「────合技『究極の同士討ち』」
(何が「同士討ち」だ!眩しいだけだろ!手応えはある!このまま貫き通す!!)
とうとう2枚目のスペカを発動した虔魔。するとチルノと虔魔の間の床の1点がカッと光る。目映いその光に思わず目を閉じるチルノだったが、視界が開けた彼女は、氷の剣を握るその手を思わず離してしまった。
「うぁ…………あ……あぁっ……!?」
チルノが剣で貫いた「それ」はまさかのクラウンピース……ではなく、他でもないチルノ自身だった。胸元を綺麗に貫かれたチルノは既に目の光を失い、傷口と口元から血を流して息を引き取っていた。
「なんでっ、あたいがもう1人……なんで……うわあああああああああああぁぁぁっっ…………!!」
「落ち着けチルノッ!どーせ偽物……」
「偽物ではありません。紛れもなく『本物』です。あくまで
「「……ッ!」」
「別世界の自分自身に攻撃……ふふ、これこそ究極の同士討ちというものです。何なら別世界のピエロの妖精を呼んでも良かったのですがね?」
「ピエロとか言うな!あたいはクラウンピースだ!バカヤローめ!」
「では、次の攻撃では僕の世界のクラウンピースを召喚してみましょう。そんな事をすればこの世界のチルノの心は壊れてしまうかもしれませんが……♪」
「ッ……この、ゲス野郎……!!」
ガクガクと全身を震わせるチルノを宥めながら、虔魔に親の仇を見るような鋭い目を向けるピース。しかし虔魔は、ベリベリと氷山に張り付いた皮膚を剥がし、スタンと降り立ち埃を払う。
「ふふふ……時間稼ぎ感謝しますよ、チルノ。お陰で僕の足、すっかり生え揃いましたよ」
床に転がるチルノの死体を見ながら、可笑しいと言わんばかりにニヤニヤ笑っている虔魔。ズボンは当然再生はしないが、時間をかけてしまったせいで再生が遅いはずの虔魔も足を全快させてしまった。
「し、しまった!!」
「哀れなものです。先程の言葉通りなら爆弾はもう使い果たしてるのですよね。吸血鬼であるこの僕の肉体を破壊できるだけの攻撃力が、今のあなた方にありますか?」
「……っ」
「あう……あたい……あたいは……自分を…………」
「っ、クソッ!サニー!スター!ルナ!大ちゃん!今夜は撤退だ、逃げろ!逃げろーッ!!」
「逃がすと思います?これ以上狂わないよう、もうシャンデリアの炎すらも見ません。床を見れば済む話ですか……ら……?」
まだまだ狂気が浅かった。小さな炎、しかも極々短時間しか狂気の炎を見せられなかったので虔魔は殆ど正気を保てていた。けれど今度は違っていた。
床には、煌々と炎が灯っていた。大きな大きな、松明なんかよりもずっと大きな炎が。
「な、にィ……!?まずイ、頭がオカしク……アグ……グググァァアアァッ!!」
床に転がるチルノを見たつもりだった虔魔だが、そこにあったのはスケートリンクのような氷の床。そこにピースの持つ松明の炎が反射していたから、巨大な炎に見えたのだった。
「『乱反射』……。光は、表面が滑らかじゃない面に当たると色んな方向に反射する!!あたいの死は、決して無駄じゃない……無駄になんてさせない!!どの世界でもあたいはサイキョーの妖精なんだッ!死んでも、死んだ後もずっとだッ!!」
「チルノ……」
チルノは、虔魔の策略により殺してしまった並行世界の自分自身を溶かし、凍らせ、床一面に広がる氷として利用した。剣を刺せばそこを起点に複雑な能力でも使用できる。それを応用したのだった。
そしてそれを見ていたサニーが、乱反射した光を倍以上に増大させ虔魔の視界に入るように反射光を誘導していたのだった。
「アアァア゙アアアァ゙ァッッ!!!」
酷い雄叫びを上げた虔魔は、所構わず体当たりを繰り返す。硝子は砕け散り、床の氷は割れ、天井に吊られたシャンデリアはガシャガシャ落ちまくる。
騒ぎを聞き付けてメイド妖精が集まってきたが、その隙を逃さず、ピースはチルノを支え、未だ姿を隠しているサニー達へ身振り手振りで合図をして、虔魔が割った近くの窓から全員揃って脱出した。
やがて、6人揃って霧の湖のほとりに座り込み、皆で無事を祝う。三妖精は抱き合って喜んでいるがチルノは誰より苦い顔をしている。大妖精はそんなチルノを見て同様に心を痛め、ピースも悔しそうな顔をしている。
「ちぇッ、結局うやむやになっちゃったな……」
「次は魂魄虔魔も倒してやるッ……!あたい、もっと特訓して強くなってやる!心も強くならなきゃ……、アイツには勝てない!今のあたいじゃ……!」
「いやいや、あの勝負は実質チルノの勝ちだよ!!だって、この世界の虔魔は氷漬けにしたじゃん!!別世界の虔魔との戦いなんて関係ないよ!」
「シャラップ!サニーは甘い!砂糖ドバドバ入れたココアより甘いよ!」
(ココアに砂糖って入れるっけ……?)
