真宵の誕生から3週間が経過した。今では、少し幼い妖精くらいに成長し、無事、魔法の森に建てた家、というより小屋に近い建物に、ルーミアと2人暮らしをしている。
既に長い時を生きており、知能もそれなりに高いルーミアが母親だからか、母親であるお空と同じく一点集中型の姫、放任主義の下で育った緋月と違い真宵の知能の発達が著しい。
「おーっす帰ったぞー」
「おかえりパパー!」
「真宵ちゃん良い子にちてまちたか〜?」
「うん!今日はね、今日はねっ、霊愛お姉ちゃんと霊麗お姉ちゃんと遊んできた!霊魔お兄ちゃんは、なんか、1人かくれんぼしてるってお姉ちゃん達が言ってたから、挨拶だけしたよ!」
なにも妹を相手に人見知り発動しなくたっていいだろうに。グイグイ来る相手には身内だろうと弱いというのが霊魔なので、仕方ないところはあるが。
「どうだった〜?お姉ちゃん達、怖くなかったか?仲良くできそうか?」
「もっちろん!真宵ね、霊愛お姉ちゃんから、赤いリボン貰ったの!ふふっ、すっごく可愛いっ!」
「んふふふ……いやぁ似合ってる似合ってる、マジで倍以上に可愛くなった!流石はルーミアと俺の娘!これからも皆と仲良くな!」
「うんっ!」
「……そんでもって明日は穹の所に行くんだっけか?ルーミア?」
「ええ、その予定よ。でも『山』でしょ?だから、明日はエスカルゴも一緒に来てほしいの。その為に敢えてローテーションに合わせて挨拶巡り始めたんだからね?」
そう、今ではルーミア家もローテーションに加入している。現時点では末っ子なので一番最後にだ。最初は優曇華院姉妹、そして今日は博麗三姉弟に。三女である穹は妖怪の山に住んでいるので、英雄と称され顔パスで山に入れる俺も同伴した方が良いと判断したらしい。
「OKOK。明るい内に行けるか?」
「夜が良いんだけど……まぁ、明日の夜にしちゃうと次のローテになっちゃうものね」
「まぁ、な……巫月もほら、寂しがり屋だからな」
「あー……色んな意味でね?」
「そー、色んな意味でな」
今夜はルーミア家、つまり明日は永遠亭なので、出来るだけ早めに戻りたい所だ。しかしルーミアはあまり日光を得意としないので、やはりここは夜の間に行った方がいいのかもしれない。
そこで俺は、トランシーバーで穹に連絡を取り、今夜、少しだけ時間をもらうことにした。夜の山に親子連れで侵入なんて、ワクワクしかしない。
◆
「────って、なんで空から侵入でもなく瞬間移動でもスキマでもなく徒歩なワケ!?登山しろと!?夜に子連れで登山しろって!?」
「イイじゃんイイじゃんっ、夜のお散歩っ♪」
「真宵のリクエストか……。それならまぁ……今回は仕方ないと思うことにするけどさ……」
「まー、俺が居れば問題は起きねェよ。大丈夫だ。それに、山のこの荒れた環境は────きっと真宵を更に成長させてくれるさ」
「「……?」」
一般人が守矢神社へ向かう道は主に2つ。それは今でも有効な移動手段とされているロープウェイ、そして登山道だが、真宵のリクエストで登山道から山を登り、穹に会いに行く事になった。
俺とルーミアは、折角来たんだから守矢神社にも行こうと言っているのだが、真宵としては、順番は守りたいらしく、そして別なルートでまた登るのが楽しみらしいので、樹理愛へはまた後日挨拶に行くらしい。次はロープウェイで、と言っている辺り、ある程度の計画性はありそうだ。
「ム。先輩、侵入者ですよ」
「バカ野郎、エスカルゴさんだ」
「あれがッスか。へぇ〜、ガキの頃にチラッと見た以来ッスよ。あの2人は?」
「さぁ……。知らんが、嫁か彼女か、それと娘だろ。まぁ気にするな。大天狗様方もそうだが、あの方に目を付けられたら…………死ぬぞ。冗談抜きでな」
