神愛がある程度言語を習得してから、暫く経つ。もう少しで俺が永遠亭に住む期間は終わるが、俺がここを離れる前に神愛が言語を習得し、スケブでの会話をするようになってくれて、本当に良かった。
やはり元・月の賢者の娘なだけある。学習能力はピカイチで、俺の間違いも指摘してくれる。そしてその頃になると、俺とサグメ以外の誰に対しても、スケブで会話する。
能力の強制力としてはサグメの方が上位互換ではあるようで、神愛がウッカリ捻じ曲げた運命などは俺が時間を巻き戻しサグメに報告し、サグメに対応してもらう事で一応の対処はできた。
「神愛、今日の予定は?」
「……特に」
「そうか。それなら、お姉ちゃんやお兄ちゃんちに遊びに行かないか?」
「……!」
「サグメ。3人揃って遊びに行ってないのって穹、魅玖、阿弥、駆翔、茜の他に居たっけ?」
穹はネタ集めや交友関係の都合で。阿弥は賢者の娘ということで特別な環境にある為。畜生界という修羅の世界に住んでいる駆翔には、そもそも子供を連れて会いに行きにくい。茜は言わずもがな。
「確か……リサちゃんの所にはまだ……だったはず」
「夢幻館か、そういやまだだったかな」
夢幻館は博麗神社の裏山を登った先にある館だ、駆翔や茜などに比べたら会いやすいだろう。
そして夢幻館にもアポを取り日取りを決め、また別の日に3人揃って遊びに行った。リサや夢幻姉妹から迎えられ、親子3人揃って夢幻館に入る。一応リサと神愛は雑談集会のお陰で面識はあったので、お互いに如何にも「初めまして」な態度をする事はなかった。
何だか、前までよりもリサがベッタリとしてくるのは気の所為ではなさそうだ。
「……どうした、リサ?」
「……何でもないもん」
「なら離れなさい」
「やーや」
「『やーや』じゃないの」
「ふーんだ」
「ったく……」
椅子に座る俺に座るリサは、対面座位のように、向き合って背中に手を回してくる。そして時折母の幻月の方を向いては「あっかんべー」と挑発する。
その度に、笑顔を作っている幻月の額には青筋がピキピキと浮かび上がる。
「……幻月、何かあったのか?」
「何も無いけど?」
サラッと嘘をつくが、青筋が隠しきれていない。チラリと夢月を見やると、彼女はそれはもう大きな溜め息をついて、事の顛末を話し出す。
「実はさァ、姉さんとリサ……喧嘩中なのよね」
「何で?」
「原因はズバリお兄さん。リサが、『ママばっかりパパ独占してない?』ってさ。姉さんも姉さんで、
『そんなワケないでしょ?』って反論するのはいいけど、リサは納得しないしさ……」
「だってそーじゃんっ!」
「だから違うって言ってんでしょうが!?くるみとだってダーリンはちゃんと
「私だってパパ独占したいしたいしたい〜っ!」
「もうしてんじゃないのよ!」
「はァ〜!?パパの上に座ってるだけでしょお!?そんなんで独占とか、意味わかんないしーだっ!!ママのバーカバーカ!独占悪魔天使鬼〜!」
リサの「独占悪魔天使鬼」という謎の罵倒言葉に思わず吹き出してしまう。
「はぁ〜〜〜ん!?小娘の分際で何言ってんの!?どうでもいいからさっさと降りなさいよダーリンの腰の上は私の特等席なんだから!!」
「私が寝てから散々、朝まで独占してるくせに!!昼間ッくらい私が独占するもん!!」
サグメは真顔のまま、ゴフッと紅茶を噴き出す。やっぱり子供というのは好奇心旺盛なもので、夜の営みを見られていたらしい。
しかし、これまでの育児の経験から、夜に交わるときはこうなることを予め予測して、夢月にリサの寝かしつけを頼んでいたはずだが。
「……まさか夢月……リサと覗いてたのか?」
「んーん違うよパパ、夢月は寝てたもん」
「あーそういう」
「はぁ!?ちょっと夢月、私達がヤッてる時はリサ見といてねって頼んどいたじゃないのよ!?なーにスヤスヤ寝てんの?信じらんないっ!」
「ご、ごめん姉さん……。でも、幾ら私だって流石に眠くなる時くらいはあるって……」
「もーっ!昼間はくるみ、夢月と共有してるんだし夜くらい独占してもいいでしょう!?」
ふーんだ、と言わんばかりにニヤニヤとしていたリサだったが、あるものを見てスンと真顔になり、俺から飛び降りる。
会話に入っていけないうちに勝手にギャアギャア喧嘩を始められたせいでハブにされていた、本日のメインの客人……神愛だった。
リサは神愛の前に行くと、姉らしく神愛に言う。
「ねぇ神愛。私、パパや夢月が作ってくれたから、可愛いお洋服いっぱい持ってるの」
「……」
「神愛も私みたいに天使の翼があって可愛いから、きっと似合うよ。私の部屋、来て!お着替えしよ!こんな所よりずっと楽しいからさっ!」
「!……あ、あのっ……お、お母さ……」
「……行ってきなさい」
「っ!!」
「良かった!行こっ!」
ガミガミと怒っている幻月を差し置いて、リサは神愛の手を引いて自分の部屋へ向かった。お洒落なリサは夢月のお手製の服が沢山あるのだ。しかし、どれもこれもメイド服をモチーフにしているので、バリエーション自体は少なめかもしれない。
因みにリサの部屋というのは最近になって幻月が夢幻館内に新たに増設した空間である。2人が力を合わせれば夢幻世界を作れる悪魔だ、例え幻月1人だとしても空間をちょいと広げて部屋を作るなんて朝飯前らしい。
「流石に子供だけにしとくのはヤバイんじゃ?」
「着替えるんだろ?なら夢月代わりに行ってくれ」
「今更そんなの気にするお兄さんじゃないでしょ?わざとらしいよ〜」
「……子供だけにしとくか、余計なトラブルはごめんだからな」
「あははっ、それは言えてるかもしれないね」
「……あなたなら行くと思った」
「サグメ!?お、俺が、愛娘同士の遊びに割り込む男だと思ってたのか!?」
「いや……普通の意味で、だけれど。見守るだけなら望んでやりそうだと思った」
「む、むぅ、確かに見守るだけならな……。いやでもやっぱりいい。やっぱり、こういう時くらいは子供だけにしよう。親が近くにいると、満足に遊べないだろう」
◆
「さぁて、2人きりになれたことだし……」
「っ……」
「着せ替え人形にしちゃうわよーっ♡」
「!?!?」
「やーん、どれもこれもカ〜ワ〜イ〜イ〜♡」
「……」
「やっぱり、天使の翼って可愛さの塊だわぁ〜……♡こんなに綺麗な造形の翼を生み出した存在はまさに神だと思うわ!可愛さが数倍に跳ね上がるもの!」
「……」
「ねっ、神愛!天使の翼を持つ者同士、これからも仲良くしましょっ!」
「……うんっ!」