ありがとうございます!!
「────それでは判決を言い渡します。主文、被告エスカルゴ・スカーレットを、大罪人蘇生罪にて、無間地獄に禁錮1万8800年。執行猶予は無く、刑は直ちに行われるものとします」
「はぁ〜?眉目秀麗、容姿端麗、煩悩頭脳、地獄やその他諸々を救ってきた俺を?禿げたジジイのその頭皮みたいな不毛の地に追いやるって?マジかよ、まさに草も生えないな。てか可笑しいだろ。アンタそんなクソな判決を下すようなクソ野郎だった?」
「被告、口を慎みなさい。法廷侮辱罪で、刑を更に引き上げますよ」
「法廷侮辱罪?法廷は別に侮辱してねェだろ。俺ァアンタに言ってんだぜ、四季映姫。……なぁ?私情の間違いだろ?閻魔侮辱罪っつーさ」
「……刑を、無間地獄に禁錮2万年に引き上げます」
「……上等だよ!やれるもんならやってみろや!!」
どうして裁判沙汰になったのかというと、時間は少し遡り……。
◆
「……って事があってよ〜。母さんってば、天人とかあんまし好きじゃねェみたいでさ。危うく、まぁた戦争するとこだったんだぜ」
「あらあら……義理とはいえ親子は似るのですね」
「おい待てそりゃどういう意味だい阿求」
「いえいえそのままの意味ですよ」
四季映姫も交えつつ、阿求と話しに是非曲直庁の庁舎に遊びに来ていると、映姫に用事があったのか何らかの役職に就いているらしい死神達が、続々と映姫の仕事部屋に入室してきた。
俺と阿求は、何やらまずい雰囲気を感じたので、大きな椅子の陰にそれぞれ身を潜めた。
「失礼致します裁判長」
「どうしました?」
「実は先日の蘇生異変の件で進展がありまして」
蘇生異変というのは母さんの捜索をした際に俺が地獄に落ちた魂を現世に蘇らせたアレだ。地獄では蘇生異変として呼称され、犯人は「へカーティアの器」と、とうに特定されている。
しかしながら久侘歌ちゃんにより異変が起きたと知らされた映姫が「へカーティアの器のやった事でへカーティア本人から了承を得ている」という事を説明してくれたので、本格的な異変にならず済んだらしい。
俺が遊びに来た時に、映姫からそう説明された。ただあの行為によって地獄に迷惑を掛けたのは事実なので、今後暫くは立場が悪くなるかもしれない、という事も教えてくれた。
「……!何があったんです?」
「へカーティア様の器により蘇生させられた魂は、たった1つを除き地獄に戻ってきているか、消滅が確認されていました……。ただですね、その『たった1つの魂』が問題でして」
「……誰の魂でしたか?」
「叛逆の大罪人、賽鬼愉于奈の魂でした。もし魂が消滅したならそれはそれで記録には残るはずです。というより、他の者は実際記録に残っていますし。そこで『上』は逃亡────」
「あぁ、愉于奈でしたか。彼女については、彼から申告はありましたよ。『賽鬼愉于奈は、俺の手元に置いておく』と」
「なっ……!?そんな無茶な!!当時の博麗の巫女や八雲紫まで出張った相手なのに!!」
「彼には彼の考えがあるのでしょう」
「しかしですね、裁判長……既に、逃亡幇助罪で彼、地獄の英雄を指名手配中です!!」
「はっ……な、何故その報告が私の元に来ていないのですかっ!?『地獄の英雄』の管轄は私でしょう!へカーティア様からの連絡を受け取れるのも、私!今すぐ取り消しなさい!!」
「────裁判長ともあろうお方が、神の器如きに、何故そこまで肩入れするのですか?もう遅いです。既に、この是非曲直庁を包囲していますよ」
「何ですって……!?」
「確かに彼によって地獄を救われた事はあります。ヤクザの侵攻を防いでくれたり、凍魔らの復活後は彼が始末をつけてくれた。これらは紛れもない事実です。しかしながら、彼が賽鬼愉于奈の逃亡を幇助したのも、また事実なのです。起きた事を受け入れ罪人である英雄を裁く。それがあなた、地獄の最高裁判長の勤めです、四季映姫・ヤマザナドゥ!」
語気を鋭くして、映姫を諭す死神。しかし、彼も本心では面倒臭がっているか、そうしたくないとは思っていそうだ。俺を捕まえようとしている割には彼の顔付きは「ガチ」じゃない。
