ある日、神愛は1人で永遠亭を出た。鍛えた力を発揮する時がきた。今回は樹理愛に勝ちに行く為、妖怪の山へ向かうのである。
弾幕の調子も、気配を読む感覚も、悪くは無い。寧ろ、度重なる特訓によって研ぎ澄まされたくらいだと本人は感じていた。
「……
「本当に1人で大丈夫?神愛、まだ山の妖怪に認知されていないと思うから、1人じゃない方がいいと思うんだけど……」
「大丈夫。
「あ、口に出した。も〜、それもう最強じゃんね。頑張ってね!いつかは私も相手するから!」
「……巫月お姉ちゃんは、強過ぎる」
巫月に見送られ、神愛は出発した。山の妖怪から見付かりはしたものの、事前に運命を変えておいたお陰で大きなトラブルには発展せず、地道に進んで守矢神社まで到達した。
守矢神社では、樹理愛と早苗が親子揃って境内の掃き掃除をしている。
「……こんにちは」
「こんにちは〜……あ、神愛!どしたのこんな所に!あれ、1人で来たの?大丈夫だった?」
「大丈夫。それより樹理愛お姉ちゃん……勝負」
「え?勝負?……私と?」
「そう」
「う〜ん……分かった、ママに言ってくるから、少し待ってて!」
パタパタと早苗の方へ駆けていく樹理愛。そして少しの間、早苗と何か話し込んでいるようだった。その間、神愛はボーッと青空に浮かぶ白雲を眺め、脳内で樹理愛との戦闘をシミュレーションしながら時間を潰していた。
するとそんな神愛の目と鼻の先に正円のスキマが開かれ、中から男児が飛び出した。初対面の人物の登場に神愛は慌て、つい飛び退いて距離をとる。
「ん?誰だ貴様」
「わ、私は────」
「いや、待て。我が当ててやろう。……もしや、稀神サグメの娘か?カンナとか言ったか」
「!!」
「どうだ当たりであろう」
「……」
小さく頷いて彼の問いに答える。すると目の前の男児……武甕槌命はニヤリと口元を釣り上げ満足気にウム、と頷いて見せた。
「我が名は武甕槌命。縁あって、この守矢神社に、ほんの少しばかり間借りさせてもらっている。我が本拠地は外の世界だが……守矢神社は幻想郷における我が拠点でな。……して、神愛。永遠亭に身を置いているはずのお前が、何用で山にまで来たのだ?器と喧嘩でもしたのか?」
彼の名を聞いて、神愛はハッと思い出す。神の器である自分の父の主な守護神が、へカーティアと、この武甕槌命であることを。
下手に口に出さずにどのようにして「父がいつもお世話になってます」という気持ちを伝えようかと迷っていると、それに気付いた武甕槌命は笑って、慌てる神愛を止める。
「クハハッ……。よいよい、気にするな。なに、少し揶揄ったまでのこと。下手に口に出せぬのだろう?案ずるな、器から情報は得ている。同じく『神』に名を連ねる者同士、よろしく頼むぞ」
「!」
やんわり微笑み、右手を差し出す建御雷。神愛はおずおずとその手を取り、初めての握手を交わす。見た目なら、自分よりほんの少しだけ年上程度にも見える建御雷。しかしその言動からはかなりの余裕などが感じられ、子供心に「ヤバさ」をひしひしと感じ取れた。
「……で?樹理愛と戦うのか?」
「……はいっ」
「ほほ〜。……ふむ、器に問い掛けてみたが、互角な勝負になるかもしれないと思っているようだぞ?」
「!」
「可笑しな話よ。戦歴は樹理愛の方が余程上だし、能力で考えても樹理愛が勝ちそうなものだがなぁ。神愛よ……お前の戦い、我が見届けさせてもらうぞ」
ニヤリと笑うと、大きく跳躍し守矢神社の屋根の上に立った。神愛がそんな彼を見ていると、早苗と話し終わった樹理愛がパタパタと駆けてきた。
早苗からの戦闘許可をもらって……。
◆
「建御雷ではあまりアテにならないのでな、2人のこの戦いの審判は私が務めよう。怪我しそうだなと判断した時点で優勢な方を勝者とする」
「甘いなぁ神奈子、お前は黒糖か?餡子か?」
「うるさい建御雷。お前や諏訪子に審判を任せると子供が怪我をしてしまう。樹理愛は我が守矢神社の大事なメンバーなんだ、無駄な怪我を負う事は私が許さん。神愛に関してもそうだ。他所様の子だぞ」
「弾幕ごっこの怪我程度どうせすぐ治るだろう……。早苗が樹理愛に対して異常なまでに過保護なのは、お前の影響なのかもしれんぞ、神奈子よ……」
「んなっ……」
この時点で、神愛は勝利を確信していた。決して油断をしているワケではない。寧ろ警戒を強めて、本気で樹理愛を倒そうと考えている。
