※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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準決勝第1試合 〜ナマイキッズの衝突〜

「さぁ、いよいよトーナメントも大詰め!もうすぐ幕引きとなってきた!残るはあと3試合のみだ!!トーナメント表はコチラ!!」

 

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「ここで勝ち上がった子だけが最終決戦……決勝戦に立つことになります!そんな運命の一戦を戦うのはこちらの2人ッ!!」

 

【挿絵表示】

 

 

「紅魔館の執事、十六夜虔魔!上着を脱いだことでより一層身軽になった!容赦無い彼だがその強さを存分に振るうことでここまで来た!ここで勝てば、決勝戦だ!果たして決勝戦に行くのはどっちだ!?意気込みをどうぞっ!!」

 

「……初登場故に、霊子の強さは未知数ですからね。油断も隙も無いと思います。まさかあの姫を余裕で倒せるとは思ってもみなかったので……。ま、本気で挑みますよ。それで負けたなら、それまでですね」

 

「……私が勝つ。私が勝ってキングオブチルドレンのトーナメントの頂点に立って、好きにする」

 

 いよいよ準決勝に突入。準々決勝の時と同じく、今回も10日の猶予を設けている。ただし、決勝戦は特訓の期間などは設けず、準決勝からぶっ続けだ。

 レミリアの計らいで、虔魔はこの10日間は仕事を休み、その全てを特訓に費やしたのだそうだ。俺が紅魔館に泊まる時には、その相手をしたりもした。正直、霊子の潜在能力が未知数すぎる故に、虔魔が勝つ、霊子が勝つ、などとは言えそうに無い。

 強いて言うなら「前回の霊子には勝てるだろう」という言葉になるだろうか。弦月姫や姫にも、今の虔魔なら勝ててしまいそうだ。

 

「手加減なんてしたら、半殺しになっても知らないからね。言っとくけどさ。私は(・・)加減しないから」

 

「試合相手及び試合の内容から、霊子は強い方だと判断します。容赦はしませんよ」

 

「……あっそ」

 

 霊子は霊力を減らさずに魔法を使える。だから、逆に言えば「いつ魔法を使ってくるか分からない」という事。霊魔と違い「霊力を消費する」といった予備動作が無いので、警戒する必要がある。

 

「「それでは準決勝第1試合、始めっ!!」」

 

 時が止まった。霊子はとうに動き出しているが、虔魔の能力の発動の方が早かった。これまで何度も見た「試合開始直後の停止世界」。霊子も、かなり早く動いているようだ。

 

「……驚きましたね。開始直後に止めたはずなのに、もう動き出している。速い。やり手ですね」

 

 霊子が強者側である事を認め、早速先手を打つ。即ち、停止世界での手刀。しかし虔魔は霊子のその強さを警戒してか、普段は一発のみであるところ、今回は三発も手刀を喰らわせている。念入りだ。

 

「……そして時は動き出す」

 

「カハッ……」

 

 時が動き出した直後、霊子は前のめりに倒れる。しかし気絶までしていないようで、地面を掻き毟りどうにか立ち上がろうともがいている。

 虔魔は、まだ時間を止めるまでしかできないが、その能力の使い方は、咲夜さんや弦月姫とはまるで違うと言っていい。咲夜さんと弦月姫が敵の牽制に使うのなら、虔魔は、攻撃手段の1つとしている。能力のこの使い方はどちらかと言えば俺、モルモーなんかに近いだろう。

 

「おや。意外ですね、効かないと思っていましたが効いたようです。いやはや、良かったです。これで僕の勝ちは9割確定した」

 

「〜〜〜〜〜ッッ……この、クソ卑怯者……!!」

 

「スマート……と言ってください」

 

「っ、クソッ、クソッ……!私は……こんなとこで、負けてらんないんだからぁっ……!!」

 

「その様子では……もう一度今の攻撃を喰らえば僕の勝ちですね」

 

「……!!」

 

 再び時が止まる。全くとことん容赦の無い奴だ。咲夜さんや弦月姫なら、時間停止を使わずトドメを刺そうとして、逆転負けする展開だっただろうに。

 しかしここでそんな甘さを見せないのが虔魔だ。油断しないと言ったら油断しない。甘さも見せたりしない。そういう冷酷さだったら持っていてもいい気がする。

 

「それにしても、霊子のその語彙……頭に血が上ったお父様に似てますね」

 

「うるせぇよ」

 

 生後1年未満の娘と父の語彙を天秤にかけるとは本当にコイツは……。

 

