが、今回彼女は大学の試験期間と重なってしまっているので不参加である。開催場所は地霊殿に住まう姫により地霊殿の一室が提供され、それによって、どうにか今回も開催に漕ぎ着けたものである。

 現時点で末っ子の姫、そして恋愛コンビの2人、虔魔に駆翔は今回が初参加だ。

 

「とはいえ今回は茜が居ませんし、いつものようにまともな話し合いができるとは思えません。なので今日はですね、軽いディベート、つまりは討論でもしましょうかと思うのですが、どうでしょう?」

 

「やろーやろー、たまにはこういうのもいいよね?ねぇ、みんな?」

 

「え〜、そんなの勉強ばっかしてるお姉ちゃんとか穹くらいじゃないと楽しめないでしょ」

 

「そーだそーだ!俺なんてよ、修行の合間を縫って地底まで来てんだぜ?マジ疲れるって……茜の試験が終わってからでよくねぇ?なぁ樹理愛?」

 

「うーん、どっちでもいいかな」

 

「え」

 

「議題は父上についてですが、どうします?」

 

「「よしやろう」」

 

 真っ先に賛成する巫月、そして真っ先に反対する霊愛、妖舞。しかし穹により議題を提示されると、両者は途端に手のひらを返し、彼ら以降の妹、弟は反対するに反対できず、何も言わずに従った。

 因みに、緋月や姫はここまで会話について来れていない。特に緋月は、部屋の内装を見て感嘆の声を漏らしているのみだ。姫は頭の上に大量の「?」のマークを浮かばせながらもニコニコしている。

 

「はい、それでは議題の発表です。今回の議題は、

『父上は善の人なのか悪の人なのか』です!勿論、完全な主観でお願いしますねっ!あなたにとっての父上の善悪を、ここで討論してもらいます!」

 

「……しゅかんってなに?ぜんあくってなぁに?」

 

「ぜんぜんわかんない」

 

「おねーちゃんもわかんないの?……うーん……」

 

「手簡ってのは手紙だろ?全握は全国握手会だよ。父上、色んな世界を巻き込んで握手会でもやんの?まぁ、ああ見えて有名人らしいしな」

 

「いや待って駆翔、それ、しゅかん(・・・・)違いでぜんあく(・・・・)違いだよ。主観は『自分から見て』って事。善悪は

『良いか悪いか』って事。覚えておくよーに」

 

「「ほへぇ〜……」」

 

「そっちかっ!!」

 

「逆にどうしてこの会話の流れでそっちだと勘違いできるのか不思議なんだけど」

 

 緋月と姫に同音異義語を教える駆翔だったがその会話を聞いていた霊麗に即座に訂正される。そして更にその会話を聞いていた恋夜と綺愛羅は、改めてこの20姉弟の仲の良さを感じていた。そして同時に自分達がここに溶け込めているのか、とも。

 

「ではまず僕から、1つだけ良いでしょうか」

 

「おや虔魔、あなたからとは珍しい。どうぞ?」

 

「お父様は『悪の人』だと思います。何故なら僕にだけ当たりが強いし、何をやっても静かに怒りがちだからです」

 

 ファザコンシスターズは一気に眉をひそめ、更に彼と両親が同一で一際繋がりが深い弦月姫は怒りに身を任せその場を立ち上がると、虔魔に思いっきり指を差して怒鳴るように指摘する。

 

「それはあなたが女性を辱めるような事をするからでしょ!?」

 

「それはお父様も同じでは……?それでお父様が僕に怒るのは、同族嫌悪という事になりません?」

 

「お父様の場合は女性からの了承もあるでしょ!?あなたは一方的だし、陵辱にも近い事なのよ!?」

 

「心外です。最近は天子さん以外からは怒られなくなりましたが?もしや認められつつあるのでは?」

 

「呆れられてんのよ(・・・・・・・・)!!何をどう解釈すればそんな能天気でバカな発言ができるのやら……」

 

「ま、まぁまぁ、落ち着いて下さいよ弦月姫、一応これは『主観』ですから……。意見を出し合うだけが目的なのですから、落ち着いて下さいな」

 

「フーッ、フーッ……」

 

「どうしたのですかお姉様、まるで猫ですね」

 

「このッ……!!」

 

「落ち着いて、お姉ちゃん」

 

「「「「…………ッ!?」」」」

 

