「ママ〜!紅魔館、行ってきま〜す!」
「はいはい気を付けて行くのよー」
「はーいっ!」
魔法の森に住まう宵闇親子にとってご近所さんは魔理沙、アリス、霖之助&朱鷺子、成美くらいだ。妖怪の山にも近いが、紅魔館は少し遠めだ。
しかし真宵は、能力によって争いを事前に治めるスペシャリスト。ルーミアは安心して真宵を1人で紅魔館へ向かわせた。
ある意味「実家のような安心感」とでも言うべきなのか、それとも子供にとって大きな館というのが珍しいものなのか、宵闇親子が挨拶巡りをした際に二番目に反応が良かったのが紅魔館だ。因みにだが真宵の反応が一番良かったのは博麗神社である。
「こんにちはー、美鈴さん!」
「こんにちは真宵ちゃん!今日も元気いっぱいで、可愛らしいですねぇ!」
「美鈴さんも可愛いよぉ!」
「ありがとうございます!……ところで真宵ちゃん、大きくなりました?」
「うん!妖怪の山に登ったらね〜、おっきくなったの!」
「適度な運動って事でしょうか……?なるほどです!あ、今日はどうしたんですか?またまた、紅魔館に遊びに来てくれたんですか〜?」
「んーと……それもそーなんだけどねぇ、なんかね、紅魔館、そろそろ爆発しそうだから、助けに来た!ヤミヤミヒーロー真宵だよぉ!」
「や、ヤミヤミヒーロー?……って、紅魔館爆発ってどういう事です!?」
「なんかねぇ、すんごい『やみ』の塊?みたいなのあるから、真宵が貰っちゃおーって思ったのっ!」
「やみの塊?どちらかと言うと、エスカルゴさん、ルーミアさん、真宵ちゃんがそれに当たるような」
「違うもんっ!紅魔館の中に居るもん!」
(ヒーローごっこか何かかな?んー、この場合は、どう話を合わせれば……?こういうタイプのお子様の対応は初めてなのでよく分からないですね……)
「むぅ……疑ってるな〜?ふーんだっ、疑ってるならもういいもんっ!美鈴さんのわからずや!紅魔館が消えてなくなっても、真宵、しーらないっ!」
「え」
「もし本当に消えてなくなったら、美鈴さんのせいだよってレミリアさんに教えちゃうんだからねっ!もう帰るっ!」
「わーっ!待って待って、帰らないでください!!分かりました、分かりましたからっ!」
「じゃー信じてくれる?」
「ええ、ええ、勿論ですよ、はい!信じますから、スルーして帰らないでぇ!」
「良かったー!それじゃ、ヤミヤミヒーロー真宵がちょちょいのちょいっと問題解決しちゃうからね!異変の黒幕を事前にブッ潰そー!おーっ!」
「お、おー……?」
「んーとぉ……それじゃあねぇ、スペカみたいに宣言しちゃうよっ!これから真宵は、紅魔館消失異変を未然に防いじゃいまーす!うふふっ……ふふっ、異変解決にレッツゴー!」
「あっ、真宵ちゃ…………行っちゃいましたか。結局紅魔館の
◆
「うわーっ!すっごぉい、妖精さんいっぱいだぁ!森よりも賑やかでいいねぇ!」
先日、紅魔館に挨拶巡りに来た時には夜だった。宵闇母娘が闇の妖怪だというのもあるし、紅魔館は悪魔の館。夜をメインに活動する吸血鬼の住む館。訪問するなら夜というのが真の礼儀というものだ。
故に真宵が妖精で溢れる紅魔館を見るのはこれが初めての事だったのである。
「あなただぁれ?」
「真宵は真宵だよぉ!あなたこそだーれ?」
「ただの妖精だよ〜」
「そーなんだ!……ねーね、お兄ちゃん知らない?」
「お兄ちゃん?紅魔館にお兄ちゃん居るの?」
「うん!えっとね、吸血鬼で、いっつも真顔なの!笑って見せても口だけしか笑ってなくって『これで笑ってるつもりなのかなー』って思っちゃうような男の吸血鬼!」
「紅魔館……男……吸血鬼……あ〜!ひつじ?って黒い服着てる子だよね?」
「し・つ・じ!執事の虔魔お兄ちゃん!」
「そうそう!えっとね、確かさっき見たよ?メイド妖精さんに混じって窓の拭き掃除してたと思うよ。1階の窓ね。テラスとかあるとこの近くだよ!」
「そーなんだ、ありがと!」
虔魔の動向について教えてくれた妖精と別れて、真宵は窓際をズンズン進む。すると集団で窓拭きをしているメイド妖精達と遭遇。
そこに虔魔の姿は無かったので、メイド妖精達に虔魔について尋ねると、どうやら虔魔は、さっさと先に進んで2階の窓拭きに取り掛かっているそう。
「虔魔さんって1人でズンズンやっちゃうよねー」
「ねー。早く綺麗に掃除できるのは尊敬してるけど私達と合わせる気がサラサラ無いっていうか」
