《隠岐奈。次の決勝戦だけど、ちょっと頼めるか?阿弥の力を借りたい。阿弥に伝えてくれない?》
《阿弥の?……ほう、成程成程そういう事か。お前の考えはよく分かった。つまりは────》
◆
「いよいよやってきました決勝戦!トーナメント表改めて載せるまでもないよねッ!!こちらの2人の対決です!!どーぞっ!!」
「自他共に認める『最強』の娘!初回から前回まで全ての子供達だけの大会で優秀な成績……どころか、優勝を果たしている稀有な娘!安定した強さは多分父親譲りだね!今回の決勝戦もその強さを十二分に披露してくれる事を、進行も観客も期待してるよ!思う存分、後の事は気にせずに暴れ回ってくれ!!巫月・優曇華院・スカーレット〜〜〜〜ッッ!!」
「対するは『レモン・ヴァンパイア』、博麗霊子!初参加にして決勝戦に到達するとは、こりゃとんだダークホースだ!!これまでの大会で様々な強さを発揮してきた子供達をバッタバッタと打ち倒し!!同じく意外な強さを見せ付けた兄を倒してみたり!今回はもしかしたら……もしかするかも!?」
とうとう始まった、突然変異対決。巫月は、俺の初めての娘にして突然変異の娘。霊子は見た目にも出てる程に分かりやすく突然変異の娘だ。
俺としては勿論、巫月に勝ってほしい。しかし、それよりまず先に、霊子が「何の為に」この大会を戦うのか────それを知りたい。
その為の布石として既に運営の方には交渉済み。俺はただ、待てばいい。
「それでは決勝戦の前に!お2人が『どうしてこの大会を戦うのか』!『勝ったら何がしたいか』!を発表して頂きたいと思います!それじゃ年功序列でお姉ちゃんからどうぞ!!」
「はーい。私はね、皆を束ねるお姉ちゃんとして、負けるワケにはいかないからね。それから、ただのお遊びなのは分かってるけど……私も『王』に興味が無くはないかな、ってね」
「なるほどなるほどー!じゃ、妹ちゃんどうぞ!」
「私は────ここで優勝して私の強さを見せたら、家出する。その為にこの大会を戦ってるから。もう楽になりたい……皆して能力持ってて……何なの?」
霊子の発言に会場の空気がパキンと凍り付いた。今、阿弥の能力にて、霊子は建前が使えず本音しか話せない状態になっている。
だから、発言した本人も驚いた顔をしているが、驚きたいのはこっちだ。まさか、家出するのが目的だとは、誰が思うだろう。
霊子が腹に一物抱えているのは俺でも分かった。霊夢も薄らとその辺を感じていたからこそ、霊子の接し方には夫婦共々、そして霊愛から霊魔まで、皆気を付けて見守っていたのだ。
俺は霊子が家出したいと考える理由が分かった。霊子の悪意の根源────それは、無能力者であるが故のコンプレックス。そしてそれが、家を出たいと彼女に思わせた理由。
「そんなのッ……許せるワケないでしょ!」
観客席から霊夢が声を飛ばした。そりゃそうだ、娘の家出なんて、そんなもの見逃せるはずもない。ましてや家出したい理由が理由だし、あれが霊子のコンプレックスに繋がっているのも、霊夢はきっと分かってるだろう。
「だろうね。そう言うと思ったよ。だから子供達で最強だと謳われるお姉ちゃんを倒す事で、私の力を誇示して、『1人でもやっていける』って示すの。それだけだよ」
本音しか話せない理由を察したのか、それとも、慣れたのか。いちいち驚く素振りも無くなり、口の勢いに任せるかのように、早口で捲し立てる。
「だからって……!どうしてよ!皆が能力を持ってるからって、あなたが持ってなくたっていいでしょ!そんな事で疎外感を感じる必要なんてないわ!」
「
「霊子……」
「分かる?生まれた時からずっっっと、周りの人と自分は違うって感じ続けてきた!悪い意味でね!!今更、『自分は自分でいいんだ』なんて思えない!そんなイイコちゃんじゃないんだよ、私は!」
「あんたも私から見れば十分に良い子よ!」
「違うね!だったらどうしてお姉ちゃん達みたいに気安く接しないのさ?まるで腫れ物に触るみたいに接するよね!また私に神社を壊されるのが嫌だからそうするんだ!そうなんでしょ!?」
「っ……」
「博麗の巫女が公衆の面前で嘘なんてつくのかァ。しかも実の娘の事で!ふふっ、最悪だね。……けど、博麗の巫女であるお母さんにそんな事をさせたのは私……だよね。最悪だね。……私なんか────」
「やめて霊子、聞きたくない!」
「やめろ霊子!!」
「────生まれてこなきゃ良かったんだ!!」
最悪の展開だ。幾らこちらの方から霊子へ本音を吐かせるように仕向けたとはいっても、親としては絶対に聞きたくない言葉だった。「自分の子供から言われたくないランキング」があったらダントツの1位を獲得しそうだ。
娘からそんな言葉を聞いた霊夢は、目に涙を溜め口を噤んでいる。霊子が無能力であるが故に悩み、試行錯誤しているのは、俺も霊夢も気付いていた。しかしそれだけ。何もしなかった。
俺達が霊子に何かをしてあげる事が、この場合の正解だとは思えなかったからだ。だから見守る事が正解だと信じて、ただただ見守ってきた。
しかしそれにより霊子に「気安く接してない」と思われる事になってしまい、逆に、傷付ける結果になってしまっていた。要反省だ。
「お母さんもお父さんも災難だよねぇ〜。生まれた子供がまさかの無能力者で役立たずの出来損ない。ご飯も素直に食べれず身体が受け付けてくれるのは血液のみとかいう偏食っぷり。ほんとさぁ、普通に過ごしてるだけで、やんなっちゃう。こんなんならさっさと出てった方が、博麗神社の皆の為でしょ。そうでしょお母さん?」
「そんな事ない!あんただって私の────」
「ねぇお父さん?これだけ大きなファミリーの中で生まれた十七女の私だけ無能力者だよ?どう思う?出来損ないでしょ?役立たずでしょう?私なんて、お父さんにとっても失敗作でしかないでしょう?」
「バカ言ってんじゃねぇ、霊子は俺の────」
「じゃあ何なの?望まれて生まれたとでも言うの?こんな出来損ないが?フン、そんなワケが……」
「「そう
「……はあ?」
「「
霊夢と言葉が重なる。席は離れていても、考える事は同じ。霊夢も俺も。だって、俺は神だ。しかも妊娠に関する神徳だ。俺の子に「望まれない」子は決して存在しない。
「霊子。お前にはまだ言ってなかったな」
「な……何さ、今更……」
「いいか。俺は神だ」
「……は?」
「しかも妊娠に関する神だ。望めば孕み、望まねば孕まん。これは絶対。そんな俺から生まれた子が、望まれない子供なワケがねェっつってんだ。あまり馬鹿な事を言って親を困らせるなよ。そういう神徳なのでね、俺は」
「は……はぁ?意味分かんないし……妖怪なのに神徳持ちとか、そんなのあるの……?」
観客達がざわめく。俺は神徳を得てから大々的に宣伝しているので、地底や妖怪の山でも絶賛ベビーブーム中なのだが、そのお陰で霊子でも信じざるを得ない程の肯定的な声が集まってきた。
「だっ……だとしても!そんなの私が無能力者だって知らなかったからでしょ!もし知ってたら、絶対、産んでなかった!」
「「
「は……?」
「つーか俺達は、お前が生まれて早々問題を起こす事すら把握してた。大異変レベルのな。ま、実際は神社をブッ壊す
「はぁ……??」
「俺が視る夢は予知夢。レミリアが視るのは運命。未来予知なんざ、お前が思ってるよりずっとずっと簡単な事なんだよ。何か問題が
「なんで……なんでよ……?」
「お前は望まれているからだ」
「……嘘だ」
「嘘じゃないんだよ。神社を壊した程度で、『私は大罪人だ』とでも思ってるのか?そうだとしたら、自惚れもいいところだけど」
「なっ……!」
「いいか霊子よーく聞けよ。俺は無間地獄に落ちるレベルの大罪人だ。神社を壊した程度じゃ足元にも及ばん。罪人レベルでも、お前はまだまだ赤子だ。赤子は1人じゃやっていけねーよ、だから家出とか馬鹿みたいな事は考えるな」
「でも!……能力持ちの、しかも何個も能力持ってるお父さんには、分かんないだろーねっ!!私の悩みなんか!」
解凍されつつあった会場の空気が、今一度冷たく凍り付く。霊子は「あ、あれ?」とキョロキョロと周りを見渡している。
「そいつは、俺が元人間と知った上での発言か?」
「元人間って……はぁ!?お父さんが……!?」
「無能力で、空すらも飛べず。やっと翼を持ったと思ったら弾幕も能力も全く使えず。俺に出来たのはただひたすら、降り注ぐ弾幕を回避する事だけだ。この足だけを使ってな」
「……」
「そんな俺も今や『山の英雄』だの『地獄の英雄』だのと呼ばれるまでになったんだ。まぁ、貰い物もあるにはあるが、大半は────自分で言うのは少し恥ずかしいが、『努力』……ってヤツだな」
「そんなの私だって……」
「
「ッ、したに決まってんじゃん!」
「足りねェ。まだまだだ。確かに霊夢からの修行は完璧にこなしてる。自主的に魔法の勉強、開発までしている。そこは素直に凄いと思う。誇りに思う。だが、まだまだだ。伸び代はまだあるのに、霊子は自分で『自分は完成してる』と錯覚してるんだよ」
