「────って事があって……。私が駆け付けた時にはもう遅くて……私、もうどうしたらいいか……」
「うぇ〜、妖精を切り刻んで惨殺って……。言っちゃ悪いけどさ、そいつ、本当に
「私達も過去に何回も紅魔館には侵入してるけど、咲夜さんだって私達の侵入に気付いてたのに普通に見逃してくれたもんね」
「それどころか、レミリアさんに報告する素振りも無かったわ。サニーの杜撰な作戦のせいで〜……って思ったけど、咲夜さんに救われたわよね〜」
「な、何よ杜撰って!スターだってノリノリだったじゃない!」
「メイド服は可愛いから。メイド服に罪は無いわ」
「何なのそれー……」
妖精55名が虔魔によって惨殺された次の日。その惨状を目の当たりにしてしまった大妖精は、早速、光の三妖精こと、サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアに相談に来ていた。
大妖精は普段からチルノやルーミアなどの面々とつるむ事が多い。しかしそれは、あくまでも自身のテリトリーが近い、もしくは被っているからこそ。普段は三妖精との繋がりがあるとは思いにくいが、力のある妖精同士、見かけ以上に繋がりは深い。
「で、なんて名前でどんな奴なの?」
「十六夜虔魔。エスカルゴさんの息子……三男だよ。紅魔館に住み込みで働いてるから、紅魔館で唯一の男の従者。銀髪、吸血鬼の子供だから、見ればすぐ分かるよ」
「能力は?」
「咲夜さんと同じ時間
「じゃあ勝てるね。スターの能力で気配を探って、ルナの能力で音、私の能力で姿を消して、虔魔ってヤツに思いっきり不意討ちを仕掛けてやる!」
「サニーにしてはまともなアイディアね。それと、付け加えるとすると、館に侵入するには『相手から招いてもらう』のが一番だわ。でもそうするとお客扱いになって身動きが取れそうになくなる……。だから、窓や玄関が開いたのと同時に突っ込むの。これが一番確実にバレにくい侵入ができる方法だと私は思うわね」
「そういえば、大ちゃんによるとその妖精55人は、窓を割って侵入してたんだよね?やられた子達には悪いけど、そりゃバレるよね……」
「問題があるとすると、紅魔館は窓が少なくって、サニーの能力が満足に活かせない可能性がある事。光なくして、サニーの能力は使えないからね」
「まぁ日光以外も大丈夫っちゃ大丈夫だし、屋内に光源さえあれば……って感じかな。あとは、ちゃんと私達が気配を隠してどうにかすれば……多分……多分だけど、どうにかなるんじゃないかな?」
「後はスターが爆弾使えばいいんじゃない?ほら、雪玉に仕込んだ爆弾なんて霊夢さんにすらダメージ与えてたしさ?」
「あ……それ良いかも!」
「よーし、それじゃ決まりね!『不意討ちで爆弾でぶっ飛ばそう作戦』、開始よ!!」
「「おー!!」」
三妖精の勇ましさは妖精界隈ではかなり有名だ。あの博麗霊夢に手傷を負わせたのは勿論だが、その傷というのも、異変ですら負わないレベルのものと言われている。
後日彼女の傷を見た人の中には「月で綿月依姫に負わされた傷の次くらいだな」と言う者まで。
「あ。大ちゃん、私達が作戦考えてる間、そいつについてエスカルゴさんから色々と聞き出してよ」
「サニー達ならそう言うと思って、聞ける範囲なら全部聞いてきたよ。浮気を疑われそうだったから、ホントに『聞ける範囲』だけなんだけど……」
「あ〜、あの人、独占欲は強いって言うからねぇ」
「エスカルゴさんの事だし、『何だ?アイツのこと気になってんのか?』とか言われたんじゃない?」
「……うん……そのまんま言われたよ」
その後、思いっきり体格差ックスを強いられたがそれで思い切りイキ狂い、現在進行形でそれに深くハマってしまっている事は言わない。
「だよね〜、それくらい言いそうだもの」
大妖精から見て、三妖精とエスカルゴは関わりが無いように見えていた。しかしスターのこの発言に違和感を覚えた大妖精は、モヤモヤするのも嫌だと考え、思い切って聞いてみることにした。