できるならのらりくらり躱したいが────などと考えていそうな、やる気の無さようなマヌケ面だ。暢気な気配すら感じる。
「……ッッ…………出てきて下さい、エスカルゴさん。いいえ……エスカルゴ・スカーレット……!」
ギリッと歯を食い縛り、机に隠されて相手の死神などには見えていないが、拳をギチギチと強く握り締めている。映姫としても苦渋の選択なのだろう。
映姫に迷惑を掛けるのは、俺としても不本意だ。だからここは、どうなろうとも大人しく投降する、それしかない。
「へいへい、俺はここだぜ」
「エスカルゴさんっ……」
「じゃあな阿求。楽しかった。生まれ変わったら、またゆっくり話そうや」
「あなたに
「あぁ?俺が『ある』っつったら『ある』んだよ。権力の犬は黙って俺を連行してりゃあいいんだよ。その気になりゃ、俺ァ地獄をブッ壊せるってコトを忘れんな?」
死神が差し出す手錠を大人しく装着されてやる。すると何故か部屋に入ってきた死神達がゲラゲラと笑い出した。
「……何が可笑しい?」
「あぁいえ、これは失敬。その、あなたがあまりに
『俺は強い』とアピールするものですから、つい、可笑しくて可笑しくて……」
「テメェよか数千倍強ェぞ」
「ならば試してみますか?お得意の雷でも今ここで披露して見せてくださいよ」
「……殺すッ!!」
ニヤニヤとしているクソ死神に腹が立った俺は、映姫や阿求の目の前であるにもかかわらず、本気も本気の雷で目の前の死神を消し炭にしてやろう、と能力を使った────はずだった。
「なん……だと…………?」
「ククッ、お気付きになりました?」
「テメェ……俺に何をしやがった!?」
「あらゆる能力を封じる枷を、その手に。あぁ勿論これは我々が開発したモノではありません、地獄の技術開発部が開発したのです。これで、悪辣な輩も楽に連行できるというものですね」
「この手錠かよ。こんな鎖程度、吸血鬼の力なら……ちかっ……力、なら…………んぐぐぐ……!!」
「くくくっ……あーっはっはっはっは!!面白い光景ですねぇ!せいぜい頑張って下さい、どうやっても壊せないでしょうけど!」
「何だこりゃあ……」
「言ったでしょう、あらゆる能力を封じると。当然吸血鬼の飛び抜けた
「!?」
「つまり今のあなたはさしずめ────人間レベル、とでも言っておきましょうかね」
「なッ!?」
「そういえばあなた、さっき私に言いましたねぇ。
『テメェよか数千倍強ェぞ』……でしたっけね」
「!」
「
「────ッ!!」
ニヤリと笑ってそう呟くと、ドボンと腹に深くて強い腹パン一発。上手く鳩尾を捉えていたパンチは一撃で俺の意識を刈り取ってしまった。
◆
「う……」
目覚めた時には、俺は裁判所へ続く道を無理矢理立たされ、足を引きずるようにして運ばれていた。俺を運ぶこの両脇の2人も、種族としては死神だ。染み付く死の臭いが、コイツらは死神だと俺に強く訴えかけてくる。
「おや、目が覚めましたか、良かった」
「ん……誰だテメェ……」
「ただの公務員ですよ。裁判中、あなたが暴れないように隣で見張るだけが仕事です」
「……暴れる気力も、能力もねェっての……」
「まぁまぁ、そう卑下せず気楽にいきましょう……。大丈夫ですよ、あなたの場合これまでの功績の方が大きいですから。有罪判決が下ったとしても『賽鬼愉于奈を地獄へ速やかに引き渡すように』みたいな内容になるはずですから」
「ホントそうです。それに加え、エスカルゴさんはへカーティア様の配下の1人に数えられる猛者だ。如何に地獄でも、おいそれと裁けるような、そんな簡単な存在ではないですよ……今のあなたは」
「だと、良いんだけどな」
「あとこれから罪が重くなる要素と言えばせいぜい法廷侮辱罪とか、そんなモンでしょうしね。あっ。エスカルゴさんは聞かれた事にのみ答えればいいんですからね。煽っちゃダメですよ?タメ口も、まぁ一応禁止ですからね?」
「へいへい。てか、裁判するのに俺の弁護人とかは居ないのか?」
「あー……まぁ……はい……」
