子供達はチームを組み、それぞれ思い思いに自己研鑽を積み重ね、いよいよ本番、戦いの時が来た。
これまでの戦いで活躍出来なかった子、チーム戦などに興味を示さない子、今回こそはと燃える子、まさに反応は千差万別だった。
千客万来。コロシアムは満員御礼、いや札止め。完全なる満員だった。客同士が席を詰めすぎて寧ろ入場率は1.5倍にも達している。さながら、朝の通勤ラッシュの満員電車だ。
身内だけの催しだったはずが、どこからか情報が漏れたらしく、いつもの実況者2人までもが会場に現れる始末だ。
コロシアム運営者である河童は儲かって仕方ないという顔をしている。そんな様子を見て、今はまだ観客として来場している俺は軽く肩を竦め、何度も重苦しい溜め息をついていた。
対戦表については、相変わらずコロシアム入口に貼り出されている他にも入場者に無償で配られる。どうやらお得意のリーグ戦らしい。
「ねーねー、チーム分けの表、見た?」
「見た見た。幾らなんでもあれは酷すぎるでしょ」
「数の利を活かして……っていうより一方的な蹂躙になりそうだよね。そんなんで勝って嬉しいのかな」
「さぁ?ま、幾らエスカルゴさんの子供だからって誰しもが一匹狼気質じゃないってコトなんでしょ。ていうか実際、
「言えてる。数の差も凄いけど個人の力の差も凄いみたいだもんね、エスカルゴさんとこの子って」
地獄耳というのも辛いものだ。悪口を言っているつもりは無いのだろうが、俺としては子供達を悪く言われているような気持ちになってしまう。
噂好きな妖精や河童、山童からも詳細を知られるくらいには俺ら家族については有名だということもあるのだろうが、だからってここまでとは思わないだろう。
そして今回、いつもと違い霊夢と見に来ている。永遠亭メンバーはまた別な所で観戦するようだ。
「今回もまた凄い戦いになりそうね。しかも今回は子供達からチーム名の申請が必要らしいじゃない」
「子供達のセンスも知れる良い機会って感じだな。一戦目は『雷三姉妹』vs『相思相愛』……か」
「アンタはどっちが勝つと思う?」
「『相思相愛』」
「へぇ、意外ね。巫月ちゃんの居る『雷三姉妹』を推すと思ったけど」
「巫月、チーム戦には興味無いからな。個人最強に拘ってるから、チームの調和を守る為にも自分だけ本気で戦ったりはしないはずさ」
「というか、この『相思相愛』って誰のチームよ?恥ずかしいチーム名……って、霊魔!?」
「霊魔とシガレットのラブラブカポー♡ やるゥ♡」
「成程ね……チームメイトは最低2人なんだものね、他に誰もチームには入れなさそうよね」
「間違いない、俺ならそうする」
その時、カッとスポットライトがステージ中央に灯る。そこには実況者の2人が居る。お馴染みの、にとりと雛である。
「はいはい、どーもーっ!毎度お馴染み、にとりんレイディオの河城にとりと!」
「鍵山雛ですっ!今回は、主催者の穹ちゃんからの依頼を受けて進行役として来ました!」
「今回実況は自重するけど、進行役としてガッツリ働くから、よっろしっくね〜!」
そうか、穹がここまで事を大きくしたのか。穹がここまで広めたがる理由は分からないが、もしや、何か狙いがあるのかもしれない。
「さてさて、早速やってくよ!まず第1戦目はこの2チーム!『姉妹間の司令塔』の率いる、同系統の能力者が集まった年の差チーム!『雷三姉妹』!!リーダーは巫月ちゃん、副リーダーは魅玖ちゃん!緋月ちゃんも頑張ってね!」
「そんなチームに相対するは共通の親を持つという禁断の恋に落ちた2人!『相思相愛』!!こちらはリーダーという区分は無しだそうです!霊魔くんとシガレットちゃん、2人だけのチームですっ!」
「じゃ、試合開始前に毎回恒例、ルール説明だよ!ルールをしっかり守って、正々堂々勝負してね!」