「もしかしてだけどさ……あの……スターちゃん達もエスカルゴさんとは……」
「うん、とっくに
「同時期。でもチルノよりは早かった」
「よし勝った」
「いや何の勝負なの……スターもサニーも子供ね」
「アハハ……」
「さて!作戦立てるのは、大ちゃんも手伝ってね!打倒・鬼畜虔魔!絶対許さないわよ!ボッコボコのギッタンギッタンにしてやるんだから!!」
「「「「えい、えい、おーっ!!」」」」
◆
「……風が騒いでいますね。夜の鳥達も鳴いている。こんな日には、あなたのような妖精さんには消えてなくなってもらいましょう」
「や、やめてよ!私、ほら、紅魔館のメイドさんの友達なの!遊びに来たんだよ!?ちゃんと遊ぶ約束だってしてるんだからっ!」
「おっと……そうでしたか、それは失礼致しました。それでは僕が呼んで参りますので、その者の名前を教えて頂けますでしょうか?」
「え……あ……」
「……『友達』ですよね?外の世界でもあるまいし、名前も知らぬ友など存在するのでしょうか……?」
「ま、マロン!マロンちゃんよ!」
「嘘ですね」
「んぎゃっ!」
ナイフを投げて、足を床に縫い付ける。足の甲が貫通し鍔のせいで抜けないのは、精神的、肉体的に幼い妖精にとっては拷問にも等しい苦痛だろう。
「いやあああああぁぁっ!!あ、足がっ、あぁ゙ぁ゙あああぁぁっっ!!」
「うるさいですね、口を縫い付けられたいですか?僕は裁縫も得意なのですよ」
「ひぐっ……う、うぅ……痛いよぉ……」
「紅魔館の妖精には名前などありません。ただ1人だけの例外を除いてね」
「……ッ!」
「もし『友達と遊びに来た』というあなたの言葉が真実なのであれば、知っていたのでしょう?彼女に名前が無い事くらい」
「そ、そうよ!知ってた!でも────」
「しかし僕の問いに『知らない』などと答えると、
『友達の名前も知らないなど有り得ませんね』……と返されると思い、咄嗟に考えた嘘の名前を答えた、という事でしょうか?」
「そこまで分かってるなら何でっ……」
「試してみたのです。あなたが嘘をつくか、真実を言うのか。真実なのであれば、見逃そうと思ったのですけれど……嘘つき妖精は生かしておけませんね。いやはや、残念ですよ。本日の侵入者はあなただけなので、時間的にも精神的にも余裕があったのに、またナイフを血に染めなくてはいけないなんて……」
「いやっ……きゃあっ!」
「!?」
顔面にナイフを投げ付けられそうになった瞬間、その妖精の身体はタックルを受けたかのように強く吹っ飛ばされる。縫い付けられたナイフはまだ足に残っていた。
「やいやいやいやい!お前だな!妖精殺しの十六夜虔魔ってヤツは!妖精虐めなんて楽しいか!?」
「……あなたは?」
虔魔は、突然現れた謎の妖精ことサニーミルクに驚きつつも、毅然と対応している。内心では余計な仕事が増えたと辟易しているが、逆に、
「私は、輝ける日の光、サニーミルク!!」
「……名有りですか。珍しいですね。それなりに力のある妖精とお見受けします」
「そうよ!三妖精の中では私が最強よ!!」
「三妖精?……あなたの他にあと2匹居るのですか」
「ええ!2人は今日は来てないけどね!!」
「ほう。1人で、同族を助けに来たと?」
「その通り!妖精界隈では有名よ?妖精を殺す悪魔みたいなヤツが紅魔館に居るって!」
「ふむ。それなのに、侵入者は増える一方ですか。妖精とは自殺志願者の集団なのでしょうかね?」
「な……何ですって……!?」
妖精という種族をバカにされたようで、サニーは思わずギリリと歯を食いしばる。しかし虔魔はまだ平然とした顔でサニー、血塗れの妖精を見下ろす。
「この子に手を出すならまず私を倒しなさい!もしそれが出来るならね!!」
「既に400を超える妖精を殺してきた僕に、あなたが殺せないとでも?……まぁいいです、死になさい」
