「や、やっと見つけました……大妖精さぁん……」
ある日、霧の湖ほとりにて、近所に住まうとある妖精が、他の妖精と戯れている大妖精の元にやってくる。酷く疲労しているようで、彼女の言葉からもよほど大妖精を必要としているのだと、ひしひしと感じられた。
「私?どうかしたの?」
「それが……私の友達が昨日、紅魔館に行ったきり、帰ってこなくって……。色んな妖精達と繋がりがある大妖精さんなら、何か知ってるかもって思って……」
「……うん。最近、そのお話をよく聞くんだけど……やっぱり今の紅魔館は少し危険だと思う……」
「そんな!だって、広い花壇とか、お屋敷とかって絶好の遊び場じゃないですかぁ!」
「だからこそだと思う。やめた方がいいよ」
「そんな……。せっかく、紅魔館のメイドさん達とも仲良くなってきたのに……」
「私からも、エスカルゴさんに色々聞いてみるね。こう見えても、エスカルゴさんの女なんだからっ」
「お願いします……。でも、大丈夫かな……」
「何が?」
「紅魔館の近くの洋館……
「っ!?復讐って、それ……」
「そうです。紅魔館に侵入した妖精達は、紅魔館の誰かに殺されてるって、皆、そう思ってるんです。それに加えて、あんな噂まで流れてちゃ……」
「噂って?それは初めて聞いたよ?」
「そうなんですか。紅魔館には執事という男の人が居て、その人が妖精達を殺してるって噂なんです。1回休みから復活した子がそう言ったきりおうちに引き篭っちゃったって……」
「
「大妖精さん……私達、どうすれば……」
「……紅魔館には近付かない。それだけでいいよ」
◆
丁度その頃。紅魔館の裏口付近に、たった一つの目的の為だけに妖精が多数集まってきていた。その数、凡そ50名。そのいずれも、紅魔館で友を失った者である。
「いい?敵は男だよ!銀髪の子供だって言ってた!そいつが……私達妖精を殺しまくる悪いヤツだ!」
「絶対倒す!」
「許さない!」
「皆の仇討ちだー!」
「捕まえて謝らせるんだー!」
「「「「えい、えい、おーーーーっ!!!」」」」
「いけー!突撃だーっ!!」
近くの窓を叩き割り、一気になだれ込む妖精達。紅魔館の中はパニックになるかと思われたが……一切パニックを起こす者は居なかった。
この日、館の主人レミリアは、メイド妖精達には一斉に休暇を取らせ、主な従者や住人を引き連れ、魔界へピクニックに行っていたのである。
たった1人、執事見習いである十六夜虔魔のみを紅魔館に残して。
実に偶然。まさか
「あれ?誰も居ない?」
「だーれか居ませんかー!?」
「誰も居な」
時が止まる。侵入してきた妖精達は、それぞれが思い思いの方向に行こうとするが、時間が停止してしまった故に知らぬ間に足を止めることとなった。
「────やれやれ、ですねぇ。ガラスの割れる音が聞こえたので来てみれば。まさか既に掃除を終えた箇所に、しかも土足で侵入するとは良い度胸です。というかまた妖精ですか。無限湧きですか?近くにスポーン地点でもあるのでしょうかね。夏の日の虫みたいに無限湧きしますね、本当に」
あからさまに嫌な顔をしつつ侵入現場に到着する虔魔。彼は妖精達を見て、大体の数を把握した後、全員をとりあえず館の中に引き込む事にした。更にその後、かつて弾幕ごっこに使用していた、特別により広く拡張されている部屋へ全員を運んだ。
「ふむ、55匹ですか。……しまった、そろそろ10分が経過してしまいますね。仕方ありません」
予備のガラスを嵌め込み、修理をしてから、時間停止を解除する。今、留守番をしている彼は能力を上司の咲夜さん、レミリアから制限されていた。
というのも、時間停止の影響を受けてしまう者が幻想郷には複数人居るからである。ピクニック中の十六夜母娘もそう、父も、モルモーもそうだ。
だからこそレミリアは、留守番を任せる際に彼に課題を出した。自分が魔界より戻る前までに館内の掃除を終わらせよ。ただし、時間を止めていいのは合計10分まで……と。
「時間を止めているのに『10分』というのも、変な話ですけれど」
「っ!ひぃいっ!?」
「で、出たぁぁ!!」
「『出た』とは何ですか。……まぁ、いいです。館に侵入した事、死にながら後悔すると……」
「後悔するのはお前だー!」
「?」
「私達の友達を!何回も何人も1回休みにしてっ!幻想郷の全妖精がお前の敵だからな!!許さない!絶対に!!」
「はぁ。勝手に言っとけという気分ですね。僕には関係ありません」
「お前のせいだ!!」
「「そうだそうだー!」」
「紅魔館は妖精の遊び場じゃあないんです。そんな事すら弁えず、客人でもないのに無断で侵入して、従者の仕事の邪魔をする────僕らに殺されても、本来は文句など言えた立場ではないんですがね」
「嘘だ!邪魔なんてしてない!」
「門番さんも、メイドさん達も、遊びに付き合ってくれてるもん!」
「美鈴さんは門番です。四六時中、屋外に居ます。あなた方妖精と話すのは暇潰しに最適なのですよ。メイド達もそうです。お母様────いえ、メイド長以外のメイドは無能揃いですよ。現に、あなた方は十六夜咲夜メイド長と遊んだ経験がありますか?」
「……無い、けど……」
「当然です。メイド長はお嬢様に付きっきりです、その他の家事も副メイド長と分担しています。遊ぶ暇などありません。副メイド長だって屋外の仕事中以外であなた方妖精と言葉を交わしたことがあるのでしょうか?」
「…………」
「沈黙は肯定と受け取りますが、構いませんね?」
「…………」
「つまりそういう事なんです。仕事もしない奴しか
『友達』と呼べるほど、遊んだりしないんですよ。だからそれだけ、あなた方妖精の侵入者は……僕らの業務の邪魔をしているんです」
「っ、だからって!だからって皆を殺すなんて!!言葉で注意したり追い返せばいいだけなのに!!」
「僕が注意したところであなた方程度の知能で理解できるとも思えませんが。というかこれまでに注意してきました。覚えてないのであれば、その程度。お友達とやらから、聞いてませんか?『入るなって言われた』と」
「「「………………」」」
「それでは、停止時間10秒で皆殺しにしましょう。幻世『ザ・ワールド』」
「や、やめ────」
「おっと。命乞いでしたら時間が動いている時のみ受け付けておりますので、ご了承下さい。申し出を聞き入れるかは────また別問題ですがね」
吸血鬼の身体能力をフルに活用し、虔魔は侵入者55名を全てナイフの餌食としてしまった。
妖精の死体は暫く経てば消える。しかしその前に虔魔は、動物等を捌く練習として、妖精達の死体を捌いている。最近はかなり板に付いてきたようだ。
やがて返り血に塗れながら、彼は裏口から死体を無造作に投げ捨て、55名分の血腥い肉山を作った。
「いつでもお待ちしておりますよ。侵入者さん達。あなた方が飽きるまで僕に殺され続けてください」