 真顔で煽られ、ナイフを逆手に持ち弟に刺そうと振り被った弦月姫。しかしたった二言の言葉が場を静まり返らせ、そして十六夜姉弟を落ち着かせた。

 誰よりもドスが効き、それでいて言葉に凄まじい圧と力が込められているそのセリフを吐いたのは、一体誰であろう。……次男、博麗霊魔だった。

 

「霊、魔……?」

 

「いいじゃない。どーせ、好きも嫌いも善も悪も、発言者の主観でしかないんだし。良くも悪くもさ、何とでも言えるよね」

 

「そうだけど……でも……!」

 

「いいじゃん(・・・・・)。……ねぇ?」

 

「っ……」

 

 これも一種の言霊のようなものだろうか。霊魔の言葉に気圧された弦月姫は、それ以降口を噤んだ。いつもなら茶化す虔魔も、ずっと黙っていた。

 19人の間に凄まじく冷たい、嫌な空気が流れる。すると今度は、呑気な口調で、ファザコンで有名な巫月が自分の意見を口にする。

 

「そ〜だねぇ、エスカルゴねぇ……善か悪かで言うとするなら……」

 

(はいはい、どーせ「善」だろ、姉上は)

 

(「善」ですね間違いない)

 

(お姉ちゃんの事だし絶対悪くは言わないよね)

 

 誰しもが「巫月は父を『善』と答える」と確信を持っていた。九分九厘、いや、ほんの僅かも疑わず十割信じきっていた。しかし巫月は、18人の予想を覆す意外な答えを叩き出した。

 

「ま、『悪』だよね〜」

 

「「「「えええ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!?」」」」

 

「え、何、うるさ……え、だって普通に考えたらさ、エスカルゴが『善』なワケなくない?この前だって思い付きで月の賢者を皆殺しにしたみたいだしさ。それに何回も妖怪の山で暴れてるんだよ?『善』の者ならそんな事しないだろうしねぇ。元軍人だからグレーゾーンだけど、鈴仙の方がよっぽどマシだと思うよ?」

 

「い、意外です……。姉上なら父上を『善』だと位置付けそうなものですが……」

 

「なんで?」

 

「なんで?ってそりゃあ、お姉ちゃんがお父さんを大好きだからでしょ」

 

「分かってないなぁ、穹も霊愛も。好き嫌いと善悪なんて、全くの無関係だよ。切り離して考えなきゃダメダメ。OK?」

 

「う……」

 

「流石はお姉様です。ですが私は、お姉様の意見を聞いた上で、『善』とさせて頂きます」

 

「まぁ、弦月姫ならそう言うと思ってたよ。なんでエスカルゴが『善』だと思うの?」

 

「虔魔と同じです。私にとって良いお父様だから、私はそう思う、それだけです」

 

「僕も、お父さんは『善』寄りかなぁって思う」

 

「お父様は『善』だぜ、組員達も慕ってるしな!」

 

 弦月姫に続いて霊魔、駆翔も「善」と断言する。すると、兄姉達の様子をずっと見ていた恋愛コンビこと恋夜と綺愛羅が、複雑な面持ちで発言する。

 

「なぁ……俺と綺愛羅から見たらさ、兄ちゃんって、お父さんでもあるんだけどさ……。皆から見て俺らは何なんだ?『叔父と叔母』か『弟と妹』かが、全く分かんないんだけど。俺らは一応、兄ちゃんとして認識してるんだけどさ?」

 

「複雑な関係すぎて……私もお兄ちゃんも、頭の中がこんがらがってくるっていうか……」

 

「集会(ここ)に呼んでる時点でお察しでしょ。弟、妹扱いしてるに決まってんじゃん」

 

「えっ」

 

「恋夜と綺愛羅がエスカルゴをどう見てようとも、そんなの、私達には関係ないからね〜。この集会の主催は私、霊愛、穹、弦月姫の上の四姉妹。そこに恋夜と綺愛羅を呼んだって事は、少なくとも私達は叔父と叔母じゃなくて弟と妹として見てるって事。ま、2人がエスカルゴをどう見てようと、そんなの私達には関係ないから……それは、2人で話し合って決めてね。私達は2人に『エスカルゴを父親として見ろ』なんて強制はしないから」

 

「……ありがとう、巫月姉ちゃん」

 

(もしかして、お兄ちゃん以外で話しやすいのって巫月お姉ちゃんなのかなぁ……?アリスお姉ちゃんと遊びによく魔界に来てるし、もう少し話してみてもいいかも……)

 

