目の前の惨状を見て俺は顔から血の気が引いた。神社はもう鳥居側の殆どが吹っ飛ばされ無惨な姿になっている。
「霊麗は!?霊魔はっ!?」
「霊夢も赤ん坊も居ねえ……何処行った……!?」
反響定位を使い位置を捕捉。霊麗と霊魔は俺らの頭上……瓦礫と一緒に吹き飛ばされたか、それとも、自主的に上空に避難したかのどちらかだ。しかし、霊夢と赤ん坊の位置は掴めない。恐らく、吹き飛ばされなかった分の、屋内の瓦礫の下になっている。だが音波は未だに出続けている。近付けない。
「おいおいエスカルゴ、何があった!?」
「お、魔理沙。真宵も」
「あ……!神社が!!」
「実はかくかくしかじかでな」
「それで伝わるのは漫画だけだぞ」
「こりゃ失敬。……赤ん坊がな、暴走してんだ」
「んなっ……マジか!?」
「しかも、超音波の音域がハンパじゃない。霊魔もそうだったんだが、吸血鬼が苦手としている音域の超音波を放つせいで、気は失うし、音域の振れ幅がブッ壊れなのか神社を破壊しやがった」
「超音波で壊しただぁ?有り得ん有り得ん、流石にそれは無いだろ。これがあの子の能力なんじゃ?」
「その可能性が大きいのは言うまでもない。だが、音でも物は壊せる。共鳴ってんだけどさ」
「確か、振動数の等しい音叉を並べて片方を叩くと叩いてない音叉も鳴り始める……ってヤツか?」
「流石に魔理沙も知ってるよな。そう、その物体に合う特定の周波数の音をぶつけると、その物体を、破壊できちまう。人間でもガラスのコップくらいは壊せるんだぜ?」
「それを吸血鬼規模でやった……って事か?」
「コップくらいなら人間でも壊せるんだ、理論上は何でも壊せる。特定の周波数さえ出せれば、な」
「それをやってのけるのがあの子の出す超音波……。いや待てエスカルゴ、このままじゃ……」
「ああ。環境破壊なんてレベルじゃねぇくらいに、神社周辺の木々も吹っ飛ばされる。そんで、妖精は自然という住処を失い、死ぬ」
「どどどどうするんだよ、神社周辺の木々は結界の要でもあるんだぜ!?」
「……真宵」
「はいっ!」
「真宵なら分かるよな。あの子、暴走してるのか?それとも……」
「……パパの予想通りだよ」
「なら……真宵、助けてやってくれ」
「分かったっ!ヤミヤミヒーロー真宵、お姉ちゃんとして最初のお仕事……だねっ!」
バチッとウインクして見せると真宵は未だ瓦礫の吹き飛びつつある倒壊した神社へ降り立つ。すると魔理沙は勿論、霊愛もどういう事かと、何を考えているんだと俺に詰め寄る。
「おいエスカルゴ、なに真宵にやらせてんだ!?」
「危ないでしょ!お父さんが止めてよ赤ちゃん!」
「俺じゃ、眠らせる事しかできねーよ。それじゃあ起きた瞬間にまた博麗神社ブッ壊すぜ」
「……ダメだ、お前が何を考えているのかがサッパリ分からん」
「真宵が反応したっつー事は、あの子は暴走なんかしてねーって事なんだよ。……闇がある。つまりは、悪意があるか不満を持っているって事なんだ。だが真宵が積極的に動いた以上、ただの不満じゃない。十中八九、悪意で動いてる」
「「なっ……」」
生後しばらくは、真宵も能力を制御できなかったお陰で「無差別に」闇を吸い取っていた。しかし、これが原因で1つトラブルが発生していたのだ。
妖怪の山で、あまりに厳重な警備に対して不満を持つ者達の病みや不満などを吸ってしまった結果、哨戒中の天狗共が「まぁいっか!任務なんて!」とお気楽主義な考えになってしまい、結果として山の警備は手薄になり……ちょっぴり荒れてしまった。
原因は真宵が無差別に天狗達の心に干渉したからである。真宵としては姉に会いに行っただけだから責められる所以は無いが、その一件が原因で真宵は能力を鍛えるようになったのだった。
そして能力を鍛えた結果、闇の探知が可能になり吸収するべき闇のみ的確に吸収できるようになり、今に至る。
だからこそ俺は今、真宵に問うたのだ。目の前のコレは「暴走か、闇か」と。
全く、これが暴走ならどれほど良かっただろう。制御出来ないなら隔離して鍛えればいい。俺だって闇の能力の使い方を鍛える時にはスキマ空間に己を隔離してもらって特訓していた過去がある。
しかし、本人に悪意があって、わざとこんな事をしでかすようなら……もう、人格操作や、能力、更に本人の完全封印しかないだろう。
《母さん、助けて》
《カルちゃんでも、手に負えないのね?》
《無理。断言できる。真宵に闇を吸収してもらったところで、それすらも一時凌ぎにしかならないし》
