※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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Night of knights①

 三妖精の襲撃から数日後。1回休みから復活した三妖精は、背に腹は変えられぬと博麗神社へ向かい軒下に住まうクラウンピースへ話を持ち込んだ。

 勿論、詳細を知っている大妖精も居るし、今度は大妖精の付き添いとして、チルノも参加している。チルノは最近も継続して特訓漬けの日々を送ってるお陰で、妖精界隈の近況には詳しくはなかった。

 まさに妖精のラスボス的存在のチルノとピース。エタニティラルバにはそう簡単に連絡がつかないと三妖精も大妖精も知っているからこそ諦めている。

 しかし、チルノさえいればとも考えていた。今の彼女は並の妖怪をも遥かに凌駕する強さだからだ。

 

「……許せねーっ!そいつ、懲らしめてやりたい!!なぁチルノ!お前もそうだろ!?」

 

「勿論!会ったことある奴もない奴も妖精は友達!友達を殺しただなんて……そんなの許さない!!」

 

「今度の襲撃はあたいとチルノで行く。サニー達はあたい達の無事でも祈っていてくれ」

 

「でも、姿もバレバレで行ったんじゃ侵入した瞬間バレて殺されるだけだよ!せめて私を連れてって!そりゃピースやチルノに比べたら弱いかもだけど、それくらいの手助けくらい────」

 

「ダメだ。相手は子供とはいえ吸血鬼。サニー達の話によれば、十六夜虔魔はとうに『反響定位』って技術をモノにしてるみたいだしな」

 

「それ、エスカルゴから聞いた事あるなー。獲物の位置を掴む技だよね。そのせいで、サニーの能力もルナの能力も無効化(効かなく)されたんだよ。見えなくても、音が無くても、そんなの関係ないんだ」

 

「そうそう。『そこに居る』だけでバレるんだよ。全くチートだぜ、吸血鬼ってのは……」

 

「「「そ、そんな……」」」

 

 あの時の虔魔の攻撃によるダメージが全くの偶然ではなかった事を改めて思い知らされた三妖精は、悲痛な声を上げて、目に涙を浮かべる。

 大妖精もチルノもピースも、彼氏とのバトルにてそういった技術を目にしていたからこそ、彼女達の能力が無効化された原因など、詳細を聞かなくともよく分かっていた。

 

「大丈夫だって。あたいもチルノも、数年前よりもずっと強くなってる」

 

「絶対勝てるとは言わない。でも勝つよ。あたい、紅魔館の虔魔とは何回か戦ったことあるんだよね。ま、あたいの圧勝だったけどさ!」

 

「でもそれ何ヶ月も前なんだろー」

 

「うぐ」

 

「……エスカルゴの子供達は、成長が早い。だから、あくまでチルノのソレは参考にしかならない。でも逆に言えば、参考には(・・・・)なるんだ。それをもとにして作戦を立て……今度こそあたい達でぶっ飛ばそう!」

 

「おうっ!やろーぜピース!!」

 

「チルノとあたいなら勝てる!」

 

「「おーっ!!」」

 

 それからピースが頭脳役、チルノが経験を話す役として作戦を立てていった。チルノの経験は確かに役に立ちそうだった。

 

「虔魔って、やっぱ咲夜の子供で弦月姫の弟だから時間を操るんだ。あたいが戦ったときは止めるだけだったけど、今はそれ以外も出来ると思ってた方がイイと思う。よく分かんないけど、1本のナイフを何本も増やしたりも出来ると思うんだ」

 

 チルノが言っているのは、過去や未来のナイフを出現させられるのでは、という事だ。十六夜母娘は現にその技術を会得しているので、1本のナイフを過去や未来の分として倍々に増やせるのだ。

 チルノは、当時こそ虔魔はそれをやらなかったが成長した現在ならそれをやってのけるのでは、と、らしくない程に警戒している。

 チルノは三妖精の力は認めている。だからこそ、その三妖精が呆気なく倒されてしまったと聞いて、こうも義憤に駆られているのであった。

 

「……アイツはまだ子供だから、吸血鬼でも力は弱いはず。ピースに強化してもらえばあたいがアイツの足を凍らせて動きを止められるはずなんだ」

 

「凍らせられたらね。ならそれはそれでいいけど、凍らせられなかったら?」

 

「燃やせばいい!あたいは、バーニングチルノにも変身出来るんだから!」

 

「そういやそうだったなー。妖精なのに変身とか、本当に凄いよ、チルノは。あたいは、サポート役に徹してた方がいいかもしれないな」

 