「あんなの仇討ちできたって言わない!並行世界の虔魔だって狂気にヤラれた虔魔が自滅したっていうだけだし!……でもいいんだ、今は。なっ、チルノ!また次があるもんな!」
「……ああ!氷漬けなんて倒した内に入らないよな。そうだ……あたい、あれで満足しそうになってたよ。それじゃダメだ!」
「でも……それでチルノちゃんが死んじゃったら……そんなの嫌だよ……!」
「大丈夫だよ大ちゃん。あたいサイキョーだもん。特に、ピースと組めばねっ!」
次の瞬間、紅魔館の一角がドゴォンという轟音を立てて吹っ飛んだ。狂気に精神を冒された虔魔が、まだ大暴れしているらしかった。そして彼を止める為なのか、遂にパチュリーやフランなどこの世界の紅魔館の魔法使い達が動き出した。
遠くからでも見えるくらいに高く立ち上る火柱、巨大な水の球……子供に浴びせるにはオーバーすぎるような気もしていたが、紅魔館の面々は魂魄虔魔を外敵と認識したのだろうとチルノ達は考えた。
そして、先程の雄叫びよりも一層大きな叫び声が聞こえてからは紅魔館は静まり返り、魔力の動きもなくなった。
恐らくあれは断末魔だ。現在の紅魔館は、明確な外敵には絶対に容赦しないのだ。例えそれが身内の顔をしていたとしても。
◆
「とりあえず今夜は引き分けって事でいっかな……」
「そーだぜチルノ。どちらかと言うと勝ちだけど」
「もっちろん!……でも次こそしっかり勝つ!」
「ああ!」
三妖精と大妖精が帰った後、チルノとピースは、湖のほとりに横になって星空を見上げていた。既に紅魔館は先の喧騒が嘘のように静まり返っており、パチュリーの創造魔法で壁の修復まで済んでいた。
氷漬けになった虔魔の消息は不明だが、2人共、一先ずは健闘を讃え合っていた。
「────あなた方に『次』なんてありませんよ」
「「あッ……!?」」
フラリと2人のそばに現れたのは虔魔だ。全身の皮膚がボロボロで、所々再生が追い付いていない。しかしその両手には生首が2つずつ、髪を無造作に掴んでぶら下げていた。
「あ……あぁっ……大ちゃん…………」
「サニー……スター……ルナ……まさ、か……」
「いやはや、苦労しましたよ。まさか、戦勝祝いをこんな近くで済ませ……しかも、解散していたとは。この4匹を探すのはとても骨が折れましたよ。ま、光の三妖精?とやらは3匹一緒に居たので、纏めて襲いましたがね」
フッと笑う虔魔はすっかり返り血に塗れていた。いつものスマートさは感じられない。恐らく、あのチルノの氷漬けから復活した直後ですっかり体力も尽きかけているのだろう。
歩いているだけなのに肩で息をしているくらいに疲労しているし、仮面のような作り笑顔もそこには影も形も無い。
生首4つを無造作に投げ捨て、弱々しくニヤリと笑って見せた。
「ハァ……どうです?