《霊夢ちゃんは?》
《霊夢に封印できる事案ならもうとっくにやってるはずだよ。それこそ結界で防御する前でも後でも。霊夢は容赦しないからね。ましてやこの周辺は博麗大結界の枠組みの大元というか、基礎的な部分だ。絶対に手を出させないよう余計なトラブルは未然に防ぐはずなんだ。
《成程。トラブルが
《でもまぁ、折角生まれた子供だ。本人を封印するつもりはサラサラ無い。子供自体は絶対に守るよ。だからこそ、制御しきれないあの子の能力はここで完全に封印する必要がある》
《…………分かったわ。それなら擬似神化しなさい。諏訪子さん達も力を貸して下さるはずよ》
「────眷属『擬似神化・創造神形態』」
真宵が赤ん坊の闇を吸収したのか、こっちを向きグッと親指を立て、ニィッと可愛く笑って見せる。確かに衝撃波のような音波は収まった。血だらけになりながら、瓦礫の下からは赤ん坊を抱えた霊夢が出てきた。魔理沙と霊愛、真宵は補助に向かう。
「「お父さん!!」」
「……おう、霊麗、霊魔。やっと来たか」
「瓦礫と一緒に上空まで吹っ飛ばされてたの」
「知ってる。2人は魔理沙達と一緒に霊夢の補助に行ってきてくれ。俺は……あの子の能力を封印する。その準備を始める」
「「了解」」
霊夢、腹が吹き飛んだと思ったら赤子が生まれ、今度は耳だの目だのから流血とは。本当に、今日は散々な一日だ。しかし照れ笑いしながら補助される姿は可愛らしい……。
《コラ、カルちゃん!こんなピンチに発情してちゃダメでしょ!》
《発情って。まぁ大丈夫だろう。子供も落ち着いたようだし、今がチャンスだな》
母さんの能力を多めに受け取る。能力の使い方は本能で自然と理解し、能力封印の術式を練る。その準備が出来次第、俺は霊夢の目の前に降り立つ。
それを見て霊夢は俺が何をしようとしているのか理解したようで、真宵から闇を吸収されてすっかり笑顔になった赤子をこちらに差し出す。
「……ごめんな。今の俺達には、お前が自分の能力を十全に使いこなせるようになるまで我慢できない。毎回毎回、こう神社を壊されても堪らないからな」
「あぃ〜……?」
「もう少し大きくなったら、使いこなせるよう訓練してみようか。それまでは、封印しておくからな」
「……?」
何を言っているのか分からないとでも言うように首を傾げる。抱き上げながら頭を撫でてやり、用意していた能力を封印する術式を掛けてやる。しかしそこで妙な違和感を覚えた。
《どうしたの?》
《何か……封印が進んでいない気がして》
《え?》
この封印の術式は、例えるとアプリケーションをダウンロードするようなもの。1%、2%、3%と少しずつ封印していく事で、封印という「無理矢理抑え込む」事への反動を少なくする目的がある。
それなのにこの子は封印を受け付けてくれない。そう、まるで99%程で止まって、ずっとグルグルとローディング中のマークが回っているような……。
それどころかこの封印、99%なんてものではなくたった1%すらも進んでいない気がするのだ。
「霊夢」
「ええ」
まだ血を拭っている途中だが、怪我も治ったことなので霊夢に封印を重ね掛けしてもらう。そうしてやっと封印が加速してくれる……そう思ったのに。
「いぃぃああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっ!!!」
「っ……はひぃ……」
「はふ……」
霊夢が封印を重ね掛けした事で更に封印が強まり始めた直後、赤子がまた叫び声と共に超音波を放ち凄まじい攻撃を始める。
霊麗と霊魔は即ダウンして、鼓膜がやられたのか耳から血を流し始める。霊夢も俺も耳が逝ったが、どうにか手を噛むなどの自傷をして痛みで気絶には至らなかった。
「魔理沙……霊愛と真宵……連れて逃げろ……ッ!!」
「ッ……分かった!死ぬなよお前ら!」
「待って────」
魔理沙は真宵と霊愛に瞬間移動魔法を掛け、次に自分も瞬間移動で何処かへ避難する。博麗神社跡に残るは俺と霊夢、泣き叫ぶ赤子のみ。
《母さん……もっと力を貸してほしい》
《カルちゃん、あなた……まさか……!!》
《仕方ないだろ。これがこの子の「能力」でそれを封印できないのだとすれば……もう、能力そのものを奪うか、消すしかないだろ…………ッ!!》
《………………》
全知全能に限りなく近い創造神の封印も効かず、妖怪特効である博麗の巫女の封印すら効かないなら他にどんな手がある?