「うん、それがいい!あ、スター達は爆弾の用意を頼んだぞ!あたいかピースの火で着火してやる!」

 

「分かったわ!サニー、ルナ!帰って材料準備して作るのも手伝って!……あ、大ちゃんはどうする?」

 

「あ、うん、私は……」

 

「大ちゃんも爆弾作りお願い!大ちゃんも手伝えば沢山作れるから!」

 

「……!分かった!チルノちゃん……頑張って!!」

 

「おーうっ!あたい、負けないからなー!」

 

「あっ、そーだ!作戦の詳細は、これからチルノと決めていくとしてもさ……その作戦を実行する上で、4人に頼みたいことがあるんだけど……いいかな?」

 

「「「「……?」」」」

 

 

 ◆

 

 

「やいやい!紅魔館に討ち入りじゃーーーいっ!」

 

「イッツ、ルナティックターイム!!狂気の世界へようこそ!これから紅魔館は狂気の世界にどっぷりだからな!きゃっほーぅ!!」

 

「……やれやれ。真正面から侵入、いえ宣戦布告とは予想外でしたね。美鈴さんは何をしているのやら」

 

 時を止めずに悠々と現れたのは、執事見習いの、十六夜虔魔。前回、三妖精達により廊下を壊された苦い思い出を思い出したか、ムッとした顔で新たな侵入者であるクラウンピース、チルノを見やる。

 

「美鈴?あぁ、妖精界隈の現状を伝えたらすんなり通してくれたよ!お前が妖精を殺しまくってるって言ってやったんだよ!!」

 

「そんな事を言っても意味ありませんよ。何故なら僕が妖精を殺しているのは周知の事実だからです。勿論、美鈴さんも知っていますからね。……なのに、どうして通してしまったのやら」

 

「あの門番もあたい達にお前を止めてもらいたいんだろーよ。血に塗れたお前の暴走を……!」

 

「暴走?妖精如きが僕の殺戮を暴走呼ばわりとは、烏滸がましい。お父様とは違うのです。僕は理性を手放したりしません。それで強さを得られるのは、ほんの一握り。誰しもが理性を手放して強くなれるワケではないのですから」

 

「へー!成程なぁ、こりゃイイ事を聞いた!それを自覚してるってこたぁ、お前は理性を失えば弱体化するタイプってことなんだな!!」

 

「────ッッ!!」

 

「あー、成程ぉ!さっすがピース、あったまいー!そうと決まれば……突撃ィィーーーー!!」

 

「幻世『ザ……」

 

「あたいの松明を見ろぉぉ〜〜〜っ!!」

 

「……あ……」

 

 妖精なら強化される狂気の炎。しかし妖精以外がその炎を目にすると精神が狂気に犯され、早い話、それなりに長い時間、狂ってしまう。

 

「あぅ……」

 

「よしチルノ、今だ!半殺しにしてやれー!!」

 

「うおおおお行くぞ虔魔!仲間達の仇討ちだァ!!氷剣『アイシクルソード』ッッ!!身体の内側から凍ってしまえー!!」

 

 精神的に大きく不安定になっているからか時間を停止させられないようだ。その隙をついてチルノは虔魔の腹に氷の剣を突き刺し容赦なく貫通させる。

 

「このまま内臓まで凍らせてもいいけどそうすると殺しちゃうからな!半殺しまでだから殺さない!」

 

「へっ、ナイスチルノ!やっぱあたい達、組んだらサイキョーだぜっ!」

 

「もっちろん!」

 

 腹の剣に手をかけ、目を白黒させながらもそれを抜こうとする。しかしその冷たさは折り紙付きで、氷の妖精でもない虔魔では素手で握る事は勿論の事触れる事すら難しかった。

 

「図に、乗、るナ……雑魚、妖精、共、があぁぁ……うおおおあああああぁぁああああ!!!」

 

「ッ!?まずい……チルノ!!」

 

「分かってる!氷漬けにして全身凍傷にしてやる!妖精の恨み、思い知れェェエエエエエ!!」

 

 剣を起点に虔魔の全身を凍らせる。流れ出る血も身体も、その何もかもがチルノにより凍らせられ、虔魔は完全に行動不能となった。

 因みにチルノは、氷の中に液体の状態を保つ水を封じ込めるなど、繊細な技術を持っている。それをこの戦いに応用したので、虔魔は氷の中で健在だ。

 

「……やった、のか?」

 

「やった!間違いない!あたいは凍らせた!」

 

「へへっ……仇討ち完了、だな!」

 

「おうっ!」

 

 小さな氷山を前にパチンとハイタッチする2人。しかしその直後、氷に閉じ込めたはずの彼の気配が漏れ出てきているような、妙な感覚が2人を襲う。

 