「うぇ〜ッ、怖いなぁ……」
見ない顔だ。やり取りからでも分かるが、片方は新人らしい。ジロジロと見てくるのが気に触るが、先輩の方は分かっているらしく、目も合わせようとしない。
しかしこれでいい。「触らぬ神に祟りなし」との言葉の通り。俺に関わらなければ、十中八九俺から殺される事はない。100%は保証しかねるが。
「……ねぇパパ、アレが人面犬?」
「コラ、指差すな。お行儀が悪いぞ」
「あ、そっか。ごめんなさい人面犬さん」
「あと人面犬じゃなくて白狼天狗だ」
「あー!白い狼さんか!やっほー!真宵だよー!」
「や、やっほー……」
「バカッ……!スルーしろッて!申し訳ございませんエスカルゴさん、コイツ配属されたての新人で世の理を何も知らんものでして……!」
「別にいいよ。俺達の邪魔さえしなければさ」
「は、はいっ、ご厚意に感謝致します!」
「堅いのは止めてくれ、家族の前だ」
「あっ、は、はい!申し訳ありません!」
「……。まぁいいや、行こう」
「は、はーいっ……!」
2人組の白狼天狗の検問を顔パスで通過。すると新人の方から、ズァッと束のような闇が飛び出し、真宵の背中に突き刺さる。
真宵は特に意識していないようだが、誰が見ても分かるくらい露骨に吸収している。そして次の瞬間真宵の髪が伸びた。
普段のロリルーミアのような短髪ヘアーが、セミロング辺りにまで一気に伸び、緩んだ赤いリボンがはらりと解け、落ちそうになる。
「おっと。……あれー、髪の毛伸びてるー。リボンも緩んじゃった。ママー、リボンやってー」
「はいはい」
どう見ても大きく変わってるというのに、真宵はそこまで疑問にも思っていないようだ。よく言えば自分の特性をよく把握している。悪く言えば自分にあまり関心が無いようにも見えてしまう。
けれどもこれこそが、俺が妖怪の山に求めていた
「真宵を成長させてくれる環境」だった。
妖怪の山の天狗達は、組織に属している。組織に属しているという事は、即ち自由が少なく、束縛をされているという事だ。つまり、誰かを羨んだり、恨み、嫉妬する事が多い。
それは実際、俺が妖怪の山に通っていて感じた事だったりもする。真宵は「心の闇」も吸収するのでそれを糧に成長するのだろうと、そう思っていた。
その思惑通りに進んで、非常に満足だ。
「さて、真宵。歩いて行けるのはここまでだ」
「えー?道まだあるじゃん」
「このまま行くと守矢神社に到着する。あくまでもこれは人間向きの登山道だからな。参道とも言う。だけどな、穹お姉ちゃんのお家に行きたいなら飛ぶしかない。家があるのは、天狗の領域だからな」
「う〜、分かったよ。でもあんまり高いとこは怖いから、ママもパパも、おてて、繋いでくれる……?」
「勿論よ」
「ここまで歩いてくる道中ずっと手は繋いでたろ。大丈夫、安心して飛べ」
「うんっ!ありがと、ママ、パパ!」
この娘、天使過ぎる。天使の翼を生やして頭上に輪っかさえ付けてしまえば見た目も中身も天使だ。幼稚園児ほどの身長だが、ストレートな髪がとても綺麗で、そんじょそこらのロリより余程愛らしい。
3人でワイワイと話しながら飛んでいると、山のそこかしこから真宵に向かって蔓のように細い闇が伸びてきては真宵に吸い込まれていく。やはり心の闇というか、人員が多ければそれだけ山には病んだ者が多いというワケだ。
少しだけ自意識過剰な事を言わせてもらうなら、俺達家族のやり取りで嫉妬した連中の嫉妬心が、闇という形として外に飛び出しているのだろう。
◆
「えっと……父上……?その子が……」
「そ、3週間前に生まれた娘、真宵だ。よろしく」