答えは幾つかある。能力を奪う、消す。そして、最悪の手段として、この子の命を奪うこと。しかしその手は絶対に使わない。俺達の子だからだ。故に選択肢は自然と能力剥奪の方に向かう。
《……?手応えが無いって、どういう事だ……》
《カルちゃん……?》
《分からないよ母さん……この子、能力が無い……!奪うとか奪えないとか、そういうんじゃなくって……この子、そもそも能力が無い!!》
《何ですって?そんな事が……》
有り得ない。しかし現実だ。まるでステータスのように、今の俺には「視える」のだ。本人が扱える能力が、しっかり見える。それなのに、この子には何も視えない。何も能力が無い、その辺の雑魚妖怪みたいな視え方だ。
つまりこの子は素のフィジカルだけでこの事態を引き起こしたと、そう考えるべきなのだ。
そうなると「身体能力」を封じる事になる。だがそれをすると、一生寝たきりになるかもしれない。そんなの嫌だ。許せない。
「……参ったな。……聞こえるか霊夢?」
「鼓膜が再生した瞬間だけ。途切れ途切れだけど」
「そら重畳。……封印の術式が破壊された。どうにも様子がおかしいぞ。母さんの……概念すら操作できる創造神の封印術式が壊された。何か、手は?」
「…………真宵ちゃんに頼るしか?」
「バカッ、この状況で呼べねーだろ!」
少し視線を外せば、神社を囲むように生えている木々が粉砕され、木片となって飛ばされていくのが目に入る。こんな状況で近くに真宵を呼ぶなんて、絶対に無理だ。
さっきは瓦礫の下敷きになっていて、表向きには被害がまだ大した事なかったからこそ行かせただけなのだから。
「……どうすればいいの?このまま放置すれば幻想郷そのものが滅茶苦茶になりかねないわ……」
「……」
「ねぇ……どうすればいいのよ……?」
最悪の事態が頭を過ぎる。ダメだ。それだけは、絶対にしてはならない。子殺しだなんて、死んでもしたくないし、させたくない。本人を幽閉?封印?ふざけるな。そんなの絶対にしない。
霊夢の封印でさえ通用しないと分かれば、こうも無理して霊夢を、皆を苦しめる必要は無い。一先ず作戦を練る為に、時間魔法にて時間を止める。
「……ごめん、霊夢。ちょっと待っててくれ」
俺の時間魔法の影響を受けないのは、幻想郷では4人。咲夜さん、モルモー、弦月姫、虔魔。そしてこの中で知恵を望めそうなのは咲夜さんとモルモーくらいだろうか。いや、今は猫の手も借りたい程に対抗策に飢えている。子供だからと甘く見ず姉弟も呼んで作戦を練るしかない。
虔魔の事は妖精の一件でつい先日にシメてやったばかりだが、まぁ、虔魔の事だ。呼べば平気な顔で出てくるだろう。
◆
「そうでしたか……博麗神社ではそんな事が……」
「ふぅん、だからそんな血だらけなワケ?にしても霊夢もポンコツねぇ、封印がダメなら始末しかないはずでしょ?霊夢だって分かってるんでしょうに」
「モルモーみたいに倫理観ブッ壊れてないからな、うちの嫁さんは。真面目に考えてくれると助かる」
「その子の時間だけを止めればいいじゃない。あぁでもエスカルゴくんにそこまでの技量は無いか……。そうよね、エスカルゴくんは時間を止める方向より飛ばす方向にステータスが向いてるもんね……」
「チッ……。弦月姫、虔魔、何か思い付かねえか?」
「常に眠らせておく事……しか思い付きません……」
「……僕も同意見です」
「常に眠らせるか逐一真宵に闇を吸ってもらうかの2択しかねェのかよ……!クソッ!!」
咲夜さんも子供達も俯いてしまう。策が浮かばず頭をガシガシと掻き毟るも、当然そんな事で策など浮かぶはずもない。
すると小さくではあるが手首をピッと上に上げるようにして虔魔が挙手する。
「あの……恐れながら、お父様」
「何だ虔魔」
「全くの推測ですが……その赤ん坊は、能力が無いのではなく、既に、能力を覚醒させているのではないでしょうか」
「覚醒……?例えば?」
「霊夢さんの《空を飛ぶ程度の能力》です。以前、お父様が仰っていた情報では、その能力の本質は、何者にも縛られない事……なのですよね。封印などを跳ね除けるのも、この能力のお陰なのでは……と」
「確かに、封印とはとどのつまり縛り付ける事だし有り得なくはないだろうけど……考えたくもねェな。霊愛なんて、ずっとずっと頑張り続けて……やっと、最近になって夢想天生が使えるようになったのに」