1、全員が降参の意を示すか、戦闘不能になるまで戦闘を続行する
2、スペルカードは同じモノは4枚まで
3、殺害は当然NGだが瀕死まではOK
「────以上ッ!なお、自己治癒力に任せてすぐに治せない場合、緊急の治療医として八意永琳先生、エスカルゴ・スカーレットさんに、モルモーさんがご来場されてまーすっ!好きな方法で治してね!」
薬剤という正規の方法で治すか、俺の治癒魔法で治すか、時間逆行という「回帰」で治すのか。その3択というワケだ。一番安全なのはモルモーの時間回帰だろう。
「それじゃあ早速1試合目……雷三姉妹vs相思相愛、試合開始っ!!」
雛の合図と同時に両チームの面々は動き出した。
雷三姉妹からは魅玖が、相思相愛からは霊魔が、敵陣へ飛び込んでいく。
霊魔はすぐ側を通り過ぎる魅玖を無視して巫月へ突っ込んでいく。魅玖は霊魔を迎え撃つつもりでの突進だったので面食らってしまいつい足を止める。
「巫月お姉様!」
「魅玖ッ!こっちは良いからシガレットを!」
「っ……はい!」
巫月と緋月は横に並んで霊魔へ弾幕を放ち、彼の突撃を牽制する。しかし彼は小さな結界を断続的に展開する事で最小限の消費霊力で的確に弾幕を防ぎジワジワと距離を詰める。
「いくよシガレットお姉様!雷符『萬雷招雷』!」
「……♪」
「なっ……」
ホーミング弾が得意な魅玖にしては珍しい、雷を派手に降らせるスペルを使用。しかしシガレットに届く前に、見えない壁に弾かれるようにして、雷は消えてしまった。
「アタックカンタは、技を跳ね返す分、余分に力を消費してしまう。だから防ぐ事だけに特化したこのバリアは……そう簡単には壊せない」
「っ……今ほど自分の火力の低さを恨んだのは初めてだよ、シガレットお姉様……!!」
「次は私の番よ!お父様に教わり、パチュリー様に鍛え上げて頂いた、とっておきの魔法で……!一気に蹴散らすっ!合魔符『
ここあとの合わせ技としてしか発動できなかったこの魔法、今では彼女1人でも使用できるくらいに強くなっている。魔法自体の術式は変わっておらず更なる簡略化も何もしていない。あくまでも彼女が強くなったからこその成果だった。
炎を纏った竜巻はゴゥゴゥと凄まじい音を立てて炎の弾幕を飛ばしながら回転する。魅玖はバリアを張ることもせず後退するしかなかった。
「更に────!!」
シガレットは、身体強化の魔法を霊魔に掛ける。霊魔は自身の強化を感じ取ると同時に結界での防御自体を捨てて、特攻するように巫月に襲い掛かる。
「防御を捨てるのは流石に予想してなかったよ……!誤想『
霊魔、そして術者の巫月にだけ見える
「斬符『
持ち手がけん玉のような雷の双剣を手元に作る。更に、現時点以上の前進をやめ、一瞬肩の力を抜き一呼吸置いてから巫月のPBSへの対処を始めた。
「Goooooooooooooooo烈光雷光ビガッと閃光烈光雷光ウェーオ♪」
「「「ッッ!?」」」
いやはや、本当に素晴らしい。まさかあの霊魔がノリノリで剣を振り、3人の弾幕を斬りまくるなど誰が予想できただろうか。隣で試合を観戦している霊夢すら、目を見開いて驚いているくらいだ。剣を振って踊る彼の瞳には微かな「楽しむ」気持ちすら混じっているように見える。
彼には俺の好きな物をトコトン教え込む予定だ。空耳歌詞だのノリノリな曲だの、強さに繋がりそうだったら全て教え込む予定だ。
巫月があからさまに表情を崩して驚いているのもそれだけ彼が凄まじい成長をしているからだろう。
「……霊魔、最近明るくなったわよねぇ」
「だな。歌のおかげかな?」
「かもね。というか前回はこうやって表舞台に立つこと自体がイヤイヤだったのに今回ノリノリよね?どんな心境の変化があったのかしら」
「シガレットとの関係があるからじゃあないかね。