「……やれやれです。まさかこの僕が、妖精に遅れを取るなんてね。やはり父上(・・)の彼女さんなだけある。並外れた強さですね」

 

「「お前はっ…………ど、どうしてッ……!」」

 

 虔魔を氷漬けにした氷山の後ろから現れたのは、他でもない、十六夜虔魔だった。時を止めて着替えでもしたのか、黒の燕尾服に近い服から、緑と白を基調とした服になっていた。

 

「わ……what!?何が起きてる!?おい、チルノッ!凍らせたんじゃなかったのかよっ!」

 

「凍らせてる!間違いない!だってほら、氷の中にアイツ居るじゃんか!!」

 

「じゃあ目の前のコイツは何なんだよ!!……おい!お前は何者だ!?」

 

「時間を操って過去や未来の自分自身を召喚した、そうだろ!?確か、咲夜も弦月姫もそんな戦い方が出来るんだ!!」

 

 チルノの推理を聞いて、ピースはハッとするが、当の虔魔は口元に手を当ててクスクスと笑う。その舐めたような態度に2人はギリリと歯を食い縛るがここで焦っては負けだ。ここは敵の正体を探るのが先決だと、2人共、よく分かっていた。

 

「氷の妖精はこの上ないバカだと聞いていますが、成程、確かにこの僕が負けるだけの事はあります。その答え、100点満点中90点というところですね」

 

「点数つけんな!お前は先生か!」

 

「……減点分は『勘違い故の間違い』。あなた方は、僕の能力を大きく勘違いしていらっしゃるようだ」

 

「え?」

 

「は?」

 

「確かに、姉上(・・)の能力は『時間を操る』能力です。しかし僕の能力は『時間を止める』ことなんです。どうにも、止めるくらいしかできなくって……」

 

「嘘だ、そんなの信じない!」

 

「そうだぞ!あたい達を惑わそうったってそんなの無駄だからな!」

 

「ええ、信じて頂かなくて結構です。勝手に神経をすり減らしてくれるのですから。ですが、勘違いをしている様でしたのでね。一応、訂正だけはさせて頂きました。さぁ、説明は終わりです。後は存分に無意味な警戒をして勝手に疲れてください」

 

 ナイフを構える虔魔。投げる構えではなく、近接戦闘を仕掛ける構え方だった。ピースの松明の炎を見ようともせず、敢えて視線を逸らしている。

 しかし、これまでの彼の言動からピースは1つの違和感を感じ取った。

 

「────待て。お前、十六夜虔魔じゃないな……!?お前は……誰だ!?」

 

「は?何言ってんだクラピ、コイツは十六夜……」

 

「……ええ、そうです。流石は地獄の女神の部下だ。よく見抜きましたね。あなたの言う通り僕は十六夜虔魔ではありません」

 

 構えを解き、虔魔は晴れやかな、爽やかな笑顔を見せる。演技には見えないが、どこか胡散臭い気もする。例えるならわざと「子供っぽい顔」を作っているような、そんな顔だった。

 

「僕の名は、魂魄虔魔。以後お見知りおきを」

 

「こ……魂魄ッて……それ、妖夢の……!」

 

 彼の名乗った有り得ない名前に、ピースは混乱を隠せない様子だった。チルノはチルノでとうに頭がオーバーヒートを起こしているのか硬直している。

 

「僕は『勘当されて魂魄家に養子として拾われた』世界線の十六夜虔魔です。なので名前としては魂魄虔魔を名乗っています」

 

「え……ど、どーゆーことだ……!?」

 

「つまりな、チルノ……コイツは、別の世界の十六夜虔魔だって事なんだっ……」

 

「ええ〜〜っ!?」

 

「おかしいと思ってたんだよ!虔魔はエスカルゴを

『お父様』って呼ぶ!紅魔館がそういう風潮だから自然とそう呼ぶようになるんだよ!なのにコイツはエスカルゴを『父上』って呼んだ!弦月姫に対してだって『姉上』って呼んだ!それは穹の家だとか、妖舞の家での呼び方だろっ!」

 

「正解です。僕はこの虔魔に召喚された並行世界の虔魔ですからね。しかし、世界線移動の際に記憶はコピーされていますので……現在、僕達が敵対関係である事は理解しています。お喋りはおしまいです」

 

「ま、待て待て!」

 

「はい?」

 

「能力を言え!そっちはこっちについて知ってる、なのにこっちはそっちについて知らない!あまりに不平等だろ!」

 

「……正直に言うと思いますか?」

 

