「じゃ、行ってくるね」
「うんっ、いってらっしゃい♪」
「気をつけて行ってくるのよ」
「うん」
スカーレット姉妹に見送られ、紅魔館を出る。
昨夜の素っ気なさは何処へやら…。
「おやおやぁ?また咲夜さんに怒られたんですかぁ?」
門を出ると同時に、ニヤニヤしながら聞いてくる美鈴。
「そんな訳無いじゃないですか…美鈴さんとは違うんですから」
「はうっ…エスカルゴさんってば、さり気なく毒を吐きますねぇ…」
少しムッとする美鈴。
「そうですか?」
「そうですよ。私だって、そんなに頻繁に怒られてる訳じゃ無いんですからねっ?」
「…では、毎日のように外から聞こえてくる女性の叫び声は誰の声なんでしょう?」
ホンット、ほぼ毎日聞こえてくるからねぇ…。
「………えへへ…」
苦笑混じりに後頭部に手を置く。
「ふっ…」
つられて笑ってしまった。
「じゃ、いってきます」
軽く頭を下げる。
「いってらっしゃい!お気をつけて!」
「はーい。寝ないで下さいよー?」
「うっ…気を付けます!」
これ絶対寝るやつだろ。
「もし俺が帰ってきた時に寝てたら…優しく起こしてあげますよ♪ 咲夜さんには内緒で…ね」
パチッとウインクする。
「おお、お願いします!」
途端にパアッと顔が明るくなる。
おいっ!寝るなよ!?門番の意味無いじゃん!
…とか、色々突っ込みたい事はあるけど…。
ニヤリと笑って飛び立つ。
「うーん……晴れ…いや、快晴…か?」
空を見ながらのんびり飛んでいた。
両手を後頭部に置いて、足を組んで…。
およそ飛ぶ格好では無い。
リビングなどで寝転ぶ時の格好だ。
そして、空には雲が少しあるので、晴れか快晴か迷っている。
カァ、カァ、カァ…
「ん?」
なんだ、カラスの群れか。…あれ?
その中に1人の少女が混じっている。
「おやっ、エスカルゴさんではないですか!」
射命丸 文だ。
文は俺のスピードに合わせ、接近してくる。
それと同時にカラス達がバラバラに飛び去る。
「どもっす」
「今日は1人ですか。どうしたんです?」
「ちょっと永遠亭へ」
「ほうっ!…何をしに?」
「ちょっと、ツボ?の位置を聞きに行きます」
「ツボですかー…」
「ま、何となくなんですけどねー」
「へー…」
興味はあるが良くわからない…といった感じの、複雑な表情を浮かべる。
「文さんは何処へ何しに?」
「いつも通り、特ダネを探して幻想郷中を飛び回っておりますっ!」
「幻想郷中を…ですか。凄いですね」
「新聞記者ですからっ!」ドヤァ
「なるほど。…そういえば、幻想郷には海が無いって本当ですか?」
「本当ですよー。湖、池、川しかありません」
へー…。
「では、魚はどこから仕入れるんですかね?」
「やはり湖や池、川からでしょうね〜」
うーん…霊夢んとこで食べたあの魚…と、ミスティアの屋台で食べたあの魚…秋刀魚だったよな。
秋刀魚って海の魚では?
「ふむ…」
ま、気にしないでおこう。
「何か気になることでも?」
「いえ、何でもありません。……………あ」
ちょっとイタズラしてやろ♪
「おっ?何かあるんですか?」
よっしゃ、食いついた!
「文さんの……………」
まっすぐ目を見据えたままトコトン溜める。
「私の?」
「今日のパンツ、何色ですか?」
「…え?」
目を丸くする文。真顔でこんなおかしな事聞かれたら誰しもそんな反応するだろうな。
「“え?”じゃなくて。パンツ何色ですか?」
「ななな、なんてこと聞くんですか!?」
顔を真っ赤にしてスカートを抑える。
「へへ、なんとなく気になったので」
「あのねぇ〜…!」
「もし拒否るなら…力ずくで」
左ポケットから団扇を取り出す。
「あ、それ!」
指を指して声を上げる。
「ええ、この前文さんから頂いた団扇です♪」
へへっ…もう少しイタズラ続けてもイイよね♪
「あやややや…それはまずいですねぇ…」
「えいっ!」
ビュオッと団扇を振るうが…
「おっとぉ!」
スピードを上げて先行し、風を避ける。
「おっ…」
もう少しで見えるぞ?
