幻月お姉ちゃんに清き一票をお願い致します。
駆翔は工房、霊長園を出ると、部下と別れ単独で動き出した。部下という名の移動の際のお荷物から離れた駆翔は、それはもう素早く移動する。まさに名前の通り、地を駆け空を翔ける。
移動速度に優れた彼はさっさと川、山、道を越え山を駆け登り、博麗神社へと到達する。
「っしゃあああーっ!!着いたァ!いやーアチィ!マジであっちー!」
「あれ、駆翔じゃん。どーしたの急に?」
境内に居たのは姉。エスカルゴファミリー次女の博麗霊愛だ。相も変わらず黙々と境内の掃き掃除をしていたらしく、駆翔の突然の来訪に驚いている。
「おう霊愛の姉貴!兄貴は居るか?」
「居るよ、呼んでくる。……あ、あとさ。今、神社にお父さん来てんだけど、話し掛けない方がいいよ。ブッチブチにブチギレまくってるから」
「え?何で?」
「私もよく分かんないんだけど、虔魔がー……って、お母さんに相談してるんだ。虔魔のヤツ、また何かやらかしたんだなぁ……とは私達も薄々気付いてるんだけど、お父さんがここまでブチギレるなんて中々無い……いや私が生まれてから見た事ないんだよね。だから今はそっとしておいてあげてね。私達ですら話し掛けるの躊躇うくらいにはあからさまに不機嫌だから」
「……はーい」
あの件についてかよ、と駆翔は苦虫を噛み潰したような顔になる。やはり、駆翔としては父に対して隠し通しておきたかった。もし伝われば、兄である虔魔がどういう悲惨な目に遭うのかは、幼いながら理解出来ているから。
しかし駆翔は知らない。レミリアの指示とはいえ虔魔が自分の意思で全てを伝えたのだという事を。
チルノ達妖精としては、「紅魔館に妖精が出入り自由になり虔魔に精神的苦痛を与える事」が復讐と考えていたので、実は既に復讐は達成されている。そう、妖精は元よりこの件を広める気は無かった。余計な事は余計な争いを生むからだ。
だから虔魔さえ黙っていればこうはならなかったという事だ。
「もしかして駆翔、何か知ってんの?」
「いや?」
「ふーん?」
「ンだよ、疑うのかよ?俺は、あくまでも畜生界のヤクザだぜ?幻想郷の事情とか、霊愛の姉貴ですら知らねーのに、この俺が知ってるハズねーだろ?」
「……ま、それもそうか。待ってて、呼んでくる」
「あ、頼んだ」
やがて霊愛に呼ばれて霊魔がやってくる。父親が現在神社の中で霊夢と話し合っているので、駆翔が来るのではなく自分が出向く事に不満は無さそうに見えた。それどころか息苦しい屋内から解放されたとでも言わんばかりに少々晴れやかな顔をしているようにすら見えてしまう程だった。
「どしたの、駆翔。僕に用なんて珍しいじゃない。本当はお父さんに用があったんじゃないの?」
「違う違う、マジで兄貴に用があるんだよ」
「そうなんだ」
「……兄貴さ、弾幕ごっこしてくんね?」
「え。今?」
「そう、今。イイだろ?」
「イイけど……唐突だね。どういう風の吹き回し?」
「なんてこたァないさ。虔魔の兄貴に勝ったから、次は霊魔の兄貴だって……そう思っただけだよ」
「ふぅん。じゃあ、僕に勝てたら次はお兄ちゃんと戦おうと考えてる……ってワケだ」
「おう!この前も言った通り、俺ァ若頭だからよ!ある程度の実力は必要だと思ってな!」
「分かった。でも僕とお兄ちゃんは引き分けたし、そこまで大きな差は無いと思うけど……まぁ、いいやその辺は。……やろうか、駆翔」
「っ……!」
普段はのんびり屋で、おっとりとしている霊魔。しかしシガレットが絡んだり、戦闘となると性格も目付きも大きく変わる。
実は隠れ戦闘狂なのではないのか、と駆翔は少し怪しんでいる。そしてその考えは大体合っている。
「おっしゃ、やるぜェ!!」