ナイフを投げようと振り被った直後、彼の背後で音も立てずに何かが破裂し、虔魔は背面に凄まじいダメージを受けてしまった。
「ぐぁっ!?」
「ふ、ふふ……やったわ、スター!ルナ!」
「な、何を……ッ!?」
背後を振り返る虔魔。するとそばにはゴロゴロと丸い爆弾が転がってきていた。しかもその導火線は極めて短くなっており、今、この瞬間に爆発してもおかしくなかった。
「うあああっ!!」
1つ目の爆弾が爆発し虔魔が振り向いた時点で、サニーは被害者の妖精を抱えて、姿を消して館内を逃亡していた。勿論、残りの爆弾が爆発してからはルナとスターも別のルートから同じ場所を目指して逃げ始めていた。
「僕を舐めるのもいい加減にしてください……この、雑魚の寄せ集めが……!『
時間を止めた。しかしやはり姿は見えない。だが虔魔は吸血鬼。純血の吸血鬼だ。姿は見えずとも、敵を探す事など容易である。反響定位にて妖精達の位置を瞬時に把握してしまった。
「ふむ。前方5mに手負いの妖精とサニーミルク……後方13mに2匹。爆弾使いの妖精とは驚きましたがこれで終わらせますよ。幻世『ザ・ワールド』」
反響定位は自分と物体の距離、方向の他、大きさなども把握することができる。吸血鬼レベルだと、正確な形すらも把握できる。
故に虔魔は機動力を無くす為に4人全員の足へとナイフを投げた。
「そして時は動き出す」
「「「「いぎゃああぁっ!?」」」」
サニーはこれまでに味わった事のない激痛により能力を解除してしまい、サニーと妖精の他にルナ、スターも姿が露わになる。
「この僕から逃げ仰せられると本気で思っていたのですね。妖精は、家や遊び場だけでなく頭の中までお花畑だと見える。もう、大変愚かとしか言い様がありませんね、と」
「っ……」
「え」
ナイフを2本投げて、サニーが抱えていた妖精の額、胸に突き刺し、先程サニーが救出した妖精を、一瞬のうちに殺してしまった。
ズルリとサニーの腕から崩れ落ちる肉体。彼女も何が起きたのか分からず呆気に取られていた。もう頭が働いていない。虔魔を挟んで反対から見ていたスター、ルナもそうだった。
「そん、な……嘘……」
「サニー、スター……逃げるよ!一時撤退!」
「そ……そうね……っ」
「逃がしませんよ?羽根も破りましたしね」
「「「!!」」」
「ッ……こ、殺せるものなら、殺してみなさい……!あんたがエスカルゴさんから殺されるんだから!」
「僕が?お父様から?……意味が分かりませんね」
「私はエスカルゴさんの友達というか愛人だし!?そんな私に手を出して無事に済むと思わない事ね!あんたは……あんたは……絶対に許さないからっ!!私達をこんな目に遭わせて無事だった奴は居ない!チルノですら力を合わせれば私達に負けるのよ!!多分だけど!分かってんの!?」
「幻想郷の全妖精があんたの敵よ……!私達より強い妖精だって居るんだからねっ!悔しいけど……!」
「そうですか、結局は他力本願ですか。せめてもの慈悲です。コンマ1秒のズレも無いよう3匹同時に殺してあげます」
再び時を止め、懇切丁寧に三妖精の胸にナイフを突き立てる。1人につき3本ものナイフ。もう殺意しかない。虔魔が時を動かすと、とうとう三妖精は同時に絶命した。
「ちょっぴり苦戦しましたが、妖精の恨みなど所詮この程度です。お父様の愛人というのは、真実ならまずそうですが……まぁ……妖精の戯言ですし、特に気にしないのが吉ですね。それに、妖精を消すなど日常茶飯事ですし、お父様も詮索しないでしょう。何より、この一件がお父様のお耳に入ることは無いですからね。あいつらが伝えない限りは……ね」
血塗れの床、爆弾によって破壊された廊下を見て虔魔は肩を落とす。それでも彼は紅魔館に侵入した妖精を襲う事はやめない。それが間違っていないと信じてやまないからだ。
そして虔魔は、霧の湖に4人分の遺体を無造作に放り込み、廊下の修復に取り掛かった。