「……そして時は動き出す」

 

 時間停止を解除。立ち上がりかけていた霊子は、軽く突き飛ばされたように倒れたと思うとそれきり起き上がりはしなかった。

 虔魔が拳を天に突き上げ、進行が「試合終了」を知らせようとしたその瞬間……それ(・・)は起きた。

 

「……何です?この嫌な気配は……。寒くもないのに鳥肌が立ちますね……」

 

「………………やってくれたねぇ。容赦無いタイプとは思ってたけど、ハッキリ言って、虔魔お兄ちゃんは私の想像以上だったよ」

 

「なっ……霊子……」

 

 手をブランとさせながら霊子が立ち上がる。その瞳には暗い炎が宿っているようにも見える。虔魔が感じたのは霊子の底知れない闇……悪意だった。

 

「もういいよ。もう。もう遅いよ。今から私に攻撃したところで────全ては遅いの。だから……後手に回った自分を恨むんだね」

 

「僕が後手に回る事など有り得ませんね」

 

 虔魔が時間を止める。ほんの一瞬は躊躇ったが、彼女の足を地面に縫いつけようと足の甲へナイフを放った。時間停止を解除した直後、ナイフが両足の甲へ刺さるかと思われたが────。

 

「は……?」

 

 虔魔が投げたハズのナイフは、霊子に触れた瞬間サラサラと砂のように朽ちてしまった。砂になったワケではなく、砂のようになったのだ。

 金山彦神を神降ろししている様子は無いが……だがあの物の消え方、俺には、見覚えがある。

 気付けば、霊子は黒いオーラのようなモノをその身に纏っている。あれもまた俺には見覚えがある。まさかとは思うが────いや、思いたくない。

 

「……掛かってきなよ」

 

「言われなくても掛かっていきますよ。もう少し、強気の攻撃で良さそうです」

 

 ────まずい。

 

「やめろ虔魔、止まれ!止まれェッ!!」

 

 若干声が震えてしまったが、全力で叫んだからか虔魔は止まってくれた。ステージの2人もそうだが進行、果ては観客席のヤツらからも、一身に注目を浴びる事になってしまった。

 しんと静まるコロシアム。俺が口を開くより先にまず霊子が口を開く。

 

「……何、お父さん。邪魔なんだけど」

 

「そうですよ、僕達の試合中ですよ?」

 

 虔魔からも咎められる。観客席もザワつく。だが止まってくれて良かった。ワケを話せば、どうにか理解を得られるはずだ。

 

「…………霊子。お前、今、何をしようとしてる?」

 

「迎撃だけど?……なに?まさか、『妹のクセに兄を煽ったから』とかいう理由で止めたの?だとしたらとんだ道化……」

 

「霊子よォ、虔魔を殺すか半殺し以上にするつもりだったろ」

 

「────ッ!!」

 

「……!?ど……どういう事です……?」

 

「さぁ?お父さんの妄言でしょ」

 

「ボケた事を言ってんじゃねェ。お前が今その身に纏っているその魔法……。この俺が気付かねェ(・・・・・・・・・)とでも(・・・)思ったのか(・・・・・)?」

 

「!!」

 

 魔法について指摘された霊子は、ギロリと睨む。そりゃそうだ、第三者の俺から自分の大事な戦闘の手の内を明かされるのだから。

 

「え……あれ魔法だったんですか?」

 

「あぁ。月属性のな。パチュリーやフランもアレに気付いたろ?」

 

「「……えっ、何のこと?」」

 

「は?」

 

 紅魔館の魔法使いとして双璧を成す2人も虔魔と同じく霊子の魔法の正体に気付いていなかったと。そう言いたいらしい。

 

「悪いけれど……エスカルゴが何を言いたいのかよく分からないわ」

 

「うん……私も。ナイフを無効化したのだって、ただアレがそういう魔法だから(・・・・・・・・・・)なんじゃないの?」

 

「………………」

 

 俺より魔法に長けた2人がそう言うものだから、クスクスと霊子は笑う。気弱な者なら顔を真っ赤にして黙り込むだろう。だがこれは決して譲れないし引き下がれない案件だ。

 

「『“破壊者よ!”天地晦冥・暗雲闐闐・冥闇横溢、無音の黒雫にて千歳の安寧を享受せし野生の爪牙を無に還せ』!!────滅却『消散の霧』ッ!!」

 

