影神綺が肉弾戦、母さん本体が遠距離から弾幕。中々統率の取れた、とてつもない猛攻が始まった。
この影神綺、戦いの中で判断するにどう考えても強すぎる。まるで吸血鬼をベースに構築したような気さえしてくる。対戦相手が吸血鬼である俺だからなのかもしれないし、元からそういう性能なのかもしれない。だがそんなのはどうだっていい。問題はこの2人をどう倒せばいいのかという事だ。
「予め言っておくけれど、その影神綺は、所謂分身みたいなものだから、好きに壊してもいいのよ?」
「元からそのつもりだ、よッ!!」
拳圧で吹っ飛ばしたが、母さんは吹っ飛ばされた影神綺を弾幕で撃ち無理矢理に体勢を整えさせる。そして着地した影神綺は漆黒の6枚の翼を伸ばし、俺の身体を貫かんとする。
「傷翼『
翼同士がぶつかると、触れるだけで破壊力を持つ俺の翼のみが影神綺の翼を貫き、翼を6枚全て破壊してやった。しかしそんな事はどうでもいいとでも言わんばかりに再度肉弾戦を仕掛けてくる。
「肉体武装『第三の手』!!」
今度は尻尾を生やして、手や足を使わず尻尾にて影神綺の相手を始める。翼という攻撃手段さえ喪失させてやれば、弾幕を使う気配は無いので、あとは肉弾戦しか戦う術は残されてはいない。
「母さん!!」
「何よ!」
「正直、悪かった!ごめん!俺のせいでこんな……」
「悪かったと思ってるんなら、今はサンドバッグにされなさい!!」
「うわぁ金属の棘……殺意高すぎ高杉くんか!?」
「何を意味の分からない事を……ッ!さぁ、これでも喰らいなさい!」
チルノが氷柱を飛ばすように、母さんは鍾乳石のような形の鋭い金属の棘を生成し、発射してくる。空気を切り裂くシュオッという音が聞こえてくる。
「言っとくけどよ!サンドバッグにされても負けはしないぞ!俺ァ、霊夢の尻に敷かれる男だッ!!」
「何を訳の分からない事を……あなたは素直にサンドバッグにされていればいいの!!」
「されてるさ!今だけは、母さんのストレス発散の捌け口になってやる!けど流石に貫通はイテーし……この金属の槍なんて……オラァッ!!」
「なっ!?」
真っ直ぐに飛んでくる金属の棘を、横から尻尾で叩いてやり方向転換してやる。その棘の向かう先は闇神綺だ。闇神綺は身を捻る事で回避しようとするものの、狙い通り闇神綺の胴体に突き刺さった。
「母さんの闇人格なんて……死ね!」
「あっ!」
「斬首刑だッ!」
砂鉄の翼を伸ばし四肢切断、続けて首を飛ばす。闇神綺は血を流す事も無く塵となって消え去った。人格が形を持っただけだったらしい。
「カルちゃん……」
「言っとくけど、母さんを殺したつもりは無いよ。母さんは病んじゃダメだ。いや違う、病んだ母さんなんて母さんじゃない。母さんは常に明るくって、俺ら子供に元気を振り撒いてくれるような……上手く言えねーけどそんな存在じゃなきゃダメなんだ!」
「……っ」
「育児にかまけて母さんに、いや家族の皆に会いに行かなかったのは俺が悪いから……ハーレムの主失格なのももう分かってるっ……謝るから!こんなこと、しないでくれ……っ!」
上手く言葉にできないが、思いついた言葉を全て口に出して、思いの丈をストレートパンチのようにまっすぐに伝える。
すると母さんはこちらに向けていた手を下ろし、方を大きく落として溜め息をつく。
「……ごめんなさい。私が悪かったわ。カルちゃんは悪くない。子育ては母と協力してね────って前にそう教えたはずなのにね……」
「ううん、俺が悪い。実際、1人で出掛ける隙なら幾らでもあったんだ。それなのに来なかったんだ、母さんが拗ね……いや不機嫌になるのも無理は無い。だからごめん、母さん」
「……それじゃあ……2人が悪いってことで?」
「「ごめんなさいっ!!」」
◆
結果、今回のこの騒動は互いが悪いということで一件落着。闇神綺については人格に形を与えただけという事らしく、俺が闇神綺を消した事によって、母さんの闇は解消されたようだ。本当に良かった。
母さん、いや家族の皆には本当に申し訳ない事をしたと思う。血で繋がっているからと、少し、軽く見ていたのかもしれない。
雲の中に作られたこの即死トラップダンジョンのお城は、即死トラップのみ取り除いた上で、易しいトラップへと差し替える事で、俺の親族のみ使える新たな特訓場としてリニューアルオープンする事になった。
というのも、母さんが全力で能力を使用したので母さん以外には物理的に城を破壊できないからだ。だから、誰がどう暴れようと壊れる事のない安全な特訓場に再利用できる。
そして「トラップ」という緊急事態への対処等も学べてしまう。破壊の能力も通じないので、流石は母さんと言わざるを得ない。
後日、子供達と母親達を連れて、家族総出で城へやってきた。ワーワーギャーギャーと、楽しそうにしている。弦月姫と虔魔など、一部殺し合いに近いような戦いをしている組もあるが無視しておこう。
「……へー、雲の中にこんな城が……。凄いや」