『僕がウジウジしてたらシガレットお姉ちゃんまで情けないと思われちゃう』と考えるようになった、なんて。もしもそうだとしたら……嬉しいな。結構なコトじゃあねェか」
「とはいえ、戦闘中に歌うのは相手に煽ってるって思われかねないからやめてほしいけど」
「まぁまぁ。そんな事言ったらねぇ……?」
「……だけど、たったのそれだけで霊愛の夢想封印を完封する領域にまで達したんだし……あの子、戦闘のセンスはズバ抜けてるのよね。天才肌の努力型とかまさに霊魔じゃない」
「あァ、言えてる。あの完封はマジでヤバいよな。霊愛の夢想封印だって一応手を抜いた霊夢くらいの強さはあるんだろ?それを完封はマジでヤバいな」
「巫月ちゃんがチーム戦では全然力を出さないのもいつも通り……これは霊魔達に勝ち目あるかしら?」
「あるな。でも多分、巫月は『お姉ちゃん』っつー自負が誰より強いから……とあるワードが出りゃあ、一気に力を解放するだろうさ」
「……?どういう事?」
「ま、見てな」
巫月の存在しない弾幕を、とにかく斬りまくる。そうして居る内にやがて弾幕のクセを見抜いた彼は突如、攻勢に転じる。
針の穴を通すような絶妙な体捌きで、弾幕の間を縫うように進む。そろそろ霊魔の射程圏内に巫月を捕らえるというところで、シガレットの元から退散してきた魅玖がやってくる。図らずも、霊魔を挟み撃ちする形となった。しかし……。
「権化『けん玉の化身』」
ポケットからけん玉を取り出し、雷エネルギーで彼の頭上にも巨大なけん玉を生成。更に彼が手元のけん玉を振り回すと、頭上の巨大けん玉も、まるでビル解体に使う
「ヤバッ……緋月後ろ!」
「ぷにゃっ……」
玉の軌道は不規則極まりない。紐が皿に掛かると途端に玉の周回軌道が変わって、まだ遠くにあると思っていると、今の緋月のように被弾してしまう。
(っ……シガレットの炎弾で遮られてて緋月の援護に行けない!スキマを開くにしても今ここでそんなに力を使ってたら後が持たない……となると、ここは、魅玖も緋月も説得して負けを選ぶかな……)
背後から霊魔に襲い掛かろうとした魅玖も今ではもうシガレットの弾幕に身動きを封じられている。緋月は全身を痺れさせているので、唯一動けるのはチームリーダーたる巫月だけである。
「魅玖!今助けに行くよ!」
「巫月お姉ちゃんの相手は僕だよ」
「邪魔!幻雷『
「ッ!?」
咄嗟に結界を張る霊魔、しかし生成途中で爆発にやられてしまい結界は脆くも砕け散った。けん玉の紐や玉を掻い潜り巫月は霊魔へ襲い掛かり、遂には拳を一発、顔面にぶち込んでやった。
吹っ飛び、壁に叩き付けられた霊魔は、そのままダウンしてしまう。
「ぐ……はぁ……」
「霊魔くんっ!!……そんな……私の身体強化すらも貫通するなんて……っ」
「さて、後はシガレットだね……魅玖と緋月の相手をしながら私を止められるかな?魅玖も攻撃的だから私と魅玖の両方を止めるなんてのは無理だよぉ」
嘘である。確かに魅玖も攻撃的ではあるが攻撃の手数は巫月の半分にも満たない。何故ならスペカはたった1枚しかない上に現在は炎の弾幕に囲まれて行動不能になっているからだ。そして魅玖は巫月のように捨て身で突撃する事は決してない。
「っ、それなら、全員纏めて倒してあげますっ!!魔符『
「!……エスカルゴから聞いた事あるなぁ。それ確かドラクエってゲームに出てくる技なんだってねぇ。エスカルゴに氷魔法は使えないから、諦めたみたいだけど……そっかー、魔力体なら属性なんてハナから持ち合わせてないおかげで、逆に言えばどの属性の魔法も使えちゃうんだ」
「ええそうです!そしてこの弾幕を喰らうと、その部位は凍る!」
「そして回避した弾幕は受け手の背後で固まって、巨大な氷塊になる……か」
(……ッ、技の解析が早い……!!)