 一呼吸置いてから俺も同じ魔法を使用してやる。すると霊子はあからさまに苦い顔をしてからパッと目を逸らす。

 

「エスカルゴ……それは魔法、なの?だとしたら一体何の魔法なの?」

 

「……言ったろ、パチュリー。月属性の魔法だよ」

 

「そんな!いや……有り得ない!100年以上、ずっと研究してきたけれど月属性にそんな派生は無い!」

 

「あるんだ。じゃなきゃ俺が扱える魔法じゃない。俺が扱えるのは雷属性の魔法と月属性の魔法だけ。そんなこと、パチュリーが俺よりも良く分かってるじゃないか」

 

「ッ……」

 

 パチュリーがこれを月属性の魔法ではないと断言してしまったのは、月属性の魔法は星、闇だけだと思い込んでしまったことが原因だ。

 だが思い返してほしい。月とは何なのか(・・・・・・・)。

 この魔法の正体を明かそうとした瞬間、フランがポンと手を打った。

 

「……エスカルゴと霊子ちゃんのソレを比べてみて、やっと気付いた。2人のそれ(・・)……名付けるとすると、破壊魔法……だね?」

 

「破壊……魔法?何よ、それ……?」

 

「パチェ、思い出して。『魔法や占星術においての月』って、何なの?」

 

「そりゃ、月は『感情と心を司る星』であると共に

『生と死の象徴』であり────まさか……ッ!?」

 

「そ。死、即ち破壊。霊子ちゃんやエスカルゴは、月属性の魔法を鍛えに鍛えて、そっちの方にまで、スキルツリーを伸ばしたんだ。そうでしょ?」

 

 フランの問いに、頷いて答える。そして俺は霧を解除し、席につく。ここまでパフォーマンスしたら観客達のざわめきもその中身がすげ変わり、霊子へ注目が集まった。

 

「破壊の魔法なんてそんなの聞いた事も無かった。まさか、月属性にそんな一面があっただなんて……。でもフラン、どうしてエスカルゴと霊子ちゃんとを見比べて、魔法の正体に気付いたの?同じ魔法なら見比べるも何も無いんじゃない?少なくとも私には全く同じ魔法に見えたわ」

 

「?……あー、だって霊子ちゃんさぁ、エスカルゴと比べて魔法の扱いがまるでなってないんだもん☆」

 

「え?」

 

 フランは笑いを堪えるような、煽るような顔で、口元に手を当てながら言う。それを聞いて、霊子は今にもブチギレそうな顔でフランを睨み付ける。

 パチュリーは、フランが何を言ってるのかが全く分かっていないようで、ポカンと口を開けている。

 

「だってさパチュリー、2人の足元を見てみなよ。エスカルゴの足元、つまりこの観客席の床は、特に何ともなってないでしょう?」

 

「そうね……?」

 

「それに比べて霊子ちゃんの足元は?」

 

「……足元だけ、変に凹んでいる?高所から着地したワケでもないのに?」

 

「そっ。霊子ちゃん、足の裏まで覆ってるせいで、ドンドン地面を消しちゃってるからジワジワ地面に沈んできてるんだよね。ナイフは一瞬で消えたのに霊子ちゃんが一瞬で沈まないのは、あの子なりに、破壊を抑えようと頑張ってるからなんだろーね」

 

「な……成程…………」

 

「ッッ…………チッ!!」

 

 完璧に見破られた霊子は霧を解除した。もしも、あのまま霊子の挑発に乗って虔魔が直接手で攻撃をしたなら────彼の手が消えてなくなっていた。

 それに気付いた者達は、等しく戦慄していた。

 しかし唯一、当事者である虔魔だけは平気な顔で霊子を見つめていた。

 

「中々に鬼畜ですねぇ……。そんな魔法を扱うとは、流石は突然変異の娘です。ですが残念ながら、僕は早速、その魔法の攻略法を発見してしまいました。霊子にこれ以上の奥の手が無い場合は、僕の勝利は揺るがないかと思われます。……ですので、お父様。もう止めないでください」

 

 黙って手を上げる。分かった上で言うなら、もう何も言わない。分かっていないのであれば痛い目に遭うのはアイツ本人。どちらにせよ、詳細を知る者としての説明義務は果たした。実演もして見せた。

 攻略法は主に1つだけある。虔魔がこの短時間でそれに気付けたのかは……分からないが、とりあえず攻略法を思い付いたと言うなら試合を見てみよう。

 

「あ、そう、再開するんだ。コレが破壊魔法だと、理解した上で?……理解できないね。降参しなよ」

 