 そう、正直に言うはずがない。まして虔魔のその性格だ、言ったとしても嘘の可能性が高い。しかしそこはクラウンピース、ちょっとやそっとでは絶対押し負けたりへこたれたりしない。

 

「ほぉ〜!そーなんだ!言えないんだぁっ!?」

 

「……はい?」

 

「お前どうせアレなんだろ?あたい達に負けるのが怖くて能力を教えられないんだろ!そーだろ!?」

 

「え!?ホントかピース!?あははっ、そーかー!強がってるクセに負けるのが怖いのか!子供っぽいところあるじゃないかー!」

 

 ピースの煽りに乗ってチルノも虔魔を煽る。手に握ったナイフをバキッとへし折り、口元をヒクヒク引き攣らせ、半ば早口になりながら、虔魔は言う。

 

「分かりましたよ。構いません、教えてあげます。僕の真の能力は《時間を止める程度の能力》です。そして《並行世界に干渉する程度の能力》です」

 

「並行世界……もう1つの幻想郷か……!」

 

「そうです。世界は、1つではありません。2つも3つも4つも5つも……無数に存在します。僕はその

『こことは違う幻想郷』に干渉……つまり、触れ合うことが出来るのです」

 

「……!」

 

「別の幻想郷の僕にも沢山の種類がありましてね。姉殺しをして紅魔館から追放された僕、お父様から殺された世界の僕、お嬢様に見捨てられ追放された僕……3大タブーを犯した僕……人里を乗っ取ろうと画策して賢者に処罰された僕エトセトラ……」

 

((どの世界でもロクな事になってねーな……))

 

「中でも魂魄虔魔(ぼく)はここの虔魔(・・・・・)と特に仲良くさせてもらっていますよ。スペカを共有しているのは全員共通ですけど、僕達以外の虔魔が『思い付いた』と思っているものは、その実、僕達が他の虔魔に記憶を送って強制的に思い付かせているんです(・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

「「なっ…………!?」」

 

「そこまでの芸当が出来るのは、実は、魂魄虔魔(ぼく)とここの虔魔だけなんです。不思議ですよね。しかもその中でもここの虔魔の方が力が強いのですよ」

 

「……!チルノ!」

 

「おうっ!言わなくても分かってるっ!」

 

「?」

 

「へへんっ!やっぱお前、バカだろ!自分で『僕はこの虔魔より弱い』ってバラしてんじゃんか!」

 

「そーだそーだ!やってやれチルノッ!他の虔魔を呼んじゃう前に凍らせちゃえ!!」

 

「うおおおおっ!!」

 

 アイシクルソードを月光に煌めかせて、チルノは虔魔に迫る。虔魔はそんな直情的なチルノを見て、小さく溜め息をついた。

 

「……やはり妖精はバカですね。僕がここの虔魔より劣っているのは、記憶を送ったりできないという、能力の相性での話なのであり……決して、戦闘能力が劣っているワケではないというのに……」

 

「しゃらくせー!友達の仇だ!半殺しにしてやる!覚悟しろ!!」

 

「いけーチルノ〜!!」

 

「やれやれ。ま、暇潰しには丁度いいですからね。遊んであげますよ」

 

 ひょいと飛び上がってチルノの剣戟を回避する。すると、虔魔の視界には、廊下の天井に吊り下がるシャンデリアが目に入る。なんて事は無いいつもの景色。しかしその時、虔魔の視界がグラリと揺れ、空中でバランスを崩してしまった。

 

「う……ぁ…………なん、だ……コレは……ッ」

 

「ヘヘッ……やっと効いたかっ!お前、記憶をコピーされたからって、中々炎を見てくれなかったしな!だがこれでお前も狂気に冒される!ザマァみろ!」

 

「……!?そんな……嘘だ……僕は炎など目には……」

 

「一体いつから────狂気の炎があたいの松明の炎だけだと勘違いしていた?」

 

「な……」

 

「フッフッフッ……!紅魔館中のシャンデリアの炎は全て、あたいの松明の炎に置き換わってるのさ!」

 

「そんな馬鹿な!そんなハズはない!僕は、決してあなた達から目を離したりはしてない!!そんな隙なんて与えていない!!」

 

「そう、あたい達から目を離してない(・・・・・・・・・・・・・)。だからこそ変化に気付けなかったんだよ!!やれ、皆!!」

 

「!?」

 

 直後、虔魔の足元で、連続して爆弾が爆発する。囲むように配置していたようで、虔魔の足が一気に吹っ飛んだ。しかも、数だけではなく威力も大幅に上がっているようで、服までメラメラ燃え始めた。