「アハッ♪……
「
「溜まるの早いね。というか10m以上はあるよね、この氷塊さ?凄いや。うん、火種として優秀過ぎるくらいかもしれないね」
「な……っ」
「さて問題。氷は何で出来ているでしょうか?」
「……?氷って、それは……水……」
「ぶっぶ〜。答えは水素と酸素だよ。じゃ、これは分かる?……水から水素と酸素に
「っ!!まさ、か……っ」
巫月の背後で、シュウシュウと白煙を上げて氷が消えていく。それを見たシガレットは巫月の攻撃の内容を悟り、強固なバリアを張る為の詠唱をする。
「
巫月の背後の氷塊を起点に、次々に連鎖的爆発を起こす。何も無い空間すら爆発し、様々な方向からシガレットのバリアを破壊せんと襲い掛かる。
「そっか。属性魔法の使い手は、そのエレメントに対する造詣が深くないと真価を発揮できないんだ。だから正解を言う前に察せたんだ。でも残念だね、ここあと2人でなら防げたかもだけど……シガレット1人では、私の攻撃は止められないよ」
「んぎぎぎぎぎっ……堪えて、みせます……!私の後ろには霊魔くんが居るからっ……私が守らなきゃ……私が守らなきゃいけないんです!!」
既に、火種として利用された氷塊は消え失せた。巫月の「電気分解」も、かなり早くなったものだ。力量こそまだ俺には及ばないが、精密度だけなら既に俺と同レベルに達している。
「どうして爆発が収まらないのっ……なんで……!!もう私の氷は消えているのに!!」
「水素を燃やすと水蒸気。水蒸気、即ち水だねぇ。つまり一度この反応が始まると……私が自分の意思で電気分解をやめない限り永遠に繰り返されるッ!!分解、燃焼・爆発……このコロシアムが吹っ飛ぶのも時間の問題……!」
「巫月お姉様……なんてエゲツない攻撃……!お父様だってこんな事はしないです!」
「するよ?だってこれ、エスカルゴから教わった技なんだもん♡」
「────ッ!!」
刹那、シガレットのバリアは粉砕。コロシアムは巫月による「トドメの大爆発」の爆炎に包まれた。
◆
────リーグ戦前夜、某異世界の某所にて。
「ヘェ、まさかあなたから頼まれるとは……♡」
「ま……そっちにとっちゃメリットもクソもないから断ってもらってもいいよ。その場合はパチュリーと組むからさ。できれば……レベルの話だからさ」
「パチュリー?……私がダメで次の候補がパチュリーという事は……あーはん、あなたの狙いが分かった。そういう事なのね♡」
「流石に分かるか」
「いいわ、組んであげる。せいぜい死なない程度に子供達を絶望のドン底に突き落としてあげましょ♡」
「だね。完全詠唱の俺の魔法力を見せ付けてやる。そしてこの一件を通して世に知らしめてやるのさ。もう誰にも、『エスカルゴは吸血鬼なのに魔法力がショボくてろくに使えない』なんて言わせねェ」
「……」
「思い知らせてやるんだ。俺の活躍を知る事になる全ての者に……鍛え上げた俺の強さをな」
幻想郷において「吸血鬼はとんでもない魔法力を持つがエスカルゴは例外である」というのは有名な話だ。だからこそ俺は母さんからの能力や元からの能力を鍛え上げてここまでの強さを手にした。
だが、周囲からそう思われる事に不満しかない。だからここでそのイメージを払拭し、現状を周囲に知らしめてやる。
魔法力に劣るエスカルゴは、既に死んだのだと。