「初めまして穹お姉ちゃん!真宵ですっ!これからよろしくね!」
「よ、よろしくお願いします……。あの、父上?」
「どうした?」
「3週間でこの成長度合いって、これまで以上だと思うんですけど!?純血の天狗より早いって……」
白狼天狗をはじめとする純血の天狗はそれなりに成長が早い。というのも、白狼天狗だとそれが顕著なのだが、戦闘民族にも似た存在なのか、やたらと成長が早く、若い期間が長い。
10歳も過ぎれば、見た目だけは青年程度になる。俺の甥っ子の白狼天狗、寿がまさにそうだ。穹よりずっと年下にも関わらず、混血である穹よりずっと年上に見えてしまうくらいだ。
「……もう少しで、見た目だけならレミフラレベルになるよな、これは。……闇を吸わせ過ぎたか……?」
「闇を吸って成長してるんですか……?」
あれから文の仕事場に到着するまでの間、真宵は成長と脱皮を繰り返すロブスターのように、吸収と成長を繰り返した。その結果として、早くも人間で言う所の8、9歳程度にまで大きくなっていた。
もう少しで人間の10歳頃……レミリアやフラン達、そして、普段のルーミアと変わらない姿になる。
「いやはや、恐ろしいものですね。今の時点でもう霊魔の姉にも見えますよ?」
「だよな。穹にもそう見えるか」
「ええ。見た目年齢だけなら魅玖とレイチェルの間くらいでしょうか。それくらいに見えますよ」
「……うん……俺も同意見だよ」
やはり真宵の体格はそれくらいの年齢にも見えるらしい。流石に穹はよく見ている。
「ところで、闇を吸収して成長するのが真宵の能力なのですか?」
「うんっ、そだよぉ!真宵ねー、いっぱい吸って、いっぱいおっきくなるのっ!きゃはー♡」
「それと、一時的ではあるけど、闇を吸われた人を楽天的な思考にするんだ。落ち込んでたのに、突然
『ま、いっか!』みたいな思考になるって言ったら分かりやすいかな」
「えっ。それ凄いですね。もし対象に意図的にそう思わせられるなら、戦意喪失にさせるとかも可能になるのでは?そうなると、争いを未然に防ぐという意味で真宵は最強なのでは……?」
「……確かにヤバいな。凄いぞ真宵。よしよし」
「……ねぇママ。真宵、褒められてるの?ヤバいって褒め言葉……?」
「今の使い方では褒め言葉ね。あなたは凄いって事だから安心していいわ」
「そーなんだっ!えへへ〜♡」
(ルーミアさん、こうして大人の姿だと、お母さんらしさが全開ですね。これが母性……?)
ジロジロと珍しいものを見るように真宵の表情を観察していた穹だったが、そんな中である事にふと気が付き、記者としてのサガなのか、躊躇う事無くツッコんで尋ねる。
「あれ?真宵のそのリボンって……」
「あっ!やっと気付いてくれたっ!これねぇ、霊愛お姉ちゃんと霊麗お姉ちゃんからもらったんだっ!可愛いでしょっ!」
「ええ、とても似合っていますよ。……やはりそれは博麗の巫女のリボンでしたか。いいですか、真宵。そのリボンは、とても大事な巫女装束の一部です。大事にしましょうね」
「もっちろん!お姉ちゃんからもらったんだもん、絶対、ぜーったい大事にするっ!」
「ふふ……それが一番です」
霊愛と霊麗の2人は、表向きには「自分とも幼い頃から付き合いのあるルーミアとの子供だったら」そして、「お近付きの印に」という理由で、真宵にリボンを贈った。
しかし2人が真宵にリボンを贈った本当の意味を知る事になるのは、もう少し先のお話……。
今回から、キャラットで作ったデフォルメイラスト使っていきます。利用規約によると、小説の挿絵に使うのは全然構わないようです。
とりあえず子供全員分、モルモーは作りました。