ビキィッと石畳にヒビが入る程の強さで思い切り地面を蹴り、霊魔に肉薄。まずはアッパーカットを仕掛けるが、霊魔はこれを顔を背けるだけで回避。
続けて右足での回し蹴りを仕掛けてやる。すると霊魔は、顔を背けた事で若干バランスを崩しており回し蹴りを脇腹に受けてしまう。
「がッ……」
「まだまだァ!!」
後ろに倒れかけたところに更に連撃を畳み掛け、霊魔に息をつく暇を与えない。そこで彼は考えた。一旦駆翔から距離を取り、体勢を立て直そうとしたものの、飛び退き、更にもう一度飛び退こうとしたその直後────。
「オラッ!!」
「ぐぁっ!?」
バン!と勢いよく石畳を踏み付ける駆翔。するとその瞬間から、霊魔の身体は真上から圧縮されて、押し潰されそうになってしまう。
「ぐぎぎっ……お、重い……!?」
「忘れたかい兄貴?俺の能力は《踏み付ける程度の能力》。力の流れを歪める事も、無効化させる事も出来る!今回はその応用だ……力の流れじゃなくて、
『力』そのものを歪曲、倍増させてやったんだぜ。重力という力をなッ!」
「なッ……じ、重力って、お父さんや、姫の……」
「おう!だけどまぁ、父様みたいに様々な方向にはできねーんだぜ?……
「うっ────」
何も無い空中を蹴る。すると霊魔の身体は何かに弾き出されたように吹き飛ばされ、鳥居に思い切り強く叩き付けられてしまった。
「これは……重力の方向転換……お父さんの技……!」
「魔理沙さんのマスパを踏み付けて、軌道を歪めるヤツ……前にコロシアムで披露したろ?それの応用で
『蹴り飛ばす事で方向転換』したのさ。弾幕だって蹴ってやりゃ明後日の方向に飛んでくしよ」
「……!弾幕だけじゃなくて、そういうのにまで干渉できるのか……!」
「俺の足技は概念にさえ干渉する!そこに存在する何かを歪め、消し去り、あとには俺しか残さねェ!それこそが俺の『能力』なんだッ!!」
「なら……仕方ないな」
「おっと、降参なんてのはやめてくれよな、兄貴?最後まで正面戦闘!それが俺の流儀だ!!」
「大丈夫。僕は負けないから」
「!」
「雷武器『雷刀』」
霊魔の雷刀はけん玉ベース。だから、どちらかと言えば刀というよりレイピアに近いかもしれない。霊魔はそれを真一文字に振るい、そして振る瞬間に力を流し込み刀を伸ばし、瞬時に駆翔の両足を使用不可にまで追い込んだ。
子供達の中では速度に優れる駆翔も、やはり純血吸血鬼、しかも妖怪退治に特化した訓練をしている霊魔には及ばないようだ。
「んがっ!?は……速すぎる……」
「足は封じたよ。翼もね。移動するなら匍匐前進になるけど……これでも戦える?」
「……ッ」
「妖舞お兄ちゃんなら、脛に峰打ちしてそれはもうとんでもない痛みを与えてくるだろうね。因みに、僕はそれ、過去に経験してるからね」
「ゲッ!?脛に峰打ち…………想像もしたくねェ……」
「一撃で沈むよ。比喩抜きで」
(今の兄貴だって俺を一撃で沈めたじゃねーか……。やっぱヌルい様に見えても強ェな、霊魔の兄貴は……今の俺じゃ到底敵いそうにねェや。無理だ。あんな速さ、踏み付けるどころか蹴る事すらままならねーじゃねーか。やっぱこれも種族の差か……畜生……。この差は、どーやって埋めりゃあいいんだよ……!!虔魔の兄貴の方が余程ヌルい戦闘スタイルだぜ……)
駆翔は足技が主な戦闘方法なので、こうして足を封じられたら行動不能になる。まだまだ己の練度が足りないと深い溜め息をつき、下を向いた。妖舞に挑むのはせめて霊魔に勝てるまではやめておこうとらしくない程に凹んでしまったのであった。
◆
「僕もそろそろ……お兄ちゃんを倒して男子で最強にならなくちゃ。…………お父さんが、待ってる」