 

「う、うあぁ!?くそっ、氷で消してやるっ……う、くあぁっ……つつ、冷たい……肉がくっつくッ……」

 

「ヒヒッ、いい気味だ!氷が溶けるまでもう1人の自分と抱き合ってな!マヌケ!」

 

「……こうなったら仕方ありませんね……強引でも、必ず殺しますよ。並行『アナザー・ワールド』!」

 

 氷にくっつく虔魔の目の前にもう1人の虔魔と、更にもう1人……弦月姫が現れた。

 

「「弦月姫!?」」

 

「チルノに、クラウンピース?…………成程ね、中々面倒な事態に陥っているようね」

 

「やれやれです。虔魔(ぼく)達は何をやっているんです?妖精なんかに遅れをとるとは」

 

「気を付けてくださいよ姉上、虔魔(ぼく)。そいつらは、やっぱりタダモンじゃないようです」

 

「ふぅん……ま、私達姉弟に敵うとは思えないけど」

 

「同感ですね。油断し過ぎですよ、2人は」

 

 チルノもクラウンピースも、この世界での虔魔と弦月姫の仲があまり良くないのはよく知っている。だからこそ、目の前の虔魔と弦月姫が、このように普通にやりとりしているのが違和感しかなかった。

 

「ふ、ふふ、ふ……鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていますね……。そう、この十六夜姉弟は、共通の両親を持ちながらも関係を持ってしまったのです。この虔魔こそが、さっき僕が言った『3大タブーを犯した僕』です。そして姉上は世間体や親よりも、愛を……性愛を選択した。その結果として、紅魔館を追放され、魔法の森にて2人暮らしをしているこの十六夜姉弟です……!!」

 

「口が過ぎるわよ、どこかの虔魔」

 

「……おやおやすみません。では、その2人の始末、頼めますか?」

 

「愚問ね。妖精2人くらい1秒あれ…………」

 

 弦月姫の動きが止まった。隣の虔魔もだった。

 その理由は明らか。氷山にへばりつく虔魔を見たせいで、氷に反射したピースの狂気の炎をガッツリ目にしてしまったからだった。

 

「どいつもこいつもお喋りが大好きで助かるぜっ!なっ、チルノ!」

 

「だなっ!変身しなくても倒せる程度みたいだし!アッハッハッハッハッ!!」

 

「よーし、残りの爆弾をぜーんぶ落としてやれ!!何もかも木っ端微塵だーっ!!」

 

 天井からゴトゴトンと沢山の爆弾が降ってくる。しかしその位置も掴めず、ジジジと導火線が燃える音だけが全方位から聞こえてくるばかり。

 時を止めてチルノ達を抹殺したとしても紅魔館が爆破の被害を被るのは間違いない。紅魔館を出たとしても弦月姫はまだ紅魔館への忠誠があったので、ここで逃げるという選択肢は出せなかった。

 

「殺すっ……次会ったら絶対にっ……!」

 

「え?次?」

 

「帰るわよ虔魔!私達の世界に!」

 

「ですね。あの虔魔(ぼく)みたいに足が吹っ飛ぶなんて、そんなのごめんです。彼女だけでも帰らせますね」

 

「そんなっ!待ってくださいよ!これじゃあ僕は、何の為に2人を召喚したのか────」

 

「知らないわよ、そんなのそっちの都合でしょ!」

 

 その言葉を最後に、弦月姫と虔魔は元の世界へと帰って行った。次に魂魄虔魔が口を開く前に、その爆弾が炸裂し、紅魔館の廊下はすっかり大破して、メラメラと床が燃え始めていた。

 

「ぎゃあぁっ!!な、治りかけの足が……っ」

 

「はっはっは!負けを認めろ!そして妖精に謝れ!会う度に謝れ!侵入者だと言って殺すのをやめろ!それで許してやる!」

 

「誰が謝りますか……!僕は正しい事をしています!この世界の虔魔(ぼく)は正しい事をしている!」

 

「そうか、じゃあ勝った方が正義だ!」

 

(『アナザー・ワールド』は、並行世界の自分だけではなく、そのとき、並行世界の自分の周囲に居る人物も一緒に召喚してしまう。召喚する側にとってある意味、クジのようなスペカ。そんなものをこの局面で使うのが間違っていた。それなら……)

 

「いけぇチルノ!トドメを刺してやれ!」

 

「はいよっ!雹符『ヘイルストーム』!!」

 

「かくなる上は…………合技────」

 

 虔魔は2枚目のスペカを使用。今度こそ、確実にチルノとクラウンピースを苦しめ、倒す為に。

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