「城の前まではスキマ使えるようになってるから、移動も幾分か楽だろ?」
「そうだね。私と霊愛がバトルする場としても丁度いいかもね。ダンジョンになってるってのは、この最上階へ続く道だっけ?」
「そう。城に入ると、というよりは、ダンジョンのゾーンに入ると、スキマや瞬間移動魔法なんかほぼ使えねェ状態になる」
「
「一応、スキマも瞬間移動魔法も使えはするんだ。ただしその射程が極めて短縮されててな。最大でも大股1歩分の距離だけなんだ。何なら、立ち幅跳びした方が遠くまで移動できるくらいだぞ?」
「立ち幅跳びかー。むかーし測った程度だよねぇ。確か5mちょっとかな?」
「まぁ妖怪ならそんなモンだろう。まして吸血鬼のパワーは並外れてるからな、5mでもまだまだって言われちゃうくらいだからね」
「だよねー」
確か、ギネス記録は3.73mくらいだったはずだ。因みに俺が人間の頃、五体満足だった頃は2.35m。これは男子高校生平均と大差無い数値。世界記録がどれだけヤバいのかが、よく分かる。
「スキマや瞬間移動を制限するっていうのはやっぱアレだよね。トラップをスルーされない為の処置……なんだよね。神綺さんも中々にエグい事するねぇ」
「面白そうだろ?」
「そうだねぇ。皆でタイムアタックしてみるのも、面白いかもしれないね」
「いいね。トラップダンジョンRTAか、今度また時間を作ってやってみよう。それまでにトラップも改良してみようかな」
「エッチなトラップは無しだよ?」
「当たり前だろう。俺以外の手によってエロい目になんて遭わせられねーからな」
「ふふ、嫉妬心ヤバ〜♡」
「うっせ」
イタズラっぽく笑った巫月も子供達の輪に戻り、子供らしく無邪気に遊び始める。ついさっきまで、あんなに乱れていたのに……やっぱり女の子は怖い。つくづくそう思う。
無邪気に笑う巫月と、淫らに微笑む巫月を重ね、そのギャップで密かに興奮していると、そんな俺の元に何やら顔を曇らせた衣玖さんが……。
「あの……ご主人様?」
「はい?どーしました衣玖さん」
「このお城についてお話があるのですが……今、少し話せますか?」
「ええ勿論、何です?」
「実はこのお城ですね、数日前から、天界から目をつけられていまして……」
「ゑ?」
「というのもですね、輝針城とは違い、ここまでの高度に位置していますと、天界に隣接する施設だと看做されるようで……。下手をすれば、天界の者達がここにやってくるかもしれなくて。そうなればこのお城の主導権は奪われる事になるかも、と……」
「えー……ヤクザの地上げかよ」
「それにこのお城、周囲の目から隠す為だと思うのですが、常に暗雲が周りに立ち込めてるでしょう?雲の停滞というのはあまり良くないので……。ここはそういう意味でも目をつけられています……」
《だってよ母さん。どうする?少しだけでいいから高度下げてくれない?》
《え、嫌よ。だって私の別荘みたいなものなのよ?私の能力で建築して、設置しているのに、どうして地上から見える位置に下げなくちゃいけないの?》
《だよなぁ》
《天界の者というのは……あまり言いたくないけれど神である私から言わせれば『神の犬』も同然の存在なのよ。いやそれ以下かもしれない。そんな奴らの言うことなんて聞く必要ありません。以上》
《そこまで言う?》
《神の声を聞き、力を借りられるだけ、巫女の方が天界の者より上だとすら思えるわ。それなのに神に仕えているだけで偉そうにして。天人なんてのは、人間と変わらないわ。飼い犬と野良犬の違いなんて飼われてるか否か、くらいでしょう?》
《か、飼い犬と野良犬……。確かにそうだけど……》
《それくらい大差無いって事よ。……衣玖ちゃんは、天帝とやらに仕えているのよね。カルちゃんはその天帝っていう人とは面識あるの?》
《まぁ挨拶した程度だけど、あるっちゃあるかな》
《それは良かった。なら天帝に伝えておきなさい。
「世界を創った神が創った城を手中に収めようとは何たる愚行か」ってね》
確かに母さんは、魔界という世界を作ったので、嘘ではない。そしてそんな神に逆らえばどうなるかなんてのは……きっとバカでも分かるだろう。
《あ。それとも、あなたが子供達を率いて、天帝の拠点にでも攻め込むとか?武力行使ってヤツよ》
《戦争なら俺が1人でやるからいいよ》
《神の親族の力を見せるのには良い機会なのに……》
《確かに天人はそんなには強くないけど……》
結局その後は、俺と衣玖さんで天帝に謁見した。母さんの言葉をオブラートに包みまくって伝えて、どうにか存続が公に認められた。
ただし、ずっと同じ雲が留まっているのは本当に良くないとの事だった。それについては、その場で再度母さんと連絡して話し合い、最終的には、城を覆う暗雲の形を定期的に変更するという事で、両者合意の上で契約を締結した。
こうして、この空中トラップキャッスルは、無事母さんの所有物として幻想郷の空に浮かんでいる。時には押しを強めにするのも大事なのだと学べた、良い機会になった。