 巫月は、エスカルゴの子供達の中で恋愛コンビを除くと誰よりも魔界に入り浸っている。だから実は恋愛コンビとの関わりも多く、彼らから見て父親が兄であるのも承知の上で、諭すように言う。

 父、いや、兄のせいで誰より複雑で難儀な立場に居る恋夜と綺愛羅。しかし彼らが兄を恨まないのは姪であり姉である巫月のケアがあるから、なのかもしれない。

 

「で、恋夜と綺愛羅はエスカルゴを善悪で区分するならどうなると思ってんの〜?恋愛コンビとしての意見を聞かせてくれたまえよ〜」

 

「うーん……正直に言うと……俺は『悪』かなぁって思ってる。だってアリス姉ちゃんが『お兄ちゃんと遊びたい』っていつも言ってるんだ。あんまり家に帰って来ないんだよ。魔界のさ。それで家族が割と寂しがってんのにそれでもたまにしか来ないんだ。姉ちゃん達は『それでこそお兄ちゃんだ』みたいに言ってるけど、俺は、あんまり納得してない」

 

「私も殆ど同じ意見。でも、寂しがらせてるだけでそこまで悲しませてもないから『悪』寄りの『善』かも?それとも『善』寄りの『悪』かも?……どっちつかずだけど、私としてはそう思ってるよ」

 

「複雑だねぇ。穹は?レイチェルは?皆、ドンドン意見を出しなよ〜」

 

「山の者である私としては、山の天狗を傷付けてる父上は『悪』です、それしかないです」

 

「お父様はやっぱり『悪』よねっ!『エスカルゴ、相変わらずワルだわ〜』っていつもフラン叔母様が言ってるもの!モルモーを手篭めにしたのも全ては篭絡して好きなようにする為でしょ?悪役キャラよお父様はっ!」

 

「私としては、近親相姦を許してくれるお父様は、どう考えても『善』です!でないと私と霊魔くんの交際は認められませんでしたからっ!」

 

「私は……シガレットと同じ理由で『善』かなぁ〜。まだ目的は達せられてないけどね」

 

 シガレットがモロに「近親相姦」と口にした時、巫月、霊愛、霊麗は思わず吹き出した。弟の霊魔は霊愛と霊麗がそんな反応をした事に納得していたが巫月までもがそのような反応をした事で、察した。その察しの良さは、母の要素が強いらしかった。

 そんな会話の意味が分かっていない者達は、首を傾げる。そしてそれ(・・)を狙っている者は、獲物を狙う肉食獣のように目を輝かせた。

 

 

 ◆

 

 

「えーっと、皆さん、貴重な意見どうもありがとうございました。全員、意見を出しましたね。では、集計させて頂きますね。父上が『善』と考えたのは弦月姫、ここあ、シガレット、霊魔、魅玖、駆翔、姫の7人で、『悪』だと考えたのが姉上2人、私、妖舞、霊麗、樹理愛、レーテ、阿弥、虔魔、恋夜の10人、どっちつかずなのが緋月、綺愛羅……と」

 

「あ、そーだ。茜は『どっちつかず』だよ。まだ、結論が出せないみたい」

 

「えっ?姉上、いつ答えを聞いたんです?」

 

「今回の議題って私と穹で決めたじゃん。だから、呼びに行った時に聞いといた。『今回は行けない』って言われたからね、ついでに聞いといたんだよ」

 

「ほへー、ありがとうございます。ということは、結論を出すと……7:10:3で、私達20人の中では、悪寄りの意見が多いようですね。少し予想外です。ふむふむ……成程……。うんうん、やはり身近な者の意見は良いですね。これでまた新たな新聞のネタにできますよ、ふっふっふっふ……」

 

「そういえば穹の新聞、暫く更新止まってない?」

 

「ネタ確保に奔走中です。最近になって父上の行動範囲というか……実際に動く範囲がですね、爆発的に広くなったんですよ。追うのが無理ですね。もう、最近ではスキマで移動する事さえも稀なんですよ?魔法による瞬間移動を覚えたのが余程嬉しいのか、最近は専らそればっかりです。流石にこれは私でも匙を投げるしかないですねぇ」

 

「でも当然、それで……」

 

「諦める私ではありません!待ってて下さいね皆、近い内に超ドデカいネタを上げて見せますよッ!!射命丸文の名にかけて!!」

 

「あんまし期待しないで待ってるよ」

 

「ガビーン!直球過ぎますよ姉上〜っ!!」




繋がりが深いほど、その人の悪い面も見えてくる。人間関係なんてそんなもの。
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