ある日、魔法の森の中の、宵闇親子の自宅にて。産休、育休を終えて、久しぶりに寺子屋に行こうと外出の準備をするルーミアを見て、娘・真宵は以前父親や母親と話した事を思い出した。
「ママ〜、寺子屋に行くんでしょ?それなら、私も行きたいんだけどイイよね?」
「……あー、そんな話もしてたっけ。いいよ、一緒に行こ。確かエスカルゴが話を通してくれてたはず」
「青と白の髪の毛の人が、けーねせんせー?って人なんだよね?」
「そう、前に立ってるから分かりやすいと思う」
「そーなのかー!」
「フフッ……。あとね真宵、寺子屋での私は少しだけ子供っぽく見えるかもしれないけれど、それは演技だから。真に受けちゃダメだよ?」
「演技?何でそんなのするの?」
「周りが揃いも揃って子供っぽいからねぇ。周囲に合わせる方が楽ってのがあるのよ」
「ふーん……?ま、いいや。分かった!」
「そ、真宵はいい子ね」
「うん!真宵、いい子!」
子供で居た方がルーミアとしても楽しいからとは子供の前では言わない。子供の前では大人で居たいルーミアと、皆の前では子供で居たいルーミア……。ルーミアの出した結論は、これだった。
◆
「はい、というワケで、今日から皆と一緒にここに通う事になった『真宵』だ。仲良くするんだぞー。あと、この子は巫月と魅玖の妹だ。そうと言えば、何となくこの子がどういう子か、分かるな?」
「巫月と魅玖の妹?……って事は、もしかしなくても真宵ってエスカルゴの子供って事かー!よろしく!あたいはチルノ!寺子屋では、巫月の次に最強な、氷の妖精だっ!」
「いや
「私は夜雀のミスティア・ローレライです、宜しく♪
真宵ちゃんのお父さんとはバンドを組んでるから、良かったらライブにも来てね♪」
「私はリグル・ナイトバグ!ゴキブリじゃなくて、蛍の妖怪だからね!よろしく!」
「えっ、と……大妖精です、特に名前とか無いから、大ちゃんって呼んでくれると嬉しいかなっ……///」
「巫月お姉ちゃんだよー。寺子屋でもよろしくね」
「わぁ〜……!皆、強そう!あと皆、可愛いっ!ね、ママ!」
その言葉は教室の空気を一瞬にして凍結させた。ルーミアはもちろんの事、巫月、魅玖と慧音以外のメンバーは真宵の母親がルーミアだと誰一人として知らなかったからである。
チルノ、大妖精、ミスティア、リグルは、揃って声を上げる。
「「「「ええええええええええええっっ!!?る、ルーミアの子供なのぉおおおおッッ!?」」」」
「……あ、あれ〜……言ってなかったっけ?」
「「「「聞いてないっっ!!!」」」」
(どーゆー事よエスカルゴ、何て説明したらこんな反応になるのよ……!!それとも、本当に慧音にしか言ってないとかそんな感じ!?)
ルーミアは内心彼への怒りを感じつつあったが、バレてしまったものは仕方ない。事情を説明して、納得してもらう事にした。
しかしこの空間で、納得していない、否、未だに信じられないとばかりに震えている者が1人。
「エ、エスカルゴのヤツ、また、こんな幼い少女を孕ませたと言うのか……!?」
「え」
慧音だった。実は、慧音にすら真宵がルーミアの子だとは言っていなかったのだ。彼が伝えたのは、タダ1つ。「この前生まれた俺の子供が、寺子屋に行きたがっている」────これと、名前と容姿など基本的な情報だけ。本当に、ただこれだけである。
慧音は基本的に来る者拒まずのスタイルで寺子屋運営をしている。だから彼のそんな申告に対しても慧音は「そうか、分かった」で済ませた。そして、いざ本人……真宵が来たらこのザマである。
「あーあー、落ち着いて慧音せんせー」
「これが落ち着いていられるかッ!全くアイツは……今度という今度は────」
現在、寺子屋にいるのは慧音、チルノ、リグル、ミスティア、大妖精、リグル、巫月、魅玖、そしてルーミアと真宵。そして魅玖と真宵以外の全員が、彼ことエスカルゴと交わっている。
故に、これ以上慧音がエスカルゴに対し苛立ちを募らせるのはハーレムの空気までも壊しかねないとルーミアは考えた。
「はぁ……こうなったら────真宵」
「うん!」
頭のリボンを指差して、娘の名前を呼ぶ。真宵のリボンも封印効果を持つので、ルーミアが一体何を言わんとしているのか、真宵は一瞬も迷うことなく察する事ができた。
真宵がルーミアのリボンを解く。途端に爆発的なまでの闇がルーミアを中心に溢れ、闇が収まると、その中心には金髪ロングヘアーの美女が居た。
「これで分かってもらえたかしら〜。セ・ン・セ?私、子供じゃないの。お分かり?」
「………………な………………………………」
真宵にとっては見慣れた姿であり巫月にとっては見た事のある姿。2人は驚きもしなかったが、他のメンバーにとっては、言葉すら出せなくなるような衝撃的な光景だった。
慧音はたった一文字しか言葉に出来ず、生徒達に至ってはその一文字すら口にできなかった。まさにパーフェクトフリーズ。時間が止まったかのような静まり具合だった。
「……ママ?皆、ママが大人なの知らなかったの?」
「そりゃ、あの子供の姿の方が気が楽だものねぇ。あ、巫月ちゃん、霊夢かエスカルゴの所にスキマ、開いてもらえるかしら?」
「はーい。とりあえず博麗神社に繋ぐね」