「そうですか?攻略法さえ分かってしまえば、破壊魔法と言えども、案外可愛らしいものですよ」

 

「ッ……余裕じゃん!じゃあ攻略してみなよ!!」

 

「ええ、言われなくとも。スマートに、美しくね」

 

 高く飛び上がり、ナイフを取り出しては投げる。投げる。ひたすらに投げていく。しかし霊子は破壊魔法を身に纏っているからか回避する様子も無い。そしてそれは霊子の思い通り、ナイフは黒い霧にて一瞬のうちに破壊されていくのだ。

 

「……無駄だってまだ分かんないの?」

 

「おや、無駄な事をしていると思いますか?」

 

「どう見てもそうじゃん。ナイフの無駄だよ」

 

「そうですねぇ、では子供らしく石でも投げます?砂でも構いませんよ。まぁ、そんなモノはここには無いんですけれど」

 

「……」

 

「ふふ、冗談ですよ。さ、続きといきましょう」

 

 軽口を言い合い、再度ナイフを投げ始める。だがナイフはひたすらに破壊されていくばかりで、特に何かしら起こる様子は無い。

 しかし俺はそれを見て、「虔魔は本当に攻略法に気付いている」と感じた。

 やはりアイツも吸血鬼。魔力の動きには気付けるらしい。

 

「ふむ。そろそろ、ナイフが少なくなりましたね。僕も、創造魔法を鍛えるべきなのかもしれません。それではまずは────『暗黒のマルチバース』」

 

 虔魔を囲むように、合計12人の虔魔を召喚した。その中には緑の服、言うなれば妖舞や妖夢のような服を着ている者もいるが……何故だろうか。

 

「ッ!?な、何これ、分身……?」

 

「……僕の《並行世界に干渉する程度の能力》にて、並行世界の僕を……手始めに12人召喚してみました。僕を含め13人です。13とは、古来より不吉な数字とされています。北欧神話やキリスト教、そして更に有名所では、タロットの大アルカナ13番。『死』の暗示とされていますが、これは────『物事が突然変化する事』も意味しています」

 

「!!」

 

「前置きが長くなりましたね。さぁ僕達(・・)、親愛なる妹へ鋼の雨を降らせて差し上げましょう」

 

 13人全員が飛び上がる。この世界の虔魔は普通の弾幕を放ち、それ以外の虔魔はナイフを投げる。

 やはり黒い霧に当たるとナイフは破壊されるが、それでもお構い無しに、ナイフを投げ続けている。無為に破壊されていくナイフ。咲夜さんは明らかにイライラしているようで、腕を組みながら、トントンと腕に指を当てている。

 

「……ッ!」

 

 ナイフが霊子の頬に掠る。少しずつではあるが、確実に、ナイフを破壊しきれなくなってきている。彼女の血の匂いを感じ取った吸血鬼達はざわめく。

 

「え?血の、匂い?どうして?」

 

「ナイフを破壊しきれなくなってきてるんだろう。だから、そろそろ霊子の魔力が尽きるって事だ」

 

「……!そうか……。虔魔くん、考え無しにナイフを投げ続けてたワケじゃないんだ……」

 

「ああ。パチュリーも分かったっしょ?」

 

「ええ。アレ、確かに強力な魔法だけれど、まずは

『魔法の維持』、そして次に『破壊の瞬間』。特に後者ね。破壊する瞬間、消費魔力が跳ね上がってるように見えるわ」

 

「Exactly, その通り。破壊の瞬間だけ、まるで家電の

 電源を入れた時のように消費魔力が上がる。家電は起動の瞬間が最も消費電力が多いと言われている。だから夏場なんて、短時間の外出なら、エアコンを点けたままの方が電気代が安く済むっつーデータがあるくらいさ。……それと同じで、あの破壊魔法は、破壊の瞬間が最も消費魔力が増えるんだ」

 

「虔魔くんは、ナイフを投げる事で、霊子ちゃんに魔力を消費させていた。……そういう事なのね」

 

「虔魔、子供達の中でも観察眼はある方だからな。巫月、霊愛、穹、茜……に続くレベルだろう。だからあの魔法の弱点に気が付けた」

 

「そして虔魔くんは並行世界の自分を呼べる、か。単なる物量なら私を超えてるね」

 

「フランは分身3人が限界だからな。でも火力ならまだフランが勝ってるだろ」

 