神愛の能力では、口に出してしまえば問答無用で運命、つまり未来が変わってしまう。相手が運命に干渉する能力や特性を持っていない限りは誰にでも通用する。故に、勝利を確信した。
「よしっ!やろっか!」
「……!」
樹理愛は大幣を構えるが神愛は直立不動。戦おうなどと持ち掛けたのは神愛の方なのに……と樹理愛は考えたが、そもそも能力が戦闘向きでないことは、彼女も理解していた。
「じゃあ……いくよ!!」
「!!」
樹理愛が手のひらを天に向けると、カッと日光が眩しくなり神愛の視界を奪う。眩しくなるにつれて気温も上がってきたように感じられる。その隙に、樹理愛は神力による弾幕を展開し、目を瞑っている神愛へ弾幕を発射しようとしていた。
するとその時、だんまりを決め込んでいた神愛が遂に口を開く。
「
「ううん、
「……!」
「防御しないと……こうなるよ!」
しかし樹理愛の弾幕は、神愛の横をすり抜けた。樹理愛から見たら、神愛に当たったのに、そのまま透過したかのように見えていた。
思わず樹理愛も困惑のあまり弾幕の発射を止め、警戒を強めた。
「なん……なんで……?」
「樹理愛お姉ちゃんが目眩しついでに気温を上げたお陰。温度の高い空気は、少しだけ膨張し……密度が薄くなる。空気は光を曲げる。これは『陽炎』……、お姉ちゃん自身が生み出した……虚像……!」
「そんな……有り得ない!ホーミング弾は確実に追尾するのに……ッ!」
「その解釈は……実は少し……違う。ホーミング弾が狙うのは……
「な……っ!?」
「理論武装『かわいいアルマゲドン』────以降、樹理愛お姉ちゃんの弾幕は殲滅される」
「!?」
樹理愛が弾幕を展開して発射するが、神愛は一瞬遅れて弾幕を放つ。すると2人の弾幕は全てが相殺したことで、弾幕は全く相手へ届かない。
「何が起こって……」
「これが、アルマゲドン。
「ッ……ならもっと私の能力を見せてあげる!」
朝靄のような視界を覆い尽くす靄が溢れてくる。そして、神愛を貫かんばかりに生成されるツララ。視界を奪い攻撃を加えるのは樹理愛の十八番。ただ発動までに
「……全ては事前
視界を潰されても、神愛は全く動じない。神愛のスペカは未だ継続している。弾幕自体は終わっても発言の効果は永続。無効化、反転させる事の出来る能力者が居ない限り────。
「いっけぇぇぇ!!」
「無効、無意味、被弾無し」
今度は範囲攻撃なので、樹理愛は、陽炎の神愛も本物の神愛も全て貫くつもりのようだ。しかし既に神愛は対策をしていた。
「理論武装『
「カウンターなんて!させないんだからっ!!」
「戦闘とは────」
「やああああぁぁぁぁーーーーっっっ!!!」
ツララも当たらず、ヤケになった樹理愛は大量に雷を神社全体に降らせる。神社本体への落雷は全て建御雷が防ぎ、もしくは吸収する。
樹理愛がヤケを起こしたのは一応の理由がある。これまで樹理愛が負ける時はいずれも瞬殺だった。他の兄弟姉妹は誰も彼もが戦闘に特化しているので速度だの能力の関係だので相性負けしたからだ。
樹理愛には、接戦からの敗北という経験が無い。
「────熱くなった方が敗北する」
「う……そ…………」
樹理愛は自分で制御し、落としているはずの雷をその身に喰らい、膝をつく。
神愛は、阿弥と同じく口で戦える。
阿弥と違うのは、阿弥が精神的に責めるのに対し神愛は相手の技を利用して、自滅に追い込むという点だろう。
「……あくまでも、同程度の強さの場合……だけど」
「しょ……勝者、神愛!!」
審判の号令が下された。
こうして、神愛の目標は1つ達されたのである。
稀神
能力:《有言実行する程度の能力》
エスカルゴとサグメの娘。エスカルゴから見たら、神愛は十九女に当たる。
天使のような2枚の翼を持ち、空を飛ぶ事も可能。
彼女が「未来」について発言すると、望まなくともその通りになってしまう。影響を及ぼさずに彼女が自由に話せるのは過去、現在についてのみ。
現状、彼女の能力に抗えるのは母親であるサグメ、父親であるエスカルゴ、運命を操るレミリアのみ。レイチェルは可能性の操作なので、不可能に近い。
神愛が発言した時点で、運命操作の能力者達以外にとっては「
ただし、神愛の能力を無効化する方法は他にも存在しているようで…………?