「ありがとう。2分後にまた繋いで」
「はいはーい、りょ〜かい」
証明できたなら「大人の姿」は用済みだ。巫月はルーミアの要望通りにスキマを繋げて、封印の為のサポートをする。
そして事情説明やら再封印などがあったであろう約2分後、巫月は再度スキマを博麗神社に繋げた。維持するよりこまめに開いた方がエネルギーの消費などが少なくて済むからだ。
「ありがとー巫月、時間ピッタリ♪」
「体内時計は正確だからね」
大人状態ではあからさまに目上の為、巫月の事を
「巫月ちゃん」と呼ぶルーミア。しかし、いつもの子供の姿では対等なので、普通に呼び捨てである。その「使い分け」もまた、教室を凍りつかせた。
そして遂に、慧音は額を押さえ、呟く。
「……今日は……全部……自習にします……」
その言葉に真っ先に反応したのはチルノだった。誰よりも元気いっぱいな、チルノだ。
「うおおおおーーーっ!!新しく入ってきた子に、自習!激アツ展開盛り沢山だーっ!!」
「でも遊ぶのはダメだぞー♪」
「巫月はいつも分身と喋ってるもんなー。よぉし、今日のあたいの自習は巫月と弾幕ごっこってことにしよう!巫月、表に出ろ!」
「はいはーい♪」
「じゃあ、私は次のライブの練習を♪……大ちゃん、リグルは感想聞かせてちょうだい♪」
「「わかった!」」
「……私は歴史の勉強でもしてよ……」
「魅玖は歴史の勉強かー。真宵はどうすんの?」
「んー、巫月お姉ちゃんの応援!ママも行こっ!」
「せっかくだけど、私はミスティアの歌聞いてから行くわ。真宵は初めての寺子屋なんだから、ママにくっついてないで、色んな子と喋ってきな?」
「んー……うんっ!そーするっ!」
ルーミアにそう諭された真宵は「きゃっほー♪」とチルノ、巫月と一緒に、野外へ飛び出して行った。ルーミアはそんな娘を、目を細めて眺めている。
魅玖はそんなルーミアに気付き、彼女が何となく気になった事を聞いてみることにした。
「あ、あの……ルーミア、さん?」
「何よ、よそよそしい。いつも通り『ルーミア』でいいよ?」
「いやぁ……あんな姿を見せられちゃ……」
「……こうなるのが分かってたから、出来れば大人の姿は見せたくなかったんだけどねぇ」
そう言って苦笑する。魅玖は反対に、申し訳ない事を言ってしまったと縮こまる。だが、寧ろそれがルーミアを傷付けると考えを改め、これまで通り、普通に接するよう心掛ける事にした。
「じゃ、ルーミア。1つ聞かせてほしいの」
「ん。なぁに?」
「何で、いつも子供の姿なの?」
「言ったでしょ、この方が気が楽なの」
「それだけじゃないでしょ」
「……鋭いね。衣玖には似てないね、その辺。けど、エスカルゴにも似てない。……魅玖の個性だね」
「誤魔化さないで。絶対、明確な理由あるでしょ」
「そーねぇ。ある時からずっとこの姿ってのも一応嘘ではないし、理由もあるにはあるんだけど────明確な理由って言うとなぁ…………でも魅玖にこれを言っても、納得してもらえるかなぁ?」
「私が納得するかなんて関係ないよ。けど、さっき言った理由だけは誤魔化しだって……建前だなって、私でも分かったからさ」
真剣な目で、真っ直ぐに、ルーミアを見据える。エスカルゴチルドレンの中では巫月に次いで勤勉と言える魅玖は、虔魔とは少し違う方向で、少しでも気になればスッキリしないと気が済まないタチだ。ましてや、引っかかりがあると感じれば尚更だ。
妖舞だったり駆翔だったら、「まぁいいか!」で済ませる事でも、魅玖などはそうはいかない。
そんな魅玖の強い押しに負け、ルーミアはふっと小さく笑みを零した。そして外を、チルノや巫月と戯れる真宵を優しい目で追いながら呟いた。
「彼に好かれたいから……かな」
「……へ?」
「ほら……彼ってさ……あ、魅玖のお父さんの事ね。エスカルゴって、子供好きじゃない?だから、彼に本当の姿を明かすまでは、
「そりゃお父様はロリコンだけど……。でも……」
「何よ、まだ納得いかないの?こんなの、私が彼にゾッコンでしたー、で済む話じゃないの」
「ううん、そうじゃなくてさ。……子供で居ることに執着してたのに、どうして本当の姿を明かしたの?今の言い方だと、まるで自分からバラしたみたいに聞こえるけど……」
「言葉そのままで受け取ってもらって構わないわ。その通り、自分からバラしたのよ。私個人の勝手な執着なんか、どうでもよくなる事があってね」
「……どうでもよくなる、事……?」
「これ以上はダーメ。言えないわ」
「えー、気になるー!」
「ダメ。これ以上はいくらお金を積まれたって絶対言えやしないわ。……思い出したくもない事だもの」
「…………?」
宵闇の妖怪ことルーミア────。彼女が一体何を考えているのかなど、魅玖には……いいや、この場の誰にも分かりなどしない。
1つ、魅玖に分かった事があるとすれば、それは
「過去に何か酷い事件があったんだ」という事だけだった。
それ以上詮索する事を諦めた魅玖はミスティアの謎の替え歌をBGMに、歴史の勉強を再開。そしてルーミアは、愛おしむような優しい視線を再び外に向け始めたのだった。
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