「そうかなぁ。10人ならともかく、流石に13人には負ける気がする」

 

 そう言ってフランは苦笑い。虔魔と霊子の戦いはこのままなら虔魔の勝利は確実だろう。魔力を消耗しているのはまず間違いないし、虔魔の事だから、致命傷は避けるとしても、それ以外の事は容赦などしないはずだ。

 

「ッ……く……あぐっ…………」

 

「────やめっ。……良い具合に出血してますねぇ。非常に吸血欲がそそられます」

 

「こんなのすぐ治るけどね……!」

 

「そうですね。ですが、見るからに、霊子の魔力は枯渇してきているようだ」

 

 並行世界の虔魔達を元の世界に返し再び1対1の戦いに戻る。霊子は若干息が荒くなってきていて、肩を上下させて呼吸しているらしい。魔力の消費がそのまま体力の消耗に直結しているようだ。

 

「さて────。そろそろチェックメイトが近付いて参りました。僕の見立てではあと数回の『破壊』でイケますね」

 

「!!」

 

「怪我したくなければ『破壊』してくださいね」

 

 時を止め、全方向からナイフを投げる。上半身は流石にマズいと思ったのか下半身メインだ。しかし本当に霊子の破壊魔法が限界を迎えたか、数本だけグサリグサリと足に刺さり始めた。

 

「くぁっ……!!」

 

「おや。破壊されませんね。もう、スッカラカンに近いのでは?さっさと降参すればいいのに……」

 

「……」

 

「せいぜい、最後は潔く負けて下さいね。これ以上戦いが間延びしても観客が退屈するだけですから」

 

 時も止めず霊子の背後に回り込む。空高々と手を振り上げたかと思うと、鋭い手刀をぶつけ…………。

 

「……あれ」

 

 ナイフは破壊しきれていなかったのにも関わらず今、虔魔の右手は、手首から先が消し飛んでいる。ジワジワ再生しつつあるようだが、虔魔は再生慣れしていないらしく、再生が遅めだ。

 

「ふむ、おかしいですね。ナイフより体積も質量もあるはずの手が消し飛んだ。ナイフは破壊しきれず怪我を負っていたのに?…………あぁ……成程。これはそういう事でしたか」

 

「……フン。苦労したよ。この魔法の出力を抑えて、魔力切れのフリ(・・)をするのはさ」

 

「……してやられましたねぇ……」

 

 身に纏うこの破壊魔法は、時を止めた所で効果は変わらない。時を止めて手刀を喰らわせても、この結果そのものは変わらなかっただろう。

 

「トドメだよ」

 

「やれやれ。痛いのはごめんなのですがね……」

 

 霊子が拳で虔魔の腹を貫いた瞬間……霊子の両肩が血飛沫と共に弾け飛んだ。肩から切断された右腕が貫いた虔魔の腹からブランと垂れ下がっている。

 

「………………は?」

 

「くっ……くふふっ…………やはり子供は子供。実際の経験、及び知識に勝る武器など無いのですよ……!」

 

「な……にが、起きっ…………」

 

「さぁ魂魄虔魔、トドメを刺しなさい。そのまま、霊子を気絶まで追い込めッ……!!」

 

 血を吐きながら緑の服を着た虔魔へ指示をする。魂魄虔魔と呼ばれたもう1人の虔魔は無表情のまま霊子の背中へ拳を突き立てるが……。

 

「私にそんなの効くはずがないでしょ……!!」

 

「「!!」」

 

 先程の妖舞のようにその部分だけを霧化、いや、蝙蝠の姿へ細分化させる事で、ダメージを最小限に抑えていた。しかも、魂魄虔魔によって飛ばされた両腕も、もう再生している。

 

「執拗いですね、さっさと負けなさいッ!!」

 

「どっちが(・・・・)よ!!」

 

 両者、同時に全身を蝙蝠化。コロシアムの中を、超大量の蝙蝠が飛び回る。噛み付き合ったり互いの翼を食いちぎって落下していったり。

 最初に人型に戻ったのは────虔魔だった。

 

「ハーッ……ハーッ…………参りましたね、技の練度が低いせいで、消耗が激し過ぎる……ッ!!」

 

「……♪」

 

「────無念」

 

 霊子の蝙蝠が虔魔の全身に噛み付く。魂魄虔魔は慌てて虔魔を助け出そうとはするも、霊子の蝙蝠に阻まれ、彼自身も吸血され尽くし、2人共、失血死寸前まで追い込まれ……気を失ってしまった。

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