「お前……どうやって出てきた!?」
「知れた事を……。狂気の炎に呑まれた魂魄虔魔が、あの場で暴れた時に……割ってもらったのです。尤も彼は意識して割っていないのでしょうがね」
「クソッ……チルノ!」
「分かってる!吸熱『バーニングチルノ様』ッ!」
チルノも戦闘が長引きそろそろ限界だ。肉体的に疲労しているのもそうだが、何より普段より精神が疲労してしまっている。やはり、並行世界とはいえ自分を殺してしまうというのはキツイものがある。
「待てチルノ、『氷帝』の方じゃないのかッ!?」
「そっちじゃダメだ!超強い
「ゲホッ……ゲホッ、ゴホッゴホッ……僕もそろそろ限界が近いですね…………流石の僕も……体力の消耗が否めません………………決着を……チルノ……!!」
今は真夏。熱を吸収するチルノのこのスペカは、夏にこそ真価を発揮する。
チルノにより周囲の熱は吸収され気温はみるみる内に下がっていく。真夏から初夏、初夏から初春、初春から真冬へ…………。
「燃やし尽くしてやるッ!!」
「さ、寒い……」
「ピースは避難して!巻き込まない自信が無い!」
「……はいよ!でもチルノ、その前にあたいの松明を見ろ!もう一丁、強化してやるっ!」
「頼むっ!」
虔魔もかなり疲労しているからか、かなり口数が減ってきた。今にも倒れそうなくらいに見えるが、どうにかまだ立っているようだった。
「嗚呼……時を止めるのも難しいですね……。仕方がありません……僕の……ラストワードにて……トドメを刺して、ゲフッ……あげ、ましょう……」
「フン!やってみろ!あたいは、それを跳ね除けてお前をブッ倒す!!」
「『暗黒のマルチバース』」
地面にポツポツと白い光が点々と現れる。するとポポポポッと連続で光が溢れ、その場所に何人もの人物が現れた。それは、十六夜虔魔。全てが虔魔。
複数の並行世界から、複数の同一人物を召喚するスペルカード。今、チルノとピースの目の前には、実に合計7人の虔魔が存在していた。
「嘘だろ……1人でさえキツイのに、7人だって!?ふざけてるッ……」
「問題無しッ!!あたいが全員、燃やしてやる!!並行世界のあたいを殺させた報いを受けさせる!!覚悟しろ、十六夜虔魔ッ!!」
「僕を含めて……僕達7人は、『七つの大罪』の役を冠しています……。そう、以前紅魔館に襲撃してきた大悪魔達の通称です」
この世界の虔魔は「傲慢」、三大タブーを犯した虔魔は「色欲」などなど、それぞれ虔魔は得意気に語る。しかしチルノはそれらを全く聞いていない。彼女は「この世界」の虔魔しか見ていない。
(吸血鬼は急激な環境変化に弱い。エスカルゴでもそれは克服できてないんだから、子供の虔魔が対応できるはずないんだ。この人数差で戦うとしたら、そこにこそ勝機が……)
「チルノ、後ろだッッ!!!」
「え」
この世界の虔魔以外の
「「「「「「「!?」」」」」」」
「……何か、した?」
「何で生き……」
「ナイフなんかがあたいに刺さるか!今、あたいの体内は普段の倍以上……とんでもなく熱いッ!ナイフなんて、刺さると同時に消えるんだよ!!」
「な……っ」
「エスカルゴが教えてくれた。宇宙が生まれた時はもっともっと……1000兆℃だとか、そんくらい、凄く熱かったんだ!そして宇宙が広がるのと一緒にその温度も下がっていったんだっ!……お前、実はかなりバカだから、あたいが説明しても分からないだろ!
「!!」
「今のあたいの中は、ここら一帯の季節を真夏から真冬に変えちゃうくらいの熱が渦巻いてる。だからナイフなんてすぐに蒸発するッ!!」
「ならば素手で……」
「させるか!もっともっと燃え上がれ、バーニングチルノォォオオオオッ!!」
チルノが溜め込んだ熱を熱波として一気に解放。彼女を中心に、湖のほとりの草原は一部が焼けて、焼け野原となり、虔魔達も大火傷を負った。環境の変化に戸惑って、時間を停止させての回避が遅れたようだ。
「目が潰れた……っ」
「クソッ半端な状態で再生を完了した……これじゃあ僕は一生このまま……!?いや、そんなはず……」
「許さない……殺してあげますよッ!!」
「よくも僕の顔を焼いてくれましたね……!」
「……チルノ!やっぱりダメだ、殺されるぞ!」
腕力でチルノを仕留めようと一気に襲い掛かる。ピースは上空からそれを見ていて、必死にチルノに声を飛ばすが、チルノは一向に逃げようとしない。
熱波を放つよりもっと良い方法を思い付いたと、そう自負しているからだった。
「いいさ……ブン殴られてやる!一か八かだ!!」
「なっ、何考えてんだよ!?おいバカ、やめろ!!やめろ、チルノーーーーーッッッ!!!」
火傷を負ったとはいえ虔魔は立派な吸血鬼。炎の海の中に立つチルノを殴り殺そうと、彼らもまた、決死の覚悟でチルノへ最後の勝負を挑んだ。