「あっ!」
本人も気付いたのか、急にスピードを落とす。
また2人は横並びになる。
「あーあ…見れそうだったのに…」
わざとらしく残念そうな声を出す。
「そう簡単に見せるわけには行きませんよ!」
「えー、ならどうやったら見せてくれますか?」
「私に追いつけたら、良いです…よっ!」
「あっ!」
今度は急加速し、あっという間に小さくなる。
「なら…見せてもらいますか、ねっ!」
俺も加速する。
文は余裕といった表情でこちらを振り返る。
確かに文は余裕だな。まだまだ距離がある。
大体、20m程か。
流石、幻想郷最速を名乗るだけのことはある。
「速すぎっしょ…!」
「ふっふっふ、どうやらエスカルゴさんでは私には追いつけない様ですね!」
「少しは手加減してよぉ!」
投げやり気味に叫ぶ。
「私のパンツは、そんなに安くありませんよ?」
ニヤリと笑う文。
「ゼッテー見てやる!」
「なら追い付いてみて下さい!」
「言われなくてもっ!」
…だが、これ以上はスピードが上がらない。
「雷装備『翼竜の舞』!ハァッ!」
巨大な羽…もとい翼を出し、思い切り羽ばたく。
「あやっ…?」
よしっ!
「もう、少しで…!」
ダメだ、スカートがはためいて見えない!
「そう簡単には追いつかれませんよぉ!」
「あぁ!」
もう一段階速度を上げ、引き離しにかかる文。
「くっそぉ!速すぎ!!」
どれだけ羽ばたこうと追い付かない。
「あれあれ〜?もう終わりですかぁ?」
してやったり、といった顔だな。
「こうなったら…!」
「おっ?力使っちゃいますか?」
「良いんですか?」
「というか、もう使ってるでしょう。どうぞ、いくらでも」
あ、そうだった。
「では遠慮無く!」
ここは、速さを上げるのではなく…。
“囲む”のが最善の選択だろうな。
「雷牢『雷神の牢獄』!!」
バチバチッ…
避けられないように、超巨大な牢で自分諸共文を囲む。
「あやややややややや!!?」
「へへ、どうです?これなら見せt…」
「囲まれても、まだ捕まっては居ませんよ?」
チッ…。
「…そうですね」
パチン☆
「えええ!?これ小さくなってませんか!?」
「さぁ、どうです?このままだと文さんが焼き鳥になりますよ」
「そ、それは困ります…」
「もしそうなったら俺が食べるんでご安心を」
「全然安心出来ませんよぉ!」
「…では、パンツの色を」
今の俺…すげーゲス顔してるだろうな。
「うう…恥ずかしいです…」
「ま〜だっかな〜?ま〜だっかな〜?」
急かしてみる。
「い、言うのは恥ずかしいので、ご自分で捲ってくれますか…?」
両手で顔を覆い隠しながら呟く。
「え…そっちの方が恥ずかしくないですか?」
「は、早くして下さいぃ〜…」
消え入りそうな声の文。
「…では」
ガバッ
両手でスカートを掴み、持ち上げる。
「へ?」
「おお…!」
この前と同じ黒だが、こう間近で見る機会は滅多に無い。
「あのー…」
「はい?」
「団扇使って捲るんじゃないんですか…?」
「直接の方が良いかな〜って思いまして」
「なるほど…。…というか、いつまで見てるんですか!?」
「あ、すいません、つい。ありがとうございます」
パッと手を離す。
「全くもう…助平ですねあなたは…」
「あはは…」
ちょっとしたイタズラのつもりが、中々凄いことになったな…。へへ……あ、やべ。
未だ縮み続けていた牢が、文の背中に触れそうになっていることに気が付いた。
「解除」
フッ…
「あや?壁が消えましたね」
キョロキョロ見回す文。
「ええ。捲る前に解除すると逃げられると思ったんで…。捲らせてもらったので解除しました」
「なるほど。…さて、山に戻りますか…」
やべっ!
「お仕事中すいませんでした」
深々と頭を下げる。
「いえいえ!楽しかったですよ!」
笑顔で返してくる。
「良かっ…あれ?山に戻るんですか?」
「そうですよ?」
あれれ?
「でもさっき、“特ダネを探して”って…」
「エスカルゴさんが頭を下げてる所の写真撮りました、それにします♪」
「え〜…何の需要もないですよそれ」
それより、いつの間に撮ったんだよ?