「それから……お父様のお話を聞く限りその赤ん坊がやたらと凶暴なのも……ある程度の予測は立ちます」
「何だと?」
「一般に、というか全くの俗説ですが『子供は親の悪い所に似る』と言われています。そのような形で霊夢さんの負の部分……というより『吸血鬼の部分』だけが色濃く反映されたのではないでしょうか?」
「……!」
「霊愛お姉様はハーフですからこの際置いといて……霊麗お姉様は普段は理性的ですが、戦闘が長引くと吸血鬼特有の凶暴性を発揮すると、前に自分自身で仰っていました。抑えられなくなる、とも。対して霊魔お兄様はどうでしょう。怒った時しか凶暴性を発揮しないとはいえ、姉2人よりも吸血鬼
「……ジワジワ吸血鬼本来の姿に還りつつあるのか。いや、自分を制御が出来なくなってきている……?」
「……妹様のように理性的なら、地下に閉じこもってもらうというのも1つの手なのかしら……モルモーはどう思う?」
「正直、ワケが分からないわね。私は息子を産んだ経験があるけどさ、極めて普通の子供だったわよ。凶暴性なんて微塵も無いわ。最近になってなのよ、そういうのが出てきたのは」
モルモーの発言によりまたもや俺達は黙り込む。外の世界にて自分の血族、それ以外の吸血鬼達をも見てきたモルモーが言うのだ、説得力が違う。
モルモーが言うには「その凶暴性を備えた吸血鬼そのものが突然変異の産物で、現行の吸血鬼という種族はそれが普通になりつつあるんじゃないの?」ということらしい。
「……『自然淘汰』って言葉がある。生存上の条件に適する者は生き残り、そうでない者は滅びる、と。もしも、モルモーの『それが普通になりつつある』という仮説が正しいなら凶暴性を持たない吸血鬼は根源から滅ぼされたとも言える。まぁそのアレだ……もしこれが普通だとしても、流石にあの子の場合は度が過ぎる気がするけどな」
「てゆーかぁ、ホントにどーすんのよ?詰まない?もう詰んでる気がするんだけど?」
「……もう1つ、手はある。あの子の時間だけを加速させて……老けさせる。ある程度知恵が発達するまで成長させてやれば……或いは……ってな」
「何年も加速させるんならエスカルゴくんより私や咲夜の方が安全だと思うわよ?暴走しちゃったら、子供が一気に老衰するわよ?」
「まぁ……それもそうか。モルモー、頼めるか?」
「ええ、大丈夫よん。再生力も咲夜より高いしね、現場に行くなら私の方が向いてる。咲夜にできないプレイだと思うわよ〜?」
「私だってできなくはないわ」
「うふふ、ホントぉ〜?」
「……モルモー、頼んだ。ごめん、面倒事だよな」
「なーに言ってんの、あなたたち子孫の問題くらいちょちょいのちょいなんだから!任せなさいっ☆」
霊夢に黙って子供を成長させるのは────やはり心苦しい。しかし仕方ない。博麗神社は既に倒壊、結界の要である周辺地域まで破壊されつつある今、甘い事は言っていられない。
殴られようと殺されようと……今日は心を鬼にして自分の子供を手にかける。肉体年齢のみ加速させ、子供を老けさせる。そうして母さんから力を借りて人並みの知恵を刷り込み、知能を発達させてやる。そうでもしないと、制御不可能になりそうだ。
これからやろうとしているのは、ある意味で洗脳である。これしかない、これをしないと────己にそう言い聞かせているだけで、本当は、もっとイイ方法があるのかもしれない。
だが俺は、父として、あの子を無事に育て上げる義務がある。封印も剥奪も全てがダメならまた別の手段に出るしかない。殺す以外の方法があるのなら俺はそれに縋るしかないのだから。
「ところでその格好で行くのか?」
「これ私の普段着よ」
「知ってるが、せめて余所行きの格好をだな……」
「はいはい、どーせ後でお礼エッチするんだから、別にどうだっていいでしょう?」
「……それもそうだ」
挿絵作ってみた動画をアップロードしてみました。
動画の編集なんて右も左も分からん状態でしたが、5分50秒の動画に1時間40分も掛かりました。
しかも、編集ミスで画質ガックガク……マジかよって状態で、リアルに頭を抱えました。
今回は緋月を作ってみましたが……。
もし時間があれば、ご視聴下さいです。
https://youtu.be/ZfzaO1gz7_M