「『ついて来れないならそれでいいですよ、僕だけ先に進めばそれでいいので』なんて言われたっけ。そりゃ、虔魔さんだけでも進んだ方が早いけど……」
「協調性の欠片も無いよね」
「まぁそれに関しては私達妖精に言えた事じゃないかもしれないけどさ……」
メイド妖精達は、虔魔から任された分の、残りの窓掃除をしながらもボソボソと愚痴りあっている。そんな所に真宵が通り掛かり、無邪気な目で自分達メイド妖精を見るので、思わず愚痴る口を閉じる。
「あっ」
「よ、ようこそ紅魔館へ!」
「ねぇメイドさん達、お兄ちゃん知らない?窓拭きしてるよって聞いたんだけど……こことは違うとこに居たりするの?」
「……えっと、虔魔さんなら2階に向かいましたよ。もし良ければ案内しましょうか……?」
「んー……んーん、大丈夫!ありがと!」
スタコラサッサとその場を離れる真宵。そして、さっさと2階に上がると同じく窓際を狙って歩く。しかし姿が見えないどころか気配も感じられない。真宵は訝しんだ。
「……もういいや!外に行こっと」
内側から探すより外から探した方がいいかも、と子供ながらに考えた真宵は、仕方なしに近くの窓を開けて外に出る。そして外から兄を探す事にした。
すると目論見通り比較的すぐに虔魔が見付かる。どうやら既に3階の窓拭きに着手していたらしい。2階を探しても見付からないワケだと真宵は小さく溜め息をついた。
「虔魔お兄ちゃーんっ!」
「おや……真宵ですか」
「やっと見付けたよぉ……」
「……?真宵……一回り大きくなりました?」
「やっぱり分かる!?そうなの!」
さっきも愚痴を言い合っていたメイド妖精達から闇を吸収していた。少しずつ、しかし急激に真宵は成長しつつあるのは、誰の目から見ても明らかだ。
「今日も遊びに来たのですね。どうぞゆっくりしていってください」
「……やっぱり虔魔お兄ちゃんかぁ」
「何がですか?」
「紅魔館が消える原因!」
「……はい?」
「虔魔お兄ちゃん、すっごい闇を持ってるからぁ、真宵がそれ貰っちゃうね!」
「え……ま、真宵……一体何を……」
真宵が虔魔に手を向けてやると、竜巻の如く渦を巻く闇がゴオッと飛び出してきては、真宵のお腹に真っ直ぐ吸い込まれていく。やはり虔魔に闇は視認できていないようだったが、真宵が何かをしているというのは虔魔も分かったらしく、大人しく流れに身を委ねている。
「……ふぅ……ごちそうさま♡」
「何故でしょう……?気分がスッキリしたような気がしてきました」
「それはねぇ、真宵がお兄ちゃんの『病み』を吸収しちゃったからだよ。ストレス溜まってたでしょ?というかメンタルやられてたでしょー」
「……否定はできませんね。ですがそれは、自業自得ですから仕方ないのですよ」
「ふぅ〜ん……?真宵、それはよく分かんないけど、お兄ちゃんはこれからも『病み』まくるだろうからこれからも真宵のタンクとして役立ってね♡」
「タンク……?兄を貯水タンク扱いですか。まぁ……真宵の力になるのなら百歩譲って構いませんが」
「そーだよぉ!ママもね、パパのタンクなの!」
「ほう。成程。……いや、逆なのでは?お父様の方がルーミアさんのタンクなのでは?」
「違うもん!ママ、言ってたもん!『あなただけのザーメンタンクになりゅううう』って!」
「それ以上はいけません」
「ほぇ?」
「真宵は2人が何をしているのか知ってますか?」
「知ってるよぉ!いっつも『エッチしてくる』って言ってるもん!」
「ダメだあの2人……早く何とかしないと……」
とはいえ現在、真宵は「エッチ」の意味を理解はしていない。あくまで「エッチしてくる」といった言葉しか分かっておらず、内容は知らない。虔魔はそこまで理解が及ばず、真宵が全て理解していると思い込んでしまっていた。
「……?お兄ちゃん?」
「いえ。では僕は掃除の続きに戻ります。……あぁ、真宵。覚えていたらで構いません。下では現在
「んーとぉ……3人だったかな?」
(3人……全員か。サボらず掃除をしているのなら、将来は上に立つ者として────休憩がてら彼女達と一緒に紅茶を嗜むのもアリかもしれませんね。まぁ断られなければの話ですが)
「どうしたの?」
「いえ。ありがとうございました。真宵、あなたのお陰で気分がスッキリしました。もし、また、僕が闇を抱えてしまっていたら……お願いできますか?」
「うん、いいよぉ!ヤミヤミヒーロー真宵が、またいつでもヌキヌキしてあげるっ♡」
「……その言い方は各方面に誤解を招くので、金輪際やめてください」