「ヘッ。まぁそんなモンだろ」
◆
そして裁判は始まる。俺を連行し、無防備な腹をブン殴りやがったあのクソ野郎は、検察側だった。道理で腹立つ顔をしていると思った。俺のような……端的に言えば、罪人とは反りが合わないはずだ。
検察側は俺が愉于奈を蘇生させた理由を列挙し、神の能力を私的に利用しただの、あーだこーだ煩く騒いでいる。マジでブッ殺したい。
奴が理由を挙げる度に俺は舌打ちするが、両脇の刑務官が「まぁまぁ」と宥めてくれる。全く彼らは気楽なものだ。
やがて、最終的に下された判決が、冒頭の「無間地獄に禁錮1万8800年」だったのである。
そして俺は異議を唱え、能力が使えない代わりにこれまで仲良くしてきた……と思っていた映姫を強い言葉で
「上等だよ!やれるもんならやってみろや!!」
証言台を思い切り蹴飛ばし、大声で怒鳴り散らし法廷全体に威嚇する。刑務官2人が焦った顔で俺の両腕を掴み、無理矢理に座らせる。
一度深呼吸し、昂りすぎた気持ちを落ち着ける。改めて映姫の顔を見ると、今にも泣きそうな、俺が連行される直前よりも、遥かに酷い顔をしている。
────この裁判、何か裏がありそうだ。
「はぁ……分かったよ。大人しく受け入れるぜ」
「……それ、では……被告、最後に……何か、言い残す事は……ありますか?」
映姫の奴、露骨に様子が変だ。後で、軽く調べる必要がありそうだ。この後、無間地獄へ落とされる俺に「後」があれば、だが。
「……娘に。十八女のリサに会いたい。彼女に遺言を残せたなら、もう、この世に未練は無いね」
「検察、宜しいですね」
「構いませんよ。遺言くらい、遺せるのなら好きに残すべきだ」
家族構成や所在なんかは調べ上げられている、と裁判の最中に聞いた。勿論、摩多羅家以外だが。
そして、刑の執行直前……無間地獄の落下口の前で刑務官に連れられたリサと合流する。俺を助けない為に、一時的にはリサにも俺と同じ手錠を付けると言われた。仕方がない。だから今のリサは、普通の幼女と変わらない。
少し離れた所で幻月と夢月が保護者として控えているので、何か問題が起きる事は無い。
「パパぁ……」
「よう、リサ。よく来てくれた。…………俺が地獄に落ちるのを見送るのは、娘だけで十分なんだが?」
「見送るのも
「ッ……はい……」
「ふぅん。まぁその辺はどうでもいいかな。遺言、伝えたいからさ。離れてくんないかな?」
「はい?そんな話が罷り通るとでも?」
「おいおい、今の俺達は人間と変わらないんだろ?逃げようにも逃げらんないぜ。目の前は地獄の口、後ろにはお前ら。この状況でどう逃げるってんだ?それとも、無能力の人間すら捕まえられないくらい今この場の警備はザルなのかよ?あぁ?」
「……1分で済ませなさい」
自分は今とても弱いという事を執拗にアピール。そうしてやっと、リサと2人きりになれた。映姫やあの検察のクソ野郎は離れた所から見ている。
この距離なら、小声で囁いてやれば地獄耳でさえ聞き取れやしないだろう。
「パパっ……!死なないよね?パパは死なないよね?不死身なんだもんねっ!?でもっ……2万年?なんでそんなの……そんなのヤダよ!!」
「大丈夫、パパは直ぐに戻るよ」
「……本当に?」
「約束する。契約してもいいよ。……だからもし……もしも────」
ああ、遺言なんて初めてだ。初めて死んだ時は、お空の暴走を止める為に……フランを助けて死んだ。あの時だって言葉なんて残せなかった。
愛する娘に言葉を遺せるなんて、たとえ地獄落ちだとしても、幸せだと言わざるを得ないだろう。
「それって────!!」
「ハァイそこまで!もう、遺言は済みましたよね?では、刑を執行しまァす!!」
「……まだ話し中なんだけどなぁ」
「無理ですねぇ、1分過ぎましたので」
「融通の利かない頭デッカチクソヤローめ」
「すぐにその減らず口も叩けなくなりますよ」
そしてその検察を名乗る男は俺を無間地獄の口へ突き落とした。紐無しバンジーってのはこんな感覚なんだろうな、というのが俺の最後の感覚である。