気付かなかったぞ。
「そんな事ないですよ!エスカルゴさんの写真載ってるってだけでいつもより売れるんですから!」
「えー…」
なんだそれ、良く分からんなぁ。
「では私はこれで!」
「はい。では俺も」
互いに礼をして別れる。
さて、永遠亭行きますか…。
よし、着いたで。
いつものお家側…では無く、診療所側に。
カララッ
「こんにちはー」
「あ、エスカルゴ!どうしたの?」
鈴仙が驚きの表情を浮かべる。
「ちょっと永琳先生に診てもらいたくて」
「そっかー。じゃ、これ書いて待ってて!」
「おう」
問診票か。
「ふぅ…」
ソファに座り問診票に書き込む。すると……
「おい」
隣の中年男性に話しかけられる。
マスクしてることから、風邪かなにかだろう。
「はい?」
「気軽にあの子に話しかけるな」
鈴仙をチラ見して言う。
「は?」
お前何様だよ。
てか今のは鈴仙から話しかけてきたんだが。
「あの子はみんなのアイドルなんだ、お前さんだけ何気軽に話してやがるんでい」
「いや、俺の彼女なので」
「…なん…だと…!?」
とんでもなく目を見開くおじさん。
「カレカノが話すのは至極当然ですね」
「ど…どっちから告ったんでい!?」
グイッと近付くおじさん。
「向こうからですよ」
「嘘だッ!!!!」
野太い声が待合室に響き、他の患者さんがこちらを向く。
「どうかしましたか?」
鈴仙がこちらに来る。
「いや、この人が、俺と鈴仙の関係を疑ってるんだ」
「だって…だって、嘘だろう!?こんな優男と…」
優男って…。
「嘘じゃないですよー」
営業スマイルで答える鈴仙。
おじさんはカクッと項垂れ…
「マジか…マジかよ…」
と繰り返し呟いてる。
「ど、どうしよう?」
困った鈴仙は俺に尋ねてくる。
俺の答えはもちろん…
「ほっとけ」
「そ、そうね…。あ、次エスカルゴよ」
「おぉ、そっか。…どこに行けばいいんだ?」
「え?来るの初めてじゃないでしょ?」
「3回目だけど、前の2回は倒れてたからな」
「そういえばそうだったわね。ついてきて」
「はーい」
…無臭だったのが、段々と病院特有の匂いになってきたな。
「あら、エスカルゴじゃない。どうしたの?」
「こんにちは永琳先生。…体の構造?ツボ?について聞きたいなー…と、思いまして」
「えぇ?それだけのためにわざわざ来たの?」
苦笑を漏らす永琳。
「まぁ……そうですね。それに、仕事中の鈴仙の様子を見てみたかったってのもありますし…」
「ふふっ…相変わらず彼女思いね」
「そっ、そんなんじゃないですよ…。ただ、心配っつーか…なんというか…」
「良いわねぇ。ウドンゲ!」
「はい!」
ひょっこりと鈴仙登場。
「少し時間あげるわ、エスカルゴとゆっくりしてらっしゃい」
『良いんですか!?』
鈴仙とハモる。
「あらあら、仲良しねぇ」
『えへへへ…』
ハモるとなんか嬉しいな。
「…あ、でもお仕事は…」
明るい表情から一転、暗い表情になる。
「患者さんはあと何人?」
「2人程です」
え?もっと居たよな?…お会計待ちか。
「なら、今日はもうてゐにやらせるわ。あなたはゆっくり休んで」
「ありがとうございますっ!行こっ!」
「お、おう」
「あ、エスカルゴ!これこれ」
席を立ちかけた所を引き止め、永琳が1つの冊子を差し出す。
「はい?」
「ツボとかについて載ってるわ」
「ありがとうございます!」
笑顔で礼を言いつつそれを受け取る。
「ふふっ。ゆっくりしてってね。次の方どうぞー」
「行こっ!」
「よしっ!」
手を引かれ今度こそ奥に引っ込む。
てゐのことはすぐ発見出来た。
「あ、鈴仙。どうしたウサ?エスカルゴまで…」
「よっ」
「てゐ、続きお願い」
「えー…」
露骨に嫌な顔をする。
「お師匠様命令よ」
「ちぇー…」
渋々仕事に向かうてゐ。
そして…
「ねぇ、ツボなんか知ってどうするの?」
鈴仙の部屋で、2人並んで冊子を読んでいる。
「んー、体動かしやすくなったり軽くなったりするかなって思ってね」
うまく説明出来ねぇ。
活性化させるっつーのかな…なんて言えば…?
「なるほどね」
「首とかにもあんのかー」
「場所間違えると痛そうね」
「そうだなー。…でも、電気でやったら痛くないな」
「え?」
「俺は雷を使うから電気関連は効かないんだ」
「そっかー…ツボの刺激も出来ないのかしら?」
「さぁ…痛みを感じなくなって痺れなくなっただけだから…マッサージ位なら効くはずだが…」
「便利ねぇ…」
「まだわかんないけどな」
あくまでも推測である。
「やってみたら?」
「んー…だな、物は試しだ」
「そうよ」
冊子をよく見て、その位置に指を乗せ……
バチッ…
「──ッ!!」
視界がブラックアウトした。
さらに引き伸ばすとか何なの俺…(汗)