「何よ……それ?能力が無くて拡張性も無いのに私にまだ先があるとでも言いたいワケ!?無責任なこと言わないでよ!!」
「お前は俺の子だぞ?そして最強、博麗霊夢の子。伸び代は無限大、とまでは言わないよ。が、確実にまだまだ完成には程遠い。お前は、お前が思ってる以上に強くなれる。無能力だからと諦めてる部分もあるだろう。だがそんな後ろ暗い気持ちを捨てればお前は一皮剥ける。殻を破れる。俺も霊夢もそんな気持ちがあるからこそ、お前を
「見守って……嘘だ、そんなの絶対に嘘だよ!だって霊愛お姉ちゃん霊麗お姉ちゃん……霊魔お兄ちゃんと違って、誰も、私には何もしてくれない!!」
「霊愛は博麗の巫女を目指している。だから霊夢は霊愛に全てを教える義務がある。霊麗はそんな姉のサポートをしたいと言っている。だから霊愛に近いレベルで指導している。霊魔は霊夢よりは俺に近いタイプだからというのもあり、霊魔が俺に頼むから俺が指導している。……一つ聞くぞ。霊子は、霊夢に与えられる修行以外で、
「何も。だから私は自分で魔法の修行したんだし。今更、何の確認?」
「親だからって、何も言わず全てを与えてくれると思うなよ」
「……!」
「俺達は見ていたよ。霊子が、霊夢から与えられる修行を本気で頑張ってる姿を。魔法の特訓は、いつどこで、どうやって特訓したのかは分からん。だが霊子が頑張ったというのは、成果から分かったよ。四六時中、一緒に居るわけにはいかないんだ。俺も霊夢もな。一度に特訓できる人数は限られてるし」
「私の事、腫れ物を触るみたいに扱っといて、今更
『アレは見守ってた』……?ふざけないでよ……!!それじゃ、私がバカみたいじゃん!!」
年相応に怒鳴る霊子。最初は恐ろしい何かを見るような目だった観客達も、霊子が素を見せ始めるにつれて、どこか優しい目に変わっていっているのを親の目線からでも感じ取れた。
「あぁ、とんだバカモンだな。大バカだよ」
「なっ!?」
「イイじゃねぇか、バカで。何を勘違いしてんのか知らねぇけど、まだ1歳にもなってねぇ赤子だぞ?失敗も成功もこれから死ぬほど味わうんだからな?今回の『親が私を腫れ物に触るみたいに扱ってた』というのが勘違いだとしたら、これからその認識を改めてくれたら……親としては嬉しい、かな。でも、霊子にそう勘違いさせてしまったのは、こっちだ。それは本当に申し訳ないと思ってる」
「………………」
「でもな、霊子。大して生きてない、モノも知らんガキンチョが、一丁前に思い詰めてんじゃねーよ。せいぜい、1歳くらいになってから悩め。赤子は、泣くのが仕事。そして、俺ら……親に守られるのが、仕事なんだ」
レミリアに言わせれば俺も「大して生きてない、モノも知らんガキンチョ」なんだろうなぁ、などと思いながら娘への言葉を続ける。
もう少しで、霊子の運命を修正できそうなのだ。知らず知らずの内に、言葉にも熱が入ってしまう。
「何よ……何なの……全部……私の勘違いだったの……?私だけ能力が無いせいで、周りから……お姉ちゃんやお兄ちゃん達から馬鹿にされてると思ってたのも!私だけ能力が無いせいで、勝手に悩んで!勝手に、おうち、出てこーとしてっ!」
「勘違いだな。なぁ、霊夢?」
「ええ、そうね。もし霊子を『無能力者』だからと笑うようなヤツが居たら、私はそいつの頭を割る」
頭を割られる易者を想像して、つい軽く吹いた。
「そうだな、
「……なんで……2人共、そこまで……?」
「「
「っ……う……うっ…………うぅぅ……っ!!」
俺達はこの日初めて……霊子の涙を目にした。
きっと本当のこの子は甘えん坊で、構ってちゃんなんだろう。それなのに自分と周りを比べて勝手に落ち込んでしまう。だからこそ、甘えたい対象から距離を取り、孤独であろうとする。孤独になろうとしてしまう……。
だから「そう思わせる原因」を取り除いてやればそれだけで「悪意」を抱えた霊子とはおさらばだ。
これを機に、無能力コンプレックスとはスッパリお別れしてほしいものである。
本作を読んでいて、新たに推しが増えたという経験はありますか?
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ある(書籍原作キャラ)
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ある(秘封)
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