閉会式も終わり、エキストラマッチの準備をする俺達。しかし子供達の中に、未だ霊子が居ない事に気付く。いくら何でも、もう目覚めても良い頃だと思い、博麗神社メンバーの元へ行く。
彼女を蝕んでいる分の電気を俺が吸収してやり、回復を促す事で目を覚ますはずだと考えたからだ。けれどもそんな俺の予想とは反対に、どうやら既に霊子は目を覚ましているらしく、姿を消していた。
「あれ、霊子は?」
「あぁエスカルゴ……いつの間にか目覚めたみたいでどっか行っちゃったのよ。だから今、巫月ちゃんと他の四天王の子に頼んで霊子を探してもらってる。これから私も向かう予定よ。霊麗はここで待っててもらうわ」
「ふむ……霊子は初めて地底に来たんだし、アイツが行きそうな場所なんて予想もつかないな」
「……いや待ってよ。アンタの能力だったら、一瞬で探せるんじゃないの?」
「あー……そうだな。連れてくる」
数年前に、母さんによって与えられた、俺のこの
《異世界へ行く程度の能力》は仮定が大事な能力。誰かのそば、近く、背後、後ろなどの、「場所」を設定すれば、そこに瞬間移動できる。
霊子の背後を指定して瞬間移動。どうやらここはコロシアムの外……存外、近くに居たらしい。
「何で私が負けんのよ……クソッ……マジムカつく、何でよ……チクショウッ……」
物に当たらないで文句を言うだけにしている所は好感が持てる。惜しむらくは、完全に1人になれる場所ではない、という事だろうか。
仕方ない、時間も迫っている事だし、声を掛けてみよう。それしかない。
「おーい霊子……そろそろ時間だぞ?」
「ゔぇっ!?」
鳥が潰されたかのようなダミ声と共に振り向いた霊子は泣いていた。負けたのが悔しくて泣くとは、意外にも子供らしい所があるではないか。
「顔、洗ってきな。まだ出番があるようだぞ」
「ちょっと……平気な顔で会話続けるとかどんな神経してんの……?娘が泣いてんだよ?」
「子供の泣き顔なんざ見慣れてるよ。何人の子供を育ててきてると思ってんだ。いちいち突っ込むのも野暮だしな」
「フン……どーせ分かんないよね、私の悩みなんか。強者側のお父さんになんか……!」
「俺が強者側?バカ言っちゃいけねぇ。俺なんか、強者を目指してる側だぞ。
「はぁ?」
「前に言ったか分からんが、俺は幻想郷で準最強を目指してる。だが、まだまだ道半ばだよ。つーか、最初は弾幕も使えなかったんだぞ。俺にできたのは
『ただ速く走る』、これだけだった。昔は、能力も使えなかったからね」
「……」
「まぁ、20年以上の年月をミッチリ特訓に費やして今に至るってワケだ。だからな、霊子。お前には、まだまだ先がある。今でこんなにも強いんだから、これからもっと強くなるに決まってる。いつかは、霊愛や巫月にも勝てるようになるさ」
「……ほんと?ほんとに、勝てるようになる……?」
「ああ。霊愛や巫月以上に頑張ったら、な」
「……ッ……う…………ゔぅっ……うえぇぇぇん……」
こうして話している間、ずっと涙目だった霊子。しかし遂にわんわん声を上げて泣き出してしまう。家庭内に不和を生む程に口の悪い博麗家の末っ子、霊子だが、こうして見ると、思っていたよりずっと年相応な……等身大の子供なのかもしれない。
「そんなに泣くなって、これからまた出番だから。兄弟姉妹、観客に司会、全員に見られちゃうぞ?」
「ゔん……わがってるよぉ…………んうぅぅっ……」
ひっく、ひっくと嗚咽を漏らしながら涙を流す。そしてようやく落ち着いてきたかと思ったが、肩を震わせつつ、というより身体全体を震わせながら、ぽそりと言葉を漏らす。
「ごめん、なさい……」
「?……どうした?何が『ごめんなさい』なんだ?」
「おうち……出てこぉとして……っ、おとーさんも、おかーさん、もっ……うっ、うっううぅ……ごめっ……ごめん、なさいぃ…………うわぁぁあんっっ!!」
「……」
決勝戦前のアレか、と気付いた。無能力に対するコンプレックスも無くなったんだろうし、これで、霊子に内在する全ての「悪意」と呼べるモノの根源なんかが消えてくれた事を祈る。
「そんなに泣かなくてもいーから……な?もう俺達も怒ってないよ。皆と、仲良く暮らそう」
「ん゙……そーする゙っ……」
タオルを創造して霊子に渡してやる。ハンカチやその程度のサイズじゃ、到底綺麗にできないくらい涙や鼻水で顔がグシャグシャだ。
自分の子供がここまで泣くのを見るのは、多分、これが初めてだ。
昔は妖舞も泣き虫だった。弦月姫に負けて大泣きするなんてのは日常茶飯事だったと言える。でも、それでもここまで泣いた事は無かったはずだ。
そんな事を思って霊子を見守っていると、やがてスンスンと鼻を鳴らして、泣き腫らした目で、手を伸ばしてくる。
「……だっこ」
「え?」
「だっこ!中に戻るの!」
「……はいはい……」
そのまま普通にだっこしてやるのだが、どうも、霊子が思った感じとは違うらしく、ジタバタ暴れ、飛び降りてしまう。
「なんか違う」
「なんか違うって何だ」
「乗っかりたい」
「……おんぶ?」
「おんぶ?……じゃ……おんぶ、シて」
腰を下ろし、霊子が背中によじ登る。足を掬い、よっこらせ、と立ち上がる。俺の前に両手を伸ばしだらんと力を抜いている。
「っし、コロシアム戻るぞ」
「やん、足触んないでよ」
「そういうモンなんだ」
「えー……」
「じゃあ降りるかよ?歩いてもらうぞ。もしくは、お姫様抱っこしか俺には出来ないぞ」
「恥ずかしいからヤダ。……これでいいよ」
「さいですか」
霊子の鼻声が治まるまでは、コロシアムの周りをウロついてから戻ろうと思う。巫月が進行なら俺が戻るまで始めたりしないのは確定だし、なにより、俺も霊子も出場するのだから、2人も欠けた状態で始めるワケがない。
進行には迷惑を掛けてしまうが、やっとこうして霊子が心を開いてくれつつあるのだから……。
「な、霊子」
「ん〜……?」
「帰ったら何食べようか?2位の記念に好きなモン作ってやるぞ」
「じゃあ〜……おとーさんの…………血ぃ…………とか……飲みたいな…………おかーさんのも……ぶれんど……」
「はっははは……ああ、好きなだけ飲め」
「あり……がとぉ………………」
ゴツンと霊子の頭が俺の頭にぶつかる。うっかり寝落ちしてしまったようだ。小さめの声ながらも、話し掛けてみるが……それっきり霊子からの返事は、返ってこなかった。
仕方ないから霊夢に事情を話して先に帰ろうかと思い、コロシアムの霊夢の席へスキマを繋げるが、そこに博麗神社の面々は誰も居ない。
気配を探るとどうやら霊夢はすぐ近く────。
「あっ」
「おっ」
ラブコメ漫画のテンプレのように、曲がり角で、バッタリ出会う。ラブコメ漫画と違うのは、とうに夫婦で、しかも子持ちであるという所だ。
「あ、霊子のこと見付けた?」
「おう。俺の背中でスヤスヤだ」
「うっそ、霊子がおんぶさせてくれたの?」
「意外な事に霊子からせがんできたんだ。因みに、最初はだっこだったぜ。でも思ってたのと違うとか言うから、それなら歩けっつったらコレよ」
「明日の天気は槍ね」
「槍なんか樹理愛でも降らせらんねーよ」
「フフッ……よく寝てるじゃない。こうして見ると、やっぱり普通の子ね」
「あぁ。見た目がちょっぴり違うだけで、霊子も、ちゃんと普通の子供だよ」
「……どうする?神社に帰って寝かせようか?」
「そうすっかな。巫月には悪いけど」
「寝てるものね、仕方ないわよ」
スキマを開き博麗神社への道を繋げる。その時、首筋にツゥッと、温かな涙が流れる